Est-ce que vous danserez？
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■イベントシナリオ担当：姜飛葉 対応レベル：フリーｌｖ 難易度：易しい 成功報酬：4 参加人数：13人 サポート参加人数：-人 冒険期間：12月19日〜12月19日 リプレイ公開日：2009年01月04日 |
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●オープニング
●嫁取り戦線――あくる日の最前線「うまい手を打たれましたね」
ブランシュ騎士団の分隊長らが集まる場でそう言われた手‥‥それは、国王の結婚問題に期限をつけたことだった。
王の婚姻は、ウィリアム３世個人のものではなく、ノルマン王国全体に関わる事。王としての責務でもある。そしてここに至ってなお責務を果たそうとしない王への風当たりは強くなる一方だった。国でも有数の貴族達が、こぞって姫君を娶わせようと画策しているにも関わらず、理由を明らかにせず先延ばしにしているだけにしか見えない‥‥という声が日増しに高くなっていくほどに。
「そんな訳があるか。所詮は時間稼ぎにしか過ぎん事くらい誰だって分かる」
それを提案し、王との確約を取り付けた当人であるギュスターヴは、それらの評価をばっさりと切り捨てた。誰よりもこの件に関して真剣に取り組んでいるギュスターヴだからこそ、良く判っているのかもしれない。
「ですが、公の場で期限をきられた事で、逆にそれまでは表立っては露骨な事はできないでしょう。‥‥誰を後押しするかの利権争いが水面下で激化しそうですけれどね」
渋面を作るギュスターヴを宥めながら、フェリクスは困ったように微笑んだ。
「それまでに陛下が覚悟を決めて下されば良いのですが‥‥」
「‥‥どうだろうな」
にこりともせず軽く嘆息をついたオベルに、フェリクスは片眉を上げた。
冒険者や民達、ノルマン王国の誰もがウィリアム３世の幸せと、国家の繁栄‥‥平和な世を願っている。願われたまま数年経過してしまったのもまた事実。
「まあ、ここのところ色々振り返り、思うところはあったようだからな‥‥」
国として１つに纏まらねばならない時に、内から火が出るような事は防ぐべきだ。
大丈夫だと、己が主と定めた王を信じるしかない。
なんとなく空気が纏まったような雰囲気を、婚姻戦線・仲人隊長ギュスターヴはさらりとぶち壊した。
「他人事のような顔をしてるが、陛下の件が纏まったら次はお前達だからな。イヴェットもフランも・・・‥誰しも例外は無いと思え」
ギュスターヴは、ぎろりと鋭い視線を若手一同に向ける。
「幸い、冒険者達もそれはそれは気に掛けてくれているようだ。協カは惜しまないそうだぞ？」
『だぞ？』というギュスターヴの笑顔は、どうみても「にやり」と形容される類のものだった。
それぞれに彼ららしい反応を返す朋輩達に、口元だけは微笑の形を作ったギュスターヴの瞳は、全く笑っていなかった。
●
「というわけで、ギュスターヴ殿に協力を求められてね。聖夜祭の時期に冒険者達で舞踏大会を開こうという話が出ているのだって？」
‥‥最近、人使い荒いね。ギュスターヴ殿‥‥とぼやきながら、冒険者ギルドを訪れたのは、ギース伯爵だった。
「それだけ切羽詰ってるのかもしれないか」
そう自分で言い始めたぼやきに自分で結論を付けると、ギルドに訪れていた冒険者達に向き直った。
「舞踏大会の練習のお手伝いを申し付けられてね。どうだろう？」
ギース伯が用意したのは、パリ郊外のとある貴族の別邸。
夜会が開かれる事もよくある広い屋敷だから、いわゆる貴族的な舞踏大会を開く感覚を学ぶのには十分だろうという話だった。
「練習をするための楽士は私の方で手配したから、踊りの練習を主に。踊り方がわからないから‥‥と壁の花になる事も無いよ。練習なのだから、講師もつけよう。私も男性パートであれば教えられるし、冒険者達の中にもダンスを嗜む者はいるだろう？」
ギースが尋ねると、確かにと声が上がる。
「宮廷音楽の譜面は必要であれば譲ろう。最も本番は、冒険者達で作るのだろうから、形式ばった貴族的なものに捕らわれずに踊りたいと思う曲を演奏するのが１番だと思うけれどね」
要は、楽しいのが１番だと。
楽しむ事ができたならば、きっと聖夜祭での舞踏会にも参加したくなるに違いない。
そして楽しい気持ちは伝播するもの。参加したもの全てが楽しめれば、良い思い出となるだろう‥‥とギースは話した。
「ペアは各自で作ってくれるとありがたいが、相手がいなければ、その場で声を掛けて組んでも良いんじゃないかな？」
「ギースちゃん、大丈夫なの？」
「‥‥大丈夫ってどういう意味かね？。一応、貴族の嗜みは一通り押さえているのでね。でないと生きていけないし。大丈夫だよ？」
シェラ・ウパーラの問いに、ギースはなぜか疑問符付で答えた。
変境伯は趣味の領域でのみ、常人から離れてしまうらしい。
それ以外は一応真っ当らしいので、都合が合うのならば伯の供する場で、踊りの練習など如何だろうか？
●今回の参加者
リーディア・カンツォーネ（ea1225）／ ディアルト・ヘレス（ea2181）／ ニミュエ・ユーノ（ea2446）／ レイル・ステディア（ea4757）／ エスリン・マッカレル（ea9669）／ リリー・ストーム（ea9927）／ デニム・シュタインバーグ（eb0346）／ エーディット・ブラウン（eb1460）／ アレーナ・オレアリス（eb3532）／ エリーシャ・メロウ（eb4333）／ レア・クラウス（eb8226）／ セイル・ファースト（eb8642）／ レリアンナ・エトリゾーレ（ec4988）●リプレイ本文
●Welcome to a dance hall冒険者を迎え入れた屋敷はとても大きな建物だった。夜会が行われる事もあるという屋敷は、そうした催しを行うための場所なのだろう。生活するための家とは異なる間取りで成された屋敷だった。広い玄関ホールを通り過ぎ、奥へ奥へと案内される。やがて辿り着いたのは大きな重く厚い、けれど精緻な細工が施された豪奢な扉の前だった。
年を感じさせないしっかりした歩みで冒険者を導いた老いた執事が、白い手袋に包まれた手で扉のノブへと手を掛けた。
重厚な造りの扉が押し開かれたその先に広がっていたのは――光の溢れる豪奢なダンスホールだった。
贅沢に透明度の高い硝子や金属が使われた豪奢なシャンデリアが幾つも天上から下げられ、灯された明かりを幾重にも煌く光の欠片に変えて広間を照らす。惜しむ事無く灯りが入った広間は夜を知らぬかの如き輝きの中にあった。そんな淡やかで麗々しい光の粒を彩る音の欠片が広間に浮かび、冒険者らを歓迎するように欠片が音色を紡ぎ出す。
「いらっしゃい、ようこそ冒険者殿」
飄々とした笑みを浮かべて冒険者らを迎え入れてくれたのは、この場所と機会を用意してくれたギース伯だった。
●Rise and Fall
舞踏会の練習に合わせ、リリー・ストーム（ea9927）が身に纏うのはいつもの戦乙女の甲冑ではなく、白き乙女のドレス。
「男性の動きに合わせるように‥‥自分を良く見せようと勝手に動いては駄目ですわよ。お相手の男性が気持ち良く踊れれば、自分も楽しくなりますし、心の繋がりも生まれますわ」
流れるようなステップに合わせて、白いドレスの裾がゆるやかに舞い、白い軌跡を広間に刻む。楽音に合わせリリーがこうべを巡らせば、深い琥珀の髪が緩やかに流れ、飾られた宝石は綺羅と星を飾る。リーディア・カンツォーネ（ea1225）へ女性パートの基礎教えながら、実際に踊って見せていたのだ。
「流れるよう‥‥とはよく言ったものですね」
リリーに師事していたリーディアは、ほうと感嘆の息をつく。優美に踊るリリーは貴族の令嬢そのもの。惜しむらくは、パートナーの動きが彼女の魅力に追いつけていなかった事だろうか。
「ほら、あなたも硬くならないで‥‥私たちが楽しければ、周りの目はどうでも良いのよ」
「そうなんだが、実際は難しくてな‥‥えっと‥‥たしか‥‥」
セイル・ファースト（eb8642）は、基礎は一応身に付けているはずなのだが、実践の経験が少なく体を動かすよりも先に頭で考えてしまって動きがギクシャクしている。
そんな夫の緊張を解くようにリリーは微笑み、ステップを踏む方へと導き踊る。いつ終わるのかと思うほどに長く感じた１曲を踊り終え、セイルは天井を仰向き小さく呟き零した。
「妻に頼りきりってのも問題あるし、ちっとはマシになるようになるよう練習する必要があるかもな‥‥」
「基礎は出来ているようだから、本当に慣れだと思うよ」
「そういうもんか？ 基礎は一応習ってんだがこういうのはどうしてもな‥‥剣ばかり振ってたツケが出た」
セイルにアドバイスしたのは、練習会に遅れてやってきたブランシュ騎士団＜緑＞分隊長であるフェリクスだった。彼も多忙であるはずだが、練習会を企画したギュスターヴに背中を突き飛ばされたのだろう。あるいは本当は‥‥。
「さ、私達も実践してみますか？」
差し出された手に、リーディアはそっと手を重ねた。どきどきするのは、慣れない踊りの練習の緊張のためだと言い聞かせて。
踊り出した‥‥否、踊るというよりも、最初の歩みを恐る恐る踏み出したかのようなリーディアの様子にリリーは微笑む。待っていた人物が約束通り訪れてくれた事に安堵して。次は夫の番だ。
「私達も踊りましょう。でも本当に１番大切なのは‥‥」
腕を組み曲の出だしを測っていたセイルの耳元へ、リリーはそっと囁いた。妻の言葉に頷き、セイルは笑って１歩を踏み出した。
●side leading
踊りという事で興味を引かれて来てはみたが、ジプシーであるレア・クラウス（eb8226）が得意とする民族舞踊は、貴族の社交の場となる舞踏会で踊るものとは趣が異なる。一口に踊りといっても得意とする向きと異なる事を言っていても仕方ない‥‥と、踊る皆を見ながらダンスのやり方を覚えようとレアは気持ちを定めた。暫く壁の花になりながら、流れる軽やかな曲を聴きながら１つ２つステップを刻む彼女に、掛けられた声。
誰かさそってくれるなら嬉しいけど‥‥と思っていたレアは、ディアルト・ヘレス（ea2181）を見上げ、鮮やかな赤い瞳を瞬かせた。
「慣れないのであれば、踊りを指導できるが？」
「‥‥本当？」
練習会といっても、慣れない者にとっては基礎を学ぶ場になるとふんできていたディアルトはゆっくり頷いた。
「練習時間はそうないから、一曲完璧に踊れる所までは厳しいかもしれないが‥‥‥ある程度は踊れるところまでは」
「私、ジプシーのレア・クラウスよ、よろしくね」
丁寧に騎士の礼でレアに応えたディアルトは、けれど彼女の職業を聞いて口元に笑みを浮かべた。今回の依頼は舞踏会の練習‥‥基礎を学ぶ場になると踏んできたが、形と流れを教えるだけで、踊りを職とする彼女には十分だろう。
「それではステップの基本と簡単な振り付けからになるが‥‥」
基本の型の構えを取ったディアルトは、既にホールで踊るぺアらを見遣る。
「要は双方楽しい気持ちになれば良いのだから、それはどんな踊りでも変わらないだろう？」
「そうね、見ている人が楽しくて、踊っている人も楽しければ‥‥それが大切だと思うわ」
見よう見まねでディアルトの手を取って、社交舞踊の型を倣ったレアは笑って頷いた。
●down
アレーナ・オレアリス（eb3532）はダンス教室を楽しそうに眺めていた。練習会でペアを作った人も、好き合ってペアを組み練習に参加した人も、それぞれに事情と努力が垣間見える。
「慾は兎も角、こうゆうのは楽しむのが基本だよ。とお姉さんは思うんだなぁ」
「そうだね、楽しむのが１番だと私も思うよ。お付き合いや仕事の場じゃないのだから尚更ね」
零れた呟きに思いがけず言葉が返り、アレーナは声の主を振り仰いだ。練習の機会に練習せずに壁の花になっていたアレーナに、ギースは小さく首を傾げ笑う。
「でも、欲は求め望む気持ちだから、それも得もない程‥‥損得を考える余裕がないほど切迫した状況になる前に認める事も大切だと思うけどね」
少し意味が違うかな‥‥と零しながら、白い手袋に包まれた手を差し出す。練習などせずとも大丈夫そうに見えるけれど、折角だからどうだろうと言葉を添えて。
踊れない者、苦手な者にとっては踊れる仲間の踊りを見る事も確かな目を養う練習になるはずだ。
●Closed turn
「お母様の様に華麗に踊れないですし、パートナーは愛想が悪いしスパルタですし‥‥わたくしって不幸ですわ」
容赦なく駄目だしする鬼教官によよよと泣き崩れながらも、ニミュエ・ユーノ（ea2446）は彼女なりに頑張っていた。
鬼教官ことレイル・ステディア（ea4757）は、真珠の如き婚約者の涙にも揺らぐ事無く、びしばしと足運びから立ち居振る舞い、重心の置き方まで指導していた。彼とて踊りは決して得意ではなかったが、ダンスについては知識も経験も重ねていない婚約者よりは多少は出来た。何より騎士であるレイルはニミュエよりも性別的にも職種的にも体力に勝る。
「何で歌がそれなりに歌えるし、音楽は多少できるのに‥‥そのリズム感が生かせないんだ‥‥おまえは」
呆れながらも、繰り返される練習舞踊に根気よく付き合いながら、レイルはやれやれと嘆息を吐いた。
「大丈夫‥‥大丈夫‥‥わたくしあちらに混ざっても良いかしら？」
「もう一回だ」
大丈夫と言いながらも、思うように踊れないため、すでに練習の『れ』の段階で伴奏の方へ逃げようとしたりする婚約者の希望をばっさりと切り捨て、再度曲の出だしを計り出した。
今回こそ大丈夫というよくわからない根拠の元に練習会に引っ張り出されたが、レイルの記憶に違わず、やはりニミュエは全然踊れなかった。自分で言い出したことなのだから‥‥と、練習中、すぐに逃げ出そうとするニミュエを容赦なく扱く。
可憐な白いドレス姿で踊るニミュエの笑顔が少し引きつっていたのは、彼女をリードするレイルだけが気付くことが出来るものだった。
微笑みを浮かべながらも一生懸命踊る婚約者の姿に、レイルは例え彼女がステップを間違えても、足を踏まれても‥‥顔色を変える事無く、リードを続けた。ステップを間違えまいと必死に曲を聴きながら踊るニミュエには気付く余裕が無かったが、そんな努力を示す彼女を見守るレイルの口元には淡い笑みが刻まれていた。
どれだけ足を踏まれようとも、懸命に踊るために頬が薔薇色に染まり、麗々しさを増すニミュエを１番間近で見つめる事が出来る場所を誰にも譲るつもりなど、レイルにはあるはずが無かった。
●Fallaway Position
「国王陛下のご結婚問題からこんな催しが‥‥ノルマンも大変だな。尤もイギリスの実情を見れば、ご結婚なされたとてすぐ解決とはいかぬだろうが」
「結婚の先は、してみてから‥‥だね。まずはしてもらわない事にはどうにもならないのが、実情だからねぇ」
経緯を聞いたエスリン・マッカレル（ea9669）が、割と他人事のように感想を呟くと、流暢なイギリス語で答えが返った。驚いて振り返ると催しの責任者たるギース伯だった。二人の会話にエリーシャ・メロウ（eb4333）が小首を傾げる。
「切っ掛けが何であれ楽しんで頂ければギュスターヴ卿もお喜びになるかと。何かございましたら遠慮なく」
異国の騎士の来訪を歓迎する旨を述べ、ギースは楽士達に曲の采配をするため離れていった。先ほどの会話をかいつまんで話すと、納得したようにエリーシャが微笑んだ。
「成る程、本場天界のクリスマスは舞踏会が必須なのですね。旅先の事で衣装の用意とてありませんが、女性側は勿論、騎士として男性側のステップの心得もありますので、アトランティス風でよろしければ通訳の礼にお教えしましょう」
広間の様子を理解したエリーシャは、手を差し伸べた。貴族としての多少の知識はあるが、あるゆえにエスリンはその手を取るのを躊躇った。
「ダンス、か。あの方と舞踏会でと夢見なくもないが、田舎騎士で碌に踊れぬ身では恥をかかせてしまうだけ‥‥エリーシャ殿？」
「大丈夫、多少間違えても構いません。それよりきちんと上を向き笑顔で、相手の顔を見る事が大事です。その方のお顔を思い出しつつ楽しんでみて下さい」
そのための練習の場なのだ。
「‥‥そう、ですね。良い機会ですし、是非ご教授をお願いします」
決意し手を重ねたエスリンは、心に秘めた祖国に在る騎士を想いその一歩を踏み出す。エリーシャのリードで滑り出すように広間へと踊り出した。
言葉が分らず難儀していたエリーシャを偶々見つけ、オーラテレパスで通訳し案内したのがエスリンとの縁だったが、言葉の壁を乗り越えるオーラの魔法とて有限の存在。魔力が尽きれば会話に事欠くことになる‥‥が、踊り出してしまえば言葉はいらない。楽の音に体を委ねてしまえば良いのだ。
●preparation step
練習会でのパートナーの約束を交わしたデニム・シュタインバーグ（eb0346）とレリアンナ・エトリゾーレ（ec4988）は、それぞれダンス初心者だった。
初心者なりに、二人とも踊れるようになれればいいと願って教授を願った。元より、この場は練習会。踊れるようになるために学ぶ場所。教えを乞うのに躊躇う事こそしてはいけない。
「僕達は二人とも初心者ですが、男の僕の方が少しでもリードできるように頑張ります！」
「その心意気や見事だね。というわけでご要望通りスパルタでいこうか」
ほんわり請け負うギースは、求められれば応えるのみ。デニムもどんとこいという気構えだ。
「講師様、よろしくおねがいいたしますわ。基本は身に付けておきたいですわね」
一方のレリアンナも丁寧に挨拶し目標を述べる。講師役の女性は柔らかく微笑んだ。
「その気持ちをずっと持っていらっしゃれば大丈夫ですよ。さ、基本から始めましょう」
講師に頷いたレリアンナは、踊れるようにならなければと気負うデニムを振り返り、微笑んだ。
「失敗を恐れず、共に練習のつもりで気張らずするのが良いのではないかしら？ ２人で上達できればよろしいかと思いますわ」
「そう、ですね」
レリアンナに楽しんでもらえれば、彼女が楽しく踊れるようにしっかりリードできるくらいになれば、きっとデニムも楽しんで踊れると思っていた。けれど、二人同じペースで踊れればそれが１番良いのかもしれない。
楽器を奏でる事に長けたデニムにとって、音楽に合わせて踊る事は難しい事ではなかった。型を覚え、要領を掴んでしまえばあとはリズムにのるだけ。あとは、二人で楽しく踊れれば良い。二人が手を取って社交舞踊を踊れるようになるまでもう少し。
●Hold
「宜しければ、一曲お相手願えますか〜？」
差し出された手に、シェラ・ウパーラ（ez1079）は驚いたように瞳を瞬かせた。黒衣に身を包んだエーディット・ブラウン（eb1460）の姿に驚いたように小さく首を傾げる。迷う様子を急かす事無く、エーディットはシェラの答えを待った。蝶ネクタイを結び、ドレスアップしたゾウガメも、ゆるりと首を傾むけ、待つ。エーディットの優しい笑みに戸惑いながら、シェラはぽつりと口を開いた。
「シェラ、シフールだから難しいかなって思うんだけど‥‥」
「それは心配ご無用ですよ〜♪」
大丈夫と請け負って、ゾウガメ執事に後を頼み、エーディット王子はシェラの小さな手を取った。
ゆったりした曲調の音楽が流れ始め、シェラはふわりと手を引かれるままに中空をすべるように飛ぶ。
「ダンスの本質は相手との心の繋がりが大切なのですよ〜。体格や見た目は関係無いのです〜」
ゆるやかな音にあわせてくるり回って、繋いだ手を放しても‥‥またその先で手を重ね。
ステップも型に捉われない自由なものを、曲に合わせて心のままに。
「つまり、余計な事は考えず楽しもうという気持ちが大事なのですよ〜」
「ホントだね！」
くるりターンを決めて「ね？」と微笑みかければ、「ねー♪」とシェラが頷き返した。
そうして１曲踊り終えた二人を小さな拍手が迎えた。拍手の主を見て、エーディットは今度は彼に手を差し伸べる。
「ギースさんも一曲、どうですか〜？」
「私はシェラの次なんだね‥‥というより、そのお誘いだと私は女性パートを踊らなければいけないようなんだけども？」
艶やかなお日様色の髪を一つに束ね、王子様風の衣装に身を包んだエーディットがギースと組むと、遠くから見れば男同士に見える。
「気持ちが１番大切だから大丈夫だよ♪」
つい先ほどエーディットから教えられた言葉を、我が事のように話すシェラの頭を小さく小突くと差し伸べられたエーディットの手に手を重ね‥‥踊り出す足先を制して華奢な身を引寄せた。ギースが踏み出したステップは‥‥。
「ギースさん、私は今日は王子様ですよ〜‥‥？」
「大丈夫、上手くリードするから。余計なことは考えず楽しもうという気持ちが大事なんだろう？」
慣れた男性のステップで、エーディットの身体を抱き寄せ、彼女が戸惑い踏み出しを迷うよりも先に踊り出した。
「女性のパートは踊れないといったよね？」
少し苦笑交じりの声が頭上から降ってきて、エーディットは「そうだったでしょうか」と笑い流した。
●Open Finish
セイル・リリー夫妻の猛特訓と、フェリクスの優しいリードのお陰もあってか、リーディアの踊りは何とか音楽に合わせてステップを踏めるくらいにはなっていた。音楽を楽しんでその流れに乗るように軽やかに踊る‥‥とまではいかないまでも、緊張せずに一歩一歩を踏み出せるのは、きっと迷う前に優しく導いてくれる人がパートナーだから。それは恋人のように親密なものではなく、リーディアが望んだような優しい暖かな空気を纏うダンスだった。
数曲踊っても息が乱れる様子も無く、いつもと変わらぬ笑みを浮かべながらリーディアを誘うフェリクスは、緩やかな曲に変わったのを聞き「今度の曲は覚えていますか？」と尋ねた。
テンポががらりと異なる曲に少し混乱しながらも、踊り始められた自分をリーディアは褒めてあげたかった。
ほっとした表情で踊る彼女をみてフェリクスはくす、と笑みを零した。その笑みが、リーディアが覚えている彼と変わらなかったから、ぽつりと音の合間に問う。リーディアがフェリクスに尋ねたかった事。
「もし‥‥『もしも』私が后候補に立候補したら、その時は後見人になって頂けるでしょうか？」
それを望んでいたフェリクスは、けれど実際にリーディアから告げられた言葉に微かに目を瞠った。
「‥‥実際立候補するかは、まぁ‥‥えー‥‥。どうせなら、本人に直接言いたいなぁ、と‥‥思うので、今は、まだ‥‥」
段々しぼんでゆく声に、フェリクスは小さく微笑んだ。
「私で出来る事ならば、あなたの力になりましょう」
望んでいた答えではあったが、実際に彼の口から語られた言葉にリーディアは瞳を瞬かせた。驚きと、嬉しさで突貫で詰め込まれたステップが頭の中から消えてしまうほどに。思わず零れ出たリーディアのもう１つの‥‥願いにも似た問いには応えは無かった。フェリクスは、止まってしまったリーディアを優しく促し再び踊り始める。
リーディアが本当に妃となる事を望むのならば、決して彼は後押しを惜しまないだろう。
けれど、結婚が現実的なものとなるならば‥‥妃の後見となるべき家は、高い身分である事にこしたことはない。
身分あるものの結婚は、情よりも優先される形がある事をフェリクスはよく知っていた。
●Closed finish
数曲踊り終えてたエーディットは、弾む息を整えながら音楽が満ちる中央から離れた。
壁際には甲羅の上に飲み物を載せたトレイを背負ったゾウガメが大人しく座っていた。ゾウガメにも飲み物をあげながら、ひとまず休憩と自身の喉も潤した。用意されていた爽やかな香りの香草茶は冷めたいものだったが、踊り熱った体にはこちらの方が断然嬉しいものだった。
ぐるりと見回せば、シェラは楽士達にまざって楽しそうに輪舞曲を奏でていた。輪舞曲にあわせ、くるくると踊る者達はそれぞれに楽しみを見つけたようで、軽やかに舞う仲間も、拙いながらも楽しもうと踊る仲間もそれぞれに幸せなステップを広間に刻む。
「ふふふ〜。皆さんの素敵な恋の舞を見物するのです〜♪」
「そうだね、ノルマン王国により素敵な恋の花が咲くために、聖夜祭で素敵な舞が見れると良いねぇ」
久しぶりに踊ったらしいギースは、あがる息を抑えて額に浮かんだ汗を手巾で拭うと小さく息を吐いた。
ギュスターヴがウィリアム３世と取り交わした約束は――春まで。
聖なる夜に、幸せの種が蒔かれ、春に花が咲き誇るよう‥‥ギュスターヴの労苦が実るように、冬に煌く恋の欠片がたくさん降る事をギースは密やかに心の中で願うのだった。
