迷子捜しで危機一髪?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 56 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月08日〜12月14日

リプレイ公開日:2008年12月17日

●オープニング

●迷子捜しと氷の洞窟
「ひょわあ?!」
 間抜けな悲鳴が響いて、蜂蜜色の髪の娘が豪快に転んだ。尻を強打して涙目の娘の横に並んで呆れた顔をするのは蜂蜜色の髪の青年。
「・・・・何遊んでんだ、姉貴」
「遊んでなーい! ここ滑るんだもん」
「そりゃ滑るだろ・・・・凍ってるんだから」
 馬鹿にするような弟の言い方に、姉は唇を尖らせた。
 ウィザードの姉・カリンとレンジャーの弟・マノン。兄弟でコンビを組む冒険者である彼らが今いるのは、足元から天井までが氷に覆われた洞窟の中だった。


 ウィル王都より半日ほど歩いた先にある山の中。ちょっとしたハイキングにはもってこいのそこに、二人はある依頼を受けてやって来ていた。依頼の内容は迷子捜し。二、三日前にこの山にハイキングに来て、そのまま行方不明となった子供を捜して欲しいというものだ。寒いこの時期、防寒着は着ているものの食料はおやつしか持っていないらしく、依頼主は相当焦ってこの依頼を冒険者ギルドへ提出したとのこと。
「この山、最近迷子とか行方不明とかよく聞くんだよ。気をつけてな・・・・特にカリン」
 一言多いギルド職員の言葉にカリンが憮然としつつ、依頼を受けた二人は防寒具を身につけて早速山へ向かった。登山道をそれて林の中をカリンの魔法を使いながら捜していたのだが、ドジな姉は斜面に気付かず足を滑らせて転げ落ちた。手間を増やすなと呆れながら弟は姉を助けに降り――そこで、この洞窟を見つけたのである。


「っくしゅ! ‥‥寒いねえ、ここ」
 両腕で自分の体を抱き締めながらカリンが呟いた。氷の上を歩くことには二人とも慣れていないので、転ばないようにと足取りはいつもの三分の一ほどの速度である。
「そりゃ、寒いから凍ってるんだろうしな」
「こんな所に長くいたら、風邪引いちゃうね」
「・・・・風邪で済むか?」
 下手をしたら凍死の可能性もある。迷子がここに入り込んだとしたら、日数を考えても無事というのは考えにくいのでは、とマノンは思って顔を顰めた。
「風邪引かない為にも、早く探索終わらせよっか! バイブレーションセンサー」
 壁に触れて、カリンは魔法で生き物を探し始めた。もしも迷子が動けない体になっていれば、魔法で発見出来ない。どうしても最悪の事態というものを考えてしまう自分の頭にマノンが溜め息をつくと、カリンが「あっ」と声をこぼした。
「マノン、マノンっ! 生き物発見!」
 「どこ」と問うと「こっち」と言ってカリンは駆け出した。走ったら転ぶぞと注意をしようとしたのだが、その前にカリンは豪快に引っくり返っていて、学習能力の無い姉に弟は額を押さえて肩を落とした。


●氷像と動く石像
 一本道を転んだり滑ったりしながら辿り着いた先は、直径十メートルほどの広い空間になっていた。ずっと向こうには暗い穴が見えるので、まだ奥があるのだろう。それよりも気になるのは、眼前に並ぶもの。
 入り口の左右には翼が生えた不気味な生き物の石像が置かれていて、良く目を凝らせば奥にも同じものが二体置かれているのがわかる。石像がこんな所にあることも不可解なのだが、それ以上に奇怪な光景が目に入って二人は呆気に取られていた。
「‥‥何これ」
「俺に聞くなよ」
 氷の床の上に大小の氷像が五つ立っていた。氷像というか――氷漬けになった、子供から大人までの人間が。
「ま、マノン・・・・っ! ああああれ、人かなあ?!」
「・・・・人だろ、どう見ても」
「な、何で氷漬けなの? あっ、寒いから?」
「そんなわけないだろ馬鹿」
「じゃあ何で・・・・ていうか、ほんとに人かな?」
 訊かれてもわからないのは同じなので、マノンは肩を竦めた。カリンは眉を寄せると、もっと近くで見ようと三歩前に出た。すると、

『キェ――――――――――――ッ!!!』

 突然、辺りに悲鳴に似た耳障りな音が響き渡った。
「わわっ?! 何?!」
 カリンが音に驚いて足を止めた。周囲を見回すと、石像の奥に毒々しい色の巨大なキノコがある。カリンがスクリーマーの菌糸を踏んでしまったようだ。つくづくドジな、というか軽率な姉である。
「スクリーマーだよ。こんなとこでよく生えてたな・・・・」
「あ、そう? もー、びっくり」
 「した」までカリンは言えなかった。「どうした」と声をかけようとしたマノンも、思わず言葉を失った。あの不気味な生き物を模した石像が、石像だと思ったものがどういうわけか知らないが、動き出していたのだ。
「な、何これ・・・・?!」
「さ、さあ・・・・」
 ぐるりと周囲を見回して、その目がひたとカリンで止まった。びくりと体を震わせたカリンを見たままで、石像が翼を広げる。
「逃げるぞ、姉貴!」
 声に反応して、カリンは慌ててもと来た方へと駆け出した。


●不幸はいつも片一方にのみ降りかかる
「で、命からがら逃げて来たわけか」
 場所は変わって、王都ウィルの冒険者ギルド。顔馴染みの受付の言葉に、カリンは大きく頷いた。
「もう、死んだかと思ったよ〜!」
「そりゃ、大変だったな」
 とにかく必死で逃げ帰ってきたというカリンに苦笑を向け、しかし直ぐに受付は渋い顔になった。
「しっかし・・・・氷漬けの人間だって? それも五人?」
「そうそう! びっくりしたよ〜!」
 話を聞くかぎり、その氷漬けにされた人々というのが捜索対象の迷子である可能性は高い。いくら寒いと言ったって人が自然に氷漬けになるというのは考えにくいので、おそらく何者かの作為だろうと推測出来る。動く石像といい、カリンたちだけに任せるのでは少々荷が重い話になって来たのかもしれない。――と、そこまで考えて受付はさあっと顔色を変えた。
「えーと・・・・カリン?」
「ん? 何?」
「マノン・・・・どうした?」
「マノン?」
 くるりと後ろを振り返り、カリンはそこで初めて弟がいないことに気付いたらしい。「あっ」と小さくこぼし、おそるおそる首を傾げた。
「お・・・・置いてきちゃった? っぽい?」
 たっぷりの間を置いた後、ギルド内に悲鳴と怒声の混ざった絶叫が響き渡った。

●今回の参加者

 ea2179 アトス・ラフェール(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8147 白 銀麗(53歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)

●サポート参加者

ジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)/ ヴィクトリア・トルスタヤ(eb8588

●リプレイ本文

●氷の洞窟
 一歩踏み込めば信じられないほど寒く、防寒着を身につけていなければ長くいることなど到底出来はしなかっただろう洞窟の中。
「それにしても」
 滑らないよう足元に気をつけながら歩いていた一行の内、アトス・ラフェール(ea2179)が思い出したように口を開いた。
「またやってしまったのですね‥‥」
 以前にも依頼に参加したが、その時もカリンは弟をうっかり置いて来ていた。一度で済まないだろうという気はしていたのが――分かってはいるものの思わず口に出でしまう。
「カリンさんにはもう少し注意力を養っていただきたいですよ」
 同じく姉弟とは面識のある白銀麗(ea8147)も、再び過酷過ぎる試練に襲われたマノンを哀れに思いつつアトスに続いた。
「こ、今回は忘れたんじゃないよ〜! 気がついたら逸れてたんだよ? ‥‥だから銀麗さん、「天の教え」は勘弁してね」
 前回銀麗に聞かされた「天の教え」という名のお説教、カリンは余程身に染みていたらしい。
「それより、道はちゃんと覚えているだろうな?」
 飛天龍(eb0010)が胡乱な眼差しを向け、カリンはむうっと頬を膨らませた。
「さすがに、一本道なら間違えないよー!」
「それならいいが‥‥少し心配に思ってな」
「ぶー‥‥氷漬けの人達がいるフロアまでは迷いようのない一本道だよ。その先の道は確認してないからわからないけど」
「氷漬けの行方不明者と動く石像‥‥精霊魔法使いによる誘拐、でしょうか」
 愛犬エドを従えて、左手に松明を持って周囲に注意をしながら殿を務めるエリーシャ・メロウ(eb4333)が呟いて、眉を寄せる。
「誘拐? でも、何の目的で?」
「目的はわかりませんが、氷漬けの人々は、アイスコフィンにかけられた可能性が高いですね」
「氷漬けがアイスコフィンに因る物であれば、ニュートラルマジックで対処出来そうですね。ファイヤーウォールもありますが」
 シルバー・ストーム(ea3651)はホルスターをちらりと見て言った。カリンの直ぐ後ろを歩く彼の横には灯り代わりのリュミエールがいて、エリーシャの松明と合わせて広い範囲を照らしていた。
「今は状況が掴めませんから、まずはマノンさんを助け出したいところですが」
 カリンがバイブレーションセンサーを使えることはマノンも知っている。動いて救出を待っている可能性もあるが、一緒に氷漬けにされている可能性の方が高い気がした。


●氷像と動く石像と、黒い猫?
 広いフロアに踏み込んで、一同は思わず息を呑んだ。両脇に立つ石像の不気味さにではなく、フロアの壁際に並ぶ氷漬けの人々を見てだ。つい駆け寄って本当に人間なのかを確かめたくなるが、そこは堪えてまずは石像だ。
「あ、その辺りにスクリーマーが生えてたよ」
「この辺りか?」
 石像の裏をカリンが指差し、天龍が飛んで行って覗き込む。探すまでもなく、毒々しい色合いの巨大なマッシュルームが生えていた。
「あったぞ!」
「踏んでしまったスクリーマーの絶叫が怪しいですね。多分それが発動のきっかけでしょう」
「念のため退治しておいた方がいいかもしれません」
「よし、なら刈って――」
 天龍が一気に刈取ろうと腕を振り上げた。丁度そのタイミングで、
『それは困る』
 とかすれた声が聞こえた。
「‥‥誰か言ったか?」
「いえ」
 全員首を振る。ならば一体誰の声か――問いかけようとした時、彼らの足元を黒い何かが通り抜けた。一体何が、と思う彼らが視線を向けると、そこには一匹の黒い猫がいた。
「‥‥猫?」
「どこから入って来たんだ?」
 猫は投げかけられる疑問に一度鳴くと身を翻し、あろうことかスクリーマーの横をするりと通り抜けて行った。
「あっ」
 誰の声だっただろうか。ともかくその声は、直後に響き渡ったスクリーマーの絶叫によってかき消されることとなった。


 戦闘時に武器が持てなくては一大事と、焚火で焼いた石を何重にも布で包んだものを各々が懐に入れていた。悴み防止にと提案したのはエリーシャだが、これはいい案だった。氷漬けの人々が巻き添えを食らって破壊されることがないようホーリーフィールドを張っていた銀麗は、石像と対峙する仲間達を見つめながらそう思った。

「うおおっ!」
 オーラパワーをかけた天龍の右手から繰り出されたストライクEXが石像に命中する。悴んでいれば、命中率は格段に下がっていたことだろう。
 小さくよろめいた石像は体勢を立て直し、標的をシルバーにして腕を振り上げた。自身にフレイムエリベイションをかけたシルバーは石像の一撃を避け、シューティングPAで射撃を試みた。だが、石像相手では効果はいま一つ出ない。ならば、とホルスターからウォーターボムのスクロールを取り出した。
「天龍さん、巻き込まれないよう離れてください」
「わかった!」
 石像の攻撃をかわして、天龍が間合いを取る。間合いが十分であることを確認して、シルバーはスクロールを開いて念じた。
「ウォーターボム!」
 空中の水を集めて作られた水球が、高速で狙った対象へ向って発射される。水球は命中し、石像が大きく体勢を崩した。
「どうやら、こちら主体の方が良さそうですね」
 シルバーは攻撃手段をスクロール主体に切り替えて、よろめきながら天龍と戦う石像に再び狙いを定めた。


『ガァ―――ッ!!』
「くっ‥‥」
 翼の生えた石像の爪が、避けきれなかったアトスの腕を浅く傷つけた。体勢を立て直し、アトスは飛び回る相手を睨んだ。
「羽があるのは厄介ですね‥‥だったら動けなくするだけです!」
 十字架のネックレスを掴んで、アトスは石像へコアギュレイトでの拘束を試みる。
「コアギュレイト!」
『カッ‥‥?』
 拘束が成功し、石像の動きが止まった。そこへ、エリーシャのスマッシュが命中する。 出発前に加工を施してもらったため、靴は凍った床の上でも支障の出る動きは見せない。
「天界製のゴーレムではありませんでしたか」
 今日の武器は得手の槍ではない。ゴーレムかもしれないとの懸念があり、対策として戦鎚を用いていたが、得手でないためか一撃目のスマッシュEXは命中しなかった。
「はああっ!」
 再度放ったスマッシュEXはアトスのお蔭で動けない石像にきれいに当たり、エリーシャとアトスは止めの一撃を食らわせるためその手に力を込めた。


「ウォーターボム!」
 最後の一体がシルバーの放ったウォーターボムを受けて崩壊する。四体全て、完全に破壊し終えるまでにソルフの実の消費量は三つになっていた。
「全部倒したな」
「そのようですね。しかし、あの猫は一体どこから?」
「マノンさんの姿も見えませんよ。ここにいないとなると、奥でしょうか」
 氷像を眺めながら銀麗が言うと、カリンは奥へ続く道を示した。
「ここにいないなら、あそこじゃないかな? 猫ちゃんも、もしかしたら」
「犯人がそこに潜んでいる可能性もありますしね。探索してきましょうか」
 シルバーからポーションを貰って飲み、アトスが奥へ視線を向けた。
「手掛かりもあるかもしれません、私も行きましょう」
「私は残って、皆さんにニュートラルマジックをかけますよ」
「では、分かれるか」
 相談の末、人々のことは銀麗と天龍が任され、残りの四名は奥の道を進むことになった。

 足元に気をつけながら、一本道を慎重に進んで行った先ではマノンがやはり氷漬けになっていてカリンが壮絶な悲鳴をあげたりしたが、シルバーのファイヤーウォールで無事マノンを――疲労からか随分ぐったりしていたが、救出することに成功した。ただ、残念ながら奥は行き止まり、犯人の姿も手掛かりと思えるものはなく、そして黒い猫の姿もそこにはなかった。


「ニュートラルマジック」
 銀麗の体が白く淡い光に包まれると、少年を包み込んでいた氷が一瞬にして消失した。
「‥‥どうやら、相手は中堅の腕前のようですよ」
 魔力を絞ってでは解除することは出来ず、その上の力では一度失敗して二度目で解除に成功した。更に上で失敗することはなかったので、おそらく犯人の腕前は達人と呼ばれる手前と推測出来る。
「犯人の姿は見たか?」
 エリーシャがエドに持たせていた毛布を少年に渡しながら天龍は尋ねたが、少年はぼんやりとした表情で小さく首を横に振った。
「そうか‥‥寒かっただろう。外へ出たら、温かいものでも作ってやるからな」
 頭を撫でてやって、天龍は少年から離れて次々と自由になった人々に毛布を配って回った。その横で銀麗は一人ひとりに犯人を見たかどうかを聞いて回っている。それによると、彼らは全員山へハイキングに訪れていたのだが、突然かかった霧によって家族や友人と逸れてしまった。どうしようかと迷っていたところへ黒い猫の姿が見えて、それを追いかけたところまでは覚えているが、その先はまったくわからないとのこと。
「霧と猫‥‥何か関わりがあるのでしょうか」
「さてな‥‥」


 その後も犯人の姿を探したものの、結局何も見つけることはなかった。被害者は疲労からか寒さからか体調が悪いと訴えるものが多く、彼らに配慮して探索はここまでとすることにした。行方不明者もマノンも救出出来たのだ、成果は十分である。
 多少気がかりを残しつつ、彼らは洞窟を後にして王都を目指したのだった。


●黒い豹とローブの少女
 去って行く彼らの背中を見つめるもの達がいた。
『逃がしてしまったな』
『いいのか』
 二体の翼を生やした黒豹が、彼らの間に立つ人へ言った。言葉を向けられたのは、黒いローブを着た少女である。肩口で切り揃えられた濃紺の髪を払い、少女は頷いた。
「勿体無いけど、何も得られなかったわけじゃない」
 少女は自分の腕の中を見下ろした。
「今度はもっとうまくやる。こんなに早く見つからないように」
『そうだな。必要なのは、多くの魂だ』
『お前の願いをかなえるために、より多くの魂を』
「‥‥わかってる」
 少女の腕の中には、10cm程の大きさの白い球が六つ抱かれていた。