はるか北の彼方から

■ショートシナリオ


担当:まひるしんや

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月27日〜01月01日

リプレイ公開日:2005年01月09日

●オープニング

 彼は、長い旅をへてこの地へとたどり着いていた。
 きっかけはただ単に仲間からはぐれたというだけの事。
 余りにもおいしそうな魚が群れを成して泳いでいたのだ。
 夢中になって追いかけるのも無理は無い。
 問題は追いかけすぎて自分がどこに居るのかもわからなくなったこと。
 そして、数日後‥‥見知らぬこの地にたどり着いた彼は、
「キュ〜〜〜ウ?」
 いつの間にか川べりに集まった人々に愛嬌を振りまいていたのであった。

「聖夜祭の時期でなんなんだがな、軽く仕事をしてみないか?」
 ギルドの親父は、新たな仕事の張り紙をギルドの壁に貼り付けながら言った。
 何でも、キャメロット近くを流れる川の河口にアザラシが流れ着いたらしい。
 愛嬌のある姿、そして人が多少近寄っても平然としている所が受けたのか、付近の村ではかなりの人気者のようだ。
 しかし、最近そのアザラシを、冬眠に失敗したらしい熊が狙っているとの事。
 このアザラシを狙うように幾度と無く目撃されているので、間違いないだろう。
 熊は冬眠に失敗するとかなり危険な存在となる。
 タダでさえ放置するのは問題がある。アザラシの事を差し引いても早急に退治する必要があるのは確かだ。
「なんでも、その村はアザラシをこのまま居つかせたい腹積もりらしいから、何としても守りたいんだろうな。結構近いから、時間もかからないだろう。じゃ、頼んだよ」
 かくして、アザラシのまつ川へと一同は旅立つのだった。

●今回の参加者

 ea3800 ユーネル・ランクレイド(48歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea5235 ファーラ・コーウィン(49歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea7328 イリヤ・プレネージュ(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7712 本田 薫(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8783 フィリス・バレンシア(29歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9515 コロス・ロフキシモ(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・ロシア王国)

●リプレイ本文

 それは、冬の寒いある日の出来事。
 イギリスは、その北よりな国土の位置に対して温暖である。
 面白い事に、イギリス全体で見ても、北端と南端ではあまり気温の差が見受けられないという。
 代わりに、暖かい西風の吹きつける西部は暖かく、北の凍てついた海からの冷たい風が吹き付ける東部が体感温度で寒い傾向にあるらしい。
 まぁ、それは余談。
「かーーーああっ寒ぃっ!!! こう寒くちゃ呑まなきゃやってられねぇぜ」
 早朝早くから、寒風吹きすさぶ川べりに陣取るユーネル・ランクレイド(ea3800)にとっては、何故寒いかは大きな問題ではない。
 傍らで
「お酒の飲みすぎはいけませんよ?」
 と、やんわりたしなめるファーラ・コーウィン(ea5235)の声にもめげず、少しでも温まろうと、酒をあおる。同時に、傍らで同様に草むらに隠れるコロス・ロフキシモ(ea9515)にも薦める。
「かたじけない。それにしても、あんな脂肪の塊の為に金を出すとは俺には考えられんな」
 ちなみに冒険者達が寒風吹きすさぶ中何をしているかというと、視線の先、川べりでのんびりと寝転ぶ丸々と太った妙な生き物に大いに関係がある。
 その何も考えて居なさそうな顔、陸で生きていくには明らかに太りすぎな丸太のような体。その代わりに海を泳ぐ為にはある意味理想的とも言えるような体。
 本来イギリスにはいないはずのこのアザラシが事件の発端であった。

 そもそも、イギリスの、それもここ、キャメロットからほど近くの川にアザラシがいることなど無い。
 恐らく、海流にまぎれて迷い込んだ迷子なのだろう。
 もっとも、アザラシにとっては良かったのかも知れない。此処イギリスは暖かく、冬でも川に魚が多く居る。
 問題は、このアザラシを見つけた近隣の村の人々が、何故だか妙にこのアザラシを気に入ってしまった事だ。
 さらにどういう経緯で噂が広まったのかは定かではないが、その愛らしさ(間抜けな姿も、好意的に表現すればそうなる)が評判となり、キャメロットからも一目見ようと人が集まる始末。
 人が集まれば、商売人た芸人も集まる。結果いつの間にかお祭りのような騒ぎとなったのである。
 ちなみに、とうのアザラシは気楽なもの。騒ぐだけで別に襲いかかりはしない人の群れを気にもせず、のんびり川魚を食べたり川べりで日向ぼっこをしたり。
 ところが、気楽な日々が続かない。
 ギルドで話されたとおり、冬眠に失敗したらしい熊がこのアザラシを狙いだしたのだ。
 おかげで、アザラシは海に逃げ帰る事は無いものの、その姿を現す機会が少なくなり、付近の村は大弱り。
 なにしろ、振って沸いたようなお祭り騒ぎは村に思いもよらない活気をもたらしたのだ。何時までも続くものではないというのは判っているが、そうそう逃がす手もない。

 そんな訳で熊からアザラシを守る為冒険者達は雇われたのだが‥‥
 思ったよりも厄介な状況である事に冒険者達は気付かされていた。
 まずはアザラシだ。
 このアザラシ、何しろ気ままだ。
 常に同じ場所に居るわけではないのだ。
 昨日は上流にいたかと思うと、今日は下流。さらに、橋の無いような場所で川の対岸で眠られたりすると、それだけで護衛の為におもむくのに一苦労。
 幾つかアザラシのお気に入りの場所があるようで、その近辺には熊が近づいてもわかるような鳴子といった仕掛けを施してあるのだが、こうも護衛対象が気ままだとそれも上手く行かない。
 よって、こうして朝も早くから動向を注視しないといけないわけである。
 次に熊だ。
 この熊、どうも付近の森の主のような存在らしい。
 普通の熊より一回り体格が大きく、そのくせ妙に頭が良いらしい。
 その為付近の猟師の間では悪魔の化身とまで言われているほどだ。
 その所為か神出鬼没。川べり近くまで森が茂っているような箇所もあるため。
 その姿を中々捉えられない。
 ちなみに愛称は『マユゲ』。両目の上に何故か黒い毛が生えているので名づけられたのだが、凶悪な本性と比べて脱力感溢れる事おびただしい物がある。
 さらに言うと、アザラシの愛称は『アーちゃん』である。
 人気者のはずなのに妙に投げやりな名称は何とかならなかったのだろうか?
 まぁ、それは余談だ。
 そんな状況ゆえに。
「ブレスセンサーが追いつかないよ!」
 イリヤ・プレネージュ(ea7328)の多忙さは際立っていた。
 ブレスセンサーは、探知できる範囲も広く有効な術だ。
 だが、風の魔法にそれなりの自信を持つイリヤであっても、四六時中常に探知をし続けられるわけではない。
 さらには、ブレスセンサーは術士を中心とした範囲を探知する術。よって有効に活用するにはアザラシの近くにいないと意味が無い。
 ‥‥先ほども述べたとおり、アザラシは気ままだ。昼寝している時などはよいが、水中にもぐって魚を取ったり、普通に移動していたりなどすると、それだけで目も当てられないことになる。
 さらには、あまり近づきすぎてもいけない。アザラシも何か狙われているような自覚があるらしく、微妙に警戒心が強くなっていた。
 下手に近づくと、あっさり逃げ出してしまうのだ。
 そしてまた、そういうときに限って
「ユーネルさん、アーちゃんの泳いでいった先、あそこの場所で熊さんをよく見かけるようですよ!」
「なにぃ!?」
 本田薫(ea7712)の指摘に一同顔を青ざめたり。
 既に、熊を捕らえる為の罠も多数仕掛けられているのだが、マユゲは頭がいいのかこれまで全くかかった様子は無い。
 ちなみにこの本田、
「アザラシさん発見したらナデナデしたいなぁ〜。ナデナデ出来なくても間近で見られればそれだけで満足なんだよね」
 というつもりだったようだが、アザラシは触ろうとすると逃げ出してしまう為、先刻まで非常に悔しがっていた。
「近くの猟師に聞いてみたけど、本当に厄介みたいよ? そのマユゲって熊は。私も森の中を見て回ったけど、体格が大きいくせに妙に痕跡が少ないの」
 そう言うのは、付近の猟師に話を聞いて回り、自身も森の中を見回ったフィリス・バレンシア(ea8783)。
 ちなみに、本田の指摘した箇所にも鳴子や罠は仕掛けられているのだが、これまで同様罠を察知されている可能性はある。
 とはいえ、まごまごしていても仕方が無い。
「急いでいかないと! ‥‥所で、一番近い橋はどの辺り?」
「下流にむかって1kmほど」
「‥‥‥」
 アーちゃんの泳いでいった先は対岸だった。

 優れたハンターというのは、一瞬のチャンスを見逃さないものだ。
 彼、マユゲは川岸の森、ある茂み中でじっとそのチャンスをうかがっていた。
 このところ、獲物と定めた川にすむモノ。それがようやく目の前に無防備な姿をさらそうとしている。
 なにやらここ数日獲物の周りをうろつく者たちが居たようだが、関係ない。
 彼はこう見えても優秀なハンターだ。
 それに猟師の作る罠などは慣れている。
 そうやって、じっくり、じっくり、獲物までの間合いを詰めてゆく。
 どれほどそうやって間合いを詰めただろうか?
 巨躯を感じさせず、気配を感じさせず、そして一飛びで獲物に襲いかかれるだけの距離を詰める。
 それを達成するまで、あと、ほんの少し。
 だが、慎重すぎたのがあだとなった。獲物に気を囚われすぎたのもあだとなった。
「はっ! この熊の手ってのも酒のつまみに良いんだってな。持って帰るか」
 風下からやってきた何者かに不意を付かれたのだ。
 先陣を切っていたのはユーネルだ。
 一足飛びに間合いを詰めると、深くクルスソードを脇に突き刺し、反撃を避けるよう身を翻す。
 だが、マユゲもだてに近辺の主だといわれてはいない。
 さらには、手負いの熊となったのだ。激憤したように後ろ足で立ち上がり、狂ったように前足を振るう。
 だが、その反撃も、イリヤの起こした突風に遮られ思うように出来ない。
 そこへ突っ込んだのが本田だ。
「熊の手はお酒のつまみにするようだから、あんまり切り付けちゃいけないんだよね。ならばあのクルスソードが突き刺さっているわき腹を狙っていかないとっ!」
 既に傷を負っているわき腹めがけて炎に燃える日本刀を突き入れる!
 さらには
「冬眠し損ねたのが、運の付きよ!」
「冬眠に失敗したのがおぬしの運の尽きよ」
 異口同音に呟いたコロスとファーラが連続で打撃を加えていく。
 此処に来て、流石のマユゲも身の危険を幹事、逃げ出そうとするが、すでにその機は過ぎ去っていた。
「お前には悪いが仕事なんでな‥‥やらせてもらう」
 大きく振りかぶったフィリスの一撃が、動きの鈍ったマユゲの額を割り、全ては幕を閉じたのだった。

 戦い終わって日が暮れて。
 冒険者達はキャメロットへの帰路のついていた。
 ちなみに今は夕食時。
 冒険者たちが取り囲む鍋の中は程よくグツグツ煮えていた。
 ちなみに、中身はマユゲ(だったモノ)だ。
 退治されたマユゲはその場であっさり解体され、帰りの食料と成り果てていたのである。
「食うぞっ!」
「おいしいねぇ〜!暴れたらお腹ぺこぺこだよぉ〜。熊さんどうもありがとうね!!」
「‥‥ま、良いんじゃない? 邪魔になったから処分するってのは人間の身勝手だからね」
 口々に言い合いながら熊鍋を食べる面々。
 その口調には、やや残念といった感も含まれていた。
 実は、アザラシが熊と冒険者たちとの戦闘に驚き、逃げ出してしまったのだ。
 それ以降姿を見ないというから、あまりに怯えて海まで逃げていってしまったのだろうか?
 その所為で、約束されていた追加報酬が空振りとなってしまった。
 最も、熊を退治したのは変わりないため、通常料金は確保されたのは不幸中の幸いだといえるだろう。
 もっとも、多くの冒険者にとっては、
「アザラシ、触ってみたかったな〜」
 というのが本音のようである。
 それはともかく、依頼を終えた冒険者達は、熊鍋に舌鼓を打ちつつ、旅の夜空を眺めるのだった。