【オーガ行進曲】悪魔の遊戯・リール編

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 25 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月17日〜08月23日

リプレイ公開日:2005年08月27日

●オープニング

●二人の少女の秘密の会話
「オーガの面倒見るなんてつまんなァい!」
「つまんなぁいッ!!」
 2匹のシフールが木の枝で話していた。
 いや、シフールではない。ぴろりんっ♪ と生えた黒いシッポはシフールには生えていないものだから。
 不服そうにしていた2匹のシフールもどきは、同時に溜息を吐き‥‥そして同時にお互いに顔を見詰め合った。
「どォせなら楽しくやりたいよねェ?」
「よねェ♪」
 シッポがぴろんっと愉しげに揺れる。
 よく似た2匹は顔を見合わせ、悪戯を思いついた子供のように、にやりと笑った。
「どっちが人間たくさん殺すか、競争しよっか→?」
「そうしようそうしようっ☆ いやぁん、愉しくなって来ちゃったァ♪」
「負ッけないよ〜!」
「あたしだって!!」
 弾けるように2匹は宙を蹴って飛び立った。

 ──やるからには勝たなくちゃね☆


●ギルドマスター執務室INパリ冒険者ギルド
「よォ、ギルドマスターさん。待ってたぜ」
 執務室に戻ったフロランスは自分の椅子に沈むように腰掛け、机の上に足を投げ出している我が物顔のハーフエルフに驚くこともしなかった。
 月が覗く窓辺へ背中を預け、ギルドを束ねる女性はハーフエルフへ声をかける。
「そろそろ来ることかと思ったわ。オーガたちの動きの中にデビルの影がちらついているなんて、数ヶ月前と同じだものね」
 マント領のカルロス伯爵がデビルやオーガ種、そしてアンデッドなどを従えパリへ侵攻してきたあの事件。多数のデビルがモンスターを煽動し、指揮を取り、根城としたパリ近郊のシュバルツ城から攻め込んできたあの事件は、今なおパリ住民の記憶にこびりついて離れない悪夢だった。
 悪夢の再来を憂い月を見上げたギルドマスター‥‥彼女の手元には、悪夢の再来を裏付ける情報が着々と集まりつつあった。デビルに率いられたオーガ種たちがシュバルツ城に向かい行進しているという情報や、それを裏付けるような数多くの依頼。
「彼が兵力を整えつつある‥‥そう考えるべきね」
「話が早くて助かるぜ。ってことで少しばかり冒険者を貸しちゃくれねぇか? 俺と土屋だけじゃちと手が足りそうもなくてな」
 ──どっかの誰かさんがドジ踏みやがったからな。
 時折りドジを踏むのが仮面の怪盗だなどハーフエルフは言わなかった。ギルドマスターも言及しなかった‥‥それはギルドに関係のない事柄であったから。
 ギルドにとって意味のあることは、オーガ種は総じて知能は低いが有り余るほどの力があり、攻撃力に優れているということ。そして、狡猾なデビルの指揮下に入り率いられたのなら、その攻撃力は余すことなく脅威となり、とても面倒な事態を招きかねないということ。
 決して一枚岩ではない冒険者間の結束が揺らぐ一方で、大きな依頼の失敗や冒険者の派遣されない依頼などが不信感を煽り、パリではギルドの権威が落ちつつある。信用回復のためにも戦果を上げねばならず、ギルドマスターに選択肢は残されていなかった。
「とりあえず、集結しつつあるオーガどもを出来得る限り潰すつもりだ。危険と判断したら退く程度の知能のある奴を頼むぜ」
 フロランスの脇をすり抜け、バルコニーから身軽に飛び降りるとハーフエルフ──ファンタスティックマスカレードの仲間、ディック・ダイと呼ばれるその男は夜陰に紛れて姿を消した。

 これは重要な戦いであるが‥‥
 ──恐らく、前哨戦にすぎないのだろう。

 髪を結わき直すと、フロランスは静かなパリの夜を背にし、届けられた情報に改めて目を通し始めるのだった。


●リールの場合
「きゃはっ☆ お城までまっすぐまっすぐ、いーカンジっ♪」
 うがうが唸り吼え進むオーガ達の中の1匹。その頭の上に、ちょこんと腰掛けた『シフールもどき』は、ぴろんと生えた黒いしっぽをゆらゆら揺らしながら、ご機嫌だった。もう少しで鼻歌まで歌ってしまいそうなくらいに。
 彼女は預かったオーガの軍勢を、道中少しずつ増やしながら目的地――シュバルツ城を目指し、うきうきと行進中だった。
 お友達を増やしながら道中遊び歩いているのだ。それはもう楽しくないはずがない。
 そんな彼女の目に入ったのは、未だ少し遠くに見える大きな街。
「もうちょっと寄り道してってもボスには、怒られないよネ。あたしの方がお城まで早く着けそうだし‥‥競争するからには、マリスに負けたくないもん」
 ウガウガと唸り返る声に、彼女はにっこり笑う。
「て事で、ちょこっと寄り道。あの街も壊してっちゃおっか☆」
「「「「ウォォォォ!!」」」」
 お友達の賛同も得た事で、彼女は身を翻しふわりオーガの中へ。
 オーガに紛れオーガに変身したリリスがいるなんて、人間は思いもしないだろう。
 人間の驚き逃げ惑う様と、マリスに勝ってぎゃふんといわせる様を思い浮かべ、今からもうリールは楽しくて仕方が無かった。
「ぱーっと派手にやっちゃおーネ♪」
「「「「ウォォォォ!!」」」」
 指し示されたその先は、夏の盛りに賑わう街。
 降り注ぐ夏の日差しの他、街へ大量のオーガと惨劇が流れ込もうとしている事を、街の住民達は誰も未だ知らなかった。


●今回の参加者

 ea4180 ギャブレット・シャローン(40歳・♂・ナイト・パラ・ビザンチン帝国)
 ea5838 レテ・ルーヴェンス(25歳・♀・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea6960 月村 匠(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8284 水無月 冷華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9471 アール・ドイル(38歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0855 光翼 詩杏(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2072 リエラ・クラリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2879 メリル・エドワード(13歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3062 ティワズ・ヴェルベイア(27歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3243 香椎 梓(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マリウス・ドゥースウィント(ea1681

●リプレイ本文

●殲滅に挑むその舞台
 街道を要すその街は、栄え開けた場所だった。
 近くに森はあるけれど、整えられた街道が街を横切り、周辺はある程度切り開かれていた。
 そんな街へ、馬を駆り数人の冒険者が訪れる。
 彼らがもたらした報せは、街に混沌を落とすものだった。

 マリウス・ドゥースウィントが整えてくれた手配に助けられ、愛馬はレテ・ルーヴェンス(ea5838)に譲り、自身は魔法の靴を用いて街への道を急いだのは、ギャブレット・シャローン(ea4180)だった。
 ギャブレット達がパリを発つ前に、マリウスが可能な限り集めてくれた街周辺の地形情報を手に確認を急ぐ。
 事前に聞いてはいたものの、栄え開けた場所では、迎え撃つにはともかく罠や奇襲などよくよく戦闘を仕掛ける場所を選ばなければ難しそうに思えた。
『ライトニングトラップなら威力は勿論のこと、発動することで行軍を乱せるだろうから多用して欲しいけど‥‥』
「仕掛けてから有効な時間がそう長くないからね。使い所を選びそうだよ」
 レテを介し聞いたギャブレットの提案に、ティワズ・ヴェルベイア(eb3062)は肩を竦めてみせる。
 稼いだ時間、先回り分のお陰で行える偵察の結果次第ということか。
「オーガ達は総じて余り賢くないから‥‥方角が絞られれば猪突で攻めてくると思うけど」
「指揮している存在次第という事かしら? あるいは、報告書でもみかけたデビルの介入があれば別なんでしょうね」
 魔法に頼らぬ狩猟用の罠を用意しながら、何より数が厄介ね‥‥とレテは呟いた。

 また数名の冒険者が、街を守る為の柵作りを街の住人に協力を仰ぎながら行っていた。
「ある程度、奴らが攻めて来る方角は、報せでわかっているんだろう?」
 調達できた資材とアール・ドイル(ea9471)が近くから切り出し運んだ木を合わせ、月村 匠(ea6960)はロープで縛り上げながら問い掛ける。
「それは依頼の情報にありましたからね。‥‥街にレンジャーの方がいてくれればと思いましたが早々上手くはいきませんか」
 流石に大きな街一つ分の防柵の作成は時間も人手も足りない。結局、オーガの軍勢が攻めて来る方角を中心に出来る限りの備えになる。
 自身も防柵作りを手伝いながら、ため息混じりに答えたのは香椎 梓(eb3243) だ。
 住人に危機を報せその為にも‥‥と、水無月 冷華(ea8284)と梓が防柵作成の協力を呼びかけ頼んだが、オーガが攻めて来るというその報せに、街から逃れる事を選ぶ住民も少なくなかった。
 どれほど軍勢が近くまできているのか、果たして避難も叶うのかわからない。
 けれど、オーガの群れが迫っている報せに対し訪れた冒険者は少数‥‥住人の不安も最もかもしれない。
「追加分だ。ま、やれる事をやるしか無いだろう?」
 アールが運び入れた資材を手放せば、辺りに重たい音が響く。
「アール殿の言われる通りですね」
 それでも協力を申し出てくれた住人も居る。冷華は再び作業の手を動かし始めた。


●探り合い
『結局はオーガって事かな』
 猪突ゆえのオーガ達に戦略も何も無いのか、彼らはただ只管に街の方へ進軍していた。
 集団の移動、あがる土煙‥‥予想された行軍ルートを遡れば隠れる様子も無いオーガの軍勢を見つける事は容易かった。
「このまま真っ直ぐ素直に来てくれそうだね」
『ただ、これだけの数が、揃って真っ直ぐ向かって来るという事は‥‥』
「勝手に行動したりしないよう纏めてる存在が、間違いなく居るって事ね」
 地形の把握と偵察に訪れたレテ、ギャブレットと光翼 詩杏(eb0855)は互いに頷き、そしてオーガ達の接近を許す前に、その場を離れた。

 一方、連れ立ち歩くオーガの集団。
 その内の1匹が訝しげに唸り、リールは首を傾げた。その姿は周囲のオーガ達と同じ物だったから余り可愛くも無いのだが。
 今までの街と異なり、なんだか街の手前に邪魔そうな物が見えるという。
「何だろ? でも、邪魔なんだったら――邪魔な物ごと壊しちゃえ♪」
 にっこり無邪気なその声に、街を目指しオーガ達の足は止まる事も無く。
 彼女が遊戯の為に狙う街まで、もう少し‥‥。


●防衛の序
「街を襲おうという非道な輩はこの超肉体派であるこの私がやっつけてやるのだ!」
 限られた物資と人材で時間が許す限り整えた防柵を前に、メリル・エドワード(eb2879)は、オーガ達が来るであろう方角を見据え言い放った。
 訓練と時短を兼ね急ぎ街へ向かったメリルだったが、体力の無い彼では難しかった。
 気合と根性だけでは、乗り越えられない現実というものがある。
 防柵付近の地面に梯子を杭打ち用意する彼の隣り、リエラ・クラリス(eb2072)は、荷車に藁を積んでいた。
 それは街の代表者の下を訪れて、願い受けたもの。
 襲われるならば、災から逃れようとする者も少なくない。そんな中、彼女の求め‥‥馬と荷車は貴重だったからだ。
 彼女の報せと願いに、代表者は顔を顰め渋々ではあったものの‥‥結局は、彼女の語る必要性に頷き、貴重な財産を提供してくれた。
 買い取るまではいかずとも、幾許かの気持ちを渡し用意した馬に、油をたっぷりと染み込ませた藁を乗せた荷車を繋ぐ。
 何が我が身に起こるのか承知しているからか、気性が荒いものを頼んだためか、それとも‥‥。
「‥‥ごめんなさい。でも、街を守る為に必要なんです」
 落ち着かぬ様子の馬を眺め、彼女は手元に火の用意を備えるのだった。


●魔法と剣と怒号と‥‥
 視界が開けている分、罠の類は掛け難い。防柵の前でオーガを待ち伏せる冒険者ら。
 土煙が遠く見える‥‥オーガ達の、悪意を背負った来訪。
 一瞬の電光――ティワズの仕掛け置いたライトニングトラップの発動に、踏み込んだオーガと周辺を僅かに巻き込み悲鳴とも怒号ともつかぬ唸りがあがる。
 それを合図に、リエラは荷車に火を放ち、馬の尻を思い切り叩く。
 油をよく含んだ藁は、勢い良く燃え上がり。
 戦場の怒号に慣らされた軍馬でない馬は、背後の炎にも怯え乱れ走り出す。
 そして、爆ぜる電光と炎を合図に、派手に戦場の火蓋は切って落とされた。

 数で勝るオーガの群れ。
 猪突ゆえのオーガ達に戦略も何もないというよりも、数の優位に油断していたか先制のトラップから始る攻撃に、オーガ達は慌てふためき戦列を組むどころではなかった。
 進路を反れ、街道から脱がれようとするゴブリンには、足元を攫う狩猟罠が口を開け。
 そして、天より注ぐ雷光。
「これが正義の力なのだ。お前らがいくら集まったところで勝てはしないのだ!!」
 梯子の上より、拳を振り上げ誇るメリル。彼が備えていたのは、このためだったのだ。
 群れを見下ろし再び魔法を結ぶ‥‥。
 瞳を赤く染め上げ、アールはオーガの群れのただ中に飛び込んだ。
 両刃の直刀を右へ左へ振り払い、オーガ達の振るう斧や槌、棒すら振りほどき、斬撃を浴びせる。
 猛る瞳の色とは、逆に冷め切った表情は既に、彼を殺戮人形へと姿を変えていた。
「ちっ、俺ばかりが気を付けても‥‥」
 仲間から突出せず、オーガ達に囲まれぬよう周囲の立ち位置を気に留め、引き付けて避け、返す太刀で敵を斬り捨てる匠。
 そして、火力に長けたウィザードを守り支え、刀を振るう冷華や梓に対し、引く事をしらぬアールは負う怪我を厭わず、ただ只管に剣を振るっている。
 その様に、挟撃に易く囮を引き受けようとしていた匠は舌打を零す。
 戦場の只中で、仲間から突出し剣を振るうアールは、戦場の中でも異質。
 目を引く存在――羽虫が、炎に引き寄せられるかの如く、アールに群がるオーガ達を振り払う事は難しい。
「群れが混乱すれば、それを立て直すために、指揮官は必ず行動を起こすと思います。発見したら、全力を持ってこれを討伐すべきでしょう」
 まずはオーガを迎え撃つ事‥‥クルスソードで、オーガ達を切り捨てるリエラに、ティワズも真空の刃をオーガ達に放ちながら。
「流石戦場、スリルあるね! 僕もそう思うよ。でも今は、オーガの群れを崩す事じゃないかな?」
「そうですね。戯れに人を襲って楽しむなど、許せませんから」
 梓は頷きを一つ返し、振り下ろされた棒を避け、鋭い一撃を繰り出した。

「何か余計な事する邪魔っぽいのが、いるみたい? あーん、もう面倒だなぁ」
 けれど、相手は少ない。
 迷うリールに、けれど、軍勢の中の1匹‥‥オーガ戦士が槍を振るい防柵を、突き崩そうとする様に心の天秤は、都合の良い方へ傾く。
 未だ冷華の施した氷の加護の働く柵より先に、その近くにて地に杭で支えた梯子が、激戦の余波に転げたオーガの衝撃に揺れ。
 雷を落とす邪魔な冒険者の様をみて、リールはにっこり笑んだ。
「そうそう♪ こうでなくっちゃネ☆」
 このまま押し切れとばかりに腕を上げ街を示し、周囲を煽り立てる一匹のオーガをレテはみつけた。
 前線にて槍を振るい周囲を鼓舞し、冒険者らを相手取るオーク戦士とは違い、そして周囲のオーガ達とは異なる存在。
「オーガ戦士と指揮官は‥‥別だわ! あいつよ!」
 レテの示す先‥‥詩杏は戦場を前にしてもなお落ち着き見据え、左右に短刀を構え持った。
「月光の双剣士、光翼詩杏参る!!」
 名乗りは、宣言に――正面外からの刃に、オーガの軍勢は混乱を増しゆくのだった。

 上がる怒声と吼え声に、新たな冒険者の存在にリールは気付いた。
 それまで軍勢のやや後方から様子を窺い、煽り立てていた彼女は、己を目指し来る存在から逃れるように、オーガやゴブリン達の群れの中へ紛れるように潜りこむ。
 リールの傾いた心の天秤は、不安定に揺れ‥‥そんな状況にも、混戦する今の状態にも、彼女は苛立っていた。
「もーう、何なの? 何なの?! 何なのよっ!!」
 周りのオーガ種達は、頭が悪くて使えない。邪魔が入るなんて最も論外。
 予想もしていなかった冒険者らの手痛い歓迎に、街を壊し戦果を競う所では無くなってきている状況にリールは地団太を踏む。
「マズイかなぁ‥‥。遊びで預かったもの減らしちゃったなんてばれたら‥‥」
 共に居たオーガ戦士は歴戦の猛者。そう簡単に負ける事ないだろうとたかを括っていたのだが‥‥。
 当初より明らかに減じているオーガの群れ。
 それでもなお、冒険者らよりも多いゴブリンやオーガ達‥‥混戦の只中に紛れる指揮者。
 その指揮者の存在が分ってもそこまでの道が切り開けない。
「‥‥逃がすわけにはいかないわ」
 魔力をその身に帯びた両刃の直刀を横薙ぎに振るい、レテは血路を開こうと試みる。
 正面‥‥防柵の方へ意識を向けていたオーガ達は、横合いからの奇襲に浮き足立ち、陣形‥‥むしろ戦列を崩し始めている。
「このっ、邪魔だよ!」
 月光に光る露を映したかの如き両刀を振るう詩杏の先にも、オーガ達は群れ成しひしめく。
 戦場中央では、その身を赤く染めオーガ戦士と向かい合うアールがいる。
 その周囲は、屍の山を築きあげながらもなお‥‥血風はやまない。
 最早、仲間であるはずのアールそのものが、血を呼ぶ災厄に成り果てたかのようだった。
『退くんだ!』
 長大な剣を振り下ろす重い一撃を前に、崩れ落ちるゴブリン。
 けれど、数が多く追いつかない。
「あっち行って!」
 更に、びっとレテを指差し近くにいたゴブリン達をけし掛け、半ば盾代わりにリールは身を翻した。
 その様に、幾匹かのゴブリン、オーガ達も慌てた様子をみせ、散り散りに戸惑う。
 敗走を始めるオーガ達の行動を妨げようと梓のもたらした深い霧‥‥ミストフィールドが戦場へ広がる。
 混乱に混乱を招く魔法の霧に、仲間を減らし慌てるオーガはその術中に見事に嵌る。
 敗走を始めたオーガ達に、ウィンドスラッシュを見舞いながら‥‥けれど、後方より援護していた『味方』のはずの男が、立ちふさがる様に、ティワズは仲間を振り返る。
 オーク戦士を屠り、自身も深い傷を負ったアールはなおも、剣を止める事無く、次の強者を求め瞳を彷徨わせた。
「止めなきゃならんよな」
「でしょうね」
 リエラの寄越したポーションを無造作に飲むこむ。重い息を1つ吐き、匠は刀を軽い黒皮のマントの影へ。
 刀を構え、味方に対峙する冷華と梓に向けられる緋色に染まったシールドソード。
「‥‥夢想流の真髄って奴を見せてやるよ」
 構える刀、振りぬかれる剣‥‥地に伏し響く、重い音。

「あ、そっちじゃないのだ!」
 上から見ていたメリルが叫ぶが、追うレテらを嫌がり、リールは霧の中へと飛び込んだ。
 逃がさぬとばかりにティワズの巻き起こした竜巻が、まだ僅かに動くオークと死体と霧を巻き込み吹き上がる‥‥重たい音が、幾つも響き、霧が晴れた空間には、血と残骸と死骸が転がり広がっていたのだった。


●守るべきか、責めるべきか
 少数でありながら、オーガの軍勢を退け街を守った冒険者らに、住民からの感謝が届く。
 住民らの感謝は最もな事だろう‥‥オーガの軍勢を瓦解させ、少なくない数を討つ事が出来たその戦果は十二分に誇れるものなのだから。
 けれど、彼らの目標は――オーガの軍勢の殲滅だったのだ。
 迎え撃つ準備を整え、守りきった街。けれど、オーガ達を逃がさぬ策を弄するまで至らなかった事が依頼の敗因か。
 討ち果たせたオーガの中に、強大な槍を振るい周囲を鼓舞し暴れるオーガ戦士がいたが‥‥知能は余り高くはない、とにかく暴れ奢るあのオーガが、軍勢を指揮し整え何処を目指す様子は、ティワズには想像し難いものだった。
 ギルドの報告書に見受けられたデビルの影を見ることも叶わず。
 また、指揮する存在を討ち果たす事が出来たのか確認もとれず、戦闘後にも関わらず冷めた目で、レテは周囲を見渡した。
「結局は、前哨戦に過ぎないという事かしら‥‥?」

 かの男は、何を思い、その身を動かし続けるのか。
 男――カルロスの復讐は始ったばかり‥‥。