【収穫祭】 水澄む秋川の淵で

■ショートシナリオ


担当:姜飛葉

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2008年11月19日

●オープニング

●緑と藍と
 ブランシュ騎士団を束ねるヨシュアスがいる団長室へ向かうため、王宮の広い回廊を<藍>分隊長オベルが歩いていると、<緑>分隊長であるフェリクスに会った。広い王宮内で、面会の約束もなしに偶然会えるほど、互いに閑暇なわけではない。容易ではない巡りあわせに、挨拶を交わせば、目的地が同じだったための『偶然』だった。話の流れで同行することになったが、王宮内では何処に耳目があるかわからない。自然、当たり障りのない会話を交わしながら団長室へ向かう事になった。

「ギュスターヴ卿がまた奮起されているとか」
「‥‥聖夜祭の季節が近いからな」
 くす、と小さく口元に笑みを浮かべるフェリクスに、オベルは眉根を寄せた。ギュスターヴが奮起する理由といえば、今現在1つしかないからだ。即ち、ウィリアム3世の婚姻問題である。
「そういえばレンヌ公の姫君は今王宮に二人いらしてるのでしたか」
「そのようだ。有カ候補らしいが、ギュスターヴ殿もどうされるのか‥‥」
 どちらの公女にも直接の面識の無い者同士だったが、レンヌの公女である以上、花嫁候補二人は、マーシー1世の係累には違いない。
 フェリクスは滅多に腹の中を見せる事のない朋輩だが、静か過ぎる声音がかえってその心中を表しているようで、かつてを多少なりとも知る同僚としては居た堪れない。
 気の利いた言葉が得意なわけでなし、相手もそれを望んでいるわけでもないから特にそれ以上踏み込みもしないのだが。
「おや、噂をすれば‥‥でしょうか」
 柔らかな緑の瞳を、ついと細めて囁くように密やかにフェリクスが呟いた。オベルが彼の視線を追うとその先には、幾人もの貴族達が歩いてくるところだった。その中の一人に、マーシー1世がいる。
 どちらともなく緑と藍の分隊長は、彼らに道を譲るように退き、間違っても声などを掛けられる前に彼らから離れようとしていたのだが‥‥。
「これはこれは、ブランシュ騎士団分隊長殿らがお二人揃って、どちらへ?」
 一人の壮年の男性貴族が、空気を読む事のない貴族特有の間でもって声を掛けてきた。
「団長への報告がありまして」
 言葉少なに応じると、恰幅の良い男は成る程と大仰に頷いてみせる。
 歓心を買おうというのか、機嫌取りにも似た話題が幾つか投げかけられるが、フェリクスもオベルも会話に乗ってこようとはしなかった。とうとう行き着いたのは結局‥‥。
「陛下も漸くご自身の婚姻問題に取り組まれるご様子。ノルマン王国の看板たるブランシュ騎士団の分隊長殿らもいかがです?」
 余程話題の種が無いのか、あるいは旬なのか‥‥挙がる話題がどこも同じものだな、と二人は内心で思った。
 次第にオベルとフェリクスを無視して勝手に盛り上がり始めている。
 最初こそ話を聞くだけであったマーシー1世までもが口を開いた。
「我が家は娘には本当に恵まれておりましてね。恐れ多くも妃候補に‥‥と呼び寄せた娘以外にも、親の欲目かもしれませんが、よく出来た器量良しの娘がいるのです。卿がお心に留められた姫君が本当にいらっしゃらないのであれば、是非会って頂きたいものです」
「約束の時間に遅れてしまいますので、これで」
 同輩であり、先達でもある赤分隊長ならばまだしも、親しいわけでもない人間に通りすがりの話の種にされるいわれも無く。更にこれ以上何か言われる前に、礼を失しない程度に話を切り上げ、慰勲に礼を取るとオベルはさっさとその場から立ち去ってしまった。フェリクスも優美にも見える仕草で一礼し、後を追うように歩き出した。
「眉間にしわがよっているよ」
「礼を失しない程度には話に付き合った。これ以上は不要だ。‥‥フェリクス殿なら私よりも余程うまくできるだろうに」
 先ほど貴族達に囲まれていた時の堅物そうな表情と変わり、渋面を作っているオベルにフェリクスが軽く肩を竦めて見せた。
「家格を重んじる大貴族殿のお相手は私には荷が重い」
「‥‥良く言う」
 これ以上、フェリクスに笑いの種を与えるものかと、オベルは口を閉ざした。
 また別の責族に捕まらないようにと、緑と藍は足早に回廊を通り過ぎていった。


●そんな会話が交わされた数日後の藍分隊
「はいはい、大好きな隊長が不在でやる気が出ないのはわかるけど、仕事はちゃんとするようにー」
「‥‥それはヴァレリー副長でしょう」
 部下達から上がった苦笑交じりの反駁をさらりと流し、ブランシュ騎士団<藍>分隊の副長ヴァレリーは、手にしていた書類を幾人かに配った。
「お仕事でーす。昨年水害が起きて被災した地域に今年は各領主に指導と支援をしてきましたが、現状どんな感じになっているのか現地確認に行って来て下さい。一応、慰問を兼ねた視察という形になります」
 配られた書類には、巡回する地域についての詳細な情報などが記されていた。
 巡回には分隊全員が向うわけではなく、地方巡回に出る者と王都待機者の名が分かれて記され、各々への指示書き連ねられていた。
「各自書類を熟読した上で質問があれば、別途受け付けます‥‥以上」
 必要最低限の説明だけ行ったヴァレリーは、分隊員たちを見回し、エドモンらに視線を留めた。
 地方巡回組に入っていた彼らは、副長の視線を真っ直ぐに返す。
「この間、冒険者ギルドに行ってたよね。それじゃ地方に行く前に、フロランス殿のところへ寄ってから巡回に向ってくれないかな?」
「冒険者ギルドですか?」
「そう。災害時に助けてくれた冒険者達への感謝の声も上がっててね。御礼もしたいって地域から要望がきてるから、誘って一緒に行っておいで」
 かつて、国に溢れた予言に文字通り押し流されそうになった水害の被災地。
 糧を与えてくれる川が濁流となり、森の恵みはそれを支える大地ごと流されてしまったけれど‥‥氾濫を起し荒れ狂った河川は、今は穏やかに実りを与えてくれた。1年の刻が過ぎて、流れた時間分降り重なった木の葉が、災害の爪痕を覆い隠してくれていた。
 少しずつ少しずつ、悪意によって引き起こされた災害の跡を乗り越えてきた村々のささやかな収穫祭。
 そこへ感謝の気持ちを込めて冒険者を招きたいと村から要望があったのだ。
 村の収穫祭は、生活の中心となる川べりで行われる。
 収穫祭のメインは、老若男女問わず参加する川での釣り大会。
 小さな子は、川の瀬に杭などを並べ、そこに梁簀を張って流れてくる魚を受けて捕る仕掛けがされている場所で、あがった魚を掴み取る事もできる。
「季節的にもう寒いからね、川の側では常に火が焚かれていて、温まる事も、釣ってすぐ焼いて食べる事も出来る便利なお祭りだそうだよ。お祭りらしく、他にもお菓子や料理が振舞われるそうだから、釣り大会に参加しなくても十分過ごせるんじゃないかな」
 村人と交わり、祭りを楽しむ一助になるのも王国の騎士の大切な役目になるだろう。
「わかりました、冒険者ギルドヘ依頼の上で向います」
「よろしく。冒険者達はともかく、君達は仕事忘れないでね」
「‥‥心がけます」
 言わずもがなの注意は、留守番組に入らざるを得なかった副長のささやかな反抗心なのだろう。
 それがわかっていたエドモンら部下達はそれがわかっていたから、何も言わずに巡回のための支度を始めるのだった。

●今回の参加者

 ea2181 ディアルト・ヘレス(31歳・♂・テンプルナイト・人間・ノルマン王国)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea7489 ハルワタート・マルファス(25歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1460 エーディット・ブラウン(28歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9243 ライラ・マグニフィセント(27歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ec5382 レオ・シュタイネル(25歳・♂・レンジャー・パラ・フランク王国)

●サポート参加者

ミフティア・カレンズ(ea0214)/ シェアト・レフロージュ(ea3869)/ レア・クラウス(eb8226

●リプレイ本文


「ミランダさん、デートしようぜ!」
「‥‥唐突だな」
 バーンと誘い文句をかますハルワタート・マルファス(ea7489)につっこんだのは料理の仕込みをしていた店主だった。
「おっちゃん、でっかいサーモン釣ってくるからいいよな?」
「ハルワタートさん、釣った魚はお持ち帰り出来ませんよ〜‥‥」
 お誘いの付き添いエーディット・ブラウン(eb1460)のひっそりなツッコミはきっと彼の耳には届いていない。
「でも、銀花亭の外回りの宣伝も兼ねてというのはどうでしょう〜?」
 でもちゃんと援護。仲間って素敵。
「楽しそうだけど、流石に急に5日もは家を空けられないわ」
 ごめんなさいね、とミランダの返答。
「残念ですね〜」
 主に同意するように、ノルマンゾウガメが袖を引くように服をはむ。土産話を楽しみにしているから‥‥と、ミランダはその頭を撫ぜた。「釣り大会、頑張って」と励ましを背に受けて、単身挑む事になったハルワタートだった。



 3人娘のお見送り。
「今回はジャパン風のお見送りとしましょう」
 大量旗代わりのヴェールを手にもって風に靡かせながら、兎耳を揺らし舞うミフティアにはジャパン語で『座敷童』と書かかれたお札が貼られていた。太鼓を打ち鳴らしながら舞うレア。彼女らをにこにこと見つめながら三味線を奏でるシェアトの指は軽やかに不思議な旋律を刻む。ミフティアが「あ〜した天気になぁれ♪」とおまじない方々下駄を蹴り上げ見送りの儀式は終了である。
 見送りにエーディットは笑顔で手を振り、主と同じくゾウガメ達も彼女らに、はむはむでお礼としている。
 友の見送りにユリゼ・ファルアート(ea3502)は‥‥といえば、怪しげな内容に頭を抱えつつ仲間ら+猫二匹と出発するのだった。



「この時期まで収穫祭が楽しめるなんて。でももう冬も間近‥‥早いものだわ」
 楽しげに鳴る朽ち葉達の囁きを聞きながら、うきうきと足取り軽く向かうユリゼの頬を撫ぜるように通り過ぎていくのは、冬の気配を孕んだ風。
 案内役の藍分隊の騎士が先導する傍らで、肩に侍るアンジェラがいるから寒くないやと笑うレオ・シュタイネル(ec5382)は、「収穫祭、ひゃっほう☆」と弾む足取り。
「ブランシュと一緒の依頼は初めてだ。藍分隊、だっけ? 俺、レンジャーのレオ。よろしくな」
「ウェールズのライラだ、よろしくな」
 ライラ・マグニフィセント(eb9243)らに女性騎士は挨拶を返し、カミーユと名乗った。
「藍分隊ってあんまり馴染みが無いので、この機会に活動や隊長さんは結婚してるかを聞いておきたいかも〜‥‥」
 そんなエーディットの疑問にはカミーユと同じく案内役のエドモンが答えてくれた。
「そうですね、私達は余りパリにはいませんから」
 独自にノルマン王国を回り、時に他国にも出向いているという藍分隊はその特性もあって、他の分隊と比べると冒険者らとは馴染みが薄い。
 ただ結婚については地方巡回が主な任であるにも関らず、分隊内は独身者の方が少ないという。
 終始放浪をしていると出会いの機会が無いから結婚すると飛ばされる、とか、逆に出先で出会いが多いから既婚者が多いとかいう訳ではなく偶々らしいのだが‥‥。
「ちなみに隊長は、独身です」
「ここも未婚ということなら、パリの偉い人既婚率は全滅でしょうか〜?」
「全滅ではないですよ。唯一の牙城はギュスターヴ分隊長です。赤分隊が代替わりをされたら、全滅ですけどね」
 エーディットは、あらら‥‥と頬に手を当る。
「全滅と入っても、今の所は結婚していないというだけで皆さんお相手がいないのかは流石にわかりませんけどね‥‥さ、もうすぐ着きますよ」
 エドモンに促されるように丘を登りきると、彼らの目に飛び込んできたのは村の傍を流れる水の煌きだった。



「ここは釣れますか? ‥‥よっこらせっと」
「それなりね。‥‥若いのに」
 近くに座ったディアルト・ヘレス(ea2181)を、ちらと一瞥しただけで彼女はまた川面に視線を戻す。若いのに‥‥とは掛け声の事だろう。
 ディアルトが見ると彼女の隣に置かれた桶の中には『それなり』以上の魚が泳いでいた。
 ブランシュ騎士団ではなく、冒険者でもない騎士装束の者というのは容易く見つける事が出来た。本人は地味に纏めてはいたものの、傍らに侍る馬が見事な良馬であった事が決定打だ。それなりの身分でなければ持てないであろう駿馬だったからだ。
 借りてきた釣竿に餌を付け、ディアルトも川面へそれを放る。その間に彼女は竿を引いて糸を手繰り、魚を釣り上げていた。
「手馴れてますね」
「それなりに」
 素っ気無い返答も気にせず、ディアルトはどうせ簡単には釣れないだろうと竿を固定し、重箱を広げる。中には、村のおばちゃん達に詰めてもらった収穫祭に作られた季節の木の実や果物をふんだんに使った菓子や、パンが詰まっていた。酒器も取り出し、それにワインを満たす。
 川を流れる水は澄み、きらきらと陽を照り返す。時に跳ねる魚影が上げる飛沫が更に煌きを増やし、穏やかな水音と人々の賑わいが漂う祭りというには幾分毛色の変わった温かな空気が流れていた。川面を滑る風は甘い水の香りを孕み、新酒の爽やかな薫風をディアルトへ届ける。
 杯を傾ければ、喉を流れる酒は何とも言えず美味であった。
 酒そのものの美味さに加え、杯を傾ける場所の空気が良いのかもしれない。
「お菓子は如何ですか?」
 どうせ祭りの席で貰ってきたものだから‥‥と、勧めると酒の方だけ受け取った。その間も桶の魚が増えている。
「上手ですね〜」
「貴方は何か別のものでも釣りに来たの?」
 褒めると、彼女は怪訝そうに川面を見つめたままディアルトに問い返した。
 竿を引くタイミングがずれていて、魚を逃している事を指摘しているのだろう。釣りに躍起になる事ではなく、昼間から酒を飲んでのんびり過ごす予定なのだと言うと「それも楽しみ方の1つね」とあっさりと彼女は納得したようだった。
「そういえば、先日パリで国王似のヨシュアスという方とお話したのですけれど‥‥」
「噂のお忍びの偉い方の事かしら」
 釣り上げた魚を桶に放り込み、そのまま再び川へ針を投げる。流れるような動作で釣り上げていく彼女の手元をみて、自分の竿をみるが餌が取られる一方な気がする。けれど、ディアルトが対峙している相手は‥‥引っ掛かった気がした。
「気になる方がいるそうですよ」
「偉い方の春、早く決まるといいわね。ね、冒険者さん?」
 ディアルトが誰かはわからずとも、連れていたペットで正体はわかったのだろう。けれど、竿を引いた彼女の針先に、魚はいなかった。



 愛用の釣竿をひっつかんで、いざ釣り大会に突入したハルワタート。
「コンスタンチノープルの釣吉ったぁ俺の事だぜ!。この時期の旬を逃さず、ゲットだぜ!!」
 しゅびっと慣れた手つきで釣り糸を垂れる。投げ入れられた針の先には彼必殺の秘密兵器がついていた。
「ふ‥‥この日のために、大事に育ててきた秘密兵器‥‥このぷりぷり加減、脂がのってるようなぽってりとした艶めき極上の逸品だぜ!」
 秘密兵器とは自分で育てているある種の芋虫。見た目にその辺にいる芋虫と大して変わらないのは秘密。
「今日の俺は一味違うぜ‥‥」
「確かに違うわね」
 早速釣り上げたらしいハルワタートの釣果を横目に、レアから貰った伝説の釣り人の力が宿っているとされる釣竿に、家にあった鹿の角を用いて作られた釣り針を付け、大量を狙うユリゼも慣れない手つきながら川へ糸を投げ入れた。雑魚に近い小マスを釣り上げた彼の悲鳴は黙殺。
「アーモンド達も応援してて。あ、他の人のお魚は食べちゃ駄目よ?」
 川石の上で跳ねるハルワタートの雑魚へそっと腕を出そうとしていた猫達が、慌てて手を引っ込める。
「流石に川の傍は冷えますね〜」
 毛皮の外套を羽織ったエーディットは、ゾウガメ達にもほっかむりやマントで可愛く完全防寒している。
 目立たないよう釣り大会に混ざろうと思ってはいるのだが、いかんせんノルマンコゾウガメがサイズ的にも種類的にもとっても目を惹く上に、おしゃれしていて更に大注目だった。
「お、エーディットちゃん、引いてるぜ?」
 立ててあった竿が引いてるのに気付いて慌てて竿へ手を伸ばした。ちなみにエーディットの竿は村から借りた物。なんとなく彼女のジンクス的に現地の物の方が良く釣れる気がしたからだ。見事1匹目をゲットしたエーディットに続けと、冒険者らは川へ釣り糸を垂れた。



「‥‥て、え。フロリゼル、何してんの?」
 レオが呼びかけても、川べりの騎士は振り返らなかった。代わりにその傍らにいた黒鹿毛馬が、もしゃりとレオの髪の毛を食んで引っ張った。
「わ、痛いってば、エトワール!」
 アンジェラがレオの危機に、ぐるぐると周りを走るが、いかんせんサイズが違うために相手にされない。
 後方の喧騒に諦めたように肩を落として竿を引き、針を水の中から引き上げた騎士はようやく振り返った。
 振り返った彼女が唇に人差し指を当てているのをみて、レオは状況を察した。名前を呼ばれたくないらしい。エトワールがレオを諌めたのは主の意向を汲んでの事だったのだ。
 彼女の隣にある石の上に座って、アンジェラに悪戯しないよう言い聞かせながら釣り道具を用意し始めた。
「この前な、どうしたら王様が結婚するか、皆で話合ったんだ」
 針に餌になる虫を付けながらレオが話すと、彼女は何も言わずに揺れる釣り糸を眺めていた。
「‥‥なぁ、王様ってどんな人? 結婚出来たら、嬉しい?」
 真っ直ぐな言葉の問いかけに、ずっと黙っていた彼女が口を開く。
「とても良い人じゃないかしら。‥‥そうね、良くも悪くも『良い人』だわ。結婚できたら、嬉しいわね」
 レオには上手く問い返す事が出来なかったが、最初の問いの返答は曖昧な気がした。でも、結婚できたら嬉しいと彼女が言うのなら‥‥。
「親父さんの意向、とかじゃなくて、フロリゼル自身が結婚したいって思うなら、俺は応援するよ」
「ありがとう」
 化粧気もなく、衣装も地味なものだったが、柔らかく微笑む彼女は間違いなくうつくしかった。でもそれはほんの少しの間。
「でも、私だけがしたくても出来ないのよね」
 ぽつりと呟く彼女。いつもの表情の上に浮かぶ笑顔と言葉に、瞳を瞬かせたレオはある事を思い出して、バックパックを探る。
「あ、これ貸しとく。究極の変装になるし」
 レオが彼女の手のひらに落としたのは、青色と銀色の金属が複雑に絡み合った魔法の指輪だった。その指輪が齎す魔法を聞いて、彼女は目を瞬かせた。
「でも、もしもの時だけな。俺は、フロリゼルは女の子の方が良いもん」
「‥‥あのすっとこどっこいに‥‥色々と解決するでしょうに」
「何か言った?」
「何も。ありがとう」
 首を傾げたレオに、彼女は礼を言って指輪を嵌めた。一緒に祭を楽しもうと笑み交わし、二人揃って川に糸を投げ入れた。



「やあ、釣果はどうかね? あたしは、ウェールズのライラだが、名前を聞かせてもらって良いかな?」
 尋ねると、少しだけ返答に間があいた。
「パリのフロランス、釣果はそれなりね」
「‥‥‥‥」
 どこかで聞いた名と、既視感を覚える遣り取り。おぼろげな記憶が間違っていなければ、違う人物であったはず。
 だが敢えて問い返す事はなく、ライラはスープを勧めた。釣り上げた魚を、ジャパン風のスープにしてみたライラのお手製だ。
「良かったら、あなたもどうかね?」
 湯を沸かした鍋に、適当な大きさに切った魚と人参、ハーブと塩少々を入れ、最後に芋がら縄を加え味を整えたスープだ。
 勧められた器に彼女が礼を言って手を伸ばしたその時だった。
「あ、あれ? フロリゼル‥‥様?」
 今度こそ彼女の肩が落ちた。隣で釣り糸を垂れていたレオが、口に人差し指を当て「しー!」とジェスチャーをユリゼに送る。
「パリのフロランス殿だそうさね」
 ライラが口添えると、ユリゼは納得したようにぽむりと手を打った。
「あのね、フロランス様は突っ立ってるだけでも綺麗で目立つんだから、同じ目立つなら色々変えちゃえば良い気がするの」
 折角の祭り、村娘風の洋服など普段とは違う市井の人のお洒落も楽しんではどうかと腕を引くユリゼに彼女は盛大に柳眉を顰めた。結局釣竿はレオに託され、彼女は腕利きの仕掛け人らに引っ張られていったのだった。



「どうかしましたか?」
 村を訪れるための道を気に掛けているライラにカミーユが声を掛けた。何でもないと言おうとした彼女に、エーディットが助け舟を出す。
「橙分隊のハニワさんやライラさんの彼氏も、お祭りに来られないかと思ったんですけども〜」
 彼氏という言葉にライラがふいと目を逸らす。
「ああ、橙分隊は今確か‥‥シフール便が行き違ってしまったかもしれませんね」
 カミーユはエーディットの優しい笑みに瞳を細め、知る限りの近況を教えてくれた。
 藍分隊が本来の役目に戻れない理由にも関連して、ブランシュ騎士団は近頃皆慌しいらしい。
「聖夜祭はお会いできると良いですね〜」
「そうさね、聖夜祭では一緒に踊れたりすると良いのだけれど」



 皆が釣った魚は、大会の記録が取られた後で美味しく調理されていた。
 焼いた魚を解しペットにあげるエーディットと共に、ハルワタートはエチゴヤパンと村の干し果物の練り込まれた甘パンを交換こで食べている。
「焚き火か‥‥いいな」
 火の傍に寄り添って皆で温まると心も身体もより温まる感じがして、ユリゼは瞳を和ませた。
 一際大きな炎の周りには踊りの輪が出来ている。
 村の少女と手を取ってぐるぐると楽しそうに踊っているのはレオだろう。
 深く広い湖のような青色に染められたゆったりしたドレスに身を包み、裾をふわりと舞わせ踊るすっきりした体躯の主はライラか。踊る彼女の手を引くのがかの騎士でないのが惜しい。聖夜祭に舞踏会があれば良いのに‥‥と思う。
 踊りの輪から離れてライラが仲間達の下へ戻ると、彼女をエスコートしていた騎士が今度はエーディットを輪に誘った。
 軽く頷いて快く応じたエーディットは、軽快な祭りの音楽に足を踏み出しながら、踊りの相手に問い掛けた。
「ご結婚の予定とか意思とか〜。素敵なお相手はいらっしゃるのでしょうか〜?」
「予定は無いわね、今の所。素敵な相手がいるかどうかは‥‥ヨシュアス殿次第じゃないかしら?」
 背の高い彼女は、結局村にある娘の仕立てに合う物が無く、正真正銘村の男が祭りに着る晴れ着で装い、乙女達の王子様とは異なる良い男になっていた。
 その後、軽く指導されただけで、それはもう村の男衆と同じ衣装にも拘らず立ち居振る舞いから立派に騎士様だったという。
 釣り大会は、エチゴヤコーディネートの男と、とある騎士の一騎打ちのように思われたが、思わぬ伏兵が1位をかっさらっていたとか。