辺境警備誌・対空戦線問題有

■ショートシナリオ


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月27日〜02月03日

リプレイ公開日:2009年02月05日

●オープニング

「このど下手くそ!」
「君に言われたくはない、半人前が!!」
 ウィルの国の片田舎。とある山の中で、青年が二人向き合って互いを罵り合っていた。
 一人は中肉中背で黒髪の天界人、山本アキラ。対するのは、金髪碧眼に整った顔立ちの若いエルフ。名をシャーリー・アル・ロッドという彼は、手にロングボウを持ち背には矢の束を背負っていた。
「何で十発打って十発外すんだよ! ボケたつもりか?!」
「山の中だから視界が悪いんだ! それから、僕は常に真面目だ!」
「だったら、最初に一発で仕留めるとか言うなよ!」
「ぐっ‥‥ならば、君がやってみればいいだろう?!」
「いやー、出来ないことを出来るとは言えねえわ、俺は」
「ぐぅっ‥‥口の減らない奴だな!」
「‥‥二人とも、ちょっと静かにしなさい」
 そんなやり取りを黙って眺めていた紫髪の美女、エリアス・エデルは溜め息をついて両の拳を握り締めると、騒ぐ二人の脳天に思い切り叩き落した。
 こんな賑やかな三人ではあるが、彼らはれっきとした騎士団――領主お抱えの小さな私設騎士団ではあるけれど――の一員である。


 ハーヴェイ領内にある、人口六十名程の山奥の村。名前の通り山の中にある村なのだが、つい先日、領主へ村長から急ぎの連絡が届いた。内容は、山に生息するホワイトイーグルの退治をして欲しいというもの。
 ホワイトイーグルは全長3m程の巨大な鷲のようなモンスターで、かなり食欲旺盛である。季節は冬。彼らの胃袋を満たせるような食料の多くは、寒さの中春を待つ眠りに就いている。そうなると必然的に獲物となるのは人間で、現時点で少なくとも三名がモンスターの餌食になったことが確認されている。
 これは早急に対処しなければ、ということで領主は自らの抱える騎士団へ退治に向うよう命令を下し、所属するアキラ、エリアス、そしてシャーリーがやって来たというわけなのだが――

「二人とも、場所を考えなさい。そもそも、いいですか? 私達は領民の安全を守る為、領民の脅威であるモンスターを退治するためにここにいるのです。つまり、ここは既に十分な危険区域ということです。それなのにふざけて騒ぎ合うとは何事ですか!」
 場面は戻って山奥の中。エリアスは腰に手を当てて、目の前で頭を押さえて蹲る二人に説教をしていた。
「油断している所でモンスターに襲われたらどうするのです? 退治に来て逆に食料になるなど、笑い話にもなりませんよ」
「わ、悪かったよエリアス‥‥」
「けどさ、シャーリーの弓の下手さは作戦上、致命的じゃねえ?」
「まだ言うか!」
「‥‥それは、確かにそうなんですけれど」
「エリアスまで‥‥」
 とにかく飛んで逃げられてしまうことを避けたい。そこで、森育ちで土地感がありかつ弓も扱えるというシャーリーが、ホワイトイーグルを見つけ次第その翼を狙って射落とし、落ちた所をアキラとエリアスが剣で止めを刺す――これが三人が立てた作戦だった。
 しかし、蓋を開けたらシャーリーの放つ矢がまあ当たらない。見栄っ張りでプライドの高いシャーリーが、自分の実力を過大に報告してくれたおかげだ。カウンターを狙おうにも相手の動きは早くて、中々上手くいかない。領民の命がかかっているのに捗らない成果に苛々した末、冒頭の罵り合いへと発展してしまったのだった。
「俺の世界じゃ、エルフって言ったら森に住む弓の名手なんだけどなぁ‥‥」
「天界ではどうだか知らないが、得手不得手があるのは仕方がないだろう。その日の調子とか、色々あるんだ!」
「作戦変更で、誰かが木に登って向ってきたものを剣で払い落とす‥‥というのはどうでしょう?」
「いいけど、誰が木登り出来るんだ? 登ってる最中に襲われたらどうしようもないぜ?」
「そうなんですよね‥‥」
 はあ、とエリアスは深く溜め息をついた。アキラに指摘を受けるということもエリアスの自尊心を若干傷つけるが、それよりも事態の行き詰まりの方が問題だ。
「グリフォンや天馬があれば上空で対抗出来たかもしれないが」
「グリフォンは駄目だろ。頭、鷲じゃねえか。村人、余計に引き篭もるぜ?」
「どちらにしろ、所持してませんし‥‥そもそも、山中ですからね。飛行能力があっても、上手く戦うのは難しいでしょう」
 ぴたりと会話が止まり、場に静寂が落ちる。誰か妙案を出せという雰囲気の中、本日何度目かの溜め息をついてエリアスが口を開いた。
「致し方ありません。こうなれば冒険者に助力を願いましょう」
「シャーリーの代わりの弓手募集か?」
「何だと?! エリアス、それはひどいだろう!」
「それも含めた助力です‥‥というわけで急いで呼びに行ってきますから、二人はそれまで村の警護をお願いします」
 指示に、互いの顔を見て二人が嫌そうに顔を顰めた。いい年の男二人だ、仲良くしなさいなどと子供に言い聞かせるようなことは言わないけれど。
「領民をしっかり守ってくださいね?」
 出来ればけんかはしないで――というエリアスの願いは、しかしこの早速睨み合っている二人には届かないだろう。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 eb4181 フレッド・イースタン(28歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb9419 木下 陽一(30歳・♂・天界人・人間・天界(地球))

●サポート参加者

ギエーリ・タンデ(ec4600)/ ミーティア・サラト(ec5004

●リプレイ本文

●初めましてとお久しぶりと
 依頼を受けた冒険者達の訪れをハーヴェイ領主館で待っていたエリアスは、出迎えた中に見覚えのある顔を二つ見つけて笑顔を見せた。
「これは、エリーシャ殿にカルナック殿! お久しぶりです」
「二ヶ月ぶりですね、エリアス卿」
「二度目ですね」
 以前に恐獣退治を手伝ってくれたエリーシャ・メロウ(eb4333)とカルナック・イクス(ea0144)。再開と、また依頼を受けてくれたことにエリアスは素直に感謝の言葉を伝えた。
「月霊祭の後にアキラ殿と都へいらしていたとラマーデ殿に後から伺いましたが、お会い出来なかったのが残念です」
「都‥‥ああ‥‥」
「? どうかされましたか?」
「い、いえ! 流石に王都は賑やかで、様々人がいたなと‥‥アキラも相変わらずああでしたし」
「相変わらず大変そうですね、エリアスさん」
 様々な事柄を思い出して一瞬憂鬱そうな表情になったエリアスに、「心中お察しします」とはカルナックの言。ありがとうございます、とエリアスは力なく返した。


●作戦会議、時々脱線
「‥‥と、いうわけで今回ご助力頂く冒険者の皆様です。二人とも、ご挨拶しなさい」
「山本です‥‥」
「シャーリーです‥‥」
 山奥の村、その周囲を囲む背の低い木製の柵の外で、冒険者達は留守番していた二人と合流した。何故か二人とも微妙に元気が無いのは、相変わらず罵り合っていた所をエリアスに見つかって帰還早々拳骨を食らったためである。まあ、それは置いておいて。
「少しでも早く退治するために、早速作戦会議を始めましょう」
「その前に‥‥エリーシャ?」
 いち早く回復したアキラが眉間に皴を寄せて視線を向けたのは、エリーシャのペットのグリフォン。言いたい事を無言の内に理解して、エリーシャは愛騎を見た。
「此方も飛行して対するべく愛騎のグリフォンを連れてきたのですが‥‥充分に訓練し馴れていますが、見慣れぬ村人にとって恐ろしい事は同じですか」
「どうしても鷲を連想するからなー‥‥あんた達の間の絆は十分みたいだけど、村人に見せるわけにはいかねえかな」
「ふむ‥‥仕方ありません、私は村に入らず離れて野営しましょう。セラの姿が見られなければ、ということでしょう?」
「悪いな。手伝いを頼んだのに、不便させて」
 注意は分かった上で連れて来たのだから、エリーシャも多少の不便は承知の上だ。
「しかし、こちらも飛行手段を得たことで作戦の幅は広がりますね」
「作戦と言えば‥‥目標はホワイトイーグルが四羽でしたね? 内訳はどうなっているのでしょうか?」
「うろ覚えだけど、確か猛禽類って1羽か夫婦2羽で縄張りを守るんじゃなかったっけ」
 木下陽一(eb9419)は天界の知識の中から鷲に関する記憶を引っ張り出しつつフレッド・イースタン(eb4181)に続いた。
「成体四羽は考えにくいので、幼鳥三羽に親鳥一羽かなと予想してますが‥‥どうなんでしょうか?」
「でも、今は繁殖期じゃないからその組み合わせもおかしいんじゃ‥‥」
「ふむ‥‥しかし、残念だが予想に反して成体四羽だ」
「そうなのですか?」
「村人の話では、現れたのは最近のことらしい。おそらく、何がしかの理由で棲家を終われ、この山へ逃げて来たのだろうが‥‥逃げて来た理由は」
 わからない、という答えには全員が眉を寄せてしまった。
「あー、駄目。俺学生時代から頭使うの苦手だわ‥‥っと、そういや木下って、日本人だよな?」
 がらりと話題を変えて、アキラが陽一に話しかけた。
「俺はここの領主に拾われたんだけど、木下は?」
「俺はメイの都に落ちて、最近はこっちとあっちを行ったり来たりかな。山本はこの辺に落ちて、で、騎士団に入ったんだ?」
「騎士団にってか、ゴーレム乗りたかったんだよ。わかるだろ? ――男の憧れ!」
「まあ‥‥ゴーレムもいいけど、あんま運動得意じゃないから武器を使うのが駄目でさ。あれって運動神経もいるだろ? 最近のみたいにOS使った操縦なら良かったんだけどな」
「あー、高速起動な‥‥あれも、出来たらかっこいいよなぁ」
「でもMMOだと韓国系がマジシャンだし日本のはメインジョブは攻撃魔法系だから、魔法もいいかなって。山本はやっぱ戦士系キャラだった?」
「俺は基本、戦士系だったかなあ。で、大剣とか斧とか好きだったな」
「ああ、やっぱりそうなんだ」
「‥‥あの二人は、何の話をしているんだ?」
「さあ‥‥?」
「まあ、適当な所で切り上げてもらいましょう」
「そうですね」
 同じ世界の同じ国を故郷とする二人は意気投合し、他の四人にはわからない単語が飛び交っている。それにも気付かず会話に夢中な二人の顔は、どこか懐かしそうでもあり嬉しそうでもあった。


●討伐開始
 林と林の間の少し拓けた場所を、土で出来た人形が歩いていた。埴輪のスルタンである。ウサギの生肉を結んだロープを引き摺りながらあてもなくうろうろしている様は、道に迷った子供にも見えなくもない。
(「さて、つられてくれるかな」)
 囮作戦の発案者でありスルタンの主のカルナックは、ミドルボウに矢を番えた状態でペットの動向を――目標が現れるのを離れた茂みの中で伺っていた。


「囮?」
「それは‥‥思いつきませんでした。その手がありましたね」
 作戦会議の場で提案したカルナックに、アキラ達三人は驚いて――そして、バツの悪い顔をした。何故こんな有効な手を今日まで思いつかなかったのか、とその顔には書いてある。
「餌を適当に見繕って、か」
「生身の人にやらせるのは酷ってものだろうから‥‥あっ、アキラさんやってみます?」
「何で俺ご指名?!」
「カルナック殿、それは名案だ。アキラ、君も騎士の端くれならば、領民のためにその身を捧げろ」
「嫌に決まってるだろ! っつうか、喜んで餌役引き受ける奴がいるか!!」
「‥‥でしょうね。冗談ですよ、アキラさん。ご心配なく」
「‥‥なんだ」
「‥‥冗談でしたか」
「エリアス、シャーリー。残念そうにすんな」


 ‥‥等というやり取りがあったりしつつ、現在に至る。その餌役を逃れたアキラとエリアスは、村の警護にあたっていた。
 スルタンは指定した「木と木の間を往復し続ける」という命令を守っている。これならば常に射程内だし、見失うこともない。
 ちなみに、スルタンを挟んで反対側の茂みにはフレッドが、最もスルタンに近い場所にはシャーリーが同じく潜んでいる。カルナック達から距離を置いた場所の樹上には陽一が待機していて、その下にはグリフォンのセラに騎乗したエリーシャが控える。
 配置は万全。あとは、ホワイトイーグルがうまく罠にかかってくれれるのを祈るだけだ。


 命令が切れるまで歩き続けるスルタンを辛抱強く見守り続けて暫し。不意に、スルタンの上に大きな影が出来た。一瞬雲かと思ったそれは徐々に大きくなっていき、同時に翼の羽ばたく音も聞こえる。
「‥‥来た!」
 白い翼を広げた大きな鷲。その鋭い目は動きを止めない餌を見据えて、他の存在にはまだ気付いていない。シャーリーは深呼吸すると、ロングボウを構えた。ホワイトイーグルの翼を狙い、思い切って弓を絞る――だが、やっぱりというか矢は大きく外れて後ろの木に突き刺さった。
「や、やっぱり駄目か‥‥」
 がっくりとシャーリーが肩を落とすが、慰めるのは後回しだ。威嚇にはなったようで、鷲は何事かと辺りを伺い始めた。その翼の付け根を狙って、カルナックが弓を射た。
「――ッ?!!」
 さすがにシャーリーの様に外れたりはせず、矢は翼に突き刺さった。慌てて翼を羽ばたかす鷲へ、更にフレッドが続く。翼を赤く染めながらも、鷲は一旦上昇を試みた。だが、
「ヘブンリィライトニングっ!!」
 双眼鏡で動きを追い続けていた陽一がすかさず雷を落としてそれを妨害する。大きな一撃となったようで、ぐらりと鷲の体が傾いた。それでも逃走を図ったが、雷を合図に舞い上がったセラとエリーシャがカウンタースマッシュで追い討ちをかけると、耐え切れずに鷲は地面に落ちていった。
「よし‥‥仕留める!」
 そこへ迫るのは武器を剣に持ち替えたシャーリー。瀕死の敵相手、弓ではなく剣ともなれば外すわけもなく、剣は鷲の首に深々と突き立てられた。
 これで、まずは一羽。


「はあああっ!!」
 助走を付けたセラの勢いを借りて、エリーシャの槍がホワイトイーグルの胴体を薙いだ。事前にミーティアに研いでもらったお蔭か切れ味は抜群で、苦しげに呻き血を撒き散らしながらバランスを崩した一羽は落下していく。追い討ちをかけるようセラに命じて下降するエリーシャだったが、すれ違うようにして別の一羽が舞い上がっていくのを端で捉えた。
「セラ‥‥っ!」
 方向転換、逃げるものを追わなければと上を見上げたエリーシャの視界では、逃げようとした一羽が陽一の雷に撃ち落されていた。下は三人に任せ、エリーシャは上昇するようセラに命じた。すれ違い様に落ちていったホワイトイーグルは煙を上げていて、既に絶命しているようだった。
「あと一羽‥‥」
 林から飛び出てエリーシャはぐるりと周囲を伺った。視界の中にホワイトイーグルの大きな姿はない。残された時間を考えると、捜索に出た方がいいかもしれないと思えた。
「エリーシャさん、いた?」
 下から聞こえた声は、保護色の毛布を被って枝の上に待機している陽一のものだ。エリーシャは頭を振ると、手を振った。
「捜索して来ます。うまくすれば、セラを縄張りを荒らすものと見なして誘い出せるかもしれません。ここで今暫く待機をお願いします」


 そうして残す一羽を捜しに行ったエリーシャはうまいことそれを誘き寄せることに成功した。仲間達が潜伏する場所に誘い出されたホワイトイーグルは抵抗と逃走を試みたが、他の三羽と同様に冒険者達(+シャーリー)の手によって無事討たれたのだった。


●解決と、ささやかな疑問
「皆様、領民の安全確保へのご助力、ありがとうございました!」
 討伐を終えた彼らは領主館での報告を終え、後は王都へ帰るのみとなっていた。
「しまった‥‥カルナック殿かフレッド殿に、射撃の心得を教われば良かったな」
「教わっても、身にならないんじゃねえ?」
「何だと?!」
「‥‥最後くらい静かにしなさい」
 やはりケンカを始めたアキラとシャーリーを拳骨で黙らせ、エリアスは冒険者達に向き直った。
「やはり、棲み処を追われて逃げたのではという考えが濃厚のようです」
「何か‥‥か」
「ホワイトイーグルの天敵が現れた、とかでしょうか?」
「鷲の敵‥‥熊とか?」
「恐獣ということも考えられますが」
「‥‥そういやさ、前にエリーシャ達に手伝ってもらったアパトサウルスも、普段は大人しい奴なんだよな。進んで集落を襲ったりはしないっていうか」
 あれも、思い返せばおかしかったような。ぽつりとこぼして、しかし単なる偶然だろうと言ってアキラは笑った。
「鷲ならともかく、恐獣がびびって逃げるってどんなのだよ。それに、普段大人しいっても結局恐獣だしな」

 こんなに平和な領地にどんな脅威がいるというのか、と言われればそんな脅威は思い浮かばず。
 色々話し合った結果、単なる偶然だったのだろうと結論付けてこの一件は終りを迎えたのだった。