フェールス・キング

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:08月01日〜08月06日

リプレイ公開日:2008年08月13日

●オープニング


「陛下の偽者?」
「正確には、『王宮を抜け出しては平民の振りをしてパリ市内を徘徊する、自称・ヨシュアスの偽者』になりますが」
 パリのギルドマスター・フロランスは、直接持ち込まれた依頼内容に、理知的な光を宿した瞳を面白そうに揺らした。
 彼女が執務室に迎え、時間を割いて直接話を聞いている相手は、ブランシュ騎士団<藍>分隊長であるオベル・カルクラフトその人だった。剣を捧げる無二の主君の偽物とあってか、彼の顔からは心中の感情の色は窺えない程に、淡々とした口調である。
 自称・ヨシュアスが、ノルマン王国国王・ウィリアム3世であることは、一部のものには良く知られている話だ。年若い国王が、気さくに城下を訪れ、民と交わることを、国民たちは喜びを持って迎えていたのだが‥‥。
「春の終わりというか、夏の始め‥‥つい先頃から、妙な噂が入ってきたのです」
 要約すれば、『自称・ヨシュアスと名乗る青年が、パリの女性達を口説きまわっている』というものだった。
「陛下が、ヨシュアス団長の名を名乗り、パリの街をお忍びで歩いていらっしゃる事は事実ですので」
 念のため、ウィリアム3世自身の動向を確認の上で、ブランシュ騎士団がパリ市内を極秘裏に情報を収集、事実確認を行っていたらしいのだが(それが本当に陛下であれば‥‥これを機にと望む者もいた事も手伝ってのだろうが)。
「‥‥王の寵愛を受ける女性が現れれば端から王宮に部屋を与えてしまえ‥‥と、なりかねないのが、現状なのですが」
 その時の赤分隊長の意気込みを思い出したのか、オベルはこめかみを押さえる。
「本当に潔白なのかしら?」
「‥‥‥‥残念ながら」
 ギルドマスターの彼女には珍しい冗談めいた口調でフロランスが訊ねると、オベルはゆっくりと首を横に振った。
「以前に比べれば余程、夜会の類にも顔を出されるようになりましたが、今年始めに体調を崩されてから余りご無理はできない現状にお変わりないようです」
「そもそも陛下にそんな甲斐性があれば、ご側近の皆様のお悩みもすぐに晴れるでしょうしね」
 それでは何が問題なのかというのは、本物がヨシュアスを編り、パリの街を出歩いている事実があることだ。
 そしてそれは民も知っている。
 そしてその王を騙り、女性達の恋心に付込んで騙しているという事が問題なのだ。
 子ができれば、国母になることも夢ではない‥‥栄耀栄華を望む者が現れてもおかしくは無い。
 ましてウィリアム3世の妃の座は空いているのだから。
 何者がどんな目的を持ってウィリアム3世を語るのか‥‥貴族の陰謀ともつかず、放置しておくわけにもいかないため、騒ぎが噂の域を出て大変な事態になる前に、極秘裏に解決するため冒険者ギルドへ依頼する事になったのだ。
 独身貴族問題については、団長以下多くの分隊長も赤分隊長には頭があがらないわけで、なぜオベルの元に回ってきたのかといえば、普段は任務上パリにほとんどいない分隊長である事と、国内巡回を終えてパリに今戻ってきているタイミングもあったのだが。
 分隊長達の中でも唯一の女性である橙分隊長などは‥‥。
「女性を玩ぶとは不届き千本‥‥奈落の底に突き落としてくれましょう」
 同じ女性として報告に感情を荒げる事などはないが、剣を手に淡々と告げられると捕縛し背後関係を聞く前に、犯人が別の領域にいってしまいそうで。分隊長の顔ぶれを見回した後、オベルにまわってきたような感があった事については彼は敢えてフロランスには言わなかった。



 彼に出会った女性達は物語のような夢を見る、と街では広くうわさになっていた。
 まるでうつくしい絵物語の騎士のように、彼は甘い誓句を囁いて、夢を語る。
 身に纏う衣服は一見質素な風情の一揃い。よくよく目の利く者が見ればどれも上等な素材や作りのものばかり。くだけた口調や気安い会話の中にも、隠しきれない生来の気品高さ。パリの下町にふらりと現れる彼は、『ヨシュアス』と名乗る。
 ブランシュ騎士団を東ねるヨシュアス・レインはエルフであったが、青年は人聞だった。壮年のエルフの騎士や、それこそヨシュアス団長のような見目持つエルフの青年を共に、楓爽と現れる。
 貴族の子女達が集う夜会に。
 下町の歌姫や踊り子が賑やかす酒場に。
 あるいは‥‥と、現れるのはパリの下町から、貴族達が集まる高級歓楽街まで幅広く。
 けれど、彼が姿を見せるのは決まって夢見る少女や年若い未亡人など、恋を求める女性のもとだった。
 一人だけのモノにしたいと女達が望めば、彼はするりとその細いかいなをくぐり抜けてしまう。
 強がりを見せる素直になれない女の元へと慰めから励ましを贈る。
 いつしか噂はパリを静かに広く巡りゆき、冒険者街にも届く。
 ノルマン王国の年若い宗主が、花嫁を探しているのではないかという噂と共に、下町を閣歩するヨシュアスの存在が、まことしやかに。
 冒険者達は知っているから、それをただの噂や、騙りだと一笑することが出来なかった。
 冒険者達は知っている。
 彼らが集う酒場に、若き王がその名を名乗り息抜きのお忍びに訪れることを。

●今回の参加者

 ea4757 レイル・ステディア(24歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1421 リアナ・レジーネス(28歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb5413 シャルウィード・ハミルトン(34歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ファラ・アリステリア(eb2712

●リプレイ本文

●対象の目的は‥‥?
「狙いが何か、なんだよな。気になるのは。女の身分にこだわらないっていうから、目的は金じゃない」
「特定の相手とどうこうする気もなし、と。単に女遊びしたいだけか、こいつら?」
 首を捻るロート・クロニクル(ea9519)に、纏められた被害というべきかわからない内容の報告書の束を放り出しながらシャルウィード・ハミルトン(eb5413)が、テーブルの上に頬杖をつきながら答えた。
「‥‥の、割には偽者を演じる相手がやばいところ突くし。よっぽど頭がおめでたいか何か考えがあるのか」
 呆れともつかぬ渋い表情で、羊皮紙の上をとんと指で突つく彼女へあるいは、と今度はロートが返す。
「ちやほやされるためかとも考えたが、なら護衛っぽいのは連れずに単独でやりそうだし、そういう風評を広めるためにやってんじゃねぇのかなぁ‥‥」
 ――最終的に何したいのかはわからんけど。
 それに頷くように、それまで黙って仲間の話を聞いていたレイル・ステディア(ea4757)が口を開いた。
「中級以上の貴族の庶子あたりで、よからぬ事を企みそうな輩に覚えはないか? 後はないとは思うが、王族の御落胤とかか?」
 ある程度の教養をもっていると見たレイルが訊ねると、冒険者が座るテーブルから少し離れた窓枠に寄りかかる様に立っていたオベル・カルクラフト(ez0204)は静かな声で答えた。
 ブランシュ騎士団の分隊長であり、今回の依頼主でもあるオベルは、今日はその身に己の身分を示す物は何も身に付けてはいない。
「‥‥中級以上の貴族の庶子に限らず、黒に限りなく近い噂を持つ貴族などは掃いて捨てるほどいるな。後者については我々で掴んでいる情報は無い」
 噂や風評は、あくまでその域を出ない。出るような浅はかな行動や尾を掴ませるような間抜けな者は貴族としての駆け引きの初歩で切り捨てられる。上にはあがれずに終わるだろう。上級貴族に利用されているという可能性もあるが、王を騙るという行為はリスクが高すぎる。
 オベル自身も高い身分を持つ貴族の一員だからこそ、貴族社会の裏側は知っている。
「愉快犯? それにしては手が込んだ込んでいるように思えるが」
「ともあれ、そういう事なら同じ場所に頻出ってのは期待できないな。来そうなトコで一度も現れてない場所に狙いをつけよう」
 意見を交わしながら、パリの地図を確認していた仲間達の傍らで、フォーノリッヂが記されたスクロールを広げていたリアナ・レジーネス(eb1421)が、柔らかな面差しの顔立ちを曇らせて、スクロールを閉じた。
 彼女は、「ヨシュアスを名乗る偽者」と「ヨシュアスを名乗る偽者の側近を騙る者」について、何か得られる未来がないか魔法を手繰っていたのだが、単語の組み合わせで返って来る未来の読み解き方は限定された望むものを得難かったようである。
 前者の問いに得られた単語の意味が、求めるものと食い違いがあるようで首を傾げたリアナに助言をしたのはオベルだった。ヨシュアスを名乗る偽者は複数おり、そのうちの一人の様子を伝える未来は、まさしく自称ヨシュアスを伝えているようだという事。ただ、後者については、非常に曖昧な何かを伝える未来しか無く、人であるならあるべき正体がぼかされている事が不気味な印象をリアナに与えた。けれど‥‥。
「頼むぞ、リアナ。どーせだからレイルも逝っとけ」
「‥‥リアナへの依頼と雰囲気が違う気がするんだが」
 ミミクリーで姿を偽っての囮を提案するシャルウィードに、レイルが嘆息を吐く。シャルウィードに面白がっている色が否めないのは彼だけではないだろう。
 初日はロートへ力を貸してくれるファラの助けもあるが、2日目以降に自称ヨシュアスの偽物を誘き寄せる囮役はリアナだけだ。
「なんでしょうか、既視感を感じるんですが‥‥」
 大丈夫、と危険な可能性を飲み込んだ上で頷くリアナは、かつてキャメロットで女性を口説いては肝心の段階で逃亡するナンパ男を捕えるため、見事に該当するナンパ男をひっかけ、捕まえた経歴もある。
「ともかく、正午辺りに昼飯兼ねて情報交換するってのは、OK?」
「決まりでいいんじゃないか?」
 ロートの纏めに、シャルウィードを始めとする仲間が頷き、一同の意思統一が図れたところで、1日目の自称ヨシュアスの偽物捜索の開始となる。
「まあ、陛下と国のためにもどーにかしないとなー」
 こめかみを掻きながら呟いたロートの呟きが、この場にいる皆の目的であり、この依頼の全てを表していた。


●調査開始‥‥
 ベールを目深に被った女性が下町を歩いていた。よくよく見れば彼女が当所なく迷うように歩いているのに気付いたかもしれない。身に纏う衣装や一揃いから修道院を出たばかりのよく世間知らない娘なのだろうか。すれ違うカップルに目を留める様子は修道院暮らしから世慣れぬものめずらしさなのかもしれない。
 けれど彼女の目的から遠い世話を焼きたがる下町の女将らから、物騒な事に巻き込まれる前に帰りんなと世話を焼かれ、ファラの目的は果たせないまま自称ヨシュアスの偽物を探る1日目が終わるのだった。

 予め該当に当てはまりそうな人相の男の出入りした店を調べておこうと思っていたが、過去に出入りをしていた店の情報はオベルから得られた。
 それらの店の傾向を鑑みてレイルが選んだのは、名のある歌い手や舞い手がいるそこそこ繁盛している店だった。
 繁盛していれば必然的に人の耳目が集まる。それでなくても良い酒には美女がつき物。美女がいれば‥‥というわけだ。
 人々が集まり、夜の喧騒も盛り上がりを見せる頃に、店主を捕まえ気前良い注文をする。
「この店で一番いい酒を。この場で出会に感謝して、俺と‥‥この場の全員に一杯ずつ振る舞ってくれ。みんなに祝って欲しいんだ」
 祝い事という言葉と突然の気前の良いレイルの振る舞いに、何事だと訊ねる声がちらほら上がる。結婚が決まったんだと言えば、場も沸き冷やかし交じりの祝いの言葉が飛び交った。突然の祝い事に更に賑わう酒場の中、賑わいの中心はレイルだ。周りに集う人々を見回し、ふと呟く。
「最近ヨシュアス殿のお姿を見てないな‥‥」
「ヨシュアスって、あの有名人さん?」
 問い返す女のいうヨシュアスではない事を告げると、今度は別の女から声が上がる。
「最近姿見ないわねー」
「何か別のトコには来たとか聞いたわよ?」
「ええー?」
 ‥‥こういう情報は向こうから来るのを待つのが手っとり早い。レイルの読み通り彼の傍を離れて一人歩きを始める自称ヨシュアスの噂について耳を傾け、適当に会話をしながら酒の杯を傾けた。

「何か嫌な噂を聞いてな、万が一にでもカミさんに近づかれないように話を聞いてんだけど」
 奢るから知ってたら教えてくれよ、とロートが酒を勧めると、酒が功を奏したのか割と簡単に口を開いた男は最近の色男の話をしてくれた。
「女達はきれいな顔に酔って夢でも見てるんじゃねぇのか? 大丈夫、兄ちゃんも良い男だよ!」
 酔いもまわって口も回る。けれど必要な情報が下世話な推測と噂話にやっかみも混じり、聞き取り難い話をロートは辛抱強く聞き出した。
「カミさんに逃げられないよう頑張んな、色男」
 バシンと背中を叩かれて、力の強さに酒を噴出しそうになるが、男の気持ちが言葉通りとわかるから礼を言って見送る。
 女へ話を聞くときには、カミさんに離縁状叩きつけられないように、女の好む手管っつーか何つーか、そういうのを知りたいんだと拝み倒すように下手で願い出た。
「女に声を掛ける時に別の女の事を想ってます、なんて言うもんじゃないわよ」
 と艶然と微笑みながらも気前良く教えてくれた飲み屋の女将。情報収集ついでに半分本気なのがロートの表情に出てしまっていたかもしれないが。

 ヨシュアス及び側近を名乗る偽者達が近づいてきそうな雰囲気を醸し出して街を練り歩くのはリアナ。好みそうな雰囲気を具体的に如何とは図っていなかったけれど、ロートが頼んだファラの振る舞いに倣えば良いはずだ。ゆるりと吹く夏の気だるい風に気をまかせるまま街を歩けば、柔らかな光を束ねたような銀の髪がなびくように弾んだ。
 伴った霊鳥に臆する事無く声を掛けてくる男は多くはなかったが、それでも時折掛けられる声は、彼女自身に掛けられた声。しつこく手を引こうとする男からは、己の手を取り戻してそつなく身をかわし逃れる。冒険者でなければ連れ得ない鳥を伴う彼女にそれでも無理強いを図ろうとする男はいない。
 接触が果たせなければ、シャルウィードが待ち構える場所へと誘導する事も叶わない。
 街を歩くリアナの位置が分るよう高い場所で、時折様子を確認するよう眺めながら待機しているシャルウィードは、連れ出す場所が静かなままである事に嘆息を吐く。
 騒ぎを危惧するどころか、騒ぎの火種すらも見当たらないまま‥‥時間だけが過ぎていた。


●街の様子
「そういえば、最近可愛らしいお嬢さんがいらしたと聞いたのだけれど」
「‥‥ああって、ありゃだめだよ。修道院からのお嬢さんじゃ兄さんには分が悪いんじゃないのかい?」
「成る程。大いなる父には叶わない、か」
 笑う男の声は涼やかでよく響き、遠くまで通る良い声をしている‥‥とは、下町の女将でなければ思ったかもしれない。
「それにしても良く知ってるんじゃないか」
「それはほら、私は素敵な花嫁を探しているからね。女将さんに巡り合う為には、私が生まれてくるのがあと20年は遅かったようで、残念です」
「またよくいうよ、この子は」
 遠慮なく背の高い、年頃の男性としてはやや細い感じのする背を叩き、特製の野菜挟みパンを「もう少し太んな!」と持たせて見送った。


●見せぬ影、掴めぬ姿
 定時の情報交換の場に集まったシャルウィードらは、仲間達の表情から今日とて芳しくない結果を互いに読み取った。
「捕まらなかった‥‥ていうより、出なかったな」
 依頼の期日は5日間。ちらと影も見せない自称ヨシュアスの偽物達にロートは痺れを切らしたように呟き零した。
 ここまでくると夜まで回って歩いても、その姿を掴めるかは正直妖しいところだ。
 ロートが得た情報は、それでも目的をきちんと絞っていたからか、具体的な情報が多かった。
 自称ヨシュアスに関った女性は、現実の男に飽いて。あるいは現実に夢を見ることも出来ないほど傷ついて。見目麗しい騎士のようなヨシュアスに、心の裡を埋めるかのような言動を貰えば‥‥。
「あたしにゃわからん感覚だがな、そういうもんかね?」
 肩を竦めたシャルウィードにリアナが微苦笑を浮かべる。女性の心弱い所を突いてくるという点ではリアナは偽者達を許せないと思う。
「派手に話は撒いたつもりだったんだが、俺のまわった辺りもダメだ」
 高級酒場を回って話を振りまいてきたレイルの元へ集まったのは、姿を見せない自称ヨシュアスを知っているなら逆に見つけたら連れてきて欲しいという女の軽口や恨み言ばかり。
 連れるソルの羽根を撫でながら、かからぬ本命にリアナも小さく嘆息をこぼした。か弱い女の一人歩きに声を掛けてくる男は、ひとり二人ではなかったが、男達はどれも自称ヨシュアスとは程遠い者ばかりだったのだ。
「‥‥推測に過ぎないが」
 そう前置いてオベルが口を開いた。
「彼らは君達‥‥冒険者を避けているようだな。少なくとも私にはそう思えた」
 オベルの疑惑は、この5日間の間に確信に近いほどのモノに変わってはいたが、断定はできない。だから推測だと前置いたのだが‥‥危険かもしれない囮役を買って出たリアナが怪訝そうな表情を浮かべた。オベルの言葉とリアナを見比べ、最初に気づき短く声を上げたのはロートだった。
「冒険者街には未だ足をのばしていなかったんじゃねぇ‥‥!」
「避けてたってわけか」
 シャルウィードが舌を打つ。同じ場所に頻出はしないだろうという読みは良かった。問題は絞る先と仕立てた囮にあったのだ。
 リアナが連れていた金色に輝く羽根を持つ霊鳥は、霊鳥としては小さかったが街に伴うには十分大きな鳥だった。長く色鮮やかな尾羽も麗しい霊鳥は飼い主であるリアナと友好関係を結ぶような態度で傍に侍り、大人しく護衛よろしく主と共にいたソルの姿。
 冒険者に慣れている下町の住民は、冒険者が連れ歩くものとして認識しており、あるいはそのソルすらも珍しい南国の鳥か何かと思って声を掛けてくる男も少なくなかったのだが‥‥。
 パリの下町から貴族達が集まる高級歓楽街まで幅広く姿を現していた自称ヨシュアスの偽物。
 本物の自称ヨシュアスであれば、冒険者達が集う酒場にいつものように顔を出していてもおかしくはないのに、実際に冒険者街に届いたのは、街をそぞろ歩く自称ヨシュアスの噂だけ。
「‥‥冒険者街に現れないのは、姿を見せられない理由がある‥‥というわけか」
「最終的に奴らが何をしたいのかはわからんが‥‥人の企みじゃないのかもしれねぇな」
 思案するように呟かれたレイルの言葉に、眉根を寄せながら応じたロート。彼らの傍らで、歯噛みするように薔薇の荊で作られた鞭の柄をギリギリと握り締めたシャルウィードが半ば呻くように零す。
「おめでたいんじゃなくて、奴らの方が上手だったって事か」
 恋や短い間の仮初でも良い愛を求める女性達。
 彼女達は、夢のような時間を過ごしたと声を揃えていた。
 そして奴らは冒険者達の下へは近付かない。
 ‥‥近付かないのではなく、近づけないのか、何か理由があるのか。
 既に出ていた条件は、囮を立てるのに十分だったが、それ以上の何かがあったらしい。
「更に情報が絞れた。陛下を名乗る者は捕縛できなかったが‥‥ここまで推察できる材料が判れば十分だ」
 冒険者らに対しそう述べたオベルの言葉には、言葉以上も以下も含むもののない声音。
 それでも実際に成果を上げることが出来なかった実情、芳しくないリアナの表情は感情を面へ出さない仲間達全ての心中を表すかのようだった。