【北海の悪夢】 死者の棲む浜

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月05日〜07月10日

リプレイ公開日:2008年07月14日

●オープニング

 星の瞬きの見えぬ夜、月の影が海辺に落ちる。
 寄せては返す波音を伴奏に、聴くものの魂を惹きつける曇惑的な歌声が響く。
 星の光とも、明かりの色とも異なる、蒼い焔1つを標に佇むのは一人の女。
 寄せる波が砕け、飛沫が白い泡の欠片となって舞う黒岩の上で、女は一人で歌っていた。
 月光紬の白金の髪を白磁の肌に纏わせた女が謳う、海の歌。
 海の色を映した瞳に湛えられているのは、喜びの色。
 いつしか歌声に引き寄せられるように、1つ、また1つ‥‥と、黒岩にいる女に向かって無数の手が伸ばされていた。
 それらは、腐り、あるいは乾いた白色が覗く‥‥たくさんの、手。
 女は、足元に蠢く死者の群れを、感情が読み取れない表情で一瞥すると、毒々しいほど紅く染められた唇を歪め、より一層高らかに謳い上げる。
 海鳥の啼く声もなく。
 人々の語らう声も無く。
 静かな海の音と、たった一人きりの歌声だけが満ちる海岸線。
 死者を侍らせる海の女の上に、月の光の欠片が降り注ぐ‥‥。


●彷徨う死者に永久の安寧を
「海岸線をそぞろ歩くズゥンビの群れを討伐しに行く奴らはいないか?」
 ドレスタッドのギルドマスター・シールケルは、部下であるギルド員から上げられてきた依頼書の1つを手に、冒険者達を見回した。
 ドレスタッドでは、近頃イギリスと接する海峡を中心にモンスター被害が増大しているため、対応の手が回りきっていない。近海の船乗りたちや民からも対応を乞う声が上がっているが、請け負う冒険者を派遣しきれないでいる。
「先の大津波とモンスターの襲撃、度重なる被害に廃村になった漁村も多い‥‥そのうちの一つ、モンスター被害を捌ききれなかったこの村は、死人だらけだとよ」
 ばさりと紙束をテーブルの上に投げ置くと、壁に掛けられた近隣の地図のとある箇所を示した。
 月明かりのある夜になると何処からともなく、村の浜奥にある岩の上に女が現れ歌をうたっているのだいう。歌に魅かれるように、死者たちもまた何処からともなく現れ女の下に群れ集う。
「月夜の晩に現れ歌っている女もズゥンビを侍らせてる時点で、ただの女じゃないだろう、油断はするな。そしてズゥンビ達‥‥死者を海に還してやって欲しい――それが今回の依頼だ」
 ズゥンビ達は今は未だその浜にしか現れないようだが、いつ生者が住む場所へ這い出てこないとも限らない。死者達が移動したりする前に、屍へ戻してやって欲しいという依頼だった。
 ただのズゥンビであれば、油断するような事がなければ、経験を重ねた冒険者ならば遅れを取る相手ではない。女の正体が不明な点を除いても、早々苦戦するとは思えないが‥‥。
「今回、依頼に向かう事の出来る人数によっては苦戦するかもしれんがな。何しろ、ズゥシビの数が数だからな‥‥」
 それなりの漁獲を得て、それなりの人々が生活していた場所分の死者なのだ。全てがズゥンビになったわけではないだろうが、場所を確認してきたギルドの者の話では、楽観視できるほどの数でもないという。
「向える奴がいれば頼む。枷から解放してやってくれ」
 窓から見える海を見遣り、シールケルは話を聞いていた冒険者らに頼んだのだった。

●今回の参加者

 ea2100 アルフレッド・アーツ(16歳・♂・レンジャー・シフール・ノルマン王国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)
 eb2756 桐生 和臣(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3583 ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(32歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec0235 ヴィルジール・ヴィノア(30歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

久方 歳三(ea6381)/ 烏丸 庸斎(eb0101)/ タケシ・ダイワ(eb0607

●リプレイ本文


 北海の夏は短い。本来であれば、厳しい冬を始めとする季節の巡りを乗り越えるために、糧を得、少ない楽しみを見出し過ごす季節であったはずの夏。ドーバー海峡を挟む北海は、昨年から続く怪異ともいうべき異常現象により、地域によっては独力で民が立ち直るには難しいダメージを負っていた。そのダメージを拭うべきは、その土地を治める領主の役目。けれど、その災厄が、自然のものでなく、何者かに齎されたものであるのならば領主や民達だけで、立ち直る事は難しい。
「漁村が壊滅するとは、近頃の海の異変はそこまで酷いものになっているのですね。一体、海で何が起こっているのでしょう‥‥」
 身裡に差し込んだ心の痛みを抑えるように豊かな胸の上でそっと両手を重ね合わせ、ジュヌヴィエーヴ・ガルドン(eb3583)は視界の先に広がる朽ち果てた廃村を見つめていた。
「何が起こっているのかしらね。原因がはっきりすれば、それが一番なんでしょうけれど‥‥今のあたし達の仕事はこの海辺の村に出没する女の人が率いているズゥンビ達を、皆さんと協力して何とかする事よ」
 その傍らに並び立った昏倒勇花(ea9275)は、肘を抱えるように腕を組み海を見下ろしながら答えた。目の良い彼にはジュヌヴィエーヴの視界に映る光景よりも、朽ちた漁村の様子が良く見えた。そして、漁村から少し離れた先に、浜辺の奥に見える黒い岩棚が、女が現れるという場所なのだろう。
「ですが、被害に遭った方々が、更に亡者として操られているやもしれない事は、痛ましい事です。せめてその様な苦しみから解き放って差し上げませんと」
「かわいそうな人たちを‥‥海に帰してあげられる様に‥‥がんばります‥‥」
 色々な意味で久しぶりになる依頼に気負う様子は無く、ジュヌヴィエーヴに頷いて、アルフレッド・アーツ(ea2100)は戦場となる場所を確認するために4枚の薄様の羽根を震わせ、浜辺の方へ翔けていった。その羽根の軌跡を追うと視界に入らざるを得ない目の前の死に果てた村の様子は、勇花が鷲の『はね』をタケシ・ダイワへ預ける際に彼が調べ集めてくれた漁村周辺の状況報告よりも酷い気がした。
「それから、はい」
 気を取り直して仲間達を振り返った勇花が、ジュヌヴィエーヴとヴィルジール・ヴィノア(ec0235)に手渡したのは、どんぐりのような木の実――飲み込めば直ちにMPが回復するソルフの実だった。僅かに首を傾げたジュヌビエーヴに、勇花は華やかな笑みを浮かべ、携帯を促した。
「今回の相手はとにかく数が多いって話だものね」
 彼らの遣り取りを見て思い出したように桐生和臣(eb2756)も、自分の携帯品からソルフの実を取り出し彼らに手渡す。
「必要とされる時に使わなければ意味がありません、1つずつになりますがどうぞ」
「そういう事でしたら、ご好意はありがたく頂きます」
 ジュヌヴィエーブは受け取って礼を述べる。
「ズゥンビの大群とそれを侍らせる女か‥‥。思ったよりキツイ仕事になりそうだ」
 同じように礼を言葉を告げたヴィルジールは、浜辺‥‥特に女の現れるという岩棚の方へ向かう和臣の背を見送ってから、仲間の好意を受け取った手のひらの上にある木の実に視線を落とし、気品高い雰囲気を纏わせる、上品な顔立ちを僅かに歪め吐き零した。
「この世の忘れ物みたいな空っぽの身体が、女の言いように操られているなんてな、あの世の魂からすれば恥と言っても良し。存在価値無し、バッサリ行くのが皆の為‥‥元よりキツかろうが、請けた以上はやるしかないさ」
 悼ましげな色を浮かべ浜を見つめる仲間らとは違う冷めた目で様子を見ていたシャルウィード・ハミルトン(eb5413)は、言い放つようにさらりと言いおき、黄色地に黒の縦縞が見事な猛獣・マオポルスカと忍犬であるカゲを伴い、浜辺へと歩き始めた。
 それが切っ掛けとなったのだろうか、残る仲間達も浜辺へ降りるために歩き出した。いつしか足元は陸地である土ではなく海沿いの砂交じりの土地に変わり始めていた。もう戦場となる浜辺のそばにまできていたのだ。
 海鳥の鳴く声もなく、ただ寄せては返す潮の音だけが満ちた浜辺だった。



 岩場の近くに出来るだけ多くの篝火を用意しておこうと考えていた和臣達にとって幸いな事に‥‥というべきか、篝火にすべき廃材には事欠かなかった。壊れた家屋の壁や柱も篝火のための薪に利用できたし、あるいは津波で海に浚われたたくさんの村人の財産、かつて船や家であったろう木っ端が数多く浜辺に打ち上げられ、山となっていたからだ。
 夜に備え、現地の地形を把握するため周辺を散策していた和臣が、そのついでに拾い集めた乾いた木々を勇花に手渡す。確認してきた地形状況については、アルフレッドと情報をつき合わせて、彼が作った簡易な地図を元に、皆で討伐戦の役割を確認する。
 そうして過ごす間は瞬く間に過ぎ。夕暮れの太陽が赤く染める白浜に多く用意した篝火に和臣が火をつけてゆく。
 岩棚から離れた場所で、女が現れるのを待つ事にした冒険者らは、潮騒の音と時折木が爆ぜる篝火の音だけを聞きながら、暗い夜に紛れ潜む。
 今回対峙する敵に有効な力を秘めた日本刀――久方歳三から借り受けた日本刀『姫切』の柄を確かめるように握り直す。出来れば早く返してほしいという言葉は、久方なりの激励なのだろう。無事を祈り願う言葉と共に見送られてきたが、まずは無事に依頼を果たさないことには、彼にこの刀を返す事もできない。
 いつもであれば、月と星の光と、それらを返す波間の煌きだけが満ちた海辺に燃える、人の灯りが有る浜に、果たして女は現れるのだろうか‥‥。



「‥‥女が来た、か?」
 押し殺した呟きでシャルウィードが、仲間に告げる。耳の良い彼女の言葉に、ヴィルジールと勇花も耳を澄ますと、潮騒に紛れ途切れがちではあったが、歌のようなものが聞こえた。アルフレッドらには未だ聞こえない――が、聴力に優れた仲間が全て捉えたのであれば、それは間違いないだろう。
 オーラエリベイションを勇花は自らに施し、懐より取り出した道返の石へ祈りを捧げ始める。勇花の祈りが満ちる間を見計らって、シャルウィードも己の士気を高める魔法を施し、仲間の先陣を切ってズゥンビの群れに斬り込まなければならない勇花と和臣へは、ジュヌヴィエーヴが白き神の加護を与えた。
「おーおー、いるね。アルフ、例の女はどっちだ? あっち? じゃ、このいや〜な壁を蹴散らしてそこまで行くか」
 アルフレッドへ問いかけながらシャルウィードが視線を巡らせば、昼間のうちに確認していた件の岩棚の上に白金に染まる女が、今宵も死者を侍らせながら歌を歌っていた。
 月明りの下で、緩慢な動きで揺らめきながら蠢いているのがズゥンビ達だろう。潮の香りでも紛らわせる事が出来ない腐臭が浜辺に満ちていた。
「なんて数だ。あの群れの中を突き進むのか‥‥ウィザードのやる事じゃないな」
 ウィザードに、まして種族柄にも体力的に厳しいヴィルジールにとって、迎合できない戦場だった。自分には特に身を守る術が決定的に欠けている事を知ってはいたが、戦場に立つ事を選んだのはヴィルジール自身。
「ちまちま削ってられる量じゃないのは確かだ。そんなわけで初めに派手なのを頼むぜ、ヴィル」
「やる事じゃないが‥‥やるしかないか。皆に俺の命を預ける。準備終了次第、ストームでなぎ倒し道を開く!」
 シャルウィードの発破に応えるようにヴィルジールは詠唱を結び始めた。手繰り寄せるは、暴力にも似た嵐の息吹。夏嵐の如き暴風が、夜の浜のズゥンビ達を巻き込みながら岩棚目掛け駆け抜けていった。
 風が生み出した亡者の割れ目。それが埋まるように元に戻る前に‥‥と、冒険者達は剣を振るう。
 勇花が優麗な切れ味を誇る名刀の刃の元、一太刀で亡者を斬りふせていけば、シャルウィードは禍々しい紫色の刀身をもつ両刃の直刀を振り下ろし、まさしく今蠢く亡者を骸へ還す。
 緩慢な死者の手は、月光の下を翔ける羽根に触れることすら出来ずに、魔法の込められたダガーで地面へと縫いとめられて動きを止めた。
 数に飲まれそうになれば、ジュヌヴィエーヴの白き癒しの光が仲間を包み、道をこじ開けるようにヴィルジールの風の魔法がズゥンビ達を撥ね退ける。彼らが魔力を振るうために、和臣は亡者へ近づく事を許さずに右手の刃で切り伏せ、左手の十手で叩き伏せる。
 亡者の海を掻き分けるように進む冒険者らを支えるのは、彼らの頼みの旅の連れ合いとも言うべきペット達。言葉にそぐわぬ猛き獣と主にかりそめの命を与えられた偶像は、けれどその命を果たすべく、亡者達を牙で、力でねじ伏せていく。
 いつしか月灯りの下に築かれていったのは屍の山。その凄惨な様子を仲間達の中の一番高い場所から見ていたアルフレッドは投擲の手は決して止めずに、呟きを零した。
「女の人‥‥こちらの問いかけに応えてくれるのかな‥‥」
 冒険者らとズゥンビ達が争う戦場の剣戟と呻声と、潮騒が満ちる中で、女は辺りを構わずにたおやかに美しい海の歌を歌っていた。魔力が込められた短刀で確実にズゥンビを屠っていくアルフレッドは、何も聞こえていないかのような女に疑問を抱く。アンデッドであるのならば、やはり他のズゥンビ達同様‥‥海か大地へと還してあげるのが一番だと彼は思っていたから。
 けれど女と会話を試みる事を、ジュヌヴィエーヴは諦めず。その為に仲間はズゥンビの群れを掻き分けるように道を切り開くために剣を振るい、魔法を手繰る。
「悪いがどいてもらう」
 ヴィルジールの手から放たれた雷は死者を焦がし、道を作り出した。白光は岩棚を形作る石に吸い込まれるように消え、女はなおも歌う事を止めなかったが。
 ジュヌヴィエーヴの掲げ持つランタンの灯りは、冒険者らの視界を照らし。それ以上に、その灯り目指し死者は手をのばす。
 まるで夏の宵に光に誘われる羽虫のように。



「あなたはなぜ死者を辱めるのですか?」
 ジュヌヴィエーヴが問いかけると、女はそれまでズゥンビが冒険者に幾ら斬り捨てられようとも止めなかった歌をうたうことを止めた。問いかける生者に向かい、初めて顔を向ける。
 仲間達が作り出してくれた機会ではあったが、正直、ジュヌヴィエーヴ自身もズゥンビを操る女性が普通の人間とは思えなかったし、説得も効果は薄いだろうと理解していた。だが、この海の異変に付いての情報が、もしかすれば得られるかもしれない。機会があるならば、試してみる価値はあるはず‥‥その想いに基づき、重ねて問う。
「何故この様な事をするのです? 誰かに命じられたのですか?」
 女はジュヌヴィエーヴの問いに意外そうに瞳を見開いた。
「あら、別にあの方に命じられたことじゃないわ。このような事って‥‥あたしは、彼女を慰めていてあげただけよ」
「この様な‥‥っていうのは、亡者を操る理由についてよ」
 ジュヌヴィエーヴの問いの意味がわからないという風に小首を傾げた女へ向かい、勇花が死者の一人を骨ごと断ち切りながら重ねて女に問う。ようやく合点がいったのか、女は瞳を細め微笑んだ。仄かな月明りの下で見る女の微笑みは月光を浴びて咲く花のよう。足元に侍る存在が、腐臭と腐肉を撒き散らす死者である事が不似合いなほど、美しかった。けれど、月光を紡ぎ束ねたような白金の髪のみをその身に纏わせた女など、どうみても人ではない妖の類にしか見えない。
「あたしが操っているわけじゃないわ、ねえ?」
 艶かしい視線を勇花、和臣、ヴィルジールへ‥‥冒険者らに送りながら告げると、そのまま頭を巡らせ、同意を求めるように傍らに灯る青い炎に語りかけた。
「あたしはお願いを聞いてあげただけ。彼女に聞いてごらんなさいな」
 女が白い繊手を閃かせると、青い炎が大きく膨らみ、まるで人のような形を作り出した。炎の揺らめきに合わせ、蠢く死者の勢いが増す。
「‥‥レイス‥‥」
 女が標に掲げていた炎、人の世界にありえない色のそれは、死した人の成れの果てである怨霊。依頼書の中で目撃されていた其れが死者達の本当の導。己の知る知識の中にあるアンデッドの名をジュヌヴィエーヴが呟くと、女は満足そうな笑みを浮かべた。一瞬の虚をつかれる形で、ズゥンビに引きずり込まれそうになったジュヌヴィエーヴを庇うように傍らに引寄せた和臣へすがりつくズゥンビをシャルウィードが舌打ちを零しながらも斬り捨てる。主を助けるように、マオが腐肉をその牙で食い破る。
「聞こえないだろうが言っておく、どんな美しい声で歌おうとも、死者の眠りを妨げるお前の歌は不浄だ‥‥もう二度と歌わせるつもりはない」
 会話を試みての問答もこれ以上は成果を得ないと判断したヴィルジールは、女の歌を妨げるためにサイレンスを唱えた。
「おあいにく。聞こえるわ」
 だがヴィルジールの魔法を退けた女は柳眉を怒りに歪め、吐き捨てるように答えた。その赤い唇から覗き見えたのは女のかんばせには不似合いなほど鋭い牙。けれど、女が歌を紡ぐ事はなかった。アルフレッドの放った小さな礫が女の顔を撃ったのだ。短い悲鳴を上げ、顔をのけぞらせた女。次の瞬間彼女の髪の隙間には、耳ではなく鰭状のものが耳部を飾っていた。
「‥‥欺瞞と猜疑に満ちた愚かな人間ども。彼女こそがお前達の罪の証。あたしは知らない、あの方もこんなくだらない事など命じはしまい。自滅の道を歩むがいい‥‥!」
 呪いに満ちた言葉を託宣のように高らかに告げ、女は岩棚から身を翻した。波間に重い水音が響く。海へと消える直前に月光に煌いたのは銀色の鱗。追うように岩棚へ駆け上がろうとした和臣の行く手を阻んだのは大量のズゥンビと、青白い炎の塊だった。
 答えを求めるべき女の姿はなく。ただ導きを無くした死者が蠢く岩棚と白浜の戦場で、シャルウィードは危惧するわけでもなくまた1体屠りながら語りかけた。
「後は残りの掃除だが。さ〜て、夜明けまでにどんだけ片付くかな」
 大地に、あるいは海へ。すでに魂の抜け去った空虚な器を、2度と辱められる事の無いよう還すのならば‥‥。
「‥‥頑張るしか、ないですね‥‥」
 ジュヌヴィエーヴの言う通りレイスであるなら魔法か銀の武器でなければ倒せない。和臣の前で奮え、焼付く痛みを仲間に与える炎に向かいダガーを投げれば、炎を貫き彼の手元に再びダガーは戻る。
 仲間から託されていた回復薬を有用し、魔力の消耗を抑えて魔法を操るヴィルジールを中心に、勇花と和臣ら剣士達は死角を封じるように立ち位置を決め、生命線ともなる術士を護りながら確実に死者を屍に返していく。

 やがて‥‥白浜に朝日が満ち、清めの光で染め上げた頃には、屍は炎で灰になり、大地と海へ還ることとなった。