蛮族追討命令Ｂ【本隊２】
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■ショートシナリオ担当：マレーア１ 対応レベル：8〜14ｌｖ 難易度：やや難 成功報酬：4 G 98 C 参加人数：10人 サポート参加人数：2人 冒険期間：02月11日〜02月18日 リプレイ公開日：2006年02月19日 |
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●オープニング
オットー・フラルの軍勢によって撃破されたオーグラの集団。フラル家はどうにか王からの期待に応え幾許かの評価を得た訳だが、それはあくまで途中経過に過ぎない。オーグラ達は敗れたとはいえ、未だ侮れない勢力を保ったままなのだ。その数、およそ６０。彼らは王領西方の森林地帯に逃げ込み、不気味に息を潜めている。「このままずるずると逃げられ続ける様な事は、断じて避けねばならん。何としてもここで引導を渡すのだ」
そうでなくては当家の蓄えが‥‥などと言いかけて、咳払いで誤魔化すドナート・フラル。ただ、早急に形を付けてしまわねばならないのは間違いが無い。近隣の人々も、このままではいつまた襲って来るかと気が気ではあるまい。何より王が不機嫌になる。その怒りはオーグラより先に、呼び出して蹴りつけられる者に向くだろう。
その時を想像し、ドナートがぶるっと震えた。
森に踏み込んだ傭兵ジル・キールは、渡河の途中で力尽きたのだろう負傷したオーグラの遺体から、敵の居場所を突き止めた。
「川の向こうに渡ったか‥‥」
参ったな、と頭を掻く彼。森林地帯を突っ切るこの川は、流れこそ緩やかだが深く水量があって、しかもこの季節、水は凍る様に冷たい。キールは辺りを歩き、すぐにオーグラ達が何処を渡ったのか見出した。
「なるほど浅いが、人だと胸の辺りまで沈んでしまうかな。妨害が無ければ強行渡河もありだろうけど」
ふむ、と見やった向こう岸。木々の間から、蠢くオーグラ達の姿が見えた。渡って来る者に気付けば、当然攻撃して来るだろう。上流に１日程遡れば、人や馬が簡単に渡れる浅瀬もある。兵を召集し迂回するその時間を敵が待っている保障は無いが、暫くオーグラの様子を観察していたキールは、こう判断した。
「さすがの彼らも強行軍で疲労困憊か。暫くはこの場に留まるつもりみたいだな」
あの勝手気ままなオーグラ達が寄り集まり力を合わせている。それだけ追い詰められているとも言えるだろう。
隊を預かるのは、フラル家の食客騎士ラグジ・オウロ。
「我が隊は、若の率いる本隊と共に対岸から敵を牽制し、その場に釘付けにするのが役目となる。他隊が役目を果たす為の時間を稼がねばならんが、相手は岸の向こうだ。休ませず、逃げようという気にもさせぬ‥‥むしろ攻めかからせる事が出来れば良いのだが、さて、どうするかな？」
老騎士は、集った者達に難問を投げかけた。
「若の隊、エリル隊に集った者達ともよく相談し、良案があれば是非出して欲しい。諸君らには期待しておるぞ」
冒険者に全てを託すのはヘッグ・エッツ辺りと同じでも、こちらは何やら教師の宿題の様に思えるから不思議だ。これが、歳の功という奴なのかも知れない。
●今回の参加者
ea3102 アッシュ・クライン（33歳・♂・ナイト・人間・フランク王国）ea3446 ローシュ・フラーム（58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国）
ea3468 エリス・ローエル（24歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国）
ea4509 レン・ウィンドフェザー（13歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国）
ea8218 深螺 藤咲（34歳・♀・志士・人間・ジャパン）
ea8594 ルメリア・アドミナル（38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国）
ea9907 エイジス・レーヴァティン（33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国）
eb4155 シュバルツ・バルト（27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4199 ルエラ・ファールヴァルト（29歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス）
eb4304 アリア・アル・アールヴ（33歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス）
●サポート参加者
シン・ウィンドフェザー（ea1819）／ セシル・クライト（eb0763）●リプレイ本文
●どかどかどっか〜ん牛馬に木材を背負わせ、森の中を抜けるには思った以上に時間を喰う。運搬手段の段取りを何もしていなかったつけが、少なからず出ていた。
そんなこんなで、オットー隊やエリザ隊が河辺で既に幾度となくオーグラとやり合った後に、オウロ隊は到着した。オーグラ達は対岸の木々を盾に、時折川に踏み入って投石を繰り返してはまた引き篭もるといった状態だ。
「ようし、早速に筏を組むのだ！」
「はい！」
ローシュ・フラーム（ea3446）の号令に、ルエラ・ファールヴァルト（eb4199）、アッシュ・クライン（ea3102）らは一丸となって投石を物ともせずに筏を組み上げ、それを遮蔽物として立てかけ始める。これで投石攻撃を防ぎながら弓などで川越しの攻撃を仕掛ける。すると、少々薬が効きすぎたか、すっかり木陰に引きこもってしまうオーグラ達。ところが余程空腹だったのか、オットー隊、エリル隊に深螺藤咲（ea8218）が参加し、強烈な匂いの保存食と肉の脂身を火にくべると、そのにおいにオーグラ達は怒り狂ってか騒ぎ始める。
フラル家の方々への挨拶を済ませ、次にルメリア・アドミナル（ea8594）は、オーグラ達の叫ぶ中、筏の各所にライトニングトラップを仕掛けてまわった。
頃合いを見計らい、レン・ウィンドフェザー（ea4509）とエイジス・レーヴァティン（ea9907）が空飛ぶ箒を片手に現れる。
「くふふ♪ こんども、いっぱい『どっかん』できるの♪」
「さて、アトランティスに来てから初仕事だし、気を引き締めてかからないとね」
二人してオウロの元を訪ね、出撃の許可を貰う。
「うむ、散々に連中をかき回して来て貰おう」
「いらいがせいこうしたら、またあのおかしがたべたいのー♪」
オウロは大きく頷いた。
「うむ、そなたの働き如何でな。二人とも、頼んだぞ」
「は〜い♪ いっぱい『どっかん』しちゃうんだから♪」
「はい、きっとご期待に添いましょう」
そういって下がると、エイジスはロープで箒と自分を結び出す。
「レンちゃんもするかい？ 敵の投石が厄介だから、挑発に行くときは落下しないようにフライングブルームと自分の体をロープで繋いでいくよ」
「うん♪」
ばんざいするレンに、箒とをロープで結ぶといよいよ出発。
ふわり浮き上がった二人は、上空で散々に悪口を言い放ち、岩をよけながら自陣に戻る。そうすると、木々の間から飛び出したオーグラを、ローシュやエリス・ローエル（ea3468）が狙い撃ち。シュバルツ・バルト（eb4155）も石持って投げた。
「故郷では戦乙女と認められた身、勝利を呼び寄せて見せますよ」
次々と射掛ける矢は、辛うじて届くがなかなか当らない。シュバルツの投げる石は、渡河しようとするオーグラの周囲に落ち、ますます興奮させた。
「そ〜れ♪ 『どっかん』♪」
そんな中、たちまち一匹のオーグラが宙に浮いて落下する。
どっぼ〜ん
「あれ〜？ 『どっかん』じゃな〜い〜」
「レンちゃん！」
眉をひそめて下を眺めるレン。そこへ飛来する石をエイジスがシールドソードで弾く。
「危ないよ、レンちゃん」
「大丈夫〜なの♪」
自分が負傷ことなどあり得ないと微塵も疑わない、いたずらに夢中の幼子の顔。同時にそれは仲間に対する絶対の信頼であった。
そんな様子を下から眺め、オウロは徐に合図する。すると一斉に筏を繰り出すオウロ隊。無論、これは誘い水。浮き足立って引きかけたオーグラ達が、体勢の整わぬまま一斉にきびすを返す。それこそこちらの思う壺。
「そう、これこそ私の思うがまま」
遠目に戦況をうかがい、アリア・アル・アールヴ（eb4304）は一人頷いた。空腹と凍えで、敵の力は着実に削がれて行く。
●炎の如く
斥候隊から敵の配置などを知らせる伝令が届いた後、彼らから攻撃開始を知らせる合図が発せられる。オーグラ達の背後を襲うキール隊、ラザット隊、エッツ隊。川岸のオーグラ達にも狼狽が走り、その備えは明らかに薄くなる。
この時を逃さず、エリル隊がマジカルエプタイトを使用。水位を下げ、川の中に道を切り拓く。
オウロ隊はエリル隊が岸にとりつくのを助け、彼らが切り開いた足がかりを押し広げて行く。筏を持ち上げ、盾の様にしてエリル隊の左右両翼を護る。
こうして追い込むと、混乱した敵は最早組織的な抵抗をする力を失いつつあった。
最後にオットー隊が渡りきると、大勢は決し、散発的な戦いが各所で行われるだけである。筏の柵で橋頭堡を確保したオウロ隊は、にっくきオーグラを各個に撃破すべくエリル隊、オットー隊と共に橋頭堡より出撃する。
オットー隊の巨人が振り回すゴーレムバスターの前に、オーグラ達はじゅっぱひとからげ。オウロ隊はその爆発的な破壊力に巻き込まれぬよう大きく迂回して戦った。
アッシュとシュバルツの連携しての攻撃に、オーグラは面白い様に倒れた。二人は念入りにその頭を潰して回る。これまでの作戦が功を奏したのだろう。連中の動きに精彩が無い様に思えた。地面がぬかるんでいる事が、体力を更に余計に消耗させる。
「アッシュ！ こうも手ごたえが無いと拍子抜けね！」
「油断するな！ 敵はまだ完全に消沈した訳では無い！」
「そうね！ 良いオーグラは死んだオーグラだけ！」
シュバルツの一撃が止めとなる。
「悪いオーグラが、ほら、まだあんなに！」
「おうっ！」
返り血も拭かぬまま、二人は友軍の救援に素早く森を駆け抜けた。
「待て待て待てぇ〜い！！」
片やローシュは水際にオーグラを追い込み、散々に打ちのめす。凍るような冷たい水。泳いで逃れようと背中を見せようものなら、確実にその頭蓋を叩き割る。
「馬鹿め！！ 思い知ったか！！」
血に染まった紅い水が、森に吸われてゆく。
何かが砕ける音も、噴出す瞬間外気に冷える血煙も、すぐにエイジスには何の意味も無いモノに変わった。陶器の様な感情の消えた瞳で、そこに映るオーグラをただただひたすらに解体し続けるエイジス。朱に染まる両腕のシールドブレードは乾く暇も無く、大気を切り裂き続けた。時折、何かの手ごたえがある。それが何なのか最早何の意味もなさなかった。
オウロ隊の中核は当然の如くオウロを中心に、ルメリア、藤咲、ルエラ、アリア、レンと固まって互いを護りつつ動く。
藤咲の殺気感知とルメリアのブレスセンサーが、オーグラがどこに潜み隠れようとも、死んだふりでやり過ごそうとも、一切見逃す事無くあばき出す。
「ルナリア、あっちに一匹！ あの繁みの中！」
「任せて！ 風よ！ 雷よ！」
手負いのオーグラが近付こうものならたちまち感知、ルメリアの高速詠唱＋ライトニングサンダーボルトが貫き、その後は二三人でよってたかって切り刻む。
オウロは、周囲を確かめる様に立ち止まり、そして呟いた。
「むう、戦場の気配が、流れが変わったな‥‥」
事ここに至って死に物狂いとなった敵が支隊側に突破を試み始め、本隊は敵の背を追うという展開に。結果、幾許かの突破は許してしまったものの、オーグラの反撃を鎮圧する事に成功する。
包囲を抜けたオーグラ達は、数匹程度の小集団となって散り散りに逃走。これを追い、更に幾許かの敵を討つ。討ち取れたのは３０程。残りもねぐらに逃げ帰ったか、敵の組織的な行動は見られなくなる。
「終わったの‥‥」
レンが力尽き、ぬかるみにパタリと倒れる。遊び疲れた幼子が満足そうな寝顔で墜落睡眠するように。その周囲には藤咲やルメリア、ルエラ、アリア達がへたり込んでいた。誰も、他の者に構う余裕は残っていなかった。ただ、わずかばかりの力を振り絞り、覗き込んで見れば、そのオーグラの返り血を浴びたレンの寝顔は、一見年相応に幼く邪気の無いものに見えただろう。
オウロは強張りふるふると震えの止まらない腕でレンを抱え上げ、それから天を仰ぐように見上げた。
「いや、まだ終わってはいないのだ‥‥きっと‥‥」
血だまりの中、壊れた人形の様に立ち尽くすエイジス。
小さな羽虫が一匹、薄い羽を震わせ音も無く舞う。それが、手の届く空域に入った瞬間、エイジスの腕が空を払った。
「あ‥‥」
固まりかけた血糊が、ぱりぱりとこぼれ落ちる。
それを呆然と眺め、ゆっくりと顔を上げる。血脂で濡れるブレードの先、もはや切れ味も何も無い鈍器と化したその先に、まっぷたつに切れた羽虫が、ひらり、ひらひらと舞い落ちる。
「あは‥‥あははは‥‥」
能面の様に硬直した口から、かすれた様に、笑い声だけがこぼれ出した。
血糊でへばりつき、開く事の出来ない位にこわばった手を、シュバルツは苔むした倒木に擦りつける様にして開いた。
ぼとり。
ボロボロの武器が転がる。先程までの異様な昂揚感はどこへ行ったのか。今は、鉛を飲んだ様に重く、そして冷たく感じていた。
「戦いに勝っても心が晴れんな、自分自身の弱さを思い知らされ罪を感じるだけだ…」
背中越しにアッシュの同意する気配が伝わって来る。
シュバルツは唇を噛んだ。頬が濡れている事に、その時初めて気づいた。吐く息が白い。体が震える。寒い。その事が、自分が今、生きているのだという実感だった。
●戦い済んで
殲滅とまでは行かなかったものの、百ものオーグラを追い散らした事は王を満足させた。では、フラル家が莫大な恩賞に与ったかといえば、そうではない。謁見の場で言葉を交わす事を許され、父の過ちを謝罪する機会を得、王は寛大にこれを受け入れた。それだけの事である。とはいえ、それで明日からはフラル家に対する貴族達の扱いが変わるのだから、十分だという事なのだろう。
「やっと終わりましたね。もう合戦はこりごりです」
厳しい戦いを経ても、オットーは相変わらずだ。
捕らえられたオーグラを前に、ディアッカ・ディアボロスはテレパシーで話しかけた。何の返答も無い一見不毛な尋問。だが、リシーブメモリーで洩れ聞こえて来る記憶は止め様も無いものだ。
「彼らは『牢獄』を目指していた様です。しかし、達成できず報酬を得られない。不満、怒り。意見は割れ、揉め事が起こる」
この辺りかな、と彼は移動し、読み取った記憶をもとに、今度はパーストを使って過去の風景を呼び起こす。何度か繰り返す内、ディアッカはひとつの風景を捕まえた。浅黒い肌をした長身の女が、オーグラ達を前に動じもせず、強い調子で何事か言い放っている。怒るオーグラ達をあしらい、去っていく女。
それを聞いたジル・キールは、そうか、と溜息。
「恐らく、うちの隊のマヤが見たというカオスニアンだろうね。何を企んでいるのか‥‥。牢獄は、このルート上となるとサン・ベルデかカーシアスか」
何にせよ、と憂いに満ちた顔で彼は言う。
「カオスニアンの仕業というなら、これで済むという事は無いだろうね。奴らは混沌の住人。奔放で残忍で、そして執念深い」
