気の抜けたエールを守れ!
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■ショートシナリオ
担当:まひるしんや
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月14日〜07月19日
リプレイ公開日:2004年07月26日
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●オープニング
ここはキャメロットの某所にある、酒蔵。
日々大量に消費されるエールなどの酒の一部は、ここから出荷されている。
一面に並ぶ樽、樽、樽。酒場などでも多くの樽を見るが、此処にはそれ以上の数が並んでいる。
その、その酒樽に夜半忍び込むものがいた。
『ケケッ! 良いにおいがするケケ! こいつはきっと美味いビールだケケ!』
だが、何かがきしむような音に似た声はすれども姿は無い。
と、樽の中に何かが落ちる音。同時に奇妙な声が歓声に変わる。
『美味い、美味いケケ! やっぱりビールは泳いで飲むに限るケケ!』
暫くすると、違う樽で似たような音が響き、歓声が上がる。
そうして暫くの時が過ぎて‥‥
『ケ、ケケェ!? なんて不味い酒だケケ!』
突如、不快そうな声が響いた。同時に、最後に水尾音が響いた樽から、現れる翼の生えた影。
『こんな気の抜けた酒、不味くて飲めないケケ! こんなもの、こうしてやるケケ!!』
どうも気の抜けた古いエールの樽に入っていたらしい。不機嫌極まりない声でそいつは叫ぶと、あろう事か鋭いつめを振るって樽のタガを傷つけ、次々と古いエールの樽を壊してゆく。
『ケケェ! 満足だケケ!』
ひとしきり壊し終えて満足したのか、再び上質のエールの樽に飛び込む影。
こうして、次の日の朝まで酒蔵の持ち主が卒倒しそうな暴虐が繰り返されるのであった。
こんな事が起これば、次の日こんな依頼が出されるのも無理は無いといえるだろう。
「酒樽の警備?」
「そうだ。なんでも此処の所、ある酒蔵が荒らされてるらしい。上質のエールは好き勝手飲まれて、逆に気の抜けたエールなんかは樽ごと壊されてるらしいんだ。そこで、お前さん達の出番だな。夜通し警備して酒樽を守ってやってくれ」
何でもその犯人を見ようと、酒蔵の持ち主が一晩中監視していたそうだが、声はあっても姿は確認できなかったらしい。酒好きな点からも考えて、この班員はグレムリンだろうと親父は予想する。
「グレムリンってのは、インプににてるんだが、おがなくて代わりに毛むくじゃらでな。姿を消す魔力をもっっているんだ。酒好きなのもあってるから、たぶんこいつの仕業だろう。姿が見えない分厄介かもしれないが、がんばってみないか?」
冒険者であれば、気の抜けたエールには(程度の差はあれ)お世話になっているはずだ。となれば、普段飲んでいる感謝の念もこめて依頼を受けるべきかもしれない。
酒蔵をグレムリンから守るこの依頼、果たして受けるべきだろうか?
●リプレイ本文
●姿なき来訪者
草木も眠る丑三つ時‥‥は、異国の表現。
だがまさしくその時間帯に、そいつは今日も現れた。
『ケケ、今日はあっちの樽から攻めて見るケケェ!』
いや、表れていない。
微かな羽音と、奇妙な声とが明り取りの天窓から降って来るのみ。
だが確かにそいつはやってきて、樽の立ち並ぶこの酒蔵にやってきたのだ。
『ケケェ! まずはこいつからいくケケェ!』
ペタ、ペタと何かが歩くような音。
だが、この声の主は気付いているだろうか?
自身が歩いた後に地面に残る確かな足あとを。
先ほどから外から聞こえるふくろうの鳴き声を。
そして無数の樽の陰に潜むその者達を。
そう、この時点で既に声の主‥‥エール好きの魔物、グレムリンの運命はほぼ決まっていたのであった。
(「グレムリン1匹か‥‥楽な依頼だな」)
羽音を聞いたローマ生まれの神聖騎士、ルシフェル・クライム(ea0673)は、酒蔵の外で密かにほくそえんでいた。
酒蔵が荒らされるというこの依頼、ギルドの親父からおおよその犯人の正体を聞いていた感想は、そういうもの。
姿を隠すという厄介な能力はあるものの、それさえ念頭においておけば、さほど対応に苦しむ相手ではないということだろう。
ルシフェルは視覚も聴覚も鋭い。夜空といえども星明りや月明かりはあるわけで、羽音だけ響いて姿を現さないような存在にも気付く事が出来る。
そして、そのときがやってきたのだ。
羽音に気付いたルシフェルは、それが天窓付近に近寄るのを確認し、ふくろうの鳴きまねをして酒蔵の中の仲間達に合図を送った。
レンジャーのアリエス・アリア(ea0210)は黒装束に身を包んで樽の陰に潜んでいた。
(「主よ 憐れみたまえ」)
ふくろうの声が聞こえると、密かに持っている「銀の十字架」を握り、グレムリンの罪の許しを願う。
その手には捕獲用に借り受けた網を持ち、何故か足の間にはダーツをはさんでいたりする。
網を持つということは、グレムリンに忍び寄って捕獲するつもりなのだろう。
足の間にダーツなど挟んでいたら、忍び歩きは難しいはずだが、彼女はそれを得意としている。
十分にこなせるはずだった。
そして、地面につく足跡。
事前にアリエスらが準備しておいたモノである。
グレムリンは姿を消す魔力がある。だが、自分以外のもの、例えば小麦粉などが付着したらどうなるだろうか?
その考えで樽の縁や地面に小麦粉をまいておいたのだが、うまくいっているようだ。
今の所仲間達もグレムリンに感づかれた様子もない。
冒険者たちはそのときが来るまで、グレムリンの残す足跡を目で追いながらじっと待ち続けた。
●捕獲作戦開始
そして、そのときが訪れる。
歓声と共に響く水音。
瞬間、
「打てぇっ」
隠れていたユーネル・ランクレイド(ea3800)の合図と共に、アリエスや同様に網を持ったフランク王国出身のナイト、レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)、華国の武道家、崔煉華(ea3994)が、同様に樽の陰から飛び出し樽に網を投げかける。
『ケケェ!?』
姿を消しているグレムリンの驚きの声。
その姿は未だ見えないが、かけた網が何も無いのに樽の淵で持ち上がっている。
そこへ、生命感知の魔法で居場所を特定したクリストファー・テランス(ea0242)と
「食べ物や飲み物で遊ぶのはダメネ! とっ捕まえて反省させる必要があるネ。私は怒ってるのヨ!」
食べ物を粗末にするグレムリンに怒り心頭の曹天天(ea1024)、
「‥‥無駄遣いにならないよう、ちゃんとこの仕事でお返ししないと」
そして崔とが、糊状の液体と目の荒い小型麻袋に小麦粉を仕込んだ物を投げつける!
命中。すると、空中に毛むくじゃらの小悪魔の姿がうっすらと浮かび上がった。
なるほど、コレがグレムリンなのだろう。確かにインプに良く似ている。
今はもがいているが、複数の網をかけられた状態では、中々抜け出す事はできない。
そこを取り囲む冒険者達。
「な、何するんだケケェ!」
「うるさい、グレ。酒の飲みかたも知らんような奴が物を話すな」
一応人の言葉で抗議するグレムリンに対し、ユーネルはぴしゃりと言い放ち、ダークネスの魔法を唱える。
途端に何か黒い塊と化すグレムリン。
「何も見えないケケェ!」
視力を奪われて余計に無力化。さらには、酒蔵の外から駆けつけたルシフェルがコアギュレイトでその自由を完全に奪う。
こうなると、もはやグレムリンに出来るのは‥‥そう、たこ殴りにされる事だけである。
樽から引き上げられ、地面に転がされたグレムリン。
その後コアギュレイトとダークネスの効果が切れるまで、冒険者たちに素手で徹底的に修正を受けるのだった。
●酒盛りとお掃除と
「‥‥そんなに、酷いコトしてないよぉー‥‥っ」
アリエスの制止と、たこ殴りにも疲れてきた冒険者達。
とりあえずおとなしくなったグレムリンを取り囲み、何故か酒の飲み方について説教を始めていた。
「お前がぶちまけてた気の抜けたエールだ。こういう時にはいい酒だろう? それをお前は‥‥」
強い酒と気の抜けたエールを交互に飲ませるユーネル。既にこちらもアルコールが入っているためか、目が据わっていた。
その前には簀巻きにされた上、正座させられているグレムリン。
無理矢理に飲まされている為、目が既に明後日の方向を向いていた。
話が聞こえているかどうかも妖しい状況だ。
「美味い酒の呑み方とはな、気の合うもの同士が集って肴を食いながらわいわいとやるもんだ」
ちなみに、周囲の冒険者たちも、既にアルコールに手を出し始めている。
依頼主の厚意で、酒は十分に提供されているのだ。こういうときに飲まないのは損である。
「聞いているのか? 無視するなら、樽に蓋をして中に閉じ込めて6分間、オーラソードで『海賊処刑の刑』のあと、テムズ川に流す」
もっとも、アルコールの所為か危険な事を口走るレーヴェや、
「んふふっ、食べ物を粗末にするやからは『くすぐり地獄』の刑ヨ」
微妙に楽しそうにつぶやく曹を見る限り、宴に参加させないほうが良かったと思うが、もはや後の祭りだ。
もう手のつけようの無いところまできている。
もっとも、酒盛りには参加しない面子も居る。
神聖騎士のクウェル・グッドウェザー(ea0447)は、当初は酒盛りに参加していたものの
「日ごろ結構お世話になっている気の抜けたエールにご恩を返す良い機会ですね」
今は浄化の魔法でグレムリンの被害にあった酒樽の浄化に努めていた。
グレムリンが泳いだ事で商品価値としてはもはや無いが、一応のめるものにはなる。
後で樽に詰めてお土産にしてもらうつもりだった。
その横では、クリストファーが何気に小麦粉まみれになった酒蔵の掃除に取り掛かっている。
依頼主からすれば、ありがたい話だ。
とはいえ、一人での掃除は大変。恐らく、酒盛りに参加している仲間たちも、後に手伝わされる事だろう。
とはいえ、依頼は無事に完了したのだ。
あとは依頼主にグレムリンの処遇を任せるのみ。
結局グレムリンを巻き込んでの酒盛りは夜明けまで続き、その後の後片付けにさらに半日が費やされたりして‥‥‥お土産の発泡酒の樽を貰い帰路につく頃には、夕刻となっていたのだった。
その後、グレムリンは依頼人の酒蔵で強制労働に勤しんでいるそうである。
回りは大好物のエールばかり。傍目には喜んで働いているようにも見えるのだが‥‥無論何処まで持つかはわからない。
が、コレもまた一つの形であった。