【潮風を纏う姫】 レンヌの公女、花の都へ

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月07日〜06月12日

リプレイ公開日:2008年06月17日

●オープニング

 依頼を探す、あるいは依頼から戻り報酬を得るために立ち寄ったりする多くの冒険者や、彼らを頼るために訪れた人達などで賑わうパリの冒険者ギルド。
 そこへまた一人、冒険者を頼るべく訪れた男がいた。
 身なりのよいお仕着せに身を包んだ男は、良い家の従者か何かだろうか。
 受付係がいるカウンター台まで歩み寄ると、奥で書類を探していた受付係をやや高慢な態度で呼びつけた。
 横柄な態度に嫌な顔をする事も無く応じた受付係が用件を訊ねると、男の口から出た言葉に、自分の人物眼は間違っていなかった事を知る。
 曰く、今現在パリへ向っているというその男が使える家の姫を迎えに行って欲しい‥‥という依頼だった。


●レンヌ公爵からの依頼
 マーシー1世はとうとう絵姿や手紙などではなく、娘達を呼び寄せる事にしたらしい。
 その内の一人を迎えに行ってほしいという依頼に、受付係は首をひねった。仮にも公爵家。護衛の騎士など幾らでも用立てられるのではないか。遠いパリからレンヌの地まで、冒険者を出さずとも‥‥。
 公女は、領内でも剣を取り女だてらに騎士たちと共にモンスターを討伐に赴いたり、馬を駆り領内を回ったり等、精力的なお姫様らしく、不穏なノルマン王国の情勢下でも陛下を助け支える事の出来る強い妃になれるのではないかというのが、父親であるマーシー1世の推薦の理由らしい。
 護衛を連れて馬車に揺られてという道中は時間も掛かるため、馬車ではなく、直接馬に乗り、なおかつ護衛も振り切って単身上京を選んだらしい。
 レンヌから後を追って公女に追いつくのは難しいが、逆に公女が向かっているパリ側から迎えに行く分には上手く捕まえられるだろうと、マーシー一世からの依頼だった。
 名前はフロリゼル。花の名を持つ公女は、マーシー1世ご自慢の娘の一人らしい。
 名前負けなどしない美女だという話だが、護衛もつれず、馬車の旅を拒否して、馬の手綱をとって上京中という行動っぷりは、相当のはねっかえりなのだろうか。
「娘気に入りの馬は、見間違えようも替えようも無い。偽名を使っていたり、身なりを一人旅に向いたものに替えていようとね。娘自慢の良馬‥‥一日に千里を駆ける、とまでは言わないが、鼻先に白い菱型の紋様がある体躯も大きい黒鹿毛馬を連れた一人旅の女なんて特長は、うちの娘だけだろう」
 護衛の騎士を振り切って、パリに来る道を選ぶほどの乗馬の腕と、気の強さを持つ公女など、確かにそうはいないだろう。
 主人が話していた特徴をそのまま受付係に伝えた男は、続けて主人の言伝を話した。
「きちんとパリの私の下へ連れてきて欲しい。パリの冒険者ギルドの冒険者達ならば、我が娘一人連れてくる事など難しくないだろう?」
 どこまでも主人も従者も揃って高慢な物言い。受付係には、それがかえって挑戦的な言い方に聞こえた。
 冒険者への挑戦なのか、周囲全てに挑まれている事なのかはわからなかったけれど。


●その頃、噂のお姫様は‥‥?
「あらら‥‥これはちょっと困ったわね」
 言葉ほど困っていなさそうな声。人間、本当に困ると大した言葉は言えないのかもしれないが。
 目の前に突然現れたオーガの群れ。その数を目端で素早く捉えると、女性は油断無く腰へと手をやった。
 長い旅路ですっかり薄挨に塗れてしまった外套の下で手にしたのは、使い馴染んだ長剣の柄。返る感触は硬く冷たいけれど、手に馴染むその感触は頼もしい。
「‥‥‥‥見逃してくれはしない雰囲気かしら」
 方角的に近道はこっちか‥‥などと、少し街道を外れてしまったのが行けなかったのだろう。うっかりオーガの巣穴の傍に踏み込んでしまったらしい。
 殺気だったオーガ達を目の前に、女性は小さく吐息を零した。その気配に気付いたのか低く噺いた愛馬の首を撫でる。
「ちょっと大変そうだけど、一緒に頑張って頂戴。だって街道からそんなに遠くなかったのよ? このままにしておいたら、この辺りの民が困るかもしれないわ。ご近所さんの憂いを出来るだけ晴らしていってあげましょう」
 応える様に鼻を鳴らした頼もしい相棒の様子に微笑んで、女性は手綱をしっかり握り締め直す。
 主人の求めに応じ、額に星に似た紋様を浮かべた黒鹿毛馬は、臆する事無くオーガの群れ――頭領と思しき一際大きな体躯を持つ双角の鬼目指し駆け出した。

●今回の参加者

 ea2389 ロックハート・トキワ(27歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3692 ジラルティーデ・ガブリエ(33歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec0132 カサンドラ・スウィフト(35歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec0234 ディアーナ・ユーリウス(29歳・♀・ビショップ・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

レムリィ・リセルナート(ea6870

●リプレイ本文

●ファーストコンタクト
 初夏の陽射しの下、平穏に近い静けさを破る鷹の声。
 少しでも先を急ぐ中、依頼で聞いた特長を持つ旅人を報せる声がシャルウィード・ハミルトン(eb5413)の耳に入った。
「見つかったの?」
「‥‥ああ」
 馬上から問うカサンドラ・スウィフト(ec0132)に、短く頷くとシャルウィードは街道筋を外れる方向へと駆け出した。
 先へと誘うように、シャルウィードの鷹・ハルバードが青空を滑るように翔けていく。
「レンヌからパリへの方向に間違いないけれど、道を外れているわ」
 急な方向転換に従うように手綱を手繰るカサンドラの耳に、レンヌに縁浅からぬユリゼ・ファルアート(ea3502)の惑うような呟きが聞こえた。
「剣戟に似た音が聞こえる。シャルウィードにも聞こえてるんじゃないか‥‥?」
「可能性があるなら行ってみなければね」
 剣戟という穏やかならぬ言葉にカサンドラが馬の腹を蹴り駆けようとする前に、ぽつりと零される言葉。
「‥‥エリーの蹄の跡を追えば大丈夫なんじゃないかと思うが」
 ロックハート・トキワ(ea2389)がちらりと振り仰いだのパリの方角。後から追いかけ走ってくるだろう仲間の事。気掛かりに気付いたユリゼはバックパックから貝殻を取り出し投げ渡した。それを受け取ったロックハートが貝の中に収められた紅で印を残すと、魔法の靴を履き駆けるシャルウィードを追いかけ走り出した。


「‥‥って、‥‥見事な遭遇っぷりね‥‥」
「オーガの群れに喧嘩売ってたのかよ。いい教育してるぜ、あの公爵。さ、死なれたら依頼失敗だ。あたしらも混ざろう」
 話は聞いていたものの実際己の目で見た雑木林の様子に、苦笑とも呆れともつかぬユリゼの感想。それを聞き派手に顔を顰めたシャルウィードは、首裏を掻いて息を吐いた。
「ええ。一人は無茶よ。皆で切り抜けましょ」
 頷くユリゼが『一人は無茶』と評した戦場。疎らな木立を抜けた先に広がる空間に居たのは、10匹ほどのオーガの群れ。一際目を惹くのは、一番体躯の大きなオーグラ。そのオーグラを前に長剣を抜いた一人の旅装の騎士が居た。騎士の傍らには、額に星を刻んだ頑強そうな黒鹿毛馬。これほどの距離から一目で分る良馬とその特長‥‥冒険者らが迎えに来たレンヌの公女に間違いなさそうだ。
 木立を抜けるべく再び駆け出した冒険者らの眼前、オーガ達と距離を詰めるべく駆ける間に戦況を見たロックハートは、余り動かぬ表情の下で僅かに瞳を細めた。
 ハルバードを通してシャルウィードに聞いた話では、件の公女は馬上に居た筈だったが、既に馬を降りている。オーグラを相手に、周辺の雑木を上手く利用して周囲の敵もいなしており、多勢を相手にする戦い方に慣れている様子だった。
「‥‥騎士の戦い方じゃないな。ま、親バカでも、口だけ、形だけの奴ではなさそうだ、うん」
 どこか自分に言い聞かせるように呟いて、ロックハートは鋭い小型の槍を手に戦闘の喧騒の中に身を潜ませた。
 駆けつける間にオーラを纏わせた両刃の直刀をカサンドラが振るう。生み出された衝撃が冒険者らに一番近い位置に居たオーク戦士を襲った。濁った聞き取り難い悲鳴のような声を上げるオーク戦士に周囲にいたオーガ達の何匹かが振り返り、その場に現れた新たな闖入者の存在に気付いた。頭領へ報せる声を上げる間もなく、彼らは再び悲鳴に似た声を上げることとなる――季節外れのブリザードが襲ったからだ。ユリゼ‥‥冒険者らの現れた側寄りに居たオーガは、疎らに生える草木ごと白く凍てついた色に染まっていた。
 冒険者らの存在を見て取り公女が下した判断は早く、その場から黒鹿毛馬を離れさせる。助っ人が来るまで、蹄で踏み抜き、あるいは蹴り飛ばすなどで主を助けていた馬は、主の言葉に従い戦場を離れた。
「良くあそこまで慣らし込んだもんだ。‥‥さあ、お前ら! 汚ぇ顔、並べてとっとと殺されに来な!!」
 シャルウィードが感心したのは一瞬の事。後半、オーラテレパスによって挑発するようにオーガ達に向かい声を上げた彼女の狙い通り、氷の欠片を踏み砕きながら、幾匹かが向かってくる。林の方へ引寄せて、木立を利用して迎え撃つのは枠に捉われない傭兵ならではの彼女の戦い方だ。
 ユリゼが邪魔な木の根を操り避け出来た道の先、カサンドラが公女の元へ追いつきオーグラ目掛けて重い衝撃を伴う一撃を見舞った。
 後を追おうとするオーガの足元を掬ったのは、先ほどユリゼが命じ抜いた木の根だ。おまけを残していた彼女は、更に幻影でオーガを覆い同士討ちを狙う。惑うオーガ達へ音も無く近寄り、急所を狙い的確に沈めていくのはロックハート。
 それでもオーガ達もただ屠られる一方ではなかった。オーグラの鋭い叫びに呼応するように戦士として練れた動きを見せる。体力だけでなら早々引けも取らない。無造作に振り回される武器をあしらう中で負う怪我は、回復魔法の使い手が不在のパーティ。回復薬に頼るしかない。倍の相手を敵に向かわなければいけないのだ、1匹に掛けている時間は多くは取れない。
「今は俺だけを見ろ‥‥」
 そんな混戦の中に、追いついたジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)がオーガ達に言い放った。見ればふわふわした兎の耳を模した飾りのついたヘアバンドを着けた自分とそう変わらぬ身の丈の鎧を着た男が居る。冷静な表情の上、頭上にゆれる兎の耳。とても目立っている。
 戦場の空気の下、纏う本人も真面目ならば、言葉も真面目だったが‥‥おかしい。いろいろな事が。つっこむ事も出来ず、ジラルティーデを見てしまったオーク戦士に一瞬だけ隙が生まれた。その隙をロックハートが見落とす事無く、急所を一撃貫き倒す。
「ナイスだ」
 ロックハートは、ぐっと親指を立てジラルティーデを労った。
 ジラルティーデ・ガブリエ、25歳。騎士として良いのか自問自答する間もなく、オーガの掃討に加わった。
 オーグラを相手取っていたカサンドラは公女と二人、相手に攻撃の隙を与えない連携攻撃を重ねる。焦れたように大きく獲物を薙いだオーグラの一撃をやり過ごし、剣を返す。ダメージを重ね、体力に勝るオーグラをじりじりと追い詰める頃、既に周辺のオーガ達を倒した仲間も追いつき、双角の鬼は冒険者らの前に倒れる事となった。


●ファーストコミュニケーション
「まずはお礼を言うべきでしょうね」
 剣に付いた血脂を軽く払って鞘に収めながら公女は冒険者らに向き直った。戦場の緊迫感は去り、森には初夏の葉ずれの音が流れる日常が戻っていた。落ち着いた気配を察したのだろう、公女の愛馬と共にカサンドラのエリーも主の下に帰ってきた。オーガの死体の処理については、この近隣の自治組織の自警者に頼もうという話になっていた。巨躯を誇ったオーガも少なくなく、この人数では力も手段も不足していたからだ。
「いや、礼はあんたの父親から貰う事になってる。あたしらはあんたを迎えに来たんだ」
 言葉と共に放られた封をした卵大の壷を取り損ねる事無く公女は難なく受け止めた。
「あんたの連れてる馬はそうそう見ないご立派な馬だしな」
 冒険者達の言葉は率直だった。
 元より公女には、伝え聞いた性質を検討した上で、駆け引きなしで事情を説明する事にしていたからだ。
 よく日に焼けた肌理の細かい肌、緩く波打つ濃い蜂蜜色の髪を簡素な組紐で一つに束ね、質素な旅装に身を包んだ公女は、海の蒼を思わせる鮮やかな瞳を瞬かせた。シャルウィードを見つめ、次いで依頼された特長を教えたロックハートを見、順繰りに冒険者らを見遣り、視線が一巡するとため息を吐いた。彼女らの一言で、自分の素性も目的地も彼らが知っている事を理解したのだ。
「‥‥それじゃ今回の戦闘で使ってしまったポーション類とかも全部父上に請求しちゃって頂戴。割合高価なものだもの‥‥冒険者だったら消費した分の同じ品物の方が良いのかしらね」
 つくづくざっくばらんな受け答えの公女である。
「事情はともあれ俺達は貴方を歓迎する」
「パリへようこそフロリゼル様、凛々しい貴女を興味を持って歓迎します」
「私は、マーシー1世の娘の一人、フロリゼル・ラ・フォンテーヌよ。父上からのお遣い、ご苦労様」
 しらばっくれる事はせず、あっさり公女である事を認め、ジラルティーデとユリゼが笑顔と共に丁寧に迎える礼に応え、改めて身分と名前を名乗った。逆に身分を知っているシャルウィードらのぞんざいな物言いに腹を立てる様子も無い。
「ラ・フォンテーヌ?」
 訝しげに繰り返したシャルウィードに、フロリゼルは軽く笑んだ。
「ノルマンには珍しくない姓ね、母方の姓よ。私は父上‥‥マーシー1世の娘だけれど、嫡流ではないの」
 ノルマン王国の国教・ジーザス教では、一夫一妻を唱えてはいるが、王族・有力貴族は家系断絶の予防、あるいは婚姻政策のために側妾を複数持っているのが実情だった。それを思えば、ただ一人の妻すらも娶らず、後継者問題を助長するかのようなウィリアム3世の今の行動こそが問題なのだろう。
 落ち着いた場所で言葉を交わし、よくよく公女を観察してみれば、全く化粧気のない顔も美貌を損ねる事などなく、一言でいうなれば健康的な魅力の美女だ。
 確かに造作は一般的には美形‥‥それもとびきりの部類に入るだろう容姿をしている。レンヌ公の親バカでは無かったらしい。
 話す声は女性にしてはやや低めだが、語り口は柔らかい女性のもの。かといって、幾分きびきびと言葉を区切る話し方をするものだから、姫君や公女というより、旅装の騎士そのものにしか見えなかった。女性としては高い部類に入るだろう身長も手伝って、少し離れた場所から見かければ、細身の優男系騎士にしか見えなかったかもしれない。
「‥‥初遭遇が印象に強すぎるからか、ドレス姿が想像できん」
 ほんの僅かに眉を寄せぼそりと零したロックハートの呟きを聞いてしまったユリゼがくすりと笑み零す。左右で違う色の瞳を和ませる。
 ユリゼには、何か少しだけマント領主・クラリッサやブランシュ騎士団団長達と同じ空気が感じられた。
「陛下の事どう思われますか? 勿論地位ではなくご本人を」
 その雰囲気も手伝ってだろう、ずばっと切り込んだユリゼの問いに、フロリゼルは穏やかに微笑んだ。
「父上から私がパリに来る理由を聞いてるでしょうに、率直なのね。回りくどい貴族達の会話より私は好きだけれど‥‥。そうね、尊敬しているわ。1度は亡国となったノルマン王国を取り戻された英雄王ですもの」
 レンヌから出るのは初めてで目通り叶った事が無いから、吟遊詩人達の歌う王の姿と実像がどのようなものなのかはわからないけれど』と公女は笑った。
「「「‥‥‥‥‥‥」」」
 話をする限りでは、夢見るお姫様ではなく現実と虚像の境はつくらしい。
 パリの街をお忍びで(冒険者にはばればれだが)、ヨシュアスと名乗っては誰憚らず市中をふらふらし、ブランシュ騎士団の団長以下分隊長達にまで心労・苦労その他諸々を掛け続けている王様だなんて、知っていても冒険者達は言えなかった。言えない理由は、公女を慮ったり、どうでもよかったり、行けばいずれわかるだろうし、とか個々人によって様々だったわけだが。
「いずれにせよパリに向かうなら肩を並べた戦友同士、旅の道連れなどどうだろう? 望むならパリの案内も出来ると思うが」
「ええ。依頼を受けお迎えに上がりましたが‥‥急ぎとは聞いていません。 少しご一緒してみませんか」
「公女殿下と一緒にパリ観光も楽しそうね。銀花亭とか有名なお店にも行ってみたいわ」
 ジラルティーデの提案に、ユリゼも頷くとカサンドラも勧めた。
 地方に在っても話に聞こえてくる都パリの有名な通りの名や、そのパリに実際ある店の名を聞いて公女の瞳が興味深げに揺れる。だが、逡巡は一瞬の事だった。
「貴方達が父上の依頼で来たのでなければそれも面白かったかもしれないわね。パリに入ったのならまず何より先に父上に挨拶に行かないと‥‥私が行かないと貴方達への報酬も入らなくなってしまうわよ」
 両の手のひらを天へ向け、軽く肩を竦める。おどけた仕草は姫君らしくはない。そもそもどういった素性の公女であるのか、レンヌからの距離を思えば仕方ないが、冒険者らには詳しい情報が無かった。ジラルティーデが頼んだレムリィの情報にも詳しい事は無く。分ったのは、今現在、国王の花嫁候補の筆頭はマント領主であることだけ。
「パリに入ったなら街を見る機会は作ろうと思えば幾らでも作れるはず。貴方達も仕事があるでしょうから、機が合えばになるでしょうけれど‥‥その時にはお願いね」
 パリの観光はまた後でと話したあとで、再び馬上の人となったフロリゼルは、冒険者らの様子に僅かに首を傾げた。魔法の靴を履いているロックハートとシャルウィード、エリーに相乗りするカサンドラとユリゼ。ジラルティーデはどうするのだと訊ねれば、往路も走ってきたのだから走って帰るのだと彼は答えた。
「走って帰るより早いし疲れないと思うけれど?」
 馬上からジラルティーデに手を差し出して笑う様は、公女が元々身に纏う色彩も相まって海の太陽を思わせた。冷たい北海の海ではなく、もっと南の海‥‥かつてマーシー1世が与し、裏切ったローマ‥‥ジラルティーデの故国であるイタリア半島の海の色をその身に備えた公女の存在は、皮肉なめぐり合わせなのか、図られた縁なのか。レンヌ公女のパリ入りによってノルマン王国運命の輪の1つが、今回り始めたのかもしれない。