●リプレイ本文
●祭始
パリの街中は今、どこかしこも祭りの賑わいに包まれていた。
年に1度‥‥この時期だけは老いも若きも男も女も貴賎とて問わず‥‥無事実りを得られた事を、またこの時期を迎えられた事を天に感謝しなければならないからだ。
天という後ろ盾を得て「しなければならない」という皆の顔は朗らかだ。
祭りを楽しむ人々の顔が笑みで溢れているという事は、その年の実りは良かったという事。
それならば、感謝をささげ楽しむ祭りは、なおさら盛大に賑やかに楽しまなければいけないというものである。
それは冒険者とて例外ではなく‥‥
「賑やかだな〜」
「うん、すごい賑やかだね」
祭りで賑わう広場を見渡し、その雰囲気に知らず知らずの内に笑顔が浮かぶランサー・レガイア(ea4716)。
そんな彼の肩にちょこんと腰掛け共に訪れたティラ・ノクトーン(ea2276)も、わくわくした表情で祭りをみていたが‥‥、うずうずと己が内にある吟遊詩人の血が騒いでかふわりランサーの肩から浮かぶと祭りの喧騒の中へと飛び去ってしまった。和やかな空気に、鼻歌を交えて。
「‥‥っと、ティラ?」
人に溢れた通りを行くランサーに空舞うティラを追いかけることは難しく。
嘆息1つ、気持ちを切り替え。見る側として楽しもうとランサーも祭りの喧騒へと再び歩き出した。
「お〜祭りだ!」
ハルワタート・マルファス(ea7489)は、見慣れぬ異国の祭りに少し興奮気味にあちこちの露店や店先を覗き歩いていた。
先ほど「エチゴヤ特選」という売り文句に試しに購入してみた福袋。
引き当てた品は…「レースの褌」と「ライディングホース」。
レースの褌を手に、首をひねり。異国の下着であるらしいのだが…ビザンチン帝国に生まれ育った彼にはわからぬ品だったようだ。
異文化万歳。
ホースの札と引き換えた駿馬の手綱を引きつつ、見慣れぬ異国の祭りへと繰り出すのだった。
●楽祭
「皆が等しく幸せを分かち合える‥‥このような祭は良いな」
余り感情をおもてに出すことも無いサラサ・フローライト(ea3026)は、彼女ながらに好もしく思う気持ちを胸に祭りの広場を歩いていた。微力ながら自分もその『場』を作る手伝いが出来ればと思いながら、それに向いた場を祭りを眺めながら探すのだった。
『目指せフード系露店のコンプリート!』と壮大な目標を達成するために露店巡りをするレムリィ・リセルナート(ea6870)の姿があった。
――こういうのは得体の知れない材料でできてるトコがポイントだね。チープな味もたまに食べるには良し。どこからどう回るなんて細かい計画は一切なし。目に付いたものから食べるのよ。――
そんなレムリィ流・露店巡り理論。既に彼女が平らげた料理は少なくない。
が、食べ物を扱う露店の数は、祭りに訪れる人々の楽しみの1つでもあれば需要は高く、数多く並んでいる。主食になりえるものから、酒のつまみとなるもの、軽く食べられるものから甘い菓子まで様々並んでいるのだが‥‥。
「『そこにあるものを買う』それがあたし。‥‥あ、アレも美味しそう!」
食べてみて特別美味しかったものは、多めに買っておこうと心に決めつつ、次なるターゲットへ嬉しそうに挑むレムリィだった。
「折角だ、露店の料理をつまみながら酒でも戴くとしよう」
という思い露店を巡り、酒の杯を手にしているアルテュール・ポワロ(ea2201)の肩には子供がのっていた。露店で人を商っているわけではなく。
多くの人で賑わう祭りだからこそ、何かあっては‥‥と、彼が気を回しながら広場を巡っていたからに他ならない。
肩が触れた触れないで人の多い只中で喧嘩寸前の男達を見かけた時には、他のものに類が及ばないうちに割って入り仲裁を促したり。
『祭りで野暮な事はするな。頭を冷やせ』と、手にしていた杯の中身を両者にぶちまけるという些か乱暴ながら確実に効果覿面な方法で、だ。
近頃、依頼で碌な目に遭って無かった事も有り、のんびり楽しむつもりだったアルテュールだが…もはや彼の性分なのだろう。
肩にいる子供も、人ごみに母親とはぐれてしまい不安に泣いていたところを『大丈夫だ、肩車してやろう。それなら探しやすいだろ?』 そういって担ぎあげてやったのだ。
やがて、子供が短く、けれど嬉しそうな声をあげる。母親を見つけたのだ。ほっとした様子に、知らず笑みを浮かべ。彼は子供の言うままに母親の元へと歩き出した。
●舞いくらべ
「さあ、楽しい一日にしましょう」
サーラ・カトレア(ea4078)の微笑と共に告げられた言葉で始まった舞は、賑やかな祭りの雰囲気をたがえる事無い明るい踊り。
しゃらり、壮麗な衣装に身につけた装具が響き。
軽快に響く祭りの楽音に良きアクセントとなる。
銀の髪は、陽光に優しく輝きを返し。
蒼き瞳は、舞いに纏う人々の感情を捉え離さず。
伸びやかで健やか。明るく誘われ見ているほうが楽しくなる踊りである。
ルーチェ・アルクシエル(ea7159)もまた、その素晴らしい舞を披露していた。
パラという種族性もあり、一際小柄で人の目から見れば子供と等しい体躯の彼女。
祭りに表れる人々の感謝や嬉しい、楽しい、幸せ‥‥そんな気持ちを身に纏い一身に舞う彼女の小さな体が大きく見える。
人々を楽しませる事が好きだという彼女の舞は言葉よりも雄弁に、その気持ちを表現していた。
そんな彼女の舞は人々のそんな良き気持ちを幾つにも増やしてくれる、そんな心に響く踊りだった。
人間とパラ、種族は違えど踊り手として、そう目にすることも出来無い程の優れた踊りの技量の持ち主である彼女らの舞は、衆目を集めるには十分で。
計るわけではなかったが、二人の舞い比べにも等しく見えたその舞いも、二人の共演にて披露を終える。
『最後は一緒に踊りを‥‥』というルーチェの提案にサーラに、断る理由も無く笑顔で頷いたからだ。
「同じノルマン出身だし、やっぱり踊りのレベルの高い人だし‥‥美人な人だし‥‥ね?」
「可愛い踊りの上手なあなたと踊れる事は、私も嬉しいです」
奇しくも二人、銀髪の踊り子達は人々の歓声と笑顔を伴い、感謝祭に相応しい恵みへの感謝を捧げる明るい舞を踊り始めた。
●楽祭弐
「よ、飲んでるか? やっぱり目玉は新酒だよな♪」
酒を飲む仲間の肩を叩き、自身も陽気にワインの新酒を飲んでほろ酔い気味のハルワタート。
「飲んでるさ。向こうでサーラ達の踊りも見てきたが‥‥、踊りはさっぱりわからないが二人がすごい事だけはよくわかったな」
「ああ、良い事もあったしな」
頷くランサーに、見逃した? としまったという表情を浮かべるハルワタート。
アルテュールの方は肩を叩く手に嫌な顔も無く。彼は腰に佩びた福袋で手に入れた念願の日本刀の柄を撫で、ご機嫌で酒を飲んでいる。その顔は、ご機嫌というよりも緩み笑む怪しい人に見えなくも無い。が、余程日本刀という剣が嬉しいんだな、とハルワタートとランサーは割り切ったらしい。
が、アルテュールの機嫌のよさは酔いと共に更に好調だ。
自然、彼の口から歌が零れでる。
『秋の空は黄昏色 風に吹かるるまま 流れて独り 落ちる木の葉の音に 静かに目を瞑る‥‥』
詩の専門的な心得は無い。が、生業を詩人とし『闘うポエマー(自称)』と名乗る彼の詩歌の即興は止まらない。
‥‥ティラを探しに行こう、とランサーがそっと席を立ったのを果たして彼は気付いたのだろうか。
そして、ただ聞いているハルワタートにも詞心は無かった。‥‥止めようも無く、そんなものなのかな、と思い聞くハルワタートにアルテュールの詩歌は続くのだった。
踊りを披露し、折角のお祭りも楽しまなくては、とサーラとルーチェも祭りの最中の広場を歩いていた。
レムリィの案内もあるので、食べもの限定ながらも踊りを披露していた時間を無駄にする事無く効率よくあちこちの露店を女性3人賑やかに巡っている。先ほどレムリィが、買い置いてくれていた美味しいものを頂きながら。
レムリィは、露店巡りをしながらも芸を披露するという仲間達の事も忘れておらず、サーラとルーチェの舞いを見にきていたのだ。二人が舞い終え、レムリィの気持ちのままの賞賛を贈り、そのまま3人で祭りを楽しむため広場に繰り出した。
彼女は小さい頃、祭りの最前列で華麗に舞う踊り子に憧れていたのだ。生憎レムリィ自身にはそちらの才能はなかったみたいだが、それが一層憧れを強くするのだろう。
「あれ、さっきレムリィさんに分けて貰って美味しかった奴だね」
「もう少し食べてみたいかもしれないですね」
「それじゃ、買ってこうか♪」
女性3人の祭り巡りは、賑やかで華やかである。
●奏
祭りの広場も、店が多く出ている入り口から中央にかけての通りから奥まった場所になれば、人も少なくなり、当然と喧騒も少なくなってくるのだが‥‥
会場奥、緑多いその場所はいつの間にか多くの人が垣根を作っていた。
ランサーは、風にのり流れ聞こえる覚えのある演奏に惹かれて赴いた先に‥‥ティラは居た。
だが、涼やかな音色を響かせるオカリナの音は1つではなく。
もう1つは、サラサのもの‥‥
サラサは、別の場所で故郷のイギリスの明るい曲を披露していたが、演奏を終え祭りを回るうちにティラの姿を見つけ、二人で奏でることとなったのだ。今、彼女は身につけていた豪華なマントは外し、技を披露する仲間を支え盛り上げようとオカリナを響かせていた。
ティラが奏でる美しい主旋律を、補い盛り立てるように支えるサラサの音色。
2色が交わり、澄んだオカリナの音色は、それ以上の音のふくらみと豊かさが生む。
樹の枝に腰掛け、丁度一曲終えたその場に拍手が起こり‥‥ティラは、そこでようやく聴衆の中にいるランサーに気付くと「やぁっ♪」と声を掛ける。
何人かがランサーを振り返ったものの、続いて聞こえたティラの『次が最後の曲』という言葉に残念そうに、だが手拍子で先を促した。
最後の曲は大地の恵みへの感謝の想いを込めた曲。それは、その場内の空気を和ませて‥‥軽快な曲へと流れを移し、盛り上がったままフィナーレを迎えた。
ティラとサラサにおくられる惜しむようなたくさんの拍手に、二人は顔を見合わせて‥‥もう1曲だけ、と応じた。
「‥‥たくさんの拍手をありがとう。最後は、皆も共に歌って一緒に楽しんで欲しい」
サラサが言葉少なに、提案した曲目は『豊穣の歌』。
それは、ティラが奏で、サラサが皆を導くように歌を重ねた。
次第に重なり響く声は幾つにも。
来年の豊穣を信じ、次の年もまた‥‥という思いが皆の中に満ちたのはサラサがそっと織り交ぜたメロディーの効果だけでは無かったはず。
異国より訪れたサラサにも、ノルマンで育ったティラにも、この場にいる者全てに通じる‥‥音に乗せ願う感謝は語られる言葉より何より雄弁な祈りになるのだから‥‥
●更けゆく祭り
「祭りの賑わいはどこも一緒だな‥‥」
ワインを飲みながら、懐かしげに呟くハルワタート。
彼の目に映っているのは、目の前に広がるパリの祭りだけではないのかもしれない。
アルテュールは、そんな彼の杯を新たな酒で満たしてやり。
飲みすぎかとも思ったが、今街は祭りなのだ、それも有りだろう‥‥アルテュールの詩歌を肴に、たまにツッコミを、二人は杯を重ねていった。
ティラとサラサの最後の曲を聞き終えて、ランサーはティラと二人、会場を後に歩き出した。
帰り際‥‥彼はふと思う。
会場で幾つも見た、平和と豊穣を心のそこから祝う幾万の笑顔を‥‥こんな平和をいつまでも護っていけたら、と。
そんな彼の肩の上、大好評に終わった演奏に上機嫌なティラが『来年はミニコンサートを絶対に開くんだ♪』とちょっとした野望もとい、目標を立てている。
ティラの新たな目標に苦笑しつつ、楽しい一時を過ごせた事に感謝を‥‥
祭りの賑わいを眼下に、ルーチェは祭りの夜を迎えていた。
年に1度の収穫祭に陽気に時間を楽しむ人々の顔には笑顔が溢れ。幸せな気持ちがたくさん溢れている。
そんな光景は、彼女自身の裡も温かなもので満たす。少しだけ‥‥感慨にふけるような時間‥‥
「‥‥ずっと、毎年、このお祭りが開かれると良いね‥‥?」
彼女の口から零れた願いは‥‥人々の感謝の願いや祈り、笑顔と共に天へと還るのだろう。
皆の思いと共に祭りの夜は更けてゆく‥‥
来年もまたよき恵みがありますように‥‥