銀花亭  ―歌姫

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月24日〜10月29日

リプレイ公開日:2004年10月31日

●オープニング

―銀花亭

 パリの冒険者ギルドのある界隈からは離れた所にあるのだが、下町にある酒場であり、今人気の歌姫、ミランダが良く舞台に立つ店である。
 雑多にさまざまな店が並ぶ下町には、酒場の類は掃いて捨てるほどあるけれど、その中で銀花亭は、彼女の歌と、店主の安くて量の多い料理が人を集める店だった。


「依頼の話なんだけれど、今、うちの店……嫌がらせがひどいのよ。その嫌がらせをするのが冒険者崩れのしょーもない男達なんだけど…でも、か弱い一般人には、冒険者の力って結構厳しいのよね」
 そうギルドに現れ依頼をもちこんだのは、件の歌姫、ミランダ。
 嫌がらせ…、商売敵か何かなのだろうかという問いかけに彼女は首を横に振った。
「どこぞの何様か覚えていたくもないから忘れちゃったけど、貴族のぼんぼんがこういうわけ」
 こほんと咳払い一つ。ミランダは一際低い声で、だが朗々と芝居じみた言葉を紡ぐ。
『私は、貴女がいつまでもこのような安酒場で、下劣な視線に晒され続けるのは耐えられないのだ。貴女の歌の本当の価値がわかるのは私をおいて他には居ない…。私が一言添えれば、貴女の美貌と声さえあればどこでも望む場所で歌えるというのに…』
 声を震わせ感極まった様子つきで、その貴族が彼女に訴えた言葉を真似てみせたミランダ。
 それを素で言う男の様子を想像すると…滑稽かもしれない。
「こんな店だなんて失礼しちゃうわ」
 心底心外そうに彼女は、切り捨てる。
「確かに、下町界隈は皆顔なじみだもの…頼まれれば他所の店で歌う事もあるわ。だけど、行きたくないところもあるわけ」
 豊かな黒髪に、白い肌…化粧けのない昼間の顔。
 華美ではない衣服を身に着けているものの、彼女の美貌は損なわれる事無く。
 確かに下町の安酒場で歌うには惜しい女性にも見えるのだが。
「1、2度じゃないのよ、それが。だもんで、いい加減鬱陶しくて手ひどくつっぱねてやったら…」
 それを境に、冒険者崩れの男たちが銀花亭を嫌がらせに来るようになったらしい。
「貴族様のお高くとまった歌よりも、皆が楽しんでくれる気持ちが近いところが良いの…どうせ、あいつの嫌がらせなんでしょうけど、…追っ払って頂戴ね?」
 黒髪の美貌の歌姫は、にっこりと微笑み、短いけれどはっきりとした依頼の願いを告げるのだった。
 

●今回の参加者

 ea2276 ティラ・ノクトーン(24歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea3811 サーガイン・サウンドブレード(30歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea5506 シュヴァーン・ツァーン(25歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6870 レムリィ・リセルナート(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)
 ea7522 アルフェール・オルレイド(57歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●仕込み
 彼は、ミランダに固執していたという貴族を探していた。
 が、容貌や身につけていた装束も貴族のしのび姿らしいということしかわからず、名前はおろか身元もはっきりと覚えている者もおらず…彼の目的を果たすに難しい様相だった。
 ただ、銀花亭に嫌がらせをしているという冒険者崩れの男達を見つけることは容易かった。切り替えの早い彼は、固執する事無く次なる一手をめぐらすべく男達に声をかけた。
 彼の持つ男達の知らない情報と彼自身の力を提示してみせるために…。

 一方、銀花亭では…
「面白そうね。いいわよ、色男さん」
 二つ返事でミランダは、リョウ・アスカ(ea6561)とレムリィ・リセルナート(ea6870)の提示した策に頷いた。シュヴァーン・ツァーン(ea5506)の気遣いには礼を述べて。恋人の有無に関しては「内緒」らしい。
「人を好きになるって難しいですね…」
 自分自身の思い人のことを思い出してか淋 麗(ea7509)が呟いた。
「俗に貴族と称される方々全てがそうというわけで無論ないのでしょうが…」
 女性達は、きっかけを思いため息を零した。


●新しい顔ぶれ
 銀花亭にあまやかで張りのある美しい歌声が流れていた。
 巷で評判の歌姫・ミラルダが竪琴の音に合せ、歌っているのだ。
 歌声もさることながら、舞台用の衣装に身を包み、化粧を施した彼女は間違いなく美しく…となれば評判にならないわけがない。

「新しい子が入ったんだね。景気良いかい?」
「…料理も随分凝ったもんだ。良い腕したおやっさん雇ったもんだ」
 はきはきとした性格で、些か給仕に慣れぬようだが客達とも世間話を交わしつつこなすレムリィとその外見からは、意外なほどに繊細な細工料理の腕を披露するアルフェール・オルレイド(ea7522)。安くて量が多い事がうりである店主の料理と比べ冷やかす者も少なくは無い。
 レムリィの仕草や用向きな性格は酒場の酔っぱらいも笑い和み。アルフェールにしてもドワーフという種族性を思えば、豪快な性格も細工の腕も折り紙つきなのだろう。
 馴染みの客達の評判は、上々だ。
 下町の盛り場…酔った客らの喧嘩等の騒ぎなどは珍しくもないが、あからさまな店への嫌がらせとなると別である。金払いがよければ迷惑料込ということで、またの来訪を断る事も少なくないのだが…。
 常連客達は、このところの嫌がらせに対して減ってしまった客をまた呼び戻すべく、歌姫以外の売りをプラスする店主の方針と受け取ったようである。

 ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)は酒を飲みながら、常連客達との会話に耳を頷けていた。
「良い店だな。嫌がらせがあると聞いたが…どんな奴らがその様な事をするのか…」
「まったくな。でもおやっさんみたいな新顔も来るんだから、そのうちまた以前みたいな賑わいになるさね!」
 常連客は景気付けとばかりに、ヘラクレイオスの肩を叩き安酒を酌み交わした。
 彼の陣取る席は入り口近くで、ミランダの演奏を聞くには少々遠かったが、舞台近くの席は既に一杯であぶれた客もいるようである。以前の賑わいは、さもすごかったのだろう。

 ミランダの歌声に遜色ない演奏…シュヴァーンの竪琴とティラ・ノクトーン(ea2276)のオカリナ。
 二人ともミランダとは異なる魅力の持ち主で彼女らを目当てに銀花亭に通う者もそのうち出るのではないか、という話もある。
 好奇心旺盛でくるくる表情をかえるティラと柔らかな物腰と微笑のシュヴァーン。そんな話を知ってか知らずか…はたまた揺ぎ無い自信の表れか、ミランダ本人は気にするそぶりも無くティラ達と舞台に立っては、自ら彼女らを喧伝していた。

 今まで浮いた話が聞こえてこない事が不思議だったミランダに恋人が出来たと言う話が銀花亭に留まらず、下町界隈に流れていた。色恋の噂は喧伝も早いもので…。
 常連客に真偽を問われればレムリィは、舞台近くの席で酒を飲む東洋人風の男を示し、内緒話をこっそり打ち明けるようにレムリィは話す。
「陰で随分親しくしてるんだって」
 ミランダは余韻を響かせ唇を閉ざし客席に艶っぽい視線を流した。
 その視界に店内に二人組の姿を見つけることは無く。代わりに見つけたリョウには微笑を向ける。
 その瞬間、店中の男の刺すような視線もリョウに向いたのだけれど。

 数曲歌い終え、ミランダはひとまず舞台を降りた。シュヴァーンの奏でる音が、酒場に響いている。ひとまずの休憩、と袖に戻ったミランダにティラは声を掛ける。
「ミランダさんは、どうして歌い手を始めたのかな?」
「…あら。それじゃあ、ティラちゃんはどうして冒険者になったのかしら?」
 問い掛けに更に問い掛けを返され、ティラは「うーん…」と考えた。ミランダの問いの意図を量りかねて。
「生活の為…が1番最初にくるのだけれど。結局は、歌が好きだから…かしら」
 …大変な事があっても、辛い事が合っても…自分で選んだ道ならば、好きなことなら…
「頑張れる気がしないかしら?」


●訪れ
 僅かに客席がざわめいた気配を感じ入り口を見れば、冒険者風の男が3人入ってくるところだった。
 戸惑う気配は、常連客であれば彼らが難癖をつけ嫌がらせをしていく男達と判るからであろう。
 一早く気付いたのは入り口近くに陣取っていたヘラクレイオスだった。仲間達へ、それとなく来訪を告げる合図を送る。シュヴァーンとティラはそっとミランダの側へと移り演奏を続けた。リョウも何事か直ぐに対処できるよう男達に注意を向ける。
 男達は酒場のそんな緊張を察する事もないのか、ずかずかと店の中央の席に陣取った。相席を申し出るどころか、席にいた先客に「断る事などないよな?」と物騒な笑みと共に。
 レムリィは、給仕として自然に彼らに近づけるよう盆を手にその席へ、と足を向けた。


●喧騒
「あのぉ、ミランダさんにご迷惑を掛けているのはあなた方ですか?」
 レムリィよりも先に、男達へと接触を図ったのは麗だった。ずっと彼らへ問い掛ける言葉を用意していたのだ。麗は、男達に訊ねた。不意に歩み寄り、唐突に問われた男達は互いに顔を見合わせ…やがて失笑じみた笑みを浮かべ麗に告げる。
「迷惑ってな知らねぇな。俺達は酒をのみ、歌を聞きにきているだけさ」
 ファイター風の身なりの男がひらり手をふり、ウィザード風の男は付いた頬杖そのままに麗を見上げ訊ねる。
「迷惑とは、例えばどのような物をさすのかね?」
「冒険者とは人々の平和を守るための職業です…」
 冒険者の心得を説法の様に訥々と語り出す麗。相手に口を出させない様に…と狙っての事なのだが。
 だが、彼女が嫌がらせに対し依頼主について聞き出そうとする間を彼らは待たなかった。続く話に、苛立たしげに舌打を零した男。
「私達が酒を楽しく飲む嫌がらせには、キミも十分のようだが?」
「嫌がらせってのは、こういうもんも入るのかね?」
 ファイターが麗に向け、同席の男の杯をぶちまけた。酒が飛沫と散り、隣りの席にいた客にも掛かる。あがる声に男は麗を指差し「この姉ちゃんがいちゃもんつけてくれるもんでな?」と煽り立てる。
「嫌がらせってな、こんな風にもするんだぜ?」
 続けざま麗へ向けてファイターが卓を蹴り上げた。派手な音を立てて食器やジョッキが床に転がる。
 卓の転倒に巻き込まれ、バランスを崩し倒れた麗。体の弱い彼女はその衝撃にくぐもった声をあげ、男を霞む視界の中見上げた。咄嗟の対応にとブーツに仕込んだダガーをレムリィが抜く。
「冒険者の心得ってのを示してもらえるんだろうな?」
 麗を見下ろし、腰にあった長剣を抜こうとした男はそこにあるべき手にすべき剣が無い事に驚く。
 麗のディストロイにより破壊されたという事を男が気付く間があったのか、目の前にレムリィのダガーの切っ先を突きつけられ鼻白んだ表情に…身動きとれず、といった感の男がその場にくず折れた。舞台で荒事が酷い事にならぬよう気遣っていたシュヴァーンのスリープの効果である。
 連れを支えるのにウィザードは、十分な力を持っていなかった。意識を失った人間というものは重い。
「貴方も紹介して欲しくば動くんだ!」
 支えに回した腕の痛みを堪えウィザードが連れの男に向かい声を荒げる。
「…私も援護しますよ」
「任せっ!?」
 男に肩を叩かれて…詠唱をしようとウィザードの声が止まる。
 ファイターの転倒に対し支えたために打ち付けた腕の痛みが無くなった変わりに…魔法に、詠唱に手ごたえが無い。
 サーガイン・サウンドブレード(ea3811)のメタボリズム。男の詠唱よりも彼の高速詠唱により完成されたそれの方が早かったのだ。
「皆さん、お待たせしました」
 彼は貴族の側から動向を抑えようと一人別行動をとっていたのだ。銀花亭の雇った冒険者の情報から上手につけると思っていた男達の誤算の1つは、味方と思っていたサーガインと依頼に応じた冒険者達の多さと周到さだった。
 魔法の唱えられなくなったウィザードを拳で沈めつつ、サーガインは依頼に共に当っている仲間ににこりと笑顔で援護と到着の旨を伝えるのだった。


●解決?
 冒険者達は締め上げられ、縛られ転がされた男達を見下ろしていた。
 ティラの歌う呪歌が流れる中、男達はその歌に思うところはあるのだろうか…。
 少々テーブルや食器類に被害が出たものの、ミランダや店主、客達といった人的被害は無かったのが幸いか。

 結局のところ、件の貴族についてまで言及できなかった。
 貴族もそう馬鹿ではなかったらしく、下町への忍んで来る際、服装を改め身元を現す紋章の類は身につけておらず…また、冒険者達が手掛かりとみていた冒険者崩れ達も仲介人を挟んでの依頼であった事から評判を貶めて…といった策は労じられなかった。
 仕事をもち掛けたのはウィザード風の男だったという。
 ただ、後ろ盾に高貴な身分者がいる事だけしか聞いておらず、報酬が約束されていれば言及する事もなし、と確認してはいなかった。
「…金払いは良かったからな」
 件の貴族への牽制にでもなれば…と考えていたシュヴァーンはその柳眉を寄せる。
「どうします? ミランダ嬢」
 リョウが依頼人であるミランダに訊ねる。
「ここまで皆の前で醜態晒せば彼らもこれ以上は出来無いでしょうし、依頼としても失敗でしょうね。十分だわ。ご苦労様…」
 ティラちゃんの歌に思うところがあれば、彼らが無体を働く事もないでしょうしね。というミランダの言葉に皆が納得したわけではないが、男達への制裁が追加される事はなく。
 
 転がされた冒険者崩れ達に依頼をもってきた貴族が何をどう考えていたのか…心の内はわからぬままだったが、「麗はあんなことするなよ」と冗談混じりにアルフェールに声をかけられ「私もあまり思いつめないように気をつけます」…と笑顔で応じるのだった。


●一仕事後の酒は…
「仕事の後の酒は格別じゃて」
 冒険者崩れの男達を纏めて縛り上げ、これにて仕事完了!と自身が作った料理を肴にヘラクレイオスに酒を勧めるアルフェール。厨房内と入り口側の席、仕事の為に舞台から離れた場所にいた二人はようやく一心地…と歌を聞きながら杯を交わす。
「歌は良いですね。そこには階級も種族も何も意味を持たない。そこにあるのは音の素晴らしさだけ、その事に気付けば良かったのに……本当にそう思います」
 サーガインも、杯を傾けつつしみじみと呟いた。レムリィも麗も漸くヘラクレイオス達と同様、酒場内で気張らず舞台と料理を楽しむ事が出来た。
 リョウへの周囲の視線は相変わらず厳しい物だったけれど。

 シュヴァーンの奏でる竪琴の音に、澄んだティラのオカリナが重なる。
 アルフェールの低音が、更に音色に深みを持たせ。
 そんな彼らや客達を盛り上げるような明るい流行歌が、ミランダの歌声と共に銀花亭に響いていた…。



 銀花亭では、ミランダと並び、小さな歌姫の姿が評判になったらしい。
 ミランダに恋人が出来た話は、暫く下町で話題になり収拾に時間がかかったとか。