気ままに冒険 〜Take me Please
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■ショートシナリオ&
コミックリプレイ プロモート
担当:姜飛葉
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:4
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月28日〜07月03日
リプレイ公開日:2006年07月08日
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●オープニング
「ここに来るのも随分と久しぶりだねぇ‥‥」
感慨深げに呟いたのは、三十路前後くらいの身なりの整ったエルフの男性だった。
その肩に一人のシフールの少女を乗せている。男の呟きに、少女は小首を傾げた。
「でもパリには来てたんだよね?」
「‥‥遊びで来ていたわけではなかったからね、忙しかったんだよ、色々と」
来訪理由の数々を思い出したのか、ちょっぴりげんなりした表情で呟いた男は、慣れた様子で受付係に声を掛ける。
ギルドの受付係を呼びとめた男は、ギースと名乗った。
「久しぶりに仕事を頼みたいんだが‥‥」
そう切り出した彼の依頼は、シフールの少女・シェラ(ez1079)を連れ、ある洞窟に潜って欲しいというものだった。
シェラ自身も冒険者なのだが、一人で洞窟に潜り、目的の場所へたどり着ける自信が無いのだという。
「その場所へ一人で行った事がないらしく、いつも仲間任せで潜っていたものだから‥‥道がわからないらしい」
仲間は洞窟内の様子をしっかり頭の中で把握していたのだろう、地図は無いらしい。
ギースがちょっと遠い目をしているように見えるのは、受付係の気のせいではなさそうで、依頼内容を書き留める受付係とギースの間に漂う微妙な空気を察したのか、当事者であるところのシェラは慌てて両手を大きく振って見せた。
「えと、あのっ、でも‥‥シェラ、洞窟の場所はわかるよ!」
「‥‥目的の最深部までの道のりはわからないのだろう?」
「‥‥‥‥‥‥ごめんなさい」
間髪入れずに返されたギースの指摘に、シェラはしょんぼり肩を落とす。
その様子に苦笑を浮かべたギースは、表情を改め依頼内容を告げる。
「洞窟の最奥・シェラが望む場所へ彼女を連れて行って欲しい。整備された洞窟ではないそうだから、ペットの類を連れては難しいかもしれないね。人の手で何とか算段を立てて欲しい。洞窟の場所までは、シェラが案内出来ると言う事だから迷うこともあるまい。そうパリから遠い場所ではないみたいだしね。‥‥ただ」
そう言葉を切り、ぐるりと冒険者らを見回すギース。
「シェラはシフールだ。地に足を付けて物事を考えられまい。分かれ道に正道を見失って戻れない‥‥なんてことは、冒険が本業たる君たちには不要の忠告なのだろうが‥‥」
――うっかり縦穴等におっこちたりしないように。
何か身に覚えがあるかのような切実さで、彼は冒険者達にそう助言した。
「洞窟の奥に、何があるの?」
「地面の下とは思えないとっても素敵なところだよ」
力を貸しても良いか考えているのだろう‥‥冒険者の一人が訊ねると、シェラは迷うことなく『素敵』と言い切った。
「いつも一緒に行っていた人が教えてくれた場所なの。また行きたいと思ったんだけど、一人で行けるか不安だったからギースちゃんに相談したら‥‥」
今の状態になったのだという。
この状態はこの状態で楽しそうだし、「素敵な場所だから、たくさんのお友達と一緒にいければもっと素敵だよね」と笑っていたシェラが、ふと小首を傾げた。
「そうだ、今回入り口から道をちゃんと書いて置けば、次は迷わないよね! 地図が作れれば、宝物の地図が大好きなギースちゃんへのお土産にもなるし!!」
名案が浮かんだとばかりに手を叩くシェラ。
地図を書くという事の難しさを誰かが指摘してやらねば、本人分っていなさそうであるが。
少なくとも、シェラにとっては『宝物の地図』になりえる程の場所であるらしい。
「良かったら、一緒に洞窟に行ってもらえると嬉しくて助かるの。お願いできないかな?」
『素敵な場所』を思い浮かべ、うっとりした表情で周りの冒険者達に、シェラは『お願い』と繰り返した。
●リプレイ本文
●冒険の準備はしっかりと
「お久しぶりですね〜♪」
「また会えて嬉しいです! 元気でしたか!?」
「お久しぶりだね、シェラは元気だよ」
『皆は?』と問い返すシェラに答えるかわりに、彼女の手をとってくるくる回りだすガイアス・タンベル(ea7780)の表情は満面の笑顔。
おっとり微笑むエーディット・ブラウン(eb1460)の雰囲気も以前と変わらない優しいふんわりしたもので。ジャパンに行っていたという彼らにシェラは「おかえりなさい」と笑みを返した。
「ほんっとーに久々じゃん。元気そうで嬉しいぜ!」
エーディットからもらったお土産に気をとられていたシェラは、頭に乗せられた大きな手で遠慮なく頭をぐりぐり撫でられた事にちょっぴり驚いた声を零す。それは、ヒサメ・アルナイル(ea9855)の手だった。
「今回は洞窟探検っつーコトで、ばっちし弁当準備して来たし♪ いつ‥‥」
「いつもの事じゃねーか、ヒサメの場合」
しれっとダガーで無造作に魔法用スクロール(!)を手ごろなサイズに切り分けつつハルワタート・マルファス(ea7489)が突っ込んだ。途端に眉根を寄せるヒサメ。
曲がったリボンを直していたシェラにぺこりと頭をさげたのは目深に被った帽子が目を引く蜻蛉羽根の少年だった。
「しふしふ〜‥‥初めましてです‥‥レンジャーのアルフレッド・アーツです‥‥」
「わーい、しふしふ〜♪ よろしくねー☆」
懐かしい挨拶に大きな瞳を細め、笑みを深くしたシェラ。
大陸の地図を描くのが夢で、そのために依頼で地図描いて練習しているというアルフレッド・アーツ(ea2100)の協力をシェラは笑顔で迎えた。
「私も主に地図を描くお手伝いをさせて頂きますの。他にも描く方がいらっしゃるから、見比べても楽しいと思いますわ」
市場を回ってようやく用意した紙とペンを広げて見せる天津風美沙樹(eb5363)。見比べるという言葉にアルフレッドも頷くその横で、最後の確認とばかりに装備を見直していた新見竜也(eb3608)が小さく息を吐いた。
「私も洞窟探索なんて初めてよ。でも、凄く経験豊かな方達ばかりだから何とかなるわよ。大丈夫」
彼の小さな呟きを耳にした美沙樹にぽむりと肩を叩かれて。
誰だって最初は駆け出し。笑顔に促されるように、竜也は呼吸を整え気合を入れた。
「ですねっ、俺も皆の足を引っ張らないように一生懸命頑張ります!」
竜也の宣言を目標とするように、一行はパリを後にするのだった。
●探索
件の洞窟はパリからそう離れてはいなかった。
洞窟探索用に‥‥と、ランタンやその油、ロープと装備を確かめ。また目的地である最奥までの地図を記す用意も忘れていない。
そして、もっと忘れてはいけないお弁当もばっちりである。おやつも忘れてはいない。季節の果物やお菓子も色々。保存食も甘いものを用意済み。
洞窟までは、荷を運ぶ手伝いをしてくれた頼れるペット‥‥馬達は、繋ぐに適した木を見つけ留守番を頼んだ。
いざ、『素敵な場所』目指し、洞窟探検である。
ヒサメの愛犬レグルスが、ひたひたと洞窟を歩く。その背に揺られているのはシェラだ。
「ふかふかだ〜」と嬉しそうにその背に乗り、また傍らを歩くガイアスとエーディットが終始語りかけてくれていた為、一人で先にふらふらと迷いこむ事も無く、一行は足並みを揃え洞窟を慎重に進んでいた。
シェラの記憶は、自己申告通り内部についてはさっぱりだった。
が、さっぱりというのも頷ける。分岐が多く、岩壁や土壁の様子がどこも似ているのだ。
ランタンで先行きを照らし、自分達の光源を確保し、あるいは壁面を照らし。
十分に用意された灯りの元で、分かれ道には壁面をナイフで削り印を付け、または足元に石を積み、道を見失わないように慎重に進む。
モンスターや獣の巣穴になっている事を警戒し、最前列を歩いていた美沙樹が、不意に声をあげ足を止めた。
入り口から糸巻きを持ち糸を垂らしていた竜也の手元が、驚きに引かれ糸が引っかかり張り詰められる。
何事かと問えば、歩きながらの地図描きは困難なことに対する叫びらしい。
「ペンって何でこんなに使い難いのよ! 筆だったらもっと融通が利くのに!」
「あれ? 美沙樹は筆の方が良かったんですか? 言ってくれれば、俺の矢立貸しましたけど‥‥」
よくよく見れば竜也の使っていた筆記具は筆。瞳を瞬かせ、竜也の差し出した矢立を見る美沙樹。
普通の紙を探すのも少し苦労した彼女。流石に古今東西の者が集まり構成する冒険者界隈で情報を集め、求める方が探し物は見つかりやすいのかもしれない。
「まあ、地図書きながらじゃ前列は不便だろ?」
微苦笑を浮かべ、そこからヒサメが前に出ることで、再び一行は進み始めた。
暗い洞窟内をそろそろと進みながら、ふとガイアスは後ろを振り返った。
己の感覚が正しければ、洞窟は最奥に向けて僅かに傾斜しているように感じる。
水滴が落ちる音にヒサメが天井を見上げれば、ぽとりと落ちる冷たい雫。
首を傾げた側から、不意にヒサメは大きく仰け反り‥‥滑り落ちた。
最前列を歩いていたヒサメの姿の消失に、一同の悲鳴にも似た声が洞窟内に響く。
抱えていたメモの束をエーディットに押し付け、慌てて後を追うハルワタート。
縦穴というものではない‥‥軽い坂のような場所。
常であればヒサメがすべる事も無かったのだろうが、水滴で足元が濡れていた事と、濡れた場所が傾斜していたのが要因なのだろう。
「ったー‥‥確かにシェラは飛んでれば、縦穴ともかく傾斜はわかんねーよな」
「バカみてぇな転び方すんなよな」
顔を顰めるヒサメの無事な姿を見た安心しつつ、そんな事は顔にも出さずハルワタートが助け起こした。
そんな二人の遣り取りを、皆と共に後を追いかけてきたエーディットが見つめていた。
「さすが新婚旅行帰りのらぶらぶですね〜」
「‥‥新婚、旅行ですか?」
偶々彼女の呟きを聞き、マッピングの手を止めたアルフレッドの問いに答えられる者はその場所にはいなかった。
「ちょっとまて」
タイミングよく入った言葉。けれど、彼はエーディットにもアルフレッドにも答えず元来た道へ踵を返す。
歩幅を変えぬように歩いていたのはマッピングのため。その歩数が飛んでしまったらしい。先ほど印付けた場所までハルワタートは慌てて走り戻っていった。
ピクニック気分を持ちつつも、しっかり備えた経験豊かな冒険者達。
そしてそれに倣い用意した者達で構成されたパーティは、順調に道を進み。
幾つ印を付け幾つ道を選んだのだろう‥‥長い探索時間の末、やがてランタンの照らす先に光を返す煌きを見つけた彼らは、疲れた身体を叱咤しその先を望んだ。
「‥‥ここが、目的地、ですか‥‥」
アルフレッドの呟きの前に広がっていたのは、澄んだ水を湛えた地底湖を抱えた天然の大広間だった。
●ピクニックのお約束
真っ白なスクロールを地面に引いて、お茶が沸くまでの間に‥‥と、道中のメモを元に地図を書いていたハルワタートの声が上がった。
「よし、できた! 完璧!!」
「そうか?」
横合いから覗き込んだヒサメのツッコミ。やたら早いそれは出立時のお返しも含まれているのだろう。
「絵が多くて普通の地図より華やかですね。ええと‥‥」
「『目算5m、分かれ道有り右に進む』 わかりやすいですね」
ガイアスの感想に毛筆で描かれた自身の地図と見比べての竜也の感想。けれど‥‥。
「『ヒサメ罠にはまる』 ああ、足を滑らせた場所かしら?」
「『エーディットちゃん妄想のままに』 ‥‥妄想?」
続く書き込みに、美沙樹とシェラが盛大に首を捻った。
描かれていた当人達は、少々複雑な顔をしている。いや、それはヒサメ1人だけかもしれない。エーディット、ちょっぴり思い出し妄想の雰囲気である。
「つうか、俺の分の飯は!?」
地図が完成し、漸く弁当に意識が向いたハルワタート。だが、皆が囲んでいた鍋は、あからさまに具の量が減っている。
彼がせっせと地図描きに夢中になっている間、黙々とガイアスは火を熾し水を汲み。ヒサメは持参の弁当のほかに、温かいものがあると良いよな‥‥と鍋を作っていた。
地図を書いていたのは、美沙樹や竜也、アルフレッドも同じだったが、場所の用意を忘れてまでではなく、しっかり手伝いは忘れていなかった。
エーディットの1番の用意の仕事は、場所や具材の用意ではなかったのだが、それは蛇足。
たくさんの具材を挟んだ香草パンも、鳥の串焼き、季節野菜のサラダも残り僅か。
だって7人のお腹に消えているわけだし。
「まて、まだ俺食って無いぞ!?」
「早いモン勝ちは基本だわな」
しれっと答えたヒサメは鍋の持ち主に構わず、食べ盛りは遠慮せず食えと竜也とアルフレッドに更に進めている。
楚々とした雰囲気ながら、エーディットと美沙樹もお菓子の類をしっかり頂いていたりする。
地図を描くのに夢中になって、弁当が残り少なくなっているのに慌てても自業自得ということで。
「ヒサメのお弁当に比べると味気ないかもしれませんが、俺のお握りも良ければどうぞ!」
ひょいと弧を描き投げられた竹包みのお握りを受け取り、ハルワタートは礼を述べた。
「お、またこっちでも食べられると思わなかったな」
慣れた様子で無造作に竹皮を開く彼の様子を、シェラが物珍しそうに眺めていた。
「ジャパンはジャパンで色々ありましたね」
「‥‥四方を海に囲まれた、ノルマンとは違う‥‥独特の文化、でしたよ」
ジャパンへと行っていたガイアスが思い出すように語ると、アルフレッドも頷く。
「このナベもジャパンで覚えたんだぜ。ヤミナベってのもあっから、今度やろーな!」
ヒサメらの話に興味深そうに瞳を輝かせたシェラに応えるように、その場は暫しジャパン談義で盛り上がるのだった。
●素敵なものの正体
「ところで、シェラのいう『素敵』ってのは、ここなんだよな?」
地図描きを一区切りしペンを置いたハルワタートの問いかけにシェラは小さく首を傾げた。
地底湖を擁するこの場所は、普通に過ごすには涼しいを通り越して若干肌寒い。
その寒さゆえに、冷たく澄んだ湖の水は美しく、壁面に覗く水晶と思しき鉱物の結晶も、煮炊きする炎に照らされ僅かに光を返す綺麗な場所だった。
地底湖や水晶穴というのは在りがちな場所。地底に広がる花畑でもあるのかとも思っていた彼らは少々拍子抜けしていた。
「えと、お鍋の火って消してもらっても大丈夫?」
「ああ、大丈夫だぜ」
ガイアスの手を借りながら野営に慣れた手つきでヒサメは皆が囲んでいた大きな炎を始末する。
ランタンの灯火があるものの鍋を煮ていた火が消えると、炎に慣れた目にその空間は、夜の闇にも等しいものに見えた。
「アルフレッドちゃん、手伝ってもらって良い?」
「‥‥大丈夫、ですよ‥‥何でしょう?」
彼はシェラの頼みに応じ、シェラと共にランタンを抱えふわり洞窟の天井へと舞い上がる。
二人の飛翔にあわせ、揺らめく灯りに呟きを零したのは、エーディットとハルワタート同時だった。
彼らはシェラの意図を察したのだろう‥‥ランタンを掲げ持ち立ち上がる。
「なんでしょう?」
「あいつら目ぇいいからなぁ‥‥」
理解できず眉根を寄せる竜也に、ぽそりと呟くヒサメ。
「立てばわかりますかね?」
かもな、と頷き竜也と共にヒサメも立ち上がる。
その時‥‥洞窟の地壁に露出していた水晶の欠片がランタンの灯りを返し、煌いた。
その煌きを鏡面にも似た湖水が更に増やす。
そして‥‥一面、星々に包まれた空間がそこに広がっていた。
光を反射する素地が多い鉱物が含まれている場所なのだろう。今まで炎で気付かなかったのだろう、足元にも星が輝いている。
「‥‥素敵、ですね‥‥本当に」
訥々と呟かれるアルフレッドの言葉に感嘆の色を汲み、シェラはにっこり笑った。
「素敵な光景、シェラさんと一緒に見れて嬉しいです」
地上にいたガイアスもにっこり笑みを浮かべ、天井から舞い降りたアルフレッドとシェラを迎えるようにランタンを受け取る。
「皆がいなかったら、また来られなかったから‥‥ありがとう」
ランタンの炎に助けられて輝きを零す洞窟の星々に囲まれた空間。
大好きで大切な場所だからと来られた事と一緒なのが嬉しいとシェラは笑う。
「そうだ‥‥シェラさん、誕生日‥‥ですよね。だから‥‥」
バックパックからアルフレッドが差し出したのは、透けて見えるほどに薄く編み上げられたヴェールとシンプルで可愛らしい真っ白なローブだった。
差し出された素敵な贈り物に一瞬、瞳を輝かせたシェラは、けれど天井を見上げ指を折り始める。ややあって、ぽむりと手を叩いた。
大切にするねと受け取って、嬉しそうに微笑んだ。
「なんだ、誕生日だったのか?」
それなら俺の分も食えとハルワタートに蜂蜜クッキー渡され、ガイアスや皆からの「おめでとう」が重なる。
「アルフレッドさんもこの間でしたよね?」
エーディットが首を傾げ問えば、小さく頷くアルフレッドに、今度はシェラが鞄から鮮やかな青色のスカーフを取り出した。
「ええと、お返し。本当は一緒に来てくれたお礼だったんだけどね」
シェラが彼の首にスカーフを巻くと「おめでとう」と皆の笑みが深くなる。
誕生日を付けてくれた人は今は側にいないけれど、こうして一緒に冒険に出てくれる仲間がいる事が何よりも嬉しい事なのかもしれない。
素直にシェラはそう思った。
星の煌きの中、炎を囲み時を過ごす仲間達の傍らでエーディットが木の箱を明け1本の瓶を取り出した。そのまま瓶の封を切り、湖の淵に置く。
故国で見覚えのある品に美沙樹は首を傾げた。
「それは?」
「ジャパンでのお土産ですよ〜、きっと彼も喜んでくれるのです〜」
五条の乱に参加し、生き抜いた証の酒だった。彼‥‥誰への土産か問おうとしたけれど、唇に人差し指を当てるエーディットに何かを察しその問いを飲み込む。
「まだ駆け出しの俺にも、いつか出来るかな」
「私もまだ掛け出しだけれど‥‥きっと出来るわ」
温かい輪の中で、頬をかきながら思わず零れた竜也の呟きに、美沙樹は僅かに首を傾け頷く。
「仲間ってのはちゃんと周りに目を向ければいるもんだぜ?」
故国を同じくしながらも異国の地で出会った二人に具もあらかた無くなった鍋をかき混ぜつつヒサメが笑いガイアスが頷く、「ここまで共に訪れた仲間じゃないですか」と。
冷たく寒い星空を抱える地底湖の畔に、鍋を炊く炎以外の暖かさが満ちる。
アルフレッドが記した地図の名は、『宝石の辿り着く場所』
希望をもたらす石といわれる宝石は、けれど共にある仲間あって自身の希望を見出せるのだろう。
彼らにとってその場所が宝となり得るならば‥‥その地図はきっと宝の地図‥‥。