神の恵みは誰の気まぐれ?

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月29日〜11月03日

リプレイ公開日:2006年11月06日

●オープニング

「お前が売り歩いている酒は、どっから湧いて出たっていうんだ?!」
 男の怒声と共に、辺りに物が割れ散る音が響く。
 割れた器に入っていたのだろう、紅く芳しい水――否、葡萄酒であろうものが石畳を染めた。
「違います! 盗んだりしたものじゃないんです!!」
 殴られ赤くなった頬を片手で押さえ、少年は怒声を吐く男を見上げた。
 けれど、彼の言葉が男に届く様子は無く。
 遠巻きに見つめる視線を幾つも感じるものの、助け手が現れる気配もなく。
 少年は男が振るう暴力と罵声にただただ耐え忍ぶしかなかった。


●湧き出る酒、腐る果実
「葡萄酒が湧き出る水瓶を持つ少年?」
 依頼人の言葉に、ギルドの受付係は思わず問い返していた。
「‥‥って言いやがる、あの小僧。そんなもんがあるわきゃねえ」
 吐き捨て憎憎しげに呟いた男が依頼人だった。
 村を代表して訪れたその男が語るに、おかしな振る舞いの少年がいるのだという。
 少年に父親は無く。母親は子供を養うために無理をし体を壊し。
 幼い弟妹と母親を助けるため、少年は父親の残した僅かばかりの葡萄畑を手入れし、日銭仕事を重ね日々の糧を得ていたのだという。
 そこまではよくある話。よくある美談である。
 けれど、ある日を境に少年は、日銭仕事に出かけず、街で酒を売るようになった。
 酒を仕入れる元手も無ければ、酒を作るなどという知識も道具もない少年。
 少年の家の裏手にある葡萄畑は小さく僅かばかりしか実りは無い。
 その葡萄を元に作る事も、その葡萄を元に作る事を頼む事も到底できないはずなのだ。
 酒が自然に出来るわけは無く、ましてや湧いてでるなど常識ではありえない。
 だが、実際に少年は酒を売り。その酒は大変美味いと評判になった。
 不審に思った近所の住民達が少年に訊ねた所、ある日水瓶に酒が湧いていたのだと彼は答えた。
 何かを隠しているのか‥‥次第に、近所の住民は少年から距離を置くようになった。
 得体が知れないからである。
 そして少年が酒を売り歩くようになって暫く‥‥更に、不審を招く事が起こっていた。
 少年が住む家の周りの家々では、食べ物や動植物製の物品が腐りだすという事態が頻発しているだ。
 食品であればともかく、そうでないものまで‥‥となると、首を傾げざるを得ない。
 食品とて、夏の盛りならばともかく、秋の季節である今、早々腐る事も普通に考えれば少ないのだが‥‥。
「あいつはデビルに魂を売ったんだ! そうでなきゃ、デビルの使いっ走りに落ちたか‥‥どう考えたって可笑しいだろう? ガキの家では水瓶に酒が湧き、周りの家では食べ物どころか毛皮や衣までもが腐りだす!! 早く尻尾を掴んで村から追い出してくれ!!」
 金切り声を上げる依頼人を宥めながら、受付係は困ったように眉を寄せる。
 村人の依頼は、少年を村から追い出す事なのか。
 それとも、デビルとの繋がりを探りもしそれが真実であれば対応を求めているのか。
 どうとも取れる内容だからだ。
 依頼人が、騒ぎ立てる理由もわからなくもない。
 冬が訪れる前、収穫の季節。今どれだけ実りを蓄えられるかで、冬がどのように越せるかが決まるのだ。
 その実りを奪われては、冬を越すに厳しくなるのだから当然かもしれない。
 受付係は、依頼内容を書き留め、村人を見送った。

『真偽を確かめ、一刻も早く事態を改善する事を依頼する』

 という一文を、依頼内容の末に書き記して。

●今回の参加者

 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea8063 パネブ・センネフェル(58歳・♂・レンジャー・人間・エジプト)
 eb1004 フィリッパ・オーギュスト(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5528 パトゥーシャ・ジルフィアード(33歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb6675 カーテローゼ・フォイエルバッハ(36歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

早瀬 さより(eb5456)/ ユーフィールド・ナルファーン(eb7368

●リプレイ本文

●事件の切っ掛け
「少年の言うことを信じてあげたいなー‥‥、頑張って調査しないとねー‥‥」
 依頼書を手にウィル・エイブル(ea3277)がぽつりと零す。
 依頼人の様子を聞くに、村人達と少年の関係は既に思わしくないという状態以上なのかもしれないが、彼は実力行使や暴力解決などと言うのはまずやらないつもりだった。
 決め付けず鵜呑みにせず、決して深追いしない。慎重に調査を行い真偽を見極めようというウィルに「そうだな」とカーテローゼ・フォイエルバッハ(eb6675)が頷く。
「良いお酒が出回る分には別に如何ってこたぁないと思うんだけど‥‥物が腐りだした隣近所にしてみればそうはいかない、か‥‥」
 依頼人は、少年をデビルの使いと言っていたのだから、一応その点も情報として出発前にパリの教会で確認しようという彼女にフィリッパ・オーギュスト(eb1004)も同意する。
「『物を腐らせる悪魔』がこの世に存在するかどうか聞いて見ますかね‥‥っと。そんなのがそうそう居る訳ないわよねぇ、普通なら」
「‥‥依頼人からの情報をみるに、仮説だが――」
 日頃から情報収集に余念の無いパネブ・センネフェル(ea8063)は、ギルドに届けられるノルマン国内での報告書をよく読んでいるのだが、その中に上質な酒を醸すという『シェリーキャン』なる妖精の記述があった。腐敗と発酵とは紙一重であることから、おそらく今回の件ではこの妖精が一枚かんでいるのではないかと考えていると語る彼の推察にアニエス・グラン・クリュ(eb2949)も同じことを予想や仮説ではなく『ほぼ特定ではないか』と口添える。
 なぜなら彼女は、そのシェリーキャンという存在を知る人物と知己だったからだ。
 シェリーキャンと直接の面識はないものの、彼の叔父が知っているニルという精霊がもたらす事象と今回の件の特徴が酷似しているのだという。
「アニエスさん達の言うとおり妖精さんの仕業であると良いですね。微笑ましいですし、何よりデビルを相手にするような災いや害もありませんから」
 けれど『収穫が腐る』という実害が出ている以上、やはり接触段階を気をつけねば、ささくれた少年の心にも警戒心の強い妖精にもよくないだろうと危惧するフィリッパにウィルが賛成する。それでも‥‥と言葉を重ねたのはパトゥーシャ・ジルフィアード(eb5528)だった。
「水瓶が頑張ってる少年へ、妖精さんからの贈り物だと嬉しいな」
「そうですね、同じく濡れ衣を晴らしたいと思いますのですが‥‥他の可能性も調査せねばなりません。本当に魔性の仕業であっても困りますし、妖精さんの仕業だとしても魔性の仕業ではないと説得するには論拠が必要です」
 純粋に少年を信じ、彼が真実を語っている事を証明できるよう行動したいと望むパトゥーシャに頷きながらも、パネブやアニエス達の推測する通りであればよいなと願うフィリッパは冷静に必要な事をよく見ていた。
 無論パトゥーシャも無闇に信じようというわけではない。仲間のユーフィールド・ナルファーンが酒がらみの妖精や精霊、悪魔、モンスターを聞き調べ作ってくれたそれらのリストを手にしての事である。モンスター知識に長けた者がいたわけではないが、広く知れている精霊に今回のような事象をもたらすものもいるらしい。
「ま、現場百篇と何処かの衛士長さんも言ってたしソレに倣うとしましょうか。実際に腐ってた現場に行かなきゃ分かる原因も分かりゃしない」
 フィリッパと共にパリでの事前調査を終えてからの合流を約し教会へ向うカーテローゼを見送り、パトゥーシャ達もまずは疑いを晴らすための材料を集めるべく、依頼人と少年が住む村へと向うのだった。


●調査
 依頼に応じてくれた冒険者達を依頼人らは歓待した。無論少年をどうにかしてくれると信じての事なのだろう。
 受けたからには、困りごとを解決するために力を尽くすが、何よりもまずはそのために調査を‥‥と申し出たウィルに、それも最もだと依頼人は頷く。
 依頼人に挨拶をする中で、パトゥーシャが確認したい事があると尋ねると依頼人は更に鷹揚に頷く。
「今回の依頼、男の子が原因じゃなかったら、追い出したりしなくて良いんですよね?」
 彼女の問いは思いもかけないものだったのだろう、依頼人の顔が強張った。
「私が嘘をついているとでも?」
「いや、そうは言っていない。原因は幾つか考えられる‥‥結果に対しての確認だ」
 パネブが言い添え、依頼人は「‥‥考えよう」とだけ冒険者らに答えた。

 少年に対し接触を持ちかけたのはパトゥーシャだった。
 冒険者らはそのまま訪れた。パリでの事前調査を終え後から合流したカーテローゼは旅人を装ってはいたものの、最初に訪れた冒険者らが依頼人の家に行くのを見たらしい少年はぎこちなく彼女を迎えた。
 その様子に心中で苦笑を浮かべながらも、彼女は正直に依頼を話し協力を願った。
 少年は家の奥で伏せている母親を気にしてか、出来る事があるのなら‥‥と小さく頷く。
 結局偽装も徒労に終わった形だったが、知られているのならと共に訪れたカーテローゼは、彼の目のまわりや口元に青い鬱血があるのを見つけ僅かに眉を寄せる。
「あなたの周りの家々で物が腐っている事は知っているかしら?」
 その問いにも小さく頷くが、次いで言われた言葉には慌てて少年は首を横に振った。
 酒が湧く水瓶と周囲で物が腐る事の原因が同じとは思っていなかったらしい。
 その慌て方に嘘をついているようには見えず、パトーシャは水瓶を見せて欲しいと頼んだ。
「お酒の湧く水瓶を、信じられない人がいるんだ。私たちと一緒に水瓶の謎を解いて、嘘つきじゃないって見返してやろう!」
 励ますように言い添えられた彼女の言葉にもう一度小さく頷いた少年は、台所の片隅におかれた大きな水瓶へとパトゥーシャらを案内してくれた。

 一方、パネブは村人達、主に大人達へと聞き込みにまわっていた。
 果たして結果は彼が懸念していた通りだった。収穫の腐敗が発生した家々は、少年の家近くに居を構える家がほとんど。そして、酒を売る少年を訝しく思い問いただしたり、あるいはそれ以前から少年に対し冷たくあたっていた家ばかりだったのだ。
 逆に腐敗物品を調べていたアニエスは特定した原因となる存在への疑いを強めていた。
 収穫を積んでいた納屋にしろ、台所にしろ空気を入れ替える小窓はつきもので、シフール程度ならば自由に出入りできる環境が揃っていたのだ。
 最も、アニエスが少年への疑惑に苛立つ被害者であるところの彼らにスムーズに話を聞き出せたのは、小麦等の糧食を代替にと配布したからだ。
 食の心配が補われれば、再び被害にあわないかを危惧する声が募るものの、感謝に村人達の口も軽くなる。
 彼らの言葉は2通りだった。
 少年達の一家を村から追い出すべきか。
 あるいは、腫れ物を触るように放っておくべきなのか。
 問いにアニエスはパネブと顔を見合わせ、けれど結果が出るまでは軽はずみに動かぬよう忠告し、彼らは仲間たちの下に戻るのだった。


●正体
「‥‥っ!?」
「‥‥捕まえた」
 月明かりの下、ふいに横切った影を猫の子でも捕まえるように押さえたのはウィルだった。
 村に見慣れぬ顔が少年の家を訪れ滞在する様子に警戒したのだろう、いつものように少年の家を訪れる事無く、外から中の様子を伺うようにしていた存在に少年の周りの様子を探っていたウィルが気付いての事だった。
 彼は少年の1日の行動を調べるべく、仲間たちが接触する前も、その後も様子を探っていてのこと。
 ウィルの手の中でもがく存在は、シフールに似ている羽を持つ小さな存在は、けれどシフールではなかった。
 少年のもつ小さな葡萄畑にあるものと同じ葡萄の葉の衣を着た少女。
「‥‥シェリーキャン?」
 仲間達が調べそうではないかといっていた特長と見事に合致する存在。
 次いで犬の吠え声が響き、追いかけるようにアニエスらも駆けつける。
 彼らの様子に慌てふためき、妖精であるらしい彼女は金切り声を上げた。
「何するのよっ、邪魔しないでよっ、何なの、あんた達ー!?」


●説得
「本当に魔性の仕業じゃなくて良かったですね」
 穏やかにそう微笑むフィリッパに「魔性って何さー!」と食って掛かる妖精であるところのピノ(という名だと自己申告があった)に怒った様子も無い。
「シェリーキャンは見ての通り、葡萄の妖精――上質の酒を醸す事で知られている存在だ。酒は発酵‥‥葡萄が腐る事で出来る。他にも必要な工程はあるが、単純に言えばそれだけだ」
 だから、とパネブは言葉を続ける。周囲の家の糧食を腐らせた犯人もシェリーキャンの仕業だろうと。
「だってあいつら一生懸命頑張ってるこの子に酷い事ばっかりするんだもん! 仕返ししてやったんだから当然でしょ!!」
「でも、それで彼は困ってるんだよ?」
 パトゥーシャが宥めても、ピノは何も悪い事をしていないと聞く耳を持たない。
 先に悪い事をしたのは村人達なのだから、仕返しをされて当然だとピノは言った。
「このままだと彼は村を追い出されてしまう。それはキミだって本意じゃないよね」
「‥‥それは、困ります。父さんの葡萄畑、誰も手入れする人がいなくなっちゃうから」
 ウィルがピノを諭す言葉にはっと顔を上げたのは少年の方だった。
 実際に水瓶に酒を用意してくれた、旅芸人の話に聞く物語のような妖精を目の前にしてなお、彼は事態をうまくのみこめていかなった。
 けれど現実的な身に迫る問題は別らしい。
「だったらあたしが周りの奴らを追い出すー!!」
「だからそれじゃだめなんです」
 暴れるピノを宥め、再度アニエスはピノに願った。物を腐らせたのは自分だと村に名乗り出る事を。
 後は葡萄以外のものを腐らせないで欲しいと願い、他の人の葡萄畑にも行ってお酒を造ってねとも願った。
「何であんたのお願い聞かなきゃいけないのよっ」
「それが彼のためだからですよ」
「何で嫌な奴のためにあたしが‥‥っ」
「彼は父親の思い出が残る葡萄畑を残し出て行きたくはないという。村人は物が腐り困れば原因を排除しようとする」
 パネブの言葉を引き取るようにアニエスは願った。
 少年が暮らしたいと望む村で暮らしやすくなるよう力を貸して欲しいのだと。
 付加価値をつければ良いのだ。村に、少年のお陰でもたらされた妖精の美酒という付加価値を。
「皆のとこに作ったらこの子が特別になーらーなーいー!!」
 じたばたと足掻くピノ。けれど、彼女を頷かせたのは当の少年がそれを望んだからだった。
「ピノ‥‥さんの気持ちはありがたいし、今までのお酒、とても助かった。でも、ピノさんが僕にお酒をくれた切っ掛けの葡萄畑は、僕にとってとても大切だから。そう思って世話をしてきたからこそ、ピノさんもお酒を作ってくれたんだよね」
 少年は望んだ。父が残してくれた葡萄畑のある村で、母と弟妹達と暮らして生きたいと。
 そのために僕に力を貸してくれているのであれば、周囲の家のものを腐らせないで欲しいと。
 ピノは少年を困らせたかったのではなく助けたかったのだから、渋々頷いてくれた。
 人間の考える形を理解出来ない様子だったが、それはアニエスに聞いた事を飲み込み守ると約束をしてくれたのだった。


●その後
 依頼人へ原因を報告し、以後このような事がないように約させた事。
 また村からの少年一家に対しての態度も出来れば考慮して欲しい事を願いにアニエスやウィルが向う中、パトゥーシャは少年へと向き直った。
「この水瓶があるから、働かないで良い訳じゃないと思うよ。これは頑張ったプレゼントなんだから」
 諭す彼女の言葉に「そうだ」と頷いたのはパネブ。自分と妖精との関係を特別視して驕ることがないように、少年にもわかりやすい形でやんわりと諭す。
 出来れば、急に態度が変わったものを信用してはいけないと言うことも伝えたかったが、村人の悪意ある豹変を知っている子どもは、同様に子供の潔癖さでそれを察知するものかもしれない。
「ま、俺はいつも一言多いのではあるのだが‥‥」
「‥‥いえ、ありがとうございました」
 父を無くし、年上の男性からそうした訓戒をもらう機会も無くなっていたのだろう。
 もし村人達とのいさかいが消えず困るようならば‥‥と、ウィルは助け手を示す手紙を託そうかとも思っていたのだが、少年の様子を見る限り大丈夫なのかもしれない。
 決して、苦境に負けず自分の力で頑張る事を選びそうだと思いなおし、神妙な顔をし頷く少年の肩を、やんわりと叩く。
「いいますでしょ? 終わりよければ全て良しと。皆が仲良く幸せであれば些細な諍いの痕など消えてなくなりましょう」
 フィリッパの微笑みに頷きながら、カーテローゼはそのためには依頼人を上手く言いくるめないと物騒な言葉を零していたが。
「ああ、ワイン、まだ売ってるのなら買いたいわね」
 カーテローゼが思い出したように少年に訊ねた。水瓶に湧く酒を確かめるため味見したワインは確かに上等なものだったからだ。
 ピノが醸したワインは未だある。濡れ衣を晴らしてくれたお礼だと少年はカーテローゼだけではなく、冒険者達にワインを贈った。
 宗教柄、酒の飲めないパネブが扱いに困ったのは別の話である。