正道を歩まざれば

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月06日〜08月11日

リプレイ公開日:2005年08月16日

●オープニング

●夏の夕暮れ
 少女は一人、夕闇に包まれていく森の中に、空を仰ぐように倒れていた。
 少女が倒れる傍らは、険しい斜面‥‥森の中、薬草を拾い集めるうち、伸びた夏草に遮られ、地を見誤り。
 彼女は、足を滑らせ、斜面の下へと滑り落ちてしまったのだった。
 足を踏み外し、滑り落ちた際に、体のあちこちをしたたかに打ち付けたためか、左腕も左足も動かせず。
 痛みも熱もとうに感覚が麻痺してしまったのか、ふわふわと曖昧でわからない体。
 切った額から流れた血が入ったからか、視界がきかないため――元より、体を動かす気力もなく、動かない手足がどうなっているか彼女には知る事が出来なかった。
 落ちた衝撃にどこか体の何かが、色々と壊れてしまったのだろうか‥‥どこか他人事のような感想が浮かぶ。
 血が流れすぎて冷えていくのか、日が翳りゆくことで涼やかになるのかも、彼女にはわからなかった。
 自分は誰にも知られないまま、ここで一人死んでしまうか‥‥大きくなる、自分の中の『死』への距離。
 とうに枯れたと思った涙が、新たに浮かぶ。
 不意に、下草を踏みわける音が、彼女の耳に飛び込んできた。
 すぐ側に、獣ではない気配が感じられる。

――お願い、助けて

 彼女はそう口にしたつもりだった。
 それが、確かな言葉になったかは‥‥。


●日常は変化を嫌う
「私たちの娘が、つい先日森で大怪我をしてしまって‥‥」
 そう語り始めた依頼人の夫婦。
 治療ならば、頼るべきは他にもあるはず‥‥。
 けれど、その娘の親たちがギルドを訪れた理由は、娘の怪我とは別にあった。
「本来であれば、森で怪我をして身動きの取れなかった娘を、村へ送り届けてくれた方は恩人です。‥‥それが、普通の人であれば」
 少女を背負い、村へと運んだのは、1匹のオーガだというのだ。
 潰れ壊れてしまった薬草取りの籠と共に、怪我をした少女は村の入り口に、寝かせられていたという。
 誰が送り届けてくれたのかわからぬまま、大怪我を負い村へ帰って来た少女を、両親は慌てて医者を呼び、家へ運んだのだった。
「‥‥それからです、娘の部屋の窓辺に、野の花や薬草が置かれるようになって」
 一体、誰がそのような事をしているか、最初はわからなかったのだという。
 両親は驚いた、窓の外から娘へ花を差し出すオーガを見たときには。
 少女は、酷い怪我のため、家からでられず。目も負傷し、今は包帯を巻いているため視界が利かない。
 だから、名乗らず言葉も交わさぬオーガを、命の恩人と慕っているというのだ。
「怪我が癒えたらともかく、目が治った時に、恩人と慕う相手がオーガだったのでは、その姿を見て娘はショックを受けるのではないかと‥‥」
 早いうちに、娘に知られぬよう引き離して欲しい‥‥と、両親は冒険者に訴えた。
 危惧は他にもある。 
 今訪れるオーガが、本当に害がないのかもわからない。
 それ以上に、1匹のオーガが村に出入りをしていれば、いずれ他のオーガも呼び込むかもしれない。
 少女の家だけでなく、村全体で抱えている危機感なのだと、彼らは言った。

●今回の参加者

 ea2004 クリス・ラインハルト(28歳・♀・バード・人間・ロシア王国)
 ea2606 クライフ・デニーロ(30歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 ea7489 ハルワタート・マルファス(25歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9009 アリオーシュ・アルセイデス(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9855 ヒサメ・アルナイル(17歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●説得について
 冒険者の訪れに際し、クライフ・デニーロ(ea2606)より届けられた1通のシフール便。
 なぜ、娘に知られぬように事を望むのか‥‥そんな問い掛けを受ける事こそ、依頼人は理解出来無いという風に首を傾げた。
「だって、オーガなんですよ?」
 当のオーガが語らぬ事を良い事に、娘に恩人の正体を隠し、退ける依頼をギルドへ持ち込んだ夫婦はそう言った。
 夫婦の返答に、ヒサメ・アルナイル(ea9855)とハルワタート・マルファス(ea7489)は視線を交し、依頼人に知れぬよう小さく肩を竦め、あるいは顔を顰めた。
 別に彼らに他意はない。語らぬ事を良い事に‥‥そう思っての行動でもないだろう。
 実際、人間寄りのオーガとているのだが、それは稀少だった。
 力持たないただ人の彼らにとって、オーガは脅威になったとしても、親しき隣人にはなりえない存在なのだ。
「娘が、何も語らず助け見舞いに訪れるオーガを慕っている事は私達にもわかります。わかっているから、『退治』ではなく『追い払う』事をお願いしたんです」
 それが、彼らに出来る最大限の譲歩だという。
 そして彼らの判断は、親として娘を思う気持ちゆえである。
 彼らの様子に、クリス・ラインハルト(ea2004)は眉根を寄せる。
「オーガでなければ‥‥」
 言っても詮方無い事だが、それをいわずにはいられない現実に、依頼人の夫婦はため息を零す。
 街から離れた山間の村。裕福でもない村の一家族では、冒険者を雇う事は少々厳しい。
 夫婦がギルドへ依頼する事が出来たのは、オーガへの対応を図るため、村人全員で話し合い、お金を集めたからこそだった。
 だからこそ、村全体で抱えている危機感なのだ――と、彼らは言ったのだ。

「今回の件は、娘さんに気取られる事なく対象を引かせる事が依頼の趣旨だと理解します」
「何だって排除するだけなら楽さ。ただ、それだけじゃないだろ?」
 ギルド内で冒険者らが依頼の為に交した話し合い。その場にて、娘に真実を告げるか否かで、仲間内で意見が別れ。別れた主張は、決して最後まで交わる事は無かった。
 そのため、クライフは依頼人に事前に連絡をとったのだ。依頼内容と依頼人の求める事を再確認すべく。
「肩持つんじゃねぇけど人に忌まれる存在っつーのは俺も似たようなモンだし‥‥」
「娘さんの境遇に自身を重ねる事は判らなくはないですが、依頼人はご両親であり娘さんではないこと忘れないで下さい」
 ヒサメに向けられたクライフの言葉は、苦言に等しい。
 結局のところ、依頼の成否‥‥物事の解決を巡って良かれと思う考えと主張が、相容れなかっただけの事。
 皆が皆、良かれと思う道を望んだだけであったのに。
 そう言ってしまうことは簡単なのだが、報酬を受け取る以上、少なくとも報酬の限りは働かねばならない。
 額面通り依頼された職務を遂行する事も、更にその中から最善を目指す事も、受けた冒険者次第である。
 最も、何が最善で、何が正しい事なのか‥‥それを判断する事ができる者も、渦中においては多くは無いだろう。


●異するは、姿か心か
「よーす。雇われ見舞い人の参上だぜ」
 朗らかなヒサメの声音と共に開けられた扉。
 人の声と気配に、娘が冒険者達の方へ顔を向ける。
 怪我をしてから日も浅い娘は、添え木を当てられしっかりと固定され身動きのし辛い左腕と左足、そして衣服の合間から覗く包帯が痛々しかった。
 そして、額から目元を覆うように巻かれた包帯が娘の視界を遮っていた。
「見舞い人‥‥? 随分賑やかね」
 幾分戸惑ったような娘の声。
 冒険者らを仰ぐ娘の姿勢が楽になるように、エーディット・ブラウン(eb1460)がそっとその身を起こし、クッションを重ね過ごしやすいよう寝台の上を整えてやった。
 娘の居る寝台は、窓辺に置かれており。オーガはその窓辺を訪ねているのだろう。
「怪我をして大変だろ? 思うように動けないのは気塞ぎだからな。ほい、差し入れ」
 まだ自由の効く右手に渡された品に、娘は首を傾げる。
「ヒサメ特製の菓子。怪我の治りもよくなるぜ?」
「本当? すごいお菓子なのね」
「まだまだ、お見舞いのお楽しみはありますよ♪」
「遠い異国の物語から、音楽まで何でもござれや♪」
 娘の耳に入った新たな声は、明るい少女と少年の声‥‥クリスとアリオーシュ・アルセイデス(ea9009)のものである。
「素敵ね、楽しみだわ」
 吟遊詩人たちの語りや芸に、娘は怪我の痛みも忘れたかのように楽しそうな声をあげる。
 そうして楽しく時間を過ごす中で、娘が打ち解けてきたのを見計らい、怪我のことから、恩人についてヒサメ達は訊ねた。
「ああ、そうね。転がり落ちた時、私死んじゃうのかなって思ったわ」
 包帯の巻かれた左腕をさすりながら娘は語った。
 けれど、助けてくれた人がいて、今自分はここにいられるとも、嬉しそうに。
 ただ1つ‥‥何も問い掛けても語らない恩人にどうしてなのかと困惑を抱えている事も娘は口にした。
「(想像の範疇は、どれも恩人を人として捕らえているな)」
 ヒサメの抱いた感想は、今後のオーガとの接触に対しある種の危惧を孕んでいた。
 そして、伝えられた真実を量るための、事実。
 娘はそれを、怯えと怖れでもって拒絶したのだった。
 怯え落ち着かぬ様子の娘を宥めるように吹くアリオーシュの笛の音が、部屋の外で話すクリスらの耳にも届く。
 部屋の向こうの様子は、想像に難くなく。
「難しい、だろうな」
 話した限りの娘の様子に小さく息をつくヒサメ。
 ハーフエルフに対する畏怖の目など慣れている‥‥ため息の理由は、娘に真実を伝えられぬ事に対して。
「ヒサメさんの言う通り、多分ボクも難しいんじゃないかなって思いました。正直、最初に話したご両親の様子からも、難しそうとは思ったんですけど」
 彼らの反応は好意的ではない。否、そう一言で表すよりも相容れぬ存在を恐れる気持ちが、彼らの根底に強く見えたとクリスは告げる。
 離村ほど、ハーフエルフへの迫害意識は強く。更に、図れる対応の差からかモンスターなどの被害も多い。
 止むを得ない‥‥と、一言で判断してしまえば、それだけの話なのだが。
「俺達だけで説得するしかねえな」
 願った最善とは異なる道行。
 けれど、依頼を達するには‥‥想定しえた事態の一つに、各々対応を図るために動き始めたのだった。


●通うは言葉か、気持ちか
 娘は寝台で昏々と眠っていた。
 もたらされた眠りは、自然な眠りではなかったけれど、眠る表情は穏やかだった。
 隣りの部屋では、彼女の両親も同じく眠っているはずだった‥‥それは、オーガを説得するため、彼を迎え入れる冒険者達の準備だった。
 エーディットが聞き調べていたとおりであれば、オーガは夕刻に現れることが多いはず。
 そして、2日に1度は訪れていたという話だから、訪れを予想する事は難しい事ではない。

 不意に夕暮れ‥‥日も落ち陰る、窓辺からの僅かな光が遮られる。
 ことことと、小さく揺れる窓枠。
 それは、オーガの訪れを示す合図だった。
 開けられた窓‥‥そこに居たのは、眠る少女。
 そして、見知らぬ人間達だった。
 今まで少女の部屋で、人に会ったのは1度だけ。けれど、その人間の驚く様に、オーガこそが驚いた。
 複数の存在に、戸惑うオーガに語りかけられたのは‥‥クリスの言葉だった。
 テレパシーの魔法に乗せ、語りかけられる言葉。

『こんばんわ。大丈夫、怖がらず、逃げないで。貴方の想いを人に教え、人の考えを貴方に伝えるため、ちょっと『お話』してるだけなの』
 慎重に言葉を選びかけられる、クリスの言葉にオーガは戸惑いを隠せないまま。
 オーガは静かに頷いた。語るクリスから敵意のようなものは感じられなかったからだ。
 部屋から穏やかな笛の音が流れた。
 その音を聞いていると、気持ちが落ち着くような気がした。戸惑いも薄らいでいく。

 クリスが伝えたのは、皆の意思。
 娘の感謝の心と‥‥別離の言葉。オーガのためにも、村に近づかぬように‥‥と。
 突然の見知らぬ人間から突きつけられた言葉に、オーガは小さく唸った。
 自分のためといわれても、納得しかねたのだろう‥‥その様子にハルが語る。警戒感を持たせないよう瞳をあわせて。
『俺達がここにいる理由が分かるか? お前と俺達の住む世界は違うからだ。お前さんがお嬢ちゃんを心配してるのはわかる。でもこのまま続けるとお嬢ちゃんの方が少し困ったことになるんだ』
 ハルが語る世界を異する言葉は、寂しいけれど現実だった。寂しいと思うことすらハルの感傷である。
 けれどそれは、人間側の一方的な事情。せめてまだ、娘の口から語られた言葉であれば別だったのかもしれない。
 唸り止まぬオーガに、ハルは更に言葉を重ねた。
『このままお前さんが訪ねて来れば、俺達ではなく、お前さんを退治しようとする冒険者が来るかもしれない』
『お前が討伐される事になったら、何より彼女が悲しむんだよ』
 ヒサメが、言葉を継ぐ。
 せめて、思い出だけでも優しくあって欲しい‥‥残酷な真実よりも、優しい嘘が必要な時とてあるだろう。
 少女が悲しむならば、討たれるような事などならないとオーガは言った。
 違う‥‥伝えたい思いがすれ違う事に、悲しげに表情をゆがめるクリス。
 けれど、仲間が言葉を紡ぐ以上、彼女の役目は終らない。
『お前さんと居る事で、お嬢ちゃんが村を追われちまうかもしれないんだよ』
 少女が辛い目に合う事は嫌だろう?――それは、脅し文句かもしれなかった。
 笛の音に宥められるように、オーガは眠る少女を眺めた。
 そして、冒険者を見る。
 やがて、オーガは彼らに頷いた――別離を、訪れぬ約束を交す事に。

 クリスの問い掛けに、オーガは答えた。隠す事でもないのだろう。
 この近辺のオーガは、黒い尾を持つシフールのような奴と一緒に、どこかへ行ってしまったという。
 徒党を組んで、村を襲うなどとんでもない。
「‥‥そういう事情は、村人には通じないからな」
 オーガの話にヒサメは、窓の外を眺めた。
 人に好意的なオーガもいないわけではない。だが、大多数が人と相容れぬ存在なのだ。
 そして、『助けて』と少女が願ったからこそ、助けたのだとオーガは言った。

「あの〜‥‥」
 不意に家屋ではなく、外から掛けられた声にオーガは驚き振り向いた。
 そこに立っていたのはエーディットだった。
 彼女は、説得が上手く行かなかった場合に備え、家屋の外に、クライフと共に隠れるように待機していたのだ。
 クリスが伝える仲間達とオーガの会話は、勿論魔法により彼女達にも聞こえていた。
「もし、オーガさんが良ければ、これを〜」
 いつかもし‥‥再会を少女とオーガが願う事があれば、存在を示す印になるかもしれない。
 そう思い願ったエーディットが差し出したのは、銀のネックレスだった。
 優しいオーガの気持ちまで、悲しい想いに変える事はしたくなかった。
 エーディットを見下ろし、差し出されたネックレスを眺めていたオーガは首を横に振った。
 ハルの言葉を信じるならば、自分は彼女に二度と会わない方が良い。そんな印は要らない物だ‥‥と。
 少女の怪我を癒す助けに‥‥と摘んできた薬草を、開けた窓からハルに託し、ヒサメらが見送る中、オーガは重い足音を伴い去っていった。

 小さなため息。
 やはり異形の存在は、人と相容れて暮すには難しい物なのか‥‥そして、相容れない己もやはり異形の存在なのか。
 小さくなるオーガの背を、ヒサメはただ見送るしかできなかった。
「言ったろ? ヒサメ俺の違いなんざ耳くらいなもんだよ」
 ヒサメの表情をどう思ったか、ハルが肩を叩き、煩いを飛ばすように笑ってみせる。
 そして、ただ高く低く‥‥やがて周囲に響き渡るのは、笛の音だけ。
 僅かに冒険者の胸に苦い物を落とす物思いを、アリオーシュの紡ぐ音色が少しだけ‥‥癒してくれるような気がした。


●正道を断ずるは‥‥
 夜半、冒険者らが説得に当って以来、オーガは村へ姿をあらわす事は無かった。
 2日に1度は見舞っていたというオーガ。訪れないという事実が、彼らの言葉を聞き入れた何よりの証拠だった。
 依頼の期間中、アリオーシュらは、精一杯娘の無聊を慰められるよう、惜しみなく素晴らしい楽士の腕を披露した。
 訪れぬ恩人は、そんな彼らがいるから‥‥人気を避けて来ないのだと、娘は思っているようだった。
 クライフの苦言も、依頼の成功を願ってこそ。他意はなく、けれど迎えた1つの結末。
 気持ちを交す事は、簡単なようで居て難しい。言葉があっても理解しあう事は難しい事なのだから。

「今までの話からすると、もうオーガさんは」
「きっと来ないでしょうね〜‥‥」
 村の入り口を眺め、クリスが呟いた。
 それらしい気配も無い。そこからは、娘の部屋の窓辺が見えた。
 手元に残ってしまった銀のネックレスを眺め、エーディットは娘の居る部屋の窓を見つめた。
 不意に訪れを断ってしまった恩人を、真実を知らず待ち続ける少女の居る部屋。
 知らない事が幸せなのか、知った事が不幸なのか‥‥彼女達にはどちらが正しいかなど断じる事はできなかったけれど。
 それでも、いつか彼女とオーガが、お互い出会った事を良かったと思える時がくる事があるのだろうか。

「理解してくれとは言えへんし、そもそも無理なことかもしれん」
 村を後にする日、依頼人へ語ったアリオーシュの願い。届くか分らない言葉だが、口にしなければ元より伝わる事もない。
「ほんの気まぐれみたいな例外やっても、人を思いやり助ける事のできるオーガだっておったんや、っちゅうことだけは‥‥なかった事にして欲しゅうないし、忘れんといて欲しい」
 ターバンの下に隠されたアリオーシュだけの真実。
 彼が知る迫害の痛苦。幼い頃より刷り込まれた『事実』は覆し難い。
 彼の言葉に視線を逸らした依頼人を見て、まるきり理解の外に在る訳ではない事を、彼は識る。
 そしてその様子に、いつか、真実が伝わる事になる事を願った。