キティはどこに?
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:まどか壱
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 32 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月09日〜07月14日
リプレイ公開日:2008年07月14日
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●オープニング
今日も冒険者達で賑わう酒場に、変わった客人が姿を見せた。酒場に来るにはまだ早い、十にも満たないくらいの小さな少女は、涙に濡れた顔をくしゃりと歪めて立っている。迷子だろうか、とカウンター席にいた彼女は、少女に歩み寄って身を屈めた。
「どうかしたの、お嬢ちゃん」
「ひっくあの、あのね‥‥」
大粒の涙を流す少女に、一先ず落ち着くように言う。とは言え、取り乱している幼子に落ち着けといって直ぐに落ち着くわけもない。どうかしたのか、と怪訝な目を向けてくる冒険者達の視線を感じながら、彼女は努めて笑顔で尋ねた。
「迷子かな?」
「ううん、あの、あの、ここに来れば、助けてくれる人がいるって聞いたから‥‥」
彼女は瞬きを一つする。どうやら迷子ではなくて、冒険者に用があるらしい。
「そうなの。それじゃあちょっとこっちにいらっしゃい。座って、落ち着いて話を聞かせてくれるかな」
「う、うん‥‥」
少女の手を引いて、空いている席に座らせた。隣に腰を下ろして、彼女は少女にそれで、と促す。
「どうしたのかな? 助けて欲しいことが、あるのかな?」
少女はこくりと頷いて、泣き腫らして真っ赤になった目を彼女に向けた。
「キティを、探して欲しいの‥‥!」
「キティ? それが名前なの?」
「うん‥‥あのね、皆で町の中は探したの。だけど、どこにもいなくって‥‥町の外に出たんじゃないかってお母さんは言うの。でも、町の外にはモンスターが‥‥」
何かあったらどうしよう、とこぼしてまた涙を浮かべる少女の頭を撫でてやりながら、彼女は更に尋ねる。
「キティっていうのは、あなたの弟か妹?」
「ううん、キティは、わたしの友達なの」
「お友達‥‥、と。どんな子なの?」
「あの‥‥このくらいで」
少女が手を広げる。幅は、丁度少女の肩幅と同じくらいか。
「毛並みは黒いの。目は青くって‥‥」
「‥‥ん? 毛並み?」
「足の先だけ白いの」
「‥‥もしかして、キティっていうのは‥‥猫?」
「うん、そうだよ」
頷いて、少女は彼女の顔を見上げて眉尻を下げた。
「‥‥キティ、探してもらえないの‥‥?」
悲しそうな顔を見て、彼女は短く呻いた。ただの猫ではなくて、少女にとってはとても大事な友達なのだろう。そして、町の外に出たかもしれないとなると、事情は少し切迫してくる。となれば、無下に諦めろと切り捨てるわけにはいかない。何より、こんなに小さな女の子が泣きながら助けを求めてきたのだから。
「とんでもない。あなたの可愛いキティは、ちゃんと見つけてあげるから心配は要らないわ。それで‥‥キティがどこにいったのか、心当たりは何かある?」
少女は彼女の笑顔に、ほっとしたように息を吐き出した。
「この前ね、近くの森に遊びに行ったの。奥の泉の周りはきれいなお花が沢山さいてて、泉もきらきらしてて、キティも楽しそうだったの‥‥だから、そこにいったんじゃないかと思って」
「森の奥か‥‥」
それには顔を顰めてしまった。森にはモンスターも出るし、泉の近くとなると水辺を好むものがいる可能性が高い。探しに行きたくともこのお嬢ちゃんでは一人で探しに行くことは出来ないだろうし、親だって許さないだろう。彼女は椅子から立ち上がると、興味深そうにこちらを伺っていた冒険者達を見渡した。
「さて、腕に覚えのある冒険者の皆さん‥‥この小さなお嬢ちゃんの大切なお友達が、森の中で迷子になってるみたい。どなたか、この可愛らしい依頼主さんの涙を拭ってくれる方はいないかしら?」
●リプレイ本文
●探索三日目
「‥‥外れだな」
茂みの中を覗き込んでいたアマツ・オオトリ(ea1842)は、背後で待機していた仲間達に対して頭を振った。
「ここもかよ‥‥」
げんなりとしてそう呟いたのは村雨紫狼(ec5159)だ。その顔には疲労の色が見える。森の探索を始めて三日。依頼主の少女からの情報を元に、森の奥の泉周辺に重点を置いてキティを捕まえるための罠‥‥キティが好きなエサを設置してみたりしたのだが、未だ行方不明のキティの発見には至っていなかった。
「周辺に動くものはいないようです」
「そうですね‥‥この子も、仲間の気配は感じていないようです」
バイブレーションセンサーのスクロールで周囲を伺っていた雀尾煉淡(ec0844)と、連れてきていた愛猫の様子に注意していたルイス・マリスカル(ea3063)の口からもいないという言葉が出て、皆顔を見合わせて溜め息をついた。
「警戒心の強い生き物ですからね‥‥」
「接近に気付いて逃げられている、というのは十分にありえますね」
「エサはどうですか? アマツさん」
「齧った形跡はある。だが、いつのことかまではわからない」
「そうですか‥‥」
罠を仕掛けた場所はここで最後だが、キティの姿は未だ見ていない。
「ふむ‥‥入れ違いになっている可能性はどうだ? 私達が動いた後で、他の罠にかかっているかもしれない」
「では、俺がクレアボアシンスで見てみましょう」
「お願いします、煉淡さん」
アマツの提案で、雀尾がスクロールを広げる。魔法が使用される様を見て、村雨がはあ、と感嘆の息をもらした。
「‥‥すげえな、魔法。便利だな‥‥っていうか、皆さすが、手慣れてるなぁ」
「場数を踏んでいますからね」
「ハローワーク‥‥ギルドだっけ? 簡単な依頼って言われてたから受けたんだけどさ、まさかこんな凄腕ばっかり揃うなんて思わなかったよ、俺」
「依頼人の友を想う気持ちはよくわかるからな。私も、愛馬を失うのは身を切られるより辛い‥‥早く見つけて、あの少女を安心させてやりたいが」
ふう、と嘆息したアマツの言葉に反応して、村雨が目を輝かせた。
「そうなんだよな! 俺もあの子の涙を拭ってやりたくて‥‥こんな依頼を待っていたんだ。あの子の笑顔のためなら、俺はいくらでも頑張れるぜ! ファンタジー世界万歳っ!!」
「ファン‥‥? まあ、困っている子供を助けるのも、冒険者の立派なお仕事ですからね」
「そうだな。いい心がけだと思うぞ、村雨殿。数をこなしていけば、いずれは段取りにも戦いにも慣れていくだろうが、その心構えは忘れぬようにな」
「勿論だぜっ! ゆくゆくは俺も皆みたいな凄腕の有名人になって〜‥‥ふっふっふ」
村雨は将来に思いを馳せて口元を弛めている。向上心のあるのはよいことだ、と思いながらアマツとルイスは雀尾を伺った。話をしている間に全ての場所を見終えたらしい雀尾は、仲間達を見てしっかりと頷いた。
「発見しましたよ」
その言葉に、皆一気に活気付いた。
「やっとか〜!」
「やったな」
「それで、場所はどこですか?」
「拠点にしていた泉です。急いで戻れば間に合うでしょう」
「よし、行くぞ!」
各々は頷いて、自分たちが拠点としていた場所を目指して走り始めた。
●いよいよ捕縛へ
花に囲まれた泉から少し距離を置いた茂みに彼らは身を潜めていた。視線の先では、キティと思しき猫が一心にエサを食べている。
「‥‥まだ気付かれてはいないようだな」
「そうですね」
「黒い毛並みに青い瞳、足の先は白‥‥間違いないですね」
「で、こっからどうするんだ? 魔法で動きを止めて、とか言ってたよな?」
「ふむ‥‥」
ルイスは懐から水の入った不思議な水瓶を取り出した。
「付近にモンスターはなし、ですね」
「では、作戦を確認しよう。まず、私がこの魚のアラでキティの気を引きつつ近付く。可能ならばここで捕まえるが‥‥」
「逃げた場合を想定し、俺がホーリーフィールドで周囲を囲んで逃げ道を塞ぐ。念のため、アグラベイションのスクロールも用意しておきますね」
「で、動きが止まったところで、俺が捕まえる!」
「私は引き続き、モンスターに注意を払っておきます」
「よろしく頼む、ルイス殿」
各々の役割を確認して、早速アマツは用意していた魚のアラを皮袋から取り出した。キティを驚かせないように、ゆっくりと慎重に距離を詰める。その間に雀尾はホーリーフィールドの準備を、村雨はキティの背後に身を潜める場所を移した。アマツからキティまで、歩幅にして三歩まで行った所で、キティの耳がぴんと立った。
「‥‥にゃ?」
キティは身を起こして、アマツに警戒を露にする。
「そう怯えるな、キティ。何かしようというのではないぞ? ‥‥ほら、魚だ」
「にゃ?」
アラをキティに見せる。じいっとアラとそれを持つアマツとを眺め、キティはじりじりと前進して来る。
「よしよし‥‥もう少しこっちだ‥‥」
「にー‥‥」
探るようにキティが前足をアラに伸ばす。ちょい、と恐る恐る触るキティに、アマツはくっ、と呻いた。
「ぐっ、‥‥か、かわいいな‥‥ほら、おいで、キティ」
「‥‥」
じ、っと見て、そしてキティは思い切ってアラに噛み付くや、素早く身を翻して逃げ出した。
「ちっ、駄目か‥‥雀尾殿!」
「ホーリーフィールド!」
アマツの声に、白い光に身を包まれていた雀尾が叫ぶ。キティの進行方向に結界が張られた筈だが、障壁などないかのようにキティは結界を突き抜けてしまう。
「やはり、ホーリーフィールドはすり抜けられますか‥‥となれば、」
「アグラベイションを使います。 ‥‥村雨さん!」
「よしっ!」
キティの背後に控えていた村雨が、逃げるキティの前に立塞がる。突然現れた人影にキティは驚いて動きを止めた。
「ふっふっふっ‥‥観念してもらおうか、キティ。おまえの可愛いご主人様のために!」
フーッと毛を逆立てるキティの注意は村雨に向いている。その隙に、雀尾はアグラベイションのスクロールを広げた。
「アグラベイション!」
「今だっ!」
魔法の使用を確認し、村雨がキティに飛び掛る。キティは逃げようとしたが、アグラベイションが効いていてその動きはひどく鈍い。如何に素早い猫とは言え、こうなれば捕まえるのは簡単なこと。あっさりと、村雨はキティをその腕の中に捕らえることに成功した。
「キティ、捕まえたぜ〜っ!!」
「でかした、村雨殿!」
「やりましたね」
キティは逃げようともがいているが、しっかりと抱かれているので抜け出せないでいる。見つけるまでがかかったが、捕縛はあっさりと成功した。村雨の周りに集まった彼らは、互いの顔を見て安堵の息をついた。
「これで、後はキティを依頼主の少女に届けるだけですね」
「そうだな。まったく、手間をかけさせてくれて‥‥ところで村雨殿、抱き心地はどうだ? 特に、その毛並みは‥‥」
「え? ああ、ふさふさだよ。抱いてみるか? アマツさん」
「べ、別に抱きしめたくて聞いたのではないぞ? 怪我がないかの確認をだな」
「そうですね。見たところ、大きな怪我はなく元気なようですが、」
村雨がキティを抱えなおして、怪我の有無を皆で確認しようと思ったその時だった。突然、高い音が辺りに鳴り響く。
「な、何だよ?!」
「‥‥いけません、モンスターです!」
水瓶を抱えていたルイスがそう叫び、その場に緊張が走った。
「も、モンスター?! どこだよ!」
「探ります」
慌てながら、それでも折角見つけたキティはしっかりと抱き締めて村雨が一歩後へ退く。黒く淡い光に包まれた雀尾はデティクトライフフォースを使用して、モンスターの数と位置を探り始める。その彼が視線を向けるのと、アマツが叫ぶのはほぼ同時だった。
「村雨さんの後に三匹です!」
「村雨殿、後だ!!」
「後、って‥‥うわあ?!」
示されて背後を見た村雨が、自身の後にいたものを見て驚きの声を上げた。成人くらいの大きさのカエルが三匹、暗がりからのそりとその姿をのぞかせる。
「カエル?! でかすぎじゃねーの?!」
「下がってください、村雨さん!」
荷物を下ろし、速やかに抜刀したルイスに従って村雨は後に下がり、代わってルイスとアマツが前に出た。
「守りは任せたぞ、雀尾殿!」
言い、アマツが刀でジャイアントトードを薙ぎ払う。切れ味鋭い刃に、ジャイアントトードはあっという間に切り伏せられた。
「お見事です、アマツさん!」
そう言いながらルイスも襲い掛かってきた一匹をカウンターアタックで切り倒す。
「戦闘なく‥‥とは、行きませんね、やはり」
「そうだな。‥‥最後の一仕事だ」
そして二人は残った一匹を仕留めるべく、武器を構えなおした。
●帰還
「キティ!!」
「にゃ〜ん」
二日後、森から町へと戻った彼等は、待ちわびていたらしい少女の出迎えを受けていた。村雨の腕の中に、探していた友の姿を見つけた少女は、泣きそうな顔で彼に駆け寄ってキティに声をかけた。
「キティ! ‥‥よかった、見つかって‥‥っ!」
「怪我なく、元気ですよ」
「良かったな、お嬢ちゃん」
「うん! ‥‥もう、キティ? 黙って町から出たら駄目なんだからね?」
「‥‥にゃ」
飼い主に叱られたキティは、しょんぼりと耳を畳んだ。微笑ましい光景だと微笑みながら、キティを少女の腕に返した。少女は小さな腕でキティを抱きしめて改めて彼等を見上げると、頭を下げた。
「皆さん、ありがとうございました!」
「どういたしまして」
「これも仕事の内ですからね」
「だが、大事な友ならば、これからは目を離さないようにな」
「困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくれな!」
口々に声をかけてくれる彼らを見て、少女はもう一度ありがとうと口にして深く頭を下げた。顔を上げた少女の目には涙がうっすらと浮かんでいたが、その表情は紛れもない、笑顔だった。
こうして彼らの活躍により、少女の涙は見事拭われたのだった。