【聖夜祭】 届かなかった贈り物
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■ショートシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2005年01月10日
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●オープニング
●聖なる夜に
悪夢のようだった。
通いなれた街と村とを往復する街道。
最近物騒な話を耳にする事はあったけれど、所詮は他人の話。
「運が悪かったのだな」という同情と、「自分でなく良かった」というほんの少しの安堵感。
それがいけなかったのだろうか‥‥。
悲鳴と怒声と馬のいななき。
金属音と乱れた足音‥‥そして、濡れた、重い、嫌な音。
ああ、お前たちの元へ帰れないだなんて、2度と会えないなどとは思いもしなかった‥‥。
聖夜祭の土産に喜ぶ顔が見れると、贈れると思っていたのに‥‥。
彼は数枚の硬貨と小さな何かを、残された僅かな力を振り絞り、ロヘ運び、嚥下した。
‥‥どうしてこんなに濠えるのだろう‥‥なぜ、自分はここでこんな風に死ぬのだろう‥‥
それが自分の人生だったというのか‥‥。
彼が最後に思ったのは、最愛の家族の下へ帰る事の出来なかった己の運命を神に呪う事だった‥‥手に木彫りの玩具を握り締めて。
●さりとて変わらぬ時の流れ
「ズゥンビ退治、か‥‥最近とみに物騒だな」
ギルドヘ持ち込まれる仕事の依頼書を眺め眩かれる声。
「物騒?」
「こないだなんか、街道のど真ん中で野盗に襲われた奴らがいたらしいぜ? 出稼ぎに来ていて、自分達の村へ戻る途中だったとか。聖夜祭だってのに‥‥可哀想になぁ」
「‥‥その話なら、かろうじて生き残った人の話だと、生き残りと死体の数が合わないって話じゃなかった?」
「怖い怖い‥‥怪談話は、時期が違うだろ?」
噂も含め、情報収集は冒険者の必須事項の1つだ。ギルドで交わされる話の真偽は聞いた当人が決める事である。
雑談を交わしつつも依頼内容を確認すれば、それは近隣の村共同で持ち込まれた依頼で、ズゥンビ退治をして欲しい旨のものだった。
ズゥンビが街道のいたるところで目撃されるというもので、どうやらズゥンビは1体だけのようなのだが、それが次第に目撃地点が街から離れる方向で移動しているらしい。
ズゥンビが、どこを目指しているのか。次はどこへ現れるのか街道近隣の住人は気が気ではなく、そのためギルドヘ依頼が持ち込まれたそうだ。
「‥‥あながち、さっきの話は無関係じゃねえかもなあ‥‥」
呟く声は喧騒にまぎれ。依頼書の束は、既に他の冒険者達の手に。
聖夜とて、冒険者稼業に休みはないのかもしれない。
●リプレイ本文
●発端
「‥‥野盗襲撃事件の噂が、そもそも今回の依頼の原因だろうと考えているのだけれど」
クライフ・デニーロ(ea2606)の推測に、依頼のテーブルについた仲間達は一様に頷いた。
「その件についてもう一度洗いなおして確認してからの方が、ズゥンビを張り込みやすいと思うんだけれど?」
サトリィン・オーナス(ea7814)の提案に、彼らは各々確認しようと思っていた事項を分かち合い調査に向った。
依頼を受けるに、ゲルマン語に不慣れな者もいたのだが‥‥。
姚 天羅(ea7210)は、仲間にラテン語を話せるものが多く意思疎通に困る事は無かった。
自然、レシオン・ラルドフォール(ea2632)は、イギリス語との通訳が可能なクライフと共に情報収集にあたる事となるのだが。
クライフとサトリィンはギルドにて、改めて依頼の経緯を聞きなおし、また噂話と軽んじず、先の野盗話を確認に動いた。
サラ・コーウィン(ea4567)は、依頼を持ち込んだ近隣の村で目撃情報などの確認に走り回った。
「この辺で、出たって話を聞いたんですけど、見ました?」
「‥‥ああ、冒険者かい。依頼を受けてもらえたんだね」
ズゥンビという不安な存在を退けてもらえる一端を目の当たりにできた村人達は快くサラの問い掛けに答えてくれたのだった。
一方、依頼が持ち込まれた村々の街道沿いで聞き込みをしようとしていたマリー・ミション(ea9142)の結果は芳しくなかった。
ハーフエルフである彼女は、その特徴を隠すべき備えをしていなかったからである。
街道沿いは人も多く、それゆえエルフと比べれば一目でわかるその耳からすぐに看破される。
そうわかってしまえば、彼女の問い掛けに耳を傾けてくれるものなどいないに等しかったのだ。
天羅が、クライフ、サトリィン、ミシェル・バーンハルト(ea7698)らが集めた情報を加味し、街道近辺の地図に書き込んでいった。
皆が分かれ集めた情報‥‥結果、野盗の襲撃事件の際の生存者に会うことはできなかったけれど‥‥。
「一人、遺体も無く、怪我をして教会に運ばれた形跡も無い‥‥行方が知れない人がいたよ」
「その村は、街道‥‥もっと街から離れた山近くね」
指し示された先。その村へ行くまでに街道そばにある村はまだいくつかある。
ズゥンビが村を目指しているならば、その過程で今度こそ近隣の住民に被害が出ないとはいいきれない。
「やはり、戻ろうとしているのかな」
街から離れる経路、目撃地点の印を眺めたミシェルの呟き。
「推測はあながち外れていなかったのね‥‥街道で張り込みましょう」
マリーの提案に、皆迅速に用意を整え行動を起こす。
『‥‥ズゥンビか、神様って奴はひどいんだな‥‥』
ぽつり、小さなレシオンの呟きは誰にも届かず。
ズゥンビを待ち伏せる場所へと向う仲間達の背を追うように、彼もギルドを後にするのだった。
●待宵
『戦闘は行わないで捕獲のみの方がいい』と言うレシオン。
けれど、クレリック‥‥聖職にあるものを含む仲間達の意見は一様に『討伐を果たす』というものだった。
『残念だが依頼を受けた手前、退治しないわけにはいかない』
ズゥンビという存在そのものが生者とはけして相容れない者である事を理解する天羅は、ロングソードを手に街道‥‥街へと向う方角へと目を向ける。
「そうね‥‥被害者に対し同情はするけれど、結果的にズゥンビ化し周囲を混沌とさせている点においては、討伐か浄化の道を選ぶしか‥‥と思うわ」
頷くサトリィンの言葉は、自身へも言い聞かせるようであった。
「なにか‥‥心残りがあったのでしょうか?」
「何か思い残した事が有って彷徨ってるなら心残りの事を叶えてやりたいね」
サラの呟きに、ミシェルが頷く。‥‥聖職者として、生きている者として。
「聖夜祭‥‥家族に贈りたい品でもあったのかしら」
‥‥何より生きて会える事が、当たり前でそれゆえ大切な事なのだけれども。
その生まれから、マリーの味わった苦労は多い。けれど、それは彼女自身にしかわからない。
クレリックの道を選んだ彼女は、迫害から当たり前の事を見失わない事に気付き過ごしていけるのだろうか。
「できればズゥンビになってまで、村へと歩みをとめなかったその想いを届けられればいいね」
火のないところに煙は立たない‥‥雑談に紛れた真実の話。ズゥンビは、今自分がズゥンビとなっている事そのものに気付いているのだろうか。
クライフが見上げた夜空は、襲撃の日から数え幾日か。丸みを帯びた月が辺りを照らしていた。
「!‥‥何か、来ます」
冒険者達がまちぶせた場所からほんの僅かはなれた先。
暗い月光も切れ切れな木立の中から現れたそれを最初に見つけたのは、身体能力に優れたサラだった。
●剣戟、唱声
街道に沿う木々が途切れた開けた場所では、ズゥンビは身を隠す事も出来ず、月の光の下にその身を晒した。
元より身を隠すという思考などは無いのかもしれない。
クライフ達が予想した通り、帰るべき場所であったところへただひたすら進みつづけているだけで。
白く冷たい光りの下に暴かれたその姿は、うめき声をあげる事無くのろのろとその身を引きずるようにかつて『彼』だったものが暮らしていた村目指しすすむ姿。
切り裂かれ、乾いた血がこびりつき、ひゅうひゅうと風が吹き抜ける‥‥辛うじて体に繋ぎ止められている首では声すらでないのかもしれない。
マリーの詠唱が仲間に先んじ、ズゥンビを捕らえた。
浄化の白魔法、ピュアリィファイ‥‥それは、ズゥンビに回復出来無いダメージを与えたはずだった。
けれど、ズゥンビは歩みを止めない。
生者である冒険者達へ、その手指をのばす‥‥目の前に在る生ある存在を襲わずにいられないのがズゥンビである。
だが、ズゥンビは冒険者達のさらに向こうを目指しているようにも見えた。
その間にも、ミシェルは仲間たちへ神の祝福を与え、サトリィンはレジストデビルを唱え防御に備える。
歩みを止めないズゥンビへ、天羅が剣を振り下ろした。
これ以上先へ進ませない為に、そしてズゥンビの目的を量るつもりで脚を狙って。
クライフの創りだした氷のチャクラムが、サラの日本刀がズゥンビに振るわれる。
的確な冒険者の攻撃は、ただ闇雲に先へ進もうとするズゥンビには抗いようも無い。
脚を失い、首がもげ落ちそうになろうとも、その手を前へと伸ばした。
『‥‥やはり、家へ 家族の元へ帰ろうとしているのか?』
剣を構え、後方に立つ術士たちを背に庇いながらもその動きを見て天羅は呟いた。
先行きを阻むサラにズゥンビは、腕を振るった。右腕で這うように進み、代わりに左手で。
ダガーで弾いたその手に、ズゥンビの腕とは異なる感触がサラに返る。
「‥‥っ!?」
レシオンがクレイモアを横薙ぎに払う。骨ごと腐肉を叩ききる両手剣の強烈な一撃。
乾いた皮膚と襤褸とした衣装を通し、剣に当る異な感触にいぶかしむも、ズゥンビを止めるため剣は止められない。
「運命や神を呪わないで‥貴方は躯で朽ちて行く魔物の生を本当に望んだの‥? 輪廻転生のその日まで今は少しだけ‥お休みなさい‥」
サトリィンの言葉は、やはりズゥンビには届かないのか‥‥。
冒険者達を邪魔っけに残された左腕を振るい、右腕で這いずり進む‥‥けれど。
「何か想いがあるのね‥‥だけど。‥‥志は私達が継ぎます。 浄化!」
クライフのチャクラムに歩みを阻まれ。天羅の振るう剣が、サラの刀が、レシオンのクレイモアが‥‥ズゥンビの歩みをとどめ、その身を削る。
クレリック達のピュアリィファイが‥‥ズゥンビを浄化の光に晒した。
最後の最後まで腕を伸ばし、進む事を止めなかったズゥンビも、その存在ごと浄化され消えうせたのだった。
「‥‥最後まで帰りたがっていたのかしら」
小さな嘆息。
サラは、自分の剣で落としたズゥンビの腕を見ていた。
腕も仲間に頼めば、浄化してもらえるだろうけれど‥‥その腕が握っていたのは木彫りの玩具。
思い返せば、けしてズゥンビは左手を開き掴みかかる仕草は無かったのだ。
「‥‥子供宛の、玩具‥‥でしょうか」
サラが首を傾げ眺める向こう、ズゥンビと戦ったその場所でマリーが何かを拾い上げた。
辺りを見回し、ズゥンビが遺した物が無いか探すサトリィン。
ズゥンビの腐肉が、争いの跡が残ったままではいけないと街道を整える必要もあった。
ここ最近荒れているとも聞く街道、この件の発端ともなった野盗をレシオンは気にかけていたのだが。
追って起こったズゥンビ騒ぎになりを潜めたのか。この夜は、彼ら以外の物音は、聞こえてこなかった。
ズゥンビが還ったその地を眺め。
『‥‥俺と似てるな‥‥こいつも‥‥』
「‥‥似ているとは?」
レシオンの呟きに、クライフが問い掛けるも応えは無く。
遺された品を、ズゥンビが帰りたがっていたその村へ届けようとその場を後にするのだった。
●顛末
サトリィンは、控えめに扉を叩いた‥‥ズゥンビとなってまで、彼が帰る事を望んだ家の扉を。
少ない彼の遺品を持ち訪れた冒険者達を迎えたのは、少しばかり年のいった女性だった。
「こちらの家の奥さまでしょうか?」
既に、帰らぬ夫の事は聞き及んでいる事だったのだろう‥‥聖夜祭というのに、慎ましい家内の様子と女性の服装。
サラの問い掛けに小さく頷く女性。突然の見知らぬ者達の訪問に、訝しげな表情である。
見回した顔ぶれの中に見つけたマリーの顔に、表情をこわばらせる‥‥と同時に何かを察する色が瞳に表れ。
ハーフエルフは畏怖の対象‥‥そのマリーを、仲間に向かえる存在が何であるかを。
女性に差し出されたのは、レシオンや天羅によって血などが拭われた僅かばかりの――けれど、家族にとっては冬を過ごす助けとなる――硬貨が納められた小袋と、道中の間に欠け、染み込んだ赤色をミシェルが苦心し、補った木彫りの玩具。
そして‥‥。
「僕達は、ご家族への贈り物だった品を届けに」
クライフがそう差し出したのは、色石が飾られた銀の指輪‥‥高価な物ではないだろうその指輪の色石は、女性の瞳の色と同じ淡い水色をしていた。
男は、家族に贈り物を届ける事ができなかった。
けれど、それはその意思を慮った冒険者の手によって、家族の元へ届けられた‥‥聖夜祭が終わる前に。