【地獄伯の宴】 ―宴の始末
|
■ショートシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月23日〜05月28日
リプレイ公開日:2009年09月07日
|
●オープニング
●魔城――シュバルツ
パリの西にある小高い丘にそびえる古城。その暗く不気味な様子に違わぬ無骨な造りの城の名は――シュバルツ城という。黒き城の名に相応しく、荘厳な構えを見せている重厚な城壁は、今また王国の騎士と冒険者を阻む魔城の主の防壁となっていた。
魔城の主の名は、カルロス。
かつて王国に名を連ねていた頃は、ヴァン・カルロス伯爵(ez0084)と呼ばれていた。
男の悪しき野心は悪魔達をノルマン王国へ呼び込み、いつしかマント領とシュバルツ城、パリだけではなく王国全土を巻き込む形で、地獄の住人達の跋扈を許す事となった。
1度目は、オーガやアンデッド、デビルを含む軍勢をもって、パリに侵攻を開始した反乱軍の拠点として、冒険者が攻めた。
2度目は、秘密裏に守られていた聖櫃を奪うために襲い掛かってきたデビル達から守るため先の戦乱とは攻守を逆にしての戦い。
3度目は、カルロスと契約を結び、力を与えたデビル・アンドラスと「破滅の魔法陣」を巡って。
それでも、冒険者と王国の騎士達により、カルロスとその主たるデビルの野望は打ち砕かれたはずだった。
だが、王国の管理下におかれていたシュバルツ城は、ノストラダムスの予言騒ぎや北海の悪夢などで揺れる世情を隠れ蓑に、デビル同然に果てた男の手に落ちていたのだ。
それ程長く無い年月のうちに、過去3度にも渡って戦場となったその城を舞台に4度目の戦の幕が上がろうとしていた。
●パリ――コンコルド城
直接剣を交える事は無かったために、カルロスの能力は未知数。
契約主たるアンドラスは討たれている事から、別のデビルの傘下に入ったか、あるいは‥‥。
「シュバルツ城の戦力は、かつてと同様‥‥カルロス配下の部隊、こちらは騎士ではなく傭兵部隊と思われますが。悪魔崇拝者と下級デビル、また中級デビルの存在も疑わしいと報告が」
完全に人がいないわけではないが、人ではない存在も多い。
下級デビルが使役する小鬼達や、アンデッドの存在も懸念すべきだろうと藍分隊長オベル(ez0204)が赤分隊長ギュスターヴ(ez0128)へ告げる。
シュバルツ城はそれなりの規模の城。かつて反乱軍が出撃した際と同様規模の戦力は見込んでおくべきか。
「私が見たカルロスがかつての伯爵と同一人物であったとしても、既にその存在はデビルと同様のようです」
視察の際に部下が神聖魔法でもって確認した事も加える。
「過去に下した敵といえど、彼我の勢力からすれば、今回の戦は厳しそうだな」
作戦卓に広げられた周辺地図を眺め、ギュスターブは渋面を作った。団長であるヨシュアス(ez0013)が小さく頷く。
冒険者達とて騎士達と同じく地獄で激しい攻防を繰り広げている。どれ程の戦力をシュバルツ城へ充てられるかは、読めない。
「時間を掛けるつもりは毛頭ないが、後方支援の備えにしても手勢を割かなければならない。それにパリの守りを手薄にする訳にはいかない」
人間であれば飲まず食わずで戦い続ける事はできない。黒分隊と橙分隊は其々に地獄の方へ赴いており。紫分隊や灰分隊・緑分隊も各々得手とする方面に飛び回っている。
「‥‥最初に請け負ったは我が隊。カルロスを討つまでは」
かつて復興戦争時のような激情は見えなかったが、譲らぬ色の瞳でヨシュアスを見つめるオベルに、ギュスターヴは団長と視線を交す。
「マント領主殿からも冒険者ギルドへ助力を仰ぐ要請がきているとフロランス殿からも報せがあったな」
「それでは藍分隊には出てもらおう。他編成については調整付き次第シュバルツ城攻略に当たるように」
オベルは団長の命に礼を返す。
迅速さを尊び、行動に移すべく王宮内で白い騎士達は動き始めた。
●パリ――ブランシュ騎士団藍分隊詰め所
「灰分隊もシュバルツ城へ出てくれるということだ‥‥ありがたい」
王宮では着々とシュバルツ城を舞台にした戦いの準備が進められていた。最終的な調整が未だ必要な部分もあるが、既に事は動き始めている。
「了解。フラン殿も一応動いて下さるか‥‥うちは、ヴァレリー坊がいないと細々とした手配が中々進まないのが難点だな」
壮年のエルフの騎士は書面に情報を書き込むとペンを置き、細い顎を撫でながら息を吐いた。
「ヴィルフォール殿、一応って他の分隊の長にそんな」
先の潜入で負った怪我はとうに癒え、決戦にむけて『不在』となっている副長らの分を埋める様に働き続けているエドモンが窘めたものの、上司たるオベルは昔から在籍する古株の騎士の物言いに微かに瞳を細めただけだった。机に広げられた城内見取り図を指し示し、今回討伐すべき対象の確認に口を開く。
「先日カルロスにまみえた折、あれは既に人では無かった‥‥」
ヴィルフォールが初めて聞いた時には何をと思ったが、報告書を読んで今度は「まさか」と思った。城に同行していた隊員達全てが目撃している事実だったが、カルロスが真に人であるならば、アンデッドを呼び出し使役する事など出来るはずがない。幾度も戦い退けてきた地獄伯は、とうとうその身も魂もデビルと果てたのだ。
相手を人だと思わぬ事だというのが藍分隊員達の総意だった。
「デビルと相対するに長けた者の助力も既に冒険者ギルドのギルドマスター殿に頼んである」
ヴィルフォールが、確認事項が書き並べてある書面の言葉を1行ずつ消していく。
「我らの役目は、正面突破は他の隊に任せて、正面に目が向いているうちに内部へ入り込んでデビルどもを排除しながらカルロスを討伐する、が要約で良いんだな?」
「別に攻め入るのは正面からでも構わんが?」
要約の端的さを指摘するように淡々と返すオベルにヴィルフォールは片眉を跳ね上げた。
どちらにせよ一分隊が動く上での城攻めに、隠密性などあったものではない。出来る限り迅速に本来の目的を遂げるための場所へ、負傷や脱落者は最小限で行ける方法ならば何でも良いのだ。その最善を見出すのは、向かう者達次第である。
「今回はあの男を逃がすわけにはいかない。だが、シュバルツ城には塞がれた場所も多いとはいえ、マント領同様、元々地下通路が張り巡らされている。要人が過ごす部屋であればどこであれ抜け道のある可能性は捨てきれん」
「‥‥逃がしはしない。必ずだ」
ヴィルフォールが懸案を挙げると、オベルは静かに言い切った。
王国の安寧を乱し、主たる王の花嫁候補を付け狙う。そもそも地獄に与した存在を赦す訳にはいかない。
悪しき因縁などこれで断ち切る。
その為の剣で無くて、何の為の白い騎士だというのか。
●リプレイ本文
●決意秘め、心誓い
「もう、あの城との、そこにいる者との戦いの因縁も‥‥つけ時でしょう」
「ええ、私もそう思いますわ」
ミカエル・テルセーロ(ea1674)が見上げる先に鬱蒼と佇むのは黒く頑健な城。
デビルが治める城となったシュバルツ城周辺は、悪魔を討伐するために集ったノルマン王国の騎士達や冒険者達で構成された連合軍が取り囲むように陣が広がっていた。
アレーナ・オレアリス(eb3532)もデビルに身も心も売り渡した男が棲む魔城を鮮やかな碧の瞳に捕らえ頷く。シュバルツ城の中でも、高い尖塔を仰ぎ見、城を支配する男がいるのは何処かと探すのはシェアト・レフロージュ(ea3869)も同じだった。危険は承知の上で、テディと名付けたエレメンタラーフェアリーをバックパックの中へ頼み隠れて貰いながら、『戦いの時』を待つ。戦に不向きなほど繊細な彼女がここに立つのは、大切な人のささやかな支えや力になりたいという願いによって。城の主の願いというには傲慢な欲望と、冒険者達が戦う理由は違う。
「オベルさん‥‥いちパリに住むものとして、人として。全力で挑ませていただきます」
ミカエルが真摯な瞳で気持ちを告げると、ブランシュ騎士団の藍分隊を束ねるオベル・カルクラフト(ez0204)は、ほんの僅かに瞳を細めた。だが、彼が深青の瞳に柔らかな色を浮かべたのは、瞬き程の間。淀みない所作でミカエルが求めていた城内の見取り図の写しを一枚広げた。常であれば秘匿すべき、多くには語られない情報だからこそ、余分には無い城の見取り図に向かい、ミカエルは火を手繰る呪を唱える。
「状況は、一刻ごとに変化します。これを頼りは出来ません。ですが、ないよりはマシ、かと」
精霊魔法の使い手により生み出された炎が、羊皮紙の上を舐めるように這っていく‥‥残された道は1つ。正面から真っ直ぐに城の主が座る場所がある間への道だった。
術者が掴んでいる情報により正確さが変わり、示される道が複数ある場合とてありえる魔法の導が出した答えが、ミカエル自身意外に思えたのが顔に出ていたのだろう。地図を見つめるミカエルへオベルが静かに頷く。
「‥‥あれならば其処にいるだろう場所だな」
「王がいるのは玉座、か‥‥分り易い事だ」
ロックハート・トキワ(ea2389)も炎で描かれた道を辿るように地図に描かれた玉座を示す記号を見遣る。
「どこから突入されるおつもりでしょう?」
「無論、最短に近い方が分り易いだろう?」
揺れるペンデュラムを手中に戻したリディエール・アンティロープ(eb5977)の問いに、オベルは小さく口の端を持ち上げ告げる。
「陽動組が全力で攻撃を掛けて敵が拘束されている隙に正面から突入していく方向ですわ。それとも‥‥地上で攻撃を掛けている陽動組と共に行動して、機会を見て分離、城内へ突入していく形になりますかしら?」
辿る道筋をなぞるように天津風美沙樹(eb5363)が灰となった地図に残された道筋を描くように宙に指を滑らせる。
「表を囲むのは赤分隊、突入するのは灰分隊と藍分隊‥‥地下は逃げ道が多いと思われるから、下の階層から上階に向かってカルロスを追い詰めていければ良いのだけれど」
ディアーナ・ユーリウス(ec0234)が指折り数え上げる分隊数に、リリー・ストーム(ea9927)が戦前の不穏を払うかのように華やかな笑みを浮かべる。
「逃がしませんわ、必ず討ち果たしましょう。その為にブランシュ騎士団だけではなく、私達もいるのだから」
狙い通り追い込むことができるかどうかはわからない。
だが、尖塔の周囲を耳障りな声をあげて飛んでいる多くの黒い影を穿つ、幻獣を伴い翔ける頼もしい仲間達もいる。
必ず討ち果たすという強い意思を掲げ、彼らは城へ向かい踏み出した。
●いざ、魔城へ
黒き城の名を表すかの如き荘厳な造りで聳えるシュバルツ城。
重厚な城壁は、王国の騎士と冒険者を阻み、魔城の主を討ち果たさんと攻める者達にとっての障壁となっていた。また、障害は堅牢な城構えだけではない。
鈍い衝撃音が響くたびに、ぱらぱらと城の欠片が降ってくる。土煙と石粉が舞い、破片が音を立ててシュバルツ城を攻める連合軍に向かい落ちてきて、城門を押し開く手が度々妨げられた。更に、魔法の使い手の繰り出す炎や吹雪、雷‥‥容赦のない雨のように放たれる矢が、城への道を切り開き難いものにしていた。
そして、城門をこじ開け、城内への突破口を開こうとする騎士達の行く手を遮るのは、城へ入らせまいと立ち塞がる城の守り手達だけではなかった。
陰鬱な気配を漂わせるシュバルツ城の印象そのままに染まった城の上に広がる空には、黒き羽持つデビルの姿が幾影も。耳障りな声音を発しながら飛び回っては、炎や雷、時に氷や鉛の飛礫を城を囲み攻める冒険者や騎士達で構成されたシュバルツ城を取り囲む連合軍へと落とし続ける。地の上で戦う者達にとって、眼前の敵に集中しえない忌々しい存在だ。
しかし、城を治めるデビル達が有利に進められたのも僅かばかりの事だった。
ドラゴンやペガサス、グリフォン‥‥空を飛ぶことの出来る幻獣を従え、空を翔る事の出来る冒険者達の騎影が、城を上空から攻めるように徐々にデビル達を取り囲んでいく。数で勝るとは言えないものの、大きな力を持つ幻獣にそれらを従わせる程の名だたる冒険者達が攻めゆくのだから、デビル達が我が物顔で城の上を飛んでいられるのも時間の問題だろう。
城への突破口が開かれるのも同じ事。
「ギギー、奴ヲ狙エッ!」
何処かの下級デビルが叫ぶと同時にブランシュ騎士一人にデビルどもが大挙して押し寄せる。
「ははは、なかなか頭は良いようですが、目はちょっと悪かったようですねぇ」
陽光を束ねたような金の髪が剣風に煽られる様にふわりと舞う。細身の刀身‥‥纏う装束に劣らぬ白く鋭い煌きが、立ち塞がる狂信者達を切り伏せ貫いていく。騎士達の真白い戦布を留める飾りは灰色。揺れる飾り房も同じ色‥‥ブランシュ騎士団においてその色を纏うのはフラン・ローブル(ez0203)が束ねる灰分隊。灰分隊の騎士達に護られるように囲まれた布陣の中央に立つ長の姿に何を見出したかデビルが大挙して押し寄せる――常に口元に湛えた飄々とした笑みも今は無く、鋭い視線を走らせれば心得たように周囲の騎士達も即座に隊列を合わせ柔軟に遮る影を断ち、城内への道を切り開いていく。ブランシュ騎士団を束ねる長のようにも見える姿に魅せられてか、灯火に群がる羽虫のように‥‥灰分隊に敵が引寄せられる程に、藍分隊と冒険者達は突入し易くなる。
「フラン殿ほど囮に適した人材も居るまい、重畳重畳」
ヴィルフォールがからからと笑い、己が分隊の部下達に指示を飛ばす。その指示よりも先に敵陣へ乗り込む分隊長を支えるべく剣を振るう騎士や、突入路を切り開くため前に出ることを心に決めていたアレーナの背が見える。本来であれば、ヴィルフォールではなく。あるいはアレーナではなく。藍分隊長の傍らに片腕として在るのは副長であるヴァレリーのはずだった。
良くも悪くもオベルを支え補い、時に抑える事ができたヴァレリーの不在を痛感し、エドモンはぎりと奥歯を噛み締める。
復興戦争時の彼らを直接知る者は既に藍分隊には数えるほどしかいない。エドモン自身分隊設立以降の配属だ。それでも十分、ついていく事を迷わず受け入れられる上司達だった。普段の軽口の応酬すら信頼関係が無ければ空虚なものになるのだから。
分隊ごとにその長と補佐の関係は違うが、エドモンは二人の信頼関係を基礎に作られている藍分隊の色が好きだった。国を支える役目を好き嫌いで語るべきではないが、騎士も人。人の信頼を崩すデビルも相手に戦う中で、少なくともエドモンは信頼関係を築けぬ者同士ではデビルに対抗する事など出来ないと思っている。
かつて復興戦争時に立てた数々の武勲から分隊長となったオベルは、最前にて剣を振るい、敵を屠る事を己が責務としていた。
分隊の長となってからは部下を置いて吶喊するような真似こそ控えるようになったが、隊の損害を減ずる為ならば己が血を流す事など厭わない姿勢の持ち主だと知っているからこそ、迷わずついていけた。その姿勢と信念に、ウィリアム3世の剣である事に躊躇いや揺らぎが生まれる事の無い様、オベルが私人として心を割く相手を持とうとしていない事も。
だからこそ、分隊長に就く前から常に共に過ごしてきたヴァレリーの不在が、悔しい。あの場に近い場所にいたからこそ、代わる事が出来なかった事が。
ヴァレリーらに直接面識あるディアーナを通じて、エドモンからも記憶を譲り受けていたシェアトも、オベルの背を見つめ零れそうになった吐息を飲み込む。僅かでも希望を、灯火を自ら消し去りたくは無いと、呼びかけを図る為に譲り受けた記憶はとても僅かなものだったが、それでも彼らの想いを受け取るには十分だったからこそ。テレパシーで呼びかけたいと時機を待つ。今も意識をむけるオベルからは、揺らぐこと無く『役目を果たす』ことのみしか伝わってこない。揺らぐ事のない姿勢こそが、シェアトには少しだけ寂しげに映った。
●推して参る
「通してくださらないかしら?」
しなやかな所作で操られた魔力を帯びた戦乙女の斧が示す先に立つのは、人ならざる主に従うに相応しき化生達。リリーの問い掛けに応えるのは耳障りな咆哮。掴みかかるように鋭い毒手を振り上げる敵影に小さく息を付き、呼気に合わせてそのまま振り抜いた。骨ごと砕ける音と共に壁へと叩き付ける。
「立ち塞がるなら、押し通るまでですが」
艶やかな笑みと共に軽やかにも見える一薙ぎで道を作り出すリリーは、麗々しい見目に備えた力量は歴戦を重ねたナイトのもの。反撃の間を与えず畳み掛けるように城奥を目指す彼らを止められる存在は無い。
「‥‥妙だな」
「何れがでしょう?」
リディエールが切り開いた氷の道を滑る様に駆けながら、通路や飾りの影から飛び出す敵を切り伏せ潰し進む道すがらロックハートは僅かに瞳を細める。
「城内のこと、外より戦える場所も戦い方も制限があるものだが‥‥押し入る際の規模を思えば少ない気がする――か?」
的確に相手を隙や急所を突き、最低限の時間と所作で無力化を図り押し進むアレーナの感想に頷き、眼前の狂信者の肩を短い直刀で刺し貫いた。
彼ら冒険者達や分隊の中でも優れた力量の者がカルロスに集中できるよう、多くの藍分隊員が突入隊の前後を固め、剣や魔法を振るい道を切り開いてはいるが‥‥それにしてもと思わざるを得ない。目指しているのは城の中枢、首魁の座す場所。あるいは、外の仲間達が多くを惹きつけてくれているからこそだろうか?
眉根を寄せ厳しげな表情を浮かべ前を見るミカエルの肩をそっと叩き、シェアトはオベルを振り仰いだ。切結ぶ事を良しとせず、可能な限り一太刀で敵を叩き伏せてきたオベルはさして大きな怪我を負う事も無く立つと、頷いて壮麗という言葉とは遠い頑健な扉を見遣る。
藍分隊員達と共に最前で道を作っていたアレーナが隊員達と共に通路脇へ避けると、ミカエルが最後の一押しとばかりに炎を乞い願う呪いの声を上げ精霊に願う。生み出された炎柱は扉の前から逃げ遅れた敵の幾つかを巻き込み轟と、とどろく。
足元から吹き上がる炎の柱が消え去ると、大扉を壊し尽くすように大棍棒や鉄槌により破壊音と共にこじ開けられる。
雪崩込む軍勢を出迎えるのは――虚ろな気配を漂わせた玉座の間。
●幾度目かの、逢瀬にも似た
「ご主人様にきちんと伝えられたか? 白い首輪の忠犬よ」
ヴァン・カルロス伯爵(ez0084)は、口元を歪め、広間に踏み込んできた荒々しい訪問者達を迎える言葉を投げた。その声は、剣や鎧、軍靴が立てる物々しい音に消される事無く響く。カルロスはシュバルツ城の頑健さをそのまま現したかのような玉座に座り、城主に謁見するための広い間に雪崩込むように入ってきたブランシュ騎士団と冒険者達を睥睨する。
壮麗に飾られたカルロスの姿は、城の主というより‥‥。
「王様気取りというわけね」
ディアーナは碧玉の瞳を眇め、目に映った印象をそのまま呟いた。ディバンクの魔法を通してみたカルロスは偽りの存在ではなかった。不遜な笑みも悪意を隠そうともしない聞き苦しい言葉も間違いなく本人。
「それで俺の花嫁は?」
白刃に囲まれてそれでも、デビルと死人を侍らせて不遜に笑うカルロスを油断無く小太刀を構えたまま美沙機は鋭く睨み上げた。
「クラリッサ様はあなたなんかの花嫁にはなりませんわ」
「本当に。よくそんな事が言えるものだわ」
前に立つ美沙樹に祝福を贈りながらディアーナも頷く。カルロスは特に気分を害した様子も無く、面白そうに片眉をあげ女性達の抗議の声を聞いている。
「貴様らは、あの娘が本当に王家に嫁げる身分だと思っているわけだ」
「どういうことですの?」
油断無く槍を構えながら問うリリーに向け、カルロスは口元を歪め笑う。
マント領を治める者が如何にして富と権力の基盤を築いてきたかの昔語りを始めるように口を開いた。
「我が伯爵家が汚い事を一身に請け負ってきたからこそ、侯爵家がのうのうと暮らしていられた。親の借りを娘が支払う事は何も可笑しい事ではないだろう?」
「ならば諌める事も出来たでしょう? 主家が後ろ暗い道に踏み込む事を請け負って是非を問うのではなく」
反駁の声をあげたのはリディエール。その声は彼が手繰る氷雪の魔法よりも冷たく鋭い。
「一理あるな、だが貴族社会を知らぬからこその言葉ではないか?」
語るカルロスこそ、上下に囚われず隙あらば蹴落とし、のし上がろうとする男。説得力など欠片も無いし、言葉遊びをしているだけにも思える。なぜならカルロスが語る間にも死者の群れは冒険者達ににじり寄っているからだ。
「流血や恨みにより成された己の立場も知らずに、領主たれとは笑わせる。クラリッサが知らぬ事がすでに『罪』ではないのか?」
「それは伯、貴殿が決める事ではない」
カルロスの言葉遊びを断つ様にオベルが切り捨てる。
「忠犬結構。ウィリアム3世が治める御世をこの身を賭して支えるのが我らの役目。王を支え守るはブランシュ騎士団以下、国の騎士が成すべき事」
そしてブランシュ騎士団含め王へ忠誠を捧げるもの達が出来ぬ事、ウィリアム3世個人を――
「‥‥陛下を支え守る、王その人を支える存在が必要だ。候補と目される女性らは全て故あってのこと」
「それに、それは陛下らご本人が決める事で、少なくとも貴方に言われる謂れはありません」
常であれば柔和な面差しに、今は決意を秘めた厳しさを乗せミカエルがはっきりと告げた。
「‥‥ふん、つまらんな。領民の安寧だけで満足とみえる。国の民を不安と不満から掬い上げようとは思わんか、公爵殿は」
詰らなさそうに鼻を鳴らしたカルロスは、豪奢な上着の袷から何かを取り出し、冒険者らの方へ放った。
天窓から差し込む光を返し、放物線を描いて飛ぶ何かにアレーナらが身構える。
カルロスの投げたモノはズゥンビらと冒険者らの作る境界線の縁へと音を立てて落ちた。
それは、こつ、ん‥‥ぱさり、と軽い音。
落ちたモノは、黒い染みに染まり。本来の色と相まって、黒く黒く。
光の角度で僅かに煌いた貴石の色は深い深い藍色‥‥マント留めにあしらわれていた藍色の輝石と房飾り。
「不要のようだったので、主人に返してやろうと思ってな。持ち主もその辺りにいるんじゃないか?」
にやりと笑うその様は、死者の群れを見つめていた。
●流れる血と脂と、悲鳴と
カルロスの言わんとする事を察し顔色を変えたのは、シェアトだけでは無かった。何よりも藍分隊の騎士達が一斉に色めき立った。カルロスが座す場目掛けて剣を、魔法を手に怒りに任せ、統率もなにもない群集のように駆け出す。国有数と言われる騎士達の愚挙に似た怒りに身を任せた行動にロックハートが眉を顰める。
けれど、危機を感じたリディエールが制止の声をあげるよりも先に、彼らを束ねるべきオベルが動いた。
「莫迦者が!」
オベルの一括に、一瞬水を打ったようにその場が静まる。
「‥‥本物とは限るまい。あちらさんの手に引っ掛かるんじゃないよ、ひよっ子達」
ヴィルフォールが長の短すぎる言葉を補うように声を掛ければ、一瞬で騎士達が怒りに忘れた己を取り戻した。
その光景に、今度こそ白けたように玉座に頬杖をついたカルロスは、生者達へと蠢くズゥンビらへ鷹揚に逆の腕を振った。
「勇者をヴァルハラへと導く戦乙女を伴ってこの俺に挑む愚かな者どもを、天上へ導く手伝いをしてやれ」
「あら、ご存知ありませんの? かの昔語りの乙女は6人で勇者を天上へ導くとか‥‥けれど、ノルマンの戦乙女は――勇者を勝利に導き、デビルを滅ぼす御使いですのよ」
揶揄された戦乙女、リリーは艶やかに微笑みかけてみせこそすれ、決して引く事はなく白銀に輝く、魔力を帯びた長槍を構えた。
「私達は勝利を掴むノルマン王国の戦乙女隊なれば‥‥必ず倒させて頂きますわ!」
投げれば風の精霊をとらえ、遠くの敵をも刺し貫くという長槍の一刀はカルロスを貫く事は無かったが、傲慢な城主をその椅子から立たせる事に成功する。
リリーの乾坤一擲の一刀が、戦いの火蓋を切って落とした。
「こんな見苦しいオヤジ、クラリッサ様の為にも再起不能にしたいですわ」
「‥‥同感です」
美沙樹が構えた小太刀でアンデッドを屍に戻す間に、持参していたアイテムで魔力の消耗を補ったリディエールが頷く。
「人の身を捨ててまで、野心だけのために動けるものなのか‥‥いえ、たった一人の欲望のせいで犠牲が出るのはもうたくさんです。ヴァレリーさん、カミーユさん、エドモンさん‥‥オベル様やクラリッサ様のためにも。こんな馬鹿げた事は‥‥これで、最後」
カルロスが言葉遊びを弄していた時間を利用し体勢を整えていたディアーナ達は『彼』の狙いを察し、自身らの領土となる神の領域を広げ、下級デビルやズゥンビらを一手に引き受ける。カルロスの目は、不敵に微笑むリリーとアレーナ、天使のように美しく、デビルに屈する事ない乙女達に向いている。
ミカエルの放った地の魔法により、重力の理から外れ天井に叩きつけられたアンデッドが崩れ、さらに魔力を失い床に叩きつけられ腐肉に戻る。ぼとぼとと肉片が落ちる中を、耳障りな声を上げ炎を放つ下級デビルごと凍え閉ざすように、リディエールの手繰る氷雪の突風が吹きぬけた。
シェアトはオルフェウスの竪琴を手に、絃をかき鳴らして月の加護を願う守りを広げ、傷ついた者を癒すための場を広げる。個対個では明らかに勝る力量差でも、数で押されれば対応が難しくなる‥‥ズゥンビの群れに取り囲まれ、時には下級デビルのあげる奇声に惑わされながらも、怪我を負った者を癒し、再び戦場へと送り出す。
それを幾度か繰り返した頃、シェアトは悪意に阻まれムーンフィールドを広げる事が出来ない場から駆け出した。
既に討たれたズゥンビの腐肉が辺りに満ち、倒れる人影は生者であったものの果てか、死体が元に返っただけかわからない有様になっていた。けれど、死人の破片に飲まれる前にどうしても探したかったシェアトは、嫌悪と恐怖を意思の力でねじ伏せて探し求めた。カルロスが投げたアレの在り処を。
「この辺りのはずなんです‥‥見つからないなんて」
掻き分ける指先に落ちた影に見上げれば圧し掛かるように倒れてくるズゥンビが幾つか。
けれどシェアトが悲鳴を上げる間もなく、ズゥンビは炎に巻かれ苦悶の声をあげる。
「シェアトさん!」
「偽物でしたら壊せば良いんです、でも‥‥」
本当にかの人らの縁の品であったならば、そのままにしておく事など出来ないと願う声が誰かに届いたのか。
伸ばした指先に触れたのは血に染まり、脂に塗れてなお深藍に輝く石作りの装飾品だった。
●追い詰められる、果て
「現シュヴァルツ城城主、ヴァン・カルロス――さっさと滅べよ、元人間」
日本刀を元に作られた魔力を帯びた切れ味の鋭い白い刃がカルロスの背に埋められてゆく。刃の鋭さそのままの揺らがぬ瞳でカルロスを背後から貫いたのはロックハートだった。柄まで埋められた剣を伝う様に手元に触れた生温い感触にも眉一つ動かす事は無い。
だが‥‥貫かれた当人の反応は、それ以上に『人』らしからぬものだった。
己の胸から生えた切っ先に視線を落とし、けれどカルロスは哂う様に声を上げ、片腕を振り上げた。肉脂が引っ掛かり、思うように剣が抜けず動きが遅れたロックハートは壁に叩きつけられる。口の端を伝うものを無造作に拳で拭い、床を踏みしめるように立ったカルロスの身体を黒いもやが取り巻き始めた。冒険者達の眼前で、カルロスの変化が始まる。
「‥‥本体の力を引き出しているのか」
僅かに眉を寄せたオベルが、低い声で呟いた。
地獄でデビル達を相手に過酷な戦いを続けていた冒険者らにはそれが何を表すか良く知っていた。
カルロスへ肉薄した距離はあっという間にアンデッドと下級デビル達に押し流される。けれど、ロックハートの口元に浮かぶのは、シニカルな微笑だった。
「相手は既に悪魔‥‥本体を召還させなければ完全には滅ぼせない」
狙い通り、この後は本体を倒すだけ。
それがロックハートの目的だった。幾度も繰り返される戦いを終わらせる為に必要な事。けれど、本体を召還したカルロスには、ロックハートが持つ武器ではダメージを与える事が出来ない。それも承知していた事、あとは仲間に託し、周辺の雑魚掃討に徹するだけだとリカバーポーションを一息に干す。
急所を的確に狙い斬り離していく美沙樹は、ズゥンビを一太刀で屍に戻すとロックハートへと囁くように言葉を投げる。
「退路を断つように援護はできますわよ」
直接カルロスに傷を負わせる事はできなくとも。
示された道にロックハートは、瞳を瞬かせた。一拍の後、降りかかる魔炎により齎されたひり付く様な痛みを払うように、玉座のある場所へと駆けだした。
鳥が翔ける軌跡を描きながら振り落とされた戦斧の一撃すらも致命傷にはなり得ず。アレーナの振るう獅子王の名を冠する名刀の一撃こそ厭う様子を見せるのみ。負けるわけにはいかないという意志の力だけで、冒険者らは長期戦の様相を呈してきた戦いを、決して退く事無く剣を、太刀を、魔法の術を駆使し戦い続けた。
負った怪我により汚れた血なのか、ズゥンビやデビルの血脂なのか分らぬほどに塗れそれでも戦うのは、美沙樹やロックハート、皆同じだった。
アレーナとリリー、オベルが召喚の間を与えぬ程にカルロスに肉薄し切りかかるからこそ、ズゥンビの数も減じてきているが‥‥。
もう幾つ飲み込んだかわからぬ木の実を嚥下し、ディアーナは父なる神に祈る。
「‥‥諦めなければ、大丈夫。どんな傷を負っても癒しすから、心折れずに必ず倒しましょう」
ほんの少しで良い、隙を作ることが出来れば、今共に戦う仲間達なら突破口を作りだせるはずと信じ、呪縛の魔法を願う。
信ずる父なる神に強くつよく。
「お願い、どうか‥‥!」
●堕ちた男の末路
カルロスの動きが僅かに鈍る。束縛を払うのは僅かな間だった。けれど、生まれた僅かな隙を見逃すほどに冒険者らも甘くは無かった。
戦斧を手放し壁を貫いた槍を招くリリーの手に戻った長槍が、今度こそ狙い違わずカルロスを刺し貫いた。
貫かれたまま振り払おうと薙ぐように振り回したその腕をオベルが切り落とせば、アレーナの一太刀で胸を斬り割かれ、カルロスは血の塊を吐き出した。
「‥‥お、俺は‥‥」
「滅びなさい、カルロス伯」
壁に縫い止められるように白銀に輝く魔力を帯びた槍に刺し貫かれてなお、震えながら声をあげるカルロスへ向け、リディエールの放った水の塊が落とされる。常人であれば即死していてもおかしくない程の傷を負って尚、何かを求めるように手が伸ばされる。
神の力に打たれ、獅子王の白刃に裂かれ、炎に炙られても、未だ。
「城の事は気にするな、こっちで適切な処理をする」
見苦しいまでに足掻こうとするカルロスへ魔王殺しの名を持つ少年の面影を残した青年が吐き捨てる様に呟く。
リリーが手元へ槍を引寄せると、支える力を失ったカルロスの足が崩れ膝付く。その衝撃に耐え切れなかったのか、その身体はまるで塵のようにさらさらと崩れていった。のろのろと前へ伸ばされた腕も、ざらりと床へ落ちるように崩れ‥‥そして、床に落ちる前にその欠片は消えていった。
「さようなら、元城主」
血色の左瞳を僅かに細め、ロックハートが告げた小さな声は、無に消え逝く男の耳に届いたのだろうか。
崩れゆく中でも、何かを掴もうと手を伸ばし。そして何も掴めず消え逝く男。
「哀れな‥‥。人を捨て、悪魔に身を落とし、本当に欲しかったものは何なのだろう」
アレーナは訊いてみたかった。碧玉の瞳には、聖母の深い憐憫の色が浮かぶ。だが既に答えを持つべき男は世界の何処にも居ない。カルロスにより彼女の身に残された傷だけが、かの男が間違いなく存在した証。深く抉られた傷から溢れるように流れる赤い血は、アレーナが人であり、生きている証明。
それも、温かな血が流れ伝う様をディアーナが止め癒すまでの事だった。
残るアンデッドが掃討されるのも時間の問題だった。デビルを城主を信奉する狂信者達も捕縛され、傭兵達はといえば城を束ねるものが倒された事を何で知ったのか逃げ出そうとする者も少なくなかった。城が制圧されるのも時間の問題だろう。シェアトが外と連絡を繋げた時、朗報が互いに行き来する事となる。
シェアトはといえば、カルロスが消えたその場に佇み、男がいた場所をじっと見つめていた。
倒されるはずがないとたかをくくっていたのか。
デビル達と、カルロスと。
幾度も甦る事が出来るのは、この世に手引きする存在があってこそ。けれど、カルロスをデビルとした力有るデビルは既に倒されている。黒幕を探る事ができないかと探していたが、はっきりと知る者はいなかった。カルロスからも引き出せた情報は無きに等しく。
ただ、繋ぐ存在があった事だけが、彼女が知る事ができたものだった。
最後にカルロスが探したのは――
‥‥あの女、肝心な時に身を引く賢さは、正に性悪な
指していたのはクラリッサではない、女性の姿。
それを捉えることが出来れば、カルロスを招いた次なるデビルもわかるのだろうか。
誰もが持ちえる心の欠片。
その欠片を大きく育ててしまったカルロス伯の心は――
「‥‥歪んでいた。あんな心の持ち主はやっぱりもう‥‥」
人ではないのだろうと思う。
何が、愛で、恋なのか。
クラリッサへ向けて愛等無い事だけは分った。
シェアトにはわからない愛があったのかもしれないが。
権力にしがみ付き、己以外の他者と心を交わすことを知らぬ孤独な存在。
シェアトの頬に一粒転がり落ちた雫は、そのまま冷たい石床に落ちた。自分が帰る場所である大事な温かい腕の中へ、早く帰りたいとシェアトは思った。その前に、外で戦い続ける仲間達に勝利を伝えなければならないと、彼女はテレパシーが通じる場所まで‥‥玉座を背に、外へと走り出した。
●国を秤に傾く情愛
「やあよ、つまらない。あの男のとばっちりなんてごめんだわ‥‥これから面白いのに」
低級デビルが訊ねると、女はひらりと白い繊手を振る。所詮はデビル同士。利害の一致が無ければ『協力』という言葉すら無い。利用するか、されるかだけだ。
この国の景色には馴染む事のない異国風の衣装を身に纏った美女が、赤い紅を引いた唇を引き上げる。
女の前にあるのは、炎に包まれ黒煙纏う、血で染め上げられた城。
天馬や竜達の乱舞と共に爆炎が起こり、氷雨が矢の様に注ぐ。女が見つめる先には、血と怒号と剣戟が飛び交う戦場が広がっていた。
「若く麗しい脆弱な王が一体誰を選ぶのか。国を乱した罪人を近しい血にもつ一族郎党死に絶えた家の姫君に、血筋正しく有力な後見を持つけれど、後見の存在ゆえに臣下の信を得られない姫君達。市井に住まう神の娘は‥‥今尚冷たい仲の国の者」
きれいに染められた緋色の爪が飾る指を折り数え上げるのは、ノルマン王国の乱れを呼ぶ萌芽の1つ。
「結局は、血の怨嵯に取り巻かれた者ばかり‥‥‥‥ふふふ、楽しみだわ」
かつて罪咎を負った『人』であったデビルの末路――望んだ城を墓標に斃れたのならば、それは本望というものだろう。
温い風が吹きぬけた先に‥‥王国の未来を示す賽が転がっているかのように、色恋ゆえに愚かであり続ける人を見てきた女デビルは微笑み、見つめているのだった。