【聖夜祭】飾れ!聖夜祭!〜準備編

■ショートシナリオ&プロモート


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月06日〜12月11日

リプレイ公開日:2008年12月12日

●オープニング

 外を歩けば風の冷たさが身に染みる。吐く息の白さにも冬の到来を感じさせられて、すっかりそんな季節になったのだとしみじみ思う。日一日と増していく寒さだが、それも待ち遠しいイベントが近付く足音と思えば楽しみにさえ思えるか。
 ―スポンサーの存在を置いておけば。

 ウィル王都。東に向けて伸びる通りを歩く一組の男女の姿があった。寒さに身を縮ませる男女の内、女性の方は天界人の彩鈴かえで。この度のウィルにおける盛大な聖夜祭を企画した、発起人その人である。
「うぅっ、ますます寒くなったねえ・・・・」
 通り過ぎて行った風の冷たさにぶるりと震えるかえでに、「だなぁ」と答えたのは男の方。名を山本アキラという彼は、かえでと同じ天界人。普段はウィルの国の片田舎にて、領主私設の騎士団の世話になっているゴーレム乗りだ。一見すると人懐っこい好青年なのだが、ゴーレム異常愛者という変態的要素を隠し持っている。
 さて、普段は地方にいるアキラが今回わざわざ王都へやって来たのには理由がある。そう、聖夜祭だ。天界人同士ということで顔馴染みだったかえでから、「聖夜祭準備を手伝って欲しい」という旨のシフール便が届いたのは数日前のこと。天界式の賑やかなやつを一つと言われて、元来イベント好きであったアキラは二つ返事で了解、領主の許可を貰って遠路はるばる王都へやって来たというわけだった。
「で、俺は会場作りを仕切ればいいわけか?」
「そうそう。あたしは他にも色々しなきゃいけないことがあってねえ・・・・だから、アキラさんにまるっとお任せしちゃいたいんだけど、いいかな?」
「全然オッケー。こういうの、学祭以来だから楽しみだぜ!」
 そう言うアキラは心底楽しそうな顔をしていた。田舎で暮らすアキラは王都事情に疎い。故に、知らないのだ。今向かっている場所に住む人物の――聖夜祭のスポンサーを引き受けた人物のことを。
(・・・・うぅ、ごめんよアキラさんっ! でも、他に人がいなかったんだよ)
 教えるべきか否か。イムンはルオウの領主フロルデン伯爵の子息ということで、きっと立派な人物を予想しているだろう。そのイメージを壊していいものかどうかとかえでは悩み、そして結局言わない方がいいと結論付けた。
(今教えて、やっぱ帰るとか言われたら困るしね)
「うわっ、何だこの邸、馬鹿でかっ?!!!」
 会場であるウルティム・ダレス・フロルデン子爵邸(通称珍獣邸)に到着し、その広大な邸を見て目を丸くするアキラ。その当日までの(主にメンタルな)苦労を想像し、かえでは心の中でこっそりと彼に謝罪した。


 ちなみに、現実はと言うと――

「アキラ君、見てみて♪ 当日のスタッフ衣装試作品のミニスカサンタだよ」
「・・・・ウルティムこの馬鹿野郎!!」
「ぐほあっ!!」
「何でミニスカオンリーなんだよ!!」
 アキラの渾身の右ストレートがウルティムのボディーにクリーンヒットした。床に崩れ落ちたウルティムを見て、彼のメイド達は「よく言った! 」という意味を込めた拍手をアキラに贈る――が、しかし。
「いいか、ウルティム。全員がミニスカに萌えると思ったら大間違いだ! というか、丈は短くすればいいってもんじゃねえ。世の中は広い、萌えの種類は十人十色だ! ロング丈と膝丈、可能であればワンピースと腹チラも可能なセパレートの2パターンで用意する・・・・それがスポンサーの務めだろうが!!」
「そ、そっか・・・・!!」
「「「そっちかよ!!」」」
 拳を握り締めて熱く語るアキラに、拍手していたメイド達はコントを思わせる息の合い方で盛大にこけた。
「ちなみに俺は、ワンピースタイプ膝丈を所望するっ! サンタ帽とブーツも忘れずに・・・・と、いうわけでミルクたん早速試着ぐほあっ!!」

「・・・・鬱陶しいのが増えたです〜」
 アキラをぐーで黙らせたミルクの呟きに、メイド達はうんうんと深く頷いた。

●今回の参加者

 ea0167 巴 渓(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec1984 ラマーデ・エムイ(27歳・♀・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●サポート参加者

エリーシャ・メロウ(eb4333)/ ギエーリ・タンデ(ec4600

●リプレイ本文

●ご挨拶で早くも暴走
 さて、準備の為に会場であるフロルデン子爵邸へとやって来た冒険者達。場所が場所だけに、そして人が人だけに大なり小なり不安を抱きつつスポンサーと仕切り係に挨拶に向った。
「今回もよろしくお願いしますね♪」
 まず最初に挨拶したのは倉城響(ea1466)。
「アキラさんには初めましてですね、倉城といいます。よろしくお願いしますね」
「お久しぶりです、ウルティムさん。はじめまして、アキラさん」
 導蛍石(eb9949)は丁寧な中にも生暖かい慈愛がこもった口調で挨拶した。。
「会場担当の山本アキラだ。よろしく‥‥って、あれ、あんた」
「アキラ殿‥‥あまり羽目を外してエリアス卿やご領主にご心配をお掛けになりませんよう」
「お祭りって準備からワクワクするわよね! ‥‥あれエリりん、アキラと知り合い?」
 エリーシャの言葉に「うぐっ」と呻いたアキラを見て、ラマーデ・エムイ(ec1984)が首を傾げた。
「恐獣退治で世話になったんだよ」
「へえ、そうなんだー」
 そんな会話の後ろでは、
「お屋敷も無事借り受ける事が出来ましたし、着々と準備を進めねばですね」
 とジュディ・フローライト(ea9494)がぐっと手の平を握り締めている。
「わたくしもふらふらと倒れているばかりでは居られませ…きゃんっ?!」
「大丈夫ですか?」
 言った側から転ぶジュディを、ケンイチ・ヤマモト(ea0760)が慌てて支える。転んだわけではないけれど、危なっかしい彼女であった。
「ところで‥‥お二人とも、何を持っていらっしゃるのですか?」
「あ、これはね、アキラ君がワンピース膝丈も作ってって言うから作ってみたんだよ♪」
「あとはセパレートタイプも作らないとな」
「‥‥もんが」
 そこで、今まで静かにしていたアシュレー・ウォルサム(ea0244)がくわっと目を光らせ、二人の顔面に拳をぶち込んだ。
「この馬鹿もんがー!!」
 顔を押さえる二人の前に仁王立ちして、アシュレーは怒鳴った。
「セパレートかワンピか、だと? ‥‥その萌点は理解できるが腹見せがありなら最初からお腹だしもありだろうが。室内だから寒さもへっちゃらだから問題ない上、ちょっと胸下を短くすればよりあとちょっとの絶対領域が拝めるだろうが!!! というかあれだ、あと今更ながらサンタガールありならトナカイガールってよくね?」
「腹見せ絶対領域‥‥!」
「トナカイガール‥‥!」
 その熱い演説に、二人は新たな萌の境地(?)を見出して感動した。そう、サンタガールがいるのなら、トナカイガールはセットで必須。
「そうだね。僕達は目先の萌だけに目を奪われすぎていたみたいだ‥‥ありがとう、さすが師匠!」
「うむ。わかればよし」
「俺達で作ろうぜ! 腹見せサンタガールとトナカイガール!」
 がし、と男達は熱く互いの手を握り締めた。新たな衣装と萌のため、今彼らの心は目的の元一つになった。


「‥‥で、そろそろ止めていいかしらね?」
「今回『も』死ななければ、どんなひどい、たとえ瀕死のダメージでも、一発で元通りにしてみせますので、どうぞ心おきなくお仕置き、もとい現状認識の為の修正作業をお願いします」
 蛍石が黒い、もとい慈愛に満ちた笑顔でゴーサインを出し、ナックルを装着した加藤瑠璃(eb4288)は三人に歩み寄って腕を振り上げた。
 三重奏の悲鳴轟く中、本来の目的――会場設営に向けた準備は漸く開始されたのだった。


●気を取り直して、相談開始
「派手なクリスマスツリーを作るには、やっぱり地球のツリーを参考にするのがいいわよね」
「小さいツリーはあるから、これを見本に考えてみようか」
「そうだな。後は、自由な発想でってことで」
 改めて相談を開始した彼らは、まずツリーの飾りから着手することにした。ちなみに、体力仕事をする前から既にスポンサーと仕切り役、更にはアシュレーが疲労困憊気味だったりするのだが、理由は敢えてここでは伏せておく。何故か、疲労困憊気味の彼らが穏やかな笑顔の蛍石と視線を合わせないようにしている理由も、敢えてここでは伏せる。一体何度お仕置き・リカバー・お仕置き・リカバーの無限ループを食らったのか――その辺りの事情は全て、ご想像にお任せする。
 さておき。
「飾り付けの手間を考えると、ツリー用の木はせいぜい3mぐらいの高さが良さそうね」
「よし」
 瑠璃の言葉を受けて立ち上がったのは巴渓(ea0167)。
「俺は完全な裏方として奔走するぜ‥‥というわけで、木の調達は任せな」
 必要物資の調達、及びツリー用の木の切り出しや運搬は自分が買って出ると渓は言って、早速近場の林へ木を探しに向った。「やり過ぎないようにね」とその背に声がかけられると、蛍石も立ち上がった。
「私も行って、運搬を手伝ってきますね」
「では、リース用の枝もお願出来ますか?」
 クリスマスにはリースもなくては、とジュディが頼むと蛍石は「わかりました」と頷いた。ペガサスを動員すれば運搬に人手を借りなくとも済む。蛍石はペガサスを連れて、渓の後を追いかけて行った。
「んじゃ、こっちは飾りを考えようか」
 アシュレーは1.5m程のクリスマスツリーを取り出した。それを、持参したホーリー・ミスルトゥや星合の天糸、宝石類を使ってとりあえず飾り付けてみる。
「どんな風にしましょうね?」
「派手すぎず地味すぎないよう、かな。紙輪はないから、布で代用して」
「自分でもできそうな簡単な飾りとか、いろいろしてみたいですね」
 覗きこみながらケンイチが言い、響がそれならと手のひらを合わせた。
「衣装で余った布を利用して、飾り付けを出来ないかやってみます。輪っかにしたり、お人形を縫ってみたりしましょうか♪」
「他には何かある?」
「赤白緑を基調で、華やかに‥‥と、漠然としたイメージではありますが。それぞれの色の飾り布を垂らしたり、その色の光を取り入れたり、でしょうか」
「地球のクリスマスツリーの装飾といえば、電飾・金銀のモール・頂上に星型の飾り・雪の代用で綿・林檎・ブーツや赤い靴下‥‥ってところかしら。林檎は模造品でいいわね。モールはともかく金糸や銀糸は無茶苦茶高そう」
 費用はスポンサー持ちとは言え、あまりに高価なものを多数となると気が引ける。
「白と黄色の紐を使ったモールもどきを用意するぐらいが限界かも」
「狐の毛皮を長く繋げたりじゃ駄目?」
 首を傾げてラマーデが言った。金色ではないけれど、見栄えはしそうである。ではモールはそれを代用するとして、次の議題に移る。
「定番だとLEDの電飾だけど‥‥そんなのはないんだよな。代用品か」
「電飾は蝋燭で代用するとしても、ツリーに燃え移らない工夫が必要ね」
「でしたら、形は底の深いカップ型で、中心に芯を入れて内側から光る様にしたらいかがでしょう?」
 そうすれば吊るしても燃え移らないのではとジュディが提案する。実際に試してみなければわからないが、方向としては良さそうだ。
「作って、その辺の木で試してみよう。星とか綿とかの小物を買う資金はウルティムに出させるとして」
「まあ、その辺はウルティムさんのお財布に期待ね。ブーツや靴下はウルティム邸から徴発すればいいわ」
「うし、じゃあ纏めると」

・飾りは赤白緑を基調に、簡単なものは作ってみる
・電飾は色つき手作りキャンドルで代用
・金銀のモールは狐の毛皮で代用
・ブーツや靴下はウルティム邸から徴発
・その他の飾りに使う小物は購入(費用はウルティム持ちで)

「ってとこでOK?」
 アキラは一同の顔を見て、異議がないことを確認した。
「じゃ、こっからは各自出来ることをやるってことで‥‥ウルティム、アシュレー、腹見せトナカイガール作ろうぜ!」
「よしきた!」
「よーし♪ じゃあ早速デザインをおこ」
「ちょーっと待ちなさい」
 ウキウキと衣装作りを始めようとした三人は、瑠璃の声にびくりと体を震わせた。ぱきぱきと腕を鳴らす音は空耳だと思いたい。
「その前に、やることがあるわよね?」
「衣装は女性の意見を交えて作りましょうね。そういうのが苦手な方もいると思うので」
 瑠璃と響の、微笑みの中にも混ざる有無を言わさぬ迫力の前に、男達はがっくりと肩を落として項垂れた。


●小物・衣装の製作へ
「こんなものでしょうか」
 カップ型のキャンドル作成に勤しむのはジュディとケンイチである。ロウと絵の具を混ぜ合わせ、基本となる赤白緑三色のキャンドルを手作りしていた。
「どうやら、大丈夫そうですね」
 ケンイチが試しにと一つに火を点けてみると、内側が光って何ともロマンチックだ。
「ツリーにだけでは、勿体無いかもしれませんね」
「ええ。沢山作ってテーブルに置いたり、天井からつり下げて会場を彩ろうかと。チークダンス等のむーでぃーな雰囲気の時は、キャンドルの明かりで‥‥などというのも、ステキではないでしょうか?」
「まだロウも絵の具もありますから、色々試してみましょうか」
「デフォルメにしたサンタクロースやトナカイ、踊る恋人たち‥‥フロルデン様の形の物もお作りしちゃいましょうか」
 微笑みを交わしあって、二人はキャンドル製作を再開した。


「3mって、結構大きいわねー」
 羊皮紙に絵やら図形やらを書き込んでいたラマーデが腕組みをして短く呻いた。ツリーを真ん中に据えて放射状にした図や、隅にして対角に配置した図などなどが彼女の前には散らばっている。工房勤めの前は建築設計に携わっていたという彼女。室内装飾も勉強しているということで、会場全体のイメージプランを図に起す作業をしていたのだ。
「やっぱり真ん中かしら?」
「真ん中だと、シンボルという感じがしますね‥‥瑠璃さん、このくらいでどうですか?」
「どれ? 私にはまだちょっと短いわね」
「では、もう少し裾を長くしますね」
 一方、響は得意の手芸を発揮して衣装製作中である。暴走する男達にばかり任せるのは不安なので、こちらは女性の意見を取り入れて作っている。瑠璃やラマーデに意見を聞きつつ、丈の調整をしていた。
 その響の隣では、瑠璃が模造品の林檎を布でぴかぴかになるまで磨いていた。「新しいお祭りとは実にお嬢さんのお好きそうな話です」と言っていたギエーリが紹介してくれた店で安く購入したもので、他にも飾りが箱に山ほど入って置かれている。買出しに走り回っているのは渓で、今は狐の毛皮の調達に励んでいる。
「‥‥ついでに「大きなプレゼントを入れる袋」も作っておきましょうか♪ 当日は何をするんでしょうね」
「あ、そう言えば‥‥ダンスパーティーもあるんじゃなかった?」
 不意に思い出して、瑠璃は手を止めてラマーデを見た。当日はダンスパーティーがあると、アキラが言っていたのだった。
「となると、真ん中は邪魔ね。じゃあ目立ち過ぎず控えめすぎずで、この辺かしらね」
「出来ましたか?」
「いい感じだと思うわよー」
 「決定稿」と裏面に書いて、ラマーデは満足気に笑顔を見せた。そして、ふと気付く。
「‥‥そう言えば、あの三人どこ行ったのかしら?」


●密かに完成、トナカイガール
「いいねー! いいよ、ジュディたん♪」
「その恥じらいが初々しくてより良いよ!」
「やっぱり、この長さは間違いない!」
 噂の三人に囲まれて、ジュディはどうしたものかと戸惑っていた。キャンドル製作の場に来て試着を頼み込まれ、熱意に折れて受諾してしまったのが運のつき。「試着でしたら喜んで協力させて頂きます」とうっかり言ってしまった数十分前の自分を叱咤したい気持ちで一杯だった。
「うむ、やはりベスポジはこの位置かな〜」
「お互い納得いくまで話し合って決めたからな」
「満足だよ〜♪」
 それはそれは濃く、そして時に拳さえ飛び交う程の熱い議論の果てに完成した衣装は白の腹見せミニスカ。頭にはサンタ帽の代わりにトナカイの角型カチューシャがついているこれは、トナカイガール試作品。
「お腹の出る服は恥ずかしいとわたくし、言いましたのに‥‥」
 恥ずかしげに頬を赤らめて視線を逸らせば、男達の熱は一層ヒートアップする。アシュレーがあらゆる角度から撮影するデジカメのフラッシュは途切れず、眩しい。
「ジュディたん、いいよ! すっごく似合ってるよ〜!」
「瑠璃や響にも着て欲しいなー、これ」
「誰に来て欲しいって?」
 想像したのか鼻の下を伸ばしていたアキラは、後ろから聞こえた声に一瞬で我に返った。と同時にさあっと青褪めた。それは勿論、同士の二人も同様で。
「姿が見えないと思ったら‥‥内緒で作っていたんですね?」
「る、瑠璃たんに響たん‥‥!」
 二人とも笑顔だが、瑠璃の手には既にナックルが装着されている。それはつまり、やる気満々ということ。
「おや、これは丁度いい時に帰って来ましたね」
 更にそこに買出しに出ていた蛍石まで加わって、三人は身を寄せ合って震えた。
「うわーんっ?! お仕置き無限ループの悪夢再び?!」
「いえいえ。前にも申しましたとおり、傷ついた人を即座に元通りに治療するのが私の使命ですので」
 ぶるぶると震えるウルティムの言葉は華麗にスルーされる。にこやかな、いや薄笑いだろうか――を浮かべる蛍石の頭に角、背中に黒い翼としっぽが見えたような気がした。


「何事だあ?」
 数時間後、狐の毛皮を抱えて戻って来た渓は精根尽き果てて横たわる屍群(三人だけど)を見つけてぎょっとした。何が起こったのか、それを語るなどという恐ろしいことは屍と化した彼らには出来ない。
「ん? これは、例のミニスカサンタか」
 床に落ちていた赤いワンピース型ミニスカサンタを手に取って、渓は誰にともなく問いかけた。
「この衣装の試作品を一着、メイに借りていってもいいかい、みんな?」
「それなら、スペアがあるから‥‥どうぞ」
 息も絶え絶えにウルティムが許可を出し、渓はありがたく借りることにした。メイでも似たような催し物を開くので、それに合わせて作りたいとのこと。
「まあ、自分らでデザインした方が断然楽しいとは思うけどな」
 自分らでデザインしたが為に恐ろしい思いをすることにもなったけど、とは完全に沈黙する直前にこぼしたアキラの言である。


 そんなこんなでどたばたしつつも、皆(スポンサー・仕切り役含め)やることはきっちりやっていた。時間を目一杯有効に使った結果、広大な聖夜祭会場を飾り付けるに十分な物資の準備は最終日までに無事、終えられた。
 準備を終えた彼らは飾り付けの本番を楽しみにしつつ、珍獣邸を後にしたのであった。