髪狩り

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月06日〜09月11日

リプレイ公開日:2006年09月15日

●オープニング

 約束を破ったわけじゃないんだよ。
 ちょっと遅れただけじゃないか。

 そうだ、綺麗な髪のお人形を作ってあげよう。
 だから機嫌を直して。

 ‥‥この髪じゃだめなんだね。

 大丈夫、今度はもっと綺麗な髪を探してあげるから。

 だから機嫌を直して、笑っておくれ。


●美しい‥‥髪
「街道から少し離れた森の中で、若い女性の絞殺死体が見つかった」
 受付係の若い男は、幾分不快げな表情を浮かべながら、依頼書の内容を切り出した。
「気立ての良い娘だったらしい。年老いた両親を助けて毎日遅くまで働いていた。少しでも家計を楽にしようと努力していたらしい。‥‥その努力が仇になったようだ」
「『犯人を見つけてくれ』ってのが依頼か?」
 冒険者の問いに、受付係は小さく首を横に振る。
「違う‥‥いや、突き詰めればそうなるのかもしれないが。女性はとても綺麗な金髪の持ち主だったそうだ‥‥が、女性が見つかった時、髪は無残に刈り取られていたそうだ」
 話を聞いていた女性冒険者の幾人かが眉を顰めた。
 髪を無残に切り取られた女性。命も、そして等しいと言われる髪までも‥‥彼女は理不尽な殺人者から奪われたのだ。
 単なる殺人か、あるいは亡くなった娘本人に何かあったのか。
 今のところはわからない。
 けれど、髪を刈り取るなどという行為は、幾分『普通の殺人』とは異なり、猟奇的な部分も感じられなくもない。
「娘の一家は、日々の暮らしで精一杯。ギルドに依頼をする余裕はない。今回の依頼者は、近隣の村の代表者だ」
 街道沿いの事件は、殺人だけではないらしい。
「家に帰らず、行方の知れない娘が数人‥‥いるらしい。中には軽い娘もいたようで、街に気まぐれに出かけたまま戻らない‥‥と思っていた家人もいたそうだ。それが今回の依頼に繋がったのは‥‥」

――行方が知れないどの娘も、とても美しい髪の持ち主だった。

●今回の参加者

 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea7983 ワルキュリア・ブルークリスタル(33歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 eb2321 ジェラルディン・ブラウン(27歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb2762 クロード・レイ(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb5324 ウィルフレッド・オゥコナー(35歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

リョウ・アスカ(ea6561)/ シャルウィード・ハミルトン(eb5413

●リプレイ本文

●Information
 命を奪われ、また髪までも奪われた哀れな娘の魂が、せめて安らかに眠れるようにワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)は十字を握り締め、祈った。
 娘の遺体が見つかったかの場所へ冒険者達は訪れていた。
 それは感傷に悼むためだけではなく。犯行に関する手がかりが残されていないか、犯人が落した物や犯行時の痕跡などが無いか調査するため。
「‥‥悪趣味なことだ」
 どこか淡々と感情の波の見えぬクロード・レイ(eb2762)の呟きは、夏の余韻を残すばかりとなった、どこかくすんだ深緑の森のざわめきにかき消される。
 森をさざめかせる風が、ウィルフレッド・オゥコナー(eb5324)の緩く波打つ淡い金の髪をさらっていく。
 風の悪戯をとがめる事無く、髪を押さえた彼女は、ただ静かに娘が投げ出されていた場所を見つめていた。
 街道から僅かにそれたその場所は、街道を行き交う人の目から隠されるような場所でもなく。
 この場で犯行が行われれば、それは容易に余人の知るところになるであろう場所。
 であれば、別の場所で娘は殺され、そしてここへ放置されたのだろう。
「なんてひどいことを‥‥」
 どこか苦しげなフェリシア・リヴィエ(eb3000)の呟き。
 これ以上悲しい思いをする人が増えないよう必ず犯人を見つけだす事を誓った彼女の碧の瞳は犠牲になった女性の冥福を祈るためにか、今は伏せられている。
「依頼の目的は、事件の調査と再発防止だけれど‥‥私としては、犯人を捕まえたいわね。ただ‥‥また悪魔の仕業だったら大変ねぇ‥‥用心はしておかないと」
 ジェラルディン・ブラウン(eb2321)の思案気な言葉に、ワルキュリアが顔をあげた。
 先日、酒場に怪盗が現れたとも聞く。再び表舞台へと姿を見せた怪盗達の真意が何処にあるのかはわからない。
 ただ、かの怪盗が現れる時には、いつもデビルの暗躍があった。再びノルマン王国が岐路に立たされているという事なのだろうか。
 この事件にデビルが潜んでいるかはわからない、けれど。
「人の命を奪い、あまつさえその髪を刈り取る所業、どのような事情があるかは存じませんが、見過ごせませんね‥‥ここで惨劇は、終わりにしましょう」
 いつもはたおやかで柔らかな微笑みを浮かべるロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)の顔に今は笑みはなく。
 未だわからぬ犯人へ向けられるかのような凛とした表情が浮かべられていた。
 ロミルフォウは、ウィルフレッドと共に周辺近隣の街へ。
 ジェラルディンは、クロードと組み依頼人の下から始め、近くの村々を。
 ワルキュリアは、フェリシアと共に徒歩では荷が勝つ遠方の方から。
 少ない情報を確固したものへとするために、決して単独行動をしないよう各々を戒めた彼らは、それぞれの目指す道行へと散っていくのだった。


●decoy
「囮の策しかないのでしょうか」
 3方に分かれ情報収集にあたっていた冒険者らは、手がかりの少なさにそう嘆息を零した。
 情報が集まり、おぼろげながら何か見えてくれば‥‥とも思っていたが、ジェラルディンが書き込み纏めてくれた地図や情報書を見つめロミルフォウが表情を曇らせる。
 得られた結果は多くは無い。
 まずそもそもは、行方の知れない娘の共通点が見当たらない。
 聞き及ぶ限り、娘達に接点もなく、娘達の髪の色は金だけではなかった。赤、黒、銀、茶‥‥それこそとりどりの色合い。
 酒場に出入りするような娘もいれば、年端のいかぬ少女同然の娘。
 行方の知れぬ事件に関わりがあると思われる娘の数は二桁には届かぬものの、片手はゆうに越える数だという。
 出かけた時間も、消えた時間も詳細分らずという事も珍しくなく。
 娘達の名が連ねられた一覧にクロードが僅かに眉を顰めた。
「必要性があるのならば仕方ないでしょう」
「そうだね。これ以上犯人を好きにさせておくわけにもいかないのだよね」
 囮を請け負う事を承知していたワルキュリアとウィルフレッドは、特に臆する事無く頷く。
 かといって彼女らが危険が伴う事を承知していないわけでもないだろう。
 これ以上犠牲者を増やすわけにはいかないのだから、止むを得ないところか。
「‥‥犯人の事は気にせず、出来るだけ自然にな」
 無愛想ながらも、クロードの落ち着いた声は励ましにも聞こえ。
 効果時間を考えれば気休め程度だろうけれども‥‥と、短い祈りの聖句と共に与えられたフェリシアからの加護が、ワルキュリアとウィルフレッドを包んだ。
 パリのギルドにて相談を重ねてきた通りの方策を取るだけ。
 その切っ掛けが望むものではなかっただけなのだ。それは仲間を信頼うるからこそとれた手法なのかもしれないけれど。
「多分、この辺りの方が犯人に遭遇する確立が高そう‥‥ね」
 ジェラルディンが指差した地図の書き込みは、彼らが調査していた地域の範囲に犯人の足跡が入っているからこその現われ。
 遠くは馬や天馬を用い、近くは地道に己が足で。
 地図に記しを付け、辿っていけば、見えてきたのは同じ街道を使い、また利用する箇所が一定の場所に集中している事。
 それを頼りに囮となる2人は小さく笑み交わし、通りへと街道めざし歩き始めた。
 秋の気配を漂わせ始めた晩夏の風が吹き遊ぶままに、髪をふわり舞わせながら。


●Disappearance
 誰も彼もが怪しく見える。
 娘達が姿を消していった道々歩きながらワルキュリアはそう思った。
 気配を尖らせ、僅かな異変ももらさぬように気を配る。
 いっそ人気の無い方へ、犯人を誘い出せぬものかと歩む先を思い直した矢先の事‥‥仲間と定めてあった合図が聞こえた。
 足を止め振り返る。
 駆け出した気配はきっとフェリシアのもの。
 小さく嘶いたエルシードの頬を撫で、その背に飛び乗ると彼女は街の方へと駆け出した。


●trap
 ウィルフレッドが転がされたのは、小さな家屋の床の上だった。
 街道より少し離れたと思しき場所にあるそこに、馬車の荷台に籠められ連れて来られた。
 他の娘も同様に馬車でさらったのだろうか。
 街中での唐突な襲撃。強硬な手段。
 雑踏に紛れて鳩尾に鋭い拳を1発。よろめいたところを拳の使い手に、口を塞がれ、腕を掴まれ引きずられて来たのは瞬く間の事だった。
 その間、周囲の目に映ったのは『突然具合を悪くした旅の女を気遣い介抱する男』の姿だった。
 ウィルフレッドが否を告げる隙すら与えぬ間に、そんな事をしてのけた男。
「街道沿いとはいえ住民の顔は決まってる。街道を使う商人や旅人は装いが違う。‥‥わかりやすい君達は、街の中で浮いていたとは思わなかったのかい?」
 連れ歩くは珍しい生き物。単なる旅人にしては探し顔で気配は剣呑。そして冒険者そのままの格好は、さぞや目立ったことだろう。
 男は笑ってそう教えてくれた。
 身じろぎもせず、かといって怯えた様子も見せない、静かなウィルフレッドの柔らかな金色の髪へ手を伸ばしながら、男はなおも彼女に教えてくれた。
 人ごみの中に紛れれば、追跡も振り切りやすい。
 もう1人の彼女の髪も素敵だったが、彼女は剣士だ。手に余る。
「いつもはこんな乱暴な真似はしないのだけれども、仕方ない。冒険者の追跡は侮りがたいけれど、生憎捕まるわけにはいかない。私が居なくなれば、娘は1人になってしまうからね。‥‥ああでも、君の髪ならば娘も気に入ってくれると思うよ」
 そう言った男は髪を一房すくうと、散らすようにふわり手を滑らせる。
 どこか醜悪な笑みを浮かべた男は『同業だからこそわかるのだ』という事実を告げ、その細い顎を掴んだ。
 猿轡をかまされ、後ろ手に両手を縛られたウィルフレッドに逆らう術は無い。
 男が顎を捕らえ見せる方向に居た揺り椅子に座った存在に、彼女はそこで初めて気付いた。
 ウィルフレッドが僅かに目を見張る。それを身に迫る恐怖ととったか男は笑った。
 けれど、ウィルフレッドの驚きはそうではなかった。

 不意に硬質な音が響いた。同時に鈍く重い音。
 男とウィルフレッドの間を割く様に飛来した矢が、割れた窓の反対側で壁板に突き刺さる。
 隠密に長けたクロードがウィルフレッドから目を離さず、犯人に知れぬよう気遣い付き従っていたからこその今。
 不自然な男の会話運びを唇を読み得たクロードは、決めておいた合図を用い知らせ、後を追う手段を確保し現状へと繋げた。
 とはいえ、ワルキュリアとフェリシアの馬に合わせ乗り駆けつけた冒険者が、駆けつけられたのは馬があったからこそ。
 相乗りとはいえ馬での道のり。馬車よりも身軽であった事が幸いした。
 多少は乗馬に心得のあったワルキュリアの後背より放たれた矢は、過たず男めがけ真っ直ぐに飛ぶ。
 剣を手に、ロミルフォウが強引に扉を押し破るように家屋へ踏み込む。
 薄茶の柔らかな髪が、家内へ流れ込む夜風に吹かれふわり揺れた。
 ウィルフレッドの顎を掴む手が緩む。男の目には踏み込まれ追い詰められつつある事にたいする驚きなど一切無かった。
 あるのは、新たな人形のための髪の存在を見つけた喜びの色だけ。
 男の意図を量りかね、けれど油断無く剣を構えたまま相対するロミルフォウが僅かに視線をずらせば‥‥静かに小さく首を横に振るウィルフレッドと視線が絡む。
「淡い茶は無かったな‥‥そうだな、その色も良いかもしれない。マリー、どちらが良いかな? ああ、両方でも良いかもしれないね」
「‥‥狂ってる‥‥?」
 呟きは、戸口に立つフェリシアのものだった。
 アランブルジュへ待機を命じ、ロミルフォウの後を追うように駆けつけたフェリシアの見つけた先で、男はロミルフォウの髪しか見ていなかった。
 その瞳は目の前の存在を見ているのにも関わらず、どこかこの世とは違うところを見ているようだったのだ。
「欲しい、欲しい‥‥」と繰り返し続ける男は、クロードの威嚇を兼ねた矢など目に入らぬかのようにロミルフォウへと手を伸ばす。
 その隙をついて部屋を回りこむように男の後背にまわったジェラルディンが、ウィルフレッドの縄を切り、口元を縛る布を解いた。
自身へ男の目を引きつけるため、ロミルフォウは言葉を綴る。それは、男への最後通告にも似た言葉。
「貴方が悔いるのなら、償いはできます。今ならば、引き返すことができるかもしれない。‥‥それでも尚、続けるというのであれば、私は刃に誓わなくてはならなくなります」
 凛とした女戦士の宣告に男が選んだ方法は‥‥‥‥やはり、髪を得る己の欲望を満たす事だった。
 娘への愛をささやき、髪を欲する男が手にしていたのは細い細い糸のような鋼の鞭。
 それが殺された娘の命を奪ったものなのだろう。
 けれど、耳障りな男の悪しき言葉が不意に途切れた。訝しげに口を2,3度ぱくぱくと、地上に引き釣りだされた魚のように開く。
 常纏う雰囲気と変わり、けれど柔らかな表情を変える事無く静かで強い感情を秘めたウィルフレッドの魔法。
 男の手から鞭が手繰られるより早くワルキュリアのメイスがかの者の腕の骨を砕き。
 フェリシアの放つ聖なる力の奔流にたたらを踏んだ男の足。けれどその手は只管にロミルフォウへと伸ばされていた。
 その姿に彼女がほんの僅か覚えた感情は、おぞましさか、憐憫か‥‥とうに狂い果ててしまった哀れな男の胸に両刃の直刀が吸い込まれる。
 宙をかくように上げられた手は、やがてあっけなく地へと落ち。
 崩れ落ちた体。その足元は、仲間を狂気の腕から守るべく放たれた矢により床へと縫いとめられていたのだった。


●past
 家の裏にあった井戸の中から彼らが見つけたのは、行方不明になった女性の数と同じだけの頭蓋骨の数。
 同じだけの人形‥‥‥‥そして、
「病気‥‥で、亡くなられたのでしょうか」
 ワルキュリアが見つめた先、腐肉を幾ばくか纏わせた子供の白骨は、細く脆いものだった。
 皮肉な事に子供に掛けられていた柔らかな上掛けで、フェリシアはその骨をそっと包んでやった。
 ジェラルディンの祈りの言葉だけが小さく響いた。
 娘への人形を作るのだと言っていた男。
 男の娘は死んでいた‥‥それがウィルフレッドの驚き。
 家屋には腐臭が満ちていた。それは男の娘のもの。
 娘の病を治すために男は大金を稼ぐ道を選んだのだろう。
 大金を得るために危険な冒険に出れば、長く戻れぬ時も多く。
 大切なものを失い、失ったことを認められず、男の心は病んでいったのだろう。
「人の気持ちは‥‥こんなにも壊れやすいものなのかしら」
「‥‥当人次第ではないのか?」
 なぜ男が狂ったのか、それは娘を失ったからだけなのか‥‥疑問の呟きに答えを持つものはおらず。
 ただ呟きに答えるように告げられたクロードの言葉は、人の数だけありそうなジェラルディンの問いへの答えになったのだろうか。