あ、あれ食べよ 〜恐怖の闇鍋編〜

■ショートシナリオ


担当:まひるしんや

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月27日〜01月01日

リプレイ公開日:2005年01月09日

●オープニング

 冬も深まるある日、キャメロットの某所では、某主人が暖炉の火に当たりながら真剣な様子で書物を開いていた。
「なるほど、これはいいかも知れんな‥‥」
「いかがなさいました、旦那様」
 その傍らに立つ執事は、何やらうめいた主人をいぶかしげに見つめている。
「いや、久々にうまいものが食いたいと思ってな。文献を紐解いていたのだが‥‥面白そうな料理をこの書物で見つけてな」
 主人の声に首をかしげ、その読んでいる書の表紙を見る執事。
 そこには曰く、『奇怪料理大全 初級編』とあったりする。
 なんでも、貿易商でもある主人がジャパンとの貿易の際に手に入れた書のようだが‥‥
「‥‥いささか偏った知識では在りませんか?」
「気にするな。何時もの事だろう。というか、最近忙しかったんだ。たまには羽目をはずさせろ」
 真顔で言う主人。確かに、此処暫くはこの主人も本来の貿易商の顔を思い出したのか、至極忙しく仕事に走り回っていた。
 そう考えれば、たまの息抜きも必要ではあるだろう。
「仕方ありませんな。して、それはどのような料理なのですかな?」
「うむ、なんでもな‥‥この料理には複数の参加者が必要なのだ。そして、各々が各自思い思いの料理を持ち寄ってだな‥‥」
 なんとも楽しげに話す主人。それに反して、次第に表情を曇らせる執事。
 見事に対照的だった。
「‥‥と言うわけで、箸という食器で触ったものは必ず食べなければいけない訳だ。中々楽しそうだろう?」
「イギリスには、ハシという食器は中々手に入りませぬが?」
「スプーンやフォークでもかまわんだろう。リンキオウヘンというジャパンの言葉を知らんのか? ‥‥‥どうした? 頭でも痛そうだな」
 軽く額を押さえる執事にいぶかしげな表情を浮かべる主人。
「いえ、大した事では‥‥では、いかが致しましょう? 旦那様一人では意味の無い料理なので御座いましょう?」
「そうだな。人数は多いほうがいい。数人では興が冷めるからな‥‥というわけで、参加者を集めてくるように」
「‥‥普通では人が集まりませんが?」
「なら、冒険者ギルドにでも依頼を出しておけ。そうだな‥‥持ち寄った材料に賞金を出すというのはどうだ? 鮮度や美味そうな物、あとは面白そうな物を持ってきた奴には、相応の賞金を俺から出すんだ。面白そうだろう?」
「‥‥面白そうな物も‥‥ですか?」
「当たり前だ。でなければ、こんな料理をする意味も無いだろう?」

 無言の執事。この主人の酔狂さにも慣れていたつもりだったが、まだまだ甘かったようだ。
 とはいえ、主命は(一応)絶対である。
「畏まりました」
 執事は深々と頭を下げ、次の日‥‥再び世にも奇妙な依頼がギルドの壁に掲げられることになったのである。

●今回の参加者

 ea0425 ユーディス・レクベル(33歳・♀・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 ea0497 リート・ユヴェール(31歳・♀・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea0787 リゼル・シーハート(23歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2387 エステラ・ナルセス(37歳・♀・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ea3468 エリス・ローエル(24歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea3639 ティアナ・フェアリー(29歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea7598 白野 弁十郎(39歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7981 ルース・エヴァンジェリス(40歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「諸君、私は料理が好きだ! 諸君!」
 ガッ!
「失礼致しました」
 目の前で声も無く崩れ落ちる主人と、平然と何だか赤い液体のついた棍棒をしまう執事。
 そんなえの前の光景に、闇鍋の参加者たちはなにやら背筋に冷たいものが流れるのを感じながら、なんともコメントのしにくい表情を浮かべていた。
 この執事、暫く見ない間に、主人にかなり厳しいツッコミを入れるようになったらしい。
 恐らく、主人のだめっぷりもパワーアップしたのだろう。
 ヒトは順応するイキモノである。
 それはさておき。
 ここは、キャメロットの片隅のある酒場。
 例によって例の如く思い付きで行動する主人の妄言によって始まる闇鍋大会(何時大会になったかは不明)の舞台である。
 それにしても、この主人、本名は明かさないが一体何者なのだろうか?
 店を一軒借り切ったり、突然レースを開いてみたりとその行動はめちゃくちゃだが、道楽に此処まで資金をつぎ込めるというのは珍しい。
 貿易商という情報は確かのようだが‥ちなみに、以前レースなどで外見を確認されて入るのだが、今回はまるで別人である。
 レースの際は恰幅の良い中年男性だったが、今日は何故か中肉中背で髭が立派な中年男性だ。
 案外、ダイエットに成功したという落ちもつきそうだが、まぁそれは予想の範疇に過ぎない。
「と言う訳で御座いまして、今回は闇鍋大会にようこそおいで下さいました。ワタクシは‥‥そうですな、仮にウォルターとおよび下さい」
 足元でドクドクと頭から赤いものを流す主人を気にした様子もなく、ウォルター(仮)は続ける。
「あいにくと主人は現在、少々席をはずしておりますが、直ぐに復帰する事で御座いましょう。では、早々に準備を始めましょうか?」
 足元に件の主人を転がしておきながら話すセリフではないが、それには誰も突っ込まない。
「では、今此処で皆様方が持ち寄られた材料を公表するのも『興』をそぎます。とりあえずはまず材料を鍋の中に入れ、後に食べている段階で各自材料を自己申告していただきましょう。それが主人の決めたルールで御座います」
 まぁ、確かにそれぞれ持ち合った材料を見せ合うのは、闇鍋としてどうかというところだ。
「では、早速‥‥‥」
 こうして別室に案内された冒険者達。
 しばらくして‥‥
「‥‥私は料理が好きだ! ノルマン料理が‥‥??」
 何事も無く主人が復帰したのは、鍋に材料を入れる直前だったという。

 グツグツと目の前の鍋は大いに煮えていた。
 宴もたけなわだ。
 一応万が一にと、闇鍋以外にも軽いサラダなどを食べつつ、煮えるのを待つ冒険者達。
 ちなみに、主人は。
「お招きに与り光栄です。こちらはジャパンより持参した酒に御座いますので、宜しければご賞味下さい」
 と、エステラ・ナルセス(ea2387)からもらった日本酒を飲んで上機嫌だ。
 それは、10人参加者を募集した所9人も集まったというのもあるのだろう。
 実際、コレだけヒトが集まるとは思っていなかった節が主人にはある。
「さて、そろそろだな。いいか、あけるぞ!」
 準備も万端、某主人が気合を入れて蓋を開けると‥‥
「「「をを〜〜〜〜〜っ!」」」
 歓声が上がった。
 なんと言うか、普通だ。
 それなりに真っ当そうな肉が見え、真っ当そうな野菜らしきものが浮かび、なにやら魚介類のようなものも見える。
 ジャパン出身者の琥龍蒼羅(ea1442)や、白野弁十郎(ea7598)も
「まっとうにみえるな」
「コレはまさしく鍋ですな」
 と太鼓判。
 ついでに白野は、主人と執事に挨拶したりもしているが、コレは余談。
「あクマの左手までも征す御仁と‥‥、執事ウォルター殿ですな。お招き頂き、感謝のきわみ」
 鍋自体は思っていたよりも真っ当そうな食べ物に仕上がっている。
 ただ、
「ふむ、なにやら匂いが‥‥」
 ウォルターの表情が微妙に曇る。
 確かに、微妙に異臭らしきものがある。
 材料を入れるため、室内を暗闇にした際、かなり微妙な香りが漂ったのだが、それと関係があるのだろうか?
 それはともかく、まずは誰から食べるかという事で、主催者の某主人から食べる事となった。
「ちなみに、食べる時にも闇鍋は明かりを消すものですが」
「いや、煮えてる様子を見たいじゃないか。それに汁が濁っていれば問題ないとも言うぞ‥‥ふっふっふ! では楽しもうではないか!」
 何だか悪役っぽいセリフだが、気にしてはいけない。
 慎重に伸ばされたスプーンは、鍋の中をかき回し、真っ先に触った物をつまみあげた。
「きのこ、ですな。どうやらワタクシめがご用意したもののようですが」
「‥‥‥お前も一応参加していたんだな」
 ウォルター(仮)が野菜以外に用意した材料らしい。妙に毒々しい色がやけに気になる。
 だが、触ってしまった以上食べるより他無い。
 意を消して飲み込む主人。
「がふぅ!」
「御主人様!」
 泡を吹いて倒れる主人と慌てふためく執事。
「まさか、毒キノコ!?」
 何気に、似たようなもの(ただし毒ではない)を入れたティアナ・フェアリー(ea3639)も焦っている。
「いえ、普通の食用マッシュルームですが、秘伝の味付けを致しまして」
 平然と言う執事にオイオイと突っ込む一同。
 たしかに、自分自身も食べる鍋だ。自殺願望でもない限り毒など入れるわけが無い。
 とりあえず、主人に意識は無いが命に別条はないようなので執事はそのまま放置する事にしたらしい。
 変わって今度は執事自身がフォークを伸ばす。
 突き刺したのは、葡萄(ふさ付き)だった。
「コレは確か御主人様がご用意しておいででしたな」
 なるほど、比較的まともなものを入れたようだが、煮込んだ所為だろうか? かなり葡萄の実自体が微妙な状態にある。
 執事も味わいその味を確かめると‥‥。
「コレは酸味が利いておりますが、食べられないわけではありませぬな」
 であるらしい。
 とはいえ、主人と執事が食べ終われば、後は冒険者たちである。
 冒険者たちの先頭を切ったのは
「神聖暦九百年代最後の日々を、一人わびしく警護の仕事で終わらせるのかなーって思ってたんだけど、沢山の人と仲良く食卓を囲む機会が出来るなんて‥‥神さま感謝ッ!」
 などといいつつ、懐に解毒剤を忍ばせたユーディス・レクベル(ea0425)だ。
 慎重に底をあさると、なにやら弾力のありそうな食材一つ。
「ソーセージ」
「あ、それ俺が用意した」
 リゼル・シーハート(ea0787)が用意したソーセージだ。
「お、よっしゃー!」
 ユーディスは喜々として食べている。
「じゃ、俺も行くかな」
 そう言ったリゼルの掴んだものは‥‥
「なんだこれ、野菜‥‥柔らかいな、何かの根か?」
「あら、程よく煮崩れていますわね」
 エステラの用意したラディッシュ(大根)のようだ。
 まぁ、これも問題ない材料だ。
(「どうか変な物を取らないように‥‥」)
 リート・ユヴェール(ea0497)。お情け程度に祈っているのがなんとも微妙だ。
 もっとも、先ほど一瞬見た鍋の中身はほとんど安全そうなものばかり。
 あまり危険そうなものは入っていないとは思うが‥‥
「ん? ‥‥‥これは貝?」
「私の用意したものですね」
 エリス・ローエル(ea3468)が答えるところ、市場で手に入れた貝類らしい。
 なんというか、ここまで真っ当な食材が続くと、気分的に安心感が広がるようだ。どんどん手が伸び始める。
「魚ですね。おいおしいです」
「あ、それ多分私の」
「‥‥何だか不思議な食感‥‥美味しいですけど」
「それは寺に伝わる料理でしてな、我輩が作った。小麦粉と塩水を混ぜて‥‥」
「さて・・、無事に終れば良いが‥‥む、コレは蟹か? 自分が用意した物を食べる事になるとは」
「この肉は? 何だかとっても美味しいけど」
「それはウサギ肉ですよ。冬を越す為にエネルギーを蓄えているので結構栄養が豊富で美味しいのです」
「おいしいですわね。これはエノキに、シイタケかしら?」
「マッシュルーム以外のキノコを見掛けたので。他にも人参なんかをいれました」
 ちなみに、上から順に
 ティアナ(食べた人)
 ユーディス(素材)
 エリス(食べた人)
 白野(素材)
 琥龍(食べた人&素材)
 ルース・エヴァンジェリス(ea7981)(食べた人)
 リート(素材)
 エステラ(食べた人)
 ティアナ(素材)
 となっている。やはり普通の鍋だ。
 ついには一度具材をとったものも再びスプーンやフォークなどを伸ばし始めた。
 味も様々な具材のだしが出て良好。
 このまま最後まで終わるかと思いきや‥‥事件がおきた。
「こ、これは‥‥‥」
 白野がつかんだものが器に移されると、異臭がした。
 一斉にその物体を見る一同。
 一見すると魚の干物だ。だが、この絶えず振りまかれる異臭はなんなのだろうか?
 明らかに腐敗臭のような‥‥‥
「‥‥毒じゃないわよ? 本当に!」
「これは、もしや」
 白野は判ったようだ、それはつまり‥‥
「何て云うの、えっと‥‥」
「そういえば御主人様の趣味で取り寄せたものの中に、匂いのきつい魚の干物がありましたな」
「そうそう、それ。‥まあ、確かに匂いは微妙だけど? ちゃんと依頼で貰った「保存食」なんだから!」
 ルースの言葉を続ける執事。
 それはともかく。
「し、心頭滅却すれば‥‥ぐはっ!!」
 奥の手である、『味覚が鈍いイキモノにミミクリーで顔だけ化ける』でこっそり豚になってみたのだが、余計に嗅覚が強くなり失敗したようだ。
 味はいいのだが、強烈な匂いが強化された鼻先を貫き、悶絶。
 まぁ、最も、毒ではないので問題はないだろう。
 そんなわけで、大きなはずれも無く闇鍋大会は続き、被害者は概ね約二名だけで済んだそうである。
 最も主人は弾けた食材が少なかった為に大いに不満だったとか。
 こっそり第二弾を計画しているとも言うが、それは又別の機会の話である。