【紅玉の詩】 石に咲く花、月の姫
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■ショートシナリオ
担当:姜飛葉
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月25日〜11月30日
リプレイ公開日:2009年12月27日
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●オープニング
彼が見つけたもの、それは獲物を求めるうちにいつもの狩場よりも奥へと踏み入ってしまったため、普段であれば見つける事ができない場所にあった。
太陽のように強く注ぐ光とは比べるべくもない、ささやかな淡い月明かりが降る夜に、近隣の森山を狩場にしている狩人の青年は、深い深い森の奥で石作りの塔を見つけた。
見つけたというには、少し違うかもしれない。
塔からとてもきれいな歌声が聞こえていたのだ。
声に導かれるように歩いてきたら見つけた塔の最上階の窓から、アイスブルーの瞳が印象的な真白い女性が、月を見上げ歌っていた。
青白い月光に染められて、灰かに輝いて見える彼女は、とてもうつくしかった。
着飾った深窓の令嬢ではない。
簡単に結い上げただけの髪も、白い肌を包む簡素な衣服も、何も彼女の美貌を損なうことはなく。
楚々とした僅げな美貌を引き立てている。
――夜の森は人のものではないから、入ってはいけないよ。
――夜の森は、獣や森の精霊のものだから。
きれいな歌声に誘われるように暗い森を歩き。
青年は村の年寄りが語っていた話を思い出した。
だから、見つけた塔に棲む彼女は、きっと精霊か何かなのだろうと、思った。
●儚い逢瀬
「君の名前は?」
『名前なんて必要ありませんから』
「それでは、君を呼べないじゃないか」
『貴方の好きに呼んで下されば』
幾日も塔へ通ううち、青年は彼女と言葉を交わすようになり、彼女が精霊ではない事を知る。
幾度も言葉を交わすうち、彼女の敬虔な信仰心と優しい心根に惹かれている事に気付く。
彼女は色々な事を知っていて、村の老人も知らない知識や教養をもつ‥‥学べる立場にある女性だったのではと思うようになった。
けれど、彼は未だに彼女の名前を知らない。
彼女も彼の名を呼ぶ事なく、彼らは「君」「貴方」と呼び合うだけ。
ある日、彼は勇気を出して、想いを告げた。
こうして言葉を交わすだけではなくて、歌を聞くだけではなくて、君の傍らにいたいのだ、と。
長い沈黙の後、彼女は青年に望みを告げる。
『私を好きと言って下さるのでしたら、私の願いを叶えて下さいますか?』
「俺に出来る事ならば、君のためならば、どんな獲物でも狩ってこよう」
狩人の青年は真摯に告げる。
『私の願いはたった1つ』
「どんな事でも」
乙女は静かな瞳で望みを語った。
『どうぞ貴方がお持ちのその弓で、私の胸を射抜いてくださいませ‥‥』
どんな望みにも「是」と応える心つもりでいた青年は、あまりの願いに凍りついた。
『貴方は日々の糧のために、獣を狩る。けれど、私は生きている限り、周りの人を傷つける』
●情念は深く凝り
名前など、とうに忘れた。
呼び名などなくても不自由はなかったから。
身の回りの世話をしてくれる老女と二人きり、誰も訪れる事のない閉ざされた空間では。
月の光の下でだけ、汚れた私でもきれいになれる。
太陽は眩しすぎるから、蒼く白く静かに輝く月の光でだけ。
生まれてきた事が、私の罪。
ここにいるのは、私の罰。
私を生ませて、私を疎んで、私に最愛のものを奪われ憎みながらも最愛のものの願いを知っていたから、人知れず、人の来ないはずの場所に私を閉じ込めた父。
私を生んで、私を愛して、私に殺された母の最期の願いを無下には出来ない‥‥自ら死を選ぶことは出来ないから、どうか殺して。
私を好きだと言ってくれるのならば、どうか望みを叶えて‥‥お願い。
長い長い時間をかけて、それだけが望みとなった彼女は、人の良い青年に心の底から願った。
それが彼にどれだけ残酷な願いと知っていても。
●そして輪は回り始める、結末へ向けて
後日、冒険者ギルドに新たな依頼が齎された。
依頼主は、深い森の近くにある集落に住む狩人の青年。
依頼内容は――塔に囚われている女性を助け出す手伝いをして欲しい。
●リプレイ本文
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――生きていて欲しい‥‥と思うのは恵まれたもののエゴですか?
青年から齎された依頼を請ける事を決めてから、シェアト・レフロージュ(ea3869)の青い瞳は深い色に沈んでいた。彼女が見出した大事な還る場所たる存在は‥‥依頼人が乞う女性と同じハーフエルフ。傍らに在る最愛のシェアトの様子に、ラファエル・クアルト(ea8898)は、彼女の白い手をそっと取った。張り詰めた想いゆえか、冷たい指先を包み込むように握りしめる。
「‥‥生まれてはいけなかったなどと、言いたくない、言わせたくない、から」
温かい陽光のようなラファエルの笑みに釣られるように、シェアトも小さく微笑む。
「その悲しみを取り払う事は難しいでしょう。でもせめて思いの風向きを変える、そんなお手伝いが出来たなら‥‥」
「そうね、頑張りましょう」
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敢えて耳を隠さず、依頼人である狩人の青年・シンと相対したカメリア・リード(ec2307)は、微苦笑を浮かべた。カメリアらハーフエルフの冒険者達を前にしたシンの反応は、嫌悪というよりも――畏怖。隠そうとしている様子はわかるのだが、隠しきれていない。幼き頃より当然のように刷り込まれた『常識』と『習慣』は、意識して払いきれるものではないのだ。
カメリアの瞳の色は、今は温かな茶色。狂気を孕んだ赤でなく、耳さえわからなければただの人と変わらない。それでもハーフエルフという事を示す、ささやかな差異にすら人々は拒絶の意をみせる。それが『当たり前』の世の中の事実。ロシアという例外はあるが、ハーフエルフというだけで世界は彼らを否定する。
「嫌、ですか? そうでしょうねぇ。でも‥‥ハーフエルフは嫌、彼女だけは好き、は‥‥通りませんですよ」
嫌悪や畏れ、負の感情を隠し切れない、忌避すべきハーフエルフたるカメリアの言葉に、シンは強く唇を噛み足元へと視線を落とした。
「貴方が私達を好んではいない、それはわかるし、責めやしない。ただ‥‥彼女は『個』として愛すると言われても、種としての自分を憎んでる」
ラファエルの言葉も静かでシンを責める事は無く。ただハーフエルフでなければわからない想いを伝える。
「彼女の人格は、多分‥‥自分はハーフエルフだっていう、自意識の上に成り立ってるです。あなたが嫌い続ける限り、彼女は傷つき続ける。狂化の問題も大きい‥‥。ハーフエルフと一緒にいるって‥‥すごくすごく、難しい、ことなのです」
カメリアは、ゆるりと首を巡らせて、ラファエルの傍らに立つシェアトをみた。シェアトはエルフの冒険者。けれど、シンは人間で‥‥ただの、森の狩人でしかない。狂化を止める術をもたない彼が、彼女を望む想いはどれほどのものなのだろう。聞かず確かめずに済むものではないと知っていたから、穏やかな声音のままシンに問う。
「それでも‥‥そして、いつか置いていく事が解ってても、一緒に居たいって、思い続ける覚悟が、ありますか?」
強く握り締められたシンの拳が大きく震えるのを見て、塔からの救出は果たす、とラファエルは告げた。
「彼女を愛するなら、種として生じる弊害を全て‥‥抱いてやるぐらいの気じゃないと、檻を打ち破れない、わよ? ‥‥なーんて、ね」
おどける様に言葉を継いだけれど、突きつけられた現実に、己の甘さを悔いるように厳しい表情を浮かべるシンに、助言は届いたのだろうか。
「目的は、『姫を塔から解放する』――果たしましょう。‥‥儚い、故に美しきもの。でも世界は広大で更に輝いているもの。私はそれを知ってもらいたいと思うの。彼女にね?」
冒険者という職にあるからか、それとも環境や資質ゆえか、ハーフエルフだからといって差別も嫌悪もせず、彼らを人として扱い接する事が出来る女性たるフレイア・ケリン(eb2258)は空色の瞳を緩める。
「外への興味や、生きることへの渇望を呼び起こしていただければ、まずは宜しいかと思うのでございます」
それには何よりも先に彼女と会わなければならない。フレイアは伴ったドラゴンパピーの鼻先をふわりと撫でた。
●
陽光の下で会う事を望んだ冒険者らに、シンは首を横に振った。彼自身、昼に塔へ行った事は幾度か。けれど決して彼女に会う事はできなかったのだという。無論、正面から訪れる事はできない状況だからかもしれないが。陽光の下でみた塔の扉や窓は頑健で、それらは全て鋳溶かされ接着されたり、封じるように鉄鎖や金属のはめ込みで閉ざされていた。開閉できるものについては外から厳重な錠が幾つもかけられている。ラファエルが小窓を一つ選んで錠前を幾つか解いたが、中からの施錠もあるようで、開くことができなかった。恐らくは衣食に必要なものの補充はそこからされているのだろう。小窓を壊す事は可能そうだが、単に彼女を外に出さない為の一手段であれば中からの鍵はいらない。ただ『閉じ込めてられている』のではないのかもしれない。
「シン君が逢瀬を重ねた月夜に倣い、彼女を訪なえば良いのでしょう?」
昼は開けられる事の無い窓を見上げ、表情を曇らせたシェアトらを見遣り、青色の涼やかな扇子を揺らし、フレイアは艶然と微笑んだ。
太陽はとうの昔に彼方に沈み、空が夜色に染まって森が静けさに包まれた頃、塔の最上にある木窓が音を立てて開かれた。
夜闇に瞬く星月を見上げるように顔を覗かせたのは、シンが恋うハーフエルフの女性。
細く高い、澄んだ声音が呼ばうのは堕ちた星を行く先を訊ねる籠の鳥の歌。ありふれた童謡の一つだが、彼女が歌うには曰くが有り過ぎた。
シェアトは一つ息を吸い、歌う彼女に合わせ竪琴へ指を滑らせた。爪弾かれる弦が、歌声に重なり‥‥豊かな歌声が重なる。先に途切れたのは、彼女の歌声。音の在り処を尋ねるように窓から身を乗り出した彼女の前を、月色に輝く竜の仔がふわりと舞い降りる。
「ごきげよう‥‥良い月夜ですね」
傍らにドラゴンパピーを侍らせて、空飛ぶ絨毯の上から微笑みかけるフレイアの姿に女性は瞳を瞬かせた。月夜の散歩でもと手を差し伸べれば、女性は首を横に振る。
語る事に抵抗は無いようだったので、石の塔へとフレイアが訪れることとなった。竪琴の音の主も交え、夜半に招かれる事になったのは女性達。
他愛のない話から始めたフレイアの話は、様々な異国の話からお菓子の話など女性が好む話題をまじえ、歌うことはあっても楽器を奏でることの無い彼女へシェアトも語りかける。
会話の合間にフレイアが彼女へ勧めたのはコリーの赤ちゃん。人懐こい子犬は、人見知りする事無く己を抱きなでてくれる手を慕い、ぺろぺろと舐め、全身で好意を表すように濡れた鼻先を彼女へ向ける。けれど、突然あがった子犬の悲鳴にカメリアが慌てて彼女から引き離した。無造作にその首を捻ろうとしていた手は、対象を失いぱたりと膝の上に落ちる。どこか茫洋とした瞳は冷めたアイスブルーとは違う色合いで、呪歌を乗せたシェアトの歌が塔を包んだ。緋色の瞳が現れる前に安らぎの声で満たされる。同じハーフエルフであるカメリアでも、人生経験の豊かなフレイアでも、何が切欠なのかが判断できなかった。
「ね、お外で暮らしてみませんか? 外はハーフエルフにとって優しい場所じゃ無いです。悲しい事もたくさん‥‥でも、嬉しい事や楽しい事も、頑張って探せば見つかるです」
カメリアが訊ねても彼女は微笑んだまま。イエスともノーとも言わなかった。
「私は、昼間陽なたぼっこして、夜は本読んで‥‥森のなかでぼうっと退きこもってた頃より、今がずうっと楽しい、です♪」
話せば答えが返るけれど、塔の外へ出る事に対しては決して触れない彼女に、カメリアは改めて訊ねた。聞きたい大切なもの。
「お名前、教えて下さい♪ えと‥‥お母さんは、あなたをなんて呼んでたです?」
カメリアが訊ねると、女性は顔を曇らせた。好きに呼んでくれれば良いと答える彼女に、シェアトが優しく促すように微笑む。
「名前はご両親がこの世に生まれて始めて贈る贈り物です。どうか貴女のお名前を、聞かせて下さい。そう。名前を呼ばれるってとても幸せなのですよ」
彼女は本当に申し訳無さそうに、瞳を伏せた。
「ごめんなさい、本当にわからない、忘れてしまったの。もう何年も何年も‥‥ずっとずっと呼ばれる事も、思い返す事もなかったから」
だから好きなように呼んで頂戴と返した。シンへの答えと同じように。
「貴女は俺を困らせようと思って言ったんじゃなかったんだね」
「‥‥貴方」
掛けられた声に彼女はアイスブルーの瞳を見開いた。
夜闇を割って現れたのは、シンを伴ったラファエル。
石の塔への訪問者の多いこと‥‥空を飛ぶことの出来る物があれば、彼とて彼女と同じ高さにたつ事はできる。
自分と同じ二人目に会い、ゆるゆると微笑む。その笑みは、突然訪れた見知らぬ客の正体を理解したようだった。
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「生きているだけで、傷つける‥‥とんだ勘違い、ね。罪があるとすれば、この世に産んでもらったのに、嘆いて、終わりを望むばかりだったことと‥‥好意を抱いている人に、気持ちへの返事を返さず、自分を終わらせて‥‥と願うこと、よ」
ラファエルの言葉を彼女はやはり微笑みを浮かべ聞く。
「貴方と、私だけだったなら‥‥何の罪にもならなかったのに。貴方は、他人に私の事を伝えてしまったのね」
彼女は痛ましげに顔を歪め、シンを見た。シンは‥‥彼女を真っ直ぐに見つめ返す。初めて表情が移ろう様がよく見える距離で会ったのだ。瞬きさえ惜しむように見つめるシンから目を逸らすように、彼女は再びラファエルへ視線を移す。
彼女の言い様の意味を正しく理解したラファエルは心の内を押し殺しながら、諌めの言葉を紡ぐ。
「愛しているなら殺して‥‥ふざけるんじゃないわ。彼のこれからの人生に、爪痕を残すことへの責任を、どう、取るの? 嘆くばかりで終わらせる前に、痛い程の人の気持ちに触れながら‥‥必死に生きて、見えることもある」
そっと腕に触れるぬくもりが無ければ、声が揺らぎかねない程に、彼は怒りを覚えていた。自分ならば好意を寄せてくれる相手にそんな事は望めない。
「生まれてきたのは罪なんかではない。生まれて生きることは奇跡でとても温かいことなのですよ」
まるで母の様に優しく諭す声にも、彼女は首を横に振る。諭すように話せば耳を傾けるにも関らず、塔を出て昼の光の溢れる世界に出て、世界を知る事に対しては頑なに否定する。
「綺麗事と思われるでしょう。けれど、この塔が貴女を閉じ込める塔ではなく守る為の塔であるとするなら?」
「守るため、というよりは‥‥私が世界から逃れる為の場所でしょうね」
瞳を伏せてぽつりと呟く声に、シェアトはせめても想いが届くように言葉を重ねる。
「変わりません、変えられません。この塔が私の終の住処ですから」
頑なな彼女にシンが一歩を踏み出した、その瞬間‥‥
「近付かないで!」
決して声を荒げることの無かった彼女が、悲鳴にも似た声を上げた。
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好きなものを壊したくなる。
気が付くと、好きなものやお気に入りのものは壊れていた。
何より嫌いな自分自身で奏でる歌は、時間を潰す慰みにはなったけれど‥‥何にも心に留めずに達観した聖職者のように暮らすことなんてできない。
彼女ではない叫びと共に、襲い掛かった彼女に似た獣を止める為、シェアトが影で赤い瞳の狂気を縛り上げた。
細い指を彩る鋭い爪はシンではなく庇ったラファエルを傷つけた。
けれど彼女は冒険者ではない。戦いのプロである冒険者を前にただの荒れた獣でしかない狂気は、彼らを害することなど出来なかった。
シェアトの手繰る魔法の術は超一流‥‥逃れることなど叶わぬうちに、荒れた心を平らげる声音が響く。癒しの音色に包まれて尚、仄赤く瞳を染めた彼女は、だからこそ思い切り心の内を叫んだ。
「ただの狩人では私は止められない‥‥この胸を射抜くくらいしか止める術はないのに!」
ずっとずっと長い間、一人きり。好きなものを壊してしまうと理解したのはいつの頃だったか。気付けば気に入っていた人形も道具も粉々になっていた。自分が壊したのだと言われても、全く覚えていなかった。
本当に大好きなものを壊して知った自分のこと‥‥大好きな大好きな母親。
だから何者にも心を映さぬように、情を移す事の無いように、人の訪れる事の無い場所にいたのに、シンと出会い、交わす言葉に慰めを見出す自分。いつか又、壊してしまう前に、自分を壊して欲しかった。
「壊されないように俺はなるから! 君を止められるようにも努力する‥‥だから!!」
シンが怒鳴った言葉は、拒絶ではなかった。びくりと身を震わせた彼女へ、精一杯の言葉を綴る。
「彼女が言っていた。恐らく彼も‥‥そうだと思う」
カメリアが、ふわふわと穏やかな空気を纏い話すのは、感情が高ぶらないようにする為。狂化しない為の努力と自己防衛をすることで、人の世に交わり生きていこうとするハーフエルフが居るのだ。
「今から冒険者として努力を始めるのは、とても大変だと思うし、いつになるかわからない。でも君の歌を聞きたい‥‥月の光の下も良いけど太陽の下で」
彼女へ聞かせる言葉は、カメリアの問いへの答えでもある。夢のように優しい、都合のよい絵空事は話せない。いつになるかわからないけれど‥‥とそれでも乞うのがシンの誠意の精一杯。
「だから、俺を少しでも好きだと思ってくれているのなら、俺も努力するから、君も彼らの様になって欲しい‥‥頼む!」
彼女の上げる悲鳴に負けぬほどの声で、シンが切実な願いを訴え叫ぶ。
零れでる涙に洗われた瞳はいつの間にか冴えた青い色に戻っていた。
●
「私こう見えましても、城主をやっておりますから、良かったら私の養女として迎え入れてハーフエルフ差別のそうでもないジャパンに一緒に来ますか?」
ジャパン‥‥と繰り返すように呟いて、けれど小さく首を横に振った。
「私は母が愛していたこの国にいたいのです」
「えと、歌‥‥とか、どうかなって思うです。シェアトさんにギルドに口、効いて貰えるかも、ですし」
それならばとカメリアが、ちらりと視線を向ければ、シェアトが小さく、けれどしっかり頷く。
「人を優しい気持ちに出来る素敵なお仕事、だと思うです。技量は、足りなかったら見習いからって手もあるですし」
「貴女が望まれるのでしたら、パリの吟遊詩人のギルドに口利きをします。選ぶのは貴女ご自身ですが‥‥素敵な語り部・歌姫になられます様」
協力は惜しみませんと繋いだ彼女は、シンへ向けても微笑みかける。心ある第一のお客様となられます様にと想いを込めて、また恋する相手が同じ種という親しみを込めて。
きっと、大丈夫。
お日様の光も柔らかく、遍く光がおいでおいでと手を引いて、迎えてくれるはずだから。