七花 ―花冠
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■ショートシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月29日〜05月04日
リプレイ公開日:2005年05月09日
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●オープニング
●七つの花の冠
ある地方に昔から伝わる風習。
季節に咲く7種類の花で花冠を編み、その花冠を想う女性に捧げ、愛を告げるというもの。
求愛の印である花冠を、想う女性が受けとってくれればそれは女性が想いを受け取ってくれたという事であり、花冠の愛を捧げられ結ばれた男女は、幸せに添い遂げる事ができるという。
花冠を編むには、約束があった。
1つ、花冠に用いる花は、全て自らの目でみつけ、自らの手で編まなければいけない。
2つ、色を違えてではなく、まったく異なる花7種でなければいけない。
約束を果たし編まれた花冠は、想いを伝える証になるのだから。
いつから伝わるものなのかはわからない。けれど、今もその地方に伝わる大切な風習である。
そんな風習が伝わるある村に、1人の少年が帰ってきた。
望まれぬ帰郷。彼は、人とエルフの混血児だった。
じき、花冠を捧げる春宵祭。村人の浮かれさざめく心が水を掛けられたように冷たく沈む。
6年程前に、赤い瞳を村人達の前に晒し、山間の村に小さな混乱を残し去った少年。
唐突な帰村に、村人は気が気ではなかった。なぜ、今になって帰ってきたのだろう。
●蕾は開くか、腐り落ちるか
今日もさまざまな目的をもったあらゆる者達で賑わう冒険者ギルド。
その中で1人の受付係が困りきった様子で、人間の少女の応対をしていた。
「お嬢さん、それは無理よ。依頼を取り下げるには依頼主自身でなければ。依頼が出ている以上、冒険者に受けるなという事もできない。‥‥普通に考えればわかるでしょう?」
「でも!何かしたわけじゃないのに。帰ってきてくれた人を追い出す依頼なんておかしいでしょ?」
堂堂巡りのやりとり。少女は、ギルドに出ている依頼を取り下げろと訴え、決して引かないのだ。
「どうかしたのか?」
彼女らのやりとりに掛けられたのは、受付係の馴染みの冒険者の声。
受付係は苦笑を浮かべ、冒険者へ小さく首を横に振る。
けれど、その声に反応したのは受付係だけではなかった。
「あなた、冒険者? だったら依頼を受けないで!!」
少女のあまりの剣幕に、少女の頭の上で、冒険者と受付係は顔を見合わせるのだった。
「で、どういう話なんだ?」
受付係の困り具合と少女の切羽詰った様子に助け舟を出すように、冒険者は情報を整理しようと問い掛けた。
改めて少女の話を聞いてみると、村の大人たちが冒険者へ依頼にきたこととその内容を知り、なんとか止めないと‥‥とギルドへ来たという。
思い立って来てはみたものの、依頼を取り下げさせる事も、出ている依頼を受けさせない事もできるわけがない。まして『依頼を妨害すること』は、冒険者相手に少女1人では至難な事。
対等な立場である冒険者に依頼の妨害を願う事も、現金収入のない一少女にそれは無理な話だった。
「その依頼っていうのは何なんだ?」
「それは‥‥」
「折角村に帰ってきた人を追い出して欲しいって依頼よ。追い出す理由が『ハーフエルフだから』? そんなのあんまりだと思わない? 別に彼がいたってお祭りはできるでしょう‥‥勝手に怯えてるだけのくせに」
受付係の言葉を遮り、少女は言い放った。受付係も、口をつぐみあえて何もいわない様子をみると、言葉はともかく意味合い的にはそうかわらない依頼内容なのだろう。
「‥‥祭り?」
「昔からやってる若い人達のお祭りがあるの。村に住む結婚前の若者なら誰でも参加できるお祭り。その条件なら彼が参加したいといっても拒める理由はないわ。最も‥‥」
ハーフエルフであることを盾に拒むかもしれないけど‥‥と少女は笑った。
村の大人に対する侮蔑の表情を隠そうともせずに。
「で、お嬢さんは村の大人達の出した依頼を妨害したいわけか。冒険者に対抗するには冒険者って理屈はわかるが」
「‥‥依頼を受ければそれを成す為に最善を尽くそうとするのが冒険者よ。事が穏便には済まなくなるかもしれないわね。本当にそんな事をしたいの? ハーフエルフの彼が村に残りたい意思を示しているのかしら?」
受付係に訊ねられ、少女はそこで初めて口篭もる様子をみせた。
「‥‥わからない、彼は私に会ってくれないから」
少女は俯き、言葉を綴る。
「‥‥謝りたかったの。6年前、彼が赤い瞳になって‥‥いつも本当に物静かで優しいお兄さんだったから、びっくりして‥‥私が、悲鳴をあげてしまったから。きっと、ずっと怒っているのね。それから彼はいなくなったの。彼が赤い瞳になったのは私のせいだったのに‥‥折角帰ってきてくれたのに、追い出すなんて」
ハーフエルフが忌まれる理由‥‥赤い瞳、狂化。
その血ゆえの悲しきモノだったが、少女にはやはりそれは理解できない事だという。
ハーフエルフの狂化条件は、個人により異なるが、ただの人間から見ればいつそうなるかわからない赤い瞳。
「でも、謝りたかったの。許して欲しいとは言わないけれど、傷つけたかったわけじゃない‥‥ハーフエルフという存在は怖い。赤い瞳が。でも、彼はハーフエルフという前に小さな頃からずっと一緒だった‥‥大好きな優しいお兄さんだから」
けして少女に会おうとしない、ハーフエルフの少年冒険者。
「難しいわね、色々と」
受付係は、そう零した。ギルドにいれば、その手合いのハーフエルフという因果を巡る話は多く聞くもの。
決してこの少年1人が遭った『不幸』ではない。
少女の訴える内容を聞き届けるか否か。
「‥‥報酬なしで動いてくれる冒険者がいるものかわからないけれど‥‥お嬢さんの『お願い』を聞いてくれる人を求める旨を出すだけ出してみましょうか?」
幾ら受付係といえど少女1人を相手にいつまでも応対していられるわけではない。
どこかで折り合いをつけねば、少女はけしてギルドから去ろうとしないだろう。
けれど、少女にとってはそれだけでも前進だった。
受付係に礼を述べ、頭を下げる。
そうしてようやくギルドを去っていく少女の後姿を見て、受付係はため息をついた。
ため息の意味を察してか、冒険者は苦笑する。
「まあ、これだけ人が出入りしてれば、お人よしの1人や2人、いるかもしれないさ」
●リプレイ本文
●一片
「少年と少女が無事出会えること‥‥全てはそこからですね」
璃 白鳳(eb1743)が口にした事が、ある意味この依頼の全てである。
この場に集まった冒険者は全員で8人。皆、報酬でも名誉でもなく、まったくの個人の厚意から依頼を共にすることになった者達だった。
「‥‥そうだな、私も大概お人よしだが似た者同士ということか。だが、報酬があろうが無かろうが、一度引き受けた以上は全力で臨ませて貰おう」
静かに意志を告げるマーヤー・プラトー(ea5254)に、ガイアス・タンベル(ea7780)が頷く。
「僕も、騎士として少女の願いを何とかかなえてあげたいです」
「ええ、報酬や利益など問題じゃありませんから。それ以上に彼女が大事なものを得られたら‥‥と思いますし、何としても力になりたい所存です」
アフラム・ワーティー(ea9711)の言葉は、ナイトの位にある彼らは同様に胸に抱える気持ちだろう。
でもさ‥‥と、リュシアンが、首を捻る。
「要は数年ぶりに村に戻って来た幼馴染のお兄さんに会いたいってことだよね?」
「んー‥‥彼が少女に逢わないのって、もしかして彼女を気遣っての事じゃないのかな?」
会いたいと願う少女。会おうとしない少年。ギルドに並んでいた依頼から村の様子を思えば、ティラ・ノクトーン(ea2276)の予想はありえないことではない。
少年が今でも少女の語る『優しいお兄さん』であるのなら。
「とりあえず、村人の雇った冒険者が少年の方にはいるんだよね?」
出来れば穏便に事を運びたいと思うのは、リュシアン・ワーズワース(ea9865)だけではない。けれど、考えられる事態には対処策を用意しておかねばならない。
「依頼中、私は主に依頼人の近くにいようかと思う。過ぎた心配だとは思うが、警護がてら‥‥といったところだね」
「少女に会おうとしない少年ですが、春宵祭に合せての帰郷。わたくしは、花冠の行事が目的だと思います」
少女の傍らに在るというワーヤーとは逆に、少年の方に会ってみるつもりだというエトワール・モル(ea2479)。
春宵祭があるからこそなのだろうか。
「偏見や蟠りはそれほど簡単になくなるモノではないのでござる、残念な事に‥‥。1度村に被害を出しているとなれば、尚の事」
望めば全て叶えられるわけではない現実。硯上 空(ea9819)の危惧は、正論でもっともな事だった。
何も不幸になるために、皆時を過ごすわけではないのだけれど、人の想いは難しい。
「幼い頃から共に過ごしてきた仲と伺っております。難しい言葉はきっと必要ないでしょう。ただ素直に口にするだけで、十分ではないでしょうか」
「想いはすれ違っているだけでは伝わらないです、何とか再会を促したい所ですね」
白鳳のいうよう、再会できればあとは彼らが結論を出すはず。けれど、会う事が出来なければそれも叶わない。
『会いたい』という飾り気の無い素直な願い。少女の願いを叶えるため、彼らは村へと赴くのだった。
●二片
「ありがとう!」
果たして本当に冒険者が来てくれるのか不安だったのだろう。訪れたアフラム達を、少女・カルミアは嬉々と迎え入れた。
村長が頼んだ冒険者の姿を見て、直ぐにでもルピナスが追い出されないかカルミアは心配だったらしい。
娘の独断を、親達はどう思っているのか。表立って賛成はしないものの、冒険者らを寝起き出来るよう整えた納屋へ案内してくれた事で知れよう。
「ハーフエルフの彼、ルピナスとは親戚になるの。私の祖母の妹さんが、彼のお母さんだったかしら?」
親戚らしくもっと協力的だったらいいのにねとカルミアは小さく笑った。
「カルミアさんの願いを叶えるために僕達は来たけれど、幾つか確認させてもらって良いでしょうか?」
ガイアスの問い掛けにカルミアが頷いたのを見て、今度は空が口を開く。
「まずは、カルミア殿に6年前何があったか思い出してお話願いたい。『狂化』の切っ掛けが分からねばカルミア殿の願いを叶えられぬ故。辛き事をお願いして申し訳ござらぬが、謝りたいと思いギルドへ赴いたその強い意志でお話願えないだろうか?」
「‥‥6年前の事?」
それは誰もが気に掛けていた事だった。僅かにカルミアの言葉の歯切れが悪くなる。その様子にガイアスが助け舟を出すように話題を別方向からに切り替えた。
「僕の考えですが、彼は村に永住する気はまずないのではないかと思うんです。冒険者稼業をやめ、静かに暮らしたいと思うにしても被害を出した村に帰る気になるとは思えません。
ハーフエルフは一般的に賢い種族だと僕は思います。お祭りで何かしたい事があるとか。心当たりはありますか?」
「私は今年ようやく参加できるのよ。6年前は私は、お祭に参加できる年じゃなかったからわからないわ」
首を横に振るカルミアに、白鳳が再会する為の方策を提案する。
真正面から会ってくれと願っても難しいだろう、そう思った彼が案じた手段は『カルミアが村の外で魔物に襲われた』とルピナスに訴える事だった。
白鳳の提案に、カルミアは首を横に振った。それだけは出来無い、と。
「ダメ。だって彼が狂化したのは、6年前、野犬に襲われた私を助けるためだったの。だから、だめ。それはできないわ」
そしてようやく、ぽつり、ぽつりとカルミアは語り始めた‥‥6年前の事件の経緯、真実を。
村の外れの森に行ったのは、まだ摘まれていない花を見つけるため。野犬が群れていて森は危ないと言われていた。
止めるルピナスに、大丈夫と足を向けたのはカルミアだった。
村に住む者なら誰でも知っている春宵祭。花冠を大好きな人からもらいたいと思いながら、春宵祭に参加をゆるされる年ではない幼い少女達は自分達のために花冠を編む。
少しの間なら大丈夫と思っていたのに、少しでも綺麗な花を摘むのに夢中になってしまった彼女は、野犬達が近くに来るまできづかなかった。
「‥‥ルピナスは、私に逃げなさいっていったわ。私は、落とした花篭を拾う事も忘れて‥‥野犬が怖かったのか、物凄い声で怒鳴った彼が怖かったのかわからなかった」
野犬を数匹、田畑と倉庫代わりにされていた家屋を潰したところで、ようやく落ち着いたルピナス。
軽い恐慌状態に陥ってしまったカルミアは、ルピナスに会う事が出来なかった。
会えないまま、ルピナスは村から出て行ってしまった。
「父と母に、訴えたけど大人は皆とりあってくれなかったわ。‥‥私も怖かった、彼の事も、助けてもらって謝る事の出来無い自分も」
カルミアの懺悔にも似た告白が終る。白鳳がなんとはなしに予想した事は正しかった。
俯いてしまったカルミアの頭にふわりと大きな手がおかれる。
「思い続けることは簡単さ。だが、それを実行に移すのは、そう簡単にはいかない。それでも実行しようとした事を最後までやり遂げる事だよ。その為に、こうしてお人よしが集まったわけだしね」
温かなマーヤーの言葉と手のぬくもり。
「君が彼に会えるよう力にならせてください」
アフラムの励ましにカルミアは、小さく頷いた。
語られる事は無かったが、謝りたいと願う気持ち、ギルドへ押しかけてまで彼へ向けるほどの思慕は、初恋だったのだろう。
●三片
「おはようございます」
エトワールは笑顔で声を掛けた。その声は、心なしか控えめ。なぜなら今はまだ朝日が昇るどころか星が煌く夜明け前だからだ。
エトワールを見て、ルピナスは僅かに眉根を寄せる。けれどそれは一瞬の事だった。彼女のことなどまるで視界に入らぬかのように木桶を手に井戸の方へ歩き出す。
「そう言えばあちらの川辺に、春の花が咲いてましたよ」
エトワールも諦めず話し掛け続ける。花が咲いている場所や村の周囲の様子、他愛も無い話を交ぜて。
上背のあるルピナスは、彼女に構わず歩くのでやや小走りに追いかけなければいけなかったけれど、そんな苦労はものともせずに。
彼を捕まえられる少ない時間だったから。
「どうして、カルミア様に会って頂けないのでしょう?」
とうとう少女の名前を出して訴えたエトワールの言葉に、初めてルピナスは足を止めた。
「‥‥それは、貴方達の方が十分理解していらっしゃるのでは?」
彼は一言言い残し、木桶を手に家の中へと帰っていった。
エトワールは返したい言葉がたくさんあったのに、これまで無表情だったルピナスの寂しげな瞳に何もいう事が出来なかった。
●四片
ルピナスは、つれなかった。
エトワールの頑張りを聞くに、語りかけた言葉を聞いていないわけではないようだが、決して会話に応じようとしない。
ルピナスの家の周辺には、村長が雇ったであろう冒険者の姿が常にあり、更に思うようにいかない。
そして、やけに村の空気が張り詰めているように感じられた。
祭まで日も無く。それは、依頼の期限が迫っていると言う事。何とかカルミアがルピナスに会えるように計らいたかったのだけれど。
「‥‥6年前の狂化にカルミアさんが関っているという事を知られたということでしょうか?」
今日カルミアを訪ねてきた冒険者がいたと言うマーヤーの話に、時間が残っていない事を彼らは痛感した。
けして会おうとしないルピナスに、ガイアスは自分の持っているまるごとオオカミさんを貸し、冒険者の一人としてもう一度会いに行く事を提案する。
「今彼に堂々と近づくのはまずいでしょう。あるいは彼もその辺りを慮って貴女に会わないのかもしれません」
ガイアスの言葉に頷くカルミアは、すすんでまるごとオオカミさんを着た。
そうして、ルピナスの家を訪れようとした二人を遮ったのは、村人ではなく村長の依頼を受けた冒険者達だった。
村人達には、接触を持たないよう村長に依頼してあるという。
『周りが余計な事をして狂化した時に近い状況を発生させる可能性が高いなら、それは未然に防がなければならない』という彼らの言葉は最もだった。
結局、彼らが取った手段は‥‥。
「‥‥人の住居に勝手に踏み込むのは、盗人と変わりませんよ?」
「それはわかってるけど、扉から訪ねたら会ってくれないよね?」
ルピナスが少し呆れた声音で問い掛けたのは、煮炊きする際の蒸気をにがすためにある小窓からもぐりこんだリュシアン達だった。
リュシアンは、カルミアが謝りたいと言う気持ちを綴った手紙を運ぶために。ティラは、カルミアに聞いた気持ちを言葉で語るために。
カルミアに会ってほしいと願った。何よりカルミアが会いたがっている事を伝えて。
「カルミアさんの村での立場を気に掛けて会わないのだったら、外に会える場所を僕達が作るから」
「再会場所は、村人の目のない花畑みたいな所がいいかな? 花冠も作れるし」
言葉を連ね真摯に訴える二人のシフールの言葉に、ルピナスは小さく息をついた。
「貴方達は、そもそも最初の時点で過ちを犯している。彼女の為を思うなら、依頼を受けない事こそが正しい選択だったはず」
静かに語るルピナスの瞳に感情の揺らぎはない。淡々と語る様は、人形を思わせる。
「どうして、そんな事を言うの? そもそもキミが会ってくれないから‥‥」
「貴方達がこの村へ来た事。それが既に、村の総意に彼女が反意を示している事の現われになる」
ティラは瞳を瞬かせた。ルピナスのいう事はもっともだったからだ。
「だけど、カルミアさんの気持ちは?」
「キミの気持ちも。幼馴染のカルミアの事をどう思っているのか、なぜ帰ってきたのか全部だんまりだと、カルミアも納得できないよ」
言い募るティラ達に、ルピナスは窓から暗い外を眺めた。
二人とも、何か得られるまでルピナスの家から離れるつもりはない。
2度目の嘆息‥‥ルピナスは、冒険者達にある場所へカルミアは連れず訪れるように告げ、ティラ達を外へ追い立て返したのだった。
●5片
ルピナスがティラ達を呼び出したのは、村の外れにある共同墓地だった。
複数の足音に、ルピナスが顔を向ける。足元には小さな手荷物。
その前にある、簡素な標には白い花で編まれた花冠が添えられていた。
「‥‥母の墓です。母からは、父への恨み言は聞いたことがありません。そして、村の空気がどうであれ、母は私を慈しんでくれた」
「お墓参りが目的だったのですか?」
アフラムの問い掛けに少年はそれだけではないと言った。
「カルミアは16の年に花冠が欲しい、そう言っていたんです。随分昔のことですが‥‥帰ってきたのは私のエゴです、『約束は守るもの』それが母の教えでしたから」
そう小さく笑いルピナスは、約束の花冠だといってそれをティラの首へ掛ける。
鮮やかな七色の花で編まれた花冠。
「きっとカルミアは、よい伴侶を見つけ、ヒトとして幸せになってくれるでしょう」
「それは、ルピナス殿の一方的な願望でござろう? カルミア殿のお気持ちは?」
「どんな星の元に生まれようとも幸福な想いを遂げる権利はあると思います。頑なに心を閉ざしていては蕾のままで終わるだけです」
空の問い掛けは真剣な声音。アフラムの言葉は願いにも似たもの。その声にルピナスは首を横に振る。
「時の流れが違う事、母はそれだけを嘆いていました。老いていく自分、変わらぬ伴侶‥‥だから、離れたのだと。常に心平らにいられるよう心掛けてはいても、平常心を保つのは難しい。時の流れに血の忌み事、重すぎます」
「でも、カルミア様は村での立場より会いたい気持ちの方が強いのでは‥‥」
「真剣な言葉は、胸に響くもの。けれど、『今』に流されて『未来』を歪めてはいけないはずです」
エトワールには、花についての知識に礼を述べる。けれど、カルミアに対しての姿勢は決して変わらない。
「彼女に力を貸してくださった『お人よし』な皆さんに言伝を願えますか?」
静かに冒険者に向き合うルピナスの瞳は穏やかだけれど、揺るがぬ意志を表していた。
●散り逝くひとひら
『人間としての幸せな時間を過ごして欲しい』
それが、カルミアに伝えられたルピナスからの言葉だった。
ティラに託された花冠は、今はカルミアの手に在る。
「ごめんね、会わせてあげられなかったよ」
項垂れるティラとリュシアン。空と白鳳らの表情もすっきりとしない。
花冠を眺めていたカルミアは、頭へそれを飾る。
「ルピナスが約束を覚えていてくれた事、それが1番嬉しい。第一、貴方達が力を貸してくれなかったら、きっと彼の気持ちもわからなかったし、花冠ももらえなかったと思う」
『わがままを叶えるために大切な時間を割いてくれてありがとう』
そういって、カルミアは冒険者達に笑顔をみせた‥‥晴れやかな笑みを。