宝物を探して ―沼主

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月28日〜06月02日

リプレイ公開日:2005年06月05日

●オープニング

●深碧の水面
 冒険者達で賑わう冒険ギルドに、二人連れの男が訪れた。
 1人の受付係が、その姿に気づき声をかける。
「あら、ギース伯。今日は、どちらへの探索依頼でしょう?」
 受付係が声をかけたのは、宝の地図を収集するのが現在進行形の趣味と公言しているギース伯爵その人だった。‥‥伯爵が、そうぽんぽんと自ら冒険者ギルドに出入りをしていて大丈夫なのかと思わなくも無い。
「んー‥‥そうだね、今回はパリから少々離れた森の中にある沼を調べてきて欲しいのだけれど」
 問われたギースの返事は芳しくない。受付係が内心首を傾げつつ先を促すと、ギースは、どこか疲れた笑みを浮かべ、依頼の要件を話し出した。
「その沼には、『沼の主』とも言われている巨大な水棲モンスターがいるという話でね。蛇のようだとも言われているんだが、実際に姿を確かめた話を聞いていないから真偽はわからない。わからないけれども、その沼の底には、その主がたくわえた財宝があるのではないかと言われている。まあ、それも‥‥」
 真実かどうかはわからないけどね‥‥、そう言ってギースは、軽く肩をすくめてみせた。
「そんな話ならば、『財宝を守るモンスターがいる沼』として地図が残されているのでは?」
「いや、宝の話は噂程度に近隣住民の口にのぼる話でね。地図は無いみたいだよ」
 そう話すギースの様子は、寂しそうに見えた‥‥受付係の目には。
「(‥‥地図が無いから? 地図が無いからだめなのか?!)」
 そんな風に見えなくも無い。思っても口に出さないところは、流石ある意味接客業務である。
 受付係の心中を知ってか知らずか、ギースは話を続ける。
「藻や泥で底の見えぬ深碧の沼底には、主がたくわえた財宝があるのではないかという噂‥‥まあ、ありふれた財宝話なんだけれども、問題があってね」
「問題というと?」
「‥‥沼に近づく者を片端から、主が水底へ引き込んでしまうらしい。その犠牲になった近隣の住民も少なくないそうでね。遺体や形見は水面にあがらない、近づけば引き込まれる‥‥要は、困った事になっているからその『沼の主』を退治して欲しい」
 それが、今回の依頼だよ‥‥とギースは言葉をしめた。
 話を聞くに、『噂』より『問題』の方が先に依頼として話されなければならないように聞こえる。
 地図を手にしてから、その真偽の確認のために依頼に訪れるといっていたギース。
 地図もなしの依頼こそ、ギースにとっては散財なのかもしれない。‥‥不謹慎極まりない伯爵である。
「沼の場所を記した山の地図は、置いていこう。‥‥ふつ〜〜うの山の地図だけどね。‥‥まあ、出来れば折角だから噂の真偽も確かめて欲しいかな?」
「はあ。‥‥それでは、この地図はお預かり致します」
 気の抜けたギースの様子に内心苦笑を浮かべつつ、受付係は、渡された地図を一瞥し丁寧に受け取った。普通の地図ではダメらしい‥‥ギースにとっては。
 そこで、依頼は終えたと見たのか。それまで一言も口を挟まなかった男が、ギースに早く帰るよう急かしだした。どうやら、ギースの側付きの部下であるらしい。口調こそ丁寧なものの、明らかに主に対して遠慮している様子は無い。
「ギース様、そうほいほいご領地を離れられては本当に困るのです。依頼内容をお伝えになられましたら、さくさくお帰り下さい、それはもう」
「あー、わかったわかった。今回の依頼は、近隣の住民の助けにもなる。決して私個人だけの趣味じゃないのだから、そう小うるさく言わないで欲しいのだけれども」
 ‥‥別にほいほいと離れているつもりもないのに‥‥そんな風にぶつぶつ零すギースに構う事無く部下は急かしたて、ギース達はギルドを後にするのだった。

●今回の参加者

 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea5067 リウ・ガイア(24歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea5765 アミ・バ(31歳・♀・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7893 アムルタート・マルファス(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb0013 ヴェレナ・サークス(21歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb1566 神剣 咲舞(40歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

ララ・フォーヴ(eb1402)/ 紅 麗華(eb2477

●リプレイ本文

●沼へ‥‥
「皆さん、お気をつけて」
 お姉さん達に対しては“特に”にこやかなララ・フォーヴに見送られ、ギースより託された地図を手に沼へと旅立った冒険者達だったが‥‥。
「‥‥地図があるとはいえ、本当に森の中だな」
「冬山に比べれば、大分くみし易いですよ」
 鬱蒼とした木々を見上げ、ヴェレナ・サークス(eb0013)が呟く。
 その呟きに、キャンプの用意を整える手を休める事無く答えたのはクライフ・デニーロ(ea2606)だった。
 彼は、以前にも『変境伯・ギース』の依頼を受け、よりにもよって冬の登山を経験している。
 その時の事を考えれば、今回は目的地までのきちんとした地図があり、遭難や凍死という可能性も無く。今回の依頼は、周囲の環境でいえばくみし易いものなのかもしれない。
 パリを離れ、依頼のあった沼を目指し進んだ結果‥‥日没前に沼の近くにたどり着く事が出来たヴェレナ達は、日が暮れる前に野営し過ごす場所を設置することにしたのだ。
『森の中にある』といわれていた通り、沼の近くに身を寄せる村や町などは無かった。
 最も人里近くにある沼ならば、被害も増え早々に沼の主の討伐依頼が出されていた事だろう。
 前もって打ち合わせておいた通り、クライフと神剣 咲舞(eb1566)が持参した簡易テントを張り、キャンプの用意を整える。
 そうして、アミ・バ(ea5765)やヴェレナ達がテントを張り終えた頃、愛馬・武の手綱を引き咲舞が戻ってきた。
 鞍に括った縄を外し、汲んで来た水の入った容器を迎えてくれたエーディット・ブラウン(eb1460)に預け、咲舞は武の綱をクライフの驢馬が結ばれている樹木に結ぶ。
「お帰りなさい、お疲れ様です〜」
「ただいまですわ。‥‥小川はありましたけれど、沼からはそれなりに離れてますわね」
「なるほど。森の中にある沼‥‥不用意に水を求めて近づいた結果、犠牲者が出たのかもしれないな」
 沼がある方を見つめ、リウ・ガイア(ea5067)が唸る。
 彼女の言う通り地図を持たず。
 また主の事を知らず森に入った者が、水場を求め沼に近づき引きずりこまれる事になったのかもしれない。
「で、万一に備え野営の火の番も決めてあったわけですが‥‥」
 最初にクライフが注意していたのだが。
 彼の嘆息の元は、森の中での野営を想定していたにも関わらず、保存食を持たず同行した仲間がいた事だった。
「まあ、多めに持って来た人もいるし。助け合いで良いんじゃないかしら?」
 幸いアミの言う通り、多めに持ってきていた仲間も多く、忘れたのは体躯の小さなリウだったので、備えに憂いは無かったのだが。
 食事を摂らねば体力も判断力とて落ちていく。補給が容易でないところへ赴くのであれば尚更である。
「まあ、いざとなれば食料には困らないだろう?」
 ヴェレナが、ぼそり沼の方をみた。
「‥‥冗談ですよね?」
「冗談だ」
 真顔で冗談を言わないで欲しい、そう思ったのは何人いただろう。
 結局、話はそこで終え。明日に備え、冒険者達は早々に休息に入ったのだった。


●主の正体
 翌早朝。鬱蒼とした森の中に降る光はほとんど無い。
 僅かに響く鳥の声が、夜明けを告げる。
 沼から少し離れたところで野営をしていたのだが、交替で寝ずの番をしていた彼らの元へさしたる異常はなく朝になった。
 常と変わらず、一通り十二形意拳の型をおさめていた飛 天龍(eb0010)の元、皆起き出し支度を整え始める。
 天龍と同じシフールであるリウも羽を振るわせ、身体を伸ばす。
「し、しふしふ〜」
「ああ、おはよう」
 照れた笑みを浮かべ、天龍はシフール仲間への挨拶を口に。
 返すリウは、徹夜にも慣れているため少ない睡眠時間にも特に眠たげな様子もみせない。
「今日は沼の主退治だな。お互い頑張ろうな」
「そうだな」
 そう二人が頷き、見つめる沼があるであろう方角は、不思議なほど静かだった。

 静かだった森の中の夜の事‥‥。昨晩のそれぞれ受け持った時間帯の情報を交わす。
「人だけでなく、獣も捕食されていたら‥‥危険な場所だとわかっているから」
「昨晩もほとんど獣達の気配がなかったのかもしれませんね〜」
 結果、沼から出てくるような事もなかった主は、やはり近づき沼から引きずり出すしかないのだろう。
「一人も帰ってこないという話だから手当たり次第に襲っていると考えた方がいいわね。となれば、目立てば直ぐにヌシは出るんじゃないかしら?」
 ‥‥安全の保証は無いけれど。
 アミの言葉は、口にされる事はなかったが、皆わかっている事なのだろう。
 生餌の方が獲物に近くて良いだろうという事になり、主を引き寄せるためエーディットが用意してきた生肉にロープを結ぶ。
 生肉を結んだ方とは逆の端を、沼の近くの木の太い枝に一度通し、引き上げる為に皆で持った。
「それじゃ、上から様子を確認するな」
「‥‥水面から離れて、注意してくださいね」
 そういって、クライフが天龍とリウに魔法を施す。
 気配を完全に消すまではいかずとも、羽音から沼主に襲われる危険を除くためにかけられたのはサイレンスだった。
 クライフにより施されたサイレンスの効果で、羽ばたく音を消し。
 ふわり沼の上空へと舞い上がる。
 二人の眼下に広がるのは、静かで澱んだ深緑の沼だけだった。

――ボチャリ‥‥

 生餌が沼に投げ込まれた。
 水がはねる音が、妙に辺りに響く。
 ロープをそろそろと引く‥‥1度では難しいかもしれないと思いながらも、肉の塊が水面に顔を出そうという頃‥‥
「‥‥きゃっ!?」
 唐突にロープを物凄い力で沼の方へと引かれ、1番前で縄を握っていたエーディットがよろめく。
「エーディットさん!」
 引き上げた際の縄のたわみから、水底へ戻られてはいけないと咲舞が、たわみを巻き取りロープを握り引く。
 主が餌に食らいついたのだろう。
 だが、この後に主を沼底から引きずり出さないことには冒険者達も次の手がない。
 肉にロープを結び固定しただけ‥‥鉤針もなければ、釣りのように相手の口内に引っ掛けることもできない。
 食らいついた餌を飲み込んでくれれば。
 そして、それを吐き出されるか、あるいはロープを噛み切られる前に何とか水の中から引きずり出したい‥‥木の枝を通した分、一息に引き合いの勝負が決まるという事はなかったが‥‥。
「‥‥このまま、引き合いしていても埒があかんぞ?」
「力を合わせて一気に、引きましょう」
 ヴェレクの問いに、咲舞がロープを引く合間に提案する。
「そう、ですね。掛け声でいきますか?」
 クライフが頷き。皆で一斉に力を込めた。
「「「「いっせー、の!!」」」」
 ずるり、水から何か抜け出る感触。
「やったか?」
 リウ達が見下ろす視線の先、沼の縁に引きずり出されたその姿は‥‥
「蛇?!」
 沼から顔を覗かせた主の姿に天龍が叫ぶ。
 中空から沼を見下ろす二人にもう少し詳しい動物知識があれば、主の正体が何であるか理解できたのだろうが‥‥。
 うねる体は、太く長く‥‥首より先の胴が僅かに膨れ。
 肉塊がある位置は目星をつけられるものの、吐き出されてしまいかねない箇所にある。
 未だ、沼から完全に引きずり出したわけではない現状ロープを引く仲間を援護する形で、サイレンスから解かれたリウの魔法が主に降る。
「大地の理よ、彼の者に戒めを!」
 主と呼ばれた大蛇を、リウのアグラベイションが捉えた。
 僅かに蠢く巨体の動きが緩慢になった隙を逃がさず、咲舞達は声を合わせ一気に沼から大蛇を引きずり出した。
「良し、畳み掛けるわ!」
 残るロープを樹木にエーディットが巻く隙に、アミは蛇を沼へと逃げ込ませぬ様、オーラを纏わせた剣を振るいその身を薙ぐ。
 ロープを引いていた仲間が、剣を手に、魔法を整える時間を稼ぐ為に‥‥。
 大蛇の牙も、尾の一撃も天龍にとっては大きな怪我になりえる威力を持つ。
 仲間が振るう剣の、氷や風の刃の間隙を縫って、三筋の爪痕を大蛇に刻む。
 目の前に振り下ろされる尾から目をそらさず‥‥
「‥‥気合だ!」
 間際で見切り逃れ、更に爪を繰り出す。
 冒険者達の攻勢に、苦し紛れに大蛇が暴れ振るった尾が、ウィザード達の前で剣を振るっていたアミと咲舞を打ち据えた。
「‥‥‥っ!!」
 避けきれず地に転がり滑る二人。
 目の前で剣を振るう存在を薙ぎ払い、身を振り絡むロープを生餌ごと吐き出すと、大蛇は鎌首をもたげ、己が頭上を飛び回る存在に牙を向いた。
 ‥‥目指すは、リウか、天龍か‥‥。
「いかせませんっ」
 飲み込もうとぽっかりと大口を広げ、襲い掛かった大蛇の頭上で、鈍く重い音と共に水球が弾けた。
 エーディットのウォーターボムだ。
 そして、水の塊に地面へと叩きつけられた大蛇が再び頭をあげるのを許す事無く、大蛇の頭から顎を自重を活かし刺し貫いた咲舞の日本刀ががそのまま、大地へと縫いとめる。
「物の怪が相手とて、決して引けませんわ!」
 自由の利かぬ首先以上になお、うねり暴れる尾へヴェレナの操る真空の刃が降り注ぎ、クライフの飛ばしたアイスチャクラムが向かう刃と返す刃で切り刻む。
 そして、胴体めがけ、リウの手から放たれた重力波が大蛇を襲う。
「大地にその身を穿つがいい!」
「最後だ!」
 魔法に刻まれ穿たれ、身を削られのたうつ大蛇に止めとばかりに、中空から叩きつけられた天龍の龍叱爪がその身に深く抉る。
 同時にアミの手により切り落された尾が、重く鈍い音を立て大地に落ちた。
 大蛇が完全に身動きを止めた事を見届け、沼の縁に座り込むアミ。
 腕に、足にこびりついた沼の泥を見て溜息を零した。
「‥‥結局、沼の泥だらけになったわね」
「まだ水は冷たいけれど、少し行けば小川がありますわよ」
 穏やかな咲舞の言葉に、術士を庇い泥だらけになった剣士達は苦笑を浮かべるのだった。 


●沼浚い
 クライフが沼に訊ねた結果、大勢がいっぺんに訪れたのは今回が初めてだったが、これまでも少なくない人が主にひきずられ沼底に沈んだらしい。
 溜まった水に問い掛ける魔法‥‥湧き出る清水などもほとんどない、水の入れ替えのない澱んだ沼だからこその効果。
「‥‥少なくはない人が、沼に引きずり込まれ、亡くなったみたいですね」
 沼の答えに、小さく息をつき。
 そして幾つかの問いを重ねた後、クライフは沼の周辺を地図に色々書き込みながら散策をはじめた。

 飛が、リウと共に高い位置から沼を見る。何か探索の手掛かりが得られればと思ったのだが。
「結構広いな‥‥財宝を探すのは難しいかもしれない」
「そうだな。だが、元より私達には難しいだろう。泥で汚れると飛べなくなりそうだからな‥‥」
 昨日の主との戦いではねあげられた泥に塗れ、飛翔に難儀した飛は否定できず苦笑する。
 そうして、彼らは上から見えた光景と沼の全容を伝える為、沼の縁にいるアミ達の所へとふわり戻っていった。

「本当に底が見えませんね〜」
 主がいなくなった沼を覗き込んだが、水面からは何も見えない。
 ただでさえ藻や苔により底の見えぬ沼は、昨日の戦闘で泥が舞い上がり土色に澱み濁っていたからだ。
 春とはいえ、まだ水は冷たい。
 流石に潜るわけにも行かず、持ってきた網で底を浚おうとエーディットは試みたのだが。
「重いです〜‥‥」
 水と泥と藻が絡み、網は重くあがらない。
「貸してください、エーディットさん。力仕事はお任せくださいな」
 旅装束の袂をたすきで上げ、咲舞は彼女の代わりに網で底を浚った。
 沼縁に浚った泥を落とし探れば、鈍い光を返す泥とは違う物‥‥。
「‥‥これは‥‥」
「何か手伝えるか?」
 ソレを拾い上げ、水ですすぎ、布で拭く。確かな形あるものを手に、他にもあるかもしれない‥‥と協力を申し出てくれたヴェレナと共にエーディットらは、時間の許す限り沼底の泥をさらい続けた。


●報告
「主の討伐、お疲れ様だったね」
 報告に訪れたクライフ達を、ギースは笑んで迎え入れた。
 主を倒せた報告と、財宝の真偽の報告‥‥結果を聞くギースの表情は変わらない。討伐依頼である事は、依頼を出した彼自身承知の上だったからだ。
「ギース伯のお許しが頂ければ‥‥」
 そう申し出たクライフが見せてくれたのは、イリュージョンによる主の姿や沼の周辺の様子。ギースは何より冒険者達の道程と討伐の様子に興味を示した。
「主というからには流石に大きいねぇ。いやもう本当にお疲れ様」
 落ち着いた様子から一点、イリュージョンの最中にあったギースには見慣れない十二形意拳の型について訊ねたり、ヴェレナやリウの魔法について実演を頼み込んでみたり。
 見慣れない興味あるものに対しての変境伯の欲求は尽きないらしい。
 そんなギースに、控えめに呼びかけられる声。
「あの、沼底の泥をすべて浚う事はできなかったんですが〜‥‥」
『主がたくわえた財宝』ではないけれど‥‥とエーディットが差し出した布包み。それは彼女が網を持ち、咲舞やヴェレナらと沼底を浚い見つけた物。
 それを受け取りギースが開くと、そこにあったのは鈍く曇ってしまった銀細工の台座の指輪、色あせ泥色に染まってしまった矢羽根飾り等の小物だった。
「財宝ではありませんでしたけれども」
「‥‥沼の主の犠牲になった人達の形見というわけか」
 咲舞にギースは頷き、近隣の村人に返す事を約した。
 そして、クライフが書き加え記した地図は、返却という形ではなく買い取る事を名言して。
 埋葬すべき亡骸は無くとも、偲ぶ縁があるのなら。それは大分心に違うものだろう。
 財宝とはいわずとも‥‥エーディット達が探し出した品は、残され生きる人にとって宝になり得る物かもしれいものだった。