討伐に行こう〜エーロン王子の気晴しＥ別動
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：6 G 22 C 参加人数：10人 サポート参加人数：2人 冒険期間：07月20日〜07月30日 リプレイ公開日：2006年07月28日 |
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●オープニング
「聞けウィルの民たちよ。エーロン王子暗殺を企んだベーメ卿の討伐を行う」王都ウィルに布告の声が鳴り響いた。庶民には文字を読めない人が多いため、布告が日に数回行われる。ウィルにおけるマスメディアということになるだろう。
「相手は王子を暗殺しようとした謀反人である」
ベーメ卿討伐は、ベーメ卿を生死を問わずつかまえてその領地をフォロ家に合併する。ベーメ卿が領地を捨て去って国外に逃亡すれば、それまでだ。国境の外まで軍勢を率いて追うわけにもいかない。しかしベーメ卿側では、戦う準備をしているらしい。
「戦いを長引かせて、北部の領主たちを味方につけて挟み打ちというのが狙いでしょう」
セレとの間にあるベーメ卿の領地に攻めかかる。以前山賊処分で火種を抱えている北部領主たちの地域からなら、王都との間を簡単に分断できる位置に進出することは可能だ。今のところ北部領主たちは平穏状態にあるが、ベーメ卿からの誘い次第ではどう動くかわからない。
「フォロ領内部の問題で片づけるか、エーロン王子暗殺を重点的に出してウィル王国そのものへの反逆とするか」
前者なら今までいくつかあったように、フォロ家が難癖つけて領地を奪い取る印象を持たれる。後者なら悪評は和らぐが、他の分国王に軍事奉仕を求めることになる。
「殿下、一つ提案があります」
ウィルカップの開催のための調整役として首都に滞在していたロッド・グロウリングが、エーロン王子のもとを訪れていた。地方領主討伐が行われるのでは、ウィルカップの開催も危ぶまれる。そのための無事に開催するための助言をしに来たと言ったところ。口実には事欠かなくなった。
「討伐軍は殿下自らが率いるとして。ある人物を副官として任命して１隊を持って外交上のことを任せれば、多少は懸念事項が減ると思われます」
「ほう。推挙したいというわけか」
「別にそういうわけではありません。転ばぬ先の杖、殿下の父君が嫌っている人物です」
「トルクの王弟か。力を貸してくれるかだろうか？」
エーロンとは、ほとんど交流がない。
「弟君カーロン殿下とは仲が良いようですので、カーロン殿下に間に立ってもらえば何とかなるかと」
「そちはどうする？」
「殿下が必要とお思いなら」
「必要だ」
「では別動隊としてまいりましょう。砦の修復を行っていた冒険者が助力してくれれば、影からの攻略も可能でしょう」
「試作品の実戦投入テストか？」
「そのようなところです。殿下の隊とは最終目的地での合流となりましょう。途中でも十分にお気をつけて」
「実戦なれした冒険者なら途中でも油断はしないと思いたいところだ。ルーケイではしくじったようだが」
数日後、所変わって竜のねぐら。
「ウィルの発展に」
「互いの友情と健康に」
一気にワインを飲み干す二人。
「急に訪ねてすまない。実は、兄上に頼まれた。ベーメ卿の一件知っているだろう」
「君の兄上を暗殺しようとしたとか。しかも逃げ出さずに防戦の準備をしている」
「そこで、討伐に加わってほしい。といっても戦いの条件を良くするだけらしい」
「北部の領主たちがベーメ卿に利用されないようにしろということか。誰の入れ知恵やら。あいつどこにでもスパイを忍ばせているようだ。ルシアンの修行にもなるか」
最近騎士見習いに任命した者を眺めた。腕力的にはまだまだ難しいが、交渉事を覚え込ませるにはいい機会かも知れない。
「しかし、妙ではありませんか」
ルシアンがワインを注ぐ。
「ルシアンもそう思うか？」
「はい、今回の騒動はヴァンパ相続が元凶。エーロン王子を今更暗殺するなど」
「いくらベーメ卿が強引、傲慢な性格でもそれはやらない。誰かのシナリオに踊らされたのだろう」
「スケープゴートにされるのなら、大げさにやるつもりでしょうね。主役を演じたい性格ですから」
エルフの吟遊詩人が勝手に同席してきた。
「誰かと思えば、イムンで行方不明になっていたエストゥーラ。無事でなにより」
「ドレニック卿の船に置いていかれれて難渋しました。ララエちゃんは相変わらず綺麗な、って今日はそのことではなく、ベーメ卿のこと。けっこうな戦力を集めているようです」
イムンで置いていかれてから、ササン→ウィエ→チ→セレと回って、ウィルに戻ってきた。 首都ウィルまでくる途中でベーメ卿の領地を通過してきたという。簡単ではなかっただろう。
「ハンのウスとハランの紛争でかなりの難民が発生しました。そのうち力のありそうなのは傭兵になって紛争に加わっていましたが、このところ紛争そのものが下火。解雇された傭兵たちがベーメ卿に雇われ始めている。しかも・・・」
「ベーメ卿はゴーレムについても、かなりの知識があるらしい」
ルーベン・セクテが、しかもの後を続けた。
「トルク分国のゴーレム工房で幾度か見かけた。バガンはもっていないにしても、チャリオットやグライダーを所持している可能性はある。いやバガンとてないとは言い切れまい。ベーメ卿がああなった以上、ゴーレム整備に派遣していたゴーレムニストたちは引き上げただろうが」
ゴーレムは持っているだけでなく、整備調整を行うゴーレムニストや専門の職人たちがいなければ能力を発揮しえない。そしてウィル国内では、その専門職人集団を握っているのはトルク分国王のみ。
「それはそれは、赤備は動くのか？」
「ザモエ様なら首都残留だそうだ」
エーガン王の意向らしい。
●別動隊
「エーロン王子の要請に二つ返事で応じたのは、これのためか？」
オーブルは、ロッド・グロウリングの砦で行われた実験のデータに満足していなかった。
「天界人の持ち込んだ金属によって、上位機種の生産も進んでいるが扱える人員はまだまだ少ない」
「実際に使ってみるには良い機会。ベーメ卿のところには」
「グライダーもチャリオットもある。ルーケイでのゴーレム戦闘についても、聞き知っていることだろう」
「ゴーレム兵器同士の戦いになる可能性もあるということですな」
「データだけは確実に持ち帰ってくれ」
「ゴーレムを使えて、射撃もできる冒険者が必要か」
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【討伐軍の編成】
本隊 エーロン・フォロ直率に、冒険者１０名を募集。
左翼部隊 指揮官未定（参加冒険者の中から）冒険者１０名。
右翼部隊 指揮官未定（参加冒険者の中から）冒険者１０名。
補給部隊 ルーベン・セクテ指揮、冒険者１０名募集。
別動隊 ロッド・グロウリング指揮、冒険者１０名募集。
本隊、左翼部隊、右翼部隊は、首都ウィルより分進合撃態勢でベーメ卿の領地に移動する。索敵および連絡を緊密に行う必要あり。敵地に接近するにつれて夜襲を受ける可能性が高くなる。別動隊は、別ルートから接近する。補給部隊は、首都と攻撃隊の中間付近に待機して周辺への外交交渉や後方支援を行う。
【敵の情報】
ベーメ卿はチャリオットやグライダーを所持している可能性が高い。バガンあるいはもっと旧式のゴーレムを所持している可能性もある。ベーメ卿の雇った傭兵の中には、ウィザードもいる可能性もある。実戦なれした者が多いため指揮官不在でも（成功の可能性がある限り）独自の判断で与えられた任務を遂行するだろう。
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●今回の参加者
eb4085 冥王 オリエ（33歳・♀・天界人・人間・天界（地球））eb4097 時雨 蒼威（29歳・♂・天界人・人間・天界（地球））
eb4153 リディリア・ザハリアーシュ（29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4155 シュバルツ・バルト（27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4157 グレイ・マリガン（39歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4197 リューズ・ザジ（34歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4219 シャルロット・プラン（28歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
eb4324 キース・ファラン（37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス）
eb4454 エトピリカ・ゼッペロン（36歳・♀・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
eb4532 フラガ・ラック（38歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス）
●サポート参加者
黒畑 緑郎（eb4291）／ 華岡 紅子（eb4412）●リプレイ本文
●出撃準備ロッド・グロウリングは、別動隊の依頼に応じた１０人の冒険者を見回した。
「このメンツを見れば依頼の趣旨はわかっているようだな」
別動隊はエーロン王子直率の討伐軍に加わっているが、主目的はベーメ卿の本拠地および有するゴーレム機器を相手に試作品がどのような状況でどれだけの戦果を出せるかというデータを取ることにあった。
「ベーメ卿のところに派遣されていたゴーレムニストらと話をしたいのですが」
リューズ・ザジ（eb4197）は申し出た。彼らならあちらの状況を知っているはずだ。
「敵のゴーレムなら」
ロッドは３者協議のことを知らせた。
「グライダー４、チャリオット４、バガン１、バガン以前の旧式試作品が数体か」
トルク分国から進路ルートをとる場合、可戦域ライン迄は訓練や調査等の別名義で秘密裏に移動し、北の領主に対するルーベン卿の外交上の手札とするのが次善ではと具申。
「北の領主を巡るベーメ卿との綱引きでトルクのゴーレム参入は大きな鍵です。こちらの存在を把握したとしてあえて彼らに伝えたりしないはず」
シャルロット・プラン（eb4219）は発言した。
「考えすぎじゃないか？」
グレイ・マリガン（eb4157）は任務を果たして自分用のゴーレムを手に入れたいと思っている。そのためには華々しい戦闘こそ近道。フラガ・ラック（eb4532）やキース・ファラン（eb4324）らと適宜交代してゴーレムを最大限に使うつもりであった。
「そう考えるのもいいさ」
ゴーレム最大の弱点は起動前。
「別動隊はトルク領から出発するわけではない。すでにゴーレムは秘密裏にウィルに届いている」
ロッドはゴーレムの保管場所に冒険者達を連れ込んだ。
「ここは？」
シュバルツ・バルト（eb4155）は、そこにいる人物に目を見張った。
「ロッド卿。整備は万全に整えてある。一応整備の人員も定数以下だが、用意した。くれぐれも」
「分かっている。そのために歴戦の冒険者を揃えた」
オーブル・プロフィットを安心させるためのものだろうが、参加する冒険者たちは誇らしく思った。
「オーブル殿お尋ねしたいことがあります」
シュバルツは問いかけた。なめらかな石畳の坂で油を撒かれた場合、バガンなどの二足歩行ゴーレムは転倒の可能性があるのでは？ と。
「なめらかな石畳か。たとえば氷のようなものか。ならば滑る事はあるだろう。転倒するかどうかは状態によるだろう。乗っている鎧騎士によっては、滑らなくても転倒することぐらいありえる。ただし、ゴーレムが動いて転倒するほどのなめらかな石畳と大量の油がどこにあるのかは聞いた事はない。心配することはないだろう」
研磨しなければそのようなものはできない。研磨技術も作る資金も理由もないだろう。
「今現在、ゴーレムの運搬は荷車を馬で引いているが、これでは移動ルートが限定されて妨害される可能性大だ。大量のゴーレムを搬送できる大型フロートシップの建造を」
「では資金を用意してくれ。一体そんなものにいくらかかると思っている。頼む相手が違うトルク分国王陛下に頼め。取り合ってくれるかどうか分からないが」
オーブルはあくまでも技術者。建造を頼むなら、材料と資金かせ必要。
「シュバルツ。そんな物を建造するとエーガン王はどう思うかな。王の性格を知らぬわけではなかろう。大きすぎる力は身を滅ぼす」
ロッドがオーブルに代わって答えた。王の治世において、フオロ領内ではかなりの大貴族でも廃絶や領地没収された例がある。王に叛意した場合に危険な位置にいるというだけでも。
トルク分国王はエーガン王を常に立てて擁護している立場にあるが、大量のゴーレムを搬送できる手段を手にしたら‥‥。
「最近、エーガン王にトルクの秘中の秘であるゴーレム技術を公開するようにけしかける冒険者がいる。公開した場合、今よりも多くのゴーレム機器が国土を荒らす戦いを起こす。そうは考えられないか？」
それだけではない。ゴーレムを多く所持するために、地代を搾り取られる者たちも出てくる。
「騎士階級にあるものなら、そこまでも考えてから言動しろ」
シュバルツが取り残された。
「あそこまで言わなくても」
リディリア・ザハリアーシュ（eb4153）がロッドも文句を言う。
「トルク家男爵待遇なら言動に注意しろ。ベーメ卿の立場に立ちたくなければ。偉くなるとそうなるということだ」
ロッドが別動隊用にオーブルから預かったゴーレム機器は、セレに販売する予定のウッドゴーレムノルン（正式採用品）２体、射撃支援型バガン２体、改良型バガン２体。偵察兼上空支援用のゴーレムグライダー２機であった。
「回復不能な傷はつけるな。特にノルンは試験に問題なければそのまま、実戦証明レポートつけてセレに売却する予定だ」
近接戦闘は改良型バガン２体が担当。ゴーレムによる中長距離支援分野を実現するのが、今回の目的だろう。
冥王オリエ（eb4085）は大枚をはたいて各種オプションを揃えていた。
・投網をベースにした、空中で網がぶわっと開くような投網弾。
・グライダーで使用した石灰を、袋詰めして矢で打ち出すような石灰弾。
・突き刺すのではなく、大きな衝撃を与える為の金属棒や石の弾。
しかしあくまでも想定上のこと、やってみなければ分からないというのは他と同じ。
「オリエとエトピリカ・ゼッペロン（eb4454）は、ノルン２体を使え」
二人に緊張が走る。壊さないように、戦果をあげるように。
シャルロットとリューズにはグライダーが任せられた。
時雨蒼威（eb4097）、グレイには射撃支援型バガン２体を。残り４人で改良型バガン２体を扱うことになる。接近戦の分、消耗も激しい。
「ゴーレムの稼働時間はそう長くない。戦場に着くまでは‥‥いつ戦場になるかも分からないだろうな」
ロッドは意味深な言葉を残して出て行った。
最初から専任を言い渡された６人の士気は高まる。別動隊は人目を避けて本隊より早く出発。出発地点はウィル郊外で現在整備中のＷカップ用の土地の一角。ここのゴーレム整備用倉庫で待機させてあった。まだここで整備はできないが。
蒼威は自前のチャリオットを持ち込んでいた。チャリオットのトルク領使用権を使って補給隊に貸す出すつもりだったが、今回の舞台はフオロ領。この権利は使えない。
「気にするな。ルーベン卿ならチャリオットは使わん」
「え？」
「北部領主たちと交渉するなら使わん。交渉を決裂させるなら別だが、あの男のことだ。けっこうえぐい手を考えているだろう」
「そんな人か？」
「見かけだまされて甘くみないことだ。敵に回すと怖い御仁だ。それよりも、その猫のでかいの」
「疾駆のことか？」
「ああ、整備員らが怖がっている。絶対に手綱を放すな。整備拒否されたら、目も当てられない。もちろんグリフォンもだ。君らと一般人は違うということを覚えておけ」
●連携
別動隊は大所帯だが、見つからぬようロッドの知る間道を通って移動していた。
「敵の襲撃を避けるには、まずは見つからないこと」
ベーメ卿の雇った傭兵が偵察にあたったとしても、首都からベーメ領までは遠い。それに敵にしてみれば、攻撃対象は補給隊だろう。
「リューズ、グライダーで伝令に出てくれ」
「どちらに？」
ロッドは地図を広げて現在地点と目標地点を示す。
「ここに補給隊がいるはずだ」
「では敵に見つからないように慎重に接近します」
「いや見せびらかすように大胆に頼む」
「は？ それでは補給隊が発見されてしまいます」
「それも狙いだ」
ベーメ卿は補給隊を発見したなら襲撃をかけるはず。夜襲はすでに受けているかも知れないが、撃退しているだろう。そうなれば、ゴーレム機器を投入してくる。
「チャリオットやグライダーの移動力なら十分に襲撃して本拠地まで帰れる、本隊が本拠地に到着する前に。あるいは本隊の後方から襲いかかるかもしれない。
「つまり補給部隊を囮にベーメ卿のゴーレム部隊を引っ張りだして、撃滅しょうってことでしょうか？」
キースが尋ねた。
「そんなところだ」
「あとで恨まれませんか？」
「それは仕方ない。予想ぐらいはしているだろう」
「敵に回すと怖い御仁でしたよね」
蒼威の言葉を無視して、シャルロットを本隊への伝令に出す。蒼威もペットを連れてチャリオットで前方偵察を行う。
その間に別動隊は、補給隊の地点に近づいていく。
●横殴り
「敵ゴーレム部隊、補給隊に接近」
定時連絡に向かったリューズが戻ってきた。敵のグライダーに発見されないように低空飛行しつつ、出撃準備しているチャリオットも発見。
「ここからならゴーレムでも追いつけます。いかせてください」
リューズはロッドに訴えた。補給隊の窮状は予想できる。今までの襲撃でもかなりの被害を受けていた。
「では急ごう。馬車全速、ゴーレム要員はゴーレムを起動して待機。乗り心地が悪いが我慢しろ」
もっともゴーレムを一旦起動してしまえば、馬車酔いすることはない。そのあたりも制御胞でカヴァーしてくれる。中には例外もいるだろうが。
疾走すること１時間。馬車が止まった。
「全ゴーレム出撃」
シャルロット、リューズのグライダーが飛び上がる。ノルン２隊が身軽に、走り出す。尤も。
「矢弾は考えた方がいいか。馬車でおいかけて矢弾を運んでやれ」
試作品を背負ったオリエのノルンは行軍に苦労しているようだ。残り４体も足場を確認しながら進み出す。
僅かに進むと森が切れる。まさにベーメ卿のチャリオットが補給隊の陣地に攻撃をしかける途中。ノーマルなチャリオットだが、ウィザードを乗せているらしく魔法攻撃をしかけていた。
「割って入るぞ」
キースがリディリアの改良型バガンに呼びかけてチャリオットと補給隊の間に割り込む。２体のゴーレムの出現は敵の意表を突いたようだ。それでも襲撃をやめない。キースとリディリアのバガンにライトニングサンダーボルトとファイヤーボムが命中。周囲を巻き込んでの爆炎がゴーレムを包む。
さらに上空から接近するグライダーが接近して投弾態勢に入る。爆炎が消えると同時に命中させるつもりのようだ。
「させるか！」
オリエの投網弾がグライダーに向かって放たれる。しかし発射と同時に投網が開き空気抵抗によってグライダーのはるか手前で失速する。
「ナムハチマン！！」
エトピリカの矢はグライダーの鼻先を通過し、１機のグライダーは攻撃を断念する。しかし、残り３機はそのまま。グレイの放った左右２本の矢が１機のグライダーを交差してダメージを与えたようだ。引き起ししようとして、そのまま地上にぶつかって四散する。蒼威は同時に放たずに時間差をつけて放つ。最初の１本ははずれたが、もう１本が翼をかすめる。上空からシャルロットのグライダーがランスチャージをかけてダメージを負わせる。それでも１機が投弾を敢行した。
弾が２回目のバウンドをしたところで、爆炎から走り出してきたキースのバガンによってインフロントキックで蹴り返され、そのまま投弾したグライダーに命中する。左翼は半分くらい砕かれて、バランスを崩す。
「翼の揚力で飛んでいるなら確実に撃墜できたものを」
グライダーは風精霊を操ることによって飛行する。周囲の風精霊を完全に制御してしまえば、翼は半分くらいでも浮かぶことに問題はない。だが左右非対称では制御が難しく戦闘どころではなかろう。
そのヨタヨタ飛んでいるグライダーをエトピリカの矢が今度はクリーンヒットさせる。
「キース、無事か」
「完全に無事じゃないが、問題というほどでもない」
起動したゴーレムの精霊力そのものによる防御に、ゴーレムの装甲。さらに搭乗者の抵抗力によって生半可な攻撃は通じない。
「あの攻撃は生半可じゃないけど」
リディリアも無事な声をあげた。
「魔法に耐える試験はするな、まだ先がある。絶対にノルンは同じことするな」
戦場に到着したロッドが大声で怒鳴る。チャリオットは魔法攻撃の効果がなかったことで目に、見えて動揺していた。そこをオリエの試作石弾が襲いかかったが、バランスが悪くチャリオットのはるか手前で失速した。
支援型２体とエトピリカのノルンの矢が、チャリオット２台に致命的なダメージを与える。残りの２台は逃げ出そうとしたところを改良型バガンに接近されて乗員をなぎ払われた。
「整備不良もいいところだ」
別動隊に同行していたゴーレムニストがチャリオットやグライダーの様子を見てつぶやく。トルクから派遣された整備員やゴーレムニストが戻った後、整備もせずに訓練し続けたのだろう。スピードも出ていない。
「捕虜は？ ゴーレムの剣でなぎ払われて生きているわけないか」
フラガは腰断された死体を見つめた。
●決戦
補給隊との共同作戦を終えた別動隊は、ただちにゴーレムを整備して馬車に積み込む。
「使い方が荒い」
派遣されたゴーレムニストは文句をいいながらも、手早くゴーレム魔法を付与していく。
「とりあえず、細かい部分は終了、後は移動しながらでもできる」
僅か１時間ほどで出発。別動隊は補給隊に先行してベーメ卿の本拠地に向かって移動を始める。夜通し走れば４時間遅れくらいで戦場に到着だ。
「搭乗者は休んでおけ」
蒼威のチャリオットをシュバルツとフラガが交代で操りながら、残りの８人の運ぶ。荷重オーバー気味だが、運べないことはない。
別度隊後方から補給隊とルーベン卿によって味方として参戦した北部領主たちの軍勢が追いかけてくる。
「あとどのくらい動ける」
戦いの余韻であまり深く回復できなかったが、限定的ならゴーレムを動かせる。
「もう着いたのか？」
馬車はすでに森から出てベーメ卿の本拠地から見える位置にいた。
「こんな前まで出してどうする？」
「エーロン王子が危ない。すぐ起動してくれ」
６体のゴーレムがどうにか起動。まだ完全には回復していない。
エーロン王子に迫るゴーレムに対して、ノルンの矢が放たれる。エーロン王子に左右をかすめて、矢がゴーレムの肩を撃ち抜く。
その間にもキースとリディリアの改良型バガンは前進して、ショルダーアタックを食らわせてる。吹き飛ばされたゴーレムが背中から叩きつけられて、地響きを立てて沈む。
「今度は普通の矢を使え」
ロッドから厳命されてオリエは、ノーマルの矢で後続のゴーレムに照準を合わせる。蒼威も。交互の射撃で後続のゴーレムを撃破していく。
完全に流れが変わった。本隊はそのまま破壊されたゴーレムの脇を通過してベーメ卿の本拠地になだれ込んで行った。
「後方からも援軍が到着した」
シュバルツは補給隊が北部の軍勢を従えてきたのが見えた。ここにいたっては傭兵達も次々に交戦をやめて逃亡に入る。
「無理に攻めるな」
雇い主を見捨てた傭兵は脅威ではないが、追撃すれば脅威に変わる。
多くの疑問を残しつつも討伐は終わった。
