情けは人のためならず?

■ショートシナリオ


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月24日〜03月29日

リプレイ公開日:2009年06月30日

●オープニング

「モンスターじゃあ! モンスターが出たんじゃあ!」
「モンスターっす! モンスターが出たんっす!」
「はい、モンスターですね。どこにですか?」

 ここはウィルの冒険者ギルドである。営業スマイルを張り付かせた受付係のモーリスが相対するのは、ずんぐりした体型に長い髪と髭――つるはしを持った二人のドワーフである。
「だから、モンスターじゃあ! モンスターが出たんじゃあ!」
「そうっす、モンスターっす! モンスターが出たんっす!」
「ええ、モンスターが出たんですね。それはわかりましたが‥‥‥だから、どこに?」
「モンスターが出たんじゃあ〜!!」
「モンスターが出たんっす〜!!」
 モーリスのこめかみに青筋が浮き上がった。仕方がないことだろう――このドワーフ達と来たら、何度訊いても「モンスターが出た」しか言わないのだ。場所・種類・数を尋ねているのに、望んだ答えが返ってくる気配は一向にない。彼の何とか袋の緒は、今まさに切れるか切れないかの瀬戸際を迎えつつあった。
「これが最後ですよ? ‥‥どこに、何匹、何が出たんですか?」
「モンスターじゃあ!」
「モンスターっす!」
 つまみ出そう。
 モーリスの何とか袋がぶちっと切れた。要領を得ないまま大音量で喚かれるのは他の人間の迷惑。そんな建前のもとに強制退去を試みようとしたのだが、実行に移す直前にギルド内に「バゴッ」という破壊音が響き渡った。
「なんだ?!」
 鈍い破壊音に何事かと辺りを見回す。モーリスと同様に、皆がギルドの中へ視線を巡らせている。そして、破壊音の源を見つけて瞬きをした。うるさいドワーフを誰かが殴って黙らせた――わけではない。単に、ぶち破る勢いでギルドの入口が開けられただけだった。

 扉を開けたのは背中に弓を背負った蜂蜜色の少年。それはモーリスも顔馴染みの姉弟冒険者の弟の方だった。体調が悪いと一目でわかる青い顔、そして険しい表情で室内を見渡すと、モーリスの方へとふらつきながらの危うい足取りで向って来る。そして、開口一番にこう言った。
「あの馬鹿、来てないか?」
「あの馬鹿? ‥‥ってのは、カリンか?」
 うん、と苛立ちも露に頷くのはレンジャーのマノン。カリンというのは地のウィザードで彼の姉だ。大変なドジっ子で、トラブルメーカーでもある。姉の起したトラブルは何故か全てこの弟に被害が向く傾向にあり、弟はなかなかの苦労人だ――それはさておき。
「見てないが、どうかしたのか?」
「いなくなった」
「‥‥は?」
「朝起きたらいなくなってた‥‥ほんとに、来てないのか?」
「いや、悪いが見てない‥‥というか、お前ら二人がピンで動いてるのは今初めて見てる」
「‥‥そっか‥‥」
 見ていないという答えに、マノンはしゅんと肩を落とした。
「黙っていなくなったのか?」
「いや‥‥氷の洞窟にさ、依頼で行っただろ」

 氷の洞窟とは、王都から半日ほどの距離にある山の中にある、全面が氷に覆われた洞窟だ。
 昨年末、この山で迷子になった人々がそこで氷漬けの状態で発見されるという出来事があった。冒険者達の協力でマノンを含めて全員無事救助されたのだが、その後から皆が原因不明の体調不良を訴え始める。その調査をこれまた冒険者の協力のもと行い、そして怪しい少女・セリナと二体の黒豹に遭遇して逃げられたのが先月の話。

「あの時の女の子と黒豹が怪しいって言って、探しに行くって話はしてたんだ」
 そのとき協力してくれた冒険者の話によると、マノン達はデスハートンなる魔法をかけられたらしい。デスハートンとはカオスの魔物が使う魔法で、人の魂を奪う術。魂を奪われた人々の症状はマノン達のものと同じで、治すには魂を取り戻すしかない。つまり、治すには魂を持って逃げたセリナを捜さなければならないのだ。
「その話したのが昨夜で、今朝起きたらいなかった‥‥あの馬鹿、一人で捜しに行ったのかも‥‥」
「一人で‥‥って、相手はカオスの魔物だぞ?!」
 セリナはわからないが、黒豹は同種と交戦したという報告書があることからもまず間違いなくカオスの魔物だろう。それを一人で捜しに行くとは無謀に過ぎる。何かにつけて「お姉ちゃん」であることを強調していたカリンのこと、責任感から弟を助けたくて突っ走ってしまったのだろうが――モーリスは頭を抱えた。
「どうせカリンのことだ、防寒具着て山の中を走り回って捜してるんじゃないか?」
「‥‥そんな近場にいたら苦労しないって‥‥」
「あの〜」
 深々とマノンが溜め息をついたところで、声が割って入った。ん、と視線を向ければ、そこには例のドワーフ二人がいる。まだいたのかとモーリスがうんざりするのに気付かずに、一人が口を開いた。
「小僧が捜しとるのは、蜂蜜色の髪のよく転ぶ小娘か?」
「小僧さんによく似てて、メイスを持った小娘さんっすか?」
「そうだけど」
「その小娘、見た」
「見たっす」
 小僧呼びに一瞬ムッとしかけたマノンは、「えっ」とこぼして目を見開いた。
「どこで?!」
「その山でわしらが穴掘ってる場所じゃあ」
「掘った穴に落っこちたんっす」
「落ちた?!」
「‥‥と言うか、注意したのに転げ落ちたっす。横に掘ってた穴だったっす」
「傾斜がちょいときついんじゃあ。あと、下に行くほど凍ってるんじゃあ」
「つるつる滑るんで、ロープ巻いとかないと上がるの大変なんっす」
「あのドジっ子‥‥」
 思わず呟いて、しかしマノンはほっとした。
「あんた達、場所わかるんだな? 助けに行かないとだから、案内してくれよ」
「‥‥それはちっと、難しい話じゃあ」
「何で?」
「その穴、モンスターの巣に繋がってたんっす」
「‥‥‥‥え?」
「モンスターの巣の壁に穴を開けちまったんじゃあ。そうしたら、モンスターがあふれ出てきたんじゃあ!」
「ぐにょぐにょした奴らっす!」

 ‥‥‥‥‥。

 たっぷり一拍の間を置いて、モーリスはドワーフ二人の頭を鷲掴みにした。
「それは『出た』んじゃなくて、『出した』んだろうが!」
「痛いんじゃあ?!」
「痛いっす?!」
「このアホ共が! 放っといたらモンスターが巣穴から出て来るって寸法か! ‥‥っと、その前にカリン!」
 モンスターを退治しつつ、カリンを助けなければならない。凍っているらしいが防寒具は持っているようだし、冒険者の端くれだから保存食も用意しているだろう。あとは助けに行くまで無事であることを祈るしかないが――
「あいつ運だけはいいから、多分無事だと思うけど‥‥」
 姉から流れた不運を一心に受けてきた弟の台詞は、多分誰が言うよりも説得力があった。

●今回の参加者

 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb7689 リュドミラ・エルフェンバイン(35歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec0844 雀尾 煉淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec5470 ヴァラス・シャイア(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)

●リプレイ本文

「気を付けるのじゃー!」
「気を付けてくださいっす!」
 かなり、頭が痛いかもしれない。
「馬を見ていて欲しいのだけれど」
 こめかみ辺りが引き攣った加藤瑠璃(eb4288)の申し出に、ドワーフの二人は口々に任せておけと言いながら頷いた。雀尾煉淡(ec0844)のペガサスも一緒なので心配はないと信じたいが、頼る相手がペガサスだったりするのはなぜなのか。
 同じようなことを二人で繰り返す依頼人達の案内で辿り着いた横穴は、確かに冷気が吹き上げてくるところだった。おそらくマノン達が因縁のある洞窟と下で繋がっている。辿り着くまでもよく注意しておいたが、ここまでは『ぐにょぐにょしたモンスター』とは遭遇していない。
「こちらも反応はありませんね」
 石の中の蝶を持つリュドミラ・エルフェンバイン(eb7689)が指輪に目を落として、皆に魔物の気配がない事を知らせた。それを聞いて、まずはロープとランタンの用意をしていたヴァラス・シャイア(ec5470)はじめ、マノン以外の冒険者達が揃って靴を履き替え始める。マノンは皆がここまで履いていたセブンリーグブーツなどを履き替えていると思ったようだが、実際は中の足場に備えたすべらずの靴だ。瑠璃が使うのは、雀尾が貸してくれたもの。
 依頼人達がきらきらした目で説明を求めていたが、始めると質問で長くなるのでここは黙殺する。瑠璃の馬と雀尾のペガサスと一緒に荷物番を兼ねて待っていること、穴からモンスターが出てきた気配があれば、行った方向だけ確認しておくこと、異変が起きたらペガサスから離れないことを念押しして、五人は穴の中に入っていった。

 マノンの姉カリンが転げ落ちたというくらいだから、穴は小さなものではない。けれども二人同時に降りられるほどでもなかったから、ロープを伝って一人ずつ下へ。最初はこんなところを転げ落ちたら痛かろうと思うごつごつした岩肌が、徐々に滑りやすい凍った地面に変わる。
「大丈夫ですか? ゆっくりで構いませんよ」
 気が急くのだろう、マノンが時折足を滑らせるのをヴァラスが支えられるように気を付けつつ、降りやすい所を示してやる。今回、灯り持ちは彼ら二人の予定だが、急な穴を下りている最中にランタンは持てないから、上と下から届く灯りだけが頼りだ。
 先に雀尾と瑠璃が下りて、下の洞窟に降りたところで、すでにスクロール魔法で『ぐにょぐにょしたモンスター』の居場所を探っていた。リュドミラは殿を務めるべく、まだ地上にいる。
 基本的には前衛がリュドミラと瑠璃。後方攻撃が魔法を使う雀尾と弓使いのマノンで、この二人に危害が及ばないように警戒するのがヴァラスだ。特にマノンはデスハートンの被害を受けているから、無理は禁物である。
「十二‥‥はいます。動き出したら、もっと増えるかもしれません」
 雀尾の魔法で感知された振動は十二。相手は話からしてジェルモンスターだろうから、じっとしていると魔法でも分からない可能性が高い。それでも不幸中の幸い、皆が降りてすぐ近くがモンスターの巣になっていたものの、雀尾のホーリーフィールドを巡らせるくらいの余裕はあった。その境目にはすでにジェルが張り付いているのが見えるが、奇襲を喰らうことはないので安心だ。
「こんなねちょねちょと戦って、剣と盾が錆びないといいけど」
 魔法で士気を高めていても、それとこれとは別問題の瑠璃が心底嫌そうに口にしている。リュドミラも剣と盾という装備は同じで、似たような心配はあるだろう。さくさくと退治したほうがいいに違いない。
「幾らかはその心配を減らせるといいが‥‥さて、どういう効果があるものか」
 雀尾がマノンの手前にライトニングトラップを張り、ジェルモンスターが容易に近づけないようにしてから、魔法で反応が多かった辺りを狙ってスクロールのグラビティーキャノンを放った。人が相手なら転倒するもの続出のはずだが、さすがに地面と一体化しているようなモンスターにその効果は薄い。だが先に示されていた場所とは別に、ジェルが盛り上がって存在を表した場所が三つ。
「私は近いものからにしましょうか」
 ランタンを地面に置いたヴァラスが、ホーリーフィールドから出る機会を伺っている女性二人に問うた。雀尾やマノンの危険が減ったので前に出られないこともないが、横幅四メートル弱で三人が展開は厳しい。一人下がるのなら、灯りの確保も考慮してということだろう。前衛担当の二人に否やはない。マノンもランタンをライトニングトラップに重ならないように置いて、弓矢の準備をしていた。
 まずはリュドミラと瑠璃が近いところから攻撃して、あまり多勢で押し寄せてきたらヴァラスに回す。雀尾は緊急事態が発生したら、ホーリーフィールドで安全圏を確保となった。マノンの弓矢は、場所柄狙い過たずといける場合のみだ。
 後は。
「こういうのって、手ごたえが分かりにくいのよね」
「ちょっと目を離すと、同じ個体かどうかも分かりませんしね」
 敵は皆が動く振動で狙いを定めているのだろうが、ものすごく素早いということはない。遅くもないが、群れて飛んでくるカオスの魔物に比べたら相手をしやすいこと間違いなし。見えにくいのが難点だが、魔力温存で様子を見守っている雀尾とどう考えても飛び道具は使えないと諦めたマノンがランタンを掲げたことで、攻撃を仕掛けてこようとするものは影が動いて見て取れるようになった。最初のグラビティーキャノンが効いたか、攻撃でなくても身動きするものが多いから、順次斬り付けていく。
 途中で女性二人が苦笑したが、敵の攻撃は避けつつで余裕の表れだ。時折どかんと大きな音がするのは、ヴァラスが巨大な十字架で足元に這い寄ってきた敵を押しつぶしている音である。三人共に、触手のように伸びてくる『ぐにょぐにょしたモンスター』の身体が触れる前に避ける技量はあるので、死角から襲われない限りは攻撃されることはない。
 流石に洞窟の中という場所が災いして、何度かは盾で凌ぐ羽目になったが、直接身体を打たれることはない。触れれば獲物を酸で溶かして捕食する相手だけに、触れられてたまるかという気持ちが各自にあったのも確かだろう。
 小一時間ほども斬る、殴るを繰り返し、それから雀尾がまた魔法で動くものがいないかを確かめて、ようやく効果範囲から『ぐにょぐにょしたモンスター』が消えたことを確かめた。細かく探せばまだいるかもしれないが、当座の危険は排除したので、今度は捜索だ。
 もちろん、カリンの居場所である。
「これだけ騒いでいて出てこないから、よほど奥にいるのかもしれない」
 マノンは仏頂面で言うけれど、瑠璃と雀尾の意見は異なる。ちなみにこの二人の間でも違っている。
「クレイジェルに喰われない為に、自分を石化してたりするかもよ」
 これは瑠璃。食料があってもモンスターと戦うのに長けているとは言えないカリンのこと。慌てふためいた挙句に実行している可能性がないとは、マノンも否定し切れなかったようだ。
 ヴァラスとリュドミラが怪訝な顔をしたが、誰が細かい説明をしてくれるわけではない。ここまでの穴を転げ落ちた時点でそそっかしいことは判明しているが‥‥
「それならよいのですが、場所柄、アイスコフィンで凍らされている可能性も捨て切れませんよ」
 雀尾が指摘するのは、魔物とそれに騙されているのか協力しているのか、判然としない少女の存在だ。もしも遭遇していたら、危険な目にあっていないとは限らない。
 今度はそちらに警戒が必要になるが、相変わらずリュドミラの石の中の蝶には反応はなかった。
 ともかくも、今度は感知魔法を切り替えて、生命の存在を探る。効果範囲ぎりぎりではないかと思しきところに人の反応があるので、そちらに向かうことにした。
 最初を歩いて警戒するのは瑠璃、すぐ後ろをマノンとヴァラスが灯りを持って進み、それから雀尾とマッピング担当のリュドミラ。
 時々方向を確かめ、枝道には印をつけたり、先まで進んで氷の壁で行き止まりだと戻ったりしつつ、一向に動く気配のない反応を目指して行く内に、段々と周囲の気温が下がってきた。
「もう夕方ですかね」
 ヴァラスがランタンに使った油を数えるも、日が暮れるまでにはまだ少しあるはずだ。代わりにマノンが足を滑らすことが増えたから、洞窟内がよりひどく凍っているということだろう。
 そうして。
「「ここは」」
 少し様子が変わって見えるが、以前にも来たはずの場所だと、雀尾とマノンが声を揃えた辺りがディテクトライフフォースの反応があった辺り。けれどもランタンの光に氷の反射が返るばかりで、人の姿は見受けられなかった。隠れているのかと、マノンやカリンと面識がある者が呼び掛けてみたが返る声はなく。
 魔物の反応がないことを確かめて、五人で手分けして凍りついた岩壁の影にでも倒れてはいないかと探し回って、見付けたのは視線が低いヴァラスだった。
「怪我はないようですけれど‥‥」
 語尾が力ないのは、雀尾の予想が当たっていたからだ。
 壁際に押し付けられたような妙な姿勢で、カリンが横たわって凍り付いていた。顔付きは、転倒して痛みを堪えている感じだ。流血している様子もなく、ひどい怪我をしたと思しき表情でもない。
 それでも万が一に備えて治療薬や毛布を用意してから、雀尾がニュートラルマジックを唱える。皆が注視している中で氷が消えて、床面にころりと落ちたカリンは、
「あいたたっ、ちょっと! あれ?」
 誰かに噛み付かんばかりの風情で起き上がり、自分を見下ろしている人々を見て首を傾げた。ごつんと音がしたのは、マノンがその頭を叩いたから。
「この馬鹿姉貴っ、一人で何をしに行くつもりだった!」
 彼の態度は他の四人にも共感出来るものだが、カリンを凍らせた相手のこともある。また凍る以前にマノンと同じ被害を受けていないとも限らず、両者を引き離して瑠璃とリュドミラが体調や怪我を有無を確かめたが、あったのは擦り傷のみ。血色も、ここまでの道中で気力、体力、魔力を消耗した皆よりいいくらいだ。
 ここまで分かれば、とっとと外に戻りたいところだが。
「転げ落ちて、でも目的地はこの奥だからいいかと思って」
 カリンの言い様にマノンがまた拳骨を食らわせたが、まあ仕方あるまい。
「痛いわね、もうっ。‥‥それで、この先に道があったでしょ、あそこまで行ったのよ」
 どうやらカリンはモンスターの群れとは遭遇していないらしい。代わりに前回は探れなかった奥に向かったと言うものの、
「そんな場所がありましたか?」
「見てませんよ」
「ここで行き止まりでしょ?」
 そういえばと前の記憶を思い返している雀尾とマノン以外は、この洞窟の奥などないと口を揃えた。けれどもここに初めてではない三人は、
「確かにあった」
「そう、もう少し奥があるはずだ」
「嘘なんか言わないわよ」
 口々に言い、一点を指した。けれどもそこにあるのも氷の壁だ。透かして見ると、中に大きな石が幾つか入っているのが分かる。石を置いて、アイスコフィンで凍らせて塞いだような跡に見えなくもなかった。
 それを溶かす準備も、壊す方法も持ち合わせていない六人は、奥の探索は諦めて一旦地上に戻ることにした。前に辿った道もご丁寧に塞いであるようだから、また最初の穴をよじ登る。
 カリンが文句を言いつつ、きちんと自力で登れたことが不幸中の幸いだ。

 それから、姉弟喧嘩を仲裁し、両方に適切な小言を食らわせつつ、ヴァラス提供の桜根湯を留守番のドワーフ二人も交えて飲みながら、カリンから詳しい状況を聞きだしたところによれば。
「奥に箱なんかが置いてあって、中を覗こうと思って近付いたら、あの黒豹に引きずり出されたんだけど‥‥」
 そこにセリナもいて、激怒した彼女に問答無用でアイスコフィンを喰らった。そのおかげで魂を取られていないのは雀尾の魔法で確認済みだ。
 だが、カリンは一番奥の壁際に、もう一人誰かが氷漬けで置かれていたことを目撃していた。性別も年齢もはっきり見て取れなかったが、成人しているのは間違いないだろう背格好の人だ。
 触るなと叫んだセリナの様子が尋常ではなかったと聞かされた五人は、あの場で彼女とかち合わなかったことに安堵もしたが‥‥あの尋常ならざる警戒振りを抱くのはどうしたわけかと思わなくもない。それほどの様子なら、次にいつあそこを訪れるか分からないが、カリンが消えたことにもすぐ気付くだろう。
 よって、二人でもう一度向かったり、魂を取り戻そうとしないこと。それをくどいほどに言い聞かせて、二人を街まで連れ帰ることにした。ドワーフ二人にも、不用意なことを言い触らさないように念押しする。
 けれども、言い聞かせる最中からあれこれ口やかましい四人を見ると、帰り道にもたっぷりと注意が必要だと全員が思ったのだった。

(代筆:龍河流)