【北海の悪夢】 レンヌの公女、北海の街へ

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月28日〜07月05日

リプレイ公開日:2008年07月06日

●オープニング

●宮廷の噂1
「先日の夜会はとても賑わいましたわね、流石はレンヌ公の姫君の歓迎の宴ですこと‥‥」
「公爵家の姫君とあっては陛下も疎かにできませんものね、それにしても素晴らしい御支度でしたわね」
「姫君のお披露目ですもの、公爵様のおカの入れようも違いますでしょう?」
「でも‥‥レンヌ公は、かの姫君が陛下のお心を掴めなければ、別の姫君をお呼びになるとか?」
「ああ、確かにそのような噂もございますけれど‥‥それならば、レンヌ公の素晴らしいお手並みを陛下にご教授頂く方がよろしいのではありませんこと?」
「あら、確かに姫君を何人も呼び寄せられるよりも良いかもしれませんわね」
「やはりそう思われます?」
「それはだって‥‥‥‥――」


●海の街への旅路の共を‥‥
 雑多に賑わう冒険者ギルドヘ、どこかの騎士団の団服と思しき黒を基調とした軍服を身につけた、すらりとした細身の美丈夫が訪れた。緩やかに波打つ濃い蜂蜜色の髪を襟足で1つに束ねており、外衣を羽織り、濃茶の長革靴を履き歩く様は、色合いが暗色の装束でなければブランシュ騎士団の騎士といわれても納得してしまう程の気品があった。
 初めて見かける姿に、誰だろうかと暫し視線を留め置けば、件の人物は女性騎士のようにも見受けられ、受付係は首を傾げた。
 ややあって、かの騎士との距離が受付台のカウンターを挟みんで顔立ちが見て取れるほどまで近付くと、男性と見紛うには難しいきれいな女性であることが分った。化粧をせずとも十分うつくしい顔立ちの人物である。
 女性にしては長身の部類に入るであろう上背と、きびきびとした所作も手伝ってか貴公子然とした雰囲気を纏っているため、男性のように見えたらしい。
「冒険者への依頼があるのだけれど、良いかしら?」
 受付係に掛けられた声は女性にしてはやや低めの声だったが、艶やかで柔らかい口調は間違いなく女性のものだった。
「ドレスタッドに行きたいのだけれど、道案内をしてくれる冒険者をお願いできないかしら」
「ドレスタッドですか? 承りますが、道案内だけでしたら‥‥」
「モンスターの被害が多い場所に行きたいって言ったら、冒険者を頼まないと‥‥中々一緒に来てもらえないのよ。どうせお願いするなら道案内の他に頼みたい事もあるし」
 苦笑交じりの声音で受付係の言葉の先を封じ、騎士は依頼内容を端的に告げる。
「実際の様子が知りたいのよ。ドレスタッド方面は、この国で1番被害が大きい地方のようだから。海運貿易などで海が要になっているレンヌも他人事では無いから‥‥」
 海難の報や、海沿いの村や町でモンスターの被害が多いという話は伝え聞くが、事実がどうであるかを確認したいのだという。そして事実確認の他に彼女が行いたい事‥‥道案内の他に頼みたい事。それは、被災見舞いを届けたいという事だった。
 途中、被害の多い海沿いの村や町で、ドレスタッドの街から遠い場所‥‥パリにより近く、街からの救援が間に合っていない被災地に、救援物資を送り、あるいは手を貸したいのだと彼女は話した。
「私は知りたい、被災地は助け手が欲しいはず‥‥どうせ行くのだったら、物がある場所から行くんだもの。効率が良い方法をとったほうが良いでしょう?」
 ただ、その土地の領主の建前もあるから、そう大掛かりな事は行わないし、するつもりもないという。
「向う手段は荷馬車2台分と考えているの。1台は私が御者をするのでもう1台馬車を御せる人物を。出来れば少しでも道中を急ぎたいので、御者台に座る人以外は、馬に乗れる人だと助かるわね。冒険者であれば別の手段もあるみたいだから、それでもいいわ。でも‥‥」
 馬車に一緒に乗っていけばいいなんて言わないで頂戴ね、と女性騎士はぴしゃりと告げた。
 人を乗せるのであれば、その分も救援物資を運びたい。
 運ぶ中身は、今のところは、毛布・油・保存食・ワイン・テントを用意している。
 早く向うために馬の消耗を抑えられるよう、荷重が過ぎないように荷の調整しているが、あと少しくらいであれば未だ荷を乗せる事は可能だから、他に何か良いものがあったら教えて欲しいとも話した。
「私は、レンヌのフロリゼル。パリの冒険者ギルドの冒険者殿の高名さはかねがね耳にしてはいたけれど、実際こちらに伺うのは初めてなのよ。‥‥どうぞカを貸して頂戴ね」
 艶やかに笑う騎士の名を聞き、受付係は目の前に居る女性こそが、今パリで話題に上る事が多いレンヌの公女だという事を知るのだった。

●今回の参加者

 ea9927 リリー・ストーム(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb7986 ミラン・アレテューズ(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ec4275 アマーリア・フォン・ヴルツ(20歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ec5067 アレクシア・インフィニティ(37歳・♀・クレリック・エルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●旅立ち
 パリ郊外――ドレスタットへと続く街道筋のひらけた丘の上に、依頼人は2台の馬車を連ね、冒険者達を待っていた。
 馬車に繋がれているのは、一際立派な体躯の額に星に似た紋様を浮かべた黒鹿毛馬と、その馬と比べては些か見劣りする事は否めないが、立派な体躯の馬が3頭。2頭立ての馬車が2台という編成だった。人の姿は一人だけ。2台の馬車をどのように丘まで御してきたのだろう。ここまでは家人を伴っていたのかもしれない。
 丘を渡る風は、草原の青い爽やかな香りを含み、よく晴れた空の下を吹き抜けていく。初夏の涼風を楽しむように、緩やかに波打つ濃い蜂蜜色の長い髪を風に浚われるまま愛馬の傍らに在った黒い装束の女騎士は、ふと頭をパリの方へと巡らせた。
 視界に入った4人の人影を認め、公女は微笑んだ。隣で小さく鳴く愛馬の首を叩くように撫でる。
 大きな白い軍馬に跨り、大天使を模した白い甲冑と淡く光る槍を持ち、天馬を連れ、落ち合う場所へやってきたリリー・ストーム(ea9927)の姿を、レンヌの公女は瞳を細め見つめる。
「フロリゼル様、お初にお目に掛かります」
「‥‥天使のようね。悪夢に苛まれる北海の民にとって、貴女の訪れは心の救済になるでしょう」
 馬から降り、優雅な一礼をとった白い乙女は、リリーと名乗った。貴族の令嬢らしいリリーの丁寧な名乗りと挨拶への返礼に、レンヌの公女・フロリゼル・ラ・フォンテーヌ(ez1174)も改めて身分と名を自ら名乗り、貴族らしく言祝ぐ麗句を告げた。
「ミラン・アレテューズだ、よろしく」
「アマーリア・フォン・ヴルツと申します」
 襟の詰まった鮮やかな赤が印象的な異国風の上衣を纏い、踊りをたしなむためか軽やかな足取りと所作で貴族におもねる事のない簡潔な挨拶を述べたミラン・アレテューズ(eb7986)に対し、胸に十字を刻んだ甲冑を纏うアマーリア・フォン・ヴルツ(ec4275)は丁寧な口調と共に穏やかに名乗りをあげた。
「‥‥公女様の目的のお供に‥‥」
「先にごめんなさいね。ラテン語は多少はわかるのだけれど、余り難しい会話は無理なの」
 公女が苦笑を浮かべ告げると、アレクシア・インフィニティ(ec5067)がラテン語で語る言葉をリリーがゲルマン語に訳し伝える。静かに礼をとるアレクシアの旅装は公女と同じ黒一色。直接語らう言葉を持たず、また感情の伺えぬ表情の中で、親しげな色を湛えた瞳が公女には印象的に映った。
「皆には丁寧な挨拶、ありがとう。急な依頼で申し訳ないけれど、道中よろしくお願いね」
「一度彼の地へは行ったことがあります。ギルドでも時々、北海近辺からの依頼が出されておりましたので、私も気になっておりました」
 心配していてもパリにいると実際の被害はわかりませんし、現地に行くのが良いですね‥‥と、話すアマーリアの言葉に、意を得たりとばかりに公女は頷く。
「理解者が冒険者に居てくれて嬉しいわ。兎に角、この依頼は皆女同士、遠慮隔てなく行きましょう」
 リリーが根は優しそうな公女だと思っていたが、貴族的というよりも軍に身を置く者のように同じ所属‥‥パーティ内で隔てを作りたくない性質のようだった。
「あら、リリーが連れているデストリアも素敵だけれど、ペガサスも一緒なのね。モンゴルホースも実際に見かけるのは初めてだわ。特に持久力に優れていて力強いのよね」
 素敵、と瞳を輝かせる様子は、幾分少女めいた印象を与える。胸ときめかせる対象が、ドレスや宝石、貴公子の振る舞いでなく、馬だという事が変わり者な公女である。馬達に接する様子や、そもそもの依頼の切っ掛けを思えば、リリーの人物眼は間違っていないのだろう。
「御者は、ミランとアマーリアが交代で務めてくれるのね? ちょっと厳しい行程になるけれどよろしく」
 はっきりとは口にしなかったが、父であるレンヌ公爵が長くパリを離れる事に良い顔をしなかったのだろう。そもそもこの公女がパリに来た理由を思えば、当然なのかもしれない。
「この子が、多少の荷なら引き受けても良いと言ってますわ」
 荷の内容と、行程、役割を簡単に相談する間に、馬達とオーラテレパスで相談していたリリーが、彼らの答えを伝えてくれた。
「お返事ができるのだったら、その気持ちだけ頂いておくわと伝えて頂戴」
 最初の予定通り、馬車に積める分だけで行くと結論を出す。現地で動いて貰う事を考え、あまり無理はさせたくないとリリーが危惧していた言の方が最もだと判断したのだ。元より人の足となり、道を進んでくれる。彼らに負荷が傾けば、それは彼らを頼る自身らの道中に跳ね返ってくる。
 事前に、ミランとアマーリアの言を入れ、急ぎ用意した漁に使う網と着替え用の衣類などの清潔な布製品を馬車に積み込まれている。
 ドレスタットへ向け女ばかりの旅の道中が始まるのだった。


●旅の道中にて
「布類はともかく、網なんて良く直ぐに用意できたものだな」
「‥‥レンヌも海洋貿易に力を入れているから、被害が無い訳ではないのよ。ドレスタット方面の被害がより酷いというだけで」
 ぱちぱちと野営の炎が爆ぜ音の中、冒険者達は保存食とワインで簡単な食事を済ませていた。明日の行程を確認するミーティングの中で、ミランがふと思い至った感想。網を持参する事を提案したミランの疑問に、フロリゼルは事も無げに答えた。
 需要に供給が追いつかない場所で物資を確保しようとすれば、それを購うための金銭の額も大きくなる。セーヌ沿いに河でも使用されるそれらを、海でも利用できるよう多少補繕したものを確保する方が容易なのだという。自領のために公爵が用意していた品を多少融通してきたから用意に時間を取られずに済んだのだ。
「生活するための最低限と思っていたけれど、少し考えればその先を見通して必要なものもあるのよね。でも、これ以上はかの地の領主達のすべき事だから‥‥その線引きが難しいのだけれどね」
 自立しようとする心までくじけさせてしまう、何から何までの援助は不要だと話す。そしてフロリゼルが心を砕くべき1番の民は、ドレスタットの民ではなくレンヌの民。
「領地で線を引くのでなく、国で見れば同じノルマン王国の民。だから今回ご様子を見に、また援助の手を差し伸べに参られるのですね」
「ええ、実際の被害はこの目で見るのが確かだもの。父の使いとして行けば、被災地の領主達も相応の礼でもって出迎えてくれるでしょうけれど、大変な時期に財政負担をかけさせるわけにもいかないし、何より他の領主に見せ難い本当の被害が隠されてしまうかもしれないから」
 干し肉を軽く火で炙り食べやすくした物をワインで流し込みながら、アマーリアに頷いてみせたフロリゼルは食事に使っていたナイフをケースに収めながら、小さく息をつく。
 遠いイスパニアの地から旅してきたアレクシアにとって、保存食での食事は慣れたものだったが、彼女自身はむしろ公女がこういう食事でよいものかという方を気がかりだった。道中の様子も旅慣れていて、保存食の食事も普通に摂っている。道中の水代わりでもあるワインは、流石に富み栄える公爵家が用意しただけあって上等なものだったけれど。
 馬達の様子をみていたリリーが焚き火の側に戻り、言葉に不自由しているアレクシアに気遣う声を掛けると、リリーを出迎えるようにミランが「お帰り」と声を掛け、アマーリアがワインの小瓶を差し出す。
「出発からこれまで4日程で大分パリからの距離を稼ぎましたわね」
「皆が頑張ってくれたお陰ね。馬達も労わねば」
 草と水を与え、蹄の様子を確認してはいたが、オーラテレパスで交流を深め直接馬達と語らうリリーの言葉が1番確かなものだ。
「ええ。調子が悪そうな子も今のところおりませんし、明日には海沿いへ出られると思いますわ」
 リリーが読んでいた通り、日程は穏やかとは言いがたい行路だった。レンヌからパリまで馬で駆けたくらいの体力がある公女。普通に街道を行く馬車と同じ日程で被災地を寄りながらドレスタットに向かいたいというのだ。滞在時間を確保するためには、どこかで時間を作らなければいけない。冒険者の言を良く取り入れ、必要な判断はきちんと下す様子は、きちんとした領主教育を受けているように見受けられた。
「本格的な確認や支援は明日以降‥‥不安などから来る心の重圧を少しでも減らせれば良いのだが」
 よく晴れた夜空を見上げ、瞬く星と月に想いを馳せる。一行は明日に備え交代で休息をとった。


●被災地へ
 この行程で初めて訪れた北海沿いの漁村は、静かで枯れ尽きたかのような重い雰囲気が立ち込めていた。漁に出る様子も無く、人が行き交い背活を営む様子も欠けた村は、馬車の訪れを出迎えるものとていなかった。
 まず最初に村長の家を訪ねたアマーリアらは、現地の状況を聞いて胸を痛めた。被害を領主に陳情してはいるものの、領主の住まう館から離れているため、行き来も簡単にはいかないらしく、中々支援の手も及ばないらしい。近隣の村同士で手を取り合って助け合うにも、どの村もそんな余裕は無いのが実情だった。村長は、公女の支援についての申し入れを、1も2も無く受け入れ、冒険者らの助力に涙を流して感謝の言葉を述べるのだった。
 村に到着後、危険な地域の見回りと現状把握を行うべく、ペガサスのロスヴァイセと共に空からの海辺や近郊の様子を見にいったリリーは、この先に見えた村や町も、今訪れている村と似たり寄ったりの状況であることを知った。村長の言うとおり、助け合う事も難しいのだろう。そしてこの先の道を、公女が進むのであれば支援していく配分を考えねば、偏りによりまた不要の諍いが起きるかもしれない。
 そんな危惧を抱き注進しようと村へ舞い戻ってきたリリーは、途中で支援物資を元に作業に励み始めた男手達の元を訪れ、さりげなく海沿い周囲の安全確保に気を配りながら、リリーは彼らのやる気を鼓舞する。
「皆のために汗を流す男の人って、素敵だと思いますわ」
 家屋が建て直されるまでの間、過ごせるようにと援助されたテントを組み立てる指導をしてやりながら、リリーはにっこりと微笑んだ。愛する夫にのみ注がれるべき天使の笑みを惜しむことなく村の男性へ分け与える。神秘的な白の装束と相まって大天使のようなリリーの労いに、労苦が癒されたのだろう。若い男などは照れたような笑みを浮かべながらも、猛然と働き始めた。
 穏やかな所作の中でも、神聖騎士らしい毅然とした様子で、被災状況やその原因の確認をしていたアマーリアは、パリで伝え聞く以上に、北海の様子が厳しい事を知った。救援物資である食料や衣類などを村人達へ手渡してやりながら、少しでも不安な気持ちが落ち着くように声をかけ接する。
 消毒や簡単な手当て等、自身の持つ術で対応可能な傷なら‥‥と診療を申し出たアマーリアは、村人達に接した後で、食品や飲み水の消毒も魔法の手を惜しむことなく行って回った。村を襲った津波の被害は大きく、命があれば復興はできるはず‥‥という精神論よりも、大波が浚っていってしまった生きていくための糧を補う事が難しいらしい。
 津波に怯えるように心に抱えた傷を、占いを手段に話を聞き、不安などから来る心の重圧を少しでも減らせるよう言葉を尽くすミランは、日々に不安を抱え、先行きに希望を見出せず心を病む村人らの救いになれば、と、純粋な娯楽として村を発つ前に踊りを披露することを決めた。希望を持たせる為の気持ちをこめて、舞おうと心から思って。
「‥‥今は試練のときなのです‥‥この試練から立ち上がったときこそ、私達は祝福されるのです‥‥」
 聞きなれない言語に戸惑う村人の中で、残された子供や年寄り達は、アレクシアの静かな語りに聞き入っていた。言葉はわからずとも、彼女の手に有るのはジーザス教の聖書。聖職者の語る言葉は、被災地にあって苦しい状況から神への救いを求める人々へは救いの言葉。
 人付き合いが苦手である事などは、表面には出さずに、柔らかな表情で村人達と接する。
 言葉が通じなくとも、丁寧な行動と気遣う気持ちは伝わるもの。アレクシアが差し出す毛布を受け取る若い母親が、彼女へ何か語りかけ頭を下げた。おそらく感謝の言葉の類なのだろう。自分が居るべき場所がどこかはわからないけれど、今ここに彼女を必要とする人は、確かにいるのだった。


●ドレスタットへ
 ドレスタット領主・エイリークのお膝元は、流石にこれまで通り過ぎてきた村々とは違い、人々の姿も多く、賑わいを見せていた。
 港町の様子の落差の大きさに、暫くあたりを眺めていたフロリゼルは、愛馬を傍らに、公女は7日間もの間、共に過ごしたリリーらを前に礼を述べ、労いの言葉を掛けた。
「この強行軍、共にここまで来てくれてありがとう」
 物資を支援してきた村々へ振り分け、荷が空になった馬車は、途中の村で使えるだろうと馬ごと譲ってしまったあたり、レンヌの豊かな財力と、フロリゼルの豪快さが伺えた。
「皆が、今後に活かせるようにと纏めてくれた村々の様子や陳情書の類は、私がご領主殿らの手に渡るよう最後まで仕事はさせてもらうわ」
「他の地域でも被害が起きる前に備えておくのに参考になるとよいですね」
 アマーリアの言葉に頷くと、フロリゼルは「皆またパリに戻るのかしら?」と訊ねた。
 ドレスタットを見て回るのか、戻るのか‥‥冒険者らは互いに顔を見合わせる。道中を特に決めてはおらず、ただ公女の望みを叶えるために共にこの行程に付いてくれたのだろうその様子を見て、フロリゼルは微笑んだ。
「また縁があったらパリで会いましょう」
 別れを惜しむ様子は無く、レンヌの公女は再会を望む言葉を残し、アレクシアらと別れた。7日間の強行被災地支援旅行はこうして無事目的を遂げたのだった。