動く石像の怪?

■ショートシナリオ&プロモート


担当:まどか壱

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 99 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月14日

リプレイ公開日:2008年08月19日

●オープニング

「動いたんですよ」
「‥‥何がですか?」
 今日も賑やかな冒険者ギルド。その受付カウンターを挟んで立つ依頼人らしき人物を見、受付の彼は怪訝な顔をしていた。依頼人は男性で、年の頃は五十に差し掛かるかどうかというくらい。中肉中背の男性は青白い顔で身を乗り出し、手をばたばたと動かしながら口も動かす。
「ですから、動いたんですよ! 動いたんです」
「ええ、わかりました。動いたのはわかりましたから、何が動いたのかを‥‥」
「だからっ! 動いたんですよ!!」
「ええ、ですから、何がですか?!」
 男性につられて大きな声を出してしまうと、男性は神妙な顔で大きく息を吸い込んだ。
「石像が‥‥動くんです‥‥!!」
 自らの言葉にぶるぶると震える男性をまじまじと見つめ、彼はやれやれと額を押さえて溜め息をついた。
「‥‥石像が動くわけないじゃないですか」
「本当に動くんですよ! 嘘なんかじゃありません!」
「またまた、ご冗談を。見間違いか、そうでなければ夢の中での話だったのでは?」
「違いますっ!! 本当なんですよ! 朝起きたら昨日とは反対の方向を向いていたり、並び順が変わっていたり、階段の上に移動していたり‥‥夢なんかじゃありませんっ!」
 見間違いと決めてかかる受付に、男性は顔を真っ赤にして真実だと怒鳴った。そう言われても、石で出来たものが何らかの力を借りずに勝手に動くわけがない。
「自分で動かして、そのことを忘れたとかそういったことでは?」
「だ・か・ら! 違いますよっ! 証人だっているんですよ?!」
「う〜ん‥‥」
 男性は一向に引く気配がない。依頼を受けてくれるまでは意地でも帰らないぞ、という意思を全身から感じ、受付は仕方ないと溜め息をついてペンを握った。
「わかりました‥‥とりあえず、詳しい話を聞かせてください」
「受けてくれるんですね?!」
「聞いてから決めます。どうぞ」
 半信半疑、というよりも八割方疑っている受付に男性は不満そうな顔を見せながらも話し始めた。
「私は彫刻収集を趣味にしている、セロンと言います。主に石像が好きで、屋敷のあちこちに飾っているんです。それを眺めるのが楽しみなのですが‥‥先日、いつもの様に石像を見て回っていたら、位置が変わっていることに気づきまして」
「全部ですか?」
「いえ、特に気に入っている三体の女性像がありまして。それを、玄関に三体並べて飾っているんです。それらが、夜と朝とで位置が変わっていて‥‥初めは、使用人が掃除の都合か何かで勝手に動かしたのだろうと思っていたんです。ところが、誰に聞いても触っていないと言って。その日は私も勘違いだと思っていたんですよ? けれど、それが次の日も、その次の日も続いて‥‥三日続いたら、誰だっておかしいと思うでしょう?!」
「それで、セロンさんとしてはその犯人が知りたいというわけですね?」
 受付の問に、セロンはこくりと頷いた。
「おそらく、犯人は悪戯目的でやっているのだと思うのです。今は位置が変わるだけですが、その内傷でもつけられたらと思うと心配で心配で‥‥お願いです、悪戯をしている犯人を捕まえてください! 報酬も用意しましたから!」
 そう言って卓の上に金で膨らんだ袋を置いて、セロンは受付をじっと見つめた。
「一応お尋ねしますが、セロンさんは犯人に心当たりはないんですか?」
「ないですよ! あっ、ただですね、メイドが石像が動く所を目撃していまして。‥‥彼女の話によると、犯人は複数いたそうです。背が低かったので、子供かもしれないと言っていましたが‥‥子供の力で石像を動かすなんて、人数がいても無理だと思うんですがね」
「子供かもしれない、と‥‥他には何も?」
「そうですねぇ‥‥ああ、変な仮装していたとも言っていました」
「仮装?」
 受付はここまでを羊皮紙に書き留めながら首を傾げた。
「コウモリみたいな羽根を背中につけて、尖った尻尾をつけていたそうです。何の仮装なんでしょうかねぇ?」
「‥‥!」
 セロンは不思議そうに首を傾げていたが、受付は思わずペンを持つ手を止めていた。
(コウモリみたいな羽根に、尻尾‥‥?)
 そんな特徴を持ったものを、彼は知っていた。このウィルでも、目撃証言がないわけではないカオスの魔物。しかし、それだとすると行いがささやか過ぎる気もするが‥‥
「‥‥どうかしましたか?」
 受付の顔色が変わったことにセロンも気付いたらしい。訝しげな視線に、受付は慌てて何でもないと首を振った。
「いえいえ、何でもないですよ。ええ、わかりました。犯人探しということで、依頼を貼り出しておきますよ」
「本当ですか?! いやあ、ありがたいです! あっ、受けてくれた冒険者の方には、寝る場所も食事も三食こちらでご用意しますとお伝え下さい」
 セロンは喜色を浮かべると、いそいそとギルドを後にした。頭から疑ってかかっていた受付の態度が変わったことには、幸か不幸かセロンは気付かなかった。
「‥‥子供の悪戯だったら、いいんだけどなぁ」
 依頼内容を書き込んだ羊皮紙を見下ろして、受付はそんな言葉を呟いた。

●今回の参加者

 eb4139 セオドラフ・ラングルス(33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4333 エリーシャ・メロウ(31歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 ec4600 ギエーリ・タンデ(31歳・♂・ゴーレムニスト・エルフ・アトランティス)

●リプレイ本文

●まずは状況確認を
「‥‥当日の状況、ですか?」
「ええ。どんなことでも結構ですから、お話いただけますかな?」
 セロンの邸にて掃除に励んでいたメイドは、セオドラフ・ラングルス(eb4139)とギエーリ・タンデ(ec4600)に声を掛けられて手を止めた。
「確か、真夜中の0時頃だったと思います。私は戸締りを確認しようと思いロビーへ行って‥‥そこで、小柄な人影が見えたような気がしたのです。おかしいなと思いまして、よくよく目を凝らしてみたらその人影たちが旦那様の女性像を動かそうとしておりまして‥‥」
「小柄な影というのは?」
「子供だと思うんですよねぇ‥‥5人くらいいたかしら。皆で一つを囲んでいました。私、びっくりして思わずコラッ、て怒鳴っちゃって」
「えっ、怒鳴ったのですか?」
 魔物かもしれないのに、とは言わずにギエーリが驚いてみせると、メイドは「はい」と答えて頬に手を当てた。
「怒鳴ったら、皆二階に逃げたんです。叱ってやろうと思って追いかけたんですけれど‥‥」
 そこで一旦区切って、彼女は首を傾げた。
「その子たち、どこにもいなかったんですよ」
「‥‥ほほう。それは、不思議なお話ですね」
「戸締りはしていなかったので?」
「していましたよ。ですから、不思議で‥‥そうなんですよ、不思議なんです。玄関にも裏口にも鍵がかかっていたのに、あの子達はどこから入って、どこへ行ったのかしら‥‥」
 自分で口にした事に今更恐怖が湧いてきたのか、メイドは自分の腕を抱き締めてぶるりと震えた。

 加藤瑠璃(eb4288)とエリーシャ・メロウ(eb4333)はセロンと共にロビーに居た。彼女達の目の前、階段横の壁際には壺を抱えた女性の像が三つ、並べて置かれている。真ん中の像だけが正面を向いていて、左右の像はそれぞれの顔を中央へ向けている。そうして並べることで、三対の女性像が同じ一点を見ているような印象を見るものに与える。
「これが、例の石像です」
 セロンが手で示して、瑠璃とエリーシャはその三体をじっくりと見た。三体とも背丈はそう変わらず、装飾の類は一切ついていない。
「見た目は特に変わったところはないわね」
「そうですね‥‥持ち上げてみてもよろしいですか?」
「構いませんが、大事に扱ってくださいね?」
 心配そうな顔のセロンに頷いて、二人は一体を両側から挟んだ。腕にかかる重みはずしりとしていて、簡単には動きそうにない。子供が動かすことは不可能な重さだった。屈んだついでにエリーシャは床を確認した。引き摺ったような跡は、ついていなかった。
「ほほう、これが件の石像ですか!」
 ギエーリの歓声に近い声が耳に届いて、エリーシャは立ち上がってそちらを見た。メイドへ事情を聞きに行っていた二人が、揃って戻ってくる所だった。
「いやぁ、美しいですねぇ。一体いつ頃の、どなたの作なので?」
「実は、私も詳しくはわからないのですよ‥‥市で売られているのを見て一目惚れしましてね、勢いで買ってしまったのです」
「おや、そうなのですか」
 セロンは申し訳なさそうにすみません、と呟いた。
「何らかの曰くがあったとしても、セロンさんにはわからないということになりますな」
「狙う理由は、犯人を捕まえて聞いてみるしかないわね」
「そうですね。‥‥目撃者からの収穫は如何でしたか? ラングルス卿、ギエーリ殿」
「ああ! なかなか面白い話を聞くことが出来ましたよ」
「不思議な話、とは?」
 首を傾げる女性陣に、ギエーリは少々大袈裟な調子で聞いたことを話した。
「ふむ‥‥出入りは不可能な状況なのに、犯人はどこかへ消えた、と」
「面白い話でしょう?」
「面白いというか、彼奴等の仕業という可能性が高まりましたね」
 カオスの魔物は様々に姿を変えるという。メイドが見たという姿では大きくて通り抜けられないような隙間でも、虫に変身すれば進入は易い。小さな隙間ならば、いくらでもある。
「‥‥気を引き締めてかかった方が良さそうですな」
 セオドラフの声に、残りの三人は大きく頷いた。

●張り込み
 夜の張り込みに備えた仮眠をとった後、彼らはそれぞれに打ち合わせた場所へと身を潜め、侵入者が現れるのを、あるいは石像が動き出すのを待っていた。
「石像が勝手に動き出したら、面白いのですがねぇ」
 二階に潜んでロビーを伺いながらギエーリがそう呟いて、反対側に身を潜めていた瑠璃は視線を向けた。ギエーリの指には『石の中の蝶』があり、それが反応した時には真っ先に飛び出せる場所に瑠璃はいる。
「詩人としては、ということかしら?」
「ええ。心が躍るお話ですよ」
「勝手に動くんだったらね」
 瑠璃の言葉に、「そうですなぁ」とギエーリは苦笑した。その視線がロビーへと移る。
「さて、どうなりますやら」
 瑠璃もつられるように下を向いた。蝋燭の明かりでぼんやりと照らされているロビーには、まだ何かの気配もない。外の闇は一層深くなっているから、何事かが起きるとすればそろそろか。
「‥‥ああっ!」
 小声で、しかし驚いたようなギエーリの声に彼の方を見る。彼の指にはめられていた『石の中の蝶』が、ばたばたと激しく羽ばたいていた。
 確認するや、瑠璃は自身にオーラエリベイション、続けてオーラマックスをかけて一気に階段を駆け下りた。

●戦闘開始
 セオドラフは、一階物置の扉の影に身を潜めていた。その視線の先は、三体の女性像がしっかりと捉えられている。
「メイドの話では、そろそろの筈ですが‥‥さて」
 カオスの魔物か、それとも子供の仕業か。息を潜めて見守る彼は、小さな虫が女性像に群がるのを見とめた。一体に群がったそれらの姿が、見つめる先で歪んでいく。現れたのは、背中に羽を生やした小鬼が五匹。それらが、石像へ手を伸ばして持ち上げようとしている。
「出ましたね」
 呟いて、セオドラフは静かに身を起こした。気付かれないように近付いて、右手の鞭を持つ手に力を込めて、振るう。しなやかに跳ねた鞭は、接近に気付いていなかった小鬼の一体を縛り上げた。
「ケェ!? 何だ?!」
「こういうことよ!」
 仲間が捕らわれたことに驚いて、残りの四匹が石像から離れた。そこへ、一気に階段を駆け下りてきた瑠璃の剣が振り下ろされる。魔力を持った剣は、小鬼の体を一息に切裂いた。
「お見事! では、私も‥‥」
 左手のレイピアで、セオドラフも近くにいた一匹を仕留める。完全な不意打ちに、小鬼たちは戸惑いのままに倒されていく。
「あと一匹!」
 また一匹を瑠璃の剣がとらえて、残りは一匹。
「くッ‥‥くそぅッ!!」
 劣勢明らかな状況に、小鬼は舌打ちして玄関へ走った。そこから外へ逃げるつもりなのだろう。だが、その可能性はこちらも予想の内だった。
「逃がしはしないっ!!」
 一人屋外に身を潜めていたエリーシャ。外へ逃げることを想定して逃げ道を塞ぐ役を買って出たエリーシャが、逃げる小鬼の目の前に立ちはだかった。
「ぐっ?!!」
「はあっ!」
 小鬼は彼女に気付くのが僅かに遅れた。その遅れが命取り。エリーシャの槍は、向かってくる小鬼を見事に討ち取った。

●そして解決へ
 捕らえた一匹を除いた全てを討ち取った彼らは、直ぐに依頼主であるセロンと目撃者のメイドを呼びに行った。
「‥‥これが、カオスの魔物ですか?」
 戦闘の間は下がっていたギエーリも降りてきて、鞭で縛り上げられ身動きの取れない小鬼を見つめた。セロンとメイドは背後に庇っているが、魔物の姿に二人ともすっかり青褪めている。よもや、こんなものが犯人だとは思いもしなかっただろう。
「確かに、メイドの情報と合っていますね」
「目的がわからないけどね」
 オーラマックスの効果で受けたダメージをオーラリカバーで回復しながら、瑠璃も小鬼へ目を向けた。小鬼は苦い顔で、自分を見る人々を睨み付けている。
「それを聞くために捉えたのです。さあ‥‥目的を話してもらいましょうか」
「目的ぃ?」
 セオドラフに問われて、小鬼は鼻を鳴らした。
「そんなの、簡単さ! そいつが楽しそうに石像を愛でてるから、悪戯してやっただけさ!」
 視線を向けられたセロンは、小さく「ひぃ」と声を上げてメイドと共に更に後へ下がった。
「それだけの理由なの? ‥‥本当に?」
 回復を終えた瑠璃は眉を寄せて小鬼を見下ろした。
「そうさ、ケケッ! 皆青い顔してて、面白かったぞぅ!」
「‥‥どうも、納得しかねるわね」
「瑠璃卿の目には、ささやかにすぎると?」
「ええ。でも、石像を動かしている以外には怪しい動きはなかったわ」
「そうですな」
 セオドラフも、怪しい動きがなかったという瑠璃の意見に同意を示した。
「本当に、悪戯目的だったということでは?」
「まあ、そういうこともあるんでしょうけど」
「それで、こやつはどうしますか?」
 エリーシャは捉えられたままの小鬼を示して皆に尋ねた。カオスの魔物を街中で逃がすわけにはいかないのだ、倒してしまうべきだろう。鞭を握り締めていたセオドラフは、レイピアを小鬼の首に当てた。
「ここで討ち取るべきでしょうな。セロンさん、よろしいですかな? 何か聞いておきたいことなどは、」
「ないですよ!! た、倒してしまってください!」
 邸の中に魔物がいるという状況だけでセロンには十分恐ろしい。セオドラフは頷いて、左手を持ち上げた。
「悪さをした報いということです」
 さらば、と小鬼の首へと切っ先が向けられる。固く束縛されながらも逃げようともがいた小鬼だったが、逃げることは敵わずセオドラフのレイピアに貫かれた。

 こうして、街中に現れたカオスの魔物は冒険者達の手で見事打ち倒された。翌日からはセロンのお気に入りの三人の女性の石像が勝手に動き出すという事は起こらなくなったと言う。