●リプレイ本文
●追いかけて…
「花なぞに託さずとも、変わらぬ枯れえぬ想いは本人次第だろうに…俺には分からん風習だな」
そう呟くニュイ・ブランシュ(ea5947)。
「愛を誓う永花…素敵だと思うけど」
「真摯な願い、叶えてあげたいものです」
ティラ・ノクトーン(ea2276)とレティシア・ハウゼン(ea4532)の言葉に理解出来無いとばかりに肩をすくめる。
「…ま、義兄の無事優先。とりあえず急ぐか」
冒険者達は2手に分かれる事を決めた。
エイーナが酒場に依頼に来た時点で、義兄は風穴に向っていたのだ。
時間に余裕は無い。
まずは村で情報を集めると決めた仲間に先んじ、レティシア達はエイーナに探すべき義兄の特徴を聞き――義兄は、28歳。セインという名の黒髪に青い瞳で中肉中背の猟師を生業にした青年らしい――ニュイは風穴の場所を確認し最低限の情報を整えると、風穴を目指し村を後にした。
ケイ・メイト(ea4206)の持つランタンが彼女の飛翔に合わせ、ゆらり揺れながら辺りを照らす。
日が落ちる前にエイーナの村に付いたものの、そこからの道程を進む間に日は落ちてしまった。
が、皆それは覚悟の上での事…。幸い整った道ではないものの、進むべき道程ははっきりしていた。
ライカ・サン(ea7014)のたいまつの炎にも助けられ、風穴を目指し進むのだった。
●枯れぬ花は何処に
依頼人であるエイーナの姉…エイルは香草の根で煮た清潔なシーツの上に柔らかな背当てを幾つも重ね、体を起こし冒険者達を迎えた。
寝台の上である事を詫びて。
エイルは、美人な部類に入ったであろう容姿をしていた…今その顔は病みつかれた影が色濃く刻まれている。
アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)は心中でため息をこぼす…確かに、エイルの容態はあまり芳しくはないのだろう。
だが、それを面に出すことは無く安心させるように微笑と共に告げる。
「彼は私達が何としても連れ戻しますので、どうかご安心を」
「もう少ししたらお婿さんは元気に帰って来るやさかい、もう少し待っていてくへんかな?」
クレー・ブラト(ea6282)も笑顔で励ます。
「仲間が義兄を護る為に追ってるから、安心して…あとは信じて待っていて」
夫の不在に心細い思いをしているであろうエイルを勇気付けるようなティラの言葉。
「…それで、どうしたいのかな、本当は」
花を望むのか…それとも…
エイルの心の内を、本当の願いを確認するようにティラは訊ねた。
「…確かに、祖母が話す花を見てみたい…そういったことも有りました。けれど、花よりも夫の方が大切です」
迷う事無く言い切ったエイルは「どうぞ夫を風穴から連れ帰ってください」と彼らに頭をさげた。
エイーナ嬢と呼びかけたクレーは、花について何か知ってるのでは?と訊ねた。
「知らんかったら『嘘みたいな花』と言えへんやろ?」
クレーの問いに、エイーナは首を横に振った。
「ごめんなさい、知らないんです。でも…」
彼女は言う。
――花は、何時か枯れる。だから枯れるその時迄が美しいのではないか、と
エイーナに頼み案内してもらい会った老人は、この村で5指に入る長生きで呆けてはいない老人らしい。
真剣な面持ちで事情を説明する3人の言葉に…老人は小さく嘆息し、やがてゆっくりと口を開いた。
「…崩れやすく脆くなった風穴で怪我人や、命を落とした者も出てな。封じた。あると知れば欲しくなるのが人の常。例え風穴の花が採り尽されていようとも、もしやと思うかもしれん。その花の事は皆大人は話さなくなった…だから今の若い者は知らんのさ。…セインが、…そうか。あれも愚かだな…エイルが長くない事は承知だったろうに…」
愚かという老人の言葉は、アンジェリーヌには寂しげな響きに聞こえた。
花がよく採れたのは、封じられている入り口から少々奥まったところであった等、ティラ達が細々と重ねる問いに深い昔の記憶を探るよう…1つずつ、老人は答えてくれた。
崩れたり削られたりで、幾つかの縦穴や横穴が細々あるが、基本的に大きな1つの洞穴であるらしい。
封印も鍵等で封じられた物ではなく、縄と鎖を絡め幾重にも塞ぐように張ったものだという。
「風化しまた崩壊が進んでいれば、どうなっているかはわからないが…」という忠告を付け加え、老人は頭を下げる…連れ帰って欲しいと。病弱だが優しいエイルのために。
「最後に…1つだけ聞いてもええか?」
なんだ、と老人がクレーに目をやる。
「花の形状…枯れない花の正体ってなんやろ?」
●正体
「ここが、風穴だね」
風が通り抜ける…暗い穴―風穴の入り口と思われる、その場所を前にライカはケイの手で照らされたそこを覗き込み呟いた。
「…縄と鎖が、一部切られていますね」
そしてレティシアが封を確認する。道中、皆気を配っていたがセインと思われる者は見受けられなかった。
未だこの風穴にいるのか…。
幾重にも重ね張られた、立ち居る事を拒む封は…強固な意志をもつ者には障害にはなりえなかったのだろう。
鎖はねじ切られ、縄は断たれ…人が一人もぐりこむに十分な隙間が開いている。
その隙間から中を覗いていたライカは、たいまつをニュイに預けナイフとロープをバックパックより取り出した。
夕刻村を出立し、夜の闇を縫って風穴に来たのだ。朝まではまだ間がある。
「この暗闇で崩れやすい風穴に入るのか?」
「徹夜上等、これまでの道にいなかったのだからお義兄さんは、この中だよね。それに、昼、風穴の奥に光は差さないだろうし…?」
時間を急ぎここまできたのだから…と。
先行組の面々は皆、夜を徹しての作業には耐性がある顔ばかりだ。
だからこそ、ここまで来たのだ。
探すのに早いほうが良いと思っていたニュイも訊ねたのは確認だけだったのだろう、
インフィラビジョンを用い入り口から覗いた範囲には人と思われる何かは視えなかった為、風穴での探索へ入る用意を整える。
後から合流するはずの3人にわかるよう、前もって打ち合わせていたように、入り口に目印にロープを結わえた。
これで、道を失わないようになるはずだ。もしもの時の命綱にもなる。
「ボクでもお役に立てて皆を幸せにできるといいなって思うから」
よいしょと、ラジル・ファンヴール(ea5033)も自前のロープを自分の腰に結わえ、風に飛ばされないように…とその先をレティシアに持ってもらう。
「いくにゃ〜〜〜〜〜〜!!!」
腰にロープを巻いたケイがランタンを抱え風穴へ飛び込んだ。ラジルも後を追うように入る。
ケイのゆれる明かりを見ながら、ライカが風穴の壁面の様子を手探りで確認しながら進む。
力をかけても良い所と、踏み入っては行けないところ…慎重に見極め小刀で目印をつけた。
レティシアは、仲間以外の人の声、息遣い等…響く空間で難しいけれども、周囲に注意しながら。
カンテラの重み分、ケイはラジルよりはましだったが、時折吹き抜ける強い風が辛くあたった。
見かけた横穴等をニュイが覗き込んでみたり、呼びかけてみたりもした。
そうして進み、どれほどの時間が経ったのだろう。
…夜を徹し歩いてきたのだ。その上、暗く、崩れやすい風穴の中で人を探すと言う行為は、遥かに神経を使い疲労を重ねる。
――ごう、と吹きぬけた風にラジルがバランスを崩した。
慌ててレティシアが、ロープを手元へ引くが、壁面にしこたまぶつかりへろへろと落ちる。
落ちた先、足元の石がころころと奥へ落ちていく音。
「大丈夫ですか?」
「…まって、不用意に進むと危ないよ」
ライカが押しとどめ、ロープを手繰り慎重にラジルへと歩み寄る。
ケイがふわり、ロープの先を照らすと、斜め下へ潜るような横穴。
「足を滑らせて落ちてたりしないだろうな」
眉を寄せるニュイに起き上がったラジルが、ねえねえ、と呼びかけた。
「ニュイ、ここも視て。落ちてたら大変だし。何かあれば視えるよね? ねえ、何かいない?」
頼まれ、どれ…と覗き込んだ。
レティシアも、何か聞こえないかと耳を澄ます。
●合流、邂逅…
果たして、そこに探すべき人は居た。
横穴に足を滑らせ落ちた際に足を挫いたのかセインは登る事が出来ず、灯りも切らしそこに居たらしい。
冒険者達が、捜索にこなければ彼はそこで死んでいたかもしれない。
滑り落ちた道は狭かったが、落ちた其処は大人一人が身を起こせる広さがあった。
ラジルとケイがセインの元へ降り、自分達が来たのはエイルとエイーナの依頼である事を告げ、これからロープを使って皆で引き上げるというと彼はそれに否と首を振った。
花を採るまでは、絶対に帰らないという。
「…ここは本道から離れたところ。採り尽さず残っているかもしれない」
「…花の正体をしっているの?」
ラジルが驚いたように、セインの指差した方を見た。ケイがそちらへカンテラを向けた。
ケイが照らした灯りの先――そこは岩壁…花など見受けられない。
「花なんか咲いてないけど…?」
入ってきた方向からきた方向から近づく灯りにレティシアは気付いた。
村で情報を集めその後、追いかけてきたクレー達だ。
「間に合ったやろか?」
前もって打ち合わせしておいた話の元、入り口傍の木に結び付けられたロープを伝って追いかけてきたのだ。
クレーの持つカンテラの灯りを頼りに目印が無いか確認しながら。
「お義兄様は…?」
アンジェリーヌが問い掛けるとニュイは、足元に広がる横穴を示した。
「今ケイとラジルが確認に行ってる。…滑って落ちたそうだ」
「…それでは怪我を?」
「引き上げるのを拒否しているから、どういう状態なのかまではあたし達にはわからないんだよね」
見つけ次第村へ連れ戻そうと思っていたライカは幾分苛立たしげな声をあげる。
滑り落ちた場所を無理に降りて、助けなければいけない人間を増やす事は出来無いからだ。
「それで、永花がどんな花かは判ったのでしょうか?」
レティシアの問いにクレー達が頷く。
「永花の正体はな…」
●枯れない花
枯れない花…それは、彼らがもしや、と推測推論立てていたものだった。
どのようにして形成されるものなのか…彼らには詳しくわからなかったけれど…
ティラも穴の底へ降り立ち、話を二人に伝えると、セインはただ黙っていた。
「俺にも灯りを貸してくれないか?」
永い沈黙の後、セインはそう頼む。
「いいにゃ。私の貸してあげるにゃ」
ケイが快くセインに貸してやる。セインは自分がいた後ろの壁へカンテラを向けた。
ぼんやりと照らされたその先に…。岩壁にしか見えないそこをもう1度よく見れば…。
「……これ? 永花って?」
シフールである彼女達の手にも収まってしまうような小さな花と、セインの手にのるくらいの大きさのもの…といくつかの花が、盛り上がった石壁に咲いていた。
石の花…鉱石の結晶か…どのように咲いていったのか。
白茶けた色の、花びらが幾重にも重なったその形は…
「薔薇みたい…だね」
「確かに枯れないね、これなら」
感嘆の声。赤茶けた…赤みの強い小ぶりのものは本当の薔薇の化石のようにみえた。
「灯りの油が切れるまで、本当に綺麗な花を見つけようと思って探したんだ…。穴に落ちたからこそ、見つけられたが…あんた達がこなければ、俺は花と朽ちていたな」
穴の上にいたニュイ達の手で、セインは永花を手に引き上げられた。
落下の際に負った怪我は、アンジェリーヌの手で癒される。
ニュイの「阿呆か」という言葉にセインはただ苦笑していた。
「1番好きなモノこそが1番綺麗な花だと思う」
と続けられた言葉に、苦笑が神妙な表情に変わった。
そうして彼らはセインを見つけ出し、花を得て村へ帰還した。
花の正体をセインは子供の頃、祖父に聞いた事があったらしい。
セインが無事に、永花と共にエイルの所へ戻るのを見届けたティラはそっと持っているオカリナに口付けた。
辺りに流れる涼やかな音にのせて、彼らの明るい前途を祈って…
また永い永い時をかければ、枯れぬ花は咲くかもしれない。
それよりも大切なものは決して枯れる事無く咲く花を心の内に見つけることかもしれないけれど。