【聖夜祭】飾れ!聖夜祭!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2008年12月25日

●オープニング

 ウィルの王都。貴族街の東側の道を、寒さに身を縮ませながら歩く少女の姿があった。少女の名前は彩鈴かえで。この度のウィルにおける盛大な聖夜祭を企画した、発起人その人である。
「うぅ、また一段と寒くなったねぇ‥‥」
 白い息を吐き出しながらそう呟いた。日ごと寒さは増していく。けれど、それは別の意味で考えれば楽しみなパーティーが近付いているということでもある。
「ダンス練習はいい感じで進んでるけど‥‥さてさて、会場はどんな具合かな?」
 プレゼントの件で相談しに行った時にはすっかり意気投合、心配した分の心遣いを返せと言いたくなる程珍獣邸を満喫していた仕切り役。まさか、あれからずっとミニスカサンタ製作に情熱を傾けて本来の仕事(会場設営準備)が疎かになっているのではなかろうか。
「‥‥あ、ダメダメ。不安になってきた‥‥考えないことにしよう」
 考えれば考えるほどに不安が募り、かえでは足早に珍獣邸へと向った。


「まあ、あの、何と言うか‥‥ね?」
「そうそう、ちょっと一回落ち着こうぜ? 暴力は何も生み出さないんだからさ」
「アキラ君、いいこと言ったよ! そういうわけだから皆ちょっと落ち着いごふおぁっ!!」
「ウルティムーっ?! っていや待って俺一応客人ごふおぁっ!!」
ごろごろごろごろがしゃーんっ、という壮絶な音を立てて、邸の主であり聖夜祭スポンサーのウルティム・ダレス・フロルデン子爵が凄まじい速さで転がっていく。その後に続いて転がっていくのは聖夜祭仕切り役の山本アキラ。彼らが転って来た方では、お馴染みのメイドの面々がモップや箒を振り抜いた姿で立っている。何らかの失礼を働いたための制裁を加えられたのだろうことは明らかで、想像通りの事態にかえでは深く溜め息をついた。苦悶の呻き声を上げるアキラの側に歩み寄り、かえでは腰に手を当てた。
「アーキーラーさーん?」
「‥‥んぉ? おーっす、かえで」
「おーっす、じゃないよ〜! 準備は? あたしは会場設営を頼んだんであって、衣装作りやメイドさんへのセクハラを頼んだんじゃないんだよ?」
「そっちは心配いらんって」
 ぱたぱたと手を振って身を起こし、アキラは指を折りながら言った。
「ツリーは設置してあって後は飾るだけ。飾りは冒険者達が作ってくれたり買ったり集めたりしてくれたし‥‥ってわけで、残りの工程は本格的に飾り付けるだけ」
 ふふん、と胸を張るアキラに、かえではぱちぱちと瞬きをして歓声を上げた。
「おおー、ちゃんとやってたんだねえ。ずーっと遊んでたのかと思ったよー?」
「遊ぶなんて人聞き悪いな。俺は何事も全力だぜ?」
 それは余計に性質が悪いのでは、とかえでは思った。
「ま、とにかく‥‥後は設営だけなんだね? じゃあ、あたしは設営やってくれる人呼んでくるよ」
「おう、頼んだ。その間に俺はウルティムと微調整を‥‥ウルティムー? あれ? 生きてるか?」
「な‥‥慣れてるからね☆」
 ぐっと親指を立てるウルティムに、とりあえずほっとして、それからふと気になってかえではアキラに尋ねた。
「ねえ、アキラさん」
「ん?」
「メイドさんに何を言ってあんな目に?」
 ああ、と頷いたアキラはあっさりと言った。
「ミニスカの下に毛糸のパンツはいてくれ、って頼んだんだ」
「‥‥‥‥あ、そう」
 この人選は合っていたのだろうか。かえではこの期に及んで一瞬後悔しかけて――でもこの邸にこれ以上馴染む人はいないだろうなぁ、と思い直して一人納得した。

●今回の参加者

 ea0244 アシュレー・ウォルサム(33歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0760 ケンイチ・ヤマモト(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9494 ジュディ・フローライト(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb9949 導 蛍石(29歳・♂・陰陽師・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

「さーて、聖夜祭ももうすぐそこだねえ‥‥しっかり準備して本番を命いっぱい楽しまないとね」
 鼻歌交じりに会場設営へやって来たのは相談にも参加したアシュレー・ウォルサム(ea0244)。
「聖夜祭の準備もこれにて総仕上げ、です。張り切って行きましょうっ!」
「そうですね。張り切って行きましょう」
 前者は楽しげな笑顔のジュディ・フローライト(ea9494)、後者は黒‥‥いや、慈愛に満ちた笑顔の導蛍石(eb9949)の台詞だ。言葉は同じだが、張り切る方向にずれがある様に思えるのは気のせいだろうか。

「おー、来たな」
 そんな冒険者達を出迎えるのはスポンサーのウルティム・ダレス・フロルデンと設営仕切り係の山本アキラである。
「皆、よく来たね♪」
「おーっす! 初顔もいるから改めて挨拶しとくぜ。会場担当の山本アキラだ」
「また、よろしくお願いします」
「今回もお願いしますね♪」
「今回もよろしくだよ、だよ♪ あ。アキラにーちゃんは、初めてだよね? 私、フォーレだよ。よろしく〜」
「皆よろしく‥‥っ?!」
 ケンイチ・ヤマモト(ea0760)、倉城響(ea1466)、フォーレ・ネーヴ(eb2093)がそれぞれに挨拶をする。笑顔で挨拶していた二人だったが、蛍石の笑顔を見た時だけ何故か思い切りその顔が強張った。相談にも参加した者だけが何が起きたのかを知っているが、敢えて思い起こすようなことはしないでおく。
「あーと、気を取り直して‥‥いよいよ会場設営の本番だ! 当日楽しむために、楽しんでもらうために、張り切っていい感じに仕上げようぜ」
「おー♪」
「おー!」
「あれ? 何で私の方だけ見ないんですか、ウルティムさんにアキラさん」
「えっ‥‥? そ、そんなことねえよ? 見てる見てる、超見てるよ」
「そうそう、すごく見てるよ?」
「そんなにわざとらしく避ける程心に残ったんですね、無限コン」
「ひぃいいいっ?!」 
「言うなー!! 俺のトラウマ思い起こさすなあああ!!」
「トラウマ? なになに、何かあったのー?」
 お仕置き・リカバー・お仕置き・リカバーの無限コンボによる地獄を見ていないフォーレが怪訝そうに尋ねるも、皆は意味深な笑みを返すのみ。
「まあ‥‥その内わかるんじゃないかな?」
 地獄を見たことのあるアシュレーが、そう言ってフォーレの頭をぽんと撫でる。やっぱり不思議そうなフォーレだったが、邸を後にする頃には地獄の意味を完璧に理解していることになるのだった。


 そんなこんなで開始前から早くもスポンサーと仕切り役が(精神的に)ボロボロになりつつ、当日へ向けた会場設営は賑やかに開始されたのである。


●聖夜祭を飾ろう♪
 当日のメイン会場、入り口側から見て奥にクリスマスツリー用の3mのモミの木が設置されている。催しものの邪魔にならず、しかし盛り上げるに十分の存在感が放てる位置を計算して置かれたものだ。その計算をしたのは当然、冒険者である。
「準備の時だけじゃ用意しきれなかったものも含めて、相談で決めた飾りは用意しといたぜ」
 既にちょっとやつれつつあるアキラがそう言って示すのは、必要物資としてリストアップしたあれやこれやの飾りが山のように入った箱の山。
「少しずつ、飾りつけていたのですか?」
 ケンイチがツリーの下部分を示して尋ねた。高い所は手付かずだが、低い位置には既にいくつかの飾りが付けられている。
「ああ、それは俺じゃなくて響。買出しやら調達やらでいなかったんだけど、いない間に準備に来たんだって?」
「はい、低い所をちょっとだけ♪」
 手の届く範囲だけなので、それ程数はつけられていない。響は背が低いので、まあ仕方のないことだ。
「じゃ、後は各々のセンスにお任せってことで‥‥っと、そうだ! 相談の時に書いてもらった会場設営の図案はここに置いとくから、目安にしてくれな」
「銀の品物以外でしたらなんとか飾れますので、高い場所の飾り付け等は引き受けます」
 高所はペガサスを連れて来ていた蛍石が担当して、それ以外の面々は真ん中から下の手が届く範囲を次々と飾っていく。ぴかぴかに磨いた作り物の林檎や靴、毛糸の靴下は細い枝に結びつけ、白い綿は葉の上に。狐の毛皮は長く繋いでぐるりと巻きつける。
 図形の書かれた羊皮紙を目立つ所に置き、早速各々行動を開始した。


「わたくしは一先ず前回自分で作ったもの主にを飾り付けて行きましょう」
 ジュディは自分が作ったキャンドル達を広げた。その中からサンタクロースとトナカイの形のキャンドルを手に取って、ツリーの上部を見上げる。
「サンタクロースとトナカイのものはツリーの高い位置にしましょうか。アルミナ、手伝ってくださいね」
 アルミナはジュディの言葉に元気に頷いて、サンタクロースのキャンドルを抱えて上の部分へ飛んでいく。
「この色つきキャンドルはテーブルにも置きましょう。これは‥‥あら、これは」
 ジュデイは手に取ったキャンドルを見て瞬きを一つ。それは、ウルティムの形をしたキャンドルだった。
「これはどこに飾りましょうか‥‥フロルデン様、どちらがよろしいですか?」
「ん? 僕はどこでもいいよ♪ ジュディたんにお任せするから」
「そうですか? では‥‥折角ですから、正面の良く見える場所に飾りましょう。アキラ様、手伝っていただけますか? ‥‥力仕事になりますとわたくし、本当にダメですので‥‥」
 遠い目をして言うジュディに、アキラは「いいぜ」と了解してウルティム型キャンドルを受け取る。
「どこ?」
「そこの、ええと、林檎の上に」
「ここか?」
「はい、そのあたりです」
「力仕事は任せて、指示だけくれるでもいいからな。あっ、勿論肩車とかは大歓げ」
 下心交じりにジュディの方を向いたアキラの頬を、鈍く光る何かが高速で横切っていった。口を閉ざして冷汗を流すアキラの顔の真横には、壁にビィーンっと突き刺さる一本のフォーク。
「手が滑ったです〜」
 声に顔を向ければ、そこにはパラメイドのミルクの姿が。今回、率先してお仕置きを担当する冒険者がいないため、お仕置き係は彼女を始めとしたメイドの皆さんが担うことになった様子。
「スキンシップですよ‥‥?」
「紙一重ならセクハラでしょ」
 アキラの言い訳は、靴下を運んで来たレモンにバッサリと切り捨てられた。


「‥‥う〜ん、やっぱりちょっと手が届かないですね」
 布飾りのほつれを直し終え、いざ飾ろうかと思ったところで響は困り顔になった。手の届く範囲にこれ以上飾ってはうるさくなってしまうけれど、その上の空きスペースには手が届かない。
「肩車、お願いできますか? フォーレさん」
「う♪ いいよー。私が上だね?」
 隣で作業していたフォーレが笑顔で応じ、それではと響きは腰を折った。そこへ、懲りない男共がきらりと目を光らせて寄って来た。
「ちょーい待ち!」
「はい〜?」
「アキラにーちゃん達、どーしたの?」
「響にフォーレが肩車じゃあ大した高さにならないだろ」
「それに、危ないよ!」
 小柄な二人の肩車。危ないから止めなさいと言うのは一見一理ありそうにも見えるのだが――この二人が言うと、下心が見えまくりなわけで。
「というわけで、ここは俺が響を肩車するっていうのはどうだろう? あっ、やましい気持ちはないから! 全然ないから! 純粋に、女子は危ないっていうことだから!」
「あらあらアキラさん、何度も繰り返すのはかえって怪しいですよ〜?」
「ならば、単刀直入に‥‥フォーレたん、僕のお膝の上に乗っデボァッ?!!」
「ウルティムーっ?!」
 聞きようによっては危険人物すれすれの台詞を放ったウルティムの顔面へ、どこからか銀のトレイが飛んできてスコーンっと命中。
「手が滑ったわ」
 振り返れば、そこには投擲の体勢のレモンが。メイドの皆さんは使命感に燃えており、その目は常に対セクハラに光っているのだ。
「くっ、お前一人を死なせはしないぜ‥‥! 響、俺の上デボァッ?!!」
 戦友と書いて友と読むウルティムのリベンジとばかりに響に挑んだアキラだったが、こちらは顔面にほうきの柄の方がめきょりとめり込んだ。
「手が滑ったです〜」
 投擲の体勢のミルクが「ついうっかり」的な調子で一言。
「お手伝いが増えるのは嬉しいのですよ?」
「だね♪」
「‥‥ただし、殿方なので肩車ではありませんけどね〜。すいません」
 くすくすと微笑を浮かべる響とフォーレの前で、ウルティムとアキラはがっくりと肩を落とした。


「このリースはどこへ飾りますか?」
 ツリーを一通り飾り終えたところで、別の箱に入っていたリースを見つけてケンイチが問いかけた。直ぐに反応を返したのはジュディである。
「会場の入り口にさり気なく飾りましょう」
「入り口ですね」
「今、世には魔が溢れておりますが…そういったものを払いますよう。祈りを込めて」
 そっと祈るようにジュディは言った。
「あ、ジュディ! 俺にもそれ一個くれるか?」
「リースですか? はい、どうぞ」
「どこに飾るんですか、アキラさん」
 入り口に飾り始めたジュディ達の下へやって来て、アキラはにまりと笑みを浮かべた。
「‥‥ダンスが終わった時にヤドリギのリースの下で止まるとキス出来るって伝承、知ってるか?」
「‥‥まあ!」
「当日ダンパやるだろ? カップルも来るって聞いたからさ‥‥ま、こういうのもああっていいかなってな。蛍石、天井の適当なとこから吊るしてくれよ」
「わかりました」
「ほほう、伝承とな? ‥‥それはいいことを聞いたねえ」
 自前のクリスマスツリーを飾り付けていたアシュレーが聞きつけて、きらりと目を光らせた。
「それじゃあ、いい雰囲気になるようにダンス会場の飾りと灯りはロマンチックになるように念入りにチェックだね」
「ろまんちっくなキャンドルの灯り‥‥ふふ、この照明の中、どんな方達が踊るのでしょう‥‥♪」
 想像したのだろうか、ジュディは両手を組むと、瞳を閉じてうっとりと呟いた。


 会話も弾ませながら、ウルティムと邸のメイド達も加わって、会場づくりはどんどん進んで行く。壁には赤白緑の布輪がかけられ、天井からは同色のキャンドルが吊るされる。当日料理が並ぶテーブルは大きく長い立食式。ぴんと張ったテーブルクロスをかけた上には、手作りのキャンドルが鮮やかに飾られる。休めるようにと、各所に椅子も配置した。
 そうして一通りが終わると、最終確認としてキャンドルに灯りを点してチェックする。少し減らそう、入れ替えよう‥‥等など試行錯誤の末にムード満点なロマンチックな照明が完成すると、安堵と達成感に包まれて自然と笑顔が浮かんだ。
 ――の、だが。

「‥‥そう言えば、ジュディさんとフォーレさんの姿が見えないような‥‥?」
「おや。気付きませんでしたが‥‥」
「いないですね〜。アキラさん達も見当たりませんけど‥‥」

 果たして、彼ら彼女らはどこへ行ったのか。


●最後はやっぱり‥‥を飾って
「いいよー、いいよー、フォーレたんにジュディたん!!」
「視線こっちで! そうそう、そんな感じ!!」
「出来れば少し伏目がちで頼む!」
「こんな感じかな?」
「あ、あの‥‥何故またこんなことに?」
 困惑げなジュディは真っ赤なワンピースタイプのミニスカサンタを着用し、その隣のフォーレはセパレートタイプのトナカイガールを身に着けている。何故こんなことになっているのかと言えば、理由は簡単。「ちょっと手伝って欲しいことが‥‥」と誘い出されてしまったがために、再び試着係となってしまったためだ。
(「もうここまで来ると、フロルデン様他の衣装にかける情熱はある種素晴らしい、とも言えますね」)
 何やら悟りを開きつつ溜め息をつくジュディ。一方のフォーレは、デジカメ片手のアシュレーに指示を出される度素直にそれに従っている。
「ジュディたんの恥じらいもいいけど、素直なフォーレたんもよし!」
「願わくばもっとこう、セパレートの良さを噛み締めたいよなぁ」
「ほほう、セパレートの良さとな? その心は?」
「そりゃあ勿論、細身の二人にはない女性の豊かさというか何と言うか‥‥」
「女性の豊かさがどうしました?」
 しみじみと語り合っていた三人は、その声にはっと身を強張らせた。ゆっくりと振り返れば、そこにいるのは仲間達と武器(トレイとかほうきとかブラシとか)を持ったメイドの皆さん。
「懲りていないみたいね」
「しょうがない人達です〜」
「‥‥い、いやいや、これはある意味僕達の仕事というか‥‥ねえ?」
「そ、そうそう、俺らにしか出来ない仕事っていうか‥‥なあ?」
「需要があるならば供給を、より完璧な形でしようっていうことで‥‥ね?」
「言いたいことはそれだけかしら(ですかぁ〜)?」
 すちゃ、っとメイドさん達が武器を構える。そこへ、
「あーたーらしーいあさがきた♪(?)」
 チキュウから来た友人に教わったという歌を口ずさみながら現れるのは黒い――いや、慈愛に満ちた笑顔を浮かべた蛍石。
「ということで(?)、はい、死ななければどんなダメージも一発で元通りの恒例のリカバーでございまーす」
「いやああああ?!! 鬼が来たああああ?!!!」
「死なせて?! いっそ死なせてえええ!!!」
「いえいえ。大いなる主は貴方がたに『生きてていい』と(生)暖かく仰っておられます。それを手助けするのが私の使命でございまして」
 にこにこ笑顔の蛍石が、メイドの皆さんを促すように手を前へ。
「というわけで、遠慮なくどうぞ♪」

 フロルデン子爵邸に――いや、貴族街に、悲鳴の二重奏が響き渡った。

「って、二重奏?」
「一人足りない?」


「‥‥物事には犠牲はつきものなんだよね」
 身につけた能力を(こんなところで)いかんなく発揮して総攻撃から逃げ切ったアシュレーは、阿鼻叫喚の地獄絵図を眺めながら達観した表情でそう言った。


 といった風に始終賑やかに楽しく、そして二名程生死の境を行ったり来たりの地獄のループを味わいながら、聖夜祭会場はそれはそれは見事に飾りつけられたのだった。
 当日はどんなことが行われるのやら、と飾られた会場を眺めながら彼らは当日に思いを馳せた。


「地獄‥‥あっ、ここが地獄? っていうか、生き地獄?」
「うぅ‥‥リカバーはもう結構ですからぁ‥‥」
 会場の片隅では二つの屍が呻いていたりしたけれど、哀れ、誰の耳にも届かなかったとか。