●リプレイ本文
●ぼやきが引き金?
「トルクの方々にはもう少し政治的配慮を考えて欲しいものです。トルクの貴族がチームセクテに協力してチームフオロと戦うことが余人の目にどう映るか、分からぬのでしょうか」
セオドラフ・ラングルス(eb4139)は相手であるチームセクテに参加する冒険者のリストを見てぼやいた。こういうぼやきというものは本人の予想に反して広がるもので、大きな反響を呼んだ。ぼやいた本人と逆の意味で。
「Wカップの勝敗を分国間の力関係によって譲らせるような動きがあるだと」
なんといってもWカップ主催者には、情報通のロッド・グロウリング卿がエーロン王子を補佐している。人によっては別の表現をするが、不正行為や騎士道に悖る行為をなそうというものに対して厳しくあたるように指示してある。最初のWカップから不正が行われるようであれば、大きな問題になる。
「そいつの言い分は、トルク領内に領地を持つ貴族がチームセクテに参加して戦うことの是非を問題にしているのだな」
「それだけではなく、今回複数のチームにも参加している者がいるとか」
「それがどうした? 腕を磨くには実戦を経験するのが一番だ。最終的にもっとも自分に合うチームに腰を落ち着ければいいだけだ。騎士が自分の仕える主君を探すようなものではないか」
エーロンがその噂を意味を図りかねた。
「このエーロンの顔に泥を塗ろうとする輩か。そのような制限を加えた覚えはない。チームリグは、ウィル国内の冒険者で構成されている。たとえチームフオロ相手でも、手を抜くような真似を強要するつもりはないぞ。俺をそのような身びいきをする卑怯者にするつもりか。カーロンめ」
「噂が広がるものです。噂として消えてくれれば問題ありませんが。それにカーロン王子がさせたわけでもありますまい」
チームフオロの一人がもらしたぼやきで、エーロン王子は些かなりとも名誉を損なったらしい。チームリグやチームササンに対して行ったような激励? をチームセクテには行ったが、チームフオロには行わなかった。最近良好と思われていたエーロン王子とカーロン王子の不仲がささやかれるようになる。
●カーロン党員ルエラのお願い
「カーロン王子、お願いがあって参りました」
カーロン党員ルエラ・ファールヴァルト(eb4199)がカーロン・フオロのもとを訪れた。普通ならカーロンの方から出向いてくるはずなのに。
「費用は我々で負担しますので、補給水に入れる蜂蜜か甜菜の調達をお願いできますか?」
「それはかまわないが」
「どうかされたのですか?」
どうもカーロン王子の様子がおかしい。
「いやなんでない」
そこに。
「カーロン、大変なことになったな」
対戦相手のチームセクテを率いるルーベン・セクテが顔を出した。
「Wカップは私闘じゃない。天界の政治の関与しないスポーツとかいうものだ。君がフオロという家の力を使って試合を有利にしようとしていないということは、対戦相手である私が知っている」
「あの、こんなところで密談されると変な憶測を招きます」
「そうだな。エーロン王子とて全く物の道理の分からぬ御仁でも無い。腹立たしさをぶつける相手が君しかいないだけだろう。気を落とすな。全力尽くそうとしている選手たちのためにも。なんだったら物資の手配ついでにやっておこうか。王家のご威光を使えば簡単に集まるだろうけど、それをやると妙なことになりそうだからな」
カーロンはルエラの方を向く。ルエラも状況を理解しかねたが、大変なことが起こってるらしいことは分かった。とりあえず頷く。
「では物資は、ついでに調達してください」
「分かった、夜までには届けさせる」
ルーベン・セクテはルエラに後は任せると行って出て行った。
「一体何があったのですか?」
「エーロン王子から叱責されただけだ」
「今度こそ勝てと言われたのですか?」
「‥‥皆には全力を出すように伝えてくれ」
「はい」
●練習は
「まずはサッカーの動きを教えてくれ」
ゴーレムを途中で動けなくなるほど消耗しないようにする対策の一つが、無駄な動きをしないことだ。アトランティス人とっては、サッカーはまだまだ未知のもの。ボールが近くに来ないのに反射的にボールのある方向に走ったり、相手の技に翻弄されたりすれば、自然と消耗も激しくなる。
ゲイザー・ミクヴァ(eb4221)は前回通しでゴーレムを操ってみて思ったことである。すべての球に対処せざるを得なかった事情もあるが、サッカーの動きはただボールを蹴るだけではない。
「昨日のチームリグのアイアン、妙な技でディフェンスを出し抜いた」
龍堂光太(eb4257)は相手のやったクライフターンをやってみせた。
「あの時の技か」
「ちょっとやらせて」
サトル・アルバ(eb4340)が持ち前の好奇心でボールを蹴ってみるが、ボールに遊ばれているように見えてしまう。
フォワードのルエラはセオドラフを相手にシュート練習。セオドラフはキーパーの練習もできるから一石二鳥。
「サトルもシュートの練習しない?」
「そうだね」
山下博士(eb4096)もそれに加わる。
「前回よりも涼しいはずだから、今度は脱水症状になることはないでしょう」
それに体が吸収しやすいドリンクも用意されるはずだから。
「相手はチームセクテ、1勝している強豪ですが、油断もあるでしょう」
龍堂光太はそう言って、フォーメーションの練習に移らせる。
●チームフオロ編成で内紛?
「前半は攻撃、後半は防御」
ルエラは前半はリグ戦と同じフォワードにウッド3、アイアン1の4体体制を主張。アイアンはフォワードとディフェンスを状況によって使い分ける。
「しかし、今回の相手は人数に余裕のあるチームセクテ。交代要員もこちらよりも2名多い。逆にカウンターくらった場合には不利です」
スリルを好む冒険者黒畑緑郎(eb4291)は、問題点を指摘した。ただ、相手のディフェンスを二人で切り崩せるか確信は持てない。
「チームセクテのフォワードは多分変更はないでしょう。けっこういい動きしていました」
リーベ・レンジ(eb4131)は前回のチームセクテのことを思い出した。
「あっちのツートップは結構良い動きをしていた。特に片方はヘディングが得意のようだし」
ゴーレムの額が妙に輝いていたから区別はできるだろう。
「相手のディフェンスにボールを奪われなければ、またフォワードまでパスが通らなければ、問題ないだろうが」
対チームリグ戦でも、敵のフォワードにボールが通ったために、こちらのフォワードも守るために戻ることになった。その繰り返しが、フォワードの消耗を招いた。特に両方の役目をになったアイアンは、消耗が大きかったはずだ。セオドラフの主張によって次のように決まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
前半
アイアン:フォワード:サトル
ストーン:ディフェンス:ゲイザー
ストーン:ディフェンス:リーベ
ウッド:フォワード:ルエラ
ウッド:ディフェンス:龍堂
ウッド:キーパー:セオドラフ
後半
アイアン:ディフェンス:龍堂
ストーン:ディフェンス:ゲイザー
ストーン:ディフェンス:リーベ
ウッド:フォワード:ルエラ
ウッド:フォワード:山下
ウッド:キーパー:セオドラフ
交代要員:黒畑
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「俺が中央でディフェンスやりながら司令塔の役割をする」
龍堂のサッカー経験は、チームフオロでは貴重。
「味方同士で混乱しなければいいが」
黒畑緑郎は不安を口にした。
役割そのものは同じであり、アイアンの配置とフォワードからディフェンスに変わるだけ。敵を外見でまどわすことはできるだろう。もっとも、ゴーレムに装備するゼッケンは乗り手をともに交換することになるから、どこまで効果が出るかは分からない。前半の途中や後半の途中で交代の必要が2名以上生じなければ、予定どおりいくだろう。
「機種が変わると、動きも違いがでるから気をつけて」
山下は龍堂にアドヴァイスする。山下の方がゴーレムについての経験は長い。
「それもあるか」
そこまで同時にできるか。
●試合
チームフオロのキックオフ。ツートップでアイアンのサトルがドリブルでゆっくり上がっていく。逆サイドではルエラが上がっていったが、すでにマークが付いていた。
ドリブルで攻め込もうとした瞬間に、目の前をセクテのウッドが接近してきた。額がなぜか輝いているウッド。
「いきなりか」
サトルが方向を変えてライン際を駆け上がろうとするが、いきなりのスライディングタックル。ボールを狙った攻撃は、ボールを蹴ろうとした瞬間アイアンの足にウッドの突進力と全重量がかかる。アイアンに比べて軽いウッドでも片足で蹴り返すのは、無理だった。ウッドを飛び越すようにして、前方に突っ込む。アイアンのヘッドの部分で地面に穴があく。
「サトル無事か?」
ルエラが心配して呼びかける。
「ああ、なんともないけど。驚いた」
「ゴーレムも無事そう?」
「なんともない。しかし」
ウッドであんなこともできるのか。サッカーは実戦なみに激しいじゃないか。
その間にもスライディングタックルでボールを奪ったウッドは攻め上っていった。
「いいように攻められるな!」
司令塔の龍堂が、ゲイザーとともにボールを持ち込んだウッドを、リーベには反対側から駆け込んでくるウッドをマークするように伝える。
「いきなり派手なことやってくれるじゃないか」
ゲイザーは、ウッドの前に立ちふさがる。龍堂はパスを出しそうなコースを警戒しつつ、接近する。
「反対側のやつか。それともいったんバックパスか?」
今の段階では分からない。
「天界人じゃないはずだ。強引に抜くだと」
パスと思っていた龍堂は、虚を突かれた形になった。逆にゲイザーは。
「なめてもらっては困る!」
正面からぶつかるように進路が交差する。
「故意に破壊しなければ良いのだな」
最後の僅かな一瞬で衝突を回避する。しかし、その前にボールは離れていた。中途半端なパス。逆サイド向けではない。互いに回避後、ボールをおいかける。ウッドの方が速い。
龍堂も近づいていたが、僅かな差でセクテのウッドが最高速度のままドリブルに入る。
ゲイザーは、ゴールに向かって走る。シュートを打つ寸前に割り込めるように。
龍堂に後ろにつかれたまま、セクテのウッドはいったん進路のサイドに戻す。
「何!」
しかし戻すように見えたのはフェイントで、そのままミドルシュート態勢。
「間に合わない」
ゲイザーはまだ、ゴール前に達してはいないが、キーパーが弾いた球をクリアすることはできる位置までは来ている。ディフェンスの人数が多いと、余裕が出る。
しかし、実際にはミドルシュートも見せかけで、打ったのはバックパス。
いつのまにか。後方からセクテのアイアンがセンターラインを越えて上がってきていた。
バックパスと同時にウッドはゴール前に走り込む。ゲイザーはそれを阻止しようとする。
「絶好のシュート位置なんて取らせないぜ」
ウッドを追い回すように動き回る。これならパスなどカットできる。
「油断するな。そいつの得意技はヘディングだ」
磨き抜かれたウッドの額から龍堂は連想していた。
「ゲイザーはそのままマークしてくれ」
「僕はシュートコースを塞ぐ」
バックパスを受けたセクテのアイアンがタイミングを図ってゴール手前にボールをあげる。
龍堂の予想どおり額の輝いたウッドはジャンプした。あの位置ならと、龍堂はゴールへのシュートコースを塞ぐ。ゴーレムの胴体なら当たっても痛くはない。
こぼれ球はリーベが処理できる位置にいる。しかし、ジャンプしたウッドはコースが塞がれたことに気づいて逆サイドから走り込んできたもう一体のウッドにヘディングパス。そのまま、ノントラップでボールはゴールに。
「ボールはどこだ!」
ヘディングシュートに対応するために積極的に前に出たセオドラフの視線からボールが消えた。その死角から出現したボールがゴールの中に入っていった。
「見えなきゃとれない」
この後は互いのディフェンスが相手のフォワードへのパスをカットし続けて、攻勢にでるも、厚いディフェンスに阻まれてペナルティエリアまでもたどり着けない。
「なんだあのウッド、ぴったりマークしてくる」
ペットボトルから水分を補給しながら、どうやって出し抜くか考えていた。
「無理に動けば、途中で消耗する」
マークされ続けているルエラにはボールは回せない。攻め手を欠きながら前半を終了した。
●インターバル
「先取点を取られたのがきついな」
やはり前半は攻勢を強めるべきであったか。
飲み物を補充できているため、前回のように前半出ていたものが、後半ゴーレムに乗れずに倒れ込むようなことはない。
「ルエラ、後半で動けなくなったら交代するから」
「ありがとう。まだいけるけど、半分くらいで交代頼める?」
「スタンバイしておく」
「天界でサッカーを見慣れている天界人は切り札だから」
「ならもっと多用した方がいい。実力を発揮する前に試合が終わったら、いる意味がない。フォワードは3人いないとセクテのディフェンスは崩せそうにない。ルエラの考えが正しかった。龍堂、アイアンでできるだけフォワードよりに進出できないか」
「それでは、セクテのフォワードを抑えられない。格下のセクテにまけたら物笑いになる」
セオドラフが真顔で言った。
「格下ってどういう意味だ?」
「セクテは、分国でもないからだ」
「サッカーには関係ないだろ!」
「政治的な配慮を考えれば、他のチームからセクテに手助けなど、何を考えているんだか」
「俺はセクテが強敵だと思っている。だからこそ実力で勝ちたい」
ゲイザーは騎士道に則って勝つことを旨としている。政治的配慮など。
「そういえばチームセクテには、エーロン王子が激励に行っていたそうです。しかし、こちらにはきていない。どういう意味でしょうか」
山下博士がぽつりと言った。チームフオロの誰かがエーロン王子に不興を買ったことに他ならない。
「雰囲気悪いぞ」
「カーロン王子!」
ルエラが片膝をついて出迎える。
「エーロン王子は気まぐれだ。ただ注意だけはしておけ。とりあえず今は試合に集中すること。実力で勝ってもらいたい」
「そういうこと、ですね」
山下の言葉は意味ありげ。
●後半戦
ディフェンスの動きが悪い。フォワードの山下にはしっかりとセクテのウッドがマークについている。
「あいつしつこいんだ」
前半マークされ続けたサトルは、イライラしながら言った。
「ウッドに抑え込まれては動きが」
アイアンを戦力外にされるのは痛い。しかし後半は山下、ゴーレムはウッドだが、山下を戦力外にされるのはこちらの攻勢計画を根本から崩されてしまう。前半から出ている龍堂は、そろそろ疲労気味。アイアンに乗り代えても、アイアンの能力を生かしきれない。特にセクテのフォワードは3人に数を増やして積極攻勢をかけている。しかも後半開始直後から全力。全員後半からの投入と思われる。
「後は私だけしか交代はいない。ルエラが先か龍堂が先か」
山下が抑えられたため、ルエラにロングパスを送るが、パターンが乏しいために、そのままカットされる事が多い。
そしてディフェンスを抜いた3人の連携攻撃によって2点目が奪われる。
「ルエラ、交代する」
ルエラが限界に来ていた。それにアイアンは、まだ黒畑には荷が重い。
ロングパスだけは、通るようになった。サッカーを見慣れた天界人ならボールに対する即応力が高い。
「こいつも天界人か」
どうやらセクテのディフェンスも天界人のようだ。だから、パスが通った後の動きが読まれている。ドリブルに入ったところでボールを奪われた。
「パスを出す味方がいなくては」
攻撃が単調になってカットされてしまう。そして1点も取れることなく試合が終わった。
「敗因はチームワークの乱れか」
良いチームワークを作れなかったのは、カーロン王子の経験不足なのだろうか?