RUN AND GUN

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月02日〜04月07日

リプレイ公開日:2005年04月10日

●オープニング

 山間の辺境の村とてもう春が訪れる季節である。
 小さな田畑の土をすき、種をまき。
 春の恵みを求めに雪の溶けた山へ入る。
 ささやかな日常。
 けれど、明日は今日の続きではなかった。

 慌しく開かれたギルドの扉。
 転がり込んできたのは、額や腕、足に包帯を巻いた若者だった。
 若者はもつれる足を叱咤し、受付の下へ駆け込んできた。
「冒険者に依頼を! 俺たちの村を助けてくれ!!」
 焦りの色が強い若者を、何とか宥め体の状態からも椅子をすすめる受付係。
 冒険者に依頼するにあたり、依頼人からは出来る限り情報があるにこしたことはない。見るからに有事と思われるならなおさらだ。
 焦る気持ちが、落ち着くことはないものの‥‥体が辛いのだろう、勧められた椅子にもたれながら彼は依頼を続ける。
「‥‥何もかわらないいつもの村だったんだ。だが、突然ゴブリン達が‥‥」
 最初に襲われたのは、山菜を取りに村の外に出ていた母子だったという。
 ついで、村になだれ込むように押し寄せたゴブリンの群れ。
 狩りを生業にするものがいないわけではなかったのだが、獣と獲物を持ち襲い来るゴブリンでは、勝手も異なる。何とか友人や家族を逃がそうと試みた者も少なくはなかったらしいが‥‥。
「皆散り散りで‥‥何とか逃げられた者は近くの村に身を寄せたり‥‥」
 語る彼に巻かれた包帯。滲む血の色が痛々しい。
 そして、若く体力のある彼が、村を抜け出しそのまま助けを求めに来たという。
「‥‥生き残った者全員が逃げられたわけじゃないんだ。まだ何人か村に取り残されていて‥‥、このままだと避難している家ごと壊されてしまうかもしれない。‥‥一刻も早く助けてくれ!」
 このまま放っておけば次に狙われるのは近隣のどの村か‥‥山間に住む人々に突然降りかかった災事。
 受付係は、冒険者を求める依頼書に『至急』の文字を書き入れ、ギルドに訪れた冒険者達に向け新たな依頼を掲示するのだった。

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6572 アカベラス・シャルト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6738 ヴィクトル・アルビレオ(38歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea7431 フィソス・テギア(29歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea9103 紅 流(39歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb1026 ヴィゼル・カノス(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb1052 宮崎 桜花(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1743 璃 白鳳(29歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

夜 黒妖(ea0351

●リプレイ本文

●急行
「ゴブリン共め‥‥集団で、しかも形振り構わず人を襲うとは‥‥それほどまでに腹が空いているとでもいうのか?」
 握り締めた拳に爪が食い込む。その痛みすら今のフィソス・テギア(ea7431)には取り立てるものでなく。フィソスの性格を考えれば彼女の冷たい怒りを抑える物でしかなかった。
「ともあれ時間が無い。急がなければ」
「少しでも早く到着する為に馬を使いましょう」
 フィソスに頷いた七神 斗織(ea3225)は、馬で駆け村までの時間を稼ぐ事を提案した。
 けれど、冒険者が皆、馬を所有しているわけではない。そして、馬に乗り操る技術も同じである。それでもアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)のように、技術はなくとも馬を持つ者もいる。
「それならば、馬で少しでも先行して村へ入りゴブリン達を引き付け、その間に後続が村人を救う陽動作戦は如何でしょうか?」
 宮崎 桜花(eb1052)の提案‥‥時間を急ぐ事は周知。
 依頼に駆け込んできた青年のもたらしたゴブリンの数は多い。そしてその数が正確な情報であるか保証は無い。その上、ただの討伐戦ではなく。救出しなければならない村人が冒険者達にとってハンデとなる事は目に見えていた。
「先行はありだとは思いますけれど‥‥数が数ですからね」
 アカベラス・シャルト(ea6572)が状況を想定し唸った。けれど‥‥。
「アカベラス殿の言うように危険だが‥‥一刻を争う状況では仕方ないだろう」
 決断に迷う時間とて惜しまれる。フィソスの言葉は意思を示すもので決断を強制するものではない。
「二人乗りは可能かしらね?」
「距離がある分、重量バランスを考えなければならないだろうが‥‥とりあえず、馬を持っている人間だけでも先に行ってみてはどうだろうか」
 更に少しでも徒歩より時間を稼げればという 紅 流(ea9103)の提案に、ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)が調整を進め。
 結果彼らは、手を分けることを選んだ。‥‥選ばざるをえなかったのかもしれないが。
 ゴブリンは、経験浅からぬ冒険者にとっては強敵足りえぬ相手であるはずなのだけれど。
「俺はそれなりの時間走り続けてられるからな。さっさと行かないといけないから、可能な限り走るぞ!」
「私も驢馬で荷をわけ、なるべく早く合流出来るよう致しますね」
 馬と乗り手の都合と各々の得手から、ヴィゼル・カノス(eb1026)とロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)らは後追いとなった。
「私はセブンリーグブーツを持っておりますから徒歩の方が良いでしょう。先行の方に合わせ行動できます」
 先行で進むのは、馬で行く者達と璃 白鳳(eb1743)。馬と装備を整える為、彼らは慌しく動き始めた。
「急ぎましょう、この際多少の体の無理は目を瞑りますよ」
―間に合ってください‥‥切なる願い。願いを現実に引き寄せる為、アカベラス達は馬へ跨りかの村へ急ぎ旅立つのだった。


●過路
 馬で急いだ仲間に先んじたのは白鳳だった。
 後を追うような形の騎乗者達は、騎乗に不慣れな者と共に進む馬上の路。元より徒歩で行くよりは早いだろうと選んだ手段だが、それ以上に気持ちは急いて。
 一人よりも負担のかかる二人での騎乗‥‥馬を潰さぬよう、けれど可能な限り急いだ彼ら。休息を取りながらの行路は、彼ら自身への負担を軽減するものではなく馬を慮るものだけだった。馬に揺られ気を急き進む道のりはそれだけで体力を奪うもの。
 村と思しき木々が開けた場所が見え、彼らは馬で村に駆け込むことはせず、少し離れた場所に馬を繋ぎ地に降りた。
 これよりゴブリンを討ち、村人を助けなければいけないのだから、
「さあ、これからが本番よ。テコンドウの真髄、見せてあげる」
 流は、移動の疲れも見せずナックルをはめた拳を撫でる。夜 黒妖は預かった荷を皆へと返し馬を預かる。
「俺が手を貸せるのはここまでだね‥‥帰りは苦労しそうだけど頑張って!」
「私がインフラビジョンを使い、村人が避難している家を特定します。間違っても、その建物が破壊されぬように‥‥」
 白鳳が頷き、そして皆に呼びかけ‥‥黒妖が見送る中、彼らはそれぞれの想いとそれを託す物を手に村へと駆け出したのだった。


「先行した皆様は、到着された頃でしょうか‥‥」
 自身とヴィクトルの分の荷を乗せた驢馬を引き道を急ぐロミルフォウ。
 出来る限り身を軽く、負担を減らし行路を急いだ為か日暮れにはまだ間がある‥‥常より早めには村へ到着できそうであったが。
「さて、着いていなければ手を分けた甲斐も無い。大丈夫だろうと信じるしかあるまい?」
 種族性ゆえ必然的に体力がロミルフォウより劣るヴィクトルにとって容易い物ではなかったろう強行軍にも、彼は不平無く道を進む。厳しい事は承知の依頼だ。
 そんな二人の耳に聞こえたのは馬の嘶き。やがて視界に入ったのは、じき村へと至る場所に繋がれた馬が4頭。
「‥‥お、二人とも来たな」
 そして、1頭の驢馬の傍らにいたのは徒歩より走る事を選んだヴィゼルだった。彼は、稼ぎ出した時間分体力の回復を図っていたのだ。
 同じようにロミルフォウも驢馬を繋ぎ、装備を整える。
「行けるか?」
「‥‥無論」
 そうでなければ何のために急いだのか、大きく息を1つ吸い込みヴィクトルは頷く。
 鞘抜きロングソードを手にしたロミルフォウと共に、ヴィゼルは剣を構え村へと走り出した。


●岐路
 庇護すべき対象が要るという事は、気を配らねばならぬ対象がいるという事。端的に言えばそれは足手纏いとかわらない。
 隠れこもっている家屋がまだ耐え得るものであれば、外へ出すべきではなかったのかもしれない。
 ただでさえ数の上手に対し、彼らは刻限を急ぎ手を分けた。
 そして、ゴブリンの討伐に意識を引き寄せる者と、村人を直ぐに助け出すべきと動き出した者と意思の統一が図れていなかった。
 ゴブリンをある程度減じてから助け出すべきと駆け出した者達と救助に動き出した者達と‥‥狙いも方向も交じり合わず‥‥ここでまた戦力が分散する。


「集団で無抵抗の村人を襲うなど卑劣極まりない。成敗してくれる!!」
 数に任せた無鉄砲なゴブリンの攻撃など彼女にとって児戯のようだった。クルスソードを構え、引き寄せた棍撃はサイドに引きかわし、次いで踏み込みなぎ払う。
 声の限りに叫びゴブリン達の意識が己に向くようフィソスは立ち回った。フィソスの後方、アカベラスが睨む先‥‥白鳳により得られた情報では、向う先には人の気配無く目に見える限りの群れたゴブリンがいるのみ。
「‥‥氷雪の女王よ」
 詠唱に、彼女の周りを囲む空気すら冷たいモノに変わりつつあるよう感じられた。
「貴方の盟友は此処にあり、貴方に望むはその吐息‥‥アイスブリザード」
 詠唱に合わせ、ゴブリン達を引き寄せ薙いでいたフィソスが身を翻す。翻るマントが過ぎり消えたゴブリンの目に映ったのは芯から凝らせる冷たい無慈悲な氷風の嵐だった。


 村人がいるであろう建物を背に、斗織は日本刀を手にゴブリンと相対していた。
 同様に建物へいかせまいと声を上げ、ゴブリンの意識を引き寄せる桜花。
「ゴブリン共っ! 抵抗しない相手では面白くないでしょう!? それともまともに戦える相手は恐いのっ!?」
 挑発、罵り言葉は通じやすいか、桜花の言動に色めき立ち群がるゴブリン。
 桜花の手に稲妻を束ねたような‥‥彼女の手に合った雷光の日本刀。
 重いゴブリンの一撃を交わし、一刀に切り捨てる。
「村の皆には手を出させないわよ!」
 ゴブリンの打撃を上手くかわし、軸足の切り替えそのままに返す足で足を払い、昏倒させたゴブリンを拳で叩き落す流の流麗な戦いぶり。
 女性ばかり3人‥‥と、数に奢るゴブリンの侮りは冒険者に有利に働き。
 建物から助け出された村人はアンジェリーヌの導きで村の外へと逃れようとしていた。
「決して後ろにはいかせません!」
 抵抗などするが無駄な惰弱な遊具を逃がすまいと村人を追おうとしたゴブリンに、抜刀‥‥白刃の煌きが襲う。斗織の一撃。
 ゴブリンの数は、大分減じていたはずだった。


「‥‥走れないっ!」
 悲痛な村人の叫び。成人ならばまだしも、夜も休めず気を張って生きた心地の無かったこの数日。
 負った怪我が癒えたとしても体力的に子供や老人はとうに限界だったであろう。
 陽動に出た仲間がいるとはいえ、数の多いゴブリン達をすべて請け負う事は困難だった。
 救い出す助け手の声に、光を望んだのは村人達。けれど‥‥。
 木材や家財などで扉や窓を封じて築いた臨時の防壁‥‥助け手を引き入れるためにはそれを取り払わねばならず、そして外へ出たのだ。
「!? いけない‥‥っ」
 咄嗟に、村人達を包むように張られた結界は、アンジェリーヌのホーリーフィールド。結界に振り下ろされる重い衝撃。
 苛立たしげなゴブリンが何事かを叫ぶ‥‥この状況に気付いている冒険者はいるだろうか‥‥。
 振り上がるゴブリンの棍棒に、響いた悲鳴は村人の物だったか‥‥。

――ずしゃり。

鈍い重い血塗れた音、地に伏したのはゴブリンだった。
「ロミルフォウさん!」
「‥‥ここを通すわけにはまいりません。押し通るならば、代償を命でお払いいただくことになりますわよ」
 持参のポーションをアンジェリーヌの足元へ放り、剣を手に駆け込んできたのは徒歩で後を追ってきたロミルフォウ達だった。
 同朋の叫びに引き寄せられた戦意衰えぬゴブリン達を、村人とアンジェリーヌを背に剣を横薙ぎに払いなぎ倒したロミルフォウ。
 ブラックホーリーで、彼女の後背を援護したヴィクトルが村人を見つめる。
「‥‥それで全員ではあるまい。私も探しに向おう」
「救助が最優先とは言え、ゴブリンの数も多少は減らしておかないと侭ならないぞ?」
 シールドでゴブリンの一撃をいなしながら、剣を繰り出しその身を貫く。
 ヴィゼルの言葉は最も‥‥剣戟やゴブリンの悲鳴にも似た怒号が聞こえてくる。恐らく先行した仲間達の戦場は村のもっと奥か。
「日も暮れる‥‥急がないとな」
 ヴィゼルは呟き、怒号に向かい駆け出した。
 そうしてもたらされた仲間の集いと、別れ別れになった冒険者らの動向がより合わされ、残るゴブリンを駆逐することに向かい、事は流れ始める。 


●終着
 眠れぬ恐怖に、夜の闇に怯える事無く久しぶりに迎えられた春の宵‥‥。照らす月に、冬の名残を感じることは無く。
「ありがとうございました‥‥」
 助け出された村人は誰も怪我の重さに関らず疲弊しきっていた。
 死が目前に迫った恐怖に耐え忍んでいた短くは無い時間を思えば仕方ない事だろう。
 アンジェリーヌの癒しの御業に触れ、白鳳が差し入れた保存食を食べ‥‥安堵する老人や子供。
 けれど、惨状から意識を逸らすには大人達は現実的過ぎて。
 白鳳の魔法により、隠れ潜んでいた村人、逃げ遅れ昏倒していた村人まで助け出す事が出来た。
 崩れた建物の下敷きとなった者は、皆で瓦礫を取り除け助け出す。
 数を侮ったわけではなく、皆備え持っていた回復薬の多さとクレリックのお陰で怪我を癒すには足りた。
 冒険者に被害も無い‥‥。

「これからどうされるのですか?」
「近くの村の親類の家に身を寄せて‥‥やり直すしか」
 手当てをしながら桜花が訊ねると村人は力なく首を振り、壊れ果てた村を眺めた。
 夜の炎越しに見る村は暗い‥‥今は闇に隠されみえないものの、明日、日が昇り改めて眺めれば更に気の遠くなる惨状が広がっているかもしれない。
 惨劇が合った場とはいえ、そうそう離れることは簡単ではなく。
 壊された村を建て直すに必要な物は多々ある。全てを他に頼るわけにもいかないだろうがせめて暫しの間だけでも‥‥と、白鳳は十分な量とはいかないものの多めに持参した食料を村へ寄付していた。仲間の幾人かも、それに倣い村には少しばかりの日々の糧。
 焼け落ち、壊れた家々が並ぶ村の中‥‥連ねの珠を握る白鳳にヴィクトルは訊ねた。
「‥‥何を祈っているのかね?」 
「ゴブリン達が最初に襲った時、私達が着く前に既に失われた命がせめて安らかである事を」
 未熟な私に出来る事は限られていますから‥‥そう呟き見上げた空は、晴れた夜空、降る星々。
 何に乱れ、ゴブリンが大挙しこの村が襲われたのかわからない。
 ‥‥混沌のこの国の中、出来る事を、最善を尽くせたのだろうか。