●リプレイ本文
●初めてのお仕事
誰にでも、どんなことにも、初めての経験というものはある。
それは冒険者も同じ事だ。
山奥の村へ荷物を届けるというこの簡単な依頼を任されたのは、いずれもコレが初めての仕事となる新米冒険者達。
まさしく初めてのお使いである。
道中はさほど危険はないと伝えられているが、内心に不安はあるだろう。そして、まだ見ぬ冒険への期待が。
キャメロットの某所、用意された馬車の前に集まった冒険者たち。
彼等はそれぞれに、そんな不安と期待の色を浮かべていた。
「はじめての冒険で不安もいっぱいだけど、だからこそ足手まといにならないようにがんばらなきゃって思うの」
リン・ティニア(ea2593)はイスパニア生まれ。
初めての冒険をまえに不安はあるものの、気分はどこかピクニック気分だ。
道中は調理係をするつもりらしい。
「皆さん、真実を求めて旅している エイン・プリムローズです。趣味は、頭の上をちょこっと借りて、映らない物を見つけることです」
なにやら丁寧に仲間に向けて自己紹介をしているのは、シフールのエイン・プリムローズ(ea3337)だ。
バードにして通訳らしいが、趣味がいささか微妙だ。つまりは人の頭に乗るのが好きと言う事か?
ちなみに、今はファイターのヴェルス・ラインガード(ea5356)の頭の上に陣取っている。
微妙に気に入っているようだ。
そのヴェルスだが、こちらは
「今回の依頼は馬車の護衛か‥‥まぁゴブリン程度ならなんとかなるか。とりあえず今のうちに寝貯めしておこう‥‥」
と、先ほどから熟睡中。
仕事が始まるまで、体力温存に勤めるつもりのようだ。
「まぁ‥‥さっさとこんな仕事片付けちまおうかぁ」
ジャパンから来た浪人、狭堂宵夜(ea0933)は一見やる気はなさそうだが、その研ぎ澄まされた感覚は鋭い。
おそらく、道中のモンスターの襲撃を素早く察知してくれるだろう。
そんな様子でそれぞれに準備を整えた冒険者達。
荷物を馬車に積み終えると、早速山奥の村へと旅立つのだった。
●行きはよいよい?
夏の日差しが照りつける街道を、馬車は順調に進んでいく。
その周りには、冒険者たちがあらかじめ決めていた配置に着き、周囲を警戒している。
が、まだ周囲は平地や丘陵地。警戒するような相手はそうはいない。
時折すれ違う旅人や隊商も軽い挨拶だけで通り過ぎていく。
まさしく平穏無事。真夏の太陽だけがやや厄介なだけだ。
もっとも、それも日か暮れるまでの話。夜になれば、過ごしやすくなる。
そして、今は野営の時間だった。
「ヴェルス殿、ウィンベル殿、今宵は中々大量じゃったのう」
「はい、食べられる野草も一杯採れました」
ヴェルスと共に獲物を持って帰ってきたのは、ジャパンの志士、御剣赤音(ea5072)とエルフのバード、ウィンヴェル・アークライト(ea5236)だ。
この三人は周辺に襲撃警戒用の罠を作り、そのあとそれぞれに狩りを行って食料を確保してきた様子。
全員分の食料を賄うのにはやや足りないが、保存食を節約するには十分役に立っている。
一方、ジャパンの浪人、紅司(ea1547)は、
「セイヤッ!」
まき割を行っていた。
使っているのは愛用の日本刀。剣術の訓練のつもりか、スマッシュと呼ばれる技術をもちいている。
一応、近くを巡って燃えそうな枯れ木などを探してあり、燃やす物は十分あるのだが、これも訓練という事だろう。
まぁ、実はイギリス語が話せないため、とりあえずまきを割るくらいしか出来ないのも確かだ。
その横では、ジャパンの志士、銀白古立(ea5189)が先ほどから焚き火の前で火の番をしている。
いざとなれば、彼や御剣に一応通訳してもらえるのだが、こちらは今火の番や獲物の捌きで忙しい。
またその後も周囲の警戒等の任に当たらなければいけない。中々上手く行かないものである。
それでも、この近辺は見渡しが良い為、幾分気を抜けることは確か。
夕食後は、火を取り囲んでお互いのことを話したり、
「今日の疲れがとれますように、明日も一緒に旅する為に、君に月の加護がありますよう」
バードのエインやリン、ウィンヴェルがそののどを披露したり。
月の明かりが照らす中野営の火が消えるまで、冒険者たちは一時の休息に身を委ねていった。
●到着、山奥の村
それから数日、冒険者たちは問題の山奥の村へとたどり着いていた。
あの後すぐ平地から山道に入ったのだが、此処の街道は比較的道が整っていた為、それまでの道のりと同様にさほど問題もなく進むことが出来たのだ。
荒れた道だと、こうは行かなかっただろう。
「おお、ようこそ来なさったな。今度のお役目はお前さん達かね」
出迎えたのは、この村の長らしき人物。
好々爺の微笑を浮かべる老人は、冒険者たちを出迎えるとねぎらいの言葉をかけ、運ばれてきた荷物に目を通した。
何度もこうやって荷物を運んできた冒険者を出迎えてきたのだろう。
何だか妙に手馴れている。
「確かに頼んでいたものだね。ご苦労さん。じゃぁ、帰りの荷も頼むよ?」
目録と実際の品を確認したのだろう。村人が早速運ばれてきた食料品や雑貨を下ろすと、今度は大量の作物を積んでいく。
その量、ざっと行きの2倍ほどはあるだろうか?
まさしく馬車に満載といった感がある。
「コレをキャメロットに届ければ、お前さん達のお役目は終わりじゃ。気をつけてかえるんじゃよ」
とりあえず一泊村に滞在した後、村長に見送られて冒険者たちは帰り道に踏み出していった。
●当然やっぱり、帰りは恐い?
余談ながら、荷物満載の馬車というのは、下り道の方が大変だ。
常に勢い余らない様に気をつける必要がある。
ましてや、整備されているとはいえ山道である。
くねくねと曲がり道が多く、馬車が荷物の重さに負けて、勢い良く進んでしまうと‥‥多分、曲がり道を曲がりきれず、大変な事になる。
そんな訳で冒険者一行は、慎重に慎重に下り道をたどっていた。
無論コレでは、移動する速度も落ちてしまう。
となるとどうなるか?
余計な相手に見つかりやすくもなるのである。
はじめにその視線に気がついたのは、先頭を進む狭堂だった。
前方の山肌にある幾つもの岩。
そこから鳥肌が立ちそうな、嫌な類の視線が飛んでくる。
「‥‥気をつけろ。来るぞ」
仲間に警戒の声を発した瞬間、そいつ等は現れた。
大きめの頭に下卑た笑みを浮かべるそいつらは、冒険者ならばおなじみのオーガー、ゴブリンだった。
その数およそ10体ほど。
どうも満載になった作物を奪いたいらしい。
手にした武器をちらつかせながら、取り囲むように近寄ってくる。
どうやら、戦闘は避けられそうも無いようだ。
ならばとばかりに、先手をきったのはウィンヴェル。
まだゴブリン達との距離があるのを見て取ると、ショートボウを構えて先制の弓を射る!
同時に、隊列の先頭に居た狭堂やヴェルス、銀白が、ゴブリン達に向けて突進する。
その時、ヴェルスの頭から
「綺麗なお花〜‥‥むにゃむにゃ‥‥」
何かをむしる音と同時に、いかにも状況を把握していない気の抜けた声がこぼれた。
道中ヴェルスのあたまにずっと陣取っていたエインだった。
何気に寝ぼけて頭の毛をむしっている様子。
寝ぼけているのはともかく、むしるのはあんまりだ。
さすがにこれにはヴェルスも
「むしるな! 起きろ!」
頭を振ってエインを振り落とす。
その頃には、狭堂や銀白は
「欲ぅ出した手前ぇらが悪ぃんだからな! 恨むなよ!!」
ゴブリンに先制の一撃を加えていた。
「‥‥詰まらぬ者を斬ってしまいました」
ゴブリンの意識を奪うほどの攻撃と、華麗な連続攻撃を受け、浮き足立つゴブリン達。
恐らく、今までは不注意な旅人や馬車しか襲った事がなかった様子。
一瞬の内に昏倒しまたは無数に切り刻まれた仲間を見て、驚きを隠すことが出来ずに居る。
このゴブリン達も初心者だったということか。
コレだけの腕を持つ相手と戦うのは初めてのことなのだろう。
さらに、馬車の後方で警戒に当っていた紅や御剣も続けてゴブリン達に切りかかる。
高度なフェイントを駆使する御剣と、紅のまき割りでも使っていた強烈な剣技を使った斬撃がゴブリン達を打ちのめす。
「‥‥血は‥‥苦手だけど、‥‥がんばる!」
後方からは目を覚ましたエイン含むリン、ウィンヴェルの3人のバードたちの魔法が次々とゴブリンを襲い、ある者は耐え難い眠気に倒れ、ある者は月の矢で射抜かれる。
数では勝っていたゴブリンだが、もともとの実力差に加え、魔法の援護があるのでは到底勝ち目は無い。
最後は、ヴェルスが振るった必殺の剣技‥‥ソードボンバーと呼ばれる、扇状の範囲に衝撃波を飛ばす技でまとめて吹き飛ばされ、ゴブリン達はボロボロの有様。
コレは勝てぬと慌てて身を翻し、大慌てでどこかへと逃げていくのだった。
●みんなお疲れ様
「お、ご苦労さん。初めての仕事の感想はどうだい?」
ようやく帰り着いたキャメロットの町で冒険者たちを出迎えたのは、ギルドの親父だった。
「それで、道中は一回くらいモンスターに襲われたか? ほほう、ゴブリンか。そいつはいい経験だったな」
冒険者達から旅の経過を聞く親父。その顔はなんとも嬉しそうだ。
話を聞くと、例の村は親父の生まれた村であるとの事。
毎回冒険者に村と行き来してもらっているのだが、そのおかげで村も上手くいっているらしい。
そんな親父のねぎらいの言葉を受けて
「フゥ‥‥肩の荷が下りたぜぇ‥‥」
安堵感と、満足感が冒険者たちを包む。
(「これが冒険を達成したという事なんだな」)
これから冒険者として歩む時、この気持ちを大切にしたい、そんな思いがそれぞれに浮かぶ。
そんな表情を浮かべる冒険者たちを見て、親父も満足そうに頷くのだった。