ブーツハンターを追え!

■ショートシナリオ


担当:まひるしんや

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月22日〜08月27日

リプレイ公開日:2004年09月06日

●オープニング

 世の中、他人には理解できない主義、嗜好を持つ人物は確かに存在する。
 戦う事に意義を感じる者。
 知識の探究に人生の全てを捧げる者。
 ありとあらゆる食材を食し、その味を堪能する事に無上の喜びを感じる者。
 仮面をかぶり自己を開放する事に幸せを見出す者だって居る。
 そして此処にも、他者からは全く理解を示されないような事を最上の喜びとする者が居た。

「あぁ‥‥‥なんと言う匂いだ‥‥クラクラする‥‥」
 薄暗い地下室、樽が並ぶその部屋で、男は手にした『モノ』を鼻に近づけると、うっとりと陶然とした表情を浮かべた。
 手にしたもの‥‥それはブーツ。何十年も履き古されたようなそれは、常人であれば近づく事も出来ないような異臭を放っている。
 だが、その男は平然と胸いっぱいに香を吸い込み、幸せの絶頂にあるかのようなそぶりだ。
 実際この男にとっては今が最高の一時だった。
 周囲に並ぶ樽の中には、男がこつこつと集めたコレクションが収められている。
 手に入れた日時と場所、元の所有者の名が樽には記されており、それがずらりと並ぶ様はなんとも異様だ。
「この素晴しい香‥‥評価はAだな。だが、俺の目指す最高の香にはまだ遠い‥‥どこかにあるはずだ。最高の香が!」
 異様な臭気の中、男の熱気に満ちた叫びが地下室のなかを幾重にもこだました。

 所変わって冒険者ギルド。
「なんと言ったらいいのかわからんがな‥‥最近ブーツが盗まれる事件が多発してるんだ」
「はぁ」
 困惑気味の親父に、こちらもなんと言っていいやら判らない表情の冒険者が応える。
 なんでも、この所キャメロット中でブーツが盗まれるという事件が相次いでいるらしい。
 盗まれるのは、大概深夜。
 何処からとも無く寝室に忍び込み、ベッドに眠る被害者(と言って良いのかは不明だが)の傍ら、眠る前に脱いだブーツのみを盗んでいくとの事。
 他の金品には一切手をつけていないことから、これは変態の仕業に違いないと言うのがもっぱらの評判だ。
「まぁ、世の中可笑しな奴は多いからな。とはいえ放置するわけにもイカン。そんな訳で、こっちに仕事が回ってきたって事だな」
「でもこんな変態、どう捕まえろって言うんだ?」
 困惑する冒険者達。無理も無い。
 だが、親父も困惑しているのは同様だ。
「囮作戦でも何でもあるだろう? とにかく、それを考えるのもお前さん達の仕事だ」
 そういわれては仕方が無い。
 そんな訳で、冒険者たちはブーツを集めるブーツハンター(仮名)を捕らえる為、行動を開始するのだった。

●今回の参加者

 ea0714 クオン・レイウイング(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0717 オーガ・シン(60歳・♂・レンジャー・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea0850 双海 涼(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3799 五百蔵 蛍夜(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4202 イグニス・ヴァリアント(21歳・♂・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea4664 リゼライド・スターシス(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea5840 本多 桂(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 世の中には、他人には理解できない主義、嗜好を持つ人物は確かに存在する。
 戦う事に意義を感じる者。
 知識の探究に人生の全てを捧げる者。
 ありとあらゆる食材を食し、その味を堪能する事に無上の喜びを感じる者。
 仮面をかぶり自己を開放する事に幸せを見出す者だって居る。
 ただ、人様に迷惑がかからなければ、それはさほど問題ではない。
「とにかく変態だろう変人だろうが金になればそれでいい」
 まぁ、クオン・レイウイング(ea0714)のような意見もあるが。
 そんな訳で、最近キャメロットを騒がす新たな変態のため、ここに集まった冒険者達。
 彼等は次々とブーツを奪っていく変態を捕らえる為、様々な活動を行っていた。

 クオンは、
「目立たず地味な活動をすることとしよう」
 と、先ずは盗まれた靴や特徴、そして靴を盗まれた状況の調査を行っていた。
 誰がどこで、どのように被害にあったのか、そして何か共通する場所はないかの確認をし、同時に気は進まないようだがそれらの靴の持ち主の足の臭さを調査。
 わかった情報はすぐに仲間に知らせるという、見事なまでの聞き込みぶり。
 その所為で、短い間にそれぞれの被害や全体的な状況が見えてくる。
 やはり、足がくさいと噂されるような人物のブーツが特によく盗まれているようだ。
 ちなみに、聞き込みは五百蔵蛍夜(ea3799)も手伝っているのだが、段々と判明していく事実に
「神皇家の為‥‥になるのか?」
 何となく自問自答していたりした。
 無理も無い。
「‥‥英国という国には、自分のような人間の思いもつかぬ世界があるようだ‥‥」
 そう思うのも、無理は無い。だが、気にしていたら、きっとイギリスでは生きていけないのだ。慣れてもらうより他無いだろう。
 何より今となりにいる人物も、かなり発言が微妙なのだから。
「ブーツって長時間煮込むと食べられるってホントですか?」
 リゼライド・スターシス(ea4664)だ。事実はともかく、よほどの極限状態で無い限り、そういう体験はしたくない物である。

 情報収集により臭いブーツが狙われると知った冒険者達は、早くも囮作戦を実行しようとしていた。
(「人の趣味趣向をとやかく言いたくはないが、それで窃盗に走るのは感心しないな‥‥」)
 そんなことを思いながら、酒場に佇むのはイグニス・ヴァリアント(ea4202)。その目的は、噂の流布である。
 その内容は、今回同様に依頼を受けたリ・ル(ea3888)の足が臭さいとい言う事と依頼でジャイアント戦士のブーツを持ち帰った事。
(「すまん、リ・ル‥‥これも依頼の為だ」)
 本人には無断であるらしい。
 同様に足の臭さを宣伝しているのはオーガ・シン(ea0717)だ。
 イグニスがいるのとは別の酒場で
「儂はこの間の依頼で堆肥撒いてのう、その臭いが染み込んでとれんのじゃ!」
「ドワーフを甘く見るでない、儂の靴は50年物じゃぞ!」
 などと、傍目かえら見れば営業妨害寸前に足尾臭さを宣伝しまくっている。
 ちなみに、噂のリ・ルもここにいて、自分の足の臭さと依頼で手に入れたジャイアントのブーツを見せびらかしていたりする。
 本人曰く、
「言っておくが、本当は足クサではないからな」
 との事。
 実際その足の臭さは、双海涼(ea0850)が調合したにおいだ。
「これも変態殲滅のためですしね‥‥どんな毒草を使いましょうか」
 くすくす笑いながら、毒草などを混ぜて調合したそのにおいは、かなり強烈。
 その所為で、足のにおいを比べるオーガとリ・ルの周囲には、ぽっかりと人が近寄らない空間が形成されていたりする。
 そのうちにジャイアントの用心棒にたたき出される事だろう。
 まぁ、無理も無いことだった。
「ぶーつ好きの変態ねえ、イギリスという国には色々な奴がいるのね」
 本多桂(ea5840)もそんな二人に付き合って一緒に酒を飲んでいるのだが、強烈なにおいに眩暈を感じていたりした。
 だが、一応これも変態を捕らえる為。
 臭気が酒を不味くしているのを感じていたりしたが、ココはじっと我慢のしどころだった。

 その夜。酒場を出た(用心棒にたたき出された)ため、仕方なく自宅で酒盛りを続けたリ・ルは、心地よいまどろみの中にいた。
 仲間達は既に帰路に着き、家には誰もいない。
 そこへ、ただ影としか感じられない何かが忍び込んできた。
 全身黒装束。顔には覆面をし正体は不明。だがその目的は明らかだ。迷いも無く一直線に向かう先は、戦利品として手に入れたというジャイアントのブーツ。
 おもむろに手を伸ばし、それに触れようとする‥‥その瞬間!
「私はブーツの妖精で〜す!」
 ブーツの中から、リゼライドが現れた。ジャイアント用のブーツの中に隠れていたらしい。シフールだからこそ出来る芸当だった。
 ちなみに余談ながら、リゼライドはイギリス語が話せないため、ブーツハンターには通じていない。
「いつも臭いブーツを集めてくれてありがとネ! これはご褒美だよ!」
 同時に、現れたブーツハンターの鼻先に、双海の作ったにおいの元を投げつける!
「!?」
 とっさに避けようとするブーツハンター。だが、フイを突かれては無理と言うもの。見事にそれに当って‥‥
「あぁ‥‥素晴しい‥‥なんと言う香だ‥‥」
 ‥‥何だかいやな反応をして、崩れ落ちた。
「‥‥‥」
 何気に微妙な表情のリゼライド。
 時同じくして、帰っていたと見せかけていた仲間たちが部屋に飛び込んでくるのだが、同様にうっとりとしたままのブーツハンターを見て困惑の表情だ。
 捕らえる事には成功したのだが、余りな結果であった。

「こんな相手だったとは、まじめに相手していたのが情けなくなるな」
 そう一人語ちる五百蔵。ちなみに、彼はリ・ルの家の周りに古ブーツをばら撒いて足止めしようとしていたのだが、それは不発に終わったようだ。
 あそこまであっさりとブーツハンターが捕らえられるとは誰も思っていなかっただけに、それは無理も無い。
 ちなみに、このブーツハンター、それなりに腕を磨いた冒険者であるらしい。
 昔は普通の趣味であったようだが、あるとき嗅いだブーツの香が忘れられなくなり、この微妙な方向に進んだとの事。
 道を踏み外すと言うのはこういうことを言うのだろう。
 まぁ、さほど凶悪な事をしていたわけでも無いので、そう重い罪に問われる事はないだろうが‥‥
「‥‥そういえば、今まで盗んできたブーツ、盗まれた人達に返さなくてもいいのかな? 」
 リゼライドの一言で、冒険者達は凍りついた。
 ブーツハンターは既に洗いざらい自分の犯行を供述して、その隠れ家もわかっている。そこに今までかりあつめたブーツの数々があることも。
 そしてブーツハンターは警備隊などに突き出している。となると返す役目は冒険者たちにまわってくるだろう。
 そして、当然ながら‥‥それらのブーツはとても臭いのだ。 
「やっぱり、返すのだろうなぁ」
 誰かが鎮痛そうに呟く。
 そんな訳で、ブーツを元の持ち主たちに返した冒険者達。
 その体からは、暫く異様な臭気が漂ってしまったとの事である。