【繊細な指】要人護衛
 |
■ショートシナリオ担当：姜飛葉 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：8 G 76 C 参加人数：6人 サポート参加人数：-人 冒険期間：05月30日〜06月04日 リプレイ公開日：2007年06月12日 |
|
●オープニング
●禍々しき予言‥‥神聖歴1002年５の月
‥‥騎士の顔は青ざめている。
‥‥繊細な指が、神の目を盗んで長く伸び、
‥‥白い衣を血で染めるだろう。
‥‥王国の大いなる炎は消え失せるだろう。
騎士が一体誰をあらわしているのか、それは未だわからない。
大いなる炎が消えうせれば、民を暖め守るものが欠けてしまう事を意味するだろうか。
否、狂信者達の中では決められた未来のように語られているのだろうか。
●聖霊降臨祭
「ミサに参列される来賓の護衛を依頼したいという事です」
護衛依頼ばかりが並ぶギルドの様子に、辟易した表情を浮かべる者も少なくない中、その受付係は淡々と告げる。
「ノルマン王国の要である陛下ご自身が参列されるミサですので、国民も多く参加するのが聖霊降臨祭‥‥とはいえ、王城内の教会に限れば収容人数にも限りがありますから、主に陛下の参列を目にする事が出来るものの多くは、身分的に高貴な方々になります」
その身分高い貴族達を護衛せよというのが依頼らしい。
「まてよ、民の護衛ならまだわかるんだが‥‥そうした偉いさんには騎士団が護衛にあたってて良いんじゃないのか？」
話を聞いていた冒険者の一人が首を捻る。
受付係はその問いが発せられる事を承知していたかのように頷き、依頼の説明を続ける。
「‥‥というのが、ギルドに出された表向きの依頼になります。勿論、彼らの身の安全を図るのも依頼に含まれるべき内容ですが、本題は別にもう１つあります。場内教会周辺の警護にあたっているのは、ブランシュ騎士団・藍分隊です。その分隊長の護衛も皆さんにお願いしたい依頼なのだそうです」
「なるほど。今も随分あちこちの分隊長さんの護衛話が出てるもんな。だけど、予言の解析が進んでいる今、もう少し‥‥」
「決め付けての断定は危険と判断したのでしょう。どなたが欠けても陛下は悲しまれますし、国の乱れにも繋がります。ブランシュ騎士団は、この国の要である陛下を支える存在で、ある種の象徴でもありますから」
納得した様子で頷く者が居る中、疑問に口開いた冒険者の言葉をぴしゃりと遮り、依頼内容をしっかりと告げた受付係は、内容が記された紙をボードに貼り付けた。
「藍分隊長は、年若ながら戦功でその地位に着く事を認められた方。ご自身も陛下の遠縁にあたられる身分高い貴族出身とはいえ、ご気質は完全に武人寄りのお気持ち的に少々難しい方のようですので、軽率な言動は避けて下さい」
やはり、ブランシュ騎士団の分隊長にもなる人物。
護衛をつけるという事は納得し得ないことなのだろう、分隊長の護衛に関しては、口外を禁じるという事だった。
「要人の中には、マントのご領主殿もいらっしゃるそうです。これまでに色々な経緯がある方ですので‥‥表向きと言われますが、依頼は依頼。油断されませんように」
王城での聖霊降臨祭で、国の中枢にいる人物達に万一の事があっては、ノルマン王国の威信に関る。
それはウィリアム３世を支えるブランシュ騎士団を代表する存在達であっても同じこと。
今まさに少数精鋭を求められた冒険者の豊富な経験やそれに基づく判断を望まれているのだった。
●今回の参加者
ea2350 シクル・ザーン（23歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国）ea4465 アウル・ファングオル（26歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国）
ea7780 ガイアス・タンベル（36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国）
ea8820 デュランダル・アウローラ（29歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国）
eb5363 天津風 美沙樹（38歳・♀・ナイト・人間・ジャパン）
eb9459 コルリス・フェネストラ（30歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国）
●リプレイ本文
●要人護衛要人達の護衛に就いたのは、依頼を請け負った冒険者達の内の半数にあたる３名――アウル・ファングオル（ea4465）達。
同じ役目を請け負った藍分隊の騎士らと打ち合わせる傍ら、ミサに出席する要人達の名簿の写しを見ていたデュランダル・アウローラ（ea8820）へ、コルリス・フェネストラ（eb9459）がその耳を示しそっと注意を促した。
「ミサの参加者の目に付けば不要な混乱が起こるかもしれません」
デュランダルと同じくハーフエルフである事を示す彼女の耳は、確りと被られたレザーヘルムにより隠されていた。
ブランシュ騎士団の騎士達以上に、護衛として側に居るべき貴族らに彼らに対して理解を求めるのは難しい。
デビルを討つ前に内部での諍いは無用。そう言外に述べるコルリスに対しデュランダルがどう思ったのか、彼の整った顔には一切の表情が出ることは無かったが、バックパックから取り出された赤色のクロスを頭部へ巻く事でそれに答えたのだった。
「複数の手による撹乱や陽動も大いに有り得ます。人が敵に回ることも。そして、敵の行動はどれもが本命で有り得ます」
黒幕のデビルが相手であれば、人間の城の防御など穴だらけ。常識に囚われず死角を減らし、敵の動きに柔軟に対応する必要がある事を進言し、かつ仲間にも話すアウルに、分隊長の傍らにある者らへの連絡を買って出たコルリスは心得たと小さく頷く。
限られた時間の中で話す騎士達の中にあって、デュランダルの玻璃の如き瞳は、ただ１点――マントの領主の名を見詰めていたのだった。
●藍分隊の長
藍分隊の副長が依頼のためにと引き合わせてくれた、ブランシュ騎士団＜藍＞分隊長・オベル・カルクラフト（ez0204）は、一見の印象からとても高圧的な印象を受ける騎士だった。その分隊長は、分隊内の年長者達に囲まれながらも臆する様子も無く指示を出している。
「警備のお手伝いに参りました、イスパニア王国ナイトのガイアスです。こちらは‥‥」
「ジャパンより参りました美沙樹・天津風です」
ガイアス・タンベル（ea7780）と天津風 美沙樹（eb5363）が丁寧に口上を述べた上で挨拶をすれば、手を止め向き直った上で返礼をとる姿勢は威圧的な姿勢からは遠い姿ではあったのだが。分隊長の中で１番若いオベルにとって、先の騒乱で武功を上げての破格の出世も国王の遠縁という出自からの邪推もあるのだろう。見縊られない様振舞う内に纏う雰囲気が固いものになっていったのかもしれない。
「フロランス殿の‥‥今回のミサに招かれた方々は皆この国の柱になり得る方ばかり。我等に不足あれば陛下の御名にも傷がつく。心得て責務を果たしてほしい」
何かあれば副長にと告げたオベルは、要人達が控える間が連なる棟へ警備の確認へ向かうと言い、美沙樹らに背を向ける。
要人警護の補佐が冒険者の任と思っている点は良い。だが、冒険者二人揃ってオベルの側を離れる訳にはいかないのだ。足早に歩くオベルの後を追い、ガイアスらも駆け出した。
●ミサまでの数刻
美沙樹の提案で付けた鏡の飾りを確かめ、連絡通路と要人達の控え室の間を確認していたシクル・ザーン（ea2350）は、近づいてくる纏まった足音に顔を上げる。
白い騎士達の姿‥‥剣帯とマントの房飾りの色が藍色だった事から藍分隊の一団と気付いたシクルは端に避け小さく頭を下げた。
ブランシュ騎士団を引き連れ歩み去るオベルの背を、彼らと共に歩く仲間の背を見送りながら、彼は打ち合わせた時の事を思い出した。
彼らが請け負ったこの依頼はギルドにもたらされた一連の予言回避に関るものの中で、最も遅いミサ当日から仕事に関るものであったため、冒険者らに与えられた準備時間は殆ど無いに等しかった。
連絡を密にするにも、依頼元であるブランシュ騎士団・藍分隊との打ち合わせ時間も思うように取れず。
けれど、それに不遇を訴える事無く。彼らは、ただ依頼を果たすため、限られた人員と時間の中で定められたものに従い動き始めた。
忌まわしき予言を回避するために。
「『ノストラダムスの預言書』が真に神の言葉を伝える預言書であったのか、あるいは、デビルに攻撃目標を指示するための指令書であったのか。どちらにしてもデビルの陰謀を許すわけには行きません。一人の被害も出さぬよう、最善を尽くしましょう」
打ち合わせの際のシクルの言葉に、承知とばかりに仲間達は頷いてみせた。
聖霊降臨祭――ノルマン王国に降りかかる滅びの予言など、振り払ってみせるという想い。
ホーリーメイスの十字に触れ、最善を尽くす事を約した仲間と共にもう数刻後に迫ったミサへ向け確認のための手をシクルは再び動かし始めた。
●異質な襲撃
時刻を告げる王城付きの侍従の声に、国の中枢にある人物らは、護衛の騎士らと共に控えの間からゆるゆると王城内に在る王家が祈りを重ねてきた教会へと歩み始めた。
先導する騎士は藍分隊の騎士ら。
要人を中心にした幾組もの集団を見送りながら、シクルは今日幾度目かの神への祈りの聖句を唱える。
祈りに返るものは無く、それに安堵し、また気を引き締める。
歩む一団の中に、黒鎧の騎士の姿を見つけた。その一団はマント領主を囲む輪だった。
見送った先には、盾を掲げ持ち備える黒衣の神聖騎士の姿が在り、要人らが作り出す列の後方に見えるのは勇壮さを感じる猛禽の羽根をふんだんにあしらった皮鎧に身を包んだ女性騎士。
皆役目を同じくする仲間達の姿。要人らと同様に護衛すべき分隊長は今何処にいるのだろうと視線を巡らせた先に、シクルは思いもよらぬ物を見つけた。
暗い通路。灯りが随所にあるとはいえ、灯りがあるゆえに生まれる影に這う姿は、彼が魔法を用いていたから感知しえたに過ぎない存在。
「‥‥‥‥デュランダル卿！」
シクルの声にデュランダルが反応するのは早かった。腰に佩いていた直刀の剣を鞘ごと床に叩きつける。
冒険者らの動きに、要人らを囲む輪から短い悲鳴が幾つもあがる。
何事かとコルリスが駆け寄れば、頭を潰されてなお尾を蠢かす蛇の姿。
「蛇‥‥一体何処から‥‥？」
コルリスが眉を潜め呟く。藍分隊の騎士の幾人かが駆け寄る中で、シクルはメイスを振りかざし壁を叩いた。
豪奢な飾り細工が上げる無機質な悲鳴に混じり聞こえる鈍く濡れた音。
「明らかに変事だ、上に伝えろ！」
冷たく鋭いデュランダルの叱咤に、騎士の一人は慌てて踵を返す。
「こちらへ要人の方々を‥‥」
その背を横目に、ミサへ向かう通路の脇へとコルリスが貴人らを逃すように導く。
万一に定められた通路以外にも抜けられるよう確認しておいた事が役立った。
ぼたりと天井から落ち、潰れる蛇の姿。壁を伝い、床を這いいつの間にか沸き群れる蛇達に、冒険者らは要人らを庇いながら、藍分隊の騎士と共に蛇を駆逐していく。
これほど大量の蛇が王城内に沸いて出ることなど有り得ず、明らかな異変だった。
噛まれたと悲鳴をあげる要人らの側付きの者達からの悲鳴も上がり、通路には怯え惑う人々のために混沌が生み出されていた。
「何事だ？」
通路から響いてきた声と、部下の姿に僅かに眉を顰め問う。
蛇が‥‥と言い募る声を追いかけるように、更に物が壊れ散る音が聞こえ、オベルは騒ぎの起きている一角目指し駆け出した。
「ガイアスさん！」
何事と問う間も惜しく真白いドレスの裾を翻し分隊長を追いかける美沙樹の声を聞きながら、ガイアスは指に留まる蝶を見遣る。
石の中で命持たぬ蝶はその羽根を震わせていた。
シクルは名を呼ばれ顔を上げた。彼の持つメイスは既に蛇の屍骸に塗れきっている。
呼び声がガイアスのものと知り、メイスを床へ打ち付けざまに唱えたデティクトライフフォースから得られた情報は、混沌に満ちた場で判断のしようも無い有様だった。
だが、この通路にはデビルと思しき存在は見受けられない。
そう仲間に伝え叫ぶ中で、白刃が煌めいた。
その刃の下に在った存在は、刃の軌跡から逃れるように通路の奥へと突き飛ばされる。
上がった小さな悲鳴。その主を刃から庇うように盾を翳しその刃を弾いたのはアウルだった。
「‥‥やはり油断も隙もありませんね」
弾かれた小刀に、唇を噛む存在に盾で殴るように壁際へ押しやり、聖剣を叩きつける。
混乱に乗じ行動にでる者の存在を危惧していた彼の下、襲撃者は鈍い呻き声をあげる。
「誰だ、そいつは？！」
蛇を薙ぎ切り払いながら問うデュランダルに、小さく首を横に振りながらアウルは襲撃者の腕を捻り上げた。
「誰何は後です。まず何よりもこの場所から要人方を避難させなければ‥‥」
コルリスの導きに、その通りだと部下達を叱咤し、現場の沈静を図ろうとするオベルの声が揺らいだ。
「危ない！！」
注意の声と共に美沙樹が、大きくその身ごとぶつかり突き飛ばしたからだ。
皆の注意が白刃の主に向いている最中、オベルに離れず付いていた美沙樹はクルスダガーで大きく牙を剥いた大蛇を床に縫いとめる。大蛇は意思持ちオベルを狙ったかのように牙を剥いたのだという。
後で詳しいものが調べたところ、この辺りには稀な種で毒をもつ蛇だったという。
どうしてそのような存在が王城内にあったのかは生態に詳しい学者でもわからなかったという。
けれど、オベルの側でダガーで大蛇に止めを刺したガイアスの脳裏に過ぎる物があった。
かつて対面したデビルは、蛇を大量に手繰っていた事実を。
そして、捕らえ縛られた襲撃者は、要人らが連れていた護衛の一人だった。
何を問いただしても答えず、ただ一言予言についてもらした事から狂信者ではないかと推察された。
推察――証言を得る前に自身で命を立ったために真実は得られなかったのだ。
雇い入れた貴族は、貴族の血を持つ由緒正しい家の出自で信があったという話だが、人の心の闇は見えないものなのだろう。
●真実狙われた者は
ミサも間もなく。要人らを説き伏せ、通路から守り教会へ導く。騎士らに混じり冒険者らは今度こそと送り届けた中‥‥。
「あの方は‥‥」
アウルに庇われ奥へと転げたものの差し伸べられた護衛の騎士の手をやんわりと断り、自らの足でしっかりと立ち上がったクラリッサの姿に驚く美沙樹に、コルリスは二人を見比べる。
「マントの領主殿と面識があるのですか？」
「マント領主、クラリッサ・ノイエン殿だそうだ」
デュランダルが告げた名は、先年ノルマン王国を揺るがした大事件に関った冒険者ならば知っている名だった。
あれから１度は閉ざされた冒険者ギルドの中で、それは遠い過去の事件となり、また彼女自身領主として責務を果たすためパリから足が遠のいていた事も事実。
デビルの力を借り得たカルロスに、執拗なまでにその身を狙われ続けたクラリッサが、今度はデビルの力を頼み王国を狙う等という事があるだろうか。
あるいは、彼女にデビルを引き寄せる何かがあるのかは分からない。
少なくともデュランダルの目に、不審な挙動は映らなかったのは事実だった。
●闇色の謀
王城の尖塔の１つに人影が在った。
「恋慕の情ほど、甘美で狂おしくいとおしいモノはない」
毒々しい程に赤い唇を歪め、囁かれた言葉。
「国一つを天秤に掛けられる恋の種が幾つもあるなんて、とても素敵だわ」
人々が願い祈り、許しを請うミサが行われている城を見下ろし、異国情緒溢れる衣を身に纏った美女が艶然と笑う。
ふと視線を感じ見上げた幼子がその姿を見つけ母に告げれば、母親は笑って子供の見間違いを正す。
そんな場所に人がいるわけがない、と。
「でも、いたの。見慣れないお洋服を着た人が！」
幼子はそれでも己の目に映った事実を告げる。けれど母親の袖を引き、指差した尖塔に人影はもう――無かった。
