カオスの侵攻〜死人が唄うは嘆きの歌
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■イベントシナリオ
担当:まどか壱
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 83 C
参加人数:16人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月13日〜02月13日
リプレイ公開日:2009年02月21日
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●オープニング
地獄へ通じる門より北西に、林に囲まれた村があった。侵攻により壊滅した村には残党の徘徊もあって近づくことが出来ずにいたが、冒険者達により残党の掃討が行われた結果、漸く人々は故郷の復興へと着手し始めていた。
この日も、何人かの男達が瓦礫の撤去を行うべく村を訪れていた。
どれ、と黒く炭化した柱を持ち上げようとした彼は、ふと、そこが知り合いの家があった場所だと思い出した。
「ああ、この家の奴らは‥‥全滅だったな」
「嬢ちゃんが誕生日迎えたばっかりだったな。可哀想に‥‥骨か遺品の一つも、残ってやしないかねえ」
襲撃のあった日の前日、五つになったと笑顔で話していた娘のことを思い出して彼は息を吐いた。この柱の下に何かあればいいが――そう思って持ち上げて、驚いた。
「じょ‥‥嬢ちゃん?!」
「は?」
「何だ、遺骨でも見つかったか?」
違う、と彼は言い柱を退けた。そこから現れたものを見て、皆が驚いた。
柱の下から現れたのは、五つくらいの幼い少女だった。煤だらけの白い顔で男達を見上げるのは、今話していた娘に間違いない。
「嬢ちゃん、生きてたのか! よく‥‥よく耐えたなぁ。怖かったろうに」
彼は少女の小さな体を抱き締めた。体温が感じられない程に冷えた体に、涙が溢れそうになる。良く生きていてくれた――繰り返す彼の台詞に、他の者達は諦めていた生存者の存在を俄かに期待し始める。
「まだ、まだ他にも誰かいるかもしれねえ!」
「捜すぞ! ほら、お前らはそっち行け」
一気にやる気が湧いてきて、彼らは片っ端から瓦礫に手をかけた。この下に、知った顔の生きた姿があることを祈って。
だが、芽生えた期待は一瞬で消えた。
――ごりっ。
その鈍い音が、彼らから希望を奪い去った。
「がっ」
少女を抱いていた彼の首が、鈍い音を立てて曲がった。肉が噛み切られて、骨が砕かれる嫌な音が響いた。彼の首に噛み付いた少女の口が赤く染まり、びちゃびちゃと嫌な音を立てた。
「ひぃっ‥‥!!」
「何だ‥‥何が、一体‥‥?!」
おぞましい光景に、その場を一歩退いた。その足を、誰かの手が掴んだ。はっとして下を向いた彼は、顔の右半分を失った状態で自らの足にしがみ付く死体を目にした。
「う‥‥うわああああ?!!」
焼け爛れて肉が露になった手を振り解き、彼は逃げ出した。駆け出して、そして大きく目を見開いて立ち尽くした。
いつの間にか、屍がぐるりと彼らを囲んでいた。腕がないもの、脚がないもの、腸を引き摺りながら歩くもの、一歩進むごとによろけて体の中身をぶちまけるもの――そのどれもが見知った顔で、そして動く筈のない体で、光のない目で彼の方を見ている。
(「夢か‥‥これは、悪い夢か?!」)
目を閉じて開けたなら、全てが消えてなくなればいいのに。悪夢で終わればいいのに。そう思った。しかし、これは夢ではない。
がっ、と呆然と立ち尽くす彼の腕を屍が掴んだ。逆の腕も、両の脚にも腐った腕が伸び、しがみ付き。
その日、北西の村へ出かけていた者は、誰一人帰って来なかった。
●悲劇は二度繰り返す
「猛将モレクに、七将軍の一人フルカス‥‥それと、フランツがいたと」
ウィルの冒険者ギルドである。その奥にある区切られた個室には、椅子に腰掛けた三人の姿がある。地獄調査の報告書を眺めるギルド職員のライザに、ライザとは顔馴染みの民俗学者レジー。そして――
「フランツ‥‥どうして」
泣きそうな顔で俯き、床板を見つめるクラリッサ・デナンである。何故ギルドにいるのかと言えば、監視のためだ。目を離すと地獄へ行こうとするので、ライザとレジーが交代で彼女の見張りを続けていた。
(「‥‥無理もないけど」)
やっと見つけたのだ、会いに行きたい気持ちはわかる。しかし、行かせるわけには行かなかった。彼はクラリッサに剣を向けたのだ。
「どうしてフランツは敵と一緒にいたんだろう。それ以上に、どうして地獄門の先にいたのかも気になるけどねぇ」
フランツが行方不明になった時、地獄門はまだケルベロスに守られていた。どうやって彼は、あの門を越えたのだろうか。そして、何故地獄の住人と共にいる。
「フルカスというのはあの門の本当の守護者なのかしら? ‥‥でも、カオスじゃないなら罪を唆す者とは関わりがない?」
「意外と、横取りしただけなのかもよ? あちらさんの目的がウィルを落とすことなら、門はこれ以上ない場所にある。王都に近いからねぇ‥‥そうする価値はありそうだけど」
「‥‥今度は、先手を取りたいわね」
また被害が出る前に、何かしら手段を講じたい。そう思って溜め息をついたライザ達のもとに、切迫した様子のおさげの少女、藍芳蕾がが駆け込んで来た。
「大変、大変だよー! 例の門の辺りで、アンデッドの大群が出たって――!!」
更には、門からも屍の群が溢れ出ていると。それを聞いたライザとレジーは顔を見合わせて、無意識に舌打ちした。
どうやら、またしても敵に先手を取られたらしい。
※参考:門周辺図
‖‖‖‖‖∴∴∴‖∴∴∴∴∴∴
‖∴●∴∴∴∴‖‖∴∴∴●∴∴
‖∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∧
‖‖‖∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∧∧
‖∴∴∴∴×∴∴∴∴∴∧∧∧∴
‖●∴∴∴∴∴∴∴∧∧∴∴∧∴
∴∴∴湖∴∴∴∴●∴∴∴∴∴‖
∴∴川∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴‖‖
∴川∴○∴∴∴∴∴∴∴∴∴‖‖
‖:林 ∴:平地 ∧:山 ●:村 ○:川下の村(避難先)
×:門のあったポイント(主戦場)
●リプレイ本文
主戦場となった平原を、南へ南へと進む固まりが四つあった。その歩の速度には違いはあるけれど、来る方角は違えども、目指す先は同じ場所。生者の匂いでも嗅ぎ取ったのか、はたまた誰かの指示なのか――屍の群は這う様に南下する。友の、家族の、恋人の血肉を食らおうと欲しながら。
●偵察
上空より見た骸の群の移動は、さながら屍の行進のようだった。近付けば腐りかけの体から漂う異臭が鼻につくだろう。眼下の光景だけを切り取って見れば、想像する地獄とはこんな様子なのかもしれない――と、本物の「地獄」を知る前ならば思っただろうか。
四方から一点を目指して進んでいるのが、ズゥンビと化した昨年の侵攻の被害者達。各々二十から四、五十程度が固まりとなってゆっくり歩みを進めている。
「‥‥とすると。あれが門から出た一団か」
シャルロット・プラン(eb4219)はサイレントグライダーを大きく旋回させながらアンデッドの状況に目を凝らす。統率されていると言えばそうだが、統一した意識は南へ向うということについてのみ。転移門から現れたらしき一団の中では、餓鬼が目の前のズゥンビの腐った首に喰らいついたり、スカルウォーリアの骨を一心に齧っていたりと勝手な行動を取っているものの姿も目立つ。
「指揮官のデビル‥‥フルカスがいるにしては、ちょっと統率に欠けるね」
「デビル? カオスの魔物ではないんですか?」
アンデッドの動きを注視しつつアシュレー・ウォルサム(ea0244)がこぼした単語に、ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が首を傾げた。今までカオスの魔物と戦ったことは数あれど、アトランティスでデビルと戦った覚えはない。
「自分で言ってたよ。カオスじゃないってね」
「‥‥何れにしろ、指揮官がいるとすれば門の側でしょうか」
少なくとも、この群の中にいるようには見えない。上空から見て近場に姿が見えないということは、更に北にある転移門付近が怪しい。
「フルカスもフランツもそこでしょうね」
ルエラはグラナトゥムの鼻先を北へ向けた。大将の首を取りに行こうかという姿勢だったが、しかしそれは止められた。
「フルカスがいるかもしれないなら、戻ろう」
「倒さないのですか?」
「今回の依頼の目的は、避難先の村を守りきることだからな」
飛天龍(eb0010)はそう言って視線を下げた。敵軍の頭を叩くことは確かに効果的なこと。だが、統率の取れていない眼下の軍勢は、指揮官が敗れたからといって乱れはしないだろう。
何より、指揮官の首を追いかけて防衛線に穴が開いては意味がない。その先にある人々の人命を守ること。それが、今回彼ら冒険者に任せられた務めなのだ。
「何れ戦う機会があるよ。フルカスとの戦いは、その時まで取っておこう」
「‥‥そうですね。目的は、防衛線の死守」
そう、待てばその機は何れ訪れるのだ――必ず。それも、そう遠くない内に。
「では、戻りましょう。あの進度であれば、十分に余裕を持って迎え撃てる筈」
「そうだな。色々準備もあるし‥‥」
南へと体を向けようとして、天龍はおやと眉を寄せた。
(「‥‥あれは‥‥?」)
「天竜さん、どうしました?」
「ああ、いや。戻ろう」
皆怪訝そうにしつつ、一路南へと急ぐ。
(「何かいたように見えたが‥‥気のせいか?」)
再度伺った後方、転移門の方向には何も見えない。はっきりと見えたわけでもなし、気のせいかもしれないが。
アンデッドの群とは別の方へ向かっていく黒い影。一瞬だけ見えたそれは、しかし既に天龍の視界のどこにも見えない。
●亡者の行進
湖から南東に向けて構築された防衛線。
「再侵攻が始まった、か」
オフェリアの背に騎乗して、アレクシアス・フェザント(ea1565)は目を細めた。
「死人の軍勢から民を守らねば」
その落ち着いた姿の内に秘めた熱情こそが、彼を名高きルーケイ伯たらんとさせるものなのだろうか。自身にオーラエリベイションをかけながら前方を見据えるその瞳は、こぼした呟き以上に強い決意を感じさせた。
フロートシップで運んで来た資材を用いて作られたバリケードの前には、グラシュテとバガンが無人で立っている。その巨人が見つめる先には腐敗臭を撒き散らすアンデッドの群が迫って来ている。
「おいでなすったぜ」
フライングブルームから降りて伝えるオラース・カノーヴァ(ea3486)の言葉に、リール・アルシャス(eb4402)は胸部へかけていた梯子へ手をかけた。素早く操縦席に乗り込んで、いつでも起動出来る状態で「見えた」という声を待つ。
「フランツ殿、せめて生きたまま操られていれば良いのだが――」
希望を口にして、しかしその表情は台詞とは裏腹のもの。それが厳しいだろう事は容易に想像がつき、彼女は一人苦い表情を浮かべた。
初めに敵の姿をはっきりと確認出来たのは、防衛線の東側だった。距離的に近い南東の村から向って来たズゥンビ達が多いだろうか。生前には持っていた人並みの知力を失った彼らは、その前に作られたバリケードなど目に入っていないかのようにただただ前進し続ける。
(「あと十メートル‥‥」)
ファング・ダイモス(ea7482)はバリケードの内側に身を潜めて、近付いてくるそれらを注視していた。
(「‥‥七、六、五メートル」)
距離が詰まる毎に、抜き身のテンペストを握る手に力が篭もる。それは、同じく息を殺して接近を見つめている天龍も同じこと。
三、二、一‥‥と心中のカウントダウンがゼロを数えた時、
「――――ッ」
声も無く、土が崩れる音と共に先頭が姿を消した。ファングが主導して仕掛けた落とし穴のトラップ、それに見事に引っかかったのだ。
「かかったぞ!」
「いきましょう!」
先頭の異変に気付いていないのか、その後も面白いようにズゥンビが穴に落ちて行く。更にその周辺でも、事前に仕掛けた罠が発動して敵の前進を止めている。それを確認すると、隠れていた二人は勢いよく飛び出した。
防衛線の中央付近でもまた、見ようによっては面白いとも取れる光景が繰り広げられていた。
ペットに騎乗して上空に控えるアシュレーとオルステッド・ブライオン(ea2449)には、特によく見えただろう。目には見えない一定のラインで、前にも後ろにも進むことが出来ずにうろうろとその場で足踏みし続けるアンデッド達の間抜けな姿が。
「予想通り、面白いことになったねえ」
そう言うアシュレーの手には降霊の鈴がある。その音色が響く限りアンデッドはアシュレーの方へと向って来ようとするのだが、防衛線の内にある魔除けの風鐸の効果でそれが叶わない。風が吹いているという幸運があってこそだが、二つのアイテムの相乗効果だった。
「‥‥とは言え、永く続く効果じゃないから」
「‥‥そうだな‥‥」
魔力が尽きれば呼び寄せる効果が無くなるし、風もいつまで吹き続けてくれるかわからない。オルステッドは頷くと、持参した油をうろうろしているアンデッド達の頭上へと降りかけた。巻き終えたら二人がかりで火矢を放ち、アンデッドを炎で包む算段だ。万一の炎症には、リールの乗ったバガンが湖の水をかけて防止する備えだ。
「‥‥あの騎士、フルカスとか言ったか‥‥」
奴の手勢か、とオルステッドは油にまみれたアンデッド達を見下ろした。彼もアシュレーと同じく、その目でフルカスを見た一人だ。そして、クラリッサを斬ろうとしたフランツの姿も当然目にしている。
(「‥‥あの様子‥‥奴は最早悪魔と手を組んだのかもしれないな‥‥」)
他に、七魔の将と共にいた理由が思い浮かばない。クラリッサに深く同情を抱き、気にかけていた妻のことを思い出して彼は溜め息をついた。
「‥‥同業者として、ああはなりたくないものだ‥‥」
どんな理由があれ、自分が悪魔と手を組むなど――まして、それによって愛する妻へ切っ先を向ける姿など考えたくもない。その先に待つものは、悲劇以外にあり得ない。
「‥‥だが今は、この群を少しでも片付けることを考えなければ、な」
手持ちの油を撒き終えたアシュレーがオルステッドに向って矢を振った。そろそろ、という合図。矢先に火を点けると、二人は下へ向けて火矢を放った。
「セクティオ!」
ルエラが掛け声と共に群の中をペガサスで駆け抜けていくと、直撃を受けたスカルウォーリアの一体がその場に崩れて動かなくなった。その近くでは、八方を囲まれたアレクシアスが突破しようとオーラアルファーを放っている。
「奴らは多種多様。甘く見たらやられます」
愛馬に跨り、アトス・ラフェール(ea2179)は近い餓鬼の群を標的に定めた。姿が見える敵を相手にするという好条件の一方で、一度囲まれればこの飢えた亡者の格好の餌食と化す。
「状況を確認しながら迫る敵を討つ。言うのは簡単だが実行は難しい――腕の見せ所といったところですか」
何度も経験出来ないだろう激戦の予感に、アトスの胸は高揚を押さえられない。しかしだからこそ、この剣を持つ手は熱く猛れども心は冷静であらねばならない。適度な緊張感に満たされながら、アトスは餓鬼の骨の浮いた肩へ深々と剣を突き立てた。
導蛍石(eb9949)はデティクトアンデッドで広範囲を対象とした索敵を行っていた。全員へ手分けしてレジストデビルを付与してまわり、ホーリーフィールドで歩を妨げる。それをしつつも探査も続けるのは、アンデッドの位置を確認するためだけではなかった。
「後方に敵増援です! 転移門から出て来たものですね」
「やはり、援軍が来ますか」
カウンターアタックで応戦するシャルロットが、わかっていたことではあるけれど――と厳しい顔で付け足した。ゴーレムの絶大かつ多数対象の攻撃もあって、既に相当数の敵を屠っている。それなのに休む間がそれ程与えられないということは、倒した分だけ敵が増えているということだ。
『オラアアァッ!!』
オラースの駆るグラシュテが、大剣から繰り出すスマッシュとソードボンバーの合わせ技でグールを吹き飛ばした。初めは生身で戦っていたオラースだったが、敵の数を見てグラシュテ使用へと切り替えたのだった。リールのバガンが限界時間を越えたというのもある。入れ替わるように、彼女はバガンを降りてファングや天龍と共に戦っていた。
「デビルの姿が見えないな」
戦いながら、彼らが気にしていたのはデビルの存在だった。姿形はアトランティスのカオスの魔物と似たそれ。今までの敵はカオスの魔物だったが、デビルのフルカスが指揮を取っていると予想すれば、配下はデビルである可能性が高い。何せ、両者は似ているが異なる存在であるらしい。
伏兵としてデビルがいるかもしれない。そういった理由から常にその存在を捜していた蛍石は、はっとして左上空を示し声を上げた。
「そこにいます!」
即座に反応したのはグラン・バク(ea5229)だった。レミエラが光り、衝撃波が「そこ」目掛けて飛ぶ。
『――ギッ?!』
醜い呻き声を上げて何かがぼとりと地面に落ちた。姿を見せたそれは、邪気を振りまく者とそっくりの魔物。ジ・アースではインプと呼ばれるデビルである。
『チィッ‥‥オノレ‥‥ッ』
「やはり、伏兵か」
グランを睨んで舌打ちすると、インプは塵と化した。この後も、姿を消して後方へ抜けようというデビルが現れるかもしれない。
――しかし、警戒していることが知れたためだろうか。この後、デビルの反応を彼らが探知することは無かった。
一方、防衛線西側ではセイル・ファースト(eb8642)とサクラ・フリューゲル(eb8317)、そして二人が連れて来たペット四匹と共にズゥンビの集団と対していた。
「いくぜえええ!」
オーラパワーで威力が増強された槍から繰り出されるソードボンバーが、纏まった数体の肩や頭を吹き飛ばす。スマッシュの威力も合わさって、ズゥンビに大きく重いダメージが与えられる。
その死角となる背後に迫る敵はトールが尾で、あるいはオードが向かえて主人の背を守っている。
「レープハルト、正面にマグナブローを!」
サクラの命令に従ってレープハルトが指示された方へ向けてマグナブローを放つと、マグマがズゥンビを巻き込んで円柱状に吹き上げた。
そのズゥンビの中に一際小さな姿を見つけ、シルフィードと共に援護に回っていたサクラは表情を歪めた。
「こんな酷い事‥‥これ以上被害を出すわけには参りませんわ‥‥!」
サクラ達が対峙していた一団は、元は村人だった者達が多かった。幼子の骸が襲ってくる姿などはあまりにも哀れで、サクラは彼らの救いを聖なる母へ祈った。そして、安らかに眠ることを妨げた者への憤りを覚えずにはいられない。
「これ以上好きにさせるかよ!」
セイルは掴みかかってくる元村人の首を薙ぎ払った。同情はする。けれど、自分達の後ろには守るべき人々がいるのだ。
「ええ‥‥そうですね」
やり切れない思いは消えないけれど、これ以上被害を増やすわけにはいかない。
「無念を残しなくなられたこの方達の為にも、一刻も早く安らかにしてあげましょう!」
そして彼らは、自分達が二度目の死を与えた人々へ誓う。
こんな悲劇を起した者達へ、必ずや相応の報いをくれてやろうと。
長い長い戦いになった。どれ程の数を倒しただろうか。暗くなっていた空は再びすみれ色に染まり始めている。
目の前のグールを切り倒した時、それが最後の敵だったと彼らは気付いた。定期的に押し寄せていた敵の増援は途絶えたのか、遠く向こうに動く存在は見えない。
念には念を入れ、偵察に行った者達が転移門を中心に周辺を見て回ったが、南下する敵の姿はなくなっていた。打ち止め――防衛する冒険者達の力と粘り強さが攻め手に勝利したのだと知った時、彼らは漸く武器を置いた。
平野を一色に染めるほどのアンデッドの山は、改めて火をかけられて弔われた。死して尚苦しみを与えられた村人達も、これで漸く精霊界へと召されるだろう。
「安らかに眠れ‥‥」
橙に染まるバガンの傍らで呟いたリールの言葉は、燃え上がる炎を見上げる冒険者達皆の心を代弁していた。
●古老が張り巡らせるは――
焼け跡の残る戦場を飛ぶ、小さな影があった。
時は真夜中。そこに静かに口を開いた転移門を潜りぬけ、インプは自らの主が待つ場所へと向った。川を越え、地獄門を越え、そして地獄門よりは小さいが豪奢な造りの門を抜ける。その先にあるのが、インプの主の邸だ。
「戻ったか」
邸の奥で待ち兼ねていた巨躯の老騎士は、戻って来たインプを見て「ふむ」とこぼした。
「戻らないものもおるな。それでも帰還したものの数は多い‥‥亡者の群は、いい目晦ましになったか。して、汝は何を持ち帰った?」
その圧倒的な存在感に気圧され、萎縮しながらインプは自らがアトランティスで得た情報をフルカスに伝えた。微動だにせず静かに報告に耳を傾けていたフルカスは、聞き終えると片眉を上げた。
「‥‥それらしきものの存在があったと。それも、複数個所にてと。それは興味深い‥‥七王の冠、やはり、あの地にも」
あるのか――独り呟くとインプには引き続き冠を捜せと言い渡し、フルカスはゆっくりと瞼を下ろした。見事な顎鬚を撫でる姿は、インプの目には満足気なように見えた。