HIT AWAY

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月20日〜05月25日

リプレイ公開日:2005年05月29日

●オープニング

●日陰
 大分、日がのびたとはいえ、夏に比べれば夕暮れは早い。
 そんな夕暮れ刻に、中年の男が街での稼ぎを懐に、驢馬を引きながら家路までの道を歩いていた。
 日が沈みきる前に、なんとか村へ帰れるだろうか‥‥そう考えながら沈む太陽を眺め歩く。
 けれど、唐突に驢馬が足を止めてしまった。
 男にとっても驢馬にとっても慣れた道のはずだった。
 男は驢馬の足を見たが、異常があるようにも見えない。
「どうした、もう少しだから良い子にして歩いておくれ」
 男がそういって驢馬の首を撫で叩く。けれど、驢馬は落ちつかない様子で尾を揺らしていた。
「‥‥お前、どうしたんだ?」
 耳を伏せ、気忙しく嘶く驢馬の様子に男は、何事かと辺りを見回す。
「‥‥!!!?」
 濃く朱い太陽の光を遮る黒い影。
 それがなんであるかを理解する前に男は、沈む太陽に負けぬほど赤くその身を染め倒れたのだった。


●緋陰
「パリから離れた街や村へ向かう街道沿いで、このところ被害が出ている事件がある。通り魔と言って良いのかわからんが‥‥」
 淡々と書類を手に、ギルドの受付担当員は依頼の説明を始めた。
 被害が出ているのは、夕方から夜にかけての時間帯に街道を通った者が襲われているという。
 街道を通る全ての人間というわけではなく、被害者に共通性は無い。
 端的にみればほぼ無作為に、数日置きに街道を夕方以降に通った者の中から被害者が出ているらしい。
「争ったり抵抗したりする跡が、殆ど無い事からほぼ一撃で仕留め去っているみたいだな」
「‥‥仕留め去る?」
 受付員の説明に話を聞いていた冒険者の1人が、僅かに眉を寄せた。
「被害者は皆、大型の獣に襲われたような‥‥と判断するしかない傷痕らしい」
 頚部を噛み切られてという死因が1番多いというが、遺体はどれもこれも、身体の各部位が損なわれているらしい。まるで、大型の獣が血肉を食らい啜ったかの如く。
「事件はここ最近のことで、以前から大型の獣が街道近くに住んでいた‥‥とは、考えにくい。ただ、遺体の損傷具合からは、そうとしか判断し辛くてな。襲われて命があった被害者がいないから、本当に獣かどうかもわからない」
 少ない情報からわかったこと、そうと決め付けてかかる事もあるまいが、得られたものは有効に使うべきだろう。
「悲鳴を聞いて、駆けつけた時には既に事切れた被害者だけ‥‥という時もあったようだ。仕留めそこなったの事は無く、1人でいる者を襲い、目撃者は残さない。随分と慎重かつ警戒心の強い奴かもしれない」
 これ以上被害者をださないためにも、一刻も早く事件を解決して欲しい‥‥そう依頼の言葉はしめられたのだった。

●今回の参加者

 ea2789 レナン・ハルヴァード(31歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea4027 キセラ・ヴァーンズ(21歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea4716 ランサー・レガイア(29歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7210 姚 天羅(33歳・♂・ファイター・人間・華仙教大国)
 ea7755 音無 藤丸(50歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea9249 マハ・セプト(57歳・♂・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea9633 キース・レイヴン(26歳・♀・ファイター・人間・フランク王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1502 サーシャ・ムーンライト(19歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1743 璃 白鳳(29歳・♂・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

我羅 斑鮫(ea4266)/ 城戸 烽火(ea5601)/ セリオス・ムーンライト(eb1993

●リプレイ本文

●Contribution
 パリ――いや、今やノルマンの冒険者達ならば誰もが耳にした事があるだろう‥‥エムロード延命嘆願について。
 延命嘆願に協力するため、その寄付金受付卓へキセラ・ヴァーンズ(ea4027)はそっと寄付金を差し出した。
 その彼女の後ろから「俺も‥‥」と差し出す存在。振り仰ぎ見上げれば、それはランサー・レガイア(ea4716)だった。
「事情に詳しくはないのだけれど‥‥」
 出来る事があるならば‥‥と、微苦笑を浮かべ彼もまた寄付を申し出る。
「さあ、次は俺達の依頼で人々を助けなければ、な」
「そうですね、頑張りましょう」
 頷きあい、彼らは自身が受けた依頼を果たすためギルドへと向うのだった。


●in preparation for
 酒場で得られる限りの通り魔の情報を元に練った作戦。
 そのために必要とした馬車を、冒険者達は借り受けようとしていたのだが。
「「「「高い?!」」」」
 数軒の商家や近隣の住民の元をまわったものの、一様に示される金額は決して安価ではなかった。
 依頼料を考えると割に合わない程に。
 けれどその金額は、パリ〜ドレスタット間の定期馬車便が7日間、1人1.6Gである事を考えればやむを得ないものだろう。
 元より定期便ではない馬車は、本来何らかの目的のもとに使用されている。
 よって貸し切るのはその本来の業務を停止しての行動となる為、商い的には相当うまみがないと貸し出してはもらえない。
 まして、その目的が近況辺りを騒がせる通り魔退治への使用となれば‥‥。
 けれど、確実に目的を達する為に必要な物である。彼らとて、ここで引く事は出来なかった。

 冒険者達が最後に訪ねた先は、街道の近隣に住まう商人だった。
「街道の通り魔を退治出来たら、安心して荷物を運べるようになるので、運び屋の人達にもお得だと思うのですよ〜」
「被害を少なく、より安全にするためにどうしても必要なんです!」
 エーディット・ブラウン(eb1460)が効果とそれによって得られる利便性を訴え、その為の必要性をキセラが訴える。
 彼女達が言う話に納得は出来るし、そもそも通り魔事件が解決すれば全ての不安が消えるのだけれど。
「‥‥荷車は、仮に壊れたとしても直せるが、馬がやられちまったらなぁ」
「でしたら、馬は私のファーディナンドを使用して頂いても構いません。荷車だけお借りするという形は如何でしょう?」
「それなら俺のも貸すよ。ただのノーマルホースだけど‥‥」
 考え悩む商人に、サーシャ・ムーンライト(eb1502)が妥協点を提案した。それならば自分も協力できるとレナン・ハルヴァード(ea2789)が重ねて申し出る。大切な相棒を危険に晒す真似を迎合出来無いのは、レナンとて商人と同じ気持ちなのだが。
「‥‥んー、それなら‥‥」
 重ねられる言葉に、やがて渋々ながらも商人はエーディット達の説得に頷いた。
 結局、馬を所有していた者が数名いたお陰で、冒険者達は「持ち逃げしない」「損害時の補償について」等の約束を交わし、彼らの目的を達するに応じられる荷車のみを借り受ける形で金額と期日に折り合いをつけたのだった。
「まあ、2頭立てで引ける荷馬車。サーシャのファーディナンドと俺の馬で大丈夫だろう。万一の時にはレナンの相棒に頼む事もあるだろうが‥‥」
 その前に犯人を白日の下に引きずり出してみせる‥‥ランサーの言葉に皆頷き合うのだった。

 一方、ギルドで聞いた情報よりも詳しい物を求める者もいた。
 音無 藤丸(ea7755)は、被害者に共通点が無いか。マハ・セプト(ea9249)は、襲われた日時や場所等の詳細を。そして璃 白鳳(eb1743)は、通り魔の正体の予想を裏付ける為に。
 3人とも、皆で立てた囮作戦が上手く行くための材料を揃えるためであったのだが‥‥。
「得られた情報は、ギルドで聞いた物と大差ありませんね‥‥」
 苦笑を浮かべる白鳳。
 けれど、マハが近隣の有力者に確認し、事件の発生した地点と時間帯を記した街道の地図の印を結べば‥‥彼らの予想した通り一定の範囲内で似通った時間帯に事件が発生している様子が見て取れた。まるで習性か何かに基づくように。
「被害者達の共通点らしきものといえば、やはり単独で街道を通っていた者のようですね。商人ばかりというわけでなく、金品の類は盗られていないとなれば‥‥」
「ふむ、となればやはり皆が予想した通り、通り魔の正体は獣かモンスターの類じゃろうか?」
 藤丸の肩の上で、唸るマハに白鳳は小さく息をついた。

 これ以上被害者が出ないようせめてもの未然の対策にとまわっていたのは、姚 天羅(ea7210)だった。
 そして、藤丸とマハの頼みを受け、城戸 烽火と我羅 斑鮫の二人も共に街道沿いの近隣、人が集まる場所で一般人に立ち混じりながら噂として話をまいて行った。
 興味本位もあれば、自衛の為もある‥‥物騒な事件は、醜聞などと同じくらい人々の関心を惹くもの。
 噂として人々の口の端に上る事を利用したのは上手い手だった。
「まあ、自衛できる対処としては、決して一人では出歩かない事だな。事件の多い時間帯‥‥夕刻から夜間の外出を控える事が1番だが」
 事件についての話と対処を織り交ぜ、彼らは人々の間で話を広げていった。


●Assault person
 がらがらと重たげな音が一定のリズムで流れる。
 既に辺りは夕闇に包まれ、街へと続く街道にも関わらず人の気配は疎らだった。
 その上、一人で道を行き交う者の姿は殆どいない。
「(天羅達の噂の効果だろうか?)」
 ランサーは、そんな事を考えながら辺りの様子を視界の端に収めつつ、荷馬車を引く馬達の手綱をとり街道を進んでいた。
 仲間が荷物に偽装して乗る荷車は重たげで。荷を引きなれない馬達の事も慮り、進む速さはゆっくりしたものだった。
 元より焦る道行きではない。
 そんな荷車に積まれた藁の山。その下に潜む冒険者達が、藁の下から窺える外の様子は限られている。
 何かあればすぐに対応出来るよう、キース・レイヴン(ea9633)はダガーを手に出来る限りで身を潜めていた。
 街道を行き交う時間帯のせいもあるのだろうが、被害者はほとんど男性であった事から、希望も優先する形で囮役をランサーが務めているからだ。
 仲間の予想通り獣の類であるならば、殺気等には敏感だろう。気配を殺す事――それは、隠密行動に長けた藤丸でもなければ、思うに易い事ではなかったけれど。
 その藤丸は‥‥といえば、その巨躯から荷台のスペースや馬の疲労度合い、そして彼自身の能力を慮り、馬車にいる仲間から離れ、街道近くを後から付いてきているはずだった。

 馬車が徐に歩みを止める。荷車の車輪を覗くため、ランサーが馬達を留め、馬の側を離れる。
 歩み続け姿をあらわさないのであれば、止まっている時であれば‥‥と試みたのだ。
 馬車が歩みを止める事も打ち合わせ通り。荷車の外の異変ではない。
 通り魔は何時現れるのか、外の様子を窺えず待つだけのキース達にはとても長い時間に感じられた。

 月影を遮る黒い影が落ちた。
「(‥‥ファーディナンド?)」
 ランサーの馬と共に賢く彼の命令を聞き従っていたサーシャの馬が、落ち着かぬ様子をみせる。
 荒い鼻息と、地を蹴る蹄の音にサーシャは僅かに身じろぎした。彼女達の様子に気付いたのは馬の扱いに長けたレナンだった。
「(!? ランサー気をつけろ!)」
 レナンの小さな叫びは届いたのか、金属をするような音とくぐもった声。
 強襲者が現れたのだ。
 夜闇に大きな翼を広げ舞い降りたのは、1羽の巨大な梟だった。
 ランサーめがけ舞い降りる。梟にとっていつもと異なったのは、獲物に自身の爪が刺さらなかった事だった。
 チェーンレザーヘルムの鎖が爪に引っかかり、ヘルムが外れ転がった。ヘルムを持って行かれた事で首を捻るような衝撃が走るも咄嗟に短槍を掴み振り薙ぐ。
「‥‥くっ、当らない!」
 普通の梟の数倍はあろう巨躯、広げた羽に掠った気配はあったものの、梟を一撃で落とすには威力が不十分だった。
 鈍い金属音に荷車に乗っていたキース達が飛び降りる。
 藁の合間から現れた幾人もの存在に、梟は狩りの失敗‥‥獲物に執着する事無くその場を離れようと羽ばたいた。
「間に合わないか?」
 舌打ち1つ、キースは仲間に抜きんじて荷車を台にダガーで目を狙い跳んだ。
 元より的の小さい部位狙いは効率が悪い。けれど、その一撃は梟の飛翔を妨げる効果は十分にあった。ダガーをもつ手を抉る爪に臆せずダガーを振るう。
 その隙に重い衝撃が強かに梟の片翼を打ち据える。その表面に仕込まれた小さな棘が羽根に無数の傷を残しながら‥‥仲間から離れた位置に控えていた藤丸の物だ。
 月影に過ぎる存在に駆け出し、仲間との距離を詰めたのだ。
 けれど、それがかえって梟を追い詰める事になった。
 遠くへ、空へと逃れる隙を失った梟は、けれど不恰好な飛翔で攻撃に転じたのだ。
 詠唱を結ぶエーディットと白鳳を庇うように天羅はダガーを構え。腕を癒すキセラはキースの傍ら。‥‥けれど。
「マハ老!」
 藤丸の叫びに、面をあげたマハの眼前に鋭い嘴が迫る。ランサーの傷を癒す隙を、そして冒険者達の中で1番小さな者を狙っての梟の攻転。
 咄嗟にサーシャがマハを庇った。彼女の肩を、ネイルアーマーを破り抉る鋭い嘴。歯噛みしランサーが、左腕のシールドで叩くように力任せに梟を退ける。
 サーシャの痛みに漏れる声に、マハが慌ててリカバーを施す。けれど、彼女が庇わねばサーシャより遥かに小さな体躯のマハにとって危うい一撃だっただろう。
「サーシャさん!」
 空へ逃がすわけにはいかない‥‥重い水の塊が、梟に落ちる。エーディットの作り出したものだ。重さに耐え切れずよろめいた梟は、そのまま羽ばたく事が出来ず地に落ちた。
 白鳳のコギュアレイトが、飛翔を妨げその身を縛り付けたからだ。
 呪縛を振りほどこうと、足掻きもがく様子を見せる梟、けれど。
「梟だったか‥‥。デビルとは無縁のようだが、逃がすわけにはいかん」
 天羅のシルバーダガーが、更に地面へと羽を縫いとめ。
「止めだ!」
 貫き下ろされた短槍と振り下ろされる剣に、街道に梟の断末魔の叫びが響いたのだった。


●The sky that direction
「ジャイアントオウルかぁ。こんなのに襲われたら、そりゃ一般人じゃ命が幾つあっても足りんよな」
「そうだな、確かに」
 空を翔ける羽もつ存在に対し、地に縫いとめられた冒険者は苦戦を強いられた。けれど今はその羽も折れ、地に落ち息絶えた大きな梟の骸を前にレナンは嘆息した。
 彼が識るおよそ一般的とされるジャイアントオウルよりも若干小柄だったが、それでもその嘴や牙は、普通の人々の命を奪うには十分なものだった。
 仲間を庇うよう、その嘴や爪の前でダガーを振るったキースは、キセラの治療を受けながら頷く。
 出立前の兄・セリオス・ムーンライトの心配そうな顔を思い出し、サーシャは小さく笑った。荷車も、馬も、そして皆無事に目的を達する事が出来たのだから重畳だろう。
 天羅の案じたデビルの影は無いように思えた。杞憂に終った配慮に小さく息を吐く。
 けれど、それは今回の件に関してのみである。

「弔い花‥‥かの?」
 白い花を手向け祈る白鳳に、マハの静かな声が降る。
 ロザリオを手にした彼は、問い掛けに小さく頷いた。
「これでもう犠牲者も出ないですよね」
 オウルの犠牲となった人々に黙祷を捧げたキセラの呟き。
「そうじゃのう。そうであるようわしらは役目を果たせたと思いたいが」
 マハの様に白鳳は頷けず空を仰ぎ見た。彼が手向けた花は、犠牲者とオウルへ向けてのものだったから。
 梟の雛が孵り育ち、巣立つこの季節。
 堕ちた骸の羽はまだ柔らかな色合い。成鳥と異なり狩りになれない若鳥だからこそ、羽持たぬ冒険者達が地よりジャイアントオウルを狩る事が出来たのだろうか。
「難しいものですね‥‥」
 呟きと祈りは、かのモンスターの住まう場所へ‥‥。