●リプレイ本文
●ソーク専用ゴーレムハンドル『どこでも高笑いくん』
「あの、その、私は、その、ソーク・ソーキングス(eb4713)といいます。あの、その、またよろしくお願いします‥‥」
天界でいうところの躁鬱状態の鬱だとソークが思ってるが、実際にはちょっと違うようだ。
ハンドルを握ったり、操縦席に座ると怖いもの知らずとなるならばと作らせたのが、ソーク専用ゴーレムハンドル『どこでも高笑いくん』だ。もちろん、ゴーレムはハンドルで操縦するものではないが、ようはそのような環境だと無理やり思い込ませればいいだけだ。
「うざいとは思われたくない」
という感情がそうさせたのかも。生身の練習に影響が出るのだ。パニーシャが製作。結構立派な出来のようだ。
「これは武器としても使えるかも」
それはともかく。
「チームトルクのメンバーがチームセクテに参加してチームフオロと戦い、その事によってチームフオロが格下のチームセクテに敗れることがあれば…、政治的な影響は避けられませぬ。トルクとフオロの友好関係にヒビが入る恐れもありましょう。そもそもウィル杯は分国の威信をかけた、騎士の馬上試合に準ずる試合。他チームとの兼務が望ましくない事は間違いありませぬ。兼務は一部の者が独断で行った暴発であり、チームトルクやチームセクテには関係ないとするのが、フオロの威信も傷つけぬ解決策でしょう。ならば兼務した者を全て平等に処罰していただくのが望ましいと考えます。わたくしも含めた4名の兼務者全てに何らかの処罰を下さるよう、主催のエーロン王子殿下に対して、お願い申し上げます。罰としては、1試合出場停止辺りが妥当かと」
セオドラフ・ラングルス(eb4139)はこのようなことで願い出ていた。
「くだらんな。はっきり言うが、Wカップに政治を持ち込むな。チームセクテがいつから格下になった? 別に支援者になるのは、分国王でなくともかまわん。支援者になり得るだけの財力があれば、セオドラフ、お前だとてチームラングルスを旗揚げしてWカップに参戦してもかまわんのだぞ。それ以前に、その1試合出場停止とはどういう意味だ? チームフオロに有利になるだろう。さて、それを見た者共はどう思うか考えたか? エーロン王子は身びいき
にもチームフオロを勝たせるために、処罰を加えたと」
「しかし」
セオドラフが言いかけた時、ザナック・アレスター(eb4381)は飛び込んできた。
「多くの試合に出てゴーレム操縦経験を積む事は恥ずべき事でしょうか? まして親善試合、言うだけ野暮ではありませんか」
「その通りだ。はっきり言わせてもらえば、もっと高度な試合を見たい。。セオドラフも含めて処罰はせん。ただし、そのチームの選手として全力で戦うのであればだ。もしチームを負けるような八百長をするような者が出たならその時は‥‥」
「流石はエーロン王子、話せますね」
ザナックはエーロンを称賛した。
「それよりも良い試合を見せろ。チームトルクに無様なところ見せるんじゃないぞ。Wカップは貴族だけでなく、庶民も見ていることを忘れるな」
●練習
「それで、処罰されればチームトルクは多少弱体化したかも知れないけど、こっちも一人少ない状態で試合開始か、一人少ないのはきついですよ」
レネウス・ロートリンゲン(eb4099)はザナックから、セオドラフがエーロン王子に処罰を申し出たことを聞いた。前回の対イムン戦では一人少ないことは敗因で一番大きいと思っている。はっきり言ってトルクの2名減よりもチームへのダメージが大きい。
「自分で兼任しておいて、処罰申し出るって意味が分からない」
シャリーア・フォルテライズ(eb4248)は、にらみつけた。悪いことだと自分で理論づけて、それを成すのはどういうことなのか。
「ふはははは、いずれにしても処罰はないのだ。チームウィエのために全力を出してくれるのだろう」
ソーク専用ゴーレムハンドル『どこでも高笑いくん』を装備したソークは爽状態であった。これはこれで問題がそうな気がする。相手の意向など関係なしに、自分を出してくる。
「とりあえず練習に入ろう」
クナード・ヴィバーチェ(eb4056)が促す。
しかし、チームウィエの今回の練習は、シャリーアの言い出した特殊訓練である。
まるごとなーがくんを着込んだクナード、まるごとばがんくんを着込んだセオドラフ、まるごとえんじぇるを着込んだシャリーア、まるごとどらごんを着込んだレネウス、まるごとうめさんを着込んだザナック。ソークのみは着ぐるみの防寒服が足りない。専用ハンドルなんか装備し
たら防寒着は着られない。
「これ動き難いのは仕方ないけど、暑いのはどうにからならないの」
まだ日中は暑い。シャリーアは自分で言い出した特殊訓練だったが、一番最初に暑さにやられた。
「動きにくくなるんじゃなく、暑さに対してまで鍛えるのか?」
ザナックもそろそろ遠慮したい。しかも、着ぐるみ着て練習している風景は、周りから見れば異様だ。
「暑くて練習にならない」
防寒着に邪魔されなかったソークだけはハンドル装備したまま、高笑いをしつつ、シュート練習をしていた。それはそれで、不気味だったかも。練習の途中から近づく人だかりが一切なくなった。
で、どのくらい練習になったのかは疑問のまま、ゴーレムを使った練習で暑さに対しては多少なりとも練習できたが、肝心のサッカーそのものの練習が、あまり効率はよくなかった。
●試合
「とにかくこっちは6人、前回よりも互いに成長しているはずだけど」
成長という点ではトルク側も同じ。
「多少は涼しくなったから、暑さにやられることはないでしょう」
試合開始の合図とともに6体のゴーレムが起動、配置につく。
編成は次の通りになった。
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ウッド :フォワード :シャリーア
ウッド :フォワード :ソーク
ウッド :ディフェンス:セオドラフ
ストーン:ディフェンス:クナード
ストーン:キーパー :レネウス
アイアン:フォワード :ザナック
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ウッド2体とアイアン1体はフォワード、攻撃をかなり重視したフォーメーション。
ザナックのキックオフ。すかさずトルク側のフォワードが襲いかかってくる。
「取られる前に!」
ザナックはソークにパスを送る。
「ふはははは、まかせておけ」
ソークはサイドに回り込んでドリブルで上がっていく。トルクのウッドが迫る。
中央を駆け上がっていくシャリーアのウッドが見える。ディフェンスのウッドをどうにか回避して、シャリーアにパスを送る。トルクのディフェンスが到着する前にシャリーアはロングシュートを放つ。
ボールはディフェンスの頭上を越えて、ゴール前で構えるキーパーに。
トルクのキーパーからのセンターライン上のトルクフォワードにボールが回る。しかしシャリーアはわずかに後退しただけで、そのままトルク陣中にとどまる。ソークもほぼ同じ。ザナックのみディフェンスよりの位置に戻る。
セオドラフはトルクのウッド1体を完全にマークしていた。
「リューズを抑えることができれば、トルクの勢いを削ぐことができる」
しかし、リベロを入れればトルク側は3体が攻撃に来ている。ウッドを1体完全マークしても、残り2体のパスワークでの速い試合運びはクナード一人で抑えられるわけもない。1体のウッドに動きに翻弄されていた。ドルブルとパスワークでゴールに近づいていく。
どうにかザナックが戻って来て、トルクのアイアンを抑えこもうとする。しかしそれは前後を大きく動く事になるザナックには大きな消耗を強いることになる。
「どんなシュートをうってくる?」
レネウスは暑さにへとへとになりながら、シュートを受ける練習をしていた。受けづらいシュートの方向も分かっている。
「あのウッド、動きがいい。向こうは交代要員がいるから最初から全力攻撃か」
相手のウッドのうち1体が最初から飛ばしていた。そしてシュート。
レネウスはどうにか弾く。しかし、弾いた先には先程シュートを打ったウッドが走り込んできた。
「誰かクリアしてくれ」
風信器に向かって叫ぶ。そうでなくとも状況は見えているだろう。ディフェンスの手が足りない。
完全にフリーのウッドが、ボールをゴールに押し込んだ。
「カウンターに成功すれば、こっちの方が有利だけど」
シャリーアとソークはトルクのディフェンスを横目に見ながら、自陣へと戻る。
「こちらが失点すると、トルクのフォワードも自陣に戻る。強引に突破していかないと」
入らないロングシュートは、自制しないと失点につながる。確実に入る位置まで、ドリブルで持ち込むしかない。
「ソーク、できるだけゴール近くまで運んで!」
しかし、ソークにはウッドがマークしてくる。
「くっ」
ライン際を上がっていくが、いくども邪魔されてボールを奪われる寸前。
「限界だ」
さすがにこの状態では、高笑いをする余裕もない。ザナックが後方から上がってくる。ソークのバックパスがザナックに通る。ザナックはそのまま中央に切り込もうとする。しかし背後にはトルクのアイアンが迫っていた。
「ソーク頼むぞ!」
シャリーアはトルクのストーンにマークされていたが、ソークはフリーになった。前後をはさまれる前に、ソークにパスを送る。
「わはははは。まかせておけ」
ソークは思わず風信器を壊したくなるような高笑いでパスされたボールに向かって走り出す。マークのはずれたソークはそのままゴールに向かう。
「シュート練習の効果を見せてやる」
高笑いは味方うちにしか知られていないためマークが乏しかったが、シュート練習はシャリーアよりもこなした自信はある。トルクのディフェンスは2体とも距離がある。シュートするまで邪魔には入れない。
ソークはペナルティエリアの半ばを越えた。キーパーは右サイドから上がってくるシャリーアに注意を向けているのか、やや右寄り。左コーナーを狙う。
蹴る瞬間に、キーパーが位置を変えた。左よりになる。
「右に変えるか? もどれ!」
自問したが、すでに今の足の位置では無理がある。そのままシュートを放つ。それと同時にカウンターに備えて走り出しつつ、味方にカウンターのある事を知らせる。
ボールはキーパーに楽々と取られた。そのままカウンター。
トルクのフォワードはすでに攻撃位置にいる。アイアンを中継して、ウッドに届く。
「セオドラフ、一人で2体は阻止できない。どうにかならないか」
クナードはウッドとアイアンの2体のパスワークで翻弄されている。シュート態勢に入るのが分かればカットにいけるだろうが。
「こいつをフリーにしたら、確実に点を取られる」
セオドラフはもつれ合うように、ウッドの完全マークをやめない。
「それもそうだろうが」
クナードのストーンは徐々に引き放され、ゴール前にはトルク2体のみ。
「どっちからくる?」
レネウスは2体のゴーレムを見比べた。
「アイアンか?」
しかしシュートを放ったのはまたウッド。
「今度は絶対に弾かない」
確実にキャッチ。
●後半
チームウィエはインターバルタイムで水分をしっかり補給したが、アイアンで派手に動き回ったザナックはばて気味。マークし続けたセオドラフも同様。
「まさかとは思うが、セオドラフのマークしているウッドに乗っている奴はセクテと兼任した一人だろ? 個人的に何かあるのか」
ザナックは聞いてみた。
「いや何もない。私怨で動いていると思ったのか?」
「あれだけ密着してマークしているのを見ると」
「考えすぎだ」
「あの二人終了までもちそう?」
シャリーアは心配そうに見つめる。
「まぁ、無理だな」
クナードは一言のもとにそう言った。前半だけでも相当動かしている。
「交代がいないのは辛いよね」
ザナックがいないとスカイハイライトニングは使えない。ザナックが動けるうちにしかけるしかない。
「後半開始そうそうにあれを」
「ああいいよ」
ここで同点にしないと、今回破れると次のセレ戦で勝っても厳しい。今回イムンがセレに勝つとは限らない。
「冒険者で依頼が成立しない場合、国から鎧騎士を寄越すってことだろ?」
「そんな話を以前聞いた。不戦勝では相手に失礼だとか」
後半開始の合図と共にウィエはスカイハイライトニングを使うためにソーク、シャリーア、ザナックの3人が中央から一団になって進む。パスワークでどうにか攻撃を回避する。
ソークは、態勢が整うまでドリブルで上がる。そして。
インフロントキックでボールを高々とあげる。そこに、ザナックがシャリーアを投げあげる。
落下してくるボールにタイミングを合わせてシャリーアがシュートする。
ボールが急角度でゴールに飛び込んだ。
「まぐれだね」
シャリーアは地上でザナックの受け止めてもらう。
どうにか同点においついたが、後半の半ばでザナックとセオドラフが消耗し尽くして動けなくなる。
4人のみになってソークまで後方に下げてディフェンスを固めたが、トルクの交代要員の余力で試合が終わった時には、さらに2点を入れられていた。
試合に負けたチームウィエに、チームトルクから健闘を称えると言ってきた。
「チームトルクもなかなか」
「次は人数揃えて勝ちたいね」
シャリーアはまだ決勝進出の可能性を捨てていなかった。
チームウィエ、勝ち点0、得失点差−3。