【爺さんと僕〜ほら吹き爺さんの遺言状】
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:まどか壱
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 99 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月18日〜08月21日
リプレイ公開日:2008年08月26日
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●オープニング
●プロローグ
僕の爺さんはほら吹きだった。子どもの頃からほらばかり吹いて、大人になって、年寄りになってもまだほらを吹いては憤慨する周りの人達を見て腹を抱えて笑う。そんなどうしようもない爺さんだった。孫の僕も、何度爺さんに泣かされたことか。二十を越えたあたりで数えることは諦めた。
そんな爺さんもやはり人の子。先日ついに天命を全うして、精霊界へと旅立って行った。ろくでもない嘘に騙されてばかりいたけれど、いざいなくなってみれば寂しいもので。爺さんの遺品を整理しながら、僕は生前の爺さんのろくでもない所業の数々を思い返して感傷に浸っていた。
●僕とロイスと遺言状
「そして爺さんのろくでもない思い出に浸りながら空けた薬箱の下に、これが貼ってあったというわけだ」
「‥‥はあ」
件の爺さんの孫であるコリンは、そう言ってロイスの目の前に薄い木片を突きつけた。ロイスは綺麗とは言えない字が記された木片を一瞥し、友人へ半眼を向けた。
「で、それでどうして俺がお前の家に呼び出されてるんだ」
「わかるだろ? ‥‥読んでくれ。お前、字読めるだろ」
コリンは文字が読めないし、書けない。それは別に珍しいことでもなんでもなく、ウィルではむしろ多数派だ。対して、ロイスは職業柄文字の読み書きは修得していた。何しろ、ロイスは冒険者ギルドの受付を仕事としているのだ。
「それだけか。いいけどさ‥‥遺言状ってやつかな」
その為だけに呼ばれたということに多少不満そうにしながら、ロイスは木片に記された文字を目で追い、長くない文章を口に出した。
「しりとりしよう」
「‥‥は?」
「しりとりしよう。‥‥そう書いてある」
「しりとりって‥‥誰と? お前とか?」
疑問符を浮かべるコリンの手から木片を取り上げて、ロイスはしげしげと眺めた。そして裏返して、納得して頷いた。
「一人目は隣の家の嫁」
「隣の家の嫁、って‥‥フェイレイさん?」
「二人目はミルク屋の娘」
「イングリッドか。ん? おい、もしかして他にもあるのか?」
頷いて、ロイスは裏面に記されている全てを読み上げた。
一人目は隣の家の嫁。
二人目はミルク屋の娘。
三人目は宿屋の女将。
四人目はパン屋の孫娘。
五人目はコリンの母。
「‥‥フェイレイさん、イングリッド、リノさん、ドロシーちゃんに、母さん?」
「ローレッタさんだな」
「皆でしりとりするのか?」
「落ち着け。もう一文残ってる」
「何だ。もったいぶらずに早く言え」
「わかった。えー‥‥皆、いい尻だ」
「‥‥遺言状にしてはふざけ過ぎだぞ、ロイス」
「本当にそう書いてあるんだよ」
渋い顔でその失礼な文章をコリンに見せたが、文字の読めないコリンには本当に書いてあるのかどうかはわからない。
「何なんだ? 爺さんの遺品なんだから、書いたのは爺さんなんだろうけど‥‥」
「暗号だったりしてな」
木片を眺めながら、ロイスが冗談っぽく呟いた。「暗号?」と反復したコリンに頷いてみせる。
「遺言状にしちゃあ変な文章じゃないか。解いたら、爺さんの残した宝の在り処がわかったりとか‥‥なんてな」
ははは、という笑い声はロイスの文しか聞こえなかった。おや、と首を傾げてコリンを見、ロイスは言わなきゃ良かったと後悔した。
「暗号‥‥爺さんの残した宝、金、‥‥財宝?」
「おい?! 本気にするなよ、冗談で言ったんだぞ? あの爺さんに限って、お宝なんか持ってるわけないじゃないか!」
目を覚ませ、と言いながら体を揺すったが、コリンには既に声は届いていないようだった。
「よし! 暗号を解いて財宝を手に入れよう! 協力してくれるよな? 友よ」
「嫌だ。俺は仕事があるんだよ。だから目を覚ませ!」
「むう。‥‥わかった、じゃあ、ギルドに依頼だ! 受け付けてくれ、受付係のロイス君!」
「‥‥」
コリンの顔は、まだ見ぬ財宝にすっかり酔っていた。何を言っても無駄‥‥死んだ後までも爺さんに遊ばれているのだと思い知らなければ目は覚めないだろう、と友人としての勘が告げていた。
「‥‥泣きを見ても、知らんからな」
喜ぶコリンを見て、ロイスは深々と溜め息をついた。
●リプレイ本文
●謎解き開始
依頼を受けてコリンの家を訪れた冒険者達。ゆっくりと挨拶をする間も惜しんで、コリンは彼等をリビングへと案内した。
「早速本題に入るぞ‥‥これが、爺さんの残した暗号文だ!」
テーブルを囲むようにして椅子に腰掛けた六人の前に、コリンは例の木片を置いた。
「僕は字が読めないので、皆さんに全面的にお任せする。よろしく‥‥あ、遠慮なく触っていいから」
「じゃあ、遠慮なく」
最初に手を伸ばしたのはラマーデ・エムイ(ec1984)。両面を満遍なく眺めて、隣に座っていたミーティア・サラト(ec5004)へ手渡した。
「お祖父さまは、読み書きがお出来になったのね」
「どんなお仕事に就かれていたので?」
ミーティアから木片を受け取りつつ、ギエーリ・タンデ(ec4600)がコリンに尋ねた。コリンは少し首を傾げながら答えた。
「えー‥‥確か、ロイスと同じだ。ギルドの受付係をやったことがある、と言ってたな」
「それならば、読み書きが出来るのも納得だな。ちなみに、どんな方だったんだ?」
「そりゃあ、ほら吹きだよ」
尋ねたリール・アルシャス(eb4402)が眉を寄せ、コリンは言葉足らずに気付いて付け足した。
「僕の実体験だと‥‥例えば、自分のことを『盗賊団の頭だったんだ』とか、『没落貴族の跡取りなんだ』って言ってみたりとか。後は何があったっけな。『百人の愛人がいる』なんてのもあったな。それにこっちが大きな反応を返すと『嘘だ』って言って笑うんだよ。一定の時期を過ぎたら、頭から信用しなくなったけど」
幼児期のからかわれた記憶の数々を思い出してコリンはむすりとして、それから溜め息をついた。
「‥‥まあ、思い返せば夢のある話ばっかりだったんだ。皆慣れてしまったから、しょうがない爺さんだ、で済んでたしな」
「ほんとにろくでもないほらしか吹いてないなら嫌われるものだろうからね。へんな言い方だけど、あんたのおじいさんはまともなほら吹きだったんじゃないかな」
コリンの話を聞いて、アシュレー・ウォルサム(ea0244)はそう苦笑しながら加藤瑠璃(eb4288)に木片を渡した。両面を眺め、瑠璃はテーブルの中央へとそれを戻した。木片は一巡し、コリンは六人の顔を見回した。
「どうだ? 解けそうか?」
「しりとりしよう、って書いてあるんだから、名前の書いてある人達にしりとりしてもらえばいいのよ!」
真っ先に口を開いたのはラマーデだった。
「生前にお願いされてるんじゃない? こう聞かれたらこう答えて欲しい、って」
「なるほど‥‥だけど、そんな単純なことで合ってるのか?」
「聞いてみたらいいわよ。ちなみに、コリンさんが一番目のフェイレイさんに伝える言葉は、裏面の意味深な言葉から『尻』ね」
「まあ、聞いてみればわかるか‥‥」
「あたしたちは待ってるわ。いってらっしゃ〜い♪」
「よし、一先ず行って来る!」
聞くだけ聞いてみよう、とコリンは彼等を残して家を出た。
「違うみたいだ‥‥」
暫くたってから戻って来たコリンは、何故か頬に赤い痕を付けていた。
「どうしたのね?」
「‥‥フェイレイさんに聞いてみたんだけど不思議そうな顔してて‥‥もしかして順番が違うのかと思って五人全員に聞いたんだ。そうしたら、イングリッドのやつに引っ叩かれた‥‥」
「このスケベ!」とか何とか言われたらしい。多分説明の仕方が悪くて、変なことを言われていると勘違いされたのだろう。むすりとして頬を押さえるコリンを見上げて、何故かラマーデが目を輝かせた。
「ねえ、コリンさん」
「なんだい、ラマーデさん」
「どうしてイングリッドさんだけ呼び捨てなのー?」
明らかにわくわくしているラマーデの顔を見て、コリンは思わずえっ、とこぼした。
「どうしてって‥‥同い年だからだ」
「‥‥それだけなの〜?」
怪訝そうに答えたコリンに対して、ラマーデはつまらなそうな顔をした。余計にわけがわからなくなったコリンだったが、今は解読が先だ。
「えー、とりあえず『皆にしりとりしてもらう』案は違うらしい。他の答えはないか?」
「しりとりだから、『シ』と『リ』を取ってみるというのはどうかしら?」
瑠璃が再度木片を手に取って言った。
「名前から『シ』と『リ』を取って並べると、フェイレイ、イングッド、ノ、ドロー、ローレッタ‥‥で?」
「無理やり解釈するならば‥‥『幸運な時の(イングッド)フェイレイさんがルーレット(ローレッタ)でドローになればいい』、とか」
「‥‥むぅ、流石にそれは‥‥」
「無理やりですねぇ」
「フェイレイさん、ルーレットやらないしな‥‥どうだ? 他の解釈は?」
コリンは見回して尋ねたが、沈黙だけが帰ってきた。
●「しりとり」の正解は
「わかった!!」
沈黙を破って声をあげたのはアシュレーだった。期待のこもった視線が集まるのを待ってから、アシュレーは自信満々に言った。
「この遺言状には女性の名前が書かれており、なおかついい尻だと書いてある。いい尻はいいものだ、撫でたくなる‥‥そう、つまりその女性陣の尻を撫でればよかったんだよ!!」
『‥‥‥‥‥‥』
一瞬の、気まずい沈黙が降りた。
「‥‥と、いう冗談はさておき」
こほんと咳払いをし、気を取り直してアシュレーは一同をぐるりと見渡した。
「おそらくは、ほぼ全員が既に気付いていると思うけど」
「そうね」
「井戸は何処にあったかしらね」
「庭にそれらしきものが見えましたよ」
「では、調べてみるか」
「行こう、行こう〜!」
合図をしたように皆が一斉に立ち上がって、玄関へ向かっていく。コリンは取り残されて、「え?」と呟いた。
「ま、待ってくれ! 急に井戸とはどういうことだ? 謎が解けたのか?!」
一旦足を止めて振り返った彼らは顔を見合わせて、コリンに視線を集めた。
「コリンさん、木片に書いてあった言葉を思い出してみてね」
「言葉? しりとりしよう、か?」
「そう、それよ。つまり、『しり』を取ればいいのね」
「最後の文字を繋げて読むと、どうなる? コリン殿」
「最後の文字‥‥『イドノータ』?」
「‥‥知り合いにそんな名前の人、いる?」
瑠璃に問われて、コリンは頭を振った。
「それなら、伸ばす音を外してみたらどうかしら?」
「ドロシーさんは、『シ』を最後の文字、お尻として見てみたら、どうなりますかな?」
「シだとすると、イ・ド・ノ・シ・タ‥‥‥‥ああ?!」
「わかったみたいだね」
「井戸の下か! そんなところに財宝が‥‥爺さんめ! やるじゃないか」
やっと答えに辿り着いたコリンは、拳を握り締めると俄然目を輝かせながら六人を追い越して外へと駆け出して行った。その姿を見て、彼等はやれやれと溜め息をついた。
「全然気付かなかったわね〜」
「そうね。わざと変な推理をしたのに、全部真に受けてたわ」
「からかいがいのある人なのね」
「だからおじいさんも、ずっとからかってたんだろうね」
苦笑を浮かべて、彼等はコリンの後を追いかけた。
●いよいよ財宝とご対面
庭にある井戸は既に枯れていて、周りは雑草が生い茂っている。桶のついた滑車はまだあるけれど、すっかりぼろぼろになっていた。
「よーし、この下だな! 待ってろ財宝!」
井戸の縁に手を掛けて、それからコリンは追いかけていた彼等を振り返った。
「‥‥すまん。誰かロープとか梯子とか持ってないか? あと、灯りとスコップを貸して欲しい」
「あるよ」
そう言って、アシュレーがバックパックから縄梯子を取り出した。続いて瑠璃はスコップとランタンを取り出してコリンに差し出した。
「貸すわ。‥‥でも、アトランティスでは穴を深く掘りすぎるとカオスの魔物が出るんでしょ?」
「そうね。気をつけてね」
「ああ、わかった」
頷いて、コリンは早速梯子に足を掛けて慎重に降り始めた。
「‥‥何が出るかしら?」
「さあ‥‥」
「果たして金銀財宝か、それとも洒落の効いた逸品か‥‥楽しみですなぁ!」
「見つけたら、お祖父さまのお墓に報告に行ったほうがいいと思うのね」
そんな会話を交わしていると、井戸の中から「ああっ!!」というコリンの歓喜に似た声が上がった。
コリンが見つけたのは、いかにもそれっぽい箱だった。宝箱と聞いて真っ先に想像してしまうような、そんなオーソドックスな箱である。抱えて梯子を上るのは少々苦しいので、滑車を使って上まで上げた。
「うぅーむ、何か入っていそうだな」
借り物のスコップとランタンを瑠璃に返した後、コリンは宝箱を見下ろして腕を組んだ。
「財宝が入っているとしたら、小さいような気がするけど‥‥」
「一体何が入っているのでしょうなぁ」
「楽しみね〜!」
「よし、では‥‥開けるぞ」
神妙な顔でコリンは箱に手を伸ばした。ごくりと唾を飲み込んで、緊張しながらゆっくりと蓋を持ち上げていく。皆が固唾を呑んで見守る中、とうとう中身が露になった。
「‥‥こ、これは‥‥」
コリンは箱の中にあったものを見て目を見開いた。
「‥‥また木片?」
そう、箱の中には木片が一つ入っていただけだった。その木片の片面には、また何やら文字らしきものが書いてある。
「何て書いてあるんだ?」
「ハズレ、と‥‥」
「‥‥ハズレ?」
「つまり、財宝はないということなのね」
ミーティアがより分かりやすく言い直すと、コリンはぽかんと六人の顔を順繰りに眺めた。
「‥‥ない?」
皆を見つめながらの問いかけに、六人はうんと頷いた。
「と、いうことは‥‥僕はまたしても、爺さんにしてやられたということか?!」
再び六人が大きく頷くのを目にして、コリンの手から木片がするりと落ちた。がっくりと肩を落としたコリンは、空の宝箱の底を見下ろしたままで一言、
「‥‥‥‥やられた‥‥」
とだけ呟いた。
後日報告を受けたロイスは、財宝の夢破れ意気消沈の友の肩を叩いてこう言ったという。
「だから言っただろう、友よ。‥‥泣きを見るってさ」
コリンは何一つ、言い返すことが出来なかった。