夢見るひな鳥〜暴れ恐獣とマンガ肉?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月17日〜11月24日

リプレイ公開日:2008年11月25日

●オープニング

 それは彼にとって、日常が非日常へと変わった瞬間だった。もしくは、現実から非現実への移行――ともかく、彼はその瞬間に、己の立つ所が一気に変容を遂げたことを理解せざるを得なかった。
(‥‥何だこりゃ)
 彼の中の現実ではありえない空、景色。そして広大な平原に悠然と立つ巨大な石の巨人。空想の中に登場する甲冑の騎士をそのまま大きくしたような巨人と巨人が、轟音を立ててぶつかり合う。
 その迫力に、一瞬で囚われた。


●自称勇者はお調子者
「‥‥で、オレはその瞬間感じたね。何をかって? ・・・・運命ってヤツをさ」
 家畜用のわらを背に、黒髪の青年は芝居がかった調子で彼の聴衆に演説していた。
「オレがこの世界へ呼ばれたのは、この巨人を使役して世界を救う勇者になるためなんだってな!! どうだ、かっこいいだろ?」
「おー!」
「アキラ、かっこいい!」
「おう! 存分に尊敬して褒め称えろよ」
 彼の聴衆は三人の幼い子供たち。子供ゆえの純粋さか、それとも別の理由でか、青年の言葉に素直に従ってぱちぱちと拍手をしている。可愛らしい拍手に満足そうな笑みを浮かべる青年を見て、彼を迎えに来た紫紺の髪を靡かせる長身の女性は、エリアス・エデルは深々と溜め息をついた。――あのお調子者め、またか。
「でもアキラ、生身の訓練ではランスロット様にぼっこぼこだったよね」
「‥‥‥‥うぐっ」
 子供ゆえの無邪気で残酷な言葉に、調子に乗っていた青年の顔が引き攣った。
「くっ‥‥そ、それはな、キャリアの問題なんだよ、EXPの問題だ! 戦って経験値を積んでレベルアップすればオレだっていつかはあのおっさんの一人や二人」
「おっさんではありません。ランスロット様と敬意を込めて呼びなさい」
「うおっ?!」
 割って入るならば今、と彼女は声をかけた。彼女に気付いた子供たちは「わあっ」と歓声をあげ、対照的に青年は「げえっ」と嫌そうに顔を顰めた。
「もしくは団長と呼びなさい‥‥と、何度言ったら覚えるんです、アキラ」
「オレの世界にそんな風習はないからいつまで経っても無理ですって、何回言ったら覚えるんですか、エリアス?」
 減らず口を、とエリアスは青年を睨み付けた。まったく同じことを思ったのだろう、青年も彼女を睨み付けている。

 青年の名は山本アキラ。天界からやって来た勇者――否。
 世界を救う勇者を自称する、夢見がちなお調子者である。


●恐獣と襲われた村と・・・・マンガ肉?
 ウィルの国の片田舎の領主ハーヴェイは、私設の騎士団を擁していた。騎士団と言っても、その数はたったの五名。その仕事は主にハーヴェイの護衛と、領内の問題――主に武力が必要な問題の解決であるが、流石に田舎だけあってそれ程大きな揉め事はあまり起こらない。
 ・・・・が、それも昔の話。近年何かと物騒で、ここでもいつどんな大事が起きるかわからない。

「・・・・恐獣が?」
 ハーヴェイの邸の隣にある騎士団の詰め所。そこでアキラとエリアスは騎士団長ランスロットと向かい合っていた。短い金髪、逞しい上背に髭を生やしたその容姿は貫禄十分。その彼の口から出た単語にアキラは首を傾げ、エリアスは眉間に皴を寄せる。
「森の村が襲われた、と村長が助けを求めてきた。幸い人的被害はなく、住民も隣の村へ避難済みということらしいが‥‥退治してもらわないと怖くて村に帰れない、と言われてな」
「‥‥でしょうね」
「今回は相手が相手なので、ゴーレムを使う。冒険者に応援は頼んだが、私とガウェインは同行出来ん。エリアス、そこの馬鹿者の首輪をしっかり握って、絶対に離すな」
 アキラはゴーレムのことが異常に気に入っていた。その感情は、もはや恋と言っても過言ではないとエリアスは思っている。それゆえにゴーレムが絡むと、常のお調子者に輪をかけてはしゃぎすぎることが多々あるのだ。今回は自分の目が届かないということで、ランスロットはいつも以上に心配らしい。
「首輪って‥‥オレは犬かよ」
 むすりとするアキラにエリアスは半眼を向けた。
「犬に失礼ですよ、アキラ。犬は主人に従順です」
「ぐぉっ‥‥‥犬以下ってか?!」
「‥‥しっかりやれよ」
 二人のやり取りを見て心底心配そうな顔をするランスロットに、エリアスは慌てて姿勢を正して「了解」と言った。
「恐獣か‥‥」
 アキラが真剣な顔で呟いた。どうかしたのだろうか、とエリアスは彼の顔を覗き込んで、少しでも心配したことを即後悔した。
「・・・・マンガ肉・・・・輪切りステーキとか、出来っかな?」
 くふふ、と奇妙な笑い声を上げるアキラを見て、エリアスは襲い来る眩暈・頭痛と戦いながら拳骨を彼の頭に叩き込んだ。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea1542 ディーネ・ノート(29歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●リプレイ本文


「王都よりはるばるありがとうございます。ご助力、感謝いたします」
 騎士団の詰所にて。訪れた冒険者たちをエリアスが出迎えた。その彼女に明るく挨拶を返したのはディーネ・ノート(ea1542)とカルナック・イクス(ea0144)。もう一人、エリーシャ・メロウ(eb4333)は団長と共に領主へ挨拶に行っている。
「やほ♪ ディーネよ。よろしく」
「ゴーレムニストのカルナックだよ。よろしく」
「ゴーレムニスト‥‥って」
 自己紹介を聞き、きらりとアキラの目が光ったのをカルナックは見た。
「ゴーレム作る人のことだよな?」
 カルナックは瞬時に嫌な予感を覚えた。その予感の通り、アキラはカルナックの手を握り、期待で満ち溢れた顔で言った。
「じゃあさ、じゃあさ! 俺専用の強くてカッコイイ奴作ってくれよ! 専用っつったら塗装は赤か? 赤だよな? でもってDEXは通常の三倍で頭には角があって」
「いや、あの・・・・アキラ? 悪いんだけど、ゴーレムニストって言っても俺はまだ駆け出しだからさ。キミの期待に応えてあげるのはちょっと無理かなと」
 そういうわけなので、ごめん。すっぱりとそう断ると、アキラは輝かせていた表情を一変させて肩を落とした。
「・・・・・・・・そうか・・・・」
「あの、そこまで落ち込まれると、なんというか・・・・ごめん?」
 そもそもゴーレムは滅多に個人所有出来ないし、勝手に塗装したり容姿を変えたりもしてはいけないのだけれど、あまりの落ち込みように言うに言えなかった。


●狩・・・・もとい、戦闘開始
 4メートルもある石の巨人が三体、村を守るように並び立つ。そこへ真っ直ぐに、更に巨大な生き物が向かってくる。バガンの二倍はあるだろうか。
「アパトサウルス・・・・報告書の通りね」
「一体しかいないけど、残りはどうしたのかな?」
 戦闘開始前に聞いた情報と照らし合わせつつ、ディーネとカルナックは巻き込まれずかつ援護可能な位置に下がって巨体を見上げていた。
「ゴーレム、起動出来たら良かったんだけども」
 ディーネが溜め息をついた。試しにと乗ってみたけれど起動せず――操縦スキルがなければゴーレムを動かすことは出来ないのだった。
「俺も少しでも乗れるようになっておいた方が、今後の役に立ちそうだな」
 暇を見つけて練習しようかな、とカルナックが呟いた直後。
 ―ドオォンッ、という轟音と共に、恐獣の前足がバガンに襲い掛かった。


『はあっ!!』
 エリーシャの乗るバガンが槍を薙ぎ、アパトサウルスの前足が切裂かれる。痛みにか咆哮を上げ、それは背を向けて逃げていく。
『追いかけましょう!』
『了解しました』
『おーけい〜!』
 すかさず、三機は追いかける体勢に入った。アキラが左、エリアスが右に展開し、エリーシャは中央を任されている。手合わせをした感触では、決して悪くはなく、アキラもエリアスに多少劣るけれど、想像していた程ではなかった。ただ――
『お! もう一体出たぜ、エリーシャ』
『アキラ! 敬称を付けてお呼びしなさい! エリーシャ殿に失礼でしょうが!』
「エリアス卿・・・・ご苦労が偲ばれます」
 アキラに怒鳴るエリーシャの声が風信器から聞こえ、エリーシャはつい同情の言葉を漏らした。


 グオオッと吠えて、傷だらけの恐獣がその鞭のような尾を振り回す。エリーシャ機は盾で、エリアス機も何とか防ぎきったが、アキラ機が尾に足を取られた。
『・・・・うおぁっ?!!』
 体勢を崩してぐらりとアキラ機が傾く。そこへ、チャンスと別の一体が突進を見せた。
『げっ、やべ!』
 倒れて起き上がろうとするアキラ機へと、恐獣の前足が蹴り上げられる――かと思われたが、寸前にエリーシャ機が盾ごと双方の間へ体を割り込ませた。
『くぅっ‥‥!』
 みしりと盾が軋むが、こらえきって槍を振った。槍に首の付け根を切裂かれて、恐獣は苦悶の声を上げ地響きを起こして横たわる。
『・・・・こんにゃろっ!!』
 横たわったところへやっと起き上がったアキラ機が剣を振り上げる。長い首を両断すると、恐獣は動かなくなった。
『はぁ・・・・ちょ、ちょっとやばかったな・・・・』
『大丈夫ですか?』
 ちょっとどころではなく危なかっただろうと思いながらエリーシャが尋ねると、慌てた様子のアキラの声が返ってきた。
『おぅっ、大丈夫だ! 悪かったな、エリーシャ。助かったぜ・・・・と、あんたは大丈夫か?』
『何よりです。私の方はご心配には及びません』
『そっか・・・・やっぱ、歴戦の戦士って違うな。すげぇや!』
 通信機越しに尊敬を感じて、エリーシャはくすぐったい思いを感じた。と、視界の端で大きく手を振るディーネの姿が見えた。どうも、アキラ機に怒鳴っているようだが――
「こらぁー――っ! アキラさん、回り見て!」
「つ、潰されるかと・・・・危なかった・・・・!!」
『あっ・・・・』
 先ほどアキラ機が転んだ近くに二人はいたらしい。叫ぶディーネとカルナックの姿を見つけたアキラは、『悪い、いたの忘れてた』と返して全員から怒られた。


●掃討終了の後は・・・・
 アキラが足を引っ張りつつ、エリーシャのフォローもあって恐獣は何とか退治された。ここからはお楽しみのアレ――お肉パーティーである。
 倒した恐獣の肉を適当な大きさに切り取ったカルナックは、アキラが持って来た調味料類と並べて何やら真剣に考え込んでいた。その目は完全に料理人の目だった。

「ディーネ、石ってこんなんでいいのか?」
「ばっちりよ! ここに置いてね」
 一方、こちらも料理好きのディーネは早速調理を始めるらしい。アキラが拾ってきた大き目の石に満足げに頷くと、クリエイトウォーターでまずは石をきれいに洗浄。
「続いて‥‥ヒートハンド!」
 ディーネが赤い色の光に包まれる。灼熱化した手で石に触れ続ければ――
「これで準備は完了〜♪ さあ、お肉を乗せて焼くわよ〜」
「石焼か〜、いいな! くあーっ、焼く前からうまそうだぜ!」
「お肉を乗せて、待つだけ、と。・・・・くぅうぅ、早く完全に火が通らないかしら〜」
 十分に熱せられた石に適度な大きさに切った恐獣の肉が並べられる。じゅうじゅうと食欲をそそる音が立てられ、焼き上がりのベストなタイミングを逃さないようにと見守る二人は思わず唾を飲み込んだ。


「・・・・盛り上がっていますね・・・・」
「そうですね・・・・」
 ノリノリの三人を、エリーシャとエリアスは離れた所から眺めていた。
「どう思われますか、エリーシャ殿。恐獣ステーキの味について」
 エリアスの問いに、エリーシャは「そうですね」と前置きして答えた。
「鹿は美味でも狼は食用に適さぬように、肉食種なら筋と臭みで食べられたものではないかもしれません」
「ですよね・・・・はあ。まったく、どうしてアキラはああなのか・・・・」
「エリアス卿・・・・お察しします」
 頭を抱えて憂鬱そうにこぼしたエリアスにそう言うと、エリアスは溜め息をついて「ありがとうございます」と返した。
「・・・・うぐぁっ?!!」
 そんな会話をしていると、アキラが突然呻き声を上げて下を向いた。何事かと思えば、ディーネも似たような姿勢になっている。
「お二人とも、どうされました?!」
 ぎょっとして声をかけたエリーシャを、青い顔の二人が見上げた。そして、震える声でこう言った。
「‥‥す、すごく‥‥っ!」
「生臭っ‥‥!!」
「・・・・でしょうね」
「‥‥そうだろうとは、思いましたが」
 石焼ステーキでは肉のもつ臭みを消すことは出来なかったらしい。二人が口を押さえたのを見て、予想済みだった二人は顔を見合わせるとそれぞれの背中をさすってやった。


「あれ? 何だか、ぐったりしてます?」
「カルナック殿」
 石焼ステーキ組を介抱していると、カルナックが何やら湯気の立つものを抱えてやって来た。別の場所で調理していたためこちらの惨事は気づかなかったらしく、青い顔のディーネとアキラを見て首を傾げている。
「野性味が強すぎたようです」
「アキラは自業自得ですが」
 エリーシャの説明でカルナックは納得した。苦笑しつつ、自分が作った分をアキラの前に差し出した。
「アキラさん、ご所望のマンガ肉だよ」
「何っ?! むぅ・・・・ビジュアルは完璧だが、しかしこいつは相当の強敵だぜ? どうにかなったのか?」
「すごい臭みだったわよ‥‥?」
「焼く前に叩いて柔らかくしたし、ニンニクや香草で風味付けしたり・・・・他にも色々施したから、大丈夫だよ。まあ、食べてみればわかる」
 料理の腕前はかなりのものと自負するカルナックは、自信たっぷりに言った。そこまで言われれば―言われなくてもリクエストした手前、食べないわけにはいかないアキラだ。未だ濃く残る臭みへのトラウマを無理やり排し、意を決して香ばしい香り漂う骨付き肉にかぶりついた。
「!! こ、これはっ・・・・」
 アキラは目を見開いた。一拍遅れて噛み付いたディーネと共に、その表情は地獄から一変して輝いた。
「おいしいっ! あの臭みはどこにいったの?!」
「すごいうまい!!」
 絶賛を受けてカルナックは胸を張った。臭みを取る為に香りの強い香草を使ったのだが、どうやら当たりだったようだ。
「あ、本当。臭みが大分取れてて、すごいですね」
「驚きました」
「まだまだ肉は余ってるからね。リクエストがあれば、挑戦してみるけれど?」
「はい! 俺ハンバーグ!」
「煮込み料理はどうかしら?」
「ご領主と団長殿におみやげにしてはいかがです」
「ああ、いいですね!」


 こうしてカルナックの手によって様々に調理された美味なる恐獣料理の数々を、彼らはたらふく食べた。大分余ってしまった肉は干し肉にして、これから復旧作業で手一杯になるだろう森の村へと寄贈された。冬への備えとなる保存食は村の人々から大層喜ばれたが、それが一体何の肉であったかは――村人達の精神の平和の為、秘密ということにされたのだった。