Wカップチーム〜イムン(vsセレ)

■ショートシナリオ


担当:マレーア1

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月29日〜10月02日

リプレイ公開日:2006年10月06日

●オープニング

「打倒トルク!」
 イムンの鎧騎士オスム・エンフィールは今日も青い服を着ていた。
「前回は優秀な天界人により勝利を得ることができた。とはいえ、相手はウィエ、今回はセレ」
 打倒すべきトルクとの試合はその後になる。
「オスム・エンフィール、今度も勝ってもらいたい」
 オスムはある場所にドーレン王がお忍びで来ていた時に、冒険者を一人伴って出かけた。その冒険者は前回の試合での選手、勝利したこともあって、ドーレン王は快く冒険者の提案に応じた。
 冒険者が帰った後オスムはその場に残った。
「互いに決勝まで進めば、対戦するかもしれないチームを率いている方だ」
「ご高名はかねがね」
「高名など、お恥ずかしい」
「Wカップの天界人は、非常に有用だと思わないか?」
「サッカーはもともと天界人のスポーツ。彼らにアドヴァンテージがあるのは当然です。彼らはもともと我々にない知識を持っている。Wカップはスポーツ面での有用に生かせた結果でしょう。しかし、彼らのアドヴァンテージはいつまでもあるわけではありません。試合を経験し、観戦することでその差は急速に縮まる。ドーレン王も天界人のアドヴァンテージのみに期待すると後で大変なことになりますよ」
「これは手厳しい。同じ事をジーザム王にも言うのか」
「まさか」
「だろうな」
「決勝に進出すれば1チーム分のゴーレム。話が美味すぎるような気はしますが、4チームで24体。整備費用をトルクに払うようなことにはなるでしょうから、そっちの面では儲けるのでしょう」
「そんな腹積もりか」
「とはいえチームには、ゴーレムがあった方が有利。決勝トーナメントも来年のWカップも」
「来年もあると思っている?」
「ゴーレムを一般人に認めさせるには、Wカップは良い機会でしょう」
「来年はいっそ、開催地も変えるというのはどうだ?」
「ドーレン王、輸送手段さえ確保できれば、その提案はおもしろいでしょう」
「各地のスアジアムの建設とフロートシップとかってやつか。うちはまだ持っていない」
「うちだってありませんよ」
「もしかして、おぬしは世間で言われているほど信頼されておらんのか? ジーザム王に」
「ご想像にお任せします。では善戦を期待しますよ。できれば決勝で戦いたいものです」
「オスム、前言訂正だ。絶対に勝て!」

●今回の参加者

 eb4077 伊藤 登志樹(32歳・♂・天界人・人間・天界(地球))
 eb4245 アリル・カーチルト(39歳・♂・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4288 加藤 瑠璃(33歳・♀・鎧騎士・人間・天界(地球))
 eb4302 スクネ・ノワール(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4637 門見 雨霧(35歳・♂・ゴーレムニスト・人間・天界(地球))
 eb4649 高岳 謠子(37歳・♀・天界人・人間・天界(地球))
 eb4854 セナ・ヒューマッハ(46歳・♂・鎧騎士・エルフ・アトランティス)
 eb5735 結城 絵理子(28歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

●不戦勝にはならない?
「チームセレは、応募がなかったらしい」
 伊藤登志樹(eb4077)は、がっかりしたように部屋に入ってきた。
「不戦勝になるのが、そんなに残念か?」
 門見雨霧(eb4637)が、世話役(分国王の代理人では誤解を招くので、今回から世話役)の青き衣をまとったオスム・エンフィールとともに現れた。門見雨霧は、治療院の資金集めをドーレン・イムン王に仲介してくれた礼を言いに先に会っていた。相手が分国王では簡単には会えない。しかも、ドーレン王がこの時期に本国ではなく、首都ウィルに滞在していたことを知る者は少ない。もし知らなければイムンまで行って空振りになるところだ。
「いや、そうじゃなく」
 伊藤登志樹が言葉を濁す。
「安心して良いぞ。冒険者への依頼が成立しなかった場合には、セレ分国から生え抜きの鎧騎士が派遣されることになっている。もっともこっちに来て、他の試合を観戦しているはずだ。依頼が成立していれば、観戦だけで帰り、依頼が成立しなければ試合にでる。イムンもそういう鎧騎士を用意していたのだが」
「そうなんだ。でも生え抜きってことは?」
 スクネ・ノワール(eb4302)は相手がエルフなら未経験で、かつ体力も無いのなら勝ち目は十分あるはずと思っていた。
「武器を持っての戦いでは、熟練して連中だろう」
 オスム・エンフィールにしても、セレとはあまりに遠いイムン分国の人。セレの鎧騎士の内情までは知らない。
 そこで、今回からチームイムンに参加するセナ・ヒューマッハ(eb4854)が、セレの鎧騎士についての風聞を話し始める。
 それによればセレへのゴーレム導入は、ウッドゴーレムの実験的意味合いを兼ねてかなり早い段階から行われていた。もともとエルフが多く住み、ウッドゴーレムの素材との相性が良かったせいだろう。
「流石はエルフ。同族の誼で聞き出したの?」
 結城絵理子(eb5735)は感心のまなざしを向ける。
「情報が速いだけでござる」
 チームイムンの中では、セナ・ヒューマッハが唯一のエルフの鎧騎士。他の天界人にくらべればセレの事情には通じている。
「サッカーについては、こちらの方が経験者。そのアドバンテージはあるはず。それに」
 高岳謠子(eb4649)がいいかける。
「サッカーの技ならこちらの方が知っているはずよね」
 加藤瑠璃(eb4288)は付け加える。
「どうでもいいけど、練習にいこうじゃん。どんなシュートだって、銀(しろがね)の眼光は何も逃さねぇ」
 アリル・カーチルト(eb4245)は前回同様の一言で、さりげなく無敵を主張した。
「では物資の調達は実費で引き受ける。甘味が高いことは承知してくれ」
 物資の調達に、練習時間を奪われるのはもったいない。どこのチームでも調達は世話役たちが引き受けているらしい。もちろん、分国によってはウィルでの物資調達に厳しい面もある。さらに試合の順番の遅いチームほど、品薄になって手に入りにくくなっているらしい。
「冒険者は金があるから貴重品でも大枚はたいて買いあさっている」
 らしい。一般人の怨みを買わなければいいが。
「バブルの頃の日本人の悪評を思い出すな」
 伊藤登志樹はそう言う。
「ところで女子で何かやるんだって?」
 伊藤登志樹は、スクネ・ノワールとセナ・ヒューマッハを相手にして、できるだけ短時間で上達できるサッカー技術を習得させていた。
「これがもっと時間とボールがあれば、寝ている時と風呂に入っている時以外ずっとドリブルさせるのだが」
 サッカーが上達するには、ボールと友達になるくらいに練習する他は無い。
「ドリブルで上がろうとせずに、パスを回せ」
 アトランティスでは精霊力によって意味が伝わってしまうから、パスを回せといってもその意味は正確に伝わる。伝わるのだが、分かっているのと実際にできるのとでは違う。
「早く、パス回せよ。ボールや目じゃなくて」
「拙者は史上最速の伝説になることを求めている!」
 セナは自分は速く走れても、ボールを残したら意味はない。ボールを追い過ぎて目を回されても困る。
「ドリブルの最速の伝説を残すにはまだまだだな」
 初日からそんなにできるものではない。
 息が切れるくらいの練習を行ってから、休憩に入る。
「門見、治療院でWカップの選手のために健康管理を行う医師とか派遣できないのか?」
「まだ、こっちアトランティスの医師を養成していない。その前にまだ見習い医師も予定人数がまだ集まってもいない。来年か再来年までにはどうにかなるかも」
 逆に2年で医師を即席養成するなら、すごいとも考えられる。
「基本的に治療院は感染症に特化した組織ってことになっているから」
 その点では2年は長い。テロリストがバイオハザードを起こすかも知れない。
「こっちには地球にないものや撲滅されたものも残っている」
 それは撲滅された後に生まれた地球人たちにとっては最悪の病となる。たとえば天然痘のような。
「種痘しているのは俺ぐらいか?」
 伊藤登志樹はどうにか。年齢的にはアリルも高岳もやっている門見はぎりぎりやっているかどうか。
「親がしっかりやっていればの話だ」
 親が忘れたりすると、やっていない可能性はある。
「そういえば、高岳以外の女子はどこにいった?」
 高岳は加わらなかったようだが、他の3人はチアガールの衣装に着替えていた。
「あらあら」
「ほう。天界人は、あのような服装でサッカーをするのか?」
 セナが感嘆するような声を上げる。ウィルでは地球人以外にミニスカートを着用する者はいない。とはいえ、セナは地球人の風習あるいはサッカーをする時のユニホームと考えたようだ。
「あれは応援用」
 伊藤登志樹は誤解を解くように言いながら、携帯のカメラ用意する。被写体はもちろんスクネしかし、他の人にもシャッターを切っていたりする。
「まぁ、アトランティスには肖像権は認められていないからな」
 門見が面白くなりそうな気配に小声でもらした。
「この格好、少々恥ずかし‥‥登志樹さん凝視しないで!」
 この先の痴話喧嘩についてはシカトして、差し入れられた果物を食べながら作戦会議に入る。
「現在のところ配置はこんな感じでどうかしら」
 チアガール姿の加藤瑠璃が提案した。最後までチアガールには抵抗したらしい。
 フォワードは、門見(ストーン)と高岳(前半:ウッド)→セナ(後半:ウッド)
 ディフェンスは、スクネ(ウッド)と加藤(ウッド)、伊藤(ストーン)。
 キーパーは銀眼のアリル(アイアン)
 結城は交代要員で、いずれかにも対応する。
「ディフェンス、あの二人で大丈夫か?」
 アリルは、ポカポカとスクネに殴られている伊藤をみて不安を抱く。
 休憩後は4対4のミニゲーム形式での練習を行う。
「ボールを長く持つと奪われるぞ」
 伊藤がボールをもったセナに迫る。伊藤があまり近づく前にパスを出して伊藤にボールを取られる。
「早く出せばいいってものでも無い。いつ出すかは慣れていくしかないな」
「ちょっと男子。チアガールの服装じゃ、スライディングタックルできないじゃない」
 加藤瑠璃が文句をつける。ミニスカートでのスライディングタックルは、無理がある。
「今日はこのくらいにしよう」
 もう暗くなり始めていた。
「やっているな、チームイムンの選手たち」
 そこにエーロン王子がやってきた。
「これはエーロン殿下」
 アリルは片膝を着いて出迎える。
「明後日の試合の奮戦に期待する。良い試合を見せてくれ」
「GCRに取られて観客はいないのではないでしょうか」
 伊藤は疑問を口にした。
「そんなことはない。GCRごときに負けるわけは無い」
 もっとも、客層は別だ。

●試合当日
「昨日はゴーレムを使えて良かった。ゴーレムを使う機会のない鎧騎士なんか」
「甘くなっています、どうですか?」
 スクネ・ノワールは、ジャムと果物のジュースを用意してきた。
 セナには十分に甘く感じられたが、砂糖になれた地球人にはもの足りない。
「全員水分補給を忘れないように」
「今回のチームセレはウッド3体でフォワード、アイアンでリベロ、自陣にいるのはストーン1体のディフェンスとキーパーのみ」
「攻撃的じゃん」
「ディフェンス頼むぞ。カウンターですぐに倒せるさ」
「確かトルクがセレとの試合でやった時のトルクのフォーメーションだ」
「交代要員をしっかり用意してあれば」
 チームセレは4人交代を用意している。負けた時の相手のフォーメーションを素直に受けいれている。
「強敵と思われて光栄の至り」
 門見雨霧が大げさに頭を下げる。
 試合開始の合図とともに、門見と高岳がドリブルとパスを組み合わせて、上がっていく。
 早速フォワードが襲いかかってくる。
「サッカーでは、素人の動きです」
 高岳は、軽いフェイントで攻撃をかわして門見にパス。
「油断するな。動きだけはいいぞ」
 動きは、サッカーの動きではない。しかし、小回りの効いて、食らいついてくる。
「あっちのキーパーもけっこうやるようだな」
 門見の最初のシュートは防がれた。まるで矢をシールドで弾くような感じだ。こぼれ球をディフェンスがすぐにクリアする。連携もいい。
「な〜に、俺に勝てるわけないじゃん」
 イムンのゴールキーパーはそう言い放つが、内心ではあせりを感じている。戦場にいた絶対的な時間の差を感じるのだ。
 カウンター攻撃は、パス中心にフォワードが上がってくる。ドリブルはまだ未熟のようだ。サッカーの基本技術こそ未熟だが、それを別の物でカヴァーしている。加藤、伊藤、スクネがそれぞれのマークにつく。しかし。
「速い!」
 パスを受けると即座に別のフォワードにパスをつなぐ。
「サッカーの動きよりも、戦場の動きかしら?」
 しかも連携は良い。
「任せろ!」
 シュートはアリルが全て防ぐ。ゴーレム用グローブはまぁまぁのようだ。キャッチする面が多少なりとも柔らかくなるため、反発が弱くなる。ディフェンスによるこぼれ球処理が確実なら弾くだけでも問題はないが、それはアリルの流儀ではない。どんなボールでも取らねばならない。
 速い試合展開。
「ゴールキーパーをどうにかしないと」
 チームイムンのシュートはすでに8回。しかし、ことごとく阻まれている。
「ディフェンスとリベロの2体が、こぼれ球を処理している」
 しかもカウンター攻撃が早いから、ディフェンスに上がってもらう余裕もない。
「前半に1点とっておきたい。高岳、ゴール前に走り込んでくれ。キーパーが反応した後に逆コーナーに」
「それしかないでしょう」
 シュート速度のボールをノントラップで合わせる。ミニゲームでもやらなかった。
 門見がディフェンスを振り切って、シュート。高岳がキーパーとシュートとの間に走り込む。かろうじてゴーレムの足に当てる。目の前でコースを変更されれば、反応は難しい。どうにかゴールに入った。
 やっと取った1点。
 後半は高岳に代わってセナがフォワードに入る。これは予定どおり。
「門見さん、後半できそうですか?」
 結城が心配そうに覗き込む。前半予想以上に動き過ぎた。
「あっちはフォワードとリベロを交代させるらしい」
 セナがチームセレを凝視していた。
「人数が力だな」
 オスムの用意した材料で作った飲料が、体内に水を、脳にブドウ糖を補給させる。それでも試合終了まで乗り切れるかは分からない。
「あっちの方が動いている」
 サッカーの動きを知らない分、こちらよりも倍近く消耗しているはずだ。
「後半はディフェンスを重視して、やつらをもっと消耗させようよ。最後の5分でもう一度、今度は私も攻撃に参加するからね」
 加藤の提案で方針は決まった。
「じゃ、フォワードは任せる」
 門見は結城を交代した。チームセレの動きを考えると、途中での交代は致命的な結果につながり兼ねない。
「頑張ります」
「セナ、走り回って敵のディフェンスを攪乱しろ」
 後半開始直後から、敵のフォワードを引きつけ、さらにディフェンスも走り回らせる作戦を始める。ディフェンスから結城へパス。結城からセナ。セナから味方ディフェンスへのバックパス。さらにディフェンス間をパスで回して再び結城へ。
「そろそろ仕掛けろ!」
 ベンチから門見が指示を出す。目に見えて、チームセレの動きが悪くなってきた。
 加藤が、ディフェンスから上がって攻撃に加わる。
「カウンター攻撃は任せて!」
 スクネが安心させるように言った。そのスクネもセンターライン近くまで上がる。
 3人フォワードの体制でゴールを狙う。セナは動きが悪くなりつつあるが、結城が合わせる。
「いいところ見せなきゃ。結城さんあげて!」
 加藤はゴールを背にして、結城の方を向く。結城が加藤の頭上にボールを蹴りあげる。加藤を越えれば、単純な敵キーパーへのパスになってしまうところだが、加藤はボールとのタイミングを図って僅かに後ろに下がる。そして背後に飛び上がって、バイシクルシュート。ボールはゴールに入ったが、加藤のゴーレムもヘッドから地面に激突。ゴール前に逆さのまま突き刺さった。そのまま直立したかに見えたが、足が次第に地面を落ちた。結城が強制ブリッジやらされている加藤のウッドのヘッドを地面から引っこ抜く。
 そして試合終了。
「このまま3連勝を目指すわよ!」
 加藤はVサインをしてヒーローインタビューでそう叫んだ。スタジアム中から歓声があがる。加藤の言葉のためか、それともチアガールの衣装のためなのか。
「次の試合でも頑張ります」
 結城がその背後で当たり障りの無い言葉で締めくくった。互いのチームで健闘を称えあう。
 ただし、今回は続きがあった。
「大会本部のエーロン王子からお言葉があります」
「この試合を観戦にきた王族、貴族、それに椅子も座布団もない席にいる一般庶民たちよ。チームイムンで2点目を決めたシュート。天界ではバイシクルシュート、あるいはオーバーヘッドシュートと言うそうだ。見てのとおり、非常に危険なので真似しないように」
「以上、エーロン王子のお言葉でした」