麗花
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■ショートシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月21日〜01月26日
リプレイ公開日:2005年01月30日
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●オープニング
●予告状
『望まれぬ祝福の夜、ご当家に咲く麗しき花を頂きにあがります』
「このような手紙が、当主様宛てに届いたのが先日の事でございます。そこで、冒険者の方々には護衛をお願いしたく」
ためすすがめつ、『予告状』とやらを眺める受付が1人。
「‥‥予告なんてしなければ、もっと盗み易いだろうに」
至極最もな呟き。執事の咳払いに、呟いた彼は慌てて表面を取り繕い、先を促した。
予告状に記された『麗しき花』、依頼主の言によれば、「狙われているのは我が家の家宝だろう」との事。
家宝のその花は、『焔煌華』と名づけられた大ぶりの見事なルビーがあしらわれた赫い宝玉の花で、東方の職人に先代が作らせた2つとない一品だという。
その依頼主たる貴族の当主は1男1女の2人の子供がおり、近々娘の婚約が決まるらしい。
当家の財力・威信を示す為、娘に家宝を飾り披露するという。
家宝を身に付ける機会は2度。婚約披露の式と結婚式である。
そして、結婚式は昼に執り行われる為、依頼主は狙われるのは婚約披露の席と判断したのだ。
「『望まれぬ祝福』、その様な事はございません。お嬢様はその容姿も心栄えも優れたお方。先方にぜひにと望まれて嫁がれるのです。こそ泥風情が失敬な」
聞かれてもいないのに、仕えるべき当主一家を褒め称える執事。それは執事として当然なのかもしれない。
「それにお嬢様が、『焔煌華』をその身に飾られたならば、それこそ二輪の麗しい花でしょう」
「‥‥執事長、家宝の護衛としてご依頼してもよろしいのでしょうか?」
何時までも続くかと思われた執事の称え方、それを止めるよう控えめに訊ねたのは、執事が連れていた若い男。
「む。ご当主様の依頼は家宝の護衛。1度の言い付けできちんと覚えなさい。まったく‥‥ご当主様の温情でお前のような出戻りも路頭に迷わず済んでいるのだぞ‥‥。まったくお嬢様もお優し過ぎるのも‥‥。お前もお嬢様に目をかけていただいているからと慢心しないように」
青年は執事の小言もそこそこに、ギルドでの対応に慣れた様子で受付へ申請を済ませる。
「お嬢様の幸せのためにも、是非お願い致します」
執事は、慇懃と無礼の境目のような態度で礼をとった。連れている青年を杖で小突き外へと促す。
‥‥彼に何か落ち度があったようには見えないのだが、訪れた時から執事の彼への態度は厳しい。
それを訊ねると、
「‥‥私のようなものは仕方ないのでしょう」
苦笑交じりに彼は、髪に隠れて見えないが耳がある位置を軽く指で示した。
「‥‥幸せか。ご当家の財政が傾いているからなどという事がなければお嬢様も‥‥」
小さなため息。青年は、小さく頭をふり、視線に気付いたのか冒険者達に頭を下げ執事の後を追うように出ていった。
●護るべきもの
執事が依頼に訪れて数日。求める期日まで刻限は迫り。
「‥‥てのが依頼なんだが、依頼主に関して余りいい話は聞えてこないみたいだなぁ」
披露宴を迎える娘‥‥早くに亡くなった依頼主の妻の育て方が良かったのか、素直な資質で器量の良い女性らしい。貴族にしては、婚約の整う年が少々とうが立っているのだが‥‥。
父親に似ず、貴族にありがちな奢った所の無い控えめな娘で、親の薦めに逆らう事無く先日了承したらしい。
相手は資産家の男で娘とは一回り以上も離れた、あからさまな政略結婚だ。
「金払いは良いみたいだけどな‥‥どうする?」
依頼書を手に、最初に話を聞いた男は仲間達に問い掛けた。
●リプレイ本文
●望まれるモノ、望まれざるモノ
「自ら『二輪の麗しき花』と言いつつも主として守る対象は家宝の方か。『造花』よりは『生きた花』の方がより美しいと思うがね」
アルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)の言葉に返る言葉はない。執事長が聞いていたら事だったかもしれないが、ここには依頼を受けた冒険者しかいなかった。
元より依頼された護衛すべき対象は『家宝』である。だが‥‥。
「俺は、曖昧に書いてあるが娘の方が目標じゃないかと思っている」
天龍の言葉に仲間の反応はさまざまだ。
予告状に記された『麗しき花』を巡り、依頼を引き受けた冒険者達の間でも話が分かれていた。
麗しき花と言わしめられた赫色の宝玉―『焔煌華』。
護るべき物として彼らに見せられたそれは、真に素晴らしかった。
けれど焔煌華を前にした冒険者達の胸には、依頼に対し燻るすっきりしない想いがあった。
エリス・エリノス(ea6031)は、いつか焔煌華のような宝石を作り出せたらと思う反面、至高の玉を身につける娘の護衛ではなく、宝石の護衛を依頼されたその事実が彼女には少し悲しかった。感傷で世の全てが成り立つとは思わぬものの、愛情で守られるものも多いはず‥‥彼女はそう思うのだけれど。
(望まれぬ祝福か‥‥実際のところ娘はどう思ってるんだろうな?)
飛 天龍(eb0010)の問いに答えられる娘のいる、彼らが依頼を引き受けた屋敷内へ守る為に、其々冒険者達は準備を整え散っていくのだった。
●守る為
「式に私達も参列させて頂きたいのですが‥‥」
アカベラス・シャルト(ea6572)の頼みに、執事長は許可を出した。元より、披露宴の席が焔煌華の披露の席でもあれば、護衛に必要と納得していたのだろう。
当主自身は、冒険者達が最初に訪れた時に一言「頼む」と声を掛けた以外は、姿を見せる事そのものがほとんどなかった。
今回のことは、執事長に全て判断を任せているらしい。
武器の携行については、騎士としての正装や類する立ち居振舞いに応じられるのであれば構わない。
刀傷沙汰は、祝いの席では忌むべきことと全て自己責任に負われるものを契約の中、更に盛り込まれる事となった。
婚約披露の宴当日までの家宝の護衛と万一に備え娘自身への護衛に冒険者達は分かれた。
「俺は娘につくが、それでいいか?」という天龍の確認にも当主は特に何かという反応も無く。
依頼主自身は、冒険者達が娘の方への護衛へまわる事へ可も不可も無い様子だった。
大金を積んで冒険者を雇い入れた割に、余り熱心に宝を守ろうとする様子が察せられない。
この家そのものが、大きく傾いているという話は噂で終わるものではないのかもしれなかった‥‥。
はたして、アルクトゥルスの読みは当っていた。悪い人物ではないのだろうが、執事長から必要な情報を聞き出すには、長い回り道を耐える忍耐力が必要だった。
自然、ギルドへも依頼に訪れていたハーフエルフの青年、ハスターが冒険者達への問いに答え屋敷内を案内する事が増える。
ハスターは、元々父親が当家に仕えていた縁で幼い頃から屋敷に従事していた為、なまじ他の使用人より詳しく屋敷内のさまざまな事に精通していた。
出自が忌み嫌われるハーフエルフである事を差し引いてもである。そのため、執事長に付き従いその補佐として行動する事が多かったのだ。
井伊 貴政(ea8384)と椎名 十太郎(eb0759)は、もしもの時の犯人の逃走経路や異変に備え屋敷内の間取りを把握した上で、依頼主が最も危惧していた宴の夜まで、交代で焔煌華が保管されている宝物室周辺での警戒にあたるのだった。
セルミィ・オーウェル(ea7866)の興味津々といった問い掛けには、個人的な事を除けば丁寧に答えていたハスターだったが。
事が、お嬢様であるフィニアの事となると口が重くなった。
「ハスター君は、この縁談は迎合していないのかな?」
「‥‥ご当家で望まれての結婚です。私には何も」
「願わくば、望んであげて欲しいな」
皆に祝福されてこそというルティエ・ヴァルデス(ea8866)の言葉にハスターは曖昧に微笑むだけだった。
●真意
「『焔煌華』の他に、私の護衛もですか?」
幾分驚いた様子ながらも、そう言われれば受け入れ龍 麗蘭(ea4441)達にフィニアは頭を下げた。これから数日よろしくと前置いて。
頭ごなしに当然と受け止めるのではなく、人に頼む事が出来る貴族というのも珍しいかもしれない‥‥人の良さそうなフィニアの様子にエリスは微笑んだ。
「ところで、ハスターさんはどのような方なのでしょう? 一度お屋敷から離れられたとも聞いたのですが」
エリスの問い掛けに小首を傾げ、思い出すように語るフィニア。
「ええ。彼は一度この屋敷から離れました。彼が何を思い行動したのかは私にはわかりません。元より屋敷の外に出てしまえば知らない事ばかりですから」
「望みが有るなら、自ら動かなければ何も変わりはしない」
天龍の言葉は、静かで責める口調ではなかったのだが。フィニアは何か考えるように黙り込んだ。
「真相はどうあれ、自分の意志ははっきりと口にした方が良いです。神は自らを助ける者を助けるのですよ。うん、言葉の意味はさっぱり分かりませんが、これは良い言葉なのです!」
流石に神聖騎士たる彼女、婚約整った女性に対し他の男性への想い等とは口にはしなかったのだけれど‥‥。
思わずこぶしをにぎりこみ力説のルシール・ハーキンス(eb0751)。ストレートすぎる真っ直ぐな彼女の言葉に、エリスが幾分慌てたように留めようとする。
けれど、実直に綴られる言葉ほど雄弁なものはないのかもしれない。
フィニアは、エリス達に語り掛けられた言葉を困った笑みを浮かべ聞いていたのだが。やがて、幾分考え込む様子を見せ始めるのだった。
●花咲く夜
婚約披露の宴の夜。
フィニアは、淡い色合いのドレスに身を包み、夫となるべき婚約者に腕を取られ、二人揃って宴に姿を現した。
その身に焔煌華を飾ったフィニアは、20歳を越えてはいたものの可憐な様子である。
ただ、フィニアの手を取り歩いて来た男とは親子ほどに見えても可笑しくない程、年が離れた様子だった。
その表情や態度も、丁寧なのだがどこか慇懃無礼に感じられる‥‥要は、余り好もしい雰囲気の男ではなかった。
なるほど、政略結婚とはそういったものなのだろう。そして、その言葉が噂ではなく真実なのだとも‥‥。
宴内部での護衛に多く数を割った冒険者達。その中で、外の警戒にあたっていたのは貴政だった。
数多くいる使用人の顔を覚える努力をしていた貴政は、宴当日の賓客と普段は屋敷にいないものの顔のチェックに役立った。
一方、今まで焔煌華の傍らに常にいた十太郎は、宴の今日は、その最中に立ち入り祝い客らと饒舌な会話を披露しながら宴内での不審者のチェックをしていた。
異国の、けれど祝いの席の知識に長けた彼は、長じて客達に囲まれていて。けれど、周辺に気を配る事は常に忘れる事はなかった。
宴の催される大広間周辺、焔煌華を身につけるフィニアの側には、護衛として正装の上つき従う天龍やルシールの姿があった。
彼らが側にいることで不用意に当家の耳障りな噂を囀る者を遠ざけもしたし、友人然としたエリスや、麗蘭も傍らに在った事がフィニアの心の平穏になったのだろう。
祝い客に緊張した様子ながらも笑みを返し、フィニアは宴の主賓として見事振舞っていた。
遠巻きにその様子を眺めるハスターに気付いたルティエは、そっと宴の中話し掛けた。
「‥‥お嬢さん、とても綺麗だね。幸せそうにはみえないかな?」
「お幸せそう‥‥ですか? そうですね、そうであれば良いのですが」
今まではルティエやセルミィの問いに疑問符を返すことは無かったはずのハスターの様子に、ルティエは幾分眉を潜めた。
‥‥自分の危惧が、杞憂で終わらない気がして。
「宴の様子はどうでしょう?」
ちらほら宴を辞し帰る客もいる中、貴政は中の様子をアルクトゥルスに訊ねた。
「いや、特にフィニア殿に近づく不審な者も見受けないな。祝いの席、酔って近づく者もいるのだが‥‥」
「不審者か簡単に判別できないものは、それとなく私やエリスで追い返してるけど‥‥余程婚約者の方が焔煌華にご執心かもしれないね」
フィニアの側につかず離れず数人で護衛していた一人、麗蘭が、飲み物を取りに来たのかそれを片手に軽く肩をすくめ答えた。
結局、フィニアという女性の人となりは貴族社会においては、二の次なのかもしれない。アルクトゥルスが最初にそう思った危惧の通りに。
そう話す間にも、判然としない者に囲まれだしたのをみて麗蘭はフィニアの側に戻っていった。
予告状そのものが悪戯であったのかもしれない、もしくは当主の解釈が間違っていたのだろうか。
そう冒険者らが、思い始めてもおかしくないほどに『望まれぬ祝福の夜』―そう書かれていた夜はゆるゆると更けゆき。
やがて、主賓の片翼たるフィニアが宴を辞したことで、冒険者達もその夜を終えることとなった。
この数日、常に傍らで支えてくれたアカベラスやエリスに礼を述べ自室へと引き上げようとするフィニア。
ハスターがそれに付き従い、フィニアの部屋まで共に下がっていった。
何も、可笑しいところはない。従者が、休息を訴えた主の娘を部屋まで送るだけである。
「着替えて花も外すのだろうと思いますけれど‥‥侍女のお一人もご一緒でないのはなぜでしょう?」
不意の違和感にセルミィが小首をかしげた。
その違和感に疑問を感じ、真っ先にとってかえしたのはずっとハスターの様子をみていたルティエだった。
「依頼されたのは、披露宴の夜まで。‥‥まだ依頼は終わっていない」
●咲く花は、光りの下に
まだ宴の余韻、賑わいを残す広間に比べ家人の寝室が並ぶ一角は閑散としていた。
開けられたフィニアの部屋の扉。そこには――。
「意外に気付くのが早かったな」
部屋へ現れたルティエ達に驚く様子も無く迎え入れたのは、従者という雰囲気ではない人を食った笑みを浮かべたハスターだった。
フィニアの胸元を飾っていた赫い花は、今ではハスターの手に。
右腕でフィニアを抱きかかえ、左手には焔煌華を。
「祝福を望んでいなかったのは‥‥やはりハスター君だったんだね」
「やはり、というくらいべったり張り付かれてどうしようかと思ったけどね‥‥それ以上そばに来ないでほしい。剣やメイスを持たずとも優れた使い手が君達の中にいる事はよく知っているから」
ハスターの視線は、麗蘭や天龍―武道の使い手や、エリスやアルクトゥルスら魔法の使い手を見据えていた。
彼の手には、取り戻さなければいけない赫い花。
「そう、今きみの問いに答えよう」
ハスターはセルミィに微笑みかけた。方便のような使用人特有の愛想笑いではない、晴れやかなけれど幾分皮肉げにみえる笑みは、彼本来の笑みなのだろう。
「彼女を支える力を得るため、私は冒険者の道を選んだ。それが空白の数年の真相だ」
「私達と同じ‥‥ウィザード?」
アカベラスの問い掛けには答えず、ハスターは焔煌華を持つ左手を冒険者達の前へ突き出した。
「私達は静かにお暇しようと思っていたんだけれどね。邪魔せず見送ってくれるなら『焔煌華』は返そう。そうでなければ‥‥ルビーは固い部類の石だが、割れない、傷がつかないって訳じゃない」
鉱石に詳しいエリスに仲間達の視線が問うように集まる。ハスターの言葉は真実だ。
宝石の中で最も固いといわれるダイヤモンドでさえ傷はつく。永遠に不変の物質などこの世にそうあるものではない。
「‥‥そして、俺はこんな石ころを傷つけるのに躊躇いなんぞないからな。脅しでなく利用出来る物は有効に利用させてもらう」
「本気ですか?」
ルシールの問いはフィニアに向けられたもの。
「‥‥迷っていました。貴族として人をつかう立場にいた私が外で生きていく事ができるのだろうか、と。
今までの暮らしと全く異なる生活が私に出来るのか‥‥それは今もわかりませんし、自信もないのです。
結局は、自分が可愛かったのだろうと‥‥」
フィニアは、ハスターとそしてフィニアを真っ直ぐに見つめる冒険者達へ、ゆっくりしたけれどしっかりした口調で告げる。
「でも、『自ら動かなければ何も変わりはしない』天龍さんの言葉を聞いて。ルシールさんやエリスさんとお話をしてようやく決めたのです‥‥自分の意思で。私は彼についていく、と」
「それがフィニア殿の答えなのか?」
アルクトゥルスの言葉は最後の問い掛け、フィニアにとってこれまでの人生を確認する審判の声にも聞こえた。
けれど彼女の意思は翻る事は無く。
「父には私は死んだ者とお思い下さい‥‥そう伝えてください。この年まで育てていただいた恩をこのような形で申し訳なかったとも」
はっきりとその意思を示した腕の中の『お嬢様』の決意に、ほんの僅かハスターの笑みが柔らかいものになる。
フィニアの話に気をとられたその時間はけして短いものではなかった。
深い灰色の煙が、周囲に満ちみちる。
「スモークフィールド?!」
エリスのストームの魔法を使えば煙もはらえたかもしれない。けれど、屋敷内でそのような魔法を使えば煙りをはらうよりも被害の方が大きくなってしまう。
十太郎らが、窓を開き煙りを外へ逃がす。
けれど、煙の晴れたその場にハスターとフィニアの姿はなく。
開いた窓から差し込むのは月の光。
そこに残されていたのは、鈍い赤色の花だけだった。
そっと花弁を傷つけぬようエリスは焔煌華を拾い上げた。
元より『麗しき花』が何を指すのか、決め付ける事の無かった冒険者達は、この結末の可能性は理解していた。
けれど、依頼である『宝玉』を守ることを揃って優先していたのだ。そして、依頼は無事果たされたのだ。
止められなかった事をルティエ一人が悔いていた‥‥。伝わらなかった言葉にか、同じ血の忌み人としてか。
「貴方は花を守れと言った、家宝である花を護れと。貴方にとっては娘さんより家宝が大事なのだと私は思いましたのでその意に従ったに過ぎません」
アカベラスの言葉は、当主の心に刺さった。依頼された『焔煌華』は無事当主の手に在る。
「‥‥花が、無事であれば、あれとて‥‥」
それから先は言葉にならず。当主の目の前で輝く赫色の石は、その身にどのような光を返しているのか‥‥。
義理人情に厚い十太郎の胸に残ったもの‥‥義理と情けが両方立ち並ぶことは難しいのかもしれなかった。
以後、『焔煌華』がどのような経過を経たのか。
当家がどうなったのか伝え聞こえる話はこの物語とは異なる。