爺さんと僕〜続・ほら吹き爺さんの遺言状

■ショートシナリオ&プロモート


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや易

成功報酬:1 G 99 C

参加人数:3人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月26日〜11月29日

リプレイ公開日:2008年12月03日

●オープニング

●プロローグ
 僕の爺さんはほら吹きだった。子どもの頃からほらばかり吹いて、大人になって、年寄りになってもまだほらを吹いては憤慨する周りの人達を見て腹を抱えて笑う。そんなどうしようもない爺さんだった。孫の僕も、何度爺さんに泣かされたことか。二十を越えたあたりで数えることは諦めた。
 その爺さんも年齢には勝てず精霊界へ旅立ったのだが、遺された暗号じみた遺言状に僕はまたしてもからかわれる羽目になった。意味ありげな暗号に財宝の予感を感じて心躍らせた僕は、冒険者たちに手伝ってもらって暗号を解読、いかにもそれっぽい宝箱を発見するに至る。しかし、用意されていたのは財宝でもなんでもない、「ハズレ」と書かれた木片一枚。
 結局、死んだ後まで爺さんに踊らされる結果となり、僕は深い落胆を抱えてヤケ酒をあおったのだった。


●僕とロイスと謎の板
「・・・・と、そういうことがあったことは既にご存知かと思うが」
「ご存知も何も、そのお前のヤケ酒に付き合わされたからな。そりゃあもうよくご存知だよ」
 件の爺さんの孫であるコリンがしみじみと語る言葉に、ロイスは呆れた顔でそう返した。
「ああ。その節はお世話になりました」
「どういたしまして。・・・・で?」
「ん?」
「何で俺はまた、お前の家に呼ばれたわけだ?」
 休日なのに、とロイスは少々不機嫌に尋ねた。すると、コリンは待ってましたと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
「これを見てくれ!」
 ばん、と音を立ててテーブルに置かれたのは細長く薄い板だった。その板にはなにやら文字が書いてあって、ロイスは嫌な予感を覚えた。
「・・・・おい、コリン」
「何だ?」
「まさかとは思うが、これ・・・・」
「・・・・ふっふっふ・・・・」
 コリンは板を持って、ロイスの目の前に突きつけた。
「爺さんが残しだ遺言状という名の暗号、第二弾だ!!」
「・・・・やっぱりか・・・・」
「あのハズレの宝箱の底、二重になっててな」
 嫌な予感の的中に項垂れるロイスの様子はおかまいなしに、コリンは嬉々として板入手の経緯を語りだした。
「何故気づいたかというと、まあ、早い話が落としたんだよ。棚の上に収納しようと持ち上げて落としてな。その衝撃で、二重底を隠していた上の板がずれたんだ。これは何かあると思って剥がしたら、こいつが出てきたというわけだ」
「頼んでもいないのに説明ご苦労。・・・・で?」
「何だ、察しの悪い男だな。わかるだろ? ・・・・読んでくれ」
 コリンは字が読めない。ウィルではまったく珍しいことではなく、むしろ多数派だ。そして、ロイスは文字の読み書きを修得している。何故ならば、彼の仕事がギルドの受付係だからだ。
「薄々そんな気はしていた・・・・どれ」
 やれやれまたか、と思いながらロイスは板を受け取って記された文字を目で追い、読み上げた。
「コリンよ、我が可愛くも騙されやすくからかいがいのあるアホな孫よ」
「・・・・おい、その「騙されやすく」以降の失礼な修飾語はお前の補足か?」
「いいや、原文のまま読み上げている」
 正直に伝えると、コリンはむすりとした。まったくその通りだと爺さんに同意しつつ、ロイスは続けた。
「お前がこれを読んで・・・・いや、読めないからロイスあたりに読んでくれと頼んで読み上げてもらっているということは、爺さんは既にこの世にいないのだろう」
「おお、遺言状っぽいな」
「そして、これを見つけたということは薬箱の暗号にまんまと踊らされたというわけだな。お前の悔しがる顔が見えるようだ。どうだ、財宝があるのではという、いい夢が見れただろう?」
「うぐっ‥‥! 爺さんめ、さすが、僕のことよくわかってるな」
 爺さんの思惑通りに踊り、意気消沈したことを思い出してコリンはテーブルに突っ伏した。
「しかし、爺さんもさすがに「ハズレ」だけでは可哀想かと思い直した。そこで、お前に爺さんの大切なものを譲ってやろうと思う。隠し場所は裏面に記した」
「・・・・何となっ?!」
 だが、その一文にコリンは顔を上げた。
「お前のこれからの人生の役に立てば、爺さんは嬉しい」
「じ、爺さん・・・・!」
「以上、爺さんより。我が可愛くも騙されやすくからかいがいのあるアホな孫、コリンへ」
「‥‥なあロイス、その修飾語はお前の補足じゃ」
「原文のままだ」
「そうか・・・・いや、それよりも! 裏面だ裏面!」
「そうだな」
 前段階として「ハズレ」を用意しておくあたりはまったくあの爺さんらしいところではあるが、それでも孫は可愛かったというわけか、とロイスはちょっと爺さんを見直した。そして裏面を見て、即座に自らの考えの甘さを知った。
「ロイス、早く読んでくれ! 爺さんのお宝はどこにあるんだ?」
 爺さんは「大切なもの」と言ったのであって「お宝」とは一言も言っていないのだが、コリンの中では「お宝」で決定しているらしい。ロイスは疑いなく喜んでいるコリンの顔を一瞥して、裏面の短い文章を読み上げた。
「た1゛んら5な5な1か1」
「・・・・何だって?」
「た1゛んら5な5な1か1」
「・・・・それ、また暗号じゃないのか?!」
「さすが爺さんだな」
 可愛い孫だと思っても、ただでくれてやるつもりはないらしい。
「‥‥むう‥‥」
「どうする?」
 尋ねつつ、ロイスはコリンの返事の予想がついていた。そして、コリンはロイスの予想と一言一句違わない返事をした。
「決まっているだろう、友よ。・・・・さあ、依頼だ! 受け付けてくれ、受付係のロイス君!」
「だと思ったよ・・・・」
 想像通りの返事にロイスは溜め息をついた。お宝でなくともせめて「ハズレ」でなければいいのだが、と思いつつ、何故だろう。ロイスはこの時、またしても友のヤケ酒に付き合う自分の姿が見えた気がした。

●今回の参加者

 ec5590 レイ・ファンダリア(35歳・♂・ファイター・人間・アトランティス)
 ec5641 メイフォン・メリィ(24歳・♀・ウィザード・人間・メイの国)
 ec5663 マモ・マデン(30歳・♀・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

「やれやれ…久々に依頼を受けてみれば謎解きとはね」
 依頼人コリン宅前にてメイフォン・メリィ(ec5641)は溜息交じりにそう呟いた。考えたりするのはあまり得意ではないのだけれど、と思いながらノックをすると、一拍も置かないうちに扉が開けられた。
「ようこそ! 僕の頼もしい助っ人諸君っ・・・・あれ?」
「こんにちは」
 両手を広げて歓迎するコリンは不思議そうに瞬きをした。理由に予想はつきつつも、メイフォンはとりあえず依頼人への挨拶を優先させた。
「メイフォン・メリィよ。よろしく」
「これはご丁寧にどうも。依頼人のコリンだ。よろしくお願いする、メイフォンさん」
 で、だ。コリンはメイフォンの後ろを覗き込みながら彼女に尋ねた。
「ロイスの話じゃ、もう一人来てくれるという話だったと記憶しているが?」
「奇遇ね。私もよ」
「むぅ‥‥急用でも出来たかな? まあいいさ。お茶でも飲みながら待つとしようか」
「そうしましょうか・・・・お邪魔します」
 お言葉に甘えて先に入ろうとしたところで、足音が聞こえた。振り返ると、銀髪の女性が慌てて走ってくる姿が目に入る。
「あ、もしかして彼女・・・・」
 銀髪女性は真っ直ぐにこちらへ向かってくると、息を切らせながら頭を下げた。
「すみません、遅れました」
「あ、やっぱり」
「もう一人の冒険者か?」
 はい、と肯定したのはマモ・マデン(ec5663)。息を整えつつ、改めて二人へ挨拶した。
「マモ・マデンです。よろしくお願いします」
「依頼主のコリンだ、よろしく頼む! 何か用事でも出来たのかと思って心配したよ」
「すみません。ちょっと、迷ってしまって」
「・・・・そんなに分かりにくい所に我が家は立ってないぞ?」
 訝しげなメイフォンとコリンに、マモは眉尻を下げた。
「私、ちょっと方向音痴で」
「・・・・」
「・・・・」
 初対面につき「ちょっとか? 」というツッコミは心にしまう。気を取り直したコリンに促されつつ、冒険者二人はコリン宅にお邪魔した。


●遺言状とご対面
 リビングに通された二人の前に飲み物を置き、コリンは件の板を取り出してテーブルの上に置いた。
「早速で悪いが、これがその遺言状第二弾だ」
「遺言状に第二弾があるということはあまりないですよね。しかも、遺産を謎解きに託すとは‥‥面白いおじいさんですね」
 板をしげしげと眺めながらマモが言うと、途端にコリンは複雑な表情を浮かべた。
「面白いと言うか、どうしようもない爺さんだったよ」
「お宝も面白いものなのでしょうか?」
「・・・・第一弾は面白くもなんとも無かったがな」
 憮然とした表情になったコリンに、マモは苦笑した。一生懸命探してやっと見つけたものが、宝だと思っていたものが「ハズレ」の木片であれば落胆の大きさは推測するに容易い。
「まあ、それもユーモアと言えばユーモアですし‥‥気を落とさずに、頑張りましょう。今度こそきっと良いものですよ。わざわざ「大切なもの」と書くくらいですから」
 前回のオチを考えると今回も不安を覚えずにはいられないが、お人好しのマモはコリンの不安を煽って遊ぶという方向へは持って行けず、精一杯のフォローをした。
「嘘つき爺さんの「大切なもの」って一体何かしら」
 そのマモから板を渡されたメイフォンは、眉を寄せて板をじっと見つめた。
「・・・・第二弾まではずれ、なんて嫌よ?」
「それは、僕だって嫌さ。だが、流石に爺さんと言えども二度同じことはしない筈だ! ・・・・多分」
「そうですね。きっと大丈夫ですよ・・・・多分」
「実は燃え尽きてました、とか何十年も積もりに積もったこの灰が・・・・なんて言ったら・・・・爺さん、覚えてなさいよ?」
「お、お手柔らかに頼むな? メイフォンさん」
「・・・・穏便に済ませましょうね?」
 ふふふっと笑うメイフォンの目に不穏な何かを感じて、マモとコリンは冷たい汗が背中を伝うのを感じた。


●謎解き開始
「・・・・うーん‥‥どうなってるのかしら?」
「こうじゃなくて、ああでもなくて‥‥」
 テーブルの上には遺言状の他、数枚の板とペン、それからインクが置かれている。ペンを握った二人は、思いつく限りの方法で暗号文を解読しようと四苦八苦していた。
「それにしても、コリンの爺さんってどんな人だったの?」
「それは、私も興味があります」
「どんなって・・・・どこにでもいそうな立派にハゲた爺さんさ。で、ろくでもなくてどうしようもないほら吹きだよ」
「その、「ろくでもなくてどうしようもない」の中身が知りたいのよ」
「もしかしたら、そこから暗号解読のヒントが得られるかもしれません」
「むぅ‥‥なるほど」
 確かにとコリンは納得した。
「爺さんのエピソードというと‥‥これは第一弾の時に手伝ってくれた冒険者にも話したんだが、自分のことを『盗賊団の頭だったんだ』とか『没落貴族の跡取りなんだ』って言ってみたりとか。『百人の愛人がいる』なんてのもあったな。『もの凄いお宝を見つけた』とか」
「もしかして、その『もの凄いお宝』が今回の宝物なのでしょうか?」
「‥‥おお! なるほど! そう繋がるのはあり得るな」
「あるいは、盗賊団の秘密の財宝の隠し場所、ということもありえるかもしれません」
「それはすごく夢のある話だな!」
「宝物と聞けば、そういうものを想像してしまいますよね」
「うむ、マモさんとは気が合うな。惜しむらくは胸のサイズがもうワンサイズ上であれば」
「む、胸のことには触れないで下さい・・・・!」
「あんまり大きな期待を持たない方がいいと思うけど・・・・」
 飲み物を飲みながらやり取りを眺めていたメイフォンが、小声でぼそりと呟いた。
「ん? メイフォンさん、何か言ったか?」
「いいえ、何も? 飲み物美味しいわねって言ったのよ」
「そうか」
 怪訝そうにしながらも、コリンは「それは良かった」と返した。


●隠し場所、その正解は
 解読メモ用の板が二桁に達するかどうか、という時だった。
「あら? これって・・・・」
 ぴたりと、メイフォンのペンが止まった。
「どうしましたか、メイフォンさん?」
「分かったわ!」
「何っ?! 本当か、メイフォンさん!」
 飲み物の用意をしていたコリンが台所から慌てて飛んで来た。メイフォンは頷いて、自分がメモをしていた板を二人に見せた。
「つまり、こういう法則だったのよ」
「・・・・あっ、なるほど! そういうことでしたか」
 板に書かれた法則を見て、マモは直ぐに納得した。あれこれと考えて苦戦していたのだが、何のことはない、答えはシンプルなものだった。
「やたらと母音が「あ」の文字しか出ていないからおかしいと思ったのだけど」
「数字がヒントになっていたのですね。私もおじいさんの罠に見事にはめられました」
「前の文字が「な」だとすれば、後ろの数値が1だと「な」、5だと「の」になるの」
「「な」が1、「に」が2というように、数字は行を表していたのですね。数字に惑わされて、すっかり遠回りしてしまいました」
「もっと上手い言い方できないのが残念だけれど・・・・これで間違いないはずね! さ、後はそこを探すだけね」
「ええ、そうですね」
「・・・・盛り上がってる所、恐縮なんだが」
 謎が解けたことを喜び合うメイフォンとマモの会話に、コリンは申し訳無さそうな顔で割り込んだ。
「どうしたの、コリン。解けたんだから喜んだら?」
「そうですよ、コリンさん」
「いや、すまん。盛り上がりに水を差すようで何なんだが・・・・俺は字が読めないということを、お忘れではないだろうか?」
「・・・・あら」
「・・・・そうでしたね」
 解けた喜びですっかり失念していたが、そう言えばコリンは文字が読めないのだった。思い出して、二人は置いてけぼりにしてしまったことを詫びた。
「ごめんなさい、忘れてたわ」
「いや、いい。で、解けたんだな? 教えてくれ! 宝物の隠し場所はどこなんだ?」
 期待で一杯のコリンに、二人は笑顔で同時に言った。
「答えは「だんろのなか」ね!」
「恐らくですが答えは「暖炉の中」でしょうか? お宝が見つかるといいですね」


●「大切なもの」の正体は
「あったぞー!!」
 煤で真っ黒になったコリンが、同じく煤だらけの箱を持って暖炉から這い出てきた。
「いかにもそれっぽい箱が出てきたわね」
「何が入っているのでしょうね?」
「よーし、開けるぞ・・・・」
 コリンの手がそれっぽい箱の蓋に伸びる。ごくりと息を呑んで見守る中で、蓋は躊躇いがちにゆっくりと開けられた。
 期待を抱きつつ中を覗き込んだ三人は、入っていたものを見て一斉に眉を寄せた。
「こ、これは‥‥」
「‥‥何でしょうか」
「ねえ、これってもしかして」
 メイフォンが手を伸ばしてそれを掴みあげた。持ち上げられたそれは、誰がどう見ても――
「カツラじゃないの?」
 ふさふさの、一見すると毛の塊にしか見えないそれ。どう考えても、カツラ以外に考えられない代物がそこにはあった。そして、それしかなかった。
「まさか・・・・これが、宝物?」
「頭髪の薄い方にとっては確かに「大切なもの」ですね」
「そうね。つまりコリンの爺さんにとってはかなり「大切なもの」だわ」
 今のコリンには必要のないものだけに、再びハズレを引いた気分でコリンはがっくりと項垂れた。その肩にそっと手を置いて、二人は励ますように言った。
「今は必要でなくとも、何れ必要になる日が来るわよ・・・・二十年くらい後に」
「その時までどうぞ、大切に保管してください」
「そうだな、いずれ必要になるかも・・・・ちくしょー!!」
 今回もやっぱりハズレを引いたコリンの悔しそうな叫びを聞いてメイフォンは、どうせロクでもないものだと思ったけど、という言葉はそっと心中に留めた。


 後日、酒場でヤケ酒を飲むコリンの姿と、辟易した顔でそれに付き合わされるロイスの姿を二人は見かけ――やれやれと溜め息をつくのだった。