●リプレイ本文
●コレは一体なんだろう?
キャメロットの某所、倉庫が立ち並ぶ一角。
そこで今日出発する隊商の一団が、出発の準備を続けていた。
馬車に積み込まれる一抱えも在りそうな無数の箱。運ぶ者達はさも重そうにそれらを抱えている。
そしてその様子を、冒険者たちは興味深そうに眺めていた。
(「あれは、綿? 紅茶(葉)? 塩? 中身が見えないと流石に判らないな」)
神聖騎士のシーヴァス・ラーン(ea0453)は、思いつく限りで荷を想像している。
事前に冒険者たちに出された注意、火気や湿気への注意は、想像力を喚起するのに十分なものだ。
本来隊商の護衛というのは簡単な部類の仕事に入るのだが、今回は火気厳禁ということも在り、夜襲への備えが重要な要素。
禁止理由の元となる品に興味が向いても仕方が無いだろう。
冒険者たちは、それぞれに品がなんであるか想像している。
「火と水が禁止ということは、風の噂で聞いた、錬金術師の作る燃える粉なのでは‥‥」
シーヴァスと同じく神聖騎士のセリア・アストライア(ea0364)の予想は、荷の先が魔法学校で有名なケンブリッジという事からきているのだろう。
高度な錬金術の技術の持ち主は、そういった物を作り出せると言う話は、噂でよく聞くところのものだ。だが、実際にそういうものが作れるのはホンの一握りとも言う。
馬車に次々とつまれるこの荷の量は、それとはそぐわない気もするがどうだろうか?
もっとも、パラのレンジャー、ニック・ウォルフ(ea2767)はその燃える粉である方が良いらしい。
セリアの予想を小耳に挟んで、錬金術に興味を抱いたと言う事もあるのだろう。
ケンブリッジに着いたら、その辺りの事を調べてみる気でいる様子。
(「湿気火気厳禁? 書物かスクロールの類か‥‥?」)
華国生まれの僧侶、エルフの紅天華(ea0926)の予想も、目的地の事を考えての事だろう。
確かにそれらなら火はもとより、湿気も避けた方が良いはず。
この積み込まれる量から考えると、あながち的外れとも思えない。
もっとも、余り荷に関して気にしていない者もいる。
「荷物の中身‥‥気になりますけど運び終わってからのお楽しみですね」
ナイトのシン・バルナック(ea1450)がその良い例だ。
確かに、品がどんなものであろうと、一度受けた依頼なら何があっても目的地まで運ぶのが筋。
いっそ中身に関しては無関心でいたほうが良いとも言える。
ジャパンの忍者、速水才蔵(ea1325)も、荷に関してある程度推測はしているが、本質的には興味なさそうだ。
「‥‥難しいこと、考えるの‥‥‥疲れる‥‥護衛、するだけ‥‥‥なら、気が‥‥楽、だもの‥‥。荷物‥‥?食べ物じゃ‥‥なさそう‥‥だし、興味、ない‥‥」
華国の武道家、麗蒼月(ea1137)の場合は、微妙に方向性が違うような気もするが、まぁ、些細な問題だ。
確かに、予想ばかりしていても仕方が無い。
いつの間にか荷も完全に積み込み終わっている。そろそろ出発の時間でも有るらしい。
かくして、冒険者たちも馬車に同乗し、ケンブリッジまでの旅は始まったのである。
●街道護衛模様
昼夜通しての護衛と言う事は、日中はともかく、夜間は火を使えないということで、特に警戒が必要。となると疲労も蓄積しやすい。
徹夜が得意なものたちはともかく、余り長丁場の警戒は神経をすり減らせる。
そこで対策として、冒険者たちは2班に人員を分けていた。
交互に交代し、休憩を挟むことで警戒を維持しようと言うのだろう。
空き地で休む隊商の近辺には、ナイトのレイリー・ロンド(ea3982)の仕掛けた鳴子や罠がが配置され、万が一の時に備えている。
だが、相応の特技を有していないレイリーの作った鳴子や各種の罠には、やや不安な点がある。
つまり、夜とはいえ、見るものが見れば一目でわかるレベルなのだ。
もっとも、その更に外側にはレンジャーにして猟師の技も持つゼファー・ハノーヴァー(ea0664)が作った罠が配置されていたりするのだが。
こちらは野生の獣相手の罠だが、素人が作るものとは流石に出来が違っていた。
やはり、そういった技の持ち主は一味違うと言うところか。もっとも、朝になると普通に獣がかかっていたとか。
道中の食料になったとの事なので、コレはコレで良かったと言えるだろう。
そして、次の日である。
夜間の警戒に比べれば、日中の旅路は平和そのものだ。
天気は快晴。湿気の心配も必要なく、安心して旅を続けられる。
馬車の軒先に揺れるのは、セリアのつくったジャパンの晴れを祈願する御まじない人形。
もしかすると天気が良いのはこの所為なのかもしれない。
そのセリア自身は対象の商人達と世間話やコレまでの冒険話をしつつ、友好を深めている。
その馬車の隣で穂を進める馬の背でシーヴァスは今夜の明かりの準備に頭を悩ませていた。
火が使えないということで、明かりになりそうな物の数々を事前に集ようとしたのだが、キャメロットでそうそう光るキノコといった品が手に入るものではない。
昨夜はとりあえず視力の良い者たちが警戒する事でしのげたが、今後をいかにすべきか現在思案中。
そんな調子で、荷台で何やらごそごそと鳴子に動物の姿を彫刻している麗や、小難しい事を考えているように見えて実際にはぼぉーっとしている紅を乗せながら、隊商は穏やかな道のりをのんびりと進んでいく。
実際、日中の街道でそうそうは事件が起こるわけでもない。
余りに暇なのか、麗などは馬の尾を三つ編みにするなどしていたりもする。
(「この調子でケンブリッジまで着けばよいが」)
そんな願いも乗せながら、隊商は順調に進んでいくのだった。
●やっぱりおきる襲撃事件
とはいえ、このまま何も無いほど世の中は甘くは無い。
ケンブリッジまであと1日となった夜、やはり事件は起こった。
森の中に開けた空き地で休む隊商。その近辺を密かに見回る速水とニックは、草むらを掻き分ける荒い物音と、揺れるたいまつの明かりに気がついていた。
同時に、ひそやかに囁かれる異形の声。
その数7,8といった所。
そして、その一つが急に足を押さえ悲鳴を上げると同時に、二人は仲間の元へと駆け出した。
「敵か!? 他にも居るかも知れん気を付けろ!」
「私の仕掛けた罠にかかったようだな。上手く足止めできているようだ」
二人の知らせに鳴子を鳴らし警戒を呼びかけるレイリーに、自身押しかけた罠の効果に頷くゼファー。
警戒を続けていた冒険者たちの戦いの準備は万全だ。
「ベルナテッド‥‥必ず生きて帰ってくるから‥‥心配しなくていいよ」
心に浮かぶ姫に微笑みかけるシンの剣にオーラソードの輝きが宿ると同時に、たいまつを掲げたゴブリン達が空き地に飛び込み、戦いの火蓋は気って落とされた。
「相手はたいまつを持ってる! 絶対に荷物に近づけさせるな!」
今回絶対に避けなくてはならない炎が、ゴブリンと共に荷台へと迫る!
そうはさせまいと、そのゴブリン達をホーリーライトで照らしシーヴァス。
その声に応じ、
「奪う事しか出来ぬとはなんとも悲しいものだな」
紅がディストロイを駆使してゴブリン達を寄せ付けない。
さらに、ゼファーやニックの投擲が的確に命中し、麗やシン、レイリー達が接近戦を挑むと、ゴブリン達の敗北は徹底的になる。
セリアの振るうクレイモアに成す術もなく吹き飛ばされる者、シーヴァスの突撃で胸を貫かれる者、麗の鋭い一撃で急所を貫かれる者。
不覚を取り、傷を負った冒険者もいるが、シンの癒しの魔法ですぐさま戦列に復帰する。
気がつくと、ゴブリン達は悲鳴を上げながら逃げ出していた。
勝利を確信した冒険者達。
安堵の息をつくと、万が一と言う事も在り、荷の確認をする。
と戦いの余波か、梱包の外れた荷物がある。
そこから中を覗き込む冒険者達。
「‥‥‥何だこれ?」
あっけに取られたような、呆然としたような声が、夜の森に響き渡った。
●到着ケンブリッジ
「はっはっはっは! そんなにこの荷物が不思議かい? でもな、コレはコレで随分と高価なんだよ」
ケンブリッジに着いた隊商を出迎えた商人は、微妙な顔を浮かべる冒険者達に笑ってそう言った。
冒険者たちが覗き込んだ箱の中。
そこには、『紙』が入っていた。
書物でも魔法のスクロールでも無い、ただただ真っ白な紙だ。
中にはいくらか模様があったりするものも混ざっているが、コレが高額な報酬を出して冒険者を雇わなければいけないような品なのだろうか?
「ただの紙だと思ってるだろ? 違うんだなぁ。こいつはジャパンから月道を使って取り寄せた貴重な紙なんだ。お前さん達、『和紙』ってのを知っているか?」
通常、イギリスなどで使われるのは羊皮紙が一般的だ。
だが、これらは直ぐに痛んでしまい、長持ちしにくいのだ。それに反してジャパンで作られるこれらの上質の和紙は劣化に強く、書物に使うにしても非常に長持ちする。
それゆえ、ケンブリッジの魔法学校では、定期的にこの紙をジャパンから取り寄せていると言うのだ。
「この目の細かさは、錬金術で『ろ紙』としても使えるし、装飾の入ってるものは芸術品としての価値もある。紙だからって馬鹿には出来ないんだ」
他にも、薬品を包む事で湿気からそれを守る事が出来るなど、その用途は多彩だ。
「とにかく、無事に届けてくれてありがとうな。途中で襲撃もあったそうだが、無事に切り抜けられたらしいし何も問題は無いな。報酬も色をつけておくよ。ありがとうさん」
にこやかにそう言われれば、悪い気もしない。
こうして無事にケンブリッジまで品を届け終えた冒険者達。
満足感と色のついた報酬に笑みを浮かべながら、帰りの隊商の護衛につくのだった。