たちこめる暗雲を払う手を求めて‥‥

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:11人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月30日〜12月07日

リプレイ公開日:2006年12月15日

●オープニング

●prologue
 常に無く雨の多い秋だった。
 暗く重い雲が、高く澄み渡っているであろう秋空を隠し。
 絶え間なく静かに降り零れる雨が、木々や家々‥‥人も獣も問わず冷たく濡らす。
 この年の収穫を終えていたことは幸いだったかもしれない。
 とはいえ、これほどに雨が降るのでは、これから訪れる冬の季節には雪が多いのだろうかと付近に住む人々の心に暗い影を落としていた。
 パリから徒歩で数日分も離れたセーヌ川の上流では、近くの村に住む男が川の様子を見に来ていた。
 針のような細い雨が絶えず注ぐ空を見上げ、男は小さく息を吐いた。
「未だこの辺りは雨が上がっている時もあるとはいえ、上流の方で降っていたり、地滑りでもおきた日には水嵩は増すからなあ‥‥セーヌが荒れてなきゃいいが」
 眼下では濁った水が荒れ狂っていた。
 いつもの穏やかさなど欠片も無いセーヌの様子に、男は慌てて踵を返す。
 これ以上水量が増せば、川は溢れてしまうかもしれない。
 それとも長雨に緩んだ土手が水量を支えきれずに崩れるのが先だろうか。
 どちらにせよ、万一の事があれば危険なのはこの近隣。
 むしろ己の家族が住む村こそが危ういだろう。
 領主に報せに走り指示を仰ごうにも、まず何よりも村に帰り長や皆に知らせなければ。
 土手を上り道へ駆け戻る男の背で嫌な音がする。
 雨音と濁流が渦巻く音に混じり、低い音は絶え間なく響き‥‥やがて、重く濡れた轟音とともに男の背で地面が爆ぜた。
 男の叫びはかき消され。
 その身は濁流に瞬く間に飲み込まれ、見えなくなってしまった。


●duty
「セーヌ川が?」
 自身が纏めるギルドに舞い込んだ依頼に、聡明で知られるギルドマスター・フロランスは柳眉を顰めた。
 フロランスに報告する形となった受付係は小さく頷き、更に依頼内容を続ける。
 天候は人のカで管理できるものではなく、天の理次第。
 荒れもすれば穏やかであったりもする、その年ごとに変わるもの。
 確かに長雨が過ぎればセーヌも荒れはするだろう。
 上流で水かさが増せば、下流にも影響する。極端な事をいえば、下流地域で晴天が続いていても上流に大雨が降り続ければ洪水は引き起こされる。最も、川の近隣で農耕のため、あるいは飲料として川から水が引かれ使われているため一概にそうとは言い切れないのだが。
「‥‥預言書の1節目、ね」
 受付係が頷く。敢えて多忙のフロランスに一依頼を報告したのも懸念あってのことだった。
 洪水が起こった場所は予言に記されていた場所とは違う。
 パリから離れた場所。けれどこの時期に、セーヌでとなれば‥‥。
 川より溢れた濁流は、付近にあった村を瞬く間に飲み込んでしまったのだという。
「村のほぼ半数以上の家屋が浸水し、川側にあった村共有の穀物庫は浸水、もしくは濁流に流されてきた倒木に巻き込まれる形で倒壊‥‥村の被害は甚大ですね」
 受付係は淡々と被害報告を読み上げ、最後に一言付け加える。
 行方の知れぬ村民が幾人か。怪我人になどは村人の半数以上にも及ぶという。
「その村の領内の騎士団が復興と支援、状況確認にあたっていますが、領内の他の地域でも長雨による被害が出ているため、人が足りないようです」
「ブランシュ騎士団も一分隊、そちらに向かうと聞いていますが?」
 フロランスの確認に受付係は頷き、資料を手繰る。
「藍<インディゴ>分隊が向っています。2次、3次の被害を防ぐためにも、川付近の堤の修繕と村人たちへの復興支援等、人手‥‥端的に挙げれば、土木作業に詳しい者や癒しの技に長けた人材を‥‥という話が来ています」
 パリから離れた寒村での出来事とはいえ、状況確認も必要であれば、これから訪れる厳しい凍える季節を考えれば村の救済も必要だった。
 上流で増した水は村が一つ沈んだ分、川から減り逃れた事になるが、予言の事もあって気がかりな事には違いない。
 予言の事は当然知りもしない村人達だが、これまでなかった季節の洪水に、また国に良くない事が起こるのではと怯えているという報告もある。
 もとより収穫を終えた倉ごと水に浸かってしまえば、暮らしにも事欠く。
 翌年まではその土地の領主が良く見なければならないだろう。
 今回の依頼は、時期が時期だけに、雪がちらつく前になんとか一区切りを付けたいということか。
「依頼として要請が来ている以上、冒険者を募って対応を」
 フロランスの指示に受付係は一礼すると、ギルドマスターの執務室を後に、冒険者達の集うギルド内へと向うのだった。

●今回の参加者

 ea8078 羽鳥 助(24歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5977 リディエール・アンティロープ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 eb6508 ポーラ・モンテクッコリ(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb7368 ユーフィールド・ナルファーン(35歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb7983 エメラルド・シルフィユ(27歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb8121 鳳 双樹(24歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb8182 コータ・サイラス(35歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 eb8356 シェリン・ミドラス(30歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb8642 セイル・ファースト(29歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb8754 レミア・リフィーナ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb9412 シノン・パラル(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●パリを出る前に
 雨が降ったり止んだりしている中、羽鳥助(ea8078)は食料を売ってくれる店をようやく探し当てていた。流通の滞りでいつも通りの品揃えとはいかないが、出来るだけ新鮮なものを入手する。
 同様の苦労の上で、ポーラ・モンテクッコリ(eb6508)は自分達が連れていく馬や犬猫の分の飼葉と餌を購入した。パリの教会からも災害が予想される地域に人が送り込まれているが、彼らの大半は怪我人とアンデッド、デビルへの対応を国から依頼されているらしい。そうした人々が動く事態で、行った先で必要な物資を入手することは考えないほうが良い。
 ユーフィールド・ナルファーン(eb7368)が手配した荷馬車にそれらを積み込んで、手綱を取る。
 シェリン・ミドラス(eb8356)は商人ギルドからの物資提供の確認、交渉とそれらの運搬も検討していたのだが、いかんせんゲルマン語が話せない。荷物の積み込みを手伝って、ユーフィールドの合図で荷台に飛び乗った。馬は持っているが、ポーラも同様だ。乗馬が得手ではない彼女達は、体力の消耗を避けるためにも馬車での移動を勧められている。他に馬車の客は、羽鳥とユーフィールドの愛犬達。
 羽鳥が道を先に進み様子を確認しつつ、ユーフィールドがぬかるんだ道と慣れない荷馬車引きに四苦八苦する自分とポーラの愛馬を操って、先行している仲間達の後を追い始めた。

●目的地への途上
 後続の四人に先行した冒険者は六名いた。全員が馬を持っているわけではないが、あまりばらばらに移動しても合流の手間が掛かる。また馬はあっても、長時間乗りこなすのは体力や技量で難しい等の条件から、道が良い場所では二人乗りできる者はして、道が悪ければ荷物を馬に預けて自分達の足で歩くことにした。これでも後続が来るまでに、状況確認をするくらいの時間はあるだろう。
「雨、雨、雨、もううんざりですわ。こちらの仕事が楽になるように、そろそろ止んではくれないものかしら」
 一同の中では口数が目立って多く、その大半が愚痴だったりするレミア・リフィーナ(eb8754)が、本日何回目かの雨雲への悪態を再開した。この愚痴や時々支離滅裂な文句の数々が、災難にあった人々に向けられたものだったら信頼関係にひびが入るところだが、レミアも『人助け? ふん』とは言いつつ、必死に歩いている。
 それでも、レミアやリディエール・アンティロープ(eb5977)のようなエルフのウィザードに、雨中の強行軍は荷物がなくても辛いものだ。こまめにエメラルド・シルフィユ(eb7983)やコータ・サイラス(eb8182)が気を配り、休憩時の世話を焼いたりしていなければ、目的地に着く前に疲労困憊していただろう。エメラルドやコータが悪路に慣れているわけでも、経験が他より飛び抜けて豊富なわけでもないが、神聖騎士やナイトとして、また元来の性格も他人を厳しく突き放すものではないのだろう。
 これに近い性格らしきセイル・ファースト(eb8642)は、妹分の鳳双樹(eb8121)の保存食から防寒具まで手配してやり、現在は双樹やリディエールの馬の世話も引き受けていた。双樹は少し先んじて、目的の村への道がどうなっているのかを確認しているのだ。保存食も準備出来なかったのを反省しているようで、こまごまと動き回っている。侍の彼女は斥候に適任とは言いかねるので、あまり先までは進まないように皆から言い含められていた。
「この先で、ここのご領地の人達が、倒木と土砂崩れの片付けしてるよ」
「土砂崩れ?」
 何人かの問い直す声が重なってしまったのは致し方ない。そんな状態では、後続の荷馬車が通ることはまず不可能だし、彼らの馬だってどうだか怪しいものだ。
「目的地はその少し先だろ? じゃ、ここから仕事の始まりだな」
 セイルが手綱を双樹に投げ渡して、防寒具の袖を捲り上げた。気の早い仕種だが、もとより力仕事は任せておけと口にしていたセイルのこと。有言実行である。
「怪我人がいたらその対応と、あとこれから避難が予定されていないかの確認をお願いします」
 問題の場所まで到着して、手早くこの近隣の騎士の責任者に身分を説明したコータが、リディエールとレミアに後の雑事を依頼した。コータも力仕事を厭うことはないし、馬を連れて加われば非常に有り難い労力だ。リディエールの馬も預かり、土砂に埋もれている倒木の処理に向かう。エメラルドはすでに作業に加わって、服の袖を泥で染めている。
「このままでは後から来る仲間も難儀する」
 女性が力仕事はしなくてもと、集まっていた人々から制止されたが、ここまでの道のりでも必要最低限しか言葉は発しなかったエメラルドは、この時も端的にきっぱりと言い切った。
「さあ、美しいレィディの前です。もうひと踏ん張り張り切っていきましょうか」
「エメラルドさん、美人だもんねー」
 怪我人はいないようで、火の番はリディエールやレミアがしてくれるからと、双樹も作業に加わりながら、コータの軽口に笑っていたが‥‥周囲から見れば、彼女やレミア、場合によりリディエールも『美人』の範疇だった。
 倒木を斧で切り分け、縄を掛けて泥の中から引きずり出し、泥をすくっては他所に投げる。あくまでも応急処置なので、道全体の復旧ではない。荷馬車が通るのに少し余裕がある程度のものが、かろうじて崩れた道の上に改めて刻まれていった。
 その作業が終わりきらないうちに後続の四人が追いついて、荷台から取り出されたワインを回し飲み、作業の進み具合は幾らか早くなったようだ。荷馬車の到着に合わせ、何人かが荷物を背負って、村へと向かっていく。

●泥濘の下
 泥の下に埋もれた道を進み、ようやく目的地を見渡したポーラは、しばし言葉を失った。エルフの彼女は実年齢が冒険者の中で一番の年かさになるが、一度濁流に呑まれ、その水が引く気配もないままに広がっている光景は記憶にない。
「何をしていますの。あそこまで行けば、雨宿りが出来ましてよ」
 常緑樹が枝を広げた下から動く気配もなく、レミアが皆を急かすだけ急かしている。それでも彼女が『あそこ』と指し示した方向には、確かに浸水せずに残った建物が見えた。結構大きいのだが、どんな建物なのかを見て取れるほど近くはない。けれどもレミアは目が良いようで、教会であろうと口にした。
「大分人がいるようね。声がするわ」
 ポーラも耳をすませて、人の声を聞き取った。これも他の者には聞こえない程度だが、まずは人のいる場所が彼女達の行くべき場所である。
『あちらも気付いたようですよ』
 霧雨で見通しは良くないが、自分達の方向に向いている人影を幾つか認め、シェリンが荷物を担ぎ直す。なんとか迂回路を見つけて歩き出そうとするのに先んじて、ユーフィールドが歩き出した。エメラルドは最後尾につく。
 しばらく歩いて、到着したのは確かに教会で、その周辺の数軒と共に幾らか高台にあって被害を免れたらしい。多少でも動けるものは道や堤防の補修、行方不明者の探索と穀物庫の中の物を回収に出向いていて、残っているのは怪我人やすでに作業に従事して疲労困憊で動けなくなったような者ばかり。中には半ば水に浸かった家に戻って、使えるものを探している村人もいるようだ。
「道が回復したら、もう少し高いところに避難したほうがいい。優先するのは食料、それ以上に安全だ。あまりあちこちに散らばらないようにしてほしい」
 わざわざ冒険者ギルドにも、今回の災害に手を尽くすようにと国から依頼が入っている。生活が落ち着くまでの支援を行なうようにと、領主に対しても援助と命令とがあるはずだ。そうでなければ、数ある騎士団の中からブランシュ騎士団を差し向けるはずがない。
 ユーフィールドの説明は多少彼自身の希望も含まれていたが、神聖騎士という身分とあいまって村人に素直に受け止められた。彼らが実際に食料や燃料を背負ってきたことも、大きな理由だろう。引き上げた食料はあっても、薪が湿って煮炊きも出来なかったため、ランタン用の油がまずは重宝された。湿った毛布にくるまっていた人々の表情が、火を見て随分と和らぐ。
 また言葉は通じなくてもシェリンがくるくると動き回って怪我人の様子を確認し、ポーラやエメラルドと共にリカバーで重傷者から癒していくのだから、皆さぞかし心強かったことだろう。問題があるとすれば綺麗な水が手に入らないことで、布で何度もこしたものを煮立て、冷まして傷口を洗う。ピュアリファイが使えるポーラに、セイルがソルフの実を渡してくれていたが、それでも水の浄化をするには足りなかった。怪我人全てを癒すのも、一度には無理なので、リディエールが用意していた薬を託されたレミアが軽傷者の肌に塗りこめている。
「少しお休みになってほしい。我々が疲れたら、交代をお願いするので」
 エメラルドがそっと語りかけたのは、疲労で足取りも不確かになっていた教会の神父だった。ちょっとだけと座り込んで、そのまま気を失うように眠り込んだ。ユーフィールドと二人で抱え上げて、他の人々も横になっているところに運ぶ。皆で固まっていないと寒いからだ。
 起き上がれる人々には保存食を火で炙って暖めたものと白湯を配る頃には、五人も座った尻に根が生えそうに疲れていたが‥‥まだ目を閉じるわけにはいかなかった。

●川の岸と道の狭間
 道の補修作業箇所から、羽鳥は一人川岸の方向に走っていた。一人で向かうなんてと村人には心配されたが、忍者の彼はこういうときは単独行動のほうが動きやすい。あいにくと馬で行ける道ではないので、単独行だ。愛犬には再度の土砂崩れを警戒するように言い置いた。どこまで役立つかわからないまでも、動物の勘は侮れない。
 そうして彼が向かうのは、ブランシュ騎士団の活動地域だ。そちらで保護している人がいるか、足りない物資はないか、人手がいるならどれほどか。そうした連携と確認のためである。預言と称する不穏な詩もあることだし、相互の連携を怠って何かが起きるのだけは御免だ。
 首尾よくそれらしい一団を見付けだした羽鳥だが、当然のように大分手前で止められた。騎士団のはずだが、従者や聖職者らしき人も見える。揃いの白い鎧を着込んだ人々は大分泥で汚れていたが、羽鳥が留められた騒ぎに姿を見せた青年は白いマントを藍色の房飾りで留めつけて、威風堂々とした様子を保っていた。若いが身分が高いと羽鳥は見て取る。話は相手が責任者に近いほど早く回るものだ。
 手短に用件を説明し、預言についてもちらりと触れる。すると、三十に手が届くかどうかという青年は、それに苦笑で応えた。
「何があろうと、我らは陛下に剣を捧げた。この場で全力を尽くさねば、フロランス様にも笑われよう」
「じゃ、効率よく人が回せるように、こっちに様子を教えてくれよ」
 敬語使わなかったなとちょっとだけ反省した羽鳥だが、その程度で悩んでいる場合ではない。この場で保護している村人の人数を教えてもらい、一番健脚そうな若者を連れて戻ることにする。誰が助かって避難したのか、彼や騎士団にはよく分からないためだ。
 後の連絡は騎士団配下のシフールが担ってくれると申し出があり、彼の仕事は堤防補強のための人数を揃えることと、彼らをつれてきた後に避難している人々を高台に導くこと。
 もちろんそれは、彼一人の仕事ではない。

●道から泥濘の中まで
 道の復旧作業現場で、双樹とリディエールは火の番に務めていた。忙しく薬湯を作ったり、作業で傷を作った人の手当てをする。ここにはクレリックの魔法を要するほどの怪我人はいないが、代わりにリディエールの薬や双樹の手当てがほとんど絶えることなく役立てられていた。
 道には、領主やブランシュ騎士団が手配した物資を積む荷馬車もやってきて、村への道が開けるのを待っている。すぐに必要なものは、人が担いで運んでいた。
「火の始末をしてくれ。道が通るぞ。二人とも馬車に乗れ」
 セイルが知らせにきたのは、羽鳥が騎士団のところに向かってしばらくした頃合だ。声を聞かないと誰だかわからないくらいに泥まみれだが、他の大半の男性も同じ様子だ。違いは、道が開いて精根尽きたようにへたり込む村人と違い、セイルはこれからが仕事の本番だと勢い込んでいることだろう。疲れていることに変わりはないのだが、気力はまだ充溢している。
「あたし、歩けるよ。他の人が乗ったらいいのに」
 自分の鼻の頭を指差して、泥で丸く印をつけてしまった双樹が唇を尖らせた。リディエールもしばらく移動や力仕事から解放されていたので、歩くことは可能だ。けれども、移動の準備を整えて二人が馬車の中を窺うと。
「無理がたたったようです。看護をお願いします」
 五人ほど、足を腫らしたり、熱を出しての無理が限界になった怪我人と病人が乗せられていた。二人の手が必要な相手である。ついでに冒険者達が連れてきた馬以外のペットも、抱えていれば暖が取れると放り込まれた。
「馬が辛ければ、その時は降りますので」
 リディエールの申し出は、途中で追いついた羽鳥がつれてきた青年に席を譲るので双樹が、取って返した羽鳥とコータ、セイルが半ば水に浸かった家で身動きが取れずにいた老人を見付けてきたことで実行された。
 それでも、行方不明者はまだ二十名近くに及ぶと、村でポーラに知らされたときの衝撃は重い。

●暗雲を自らの手で払うために
 村人と冒険者が六名、ブランシュ騎士団などが八名ほどの遺体を見付けて、教会の裏手に仮埋葬されることになった。葬儀は神父が行なうが、あまりの人数に聖句を唱える声も覚束ない。ポーラやシェリンが補助に立ち、エメラルドとユーフィールドが率先して村人に寄り添った。
 葬儀はそうして行なわれたが、生きている者はそこで止まっているわけにはいかない。レミアとリディエールが薬湯を沸かしては、村人の症状に合わせて飲ませている。真水の確保に領主からウィザードが派遣されて、ポーラとシェリンが怪我人を見るのも事前の応急処置が手早く済むようになった。疲労で伏せった相手にも、ちゃんと暖かい食べ物が提供されている。これは冒険者の誰がやっても味付けがうまくないので、村の女性達が行なった。
 村に流れ込んだ泥濘や流木は大半が村人の手で片付けられていき、特に力のいるところにコータやユーフィールドが回る。堤防の修繕も領主派遣の技師の下、これ以上の漏水を防ぐ方策が講じられていった。羽鳥とセイルは多少技術の持ち合わせがあり、こちらで尽力している。
 それでも、人々が不安そうに空を見上げる姿はなくならなかったが‥‥ただ手を引かれて歩くのではなく、自ら立ち上がって進もうとする様子は、見て取れるようになっていた。

(代筆:龍河流)