届け物は、うるわしき銀華

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 72 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月24日〜01月31日

リプレイ公開日:2008年02月02日

●オープニング

 今日もパリの冒険者ギルドには、依頼を探す冒険者と、冒険者へ頼みたい依頼者とで、ごった返していた。
 雑多に賑わう人々の隙間を縫うように、するりと受付卓までたどり着いた1人の男は、手近なギルドの受付係と思しき者へ声を掛ける。
「荷運びの護衛を頼みたいんだけど、誰か受けてくれる奴って、いる?」
 商人風の身なりの男は、冒険者ギルドの受付係が立っていた応対用の長卓子に肘を付きながら、唐突に切り出した。
「どうでしょうね‥‥どれくらいの力量の冒険者をお探しで?」
 突然振られた話に動ずる事も無く、壁に並ぶ依頼書をちらりと一瞥してから、受付係は手元の羊皮紙をめくる。
「駆け出しのひよっこじゃなきゃ、そんな苦労は無い依頼だと思うんだけどさ。んー‥‥どうすっかな。そりゃパリでも腕っこきの冒険者を頼めれば、何の不安もないだろうが‥‥」
 その分、金も掛かるだろう?と、男は右手の親指と人差し指で輪を作って見せた。
「‥‥それでは、依頼内容はどのような?」
 少しだけ考えて、受付係は問う向きを変える。受付係の言葉運びに、男は人懐こそうなはしばみ色の瞳を面白そうに細める。
「端的に言えば、俺のお使い道中の護衛かな」
「お使い‥‥」
 さらさらとペンを走らせはじめた受付係の手元を覗き込みながら、男は依頼内容を語る。
「マント領にある、工芸品を扱う細工師達が住む村に行って、仕上がってるはずの品物を受け取って、パリのとある方に届けなきゃいけないんだけどさ。‥‥最近やったら盗賊が多くてねー‥‥」
 やれやれという風に肩を竦めてみせる。身なりと話から判断すれば、男は商人のようだったが、受付係が見る限り、背も高くしっかりした体躯に見える。腕や手が見えれば、荒事にも応じられるか判断できるのだろうが、防寒も備えた厚い外套と手袋の下の様子は、如何とも判断がし難い。
「マント領を通る街道沿いの街や村で、商人達も協力して自警団を作ってみたり、ご領主殿の騎士達もマメに領内をまわってはいるんだけどさ‥‥どうにも、隙を付いてくるいやに狡賢い奴らなんだよなー。結構前、マント領内が未だどたばたしてた時は手がまわらなくって、こっちにも協力の依頼出してたって聞いたから」
「ああ、それで‥‥」
 得心がいったか、同意するように頷いた受付係がそこまでの概略を書きとめるのを見届けてから、男は再び口を開いた。
「内密にお願いしたい話なんだけどね‥‥今回の細工は、新しい技法を試したとっておきだからさ。最初の品物を届ける先も、とっておきってワケ。盗人どもにくれてやる訳にはいかないのさ。だから、そうだな‥‥目立つのも避けたいし、その辺とか色々上手く考えて配慮してくれる冒険者に頼めれば良いな」
 確かに細工師の村から出立した、いかにもな様相の護衛と荷隊では、盗賊に狙ってくれといわんばかりだ。道の案内は、品を運ぶ荷馬車の御者も兼ねて男が請け負うという。冒険者が考えるべきは、如何に細工品をパリへスムーズに守り、運ぶかだけ。盗賊の話は、噂に聞く限りは、時間を掛けず奪える分だけ奪い去る――腕の立つ数名構成の一団なのだという。力押しはせず、盗みの可否判断の早さと、その引き際の良さから、自警組織の者達は苦戦しているらしい。
「求めに応じてくれた冒険者が4人程なら、野盗の捕縛までは無理だな。最大限集ってくれれば‥‥『野盗退治』と『荷運びとその護衛』の2手に分かれる事も出来そうなんだがなぁ‥‥」
 無精ひげの生えたあごを撫でながら、男は何か考えるように呟いた。
「まあ、あれだ。とにもかくにも品物を受け取って、無事パリに帰ってくるのが最優先だな」
 依頼ちゃんとよろしく――と、言い置いて、男はさっさとギルドから出て行ってしまった。扉を潜る際に、1度だけ受付係を振り返る。
「ちゃんと俺がお使い行けるよう祈っててくれなー」
 と、にこやかに手を大きく振って――扉が閉められたのだった。

●今回の参加者

 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb5266 フランシス・マルデローロ(37歳・♂・レンジャー・パラ・ノルマン王国)
 ec2494 マアヤ・エンリケ(26歳・♀・ウィザード・人間・イスパニア王国)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)
 ec4371 晃 塁郁(33歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

乱 雪華(eb5818)/ コルリス・フェネストラ(eb9459

●リプレイ本文

●出立
 冒険者らは、荷馬車の御者台の脇に立つ依頼人を見上げる形で出迎えられた。人間である事を考えれば、それなりに高い部類に入るだろう。背もすっきりと伸びていて堂々とした雰囲気は一介の商人ではなくとも通じそうである。けれど、口を開くと印象はがらりと変わる。
「おー‥‥揃ってるな。んじゃ改めて、俺はシャリオ。宜しく」
 依頼人はシャリオと名乗り、人の良い笑みを浮かべ大きな手を差し出した。
 差し出された手をフェリシア・リヴィエ(eb3000)が握り返せば、その大きな手は硬い。商人という素性に不審を持っているわけではなかったが、感じた既視感からくる違和感をフェリシアが口にする間も無く、シャリオはマアヤ・エンリケ(ec2494)や晃塁郁(ec4371)とも挨拶を交わし、フランシス・マルデローロ(eb5266)や元馬祖(ec4154)に対しては背丈を合わせるように、膝を付き依頼を請け負ってくれた事の感謝を述べていた。
「で、その格好が目立たないための知恵ってことか」
 コルリス・フェネストラにより一般人を装う事を試みていた冒険者らを見てシャリオは笑みを浮かべる。一般人――武器を持たぬ者に紛れ込もうとする場合、携行する物にも気遣わなければならないが、大きな武具に頼る事が少ない武道家を中心に、クレリックとウィザードという編成はその点で利があった。唯一、隠しにくい武器を持つフランシスも生業の猟師に成りきる事で上手く装備を己に沿わせている。自分の要望を叶える冒険者らの気遣いに嬉しそうだったシャリオは、順繰り見回していた視線を塁郁で止めた。
「普通の旅人には不相応だろ、そりゃ」
 亜麻を使い織り上げられたヴェールの裾を掴み、シャリオは塁郁の顔を覗き込む。
 シャリオのはしばみ色の瞳が塁郁の碧の瞳を正面から捕らえる――逸らす事の出来ない強い視線に、塁郁は小さく身を強張らせた。
 そんな彼女の様子に気付かないのか、取って返した荷馬車に1つだけ積まれていた木箱の中から取り出してきた簡素な帽子を頭に乗せた。塁郁の碧の瞳と揃いのリボンが巻かれており、合わせた物では無いはずなのに、帽子は塁郁の物の様に似合っていた。
「こっちにしておけ。貸してやるから」
 唐突なシャリオの申し出に塁郁が戸惑う様子を見せると、シャリオは耳元に顔を寄せ小さく告げる。
「村では絶対外すなよ?」
 決して強くも大きくも無かったが、有無を許さない口調だった。それは一瞬で、「不要な混乱はお互い避けたいだろ?」と軽く肩を叩く。驚いて見上げる塁郁を振り返る事無く、道筋の確認の段取りへ行ってしまった。
 その後、街道の周りの様子を探りながら先行するフランシスの後を追うように、今は空に等しい荷馬車の荷台に冒険者達を乗せ、ゆっくりと荷馬車は進み始めた。


●村にて
 道中さしたる問題も無く、予定していた日数をかけ彼らは目指す村へ着いた。
 寒さを厭い、荷馬車の荷台にそれこそ荷物のように常駐していたマアヤと違い、猟師を装い道中の様子を探りながら進んだフランシスは、その際に得た獲物を村への土産にしていた。荷馬車が進む速さに対し、徒歩以外の手段をもたなかったため大きく先んじての偵察はできなかったが、帰路の確認が出来た事は大きくプラスになりうる。
 積み込みを手伝おうとフランシスと馬祖、マアヤがシャリオと共に細工師達の工房に向かったのに対し、フェリシアは村の自警団を訪れ訊ねたのは、パリまでの道で、盗賊が頻出する場所や時間帯、盗みの手口などの情報だった。用意していた地図に加えられていく情報は、通ってきた最中にもフランシスや馬祖が頼んだ乱 雪華が得た情報から重複する場所が多く――人通りが少ない場所よりも、隠れやすく逃げやすい、街道が細くなり周囲が森や山などで視界が悪い場所が中心だった。
 一方、フェリシアと同じく積み込みを行う仲間達から離れた場所にいた塁郁は、ダウジングペンデュラムを垂らそうと、自ら書いたパリから村までの簡単な地図を広げた。
 彼女が求めたかったものは『盗賊』『馬車の荷を狙うもの』など、銀細工を運ぶ上で障害となる存在を確かめられないかと思っての事。携行品の内に収めたペンデュラムを上手く取り出しかざさねばならないのだが、振り子の先に下がる存在――地図の上に落とそうとするもの、導きを指し示す小さな銀製の円錐に全く触れず扱う事は難しい。
「何をしておる?」
 実際に運ぶ銀細工の量が多く無かったため、積み込みを終えたフランシスが、迷う様子の塁郁を見つけ声を掛けた。吹き抜ける寒風に防寒服の前をかきあわせながらフランシスと揃って歩いてきたマアヤは、広げられた地図を見て何かに気付いたように小首を傾げる。
「依頼人の前でっていうかぁ、普通の村で‥‥するわけにはいかないんじゃないのぉ?」
 唇に指を当て、マアヤが伏せた言葉――出立前に塁郁自身が仲間に頼んだ事だった。暫く迷う様子をみせたが、結局ぺンデュラムは使われる事無く深く厚く布を重ねた服内に仕舞われた。
 バラバラに行動していた冒険者が全員揃った所で、村に一晩泊まり明朝出立する事がシャリオから告げられる。それにより出来た時間を使い、フェリシアは細工品を運ぶ木箱の他に万一盗賊に狙われた際は囮用の替え玉にと銀細工以外のダミーの箱を幾つか用意し荷馬車に積んだ。シャリオに理由を問われ「盗賊たちは力押しはせず、引き際がいいっていうから、ダミーがたくさんあれば迷って諦めるかもしれないでしょ?」と答えれば、彼は納得しそれならば簡単に持った重さも合わせた方が良いなと石や小物や細工を包む布などを入れ偽装を助けた。
 ダウジングが出来なかった塁郁は、フェリシアが得た情報を頼りに盗賊用の罠を用意できればと思ったのだが、盗賊が現れる場所は決まっておらず、全てに仕掛けるのも難しいと街道近隣の誰が通るかわからない場所で待ち伏せる事もできず仕掛ける事は、回収や解除に掛かる手間を考え――何より足止めに有効な罠を用意するには時間も人手も足りなかった事から、場所の確認だけを行った。
 翌朝、何より迅速にパリにたどり着く事を目標に定め、冒険者達は細工師達の村を後にした。


●パリへの道中
「どう気をつけるかも詳しく聞いておきたかったんだが‥‥空飛ぶ人間なんてのは目立つんだけどなぁ」
 小さく零すシャリオの呟きは、荷馬車の進む音に紛れ誰の耳にも届かない。シフールであればともかく、羽根を持たぬ者が箒に乗って空を飛ぶ様子は人目を惹くには十分である。既に偵察に赴き帰って来た馬祖の話によれば、暫くは盗賊の姿やその痕跡は見受けられないという。シャリオが気にする盗賊団が現れた場所は、3日間の道中で他にも幾つかあるため油断は出来ない。そもそも、力押しをしない統制のとれた盗賊団が横行するには幾つも理由があった。その1つが、血を流しすぎない事。自警団や騎士団にその尾を掴ませない為の引き際の良さは見事というより無いが、幾つかの品を差し出せば命が助かるのであれば‥‥と応じる商人も少なくないという。
「確かに以前出くわした盗賊団の引き際は見事だったわ」
 過去に依頼に応じた事のあるフェリシアは思い出すように頷いた。その時依頼に当たった仲間の数と今回請け負った人数にさして変わりは無かったが、事に対しての考え方や対応は大きく異なっているような気がしていた。状況が違うのだからそれも止むを得ないのだろうが。
「盗賊に貢物を差し出して通らせてもらうって形に近いんだよなー‥‥それが、何処に流れてるやら」
 荷馬車の手綱を取りながら、嘆息まじりに答えたシャリオの表情は本当に忌々しそうだった。
 やがてフランシスが警戒していた見通しの悪い場所へ差し掛かった時だった。荷馬車を引く馬が高い声を上げて蹈鞴を踏む。不意打ちに関らずシャリオは巧みに手綱を捌き荷馬車を止めた。止むを得ないとはいえ、足を止めてしまった馬車に馬祖は僅か唇を噛む。
「馬車をこの先へ進めてもらえないかな?」
「難しいですね‥‥馬が落ち着きません。ご丁寧に車輪の進行を邪魔するように矢を撃ち込んでいるようですし」
 出来れば先へ馬車を逃し、対応を図ろうと考えていたのは塁郁らも同じだった。御者役を買ってでもと思っていた彼女は御者台に降ってきた矢を、機敏な所作でかわした。
 彼女らが端的に言葉を交わす間に、腰の鞘からナイフを抜き放ったシャリオが迷う事無く綱を切り馬を荷馬車から解放する。
「何を?」
「このままじゃ的になるだけだ。運が良ければ落ち着いたら戻ってくるだろ」
 フランシスに腕を引かれ荷馬車の陰に潜り込んだシャリオは馬祖の問う声に慌てる様子も無く答えた。
 急に止まった荷馬車から訝しげに顔を覗かせたマアヤの鼻先を掠めたのは、鉛色の雨。それらは見る間に荷台を覆う幌を穿つ。
「ああもうっ、何なわけぇ?」
「ご覧の通り待ち人が来おった」
 数に任せた矢の雨の中、臆する事無く鋭い一矢を撃ち返しながらフランシスは次の矢を番え答える。不機嫌そうに頬を膨らませながら詠唱を始めた彼女に祝福を与えたフェリシアは仲間へ問う。
「囮で用意した箱を出せば退かないかしら?」
「どうであろうな、その場で中を検分されたら難しいのではないか?」
 矢の間隙を縫って近づこうとする盗賊に牽制の一矢を放つ。その間に幌を飛び出しながらマアヤが盗賊を近づかせぬよう立つ塁郁らを巻き込まぬようウォーターボムの洗礼を浴びせた。寒風の中、水の重みに加え普通の人間であれば冷たく凍え動きも鈍る。
「それも手かもしれないね」
 フェリシアの提案に頷いたのは馬祖。既に襤褸切れと化した幌に腕を突っ込むと荷馬車に乗せてあった己のバックパックからホーリー・ミスルトゥを引き掴み盗賊たちの方へ放り気をひく間に幾つかの木箱を荷馬車から引きずり落とした。重たげな音を立て木箱が転がる。冒険者らが盾にする荷馬車の縁の反対側に。
 意図を察した塁郁が引き返すのを助けフランシスが放つ矢は狙うものではなく牽制の意味合いだけに留める。
 盗賊が水に潰れた仲間を引き上げさせながら、木箱を蹴り飛ばし蓋を開ければ、服飾品や加工前のくず石に等しい輝石の原石が転がった。
 ただ全てを試そうとはせず、小ぶりの幾分他より堅い封が成された箱を盗賊の一人が手にする。
「それは‥‥っ」
 それをみて食い下がろうとするフェリシアを押し止める。マアヤも不機嫌そうな顔を惜しまない。最も、ただで帰さずその背にアイスブリザードを見舞ってやりたいと本気で思っているからこその不機嫌さかもしれなかったが。その背に放たれたフランシスの矢は別の盗賊に叩き落され、その盗賊という立場に似合わぬ機敏な動作にフランシスは眉を顰めた。


●そして‥‥
 戦場の混乱が去り暫くすると、シャリオの指笛に呼び戻されるように馬が帰ってきた。車輪の様子を確認していたフランシスが首を横に振るのを見たシャリオは荷台の中に残されていた――最初から積んであった箱の傍らの布袋から鞍を出した。
「仕方ない。この辺りのは後で若いのをやって片付けさせよう‥‥今はパリへ急ぐ事が先だ」
 一つだけの鞍を乗せ手綱をフェリシアに預けると、自身はもう一頭を荷車を引くための革綱を調整し簡単に乗れるように整えた。
 その間に、馬祖や塁郁に頼み崩れた木箱や囮で壊れた品々を道の端へ避ける。結果的に囮となった銀のバックル等を塁郁に拾わせるわけにいかず、マアヤも「寒いのにぃ」と零しながらも手伝っていた。
「裸馬よりはマシ程度だがな。申し訳ないが、この先の1番近い街道筋の村まではこのままだ。荷車を引く事は諦めて届けなきゃならん細工品だけでも運ぶ算段を立てないといかん」
 付近の様子を窺ってきたフランシスが戻り、盗賊たちの姿が無い事を確認すると、シャリオは騎乗の術に不確かなフランシスを先に馬上へ押し上げた。
 騎乗に慣れぬのはフェリシアも同じだが、馬の負担を考えると仕方ない。これまで荷馬車にずっと乗っていたマアヤだったが、彼女はしっかりとバックパックにセブンリーグブーツを用意していたので移動に問題なくすんだ。馬祖と塁郁は元よりフライングブルームがある。
 地面に散らばる矢の痕までは均す事は出来なかったが、荷車を端へ片付け終え冒険者達が全て揃ってから、シャリオも小さく息を吐きながら馬上へ登る。
「姫さんの買い被りか、俺のお使いって言い方がまずかったのか‥‥どちらにせよ、奴らの周到さをこの目で見たのだけは活かさんとなぁ‥‥」
 馬の扱いにも慣れ、戦闘中に臆する様子も無かったシャリオは本当に商人なのだろうか‥‥疑問を抱いたフェリシアは彼の様子を見ていたが、シャリオの小さな呟きは誰の耳にも届かなかった。馬祖の声を合図に一行は体勢を立て直すため、再度の襲撃がある前に目的を定めその場を離れたのだった。


●王国の主柱は今‥‥
 パリ――コンコルド城。
 一人の騎士が長い回廊を歩いていた。謁見の間のある方角から来たと思しき騎士が身に付ける装束に刻まれた紋は、ブランシュ騎士団のものではない。何より王国の騎士たるブランシュ騎士団は白で統一された騎士鎧を身に付けている。
「ダランベール殿!」
 掛けられた声に足を止めた騎士は、その声の主が見知った顔である事を知り、深く濃い琥珀の瞳を細め相好を崩した。
 広い王宮内で偶然知己に出会った二人の騎士は季節の挨拶を交わし、近況を尋ね合う。
「それにしても、貴方が騎士団長に就かれるとは」
「先年、色々やらかして散々荒らしてってくれたお方がいらしたものでね。マントは人材不足も甚だしく申し訳ない」
 気安い仲なのか幾分砕けた口調でその後も幾つか言葉を交わし彼らは別れた。翻る白いマントを見送りながらダランベールは、白い騎士が歩む方角――自身が後にしてきた王との謁見の間の方を見遣りながら、つるりとした顎に手を当てる。
 ウィリアム三世が先の聖夜祭の間、それに伴い催されている宴で、今までになく前向きに年頃の令嬢と話している様子から、今年の王城は縁談目当ての貴族も多数集まり、例年になく賑わっていたという噂が広く聞こえていたのだが‥‥。
 今現在、登城したダランベールの耳に入ってくる話はどれも芳しくなかった。国や民に影響が出るような執政に響く状態にはない。無いように側近達が上手く計らっているのだろう。執務は何とかこなしているものの、決して芳しくなく、日によって調子は異なるが、概ねその健康状態は執務をこなす事がやっとだという。都入りしたばかりの地方騎士であるダランベールの耳に入ってきてしまう程の状況。
「‥‥姫さんの心配事を減らしてやるどころか増える一方だなぁ」
 聖夜祭の間、パリに現れたという情報があるかつてのマントの災厄の主然り。
 ダランベールは瞳を細め、一人呟きを零した。