【聖夜祭】凍える太陽、白い悪魔

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月26日〜01月02日

リプレイ公開日:2008年01月04日

●オープニング

●悪戯は派手にシンプルに
「新年のお祝い♪」
「おいわーい☆」
 内緒話をするように、ひそひそと囁く少女らしい可愛らしい声が聞こえる。
 年頃の少女たちが、大人達の目を盗み、友達同士で新年を迎える祝い事の相談でもしているのだろう。
 何もおかしな事は無い――ここが、雪山になれた猟師ですら、踏み込むのを避けるような、深く真白い雪が積もった山中でなければ。
「真っ白いの好きなんでしょ、お祝いの音も大きい方が良いんだよね♪」
「でしょでしょ、だよね☆」
 内緒話の相談は、二人の少女の互いにくすくすとさざめく様な笑い声で良く中断されたけれど、ようやく纏まったらしい。
 少女達は2人寄り添いながら、重たい雲がかかる灰色の空を見上げていた。そこは、高い樹上だった。
「派手に、ぱーっとね♪」
「おっきくね☆」
「幾つ、あいつ等呼べば足りるっかな〜♪」
「かなかな?」
 どさり落ちた重たい雪音。次いで聞こえた雪を踏み分ける音に、少女達が足元をのぞけば、雪をのせた常緑樹の枝の合間から、走り出す小さな影を見つけた。
「あらあら」
「まあまあ」
 走り出した子供の1人がふと振り返れば、少女達の片割れと目があった。眼差しに呪縛されたように立ちすくんでしまった子供を、それより僅かに年嵩であろう子が気付き、大きな声で呼ばう。
「お祝いの前に、追いかけっこ?」
「おいかけっこー☆」
 手を取り合い、再び駆け出した彼らを見つめ、少女達は首を傾げ、あるいは、はしゃいだ声を上げた。
 子供達は雪にとられもつれる足を、それでも懸命に動かし、少女達から少しでも離れようとしていた。村の大人達が雪山に入ってはいけないと言っていたのは本当だった。雪の山には獣以上に恐ろしいものがいるのだからと諌めた母親の顔が浮かぶ。
 足が思うように動かないのは、雪のせいだけではないかもしれない。
「逃げちゃうのね♪」
「逃げちゃうね☆」
 子供達のまろび転げるように走り出した背中を見下ろした少女らは、互いの手のひらをぱちりと合わせ、ふふふ、と笑み交わす。退屈を紛らわせる玩具と同義の、獲物を見つけた猫のように、彼女達の瞳がきろりと輝き‥‥。
「それじゃ、あたしたちが‥‥☆」
「追いかけ悪魔♪」
 とん、と軽やかに今まで腰掛けていた木の枝を蹴り、宙へ舞う。
 少女達の服の裾から黒い尖った尾が、ゆらり揺れていた。


●雪山の白い悪魔
「子供が帰ってこないんです‥‥」
 それを探しに行った村の男も二人ほど戻らず、それが村では指折りの雪山に慣れた猟師であったため、村の代表者が依頼に訪れたのだという。
 事態は単純で、村人の説明は直ぐに終わり、受付係は簡潔に訴えを書き記す。ただ、解決を要する手段とその確保が困難なだけで、だからこそ、冒険者ギルドを頼った彼らに、受付係はもう1度内容を確認する。
 大人達の目を盗み、ただ遊ぶため、あるいは何かを得たかったのか。雪山へ入った子供6人のうち、4人が戻らなかった。かろうじて戻った2人は、雪に足をとられ斜面を滑り落ちた事が幸いした。落ちた先に枯れた樹の洞があり、そこに隠れ潜んで彼らを追いかける存在をやり過ごしたのだという。
 追いかけてきたのは、黒い尾を生やしたシフールのようなデビル。
 また、命からがら逃れ生き残った二人の子供も悪魔が追いかけてくると家から出ようとせず、また悪夢に苛まれ深く眠る事も出来ず衰弱していく。
 依頼は2つ。
 行方不明となった村人を探して欲しい事。
 それと子供の話の真偽を確かめて欲しい事。
 そもそもデビルの目撃例は子供だけ。デビルなど元からいなければ、気に病む心の病を治す一助になるだろうし、雪に慣れた別の村人を出す事もできるはず。
 雪に接し慣れた男たちが戻らない理由は、自然相手だけではなかったからの不覚かもという不安がぬぐいきれない為の依頼だった。
 もしかして辛く苦しい思いをして助けを待っているかもしれない。
 でもこの季節、雪山の中で生き延びる事など出来ないかもしれない‥‥考えたくは無いけれど、そうであればせめて体だけでも。
 もうじき新しい年が明ける‥‥そんな季節に思わぬ災禍が飛び込み惑う村人は、ただただ「お願いします」と冒険者らへ頭を下げ続けるのだった。

●今回の参加者

 ea7489 ハルワタート・マルファス(25歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3385 大江 晴信(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb5314 パール・エスタナトレーヒ(17歳・♀・クレリック・シフール・イスパニア王国)
 eb9212 蓬仙 霞(27歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●彼女達の事情
 くすくすと笑いさざめく声が、冷たく凍えた雪山に響く。
 誰も聞くものとていない声は可愛らしい少女達のもの。
「もうすぐもうすぐ」
「もうすぐもうすぐ」
 同じ言葉を繰り返し、二人の少女は「うふふ」と微笑み交わした。
「準備はできた?」
「準備はできた☆」
 訊ねられた言葉に大きく頷く少女が指差した先‥‥そこには、幹に大きな裂傷を負った樹が幾つも在った。
 山際を吹きぬける風に常緑の枝葉が大きく煽られ、風の音と共にまるで木々の悲鳴のような傾ぐ音が山中を吹きぬけていった。


●冒険者達の事情
 準備を終え、出来る限り急ぎパリから駆けて来た冒険者らは、山入りに備えながら依頼1日目の夜を迎えていた。
 野営の用意をしながら、実際に雪山へ登る際の準備と状況の詰めをしていた時の事である。
 依頼を請けた者は皆移動手段を持っていたため足並みを揃えることが出来た。
 また単独行や先走りを危惧する者がいたために、突出することなく済んだのも幸いだったのだが‥‥。
 雪山から吹き降りてくる風は、身を切るように冷たい。むき出しの肌など簡単に凍え痛んでしまいそうな程に。
「マフラーだけではかなり厳しいと思うが?」
「僕も‥‥寒いと思います」
 軽装のハルワタート・マルファス(ea7489)を見て、愛馬・紅蓮へ餌を与えていた蓬仙霞(eb9212)が眉を顰めた。パール・エスタナトレーヒ(eb5314)も愛梟の傍らで頷く。
 彼が身に付けていた防寒具と思しき物は、エチゴヤの印が編みこまれた手編みのマフラー。目的は防寒というより明らかに販促グッズであろうそれ。
「雪山が寒いって事は知ってたけどさ‥‥」
「まあ、ここまで来てしまったのだから、今あるもので何とかするしかないだろう」
 考えるように片眉を上げ反駁に口を開きかけたハルワタートに、大江晴信(eb3385)が毛布を差し出しながら苦笑交じりに間に入り、その対応に話の流れが変わる。
 パールも防寒具を備えていなかったが、彼女の場合は最悪誰かの外套の下に入る事も出来る。
 簡単に食事を済ます段になり保存食を持たない者がいたことについては、仲間達が皆多く持参していたため不足は補えた。
 助け合う事で補える。だからこそパーティ。けれど、それに甘え備えを怠るのでは本末転倒であることを知らなければならない。
 野営の順を決め、交代で休む事を決めたパールは、明日の段取りについて取り纏める。
「デビルと思われる存在が認められていますけれど、皆さん捜索を優先させる方向で良いのでしょうか?」
「私は先に村に行って大雑把でも良いから山の地図が無いか聞いてみるわ。あればダウジングペンデュラムが使えるもの」
 一様に頷く中で、フェリシア・リヴィエ(eb3000)が申し出る言葉に、落ち合う場所を決める。
 思いついた中で使えそうな手段は全て試してみるべきだとハルワタートも同意し、晴信は村の方角と山へ入る道を確かめる。
「かなり深刻で厳しい依頼だが、急を要するからこそ‥‥対応や方針はしっかり決めておかないとな」
「子供達の生存は絶望的かもしれないが、それはボクらが決める事じゃない。希望は捨てない」
 万一の場合でもせめて‥‥と話す霞に「そうね」とフェリシアは小さく頷いた。
 夜についても徹夜があるから何とか頑張れるはずと成功を願い気負うパールに分担上、先に見張りとなった晴信は小さく笑う。
「俺の方が多分体力的にも慣れてもいるだろう。一人無理せずとも大丈夫だ。まだ先は長いからな」
 油を足したランタンを先に休む仲間に渡しながら、ハルワタートも愛犬シェラを膝に暖を取る構えでテントへと彼女らを送り出した。


●彼女達の憂鬱
「ねぇ、あれは何だろう?」
「何かな? 何だろう?」
 ついと指差された先に見えるは、一面の白と微かに混じる深緑の上に落ちた影。
「素敵。天馬だね♪」
「ペガサスだね☆ ああ、でも‥‥」
 はしゃぐように掌を打ち合わせた少女達は、一転表情を曇らせた。
「何か乗ってるよ」
「‥‥冒険者かな?」
 互いに顔を見合わせると、少女の片割れは道化のように両の手のひらを天へ向け、肩をすくめて見せた。
 残る一人は首を傾げ、影の動くさまを見ていたが‥‥。
「お祝いする前に、騒ぎになると悪戯がばれて怒られちゃうね‥‥邪魔だな」
「邪魔だね。でも怒られるのもヤだし‥‥止める?」
 う〜んと考え考え相談していたが、片割れがいやいやをするように首を横に振る。
「勿体無いよ!」
「どうしよう? ていうか、何してるのかな?」
 冒険者らが上げる声に気付き、リリスらは首を傾げたまま耳を澄ました。


●冒険者達の憂鬱
 晴信の先導で揃って入山を待つ冒険者らの元に落ちる鳥にはあり得ない大きな影。
 1日目の野営地から仲間と別れ真っ直ぐ村へ向かったアランブルジュに乗ったフェリシアだった。
 待ち合わせの目印は、白と緑の山の裾だけに仲間達の場所に広げられた赤や青の布と、空を舞う事の出来るパールの姿。
 布は雪に隠されがちな道を見失わぬよう、登山中にも道脇の木へ結んでいく手はずになっている。
 ハルワタートや晴信らの馬には凍った傾斜を登るには厳しく、麓へ置いていくことになった。
 紅蓮も村へ向かわせるには難しいだろうと彼らの馬と共に居る。
 軽やかに仲間達の待つ場所へ降り立ったフェリシアは、手に入れた簡単な山の地図を皆の前に広げた。
 それは地図とは言い難い大雑把なもので、だが村にたった1枚しかないそれを借り出すわけには行かず、手持ちの布の1枚に写して来た物だ。
 筆記が日常的に必要と思われない場所で精緻な地図は望みにくい。
 今いるおよその位置を指し示した後で、村の場所と子供達が隠れて遊ぶ辺りを伝えれば、村へ寄るよりも真っ直ぐそちらへ向かった方が早いように思えた。
 事前に晴信やパールがフェリシアに託し伝えていた事も漏れずに答えると、今度はハルワタートが瞳を眇めて指し示した。
「登ってきた場所から見えた方角だよな。道があるのとは違う感じでこの辺りは木がまばらだったんだよ」
「ああ、それは俺も思った。雪で埋もれているとかそういう風には見えなかったんで気にはなったんだが‥‥」
 目の良い彼らの言葉にパールは何かを考えるように首を傾けた。
 子供が語ったデビルの言葉に、地に属する魔法の使い手ではないかと予想していたのだが、何かが引っかかる。
「何がだめなんですか?」
「ダメッてんじゃなくて注意が必要そうって言い方のが良いんだけどな」
 雨が降った時、その雨量が降った場所の許容量を越えれば大地は雨ごと流れてしまう。
 流れやすい場所には植物や木は定着しない。生えても流されるか、生えるための栄養や種ごと地面がえぐられているからだ。
 そして植物が大地に網のように根を巡らせているか否かで大地の支える力も変わってくる。
「多分、雪でも同じことが言えるんじゃないかと思うんだ。まあ、雪崩が起きる詳しい原因てのはわからんがな」
 晴信は小さく息を付いた。雪上に詳しい者が居ない事が彼らにとって非常に痛いところだった。
 後は迂闊に獣が通った痕跡も無い場所を避けて、捜索重点箇所へ向かうしかない。
「村人達も言っていたのだけれど‥‥この時期は雪崩も起こりやすい場所があるらしくて、夏なら地面の状態もわかるのだけど」
 抉れた地面も、うっかりすると雪の膨らみで大地があるように見えてしまう箇所もあるらしい。
 だから、子供達へ冬山へ行くことを禁じていたのだという。
「デビルと出くわす前に見つけられるかどうかだな。遭難者の捜索は早い方が良いんだろう?」
 木々の合間から覗くいやに晴れた空を見上げ、促す霞の言葉に冒険者らは雪山を登り始めた。


●冒険者達の推測
 大声で呼びかける声が山間にこだまする。だが夏と違いこだまはさして響かず吸い込まれるように消えてしまう。
 子供らの話から検討を付けた場所付近を巡っていたが、呼びかけに応える声は無い。笛の音に返る音も無い。
 捜索をした箇所と道を見失わぬよう結びつけた布と、目印に刺してきた木の枝をどれ程重ねてきたのだろう。
 フェリシアのダウジングペンデュラムも、元が大雑把なためおよそ今居る位置付近を示している事しかわからなかった。
 油断すれば足を取られ滑り転ぶ事も少なくない凍った地面は、彼らの体力の消耗を早めていた。
「人間歩くにしても、無意識のうちに決まった道を辿る習性があるんだと。最もこれは大抵の動物に言えることだけどな」
「成る程な‥‥だが、デビルに追われ逃げ惑う最中では道を失い危険な箇所に踏み込んでしまっても不思議は無いのではないか?」
 傍らの樹に手をつき知識を語るハルワタートに、霞は防寒着の下の柄を確かめるように触れ問い返す。
 晴信も凍え固まる手指を伸ばし縮め、感覚を失わぬように気遣うも、自分で思う以上に体は冷えてきている。
 捜索の音とは異なる切羽詰った笛の音が響いた。バサバサと羽ばたき降りるオウルの背からの声。
「リリスがいました!」
「尋ね人は悪魔が先‥‥か」
 白革の手袋をはめ直し、ハルワタートが呟くように零した。


●彼女達の気まぐれと‥‥
「バッカみたい!」
「あたし達の遊び場に入ってきた人間なんてもういないんだから」
 冒険者らの声を聞き、彼らの目的を察したのだろう。
 ぷんすかと中空で器用に地団駄を踏むリリスらに、すらりと日本刀を抜き放ち、挑発的に霞が言葉を投げる。
「来なよ。遊びたいならボクらが相手してあげるよ」
 残雪に凍る足元を確かめるように踏みしめながら、挑発するようにシールドを持つ手で手招いてみせる。
 空も飛べなければ飛び道具も無い不利を自覚し、近接距離に持ち込めないかと狙っての事である。
「行く訳無いでしょ?」
「バカじゃない?」
 彼女達は楽しく『優位に』遊びたいのであって、その彼女達より高い位置を余裕で取ることのできる存在を知っていて尚、うっかり近付くほど魅力的な事がある訳ではない冒険者達の傍に行くほど悪戯好きの彼女らの頭は悪くは無い。
 霞だけならばともかく‥‥羽ばたく音の力強さにフェリシアのいる方を忌々しげに睨む。
「邪魔されてむかついたんだからっ!」
「いやーっ、もう気晴らしばれたら怒られちゃうのに」
 何かに拘るように駄々をこねるリリスらの姿にパールは何か引っかかったが、それを考えるよりも目の前の状況を打破する方が先決と己がペットであるオウルの背からリリスを見遣った。
 パールの高さはリリスらのいる高さと同じくらいだったが、攻撃の距離が足りない。
 気掛かりは幾つもあったが、距離を詰めフェリシアと連携取れれば良いのだろうが、これ以上追い詰めると何をしでかすかわからない様子が気掛かりだった。
 上手く取れる手段がかみ合わず指輪にあしらわれた緻密な聖像を知らず撫ぜる。
「でも気晴らしできないで怒られるだけなんて」
「「もっとイヤー!!」」
 ぽいぽいと炎を生み出し足元に投げつけ始めたリリスに、フェリシアが慌てて行動を留めるように聖なる光ホーリーを放つと、主に従うようにアランブルジュもリリスに投げかける。
「なっ、残雪の上で地面が緩むような魔法を使ったら!」
 晴信が顔色を変える。そこまで言われれば、言葉の先に続くものは他の者も用意に想像できた。
「それってヤベェんじゃ?!」
 途端に大慌てでハルワタートが滑る足元を厭わずリリスらが居る方へ駆け出す。
「痛いっ!」「いた〜い!!」
 駄々をこねる子供のように更にヤケになって炎を投げつけるリリス目掛けアランブルジュは大きく羽で宙をうち駆ける。
 彼女らに届く攻撃手段が取れるのがフェリシアだけなのだから、止めなければならない。
「いい加減になさいっ!!」
 間に割り居るように滑り込み、フェリシアはホーリーを再度放つ。
 地上に居る仲間にこれ以上一方的な投げ掛けを許すわけにはいかない。
「くそっ、間に合うか?」
 滑る足元が恨めしく、何より凍えた己の足が思うように動かずリリス達までの距離が遠い。
 アイスコフィンで緩む雪を止めなければと思ったものの、そんなハルワタートの想い空しく嫌な音が冒険者らの耳に届く。
「駄目だ、戻れ!!」
 雪上を歩くに長けたウルの長靴に助けられ、ハルワタートに追いついた晴信がその腕を掴み引く。主人を止めるようにシェラもその足元へ食い下がったその直後、リリスらが炎を投げつけていた場所で異変が起きた。トルシエが大きく吠える様子に、パールがはっと顔をそちらへ向けた。
 大きな音と共に残雪が緩み流れ出す。周辺の木々を巻き込み、ある一点からくさび状に雪が斜面を滑るように動き出した。
「雪崩か!」
 呻くような呟きは誰のものだったか、局所的な白い濁流が発生する。
 その轟音に満足したように手を打ち合わせたリリス達は、ちろりと赤い舌をフェリシアに向けて出すと青い空の下で掻き消えるようにその身を溶かした。
「皆、大丈夫?!」
 アランブルジュと大地に舞い降りたフェリシアが駆け寄ると、仲間達は一様に苦い表情を浮かべていた。
 リリス達が姿を消した事に油断無くデルホイホイと暫し空を旋回していたパールも地上の仲間の下へと降りる。
「大規模な流れるものじゃなかったのが不幸中の幸いか」
 晴信の視線の先で、白い悪魔は燻るように未だ白い粉を散らしていたが、村や冒険者を飲み込むことも無く落ち着こうとしていた。
「くそっ!」
 狙いを察し止められなかった事をハルワタートが幹を打つ。
 リリスは目的を本来の狙いから逸れつつも果たせたからか、山を去ったようだった。
 憂いを果たす事が出来たのかわからなかったが、脅威を取り払う事は出来たのだと信じ、霞は仲間を促して捜索を再開させる。
 先ほどの雪崩に巻き込まれていないことを祈ったフェリシアの想いが通じたのか‥‥冒険者らは、物言わぬ体ながらも幾人かを家に送り届ける事が出来たのだった。