急襲、攫われた娘達
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:まどか壱
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月10日〜11月16日
リプレイ公開日:2008年11月17日
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●オープニング
●血塗れの客人
バァンっという音が響いた時、受付係の彼は一瞬、ギルドが何らかの攻撃を受けたのかと思って身を竦ませた。実際には何のことはない、誰かが勢いよく扉を開け放っただけのことだった。余程急いでいたのか、それとも扉があることに気付かなかったのか、扉を壊さんばかりの勢いで転がるように駆け込んできたのは一人の青年である。軽く武装したその青年は、入り口の真ん前に座り込んで荒い呼吸を繰り返していて、立ち上がる気配はない。
(依頼人かなぁ?)
そんなことを思いながら受付は青年を見て、ぎょっとした。青年の衣服は赤黒く変色していて、装備品にも黒い汚れがついている。返り血かそれとも自分の体から流れ出たものかはわからないが、明らかにただ事ではない。
「どうしましたか!」
慌てて側にしゃがみ込んで声をかけると、青年がゆっくりと顔を上げた。その顔にも乾いた血がこびりついていて、しかもそれが知った顔だったもので受付は二重に驚いた。
「エッジじゃないか! どうしたんだ?!」
彼はウィルのギルドに登録しているファイターだった。最後に見たのはつい数日前のこと。暫く依頼続きで実家に帰れなかったという彼は、今年十四になる妹を溺愛していて、今回は久し振りに妹の顔を見るために帰郷するのだと嬉しげに語っていた。それが、一体何故こんな有様になっているのか。
「お前、実家へ帰ったんじゃなかったのか?」
「帰った、さ・・・・」
やっと口を開いたエッジの表情は苦かった。
「帰って・・・・帰ったら、村が・・・・ぼろぼろになってたんだ・・・・」
「・・・・何だって?」
「山賊にやられたんだ・・・・うぅっ」
怪我の痛みにか呻くエッジを見て、受付ははっとした。ひどい怪我だ。話を聞く前に手当てをしなければ。
「すまん、手当てが先だった。一先ず奥に‥‥」
「いや・・・・後でいい」
「はあ?!」
腕を掴んでそんなことを言われ、何を馬鹿げたことを、と彼は声を上げた。いつ受けた傷なのか知らないが、後回しにしていいものではない。
「何を言ってるんだ! 放っといたら大変なことになるぞ?」
「わかってるが、一刻を争うんだ・・・・先に、話を聞いてくれ」
一刻を争うのはお前の怪我だ、と言い返そうとして受付ははっとした。腕を掴むエッジの力がとても弱いということに。彼は伝えなければならないことがあって、その使命感の為に手当てもせずにここへ帰って来たのだろう。使命を果たすまでは、休めといっても聞いてくれなそうだと受付は判断し、溜め息をついた。
「わかった‥‥聞こう。聞くから、話し終えたら休んでくれよ?」
「ありがとう」
小さく笑んで礼を言ったエッジは、直ぐに硬い表情で話し始めた。
●平穏の破壊者
エッジの故郷は、王都に近い小さな村である。農業が主体ののどかな村で、騒々しいことにも荒事にも縁が遠い。よく言えば平和で、悪く言えば何もない‥‥それがエッジの故郷だった。
両親と妹は元気でやっているだろうか、と村へ続く道をのんびりと考えながら歩いていた彼は、視界に妙なものを捉えて眉を寄せた。地面から空へ向けて、黒い煙が何本も立ち上がっているのだ。しかもその場所は今まさに向かっているところで―と思って彼はゾッとした。
(まさか?!)
方向からして、煙の出所は故郷でほぼ間違いない。彼は残りの距離を必死で走った。そうして辿り着いた故郷の姿を見て、愕然とした。
「こ‥‥これは‥‥」
エッジの記憶の中にある村の姿はそこになかった。燃えて焼け落ちた家々に、そこから立ち上る黒煙。穏やかな笑い声に満ちていた筈なのに、今耳に届くのはすすり泣く声と悲痛な叫び。焼けていない家にも乱暴に壊された痕跡があって、無傷のものは少ない。
暫し呆然として変わり果てた村の姿を見ていたエッジだったが、はっと我に返って我が家へと駆け出した。走る地面に残る血痕を見るに、怪我をした者もいるようだ。死者が出たとまでは、考えたくなかったので考えなかった。大きくもない村で、あっという間に辿り着いた実家も半分が焼け落ちて黒くなっていた。その前に座り込む両親の姿を見つけて、エッジは驚いた。母親が父親の頭に包帯を巻いてやっているところだったのだ。
「親父?!」
「ああ‥‥! エッジ!!」
先に気付いたのは母親だった。目の前でしゃがんだ息子を見て顔を歪ませた。
「どうして・・・・何があったんだ!?」
「山賊が・・・・昨夜だ。夜中に襲ってきてな」
「山賊?! 何で、こんなとこに・・・・」
ただの小さな農村だ。山賊に狙われるような理由はない筈なのに何故、と眉を寄せたエッジに父親は苦々しい顔で「女だ」と言った。
「若い娘を皆、攫っていきやがった・・・・アイリスも、連れて行かれた・・・・」
「アイリスも?!」
アイリスとはエッジの愛する妹だ。父親の怪我は、どうやら妹を連れ去ろうとする輩に抵抗したためらしい。他の怪我人や壊れた家々は、そういった理由だったのか。
「何だって連中、こんな村に・・・・ああ、アイリス・・・・!!」
顔を覆って涙する両親を前に、エッジはその老いた肩を抱き締めてやることしか出来なかった。
●助けを求めて
「・・・・俺は山賊どもの情報を集められるだけ集めて、行方を捜した・・・・案外直ぐに見つかったよ。それで・・・・思い返しても焦りすぎたと思うんだが、人数もわからないのに、俺は一人で乗り込んでしまったのさ」
「それで、その怪我か・・・・」
「多勢に無勢とは、このことだ」
エッジは自嘲気味に笑った。全く、人数もわからないで突っ込むとは冒険者のくせに呆れた話だ。それ程に妹が大切だったのだろうが。
「もうわかってるとは思うが・・・・依頼だ。妹を・・・・村の娘達を助けて欲しい」
「・・・・出来れば、怪我をする前に来て欲しかったぞ」
「それは、悪かったよ・・・・もたもたしてたら、妹が売られるんじゃないかと思ってな」
その気持ちはわからなくないけれど、とこぼして受付は溜め息をついた。
「確かに引き受けた。至急募集をかけよう‥‥後は任せて、お前は休め」
本当は同行したいだろうが、この怪我では足手纏いになる。それはよくわかっているのだろう、俯いたエッジは短く「頼む」とだけ呟くと、漸く意識を手放した。
●リプレイ本文
●決意新たに
森の中、蔦と苔に覆われた石造りの建造物がひっそりと建っている。正面入り口と思われる場所には二対の篝火と、入り口を挟んで立つ二人の男の姿が確認出来た。
「ここだ。この中に娘たちがいる」
その入り口が見える位置にある草むらに身を隠し、エッジは冒険者達を見た。緊張感からかその顔に余裕はまったくない。
「・・・・エッジさん、大丈夫ですか・・・・?」
イシュカ・エアシールド(eb3839)が気遣うように言うと、病み上がりの彼は大丈夫だと頷いた。導蛍石(eb9949)のお蔭で体力、精神共に回復してはいるものの、つい一昨日まで彼は意識不明の重態だった。彼に同行を願うことを提案したのはイシュカであるだけに、その体調は気になった。
「私達全員男性ですし…娘さん達と面識ある方がいた方が、安心できるのでは、と思ったのですが…」
「あんたを一目見て男とは思わないだろうけどな」
「・・・・よく間違われます」
苦笑交じりのエッジに、イシュカは溜め息をついた。
「無理を押してでもあんた達について行きたかったんだ。むしろ導に感謝してるくらいさ」
「そうですか・・・・」
その言葉に嘘はないのだろうと思った。身内が賊に攫われて、じっと経過を待つだけというのは辛いだろう。
「…私、養女がいるんです。人事に思えなくって…」
妹を案ずるエッジの気持ちは、養女を持つイシュカにはよくわかる。エッジはイシュカの気遣いを感じて、「ありがとう」と微笑んだ。
「なんとしても無事に救出したいよね。いっちょ頑張りますか」
そんなやり取りを眺めていたカルナック・イクス(ea0144)がそうこぼして、イシュカは強く頷いた。
●状況整理
「見張りが立っているのは、正面だけのようだ」
空から偵察していた飛天龍(eb0010)は、身を潜めていた茂みに戻ってくると皆にそう告げた。
「人数は?」
「正面に二人、後ろに二人だ。他には見当たらなかったから、中だろう」
陸奥勇人(ea3329)の質問に答えながら、天龍は木の枝を使って地面に簡単な四角を描いた。正面と書かれた場所に2、後ろにも同様に2と書く。
「外は四人か・・・・罠はどうだ?」
「スクリーマーのようなものは見当たらなかったよ」
こちらはざっと周囲を探索してきたカルナックが答えた。
「人質の居場所は変わっていません。エッジさんの言っていた場所に全員いました」
ブレスセンサーやエックスレイビジョンで人質の位置を探っていたシルバー・ストーム(ea3651)が続いて、エッジに目配せした。エッジは頷いて、簡単な地図の後部右側に○を付けた。
「人質の位置はここだ。シルバーにエックスレイビジョンで確認してもらったから間違いない」
「部屋の中に七人、見張りらしきものは二人です」
「よし‥‥大体、こんなところか」
情報を書き込んだ地図を見下ろして、勇人は仲間達の顔を見回した。
「確認するぞ。まず、陽動班が敵の目を引き付ける。その間に潜入班が突入、人質を無事救出したら追手を撃退」
「了解だ」
「出来ることならば、山賊はここで全員退治したいのですが‥‥」
逃がせば、別な場所で同じ様なことが起こるかもしれない。イシュカが呟き、同じことを考えただろう仲間達は視線を交わし同意を示した。
「だが、まずは娘達の無事が第一だ」
蛍石が改めて優先事項を口にする。それが第一の目的、そして、第二はここで更なる被害が起きるのを防ぐこと。
「よし! 全員配置についたら‥‥作戦開始だ」
静かに、しかし強く勇人が言い、彼らは頷き合うとそれぞれ決めていた潜伏位置へと散って行った。
●陽動部隊、作戦開始
勇人は遺跡正面入り口に近い木陰へ身を潜めていた。視認出来る範囲には、天龍の偵察通り二人の見張りの姿がある。入り口を挟んで立つ見張りの横には篝火が焚かれていて明るい。
(さて‥‥こっちの準備は万端だ)
じっと見張りの横を注視する。突入班からの合図が、あの篝火に現れる手筈になっているのだ。息を潜めて待つこと暫し‥‥ふいに、篝火の火が消えた。
「‥‥えっ?」
「何だ?!」
篝火が消えるほど強い風が吹いたわけでもなければ、雨が降ってきたわけでもない。前触れなしに消えた火に、見張り達が慌てた声を出す。
(‥‥来た!!)
勇人は辺りが暗くなったと同時に木陰から飛び出した。定位置についたらシルバーがプットアウトで篝火の火を消す。それが作戦開始の合図だ。注意を引き付けなければならないので、わざと足音を立てて自らの存在を知らせながら遺跡に近付く。
「あっ・・・・!! おい、侵入者だ!!」
気づいた一人がもう一人へ声をかけて、ついでに中にも叫ぶ。
(その調子で、どんどん呼んでくれよ)
にやりと笑いながら、愛刀「桜華」をまずは一閃。これはわざと外して見せた。
「ちっ・・・・村の奴か?! 懲りない奴らだな!」
「殺されかけたのに、また一人で来やがったか!」
不意打ちに驚いていた見張り達だったが、直ぐに己を取り戻した。武器を構えた後ろからは、こちらの想定通りに新手がぞくぞくと現れている。
「アイリスたちを拉致ったのは手前らか……って多いな、数」
「へっ・・・・あの野郎と同じように、袋叩きにしてやるぜ!!」
勇人はずらりと並んだ十人近い賊を眺めて顔を顰めた。それを演技と知らない山賊達は、一様に下卑た笑みを浮かべた。
●潜入部隊、突入
「始まったようだな・・・・」
「そうですね」
「急ぐぞ。気付かれては意味がない」
表がにわかに騒がしくなったのを確認して、潜入部隊の三人は移動を開始した。勇人が引き付けた敵が十人程度。人質のいる場所は確実に手薄になっている。事前の探索時にあらかじめアタリをつけていた場所まで一気に走ると、シルバーはホルスターからスクロールを一本取り出した。
「壁にウォールホールで穴を開けます。長くは持ちませんから、急いで連れ出してください」
「了解だ」
「わかった」
天龍とエッジが頷くのを確認して、シルバーはスクロールを広げて念じた。
「ウォールホール!」
シルバーの声に呼応するように、目の前の壁に、人が立って通るには十分な大きさの穴が瞬時に開いた。そこから中へ進入すると、すぐ側の壁際で凍りついている娘達の姿が確認出来た。何が起きたのか理解出来ないのだろう、娘達は声も出せずに震えている。
「アイリス! いるか?!」
「・・・・兄さん?!」
恐怖と困惑の中にいる娘達に、エッジが声をかけた。真っ先に反応したのは、はっきりした顔立ちのなかなか綺麗な少女だった。
「アイリス! 怪我は?」
「ないわ。ねえ、その人たちは誰?」
「エッジに頼まれて助けに来たぞ」
天龍が言うと、「助け」と呟いて娘達が顔を見合わせた。
「依頼を受けて助けに来てくれた冒険者達だ。・・・・時間がない、皆、急いでその穴から外に出るんだ」
知った顔がいることで、こちらの言葉の信憑性はぐっと高まったらしい。娘達は互いの手を握り締めて立ち上がると、エッジが誘導するままに外へ出て行く。
「イシュカの言っていたことは正解だったな」
もしもエッジがいなければ、彼女達への説得に時間を費やしていた。
(村に戻ったら、体の温まるスープでも作ってやるかな)
青白くやつれた娘達の顔を思い浮かべて頷いていた天龍は、はっとして後ろを振り返った。足音と気配を殺すことなど普通の村娘には不可能。脱出に気付いて、見張りに立っていた二人が向かって来ていた。
「侵入者め・・・・いつの間に!!」
「気付かれたか・・・・!」
一人が振り抜いた剣を軽やかに交わし、その勢いのままに龍爪で賊の背中を薙ぐ。
「ぐぁっ・・・・!!」
「はああっ!」
ストライクEXで立て続けに三度。事前にかけておいたオーラパワーの効果もあって、あっという間に一人が床へ倒れ伏す。
「天龍!」
「先に行け!」
交戦に気付いてエッジが剣を抜こうとしたが、天龍はそれを手で制した。戦うよりも、娘達を外へ出すことが優先だ。
「くそっ‥‥この野郎ォッ!!!」
仲間が倒されたことで焦りを覚えたか、敵は闇雲に武器を振り回す。そんなもので当たるわけがないとばかりに避けまくる天龍に、怒りで顔を赤くする。
「天龍、全員出したぞ!」
「穴が塞がります、急いで出てください!」
「わかった!」
二人の声を聞き、賊へ一気に四回攻撃を加えた。倒れて行くのを眺めずに、閉まりかけの穴から急いで飛び出す。いいタイミングで、穴は静かに塞がって行った。
●山賊掃討戦
ペガサスに乗って上空から様子を伺っていた蛍石は、シルバー達が無事娘達を救出したのを見届けた。
「合図を、黄昏」
ペガサスの名を呼ぶと、心得たとばかりにペガサスはホーリーを唱えた。それが、勇人を囲む賊のうちの一人に見事命中する。空にいるため視野が広い蛍石には、陽動班の行動も潜入班の行動もよく見える。そのため、陽動班として勇人を援護しつつ両班への連絡役を担当していた。「救出成功、作戦を次段階へ」という、これも一つの合図だ。気付いた勇人が一瞬蛍石を見上げ、了解と言う代わりに小さく拳を上げて見せた。
「さてと、丁度良い頃合だな。そろそろ反撃と行こうか!」
にやりと口元に笑みを浮かべる勇人を見て、蛍石はペガサスの背を撫でた。
「では、私達も行動開始だ」
正面に対して右側に潜んでいたカルナックは、蛍石からの合図を確認すると矢に弓を二本番えた。
(合図・・・・人質は無事助け出せたみたいだね)
そのことに安堵しつつ、茂みから身を出すと矢を放った。勇人に当たらないように、かつ彼の背後を狙う者達を牽制するべく、ダブルシューティングでとにかく矢を撃ちまくる。明確に狙いを定めて射ているわけでもないので外れるものも多いが、怯ませ手を止めることが目的なのでこれでいい。
「くそ、矢が・・・・っ」
「痛ぇっ?!」
勇人の頭めがけて剣を振り下ろそうとしていた一人の二の腕に、カルナックの放った矢が深々と突き刺さった。意識が逸れた所で勇人が止めとばかりに薙ぎ払う。上手く繋がった連携に、視線が合った二人は小さく笑んだ。
シルバーとエッジを先頭に天龍が殿を務める集団が姿を見せると、カルナックから借りた隠身の勾玉を握り締めて身を潜めていたイシュカは茂みから飛び出した。すぐに合流出来るよう、彼はあらかじめ遺跡左側に隠れていたのだ。
「早くこちらへ‥‥っ!!」
呼び掛けたイシュカの視界の端で、四人ほどがシルバー達に気付いてそちらへ向かおうとするのが見えた。
「トリオ!」
同行させていた狼へ声をかけると、トリオは四人の賊へ向けて吹雪の息を吹きかけた。足が止まった彼らへ、シルバーがマグナブローで追い討ちをかける。その間に、イシュカはシルバークルスダガーを握り締めて祈りを捧げた。
「イシュカ、娘達は任せたぞ!」
イシュカの側までやってくると、天龍はそう言って勇人の援護へ向かった。
「ホーリーフィールド」
イシュカの体が白く淡い光に包まれる。これで、結界の中は安全だ。イシュカは怯える娘達へ振り返った。
「大丈夫ですか・・・・? 怪我などは?」
声をかけると、首を横に振った。声も出せないほど恐ろしい思いをしたのかと、イシュカは胸の痛みを覚えつつ、一人ひとりへメンタルリカバーをかけてやった。
「うおおっ!!」
ホーリーで体勢を崩した敵を勇人の刀が薙いでいく。初めは十人強いた山賊達は、気付けば半数以下になっていた。カルナックと蛍石の援護のお蔭で背後を取られることもない。大きな怪我を負うこともなく、順調にまた一人が地に沈んだ。その背中を踏みつけて、一際貫禄のある男が姿を見せた。
「てめえら・・・・よくも好き勝手してくれたなぁ!」
「その身形、親玉はお前か」
勇人が刀を構えると、リーダーらしき男も剣を構えた。
「ケリを着けさせて貰うぜ」
「上等だ、この野郎が!」
ぶん、と勢いよく剣が振り抜かれた。交わして、勇人も刀を振る。鋭利なそれが、男の腕を切裂いた。舌打ちして目一杯に振るった男の剣を受け止める。びりりと、手の平から一撃の重さが伝わってきた。パワーは十分。しかし、この男は周りが見えていない・・・・敵は、一人ではないのだ。
「んのっ・・・・ぐあ?!」
男が突然呻いた。そのふとももには、防具の隙間を塗って矢が刺さっている。
「ホーリー!」
動きが鈍った所へ、蛍石がペガサスに命じてホーリーを放つ。ぐらりときた男を見据え、勇人は刀を一閃させた。
「終りだぜ」
「ぐ、くそ・・・・っ」
悔しげに睨んで、山賊の頭は地面に倒れた。
●そして平穏は戻る
「・・・・おお、アイリス!」
「お父さん、お母さんっ!!」
駆け寄る娘の無事な姿に、エッジの両親は腕を広げた。良かった、良かったと繰り返して愛する娘を抱き締めるその顔は涙が流れている。それはアイリス達だけではなく、同様に娘を攫われた人々も、そしてそうでない人々も一様に涙を流して喜んでいた。
「全部、あんた達のお蔭だよ。感謝する・・・・ありがとう」
六人と向かい合うエッジの顔には笑顔が浮かんでいた。
「よかったです・・・・本当に」
「全員が無事で良かったよ」
「しかし、全員がまったくの無傷とは」
怪我人に備えていた蛍石がそう呟いた。娘達の話によると、山賊達は彼女達に暴力を振るうことは一切無かったという。それどころか、手を出すことはリーダー格にきつく止められていたという話だ。無事は喜ばしいことだけれど、それはそれで何か引っかかる。
「どうせろくでもないことだろう。何、然るべき所が然るべき処罰を与えてくれるだろうぜ」
「そうですね」
「・・・・まあ、今回は無事に終わったんだ」
僅かに表情を曇らせていたエッジはそう言って、改めて六人に向き直った。
「何度感謝しても足りないくらいだ。俺の村と娘達と・・・・何より、アイリスを助けてくれてありがとう。村を代表して例を言わせて貰う」
「ありがとう」ともう一度エッジは言って、彼らに深々と頭を下げた。
こうして六人の冒険者達の活躍によって、平穏な村を突如襲った脅威は去ったのだった。