●リプレイ本文
●猿退治
「エリア、俺が一流の冒険者である前に超一流のハンターである所を見せてやるからな」
ディノ・ストラーダ(ea6392)は恋人であるエリア・スチール(ea5779)に涼しげな笑顔でそう告げる。
ディノはかつて「蛙ハンター」と呼ばれたことはあるが未だ正式な称号はない。
カレンの村で「猿ハンター」という称号がつくか…それは未だわからない。
一方
「うっしゃ、初依頼頑張るぜ!」
気合十分なのはハルワタート・マルファス(ea7489)。
「俺の敵はどこのどいつだ…て、猿ぅ〜!?」
「そうだよ〜ちゃんと話聞いてなきゃ。ハルワタート君、村人への詳しい聞き込みよろしくね〜」
あたいじゃうまく出来無いからね…と燕 桂花(ea3501)に頼まれ、ハルワタートは村人へ聞き込みにいくのだった。
罠を作るというディノとエリアに乞われ、イシス・シン(ea6389)と桂花は自分達が知っている限りの猿の知識を伝える。
二人とて専門的な知識を持つわけではない。が、全く知識のないディノとエリアにとっては役立つものなのかもしれない。
ハルワタートが村人に聞いてきた情報と合せ、罠を作り設置する場所等決めていく。
「あのぉ此れまでどのようにお猿さんを追い払ってぇいたのでぇすかぁ?」
エリアに問われ、カレンは考えるように1つずつ答えた。
「農具を持って追い払ったり、栗林の周囲に網を張ったり、幹まわりに登り難いよう茨のようなとげとげしたものを巻いたりしたと思います」
村人がエリアへの回答を補う。昼夜交代で見回りもしていた事、栗林の範囲が広いためどうしても目の届かない所から猿が来たり、最近は村人の姿をみても逃げず悠々と栗に手をつける猿も近頃はいるらしい。
今度は逆にどんな罠を仕掛けるのか村人に問われ、痺れ薬を塗った栗を餌にロープでの罠に追い込んで吊るすのだと説明するエリア。
「痺れ薬を塗った栗は…他の栗と区別が付くのでしょうか?」
カレンは訊ねる。区別がつくのであれば、猿は引っかかりはしないだろう、と。
逆に区別がつかない場合、栗林には木から落ちた栗もたくさん落ちている。
他の栗と痺れ薬が塗られた栗が混ざっては困る…と言われ、痺れ薬栗を餌とする事は出来なくなってしまった。
そしてディノは村人にも手伝ってもらい、大掛かりな罠を用意しようと思っていたのだが…
「ええと、すみません。お手伝いしようにも…ディノさんに詳しく指示を頂けなければどうお手伝いしたら良いのか…」
困り果てた返答。結局エリアはディノと相談し、普通の栗でロープの罠を仕掛ける事で妥協するしかなかった。
桂花は、せっせと毬を集めていた。
未成熟で木から落ちた緑の毬や、もう栗の実が入っていないもの等まで。
「そんなに集めてどうするんだ?」
ハルワタートに問われ桂花はにっこりと説明する。
「お猿さんの頭めがけて投げつけるよ〜☆」
桂花は、猿がこない間に…と栗林を翔け回り、あちこちの木の上に集められるだけ集め隠した。
ハルワタートは仕置き用に、唐辛子の粉末を入れた小袋を用意していた。
投げた時に唐辛子が広がるよう工夫した物だ。
用意した小袋を抱え、とりあえず猿を見つけるのが先決…と木々の様子を見ながら聞いた話を元に栗林の奥へと踏み入っていった。
ダムディンスレン・ワーン(ea7455)といえば。
自身の馬を念のために安全な場所―カレンが納屋で預かってくれるというので預け、罠作りなど興味は無いとばかりに、自分のやるべき事をこなすため動いていた。
モンゴルを出て早十数年。路銀も入用なら酒代もドワーフである彼には必要なものである。
猿なぞに興味は無いが、酒代を稼ぐ為にも依頼は成功させなければ…とディノ達が罠を張っている場所を見渡せ、かつ狙撃に適したポイントを探しに出るのであった。
●猿侮る無かれ
桂花は毬を集めた木の上で、山の方を見ていた。
やがて、その視界に何匹かの猿が栗林へ入り込んでくるのが見えた。
猿は短く声をあげながら、身軽にはね歩きやってきた。
網の隙間、あるいは木から木へ飛び移ったり。
村人から聞いた点を抑え張っていた場所…確かに人の気配が無い方を見極めてくるようだ。
桂花の報せにイシスが罠のある方へ追い込もうとロングソードを手に猿を追う。
ディノも矢を誘導させるように射掛けた。
やがて、猿はディノとエリアが設置した罠へ追い込まれるはず。
この罠で一匹でも木に吊るされれば、猿達も警戒して近付かないはず…というのが彼女の狙いだったのだが。
村人とは明らかに異なる剣を持つイシスに追われ、村人の投石などではない鋭い矢を射掛けられ…猿は慌て逃げ惑う。
威嚇するように歯を剥き鳴けども、冒険者は臆する事無く猿を追い立てる。
斯様なまでに追い立てられれば、罠の餌と置かれた栗に見向いている余裕なく罠のある場所を抜け栗林を猿は跳ねた。
イシスやディノの矢を敬遠するように枝に飛び移り、ゆすりたてて毬を落としてみたり。
その余波が罠にて捕らえようとしていたエリアに及んでしまったりともう大変。
猿も混乱するが、冒険者達も更に混乱。
猿の甲高い声が栗林に響き渡り、一匹の混乱は、他の猿にも伝播する。
桂花が、手助けしようと木の上から集めておいた毬を猿めがけ投げつけた。
追いまわすイシス達に意識を奪われていた猿に見事クリーンヒット。
別の猿が、桂花に気付き毬を投げる。それは桂花も予想済み、避けつつ更に毬を投げた。
「あたれば御の字か!?」
ハルワタートは、お手製の唐辛子袋を猿に投げつけた。
逃げ跳ねる猿にあたらず…袋はぱさりと地面に落ちる。
小袋を立て続けに投げつけるも、避けられたり、明後日の方に飛んでしまう物もあったりで当らない。
半ば予想していたとはいえ、内心舌打ちするハルワタート。
そんな彼の後頭部に「ごすっ!」と衝撃と鋭い痛みのダブルパンチ。
目前にいる猿に気を取られている内に後方へ回り込んだ別の猿が毬を投げつけてきたのだ。
頭を抑え振り返った彼の前には「キキッ」と嬉しそうにとびまわる猿が1匹。
―ぶちっ
彼の中で何かが切れた。
「ふっふっふっ…そんなにお仕置きされてぇか、手前ら…その頭冷やしてやるぜ!」
詠唱と共に繰り出されるアイスコフィン。
「キキッ?!」
猿の表情が変わる(ように見えた)…のも一瞬、見事猿は氷漬け。
「…グキャッ!?」
毬ではなく、直接の反撃…その鋭い爪で転じた猿が、悲鳴をあげて地におちた。
鋭く刺さった矢。
それは近くで自分達を追いまわすディノから放たれたものではなく。
ダムディンスレンの援護は的確だった。
自分達にわからぬ所から仲間をやられ、混乱、怯えが見てとれ始める。
村人とは明らかに異なる手ごわい冒険者達に、猿の一匹が今までに無い声で鳴く。
それは、仲間を呼ぶためなのか、危険を仲間に報せる物か…そこまでは桂花達にもわからず。
ただ、それを縁に…動ける猿は山の方へと逃げ出していく。
駄目押しをするかの如くダムディンスレンの矢が追い立てるように地に突き刺さった。
●名物は?
ディノから村長に提案が。冒険者は一時的な対策、害を無くすため害獣である猿を用い山猿料理を村の第二の名物にしてしまおうという提案。
メニューは「栗と山猿のミートパイ」である。
「あたいの国では確かに珍味だけれど…パイはどうなのかな?」
華仙教大国出身であり専門的な調理の腕を持つ桂花が小首を傾げる。
「猿など食わん」
短いけれど断固としたダムディンスレンの意思表示。
ディノの提案も一理あるが前提が難しい。村人が肩をすくめる。
「我々では退治が難しいからあんた達に依頼したんだ。これで猿が懲りて林に下りてこなくなればいいのさ」
捕まえられなければ捕食対象には成りえない。
猿は賢い、罠の類などは同じ物ではいずれひっかからなくなる。
徹底的なカの差をみせつけるのがやはり1番なのだろうか。
「兄さん、食べるんなら焼いてみるかい?」
ハルワタートらの手で退治された猿3匹を指差して、冗談交じりに村人がディノに訊ねた。
正直村人は猿には手が出ないらしい。ノルマンには元々そのような習慣もないのだから
感覚的に受け入れがたいものがあるのだろう。他の国では珍味であったとしても。
ハルワタートの提案で、その場で『猿退治と撃退お疲れ様でした焼き栗大会』が始まった。
周囲の落ち葉等を集め、焚き火を起こし栗を放り込んで、後は焼けるのを待つだけ。
ぽんとはね飛ぶ栗に驚いたりしながらも焼き栗は無事できて。火の中からころころ棒を使って転がし拾う。
「焼き栗は、美味しいですけど…熱いので注意して…」
「あっちいーー!」
下さいね…とカレンが続けようと思ったそばから、ハルワタートが焼けた栗をお手玉しながら火の周りをぐるぐる駆けている。
その様子に周囲で笑い声が起こって。
焼き栗は、直接火にかけていたのだから…かなり熱い。本人笑い事でなくきっと火傷。
桂花にとっては大きな焼き栗を抱えながら、はくりと頬張れば、ホクホク甘い栗の味が口の中に広がる。
一言の元切り捨て、猿は遠慮したダムディンスレンも、焼き栗をご相伴に預かっている。
ハルワタートも、ようやく栗を食べる事ができていたようで…。
そうだ、と桂花はカレンに訊ねる。
「栗を少し分けてもらっていいかな〜? 澄香に持って返って、栗を使った料理を仲間に振る舞うんだよ〜☆」
「ええ、無事猿も懲らしめられて、栗も収穫がなんとかなりそうですし。私たちの村の栗の美味しさを仲間の皆さんにもぜひ、伝えてください!」
彼女がシフールであることも構わず栗の詰まった袋を渡すカレン。…栗は何気に重いのだが。
猿退治で消費した分の矢の必要経費をしっかりと請求していたダムディンスレンにも渡されていた。
「…現物支給か?」と難しい顔をしていたという。